情報通信 伝送距離 60km を実現した -EPON 用波長多重中継装置 -EPON Dense Wavelength Division Multiplexing Repeater Expands Transmission Distance up to 60 km 梅田 * 大助 田中成斗 吉村明展 Daisuke Umeda Naruto Tanaka Akinobu Yoshimura 木崎直也後藤慎也船田知之 Naoya Kizaki Shinya Goto Tomoyuki Funada 通信インフラの高速化に対応するためのブロードバンドアクセス技術として 当社はPON (Passive Optical Network) 方式を採用した光アクセス機器を開発してきた 本稿ではbit/sの伝送容量を持つ-EPONシステム用に開発した中継装置について報告する 中継装置は局側装置 (OLT) と宅側装置 (ONU) の間に設置し 伝送距離を従来の20kmから60kmに長延できる 8チャネルの中継に対応し 波長多重技術を適用することで局側装置と1 本のファイバで接続できる キー技術である上りバースト信号の中継方式と中継特性についても報告する We provide advanced broadband technologies and passive optical network (PON) equipment to the market. We have developed a repeater for 10 Gigabit-Ethernet PON (-EPON) systems. Installed between an optical line terminal (OLT) and optical network units (ONUs), the repeater dramatically expands the data transmission distance from the conventional 20 km to 60 km. Wavelength division multiplexing (WDM) technology enables its connection to the OLT using a fiber cable and 8 channel support. This paper describes the performance of the repeater and the key technology in relaying upstream burst signals. キーワード :-EPON 中継装置 波長多重 1. 緒言光ブロードバンドアクセス技術として 光ファイバを複数の加入者で共有して効率良く使用できるPON(Passive Optical Network) 方式が導入され FTTHの普及を支えている 当社はこれまでにGE-PON 1 方式の通信システムを実用化し 国内外の事業者に販売してきた 2014 年には 伝送容量を10 倍に拡張した-EPON 1 システムの販売を開始している 一方 経済性の観点から伝送距離と分岐数を増やして広範囲の加入者を多く収容したい 波長分割多重 (WDM: Wavelength Division Multiplexing) 2 により光ファイバを有効に利用したいという要望は強い しかし 光ファイバを長延 / 分岐すると伝送損失が拡大するため それを補償する必要がある 当社は通信距離の長延 収容数の増大 波長多重伝送を実現するための1つのソリューションとして - EPONシステムに対応した-EPON 中継装置を開発した 局側装置と中継装置間の波長多重伝送に対応し 光ファイバを効率的に利用できる 本稿では開発した- EPON 中継装置の特徴 および中継特性を示す 2. 中継装置の概要 2-1 特徴図 1に開発した-EPON 中継装置の適用例を示す 本中継装置は局側装置と宅側装置の間 ( PON 区間 と呼ぶ ) に設置する 下り / 上り光信号 3 を受信して電気信号に変換し 再生処理を行った後 再び光信号に戻して中 光トランシーバ 局側装置 (OLT) カプラ PON トランク区間 ~40km( 伝送時 ) PON 区間 ~20km 中継装置 カプラ ~8 本 PON リーフ区間 ~20km 宅側装置 (ONU) 図 1 -EPON 中継装置の適用例 2017 年 1 月 S E I テクニカルレビュー 第 190 号 129
継する 弱まった光信号を再送することで伝送損失を補償する 中継装置と宅側装置の間 ( PONリーフ区間 と呼ぶ ) は通常のPON 区間と同じ32 分岐時に20kmをサポートし 局側装置と中継装置の間 ( PONトランク区間 と呼ぶ ) の伝送距離分を長延できる PONトランク区間には( 高密度 WDM) 伝送を使用し 中継装置 1 台で 8チャネルの波長多重中継に対応する 対向となる局側装置の波長多重への対応には 局側装置用光トランシーバとピン互換の 光トランシーバを開発した 光トランシーバを交換することで中継装置と波長多重伝送できる また 本中継装置は 対称 ( 下りbit/s 上り10 Gbit/s) と 非対称 ( 下りbit/s 上りbit/s) の通信に対応する 上りは 伝送レートと強度の異なる光バースト信号 4 を受信し 強度の揃った疑似的な光連続信号に変換して 局側装置に中継する 光強度を揃えることで発光波長が安定し PONトランク区間の波長多重が容易になる 表 1に本中継装置の主要諸元を示す 局側装置側の PONトランク インタフェース (I/F) に40km 伝送に対応した 光トランシーバを搭載する 宅側装置側のPONリーフI/Fには局側装置用光トランシーバを搭載することで 通常のPON 区間と同等の伝送特性を実現した これにより 局側装置と宅側装置の伝送距離はPON トランク区間の40kmとPONリーフ区間の20kmで合計 60kmに対応する PON トランク I/F (1 本 ) ( 局側装置側 ) 合分波カプラ 図 2 中継装置 (8 チャネル ) 電源ユニット 上部中央 : (8 チャネル ) 上部左 : 合分波カプラ下部左 : 電源ユニット 写真 1 中継装置の構成 中継装置の内観写真 PON リーフ I/F (8 本 ) ( 宅側装置側 ) 項目筐体サイズ中継チャネル数下り伝送レート 上り伝送レート PON トランク I/F ( 局側装置側 ) PON リーフ I/F ( 宅側装置側 ) 2-2 内部構成 表 1 中継装置主要諸元 仕様 W708 D217 H253 mm 8チャネル bit/s ( 物理層 10.3125Gbit/s) bit/s ( 物理層 10.3125Gbit/s) bit/s ( 物理層 1.25Gbit/s) 消費電力 86W ( 代表値 ) XFP 光トランシーバ - 下り受信 10.3125Gbit/s - 上り送信 10.3125Gbit/s 1.25Gbit/s - 波長 ITU-T G.694.1 100GHz グリッド ch20~ch35 (1561.42~1549.32nm) XFP 局側装置用光トランシーバ (IEEE802.3 10/BASE-PR30 準拠 ) - 下り送信 10.3125Gbit/s - 上り受信 10.3125Gbit/s 1.25Gbit/s 本中継装置の構成を図 2 内観写真を写真 1 に示す 屋 外設置用の筐体に中継ユニット (8チャネル) 合分波カプラ 電源ユニットを搭載する (1チャネル) の構成を図 3に示す 下りの 中継処理は 局側装置からの 光連続信号を 下り 光連続信号 光トランシーバ (PON トランク I/F) 上り 光疑似連続信号 疑似連続信号 図 3 < 下り 中継 > 信号 < 上り 中継 > 切替スイッチ 切替 連続信号レート判定 / 連続信号変換部 連続信号 CDR 再生クロック 信号 ハ ースト検出 CDR CDR 局側装置用光トランシーバ (PON リーフ I/F) ハ ースト信号 (1 チャネル ) の構成 下り 光連続信号 上り 光ハ ースト信号 光トランシーバで受信 ( 光電気変換 ) 連続信号用のCDR(Clock and Data Recovery) 回路 5 でタイミング再生した後 局側装置用光トランシーバから宅側装置に送信 ( 電気光変換 ) する CDR 回路では下り 信号から クロック信号を抽出して 上りの 中継処理部に渡す 上り 中継処理部を下り信号から抽出したクロック信号で動作させることで中継装置を局側装置と同期させる 上りの 中継処理は 対称宅側装置からの 130 伝送距離 60km を実現した -EPON 用波長多重中継装置
信号 (10.3125Gbit/s) と 非対称宅側装置からの 信号 (1.25Gbit/s) が混在する光バースト信号を局側装置用光トランシーバで受信 ( 光電気変換 ) する 使用した局側装置用光トランシーバは光バースト信号の強度からバースト信号の有無を検出できる バースト信号を検出すると 用と 用のCDR 回路で同時に同期処理を試み レート判定部でとのどちらのバースト信号を受信しているかをレート判定する 局側装置は宅側装置の通信割当を管理しており 受信するバースト信号が 信号であるか 信号であるかを把握している しかし 中継装置は受信するバースト信号の伝送レートを把握しておらず 受信してから判定する必要がある レート判定後 用と 用のCDR 回路の出力に対して 無信号区間にダミーの信号を挿入して 連続信号と 連続信号を生成する こうして生成された2つの連続信号を切替スイッチで結合して 疑似連続信号を生成し 光トランシーバで局側装置に送信 ( 電気光変換 ) する 図 4に / 光バースト信号から 光疑似連続信号に変換する様子を示す 光疑似連続信号は 信号と 信号が混在し 出力レベルが一定の光連続信号となる 伝送レートが単一の光連続信号と区別し ここでは光疑似連続信号と呼ぶ 光バースト信号と異なり 一定レベルで常時発光することで発光デバイスの温度と発光波長が安定し 光トランシーバで容易に波長多重できる 3. 諸特性 PON 中継装置の特性として PON 特有の上りバースト信号の中継特性について報告する 3-1 上り光バースト信号の中継特性上り 光バースト信号をPONリーフI/F( 宅側装置側 ) からトランクI/F( 局側装置側 ) に中継した際の波形を図 5に示す 1の 光バースト信号を受信して検出 (2 の検出信号がLow) 無信号区間にを挿入して 3の光疑似連続信号に変換している 光疑似連続信号にある約 250nsの無信号区間は中継遅延時間を観測する目的でバースト信号の終了時に評価用に挿入したもので 中継遅延は約 270nsである バースト信号の先頭では 1の先頭から580ns 後に3の波形が変化している これは信号パタンがから中継データ信号に切り替わったためで 遅延時間 270nsを差し引いた310nsのバースト信号先頭がに置換されている 標準で規定されるバースト信号先頭の同期時間 (: 1.2us : 800ns) よりも十分に短く 局側装置の受信で問題にならない 1 光バースト信号 580ns 遅延 270ns 光バースト信号 2 検出信号 検出 (Low) 無信号区間 ( 評価用 ) 250ns バースト信号 3 光疑似連続信号 連続信号 中継データ信号 連続信号 図 5 上り 光バースト信号の中継例 光疑似連続信号 図 4 光疑似連続信号の生成なお -EPONではPON 区間の伝送に誤り訂正技術を使用し 伝送エラーを受信側で訂正するが 本中継装置では誤り訂正処理を行わずに中継する 下りのPONトランク区間で発生した伝送エラーはそのまま中継され PON リーフ区間で発生した伝送エラーと合わせて 宅側装置で誤り訂正される 同様に上りのPONリーフ区間で発生した伝送エラーもそのまま中継されて PONトランク区間で発生した伝送エラーと合わせて局側装置で訂正される 3-2 中継装置上り 光バースト受信特性中継装置のPONリーフI/Fに使用した局側装置用光トランシーバの主要諸元を表 2 光バースト信号受信の受信感度特性を図 6に示す 中継装置で上り 光バースト信号を正しく検出して受信できることを確認した 表 2 中継装置 PONリーフ I/F 局側装置用光トランシーバ主要諸元項目仕様 送信出力 +2.0 ~ +5.0 dbm 受信感度 (BER=10-3 ) -28.0 ~ -6.0 dbm 受信感度 (BER=10-12 ) -29.78 ~ -9.38 dbm 2017 年 1 月 S E I テクニカルレビュー 第 190 号 131
図 6 では 1 光トランシーバ単体の 感度特性 2 中 継装置搭載時 ( 誤り訂正あり ) の 感度特性 3 中継装置搭載時の 感度特性を示している 1 光トランシーバ単体 の受信レベル-30dBmで BER(Bit Error Ratio)=10-3 の誤り率が 2 中継装置搭載時にはBER=10-12 まで誤り訂正され それぞれ仕様の -28.0dBmを満足している 中継装置搭載時の伝送誤り率は宅側装置から局側装置への通信フレームの伝送数と廃棄数から算出している PONリーフ区間の上りでのみ伝送エラーが発生するように可変光減衰器で光受信レベルを変えて測定した 中継装置には誤り訂正機能がなく PON リーフ区間で発生した 信号の伝送エラーは局側装置の受信処理で誤り訂正されている 3 中継装置搭載時 感度特性に関しては 仕様のBER =10-12 の受信レベル-29.78dBmに対して 約 4dBの十分なマージンを確保している Bit Error Ratio 10-2 10-3 10-4 光トランシーハ 単体 20km 中継装置搭載 20km 中継装置搭載 20km 仕様 10-5 10-6 10-7 10-8 10-9 10-10 10-11 仕様 10-12 10-13 -40-38 -36-34 -32-30 -28-26 -24-22 -20-18 中継装置 (PONリーフI/F) の光受信レベル (dbm) 図 6 中継装置 PON リーフ I/F の受信感度特性 3-3 OLT 上り 光疑似連続信号の受信特性 中継装置で変換された上り 光疑似連続信号が局 側装置で正しく受信できることを確認した PONトランク区間の送受信に使用した 光トランシーバの主要諸元を表 3に示す 主要諸元は中継装置用と局側装置用で共 通である 信号の伝送では PONリーフ区間とPON トランク区間で発生した伝送エラーがまとめて局側装置 ( 上り ) または宅側装置( 下り ) で訂正処理される PON リーフ区間の伝送誤り率はPON 区間と同じBER=10-3 で規定し PONトランク区間で使用する 光トランシーバはその1/100のBER=10-5 で規定した PONリーフ区間より十分に小さく規定することで 訂正処理においてPONトランク区間の伝送エラーは無視できる 40km 伝送時のファイバ損失 10~14dBと使用した 用合分波カプラの挿入損失 ( 最大 10.4dB 実力 7dB) の最大 24.4dBの損失に対して 光トランシーバの送信出力 受信感度を26.5dBのバジェット ( 送信出力と受信感度の差 ) で規定した 図 7に局側装置の 光疑似連続信号の受信感度特性を示す 光トランシーバ単体の 感度特性 ( 伝送距離 10kmと240km) と局側装置搭載時の 感度特性 ( 伝送距離 340km) と 感度特性 ( 伝送距離 40kmと 540km) を示している 光トランシーバ単体の 感度特性 12は表 3の仕様を満足している 局側装置搭載時の 感度特性 3は2より誤り率が低く 光疑似連続信号が通常のバースト信号と同様に局側装置で正しく訂正処理されている 局側装置搭載時の 感度特性 45も 仕様のBER= 10-12 の受信レベル-26.5dBmに対して十分な特性であり 40km 伝送に必要なバジェットを確保できている Bit Error Ratio 光トランシーハ 単体 0km 10-2 光トランシーハ 単体 40km 局側装置搭載 40km 10-3 局側装置搭載局側装置搭載 0km 40km 10-4 10-5 10-6 10-7 10-8 10-9 10-10 10-11 10-12 10-13 仕様 仕様 -40-38 -36-34 -32-30 -28-26 -24-22 -20-18 局側装置 (PONトランクI/F) の光受信レベル (dbm) 図 7 局側装置 PON トランク I/F の受信感度特性 表 3 中継装置および局側装置 PON トランク I/F 光トランシーバ主要諸元 項目 仕様 送信出力 0 ~ +4 dbm 受信感度 (BER=10-5 ) -26.5 ~ -7.0 dbm 受信感度 (BER=10-12 ) -26.5 ~ -7.0 dbm ( 上りのみ ) 波長 ITU-T G.694.1 100GHz グリッド ch20~ch35(1561.42~1549.32nm) 4. 結言本稿では -EPONシステムに対応した波長多重中継装置を紹介した 局側装置と宅側装置の通信距離の長延 収容数の増大 およびPONトランク区間のファイバ利用効率を高めるもので アクセスネットワークの発展に貢献できるものと考えている 132 伝送距離 60km を実現した -EPON 用波長多重中継装置
用語集ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 1 GE-PON -EPON bit/sの伝送容量を持つgigabit-ethernet PONと bit/sの伝送容量を持つigabit-ethernet PON IEEE802.3で規定されるPONシステム 執筆者ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 梅田大助 * : インフォコミュニケーション 社会システム研究開発センターグループ長 2 波長分割多重 (WDM) Wavelength Division Multiplexing:1 本の光ファイバに複数の異なる波長の光信号を多重させる伝送技術 光合分波カプラで光信号を合波 / 分波する 3 下り / 上り光信号局側装置から宅側装置への方向を下り 宅側装置から局側装置への方向を上りと呼ぶ 4 バースト信号複数の宅側装置からの上り信号が衝突しないように時分割で間欠的 ( バースト ) に伝送される信号 5 CDR(Clock and Data Recovery) 回路データ信号からクロック信号を抽出すると同時に 抽出したクロック信号でデータ信号を再生する回路 伝送によるタイミングの揺らぎが除去される 田中吉村木崎後藤船田 成斗 : インフォコミュニケーション 社会システム研究開発センター 明展 : インフォコミュニケーション 社会システム研究開発センター 直也 : インフォコミュニケーション 社会システム研究開発センター 慎也 : インフォコミュニケーション 社会システム研究開発センター 知之 : インフォコミュニケーション 社会システム研究開発センター 主査主査主査主席主幹 Ethernet は Xerox Corporation の登録商標です 参考文献 (1) IEEE Std. 802.3-2012 (2) 梅田他 GE-PON 中継装置の開発 SEI テクニカルレビュー第 169 号 ( 2 0 0 6 ) (3) 甲斐他 高速大容量スイッチを備えた -EPON システム SEI テクニカルレビュー第 1 8 9 号 ( 2 0 1 6 ) ---------------------------------------------------------------------------------------------------------- * 主執筆者 2017 年 1 月 S E I テクニカルレビュー 第 190 号 133