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ハンディタイプ赤外線ライトと汎用デジタル一眼レフカメラを用いた赤外線写真撮影における赤外線指標の効果およびレンズ F 値と絞り値 f の最適条件 大下浩司 1,2 下山進 2,3 本研究では ハンディタイプ赤外線ライトを用いた汎用デジタル一眼レフカメラ ( ニコン製 D5100) による赤外線写真の撮影方法について 焦点補正に使用される赤外線指標の効果 レンズの明るさ F 値 に関係するカメラレンズの内部構成 ( 色ずれや歪みを考慮した凸レンズと凹レンズの組み合わせ群と凸あるいは凹レンズの枚数 ) の影響 そして使用するレンズと撮影時のカメラ絞り値 f の関係を検討した その結果 先ず開放 F 値 ( レンズの F 値と同じ絞り値 f) で撮影する ( 被写界深度が最も浅い ) 場合であっても赤外線写真撮影時にレンズ焦点位置をカメラレンズの赤外線指標に合わせることで結像点のズレを補正し焦点を合わせることができた そして カメラレンズの内部を構成する凸レンズと凹レンズの組み合わせ群と凸あるいは凹レンズの枚数が少ないほど (F 値が小さい明るいレンズほど ) その開放 F 値で撮影すれば 撮像素子まで到達する光量が増え 明るい画像の赤外線写真を撮影することができた 特に 本研究で検討した 4 種のレンズの中では ニコン製 AI AF Nikkor 50 mm F1.8 D( 内部レンズ :5 群 6 枚 ) が汎用デジタル一眼レフカメラによる赤外線写真撮影に最も適していた 1 はじめに文化財の分野では 絵画の下絵に描かれた素描の観察や 古文書などの紙資料に書かれた判読の難しい文字を観察するために 赤外線写真を撮影することがある しかしながら 赤外線カメラは百万円から二百万円程度で市販されており普及しにくく 科学調査に携わる専門家に赤外線写真の撮影を依頼することがある そのような状況から 既報では 比較的入手しやすい汎用なデジタル一眼レフカメラを用いた赤外線写真撮影法を検討し 従来の大型赤外線灯 ( 浜松ホトニクス製赤外線ライト IR LIGHT SOURCE C1385-02) を用い 可視光線が透過しにくく赤外線を超過するシャープカットフィルターをレンズ前面に取り付け 撮影条件を絞り値 f/3.5 露出時間 30 /1 秒 ISO 感度 800 に設定すれば 油彩画やアクリル画の赤外線写真を撮影することができた 1)2) しかしながら 露出時間が 30 /1 秒と長く 撮影に長時間を要した また 既報では 赤外線指標の付いていないレンズを用いたため 撮影した赤外線写真は正確に焦点が合っていなかった そこで今回は 大型の赤外線灯を用いず小型のハンディタイプ赤外線灯を用い かつ撮影時間と焦点の問題を解決するために 本研究では 赤外線指標が表示された明るい (F 値が小さい ) カメラレンズを用いることで撮影時の絞り値 f を小さく ( 被写界深度を浅く ) 設定しても 正確に画像焦点が合った明るい赤外線写真が撮影出来ると考え 汎用デジタル一眼レフカメラによる赤外線写真の撮影法を再検討した すなわち カメラレンズは複数枚の内部レンズから構成される この内部レンズは僅かながら光を吸収するため 内部レンズの構成枚数の少ない 文化財情報学研究第 13 号 11

明るいレンズの方が光を撮像素子まで取り込みやすい また カメラレンズの赤外線指標に焦点距離を合わせることで 絞り値 f を小さく設定して被写界深度を浅くしても 取り込まれる赤外光が撮像素子の平面状で結像しやすいと考えた 2 実験 2. 1 撮影試料被写体とした撮影試料は 既報と同じ油彩画を使用した ( 図 1) 1)~ 3) 塩基性炭酸鉛を主成分顔料に含むシルバーホワイトで白色下地を施した麻布キャンバスに 赤外線を吸収しやすいフェロシアン化第二鉄を主成分顔料に含む油絵具プルシャンブルーを用いて猫の姿 ( 図 11) を描写した後 この猫の像を塗り潰すように有彩色の油絵具を塗り重ねた油彩画 ( 図 12 縦 16.1 cm 横 22.6 cm) を用いた 2. 2 撮影機材と撮影方法ハンディタイプの赤外線ライトは 1 NightMaster 製 X3-IR 照射波長 850 nm と 2 NightMaster 製 X3-IR 照射波長 940 nm を用い カメラはニコン製デジタル一眼レフカメラ (D5100 CMOS 1620 万画素 ) を用いた このカメラに1ニコン製 AI AF Nikkor 50 mm F1.8 D( 内部レンズ :5 群 6 枚 ) 2ニコン製 AI Nikkor 50 mm F1.2 S( 内部レンズ :6 群 7 枚 ) 3ニコン製 AI Micro-Nikkor 55 mm F2.8 S( 内部レンズ :5 群 6 枚 ) 4カメラ D5100 の標準レンズ : ニコン製 AF-S DX NIKKOR 18-55 mm F3.5-5.6 G VR(8 群 11 枚 ) の 4 種のレンズを順次取り付け撮影した レンズ1~3には赤外線指標が付いており レンズ4には赤外線指標が付いていない 赤外線写真は イーゼルに撮影試料の油彩画を立て掛け その油彩画に向けてハンディタイプ赤外線ライトを照射し撮影した 油彩画の中心から左右それぞれ斜め 45 度 油彩画の中心から赤外線ライトの照射部までの距離 30 cm の位置に スタンドを1 台ずつ置き これら2 台のスタンドに同一波長の赤外線ライトを1 灯ずつ固定し 油彩画の表面に向けて赤外線の光を照射した 汎用デジタル一眼レフカメラを用いた赤外線写真の撮影は既報に準じた 1)2) 振動を抑えるためカメラを三脚に固定し ニコンワイヤレスリモコン (ML-L3) を用いてシャッターを切った レンズは 前述 1~4を順次交換し撮影した マニュアルフォーカスのレンズ1~3を用いた撮影では レンズの焦点リングを手で回し油彩画にピントを合わせ レンズ前面にシャープカットフィルターを取り付けた後 レンズの焦点リングを回し距離目盛を赤外線指標に合わせて結像点のズレを補正し 赤外線写真を撮影した オートフォーカスに対応したレンズ4では オートフォーカスの状態でシャッターを半押して油彩画にピントを合わせ その状態のままマニュアルフォーカスに切り替えた後 レンズ前面にシャープカットフィルターを取り付けて撮影した シャープカットフィルターは 富士フィルム製シャープカットフィルター (75 mm 75 mm) を使用した 赤外線ライト1 NightMaster 製 X3-IR 850 nm を用いた撮影の際にはシャープカットフィルター SC72 を 赤外線ライト2 NightMaster 製 X3-IR 940 nm を用いた撮影の際にはシャープカットフィルター IR82 を使用した SC72 は 680 nm 以上の波長の光を透過しやすく 850 nm の光を約 90 % 透過し IR82 は 740 nm 以上の波長の光を透過しやす 12

大下浩司 下山進 く 940 nm の光を約 90 % 透過する 4) このように SC72 と IR82 は 赤外線ライトのそれぞれの照射波長 (850 nm または 940 nm) の光を透過しやすい カメラの設定は ISO 感度を 800 に固定して 絞り値 (f) 露出時間 ( 秒 ) シャープカットフィルターを順次変えながら撮影条件を検討した 3 結果と考察既報で検討した汎用デジタル一眼レフカメラ ( ニコン製 D5100) を用いた赤外線写真撮影では 赤外線指標の付いていない標準レンズ4ニコン製 AF-S DX NIKKOR 18-55 mm F3.5-5.6 G VR(8 群 11 枚 ) を用いていた そのため 結像点にズレを生じ焦点が正確に合っていなかった この結像点のズレを補正するために 赤外線指標の付いたレンズを用いて検討した 赤外線指標の付いたレンズ1ニコン製 AI AF Nikkor 50 mm F1.8 D( 内部レンズ :5 群 6 枚 ) をカメラ本体 ( ニコン製 D5100) に取り付け 照射波長 850 nm と 940 nm の赤外線ライトをそれぞれ用いて 撮影試料の赤外線写真を撮影した ( 図 2) 撮影条件を絞り値 f/1.8 露出時間 1 /1 秒 ISO 感度 800 に設定し シャープカットフィルターは 照射波長 850 nm のとき SC72 照射波長 940 nm のとき IR82 を用いた 照射波長 850 nm で撮影した赤外線写真の画像は暗く 照射波長 940 nm で撮影した画像は明るく猫の姿を確認できた この照射波長 940 nm の赤外線写真について 赤外線指標を調整しなかった画像 ( 図 23) と赤外線指標に合わせた画像 ( 図 24) を比べると これらの画像から焦点の差は見分けにくいものの パソコン画面上でこれらの画像 (JPEG データ ) を比較すれば 赤外線指標に合わせて撮影した画像 ( 図 24) の方がピントは合っていることが判った これらのことから 照射波長 940 nm の赤外線ライトと赤外線指標の付いたレンズ1~3を用い 撮影時にはレンズの赤外線指標に焦点位置を合わせ結像点のズレを補正して 以下の検討をおこなった 次に 赤外線写真の画像の明度に対する内部レンズの構成枚数 ( 凸レンズと凹レンズの組み合わせ群と凸あるいは凹レンズの枚数 ) の影響を調べた この検討にはレンズ1ニコン製 AI AF Nikkor 50 mm F1.8 D( 内部レンズ :5 群 6 枚 ) レンズ 2ニコン製 AI Nikkor 50 mm F1.2 S( 内部レンズ :6 群 7 枚 ) レンズ 3ニコン製 AI Micro-Nikkor 55 mm F2.8 S( 内部レンズ : 5 群 6 枚 ) レンズ 4ニコン製 AF-S DX NIKKOR 18-55 mm F3.5-5.6 G VR(8 群 11 枚 ) を用いた これらのレンズを順次カメラ本体に取り付け レンズの絞り値を f/5.6 に合わせ 赤外線ライトの照射波長を 940 nm ISO 感度 800 シャープカットフィルター IR82 の条件で露出時間を ~ まで順次変え 油彩画の赤外線写真を撮影した ( 図 3~ 図 6) 露出時間 5 /1 秒 ~ 10 /1 秒のとき これらのレンズを用いて撮影した赤外線写真に 下絵に描かれた猫の姿を微かながら捉えることができた 露出時間 5 /1 秒のときの赤外線写真を相互に比べると 赤外線写真の画像はレンズ 1( 内部レンズ :5 群 6 枚 F1.8 D)= レンズ3( 内部レンズ : 5 群 6 枚 F2.8 S) レンズ2( 内部レンズ :6 群 7 枚 F1.2 S) レンズ4( 内部レンズ :8 群 11 枚 F3.5-5.6 G) の順に暗くなり 赤外線写真の画像は1と3は同程度に明るく 2よりも4が暗くなり 内部レンズの構成枚数が少ないレンズほど明るかった さらに レンズ4( カメラ D5100 の標準レンズ F3.5-5.6) に比べて内部レンズの構成枚数の少ない 赤外線指標の付いたレンズ1( 最小絞り値 F1.8) レンズ2( 最小絞り値 F1.2) レンズ3( 最小絞り値 F2.8) をそれぞれ用いて 絞り値 f を各レンズの最小絞り値 F に合わせ開 文化財情報学研究第 13 号 13

放 F 値とし 露出時間 ( シャッター速度 ) を順次変えながら赤外線写真を撮影し その画像の明るさを比較した ( 図 7~9) 撮影時の赤外線照射には照射波長 940 nm の赤外線ライトを用い ISO 感度 800 シャープカットフィルター IR82 の条件で撮影し検討した いずれのレンズを用いた場合でも 露出時間 1 /1 秒よりも早いシャッター速度で油彩画の下絵に描かれた猫の姿を確認できた 絞り値 f を小さく設定できるレンズ1( 最小絞り値 F1.8) と2( 最小絞り値 F1.2) では露出時間 3 /1 秒 これらのレンズほど絞り値を小さく設定できない暗いレンズ3( 最小絞り値 F2.8) では露出時間 10 /1 秒のとき 十分な明るさの赤外線写真を撮影できた レンズ1とレンズ2では 露出時間を短く抑える ( シャッター速度を早くする ) ことができた レンズ1( 最小絞り値 F1.8) と2( 最小絞り値 F1.2) を用いて最小絞り値 ( 開放 F 値 ) で撮影した赤外線写真の焦点を比べると レンズ1の赤外線写真の方が焦点は合っていた これは 絞り値が小さいと被写界深度が浅くなるため 絵画表面に凹凸のある油彩画表面では下層にある下絵にまで焦点幅がとどかなかったためと考えられる レンズ2を用いて赤外線写真を撮影する際には 最小絞り値 ( 開放 F 値 ) ではなく それよりも絞り値 f を絞り込んで撮影すると良い 以上のことから 小型のハンディタイプ赤外線灯を用いる場合であっても レンズ1ニコン製 AI AF Nikkor 50 mm F1.8 D( 内部レンズ :5 群 6 枚 ) を用いれば 被写体の材質や状態によるものの 露出時間 3 /1 秒で赤外線写真を撮影できることがわかった 既報では 大型の赤外線灯を用いて 標準レンズ 4ニコン製 AF-S DX NIKKOR 18-55 mm F3.5-5.6 G VR( 内部レンズ :8 群 11 枚 ) で露出時間 30 /1 秒を要したが 1)2) 小型のハンディタイプ赤外線ライトに代えても 露出時間を 10 分の1にまで短縮することができた また これらのレンズの価格 (2016 年 2 月 3 日 ニコンダイレクト HP 参照 税込 ) を比べると レンズ 1は 22,032 円 レンズ2は 65,181 円 レンズ3は 49,577 円 レンズ4は 33,943 円であった 本研究で検討した4 種のレンズのうち 赤外線写真の撮影に適したレンズ1の価格は 最も安価に入手しやすい そのため 赤外線写真の撮影性能ならびに価格面においても レンズ1はハンディタイプ赤外線ランプと汎用デジタル一眼レフカメラを用いた赤外線写真の撮影に適している 4 おわりに汎用なデジタル一眼レフカメラ ( ニコン製 D5100) を用いた赤外線写真撮影における赤外線指標の効果と内部レンズの構成枚数 ( レンズ F 値 ) の影響 そして使用するレンズと撮影時のカメラ絞り値 f の関係を検討した 赤外線指標は可視光線( 焦点を合わせるときの光 ) と赤外線 ( 赤外線写真を撮影するときの光 ) の波長の違いにより生じる結像点のズレの補正に有用であり 赤外線指標によって赤外線写真の焦点を合わせることができた さらに カメラレンズの内部を構成する凸レンズと凹レンズの組み合わせ群と凸あるいは凹レンズの枚数は少ない方が明るい画像の赤外線写真を撮影でき 絞り値 f を小さく (f/1.8 程度に ) 設定できるカメラレンズの方が 露出時間を短くして ( シャッター速度 3 /1 秒で ) 赤外線写真を撮影できることがわかった 汎用デジタル一眼レフカメラ ( ニコン製 D5100) を用いた赤外線写真の撮影には レンズ1ニコン製 AI AF Nikkor 50 mm F1.8 D( 内部レンズ :5 群 6 枚 ) を使用し 照射波長 940 nm 絞り値 f/1.8 露出時間 3 /1 秒 ISO 感度 800 シャープカットフィルター IR82 の撮影条件が最適であった 14

大下浩司 下山進 文献 1) 大下浩司, 下山進 : 文化財情報学研究,11,pp.1-8(2014). 2) 大下浩司, 下山進 : 文化財情報学研究,12,pp.1-6(2015). 3) 下山進, 大原秀之, 吉田寛志, 大下浩司, 古谷可由 : ゴッホ ドービニーの庭 のすべて, p.38, (2008),( 財団法人ひろしま美術館, 学校法人高梁学園吉備国際大学 ). 4) 富士フイルム光学フィルター,pp.5-11,FUJIFILM. 文化財情報学研究第 13 号 15

①下絵に描かれた猫の姿 a 図1 ②猫を塗り潰した油彩画 撮影試料 a 下絵に描かれた猫の姿と猫を塗り潰した油彩画 撮影試料 a 写真は参考文献 2 から転載 照射波長 850 nm ①赤外線指標の調整なし ②赤外線指標の調整あり 照射波長 940 nm ③赤外線指標の調整なし ④赤外線指標の調整あり 図2 16 レンズ① ニコン製 AI AF Nikkor 50 mm f/1.8 D を用いた赤外線写真撮影における赤外線指標の影響

大下浩司 下山 進 図3 ンズ① ニコン製 AI AF Nikkor 50 mm f/1.8 D を用いた赤外線写真撮影における絞り値 f/5.6 のときの露出 レ 時間の比較 図4 ンズ② ニコン製 AI Nikkor 50 mm f/1.2 S を用いた赤外線写真撮影における絞り値 f/5.6 のときの露出時 レ 間の比較 文化財情報学研究 第 13 号 17

図5 ンズ③ ニコン製 AI Micro-Nikkor 55 mm f/2.8 S を用いた赤外線写真撮影における絞り値 f/5.6 のときの レ 露出時間の比較 図6 18 レンズ④ ニコン製 AF-S DX NIKKOR 18-55 mm f/3.5-5.6 G VR を用いた赤外線写真撮影における絞り値 f/5.6 のときの露出時間の比較

大下浩司 下山 進 図7 ンズ① ニコン製 AI AF Nikkor 50 mm f/1.8 D を用いた赤外線写真撮影における最小絞り値 F1.8 のときの レ 露出時間の比較 図8 レンズ② ニコン製 AI Nikkor 50 mm f/1.2 S を用いた赤外線写真撮影における最小絞り値 F1.2 のときの露 出時間の比較 文化財情報学研究 第 13 号 19

1 秒 2 秒 3 秒 5 秒 8 秒 図 9 レンズ 3( ニコン製 AI Micro-Nikkor 55 mm f/2.8 S) を用いた赤外線写真撮影における最小絞り値 F2.8 のときの露出時間の比較 所属 : 1 吉備国際大学外国語学部外国学科 ( 700-0931 岡山県岡山市北区奥田西町 5-5) 2 吉備国際大学文化財総合研究センター ( 716-8508 岡山県高梁市伊賀町 8) 3 吉備国際大学文化財学部文化財修復国際協力学科 ( 同上 ) 20