40-Gbps Dense Wavelength Division Multiplexing Transmission System あらまし 富士通テレコムネットワークス (FTN) では, 国内通信キャリアに向けた光伝送システムを開発, 供給している このたび,FTNでは国内通信キャリア向けに世界初のRZ- DQPSK 変調方式を採用した40 Gbps 光波長多重伝送 (DWDM) システムを開発した この DWDMシステムは最大 40 本の40 Gbps(STM256) 信号 ( 合計 1.6 Tbps) を光ファイバ1 本に多重し伝送することができる 本稿では,40 Gbpsの光信号をDWDMシステムに多重した場合の技術課題と解決策, 40 Gbpsの各種光変調方式の特徴およびRZ-DQPSK 変調方式の優位性について説明する Abstract Fujitsu Telecom Networks develops and supplies optical transmission systems for domestic telecommunications carriers. It has recently developed the world s first 40-Gbps dense wavelength division multiplexing (DWDM) transmission system using the return-to-zero differential quaternary phase shift keying (RZ-DQPSK) modulation format for Japanese telecommunications carriers. This system can multiplex and transmit up to forty 40-Gbps (STM256) signals (total: 1.6 Tbps) over one optical fiber. In this paper, we explain the technical problems and solutions for multiplexing 40-Gbps optical signals on a DWDM system, discuss the characteristics of various optical modulation formats, and show the superiority of RZ-DQPSK. 和仁一夫 ( わにかずお ) 富士通テレコムネットワークス ( 株 ) プロダクト開発センター所属現在, 国内向けDWDMシステムの開発に従事 小野威 ( おのたけし ) 富士通テレコムネットワークス ( 株 ) プロダクト開発センター所属現在, 国内向けDWDMシステムの開発に従事 310 FUJITSU. 60, 4, p. 310-314 (07, 2009)
まえがき光波長多重伝送 (DWDM:Dense Wavelength Division Multiplexing) システムは, 光ファイバを使用した通信技術の一つで波長の違う複数の光信号を同時に多重伝送することで光ファイバを効率的に使用できる伝送システムである 通信キャリアがサービスする伝送品目は今まで 10 Gbpsが最大速度であったが, 近年ルータなどの性能アップに伴い40 Gbpsインタフェースを具備するようになっており,40 Gbpsを長距離伝送する DWDMシステムの要求が高まっている 光ファイバで信号を伝送する場合, 信号速度が高速になるほど伝送できる距離は短くなる これは, 光ファイバが持つ非線形と呼ばれる特性によって伝ゆが送波形が歪められるためで, この伝送波形の歪みは光の信号対雑音比 (OSNR), 波長分散, 偏波分散 (PMD) などの各種耐力劣化の要因となり, 長距離伝送を妨げる そのため,10 Gbpsを伝送する場合には無視できた非線形のパラメタが40 Gbpsを伝送する場合には無視できなくなる 一方, 通信キャリアでは10 Gbps DWDMシステムで既に構築された局配置や保守体系があるため, 10 Gbps DWDMシステムと同等の局配置が可能な同等の伝送性能を持つ40 Gbps DWDMシステムが望まれていた このため, 富士通テレコムネット ワークスでは,10 Gbpsと40 Gbpsの速度差による課題を新規技術で解決し, 既存の10 Gbps DWDM システムと同等の伝送距離を実現した40 Gbps DWDMシステムの開発を行った システム概要本システムは, 伝送容量 40 Gbps(STM-256) および10 Gbps(STM-64,10 GbE) のデジタル信号 (10 Gbps 収容の場合は4 本を多重して43 Gbpsとして伝送される ) を収容し, 伝送速度が43 Gbpsの OTU3 信号を最大 40 波多重 / 分離し, 光増幅中継により長距離伝送を行う 本システムは, 以下の四つの要素から構成される ( 図 -1) (1) 波長多重装置 (WDM-MUX) 本装置は, 高速光インタフェース(TXP/RXP) 機能部 ( 以下, トラポン部 ) 波長合分波(O-MUX/DMUX) 機能部 ( 以下, コア部 ) から構成され, それぞれ独立したを有する トラポン部は, クライアント装置からのワイドバンド光信号を波長多重可能なナローバンド光信号へ変換する 10 Gbps 信号を収容の場合は信号線 4 本の信号を43 GbpsのOTU3 信号にビット多重 / 分 監視制御装置 (NE-OpS) 遠隔 NE-OpS NE-OpS サーバサーバ HMI 端末 情報転送網データ通信ネットワーク (DCN) 波長多重装置 (WDM-MUX) 中間中継装置 (REP) 波長多重装置 (WDM-MUX) 外部端局装置接続点 40 Gbps または 10 Gbps4 本を最大 40 本接続 RXP TXP 高速光インタフェース機能部 波長クライアント合分波インタフェース機能部 (O-MUX/ 機能部 DMUX) 局間ファイバケーブル 最大 1.6 Tbps の WDM 光信号 光増幅機能部 (EDFA) 局間ファイバケーブル 最大 1.6 Tbps の WDM 光信号 波長合分波機能部 (O-MUX/ DMUX) 高速光インタフェース機能部 TXP RXP 外部端局装置接続点 40 Gbps または 10 Gbps4 本を最大 40 本接続 図 -1 40 Gbps DWDM システム構成 Fig.1-40 Gbps DWDM system configuration. FUJITSU. 60, 4, (07, 2009) 311
離し, 長距離伝送に適したRZ-DQPSK 変復調, 個別分散補償,FECによるエラー訂正を行う コア部は, トラポン部からの43 GbpsOTU3 信号を40 本分光波長多重 / 分離する は, 監視制御装置とLAN(Local Area Network) を介して接続し, トラポン部およびコア部の制御 / 状態収集を行う (2) 中間中継装置 (REP) 43 GbpsのOTU3 信号を40 波多重したWDM 光信号を増幅する光増幅機能部, から構成される 光増幅機能部はEDFA(Erbium Doped optical Fiber Amplifier) およびラマンアンプを実装し, 光信号を光信号のままで再生中継する は, 監視制御装置とLANを介して接続し, 光増幅機能部の制御 / 状態収集を行う (3) 監視制御装置 (NE-OpS) NE-OpSサーバ, ユーザ (HMI) 端末から構成され, 複数の波長多重化装置, 中間中継装置の運用制御 監視制御を行う (4) 簡易制御端末 (および遠隔 ) 局舎に設置されている装置に直接接続されるローカル端末で波長多重化装置, 中間中継装置の開通時設定制御, 運用制御, 監視制御を行う 一部機能をネットワーク経由で遠隔で実現する機能も有する 40 Gbps 伝送の技術課題本システムにおいて,10 Gbpsと同等の伝送距離を40 Gbpsの信号で実現するためには, 以下の技術課題の克服が必要であった (1) 光信号対雑音比 (OSNR) の劣化変復調方式が同じである場合, 信号帯域幅が 10 Gbpsの4 倍に広がる40 Gbpsのシステムでは, 帯域内雑音が4 倍に増加するため, 伝送路のOSNR は10 Gbpsに比較して6 db 低下する (2) 波長分散耐力の劣化波長の異なる光が光ファイバを通過する際に, それぞれの屈折率が異なるために, 伝搬速度にわずかな差を生じる特性を波長分散特性と呼ぶ この特性により各信号の到達時間にズレが起こるために, 結果として信号波形が劣化する この波長分散に対する耐力は信号速度の2 乗に反比例して減少するため, 40 Gbpsのシステムでは,10 Gbpsに比較して16 分 の1となる (3) PMD 耐力の劣化光パルスは直交する二つの偏波が合成されて光ファイバ内を伝わるが, 二つの偏波に群速度差が生じ, 光パルスが広がる ( 分散する ) 現象をPMD ( 偏波モード分散 ) と呼ぶ このPMDに対する耐力は信号速度に反比例して減少するため,40 Gbpsのシステムでは,10 Gbpsに比較して4 分の1となる 新たな適用技術本システムでは, 以下の新技術を開発し適用することで, 前章の課題を克服した 多値差動位相変復調 (DQPSK) 技術本システムでは変復調方式としてRZ(Return-to- Zero)-DQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying) 方式を世界で初めて採用した RZ-DQPSK 変調方式は, 表 -1に示すように様々な 40 Gbps 光変復調方式の中で以下の特性で総合的に優れており, 長距離伝送の実現に有利である (1) 光雑音耐力 RZ-DQPSK 方式は, 光遅延干渉計およびTwin PINフォトダイオードを用いた差動受信と,RZパルス化によって, ほかの変復調方式に比べて高い光雑音耐力を有する なお,Duobinary 方式は, 波長分散耐力に優れるものの, 原理的に生ずる符号間干渉などの影響で, RZ-DQPSK 方式より光雑音耐力が大きく劣り ( 約 6 db), 長距離伝送に適さない (2) 波長分散耐力 RZ-DQPSK 方式は, シンボルレートが20G baud であるため,NRZ 方式に比べて光スペクトル幅が約 60%,1タイムスロットが2 倍となり,NRZ 方式に比べて約 3 倍の広い波長分散耐力を有する (3) 非線形耐力 RZ-DQPSK 方式は, 光強度波形としてはクロックパルス (RZ-like) であるため, ほぼCS-RZ 方式と同等, かつNRZ 方式より高いファイバ非線形性に対する耐力を有する (4) PMD 耐力 RZ-DQPSK 方式は,1タイムスロットがほかの変復調方式の2 倍であるため, 約 2 倍のPMD 耐力 ( 伝送距離に換算して約 4 倍 ) を有する 312 FUJITSU. 60, 4, (07, 2009)
表 -1 40 Gbps 光変調方式比較 変調方式 NRZ Duobinary CS-RZ RZ-DPSK RZ-DQPSK 光スペクトル形状 (1) 光雑音耐力 (2) 波長分散耐力 (3) 非線形耐力 (4)PMD 耐力 (5) 光フィルタ透過性 : 非常に良い,: 良い, : 普通, : 悪い (5) 光フィルタ透過性 RZ-DQPSK 方式は, シンボルレートが20 Gbaud で光スペクトル幅が狭いために, 光フィルタ透過性に優れている よって, 高密度波長多重による伝送容量拡大, およびスイッチングデバイスが多段化される光 Add Drop(OADM) システムへの適用に有利である 高利得 FEC 技術伝送したい情報に冗長な情報を付加し, その情報を基に伝送中に生じた情報の誤りを訂正する技術としてFEC(Forward Error Correction) 技術が知られている 本システムでは, 従来のFEC(RS [255,239] 符号 ) に比べてより高利得なenhanced FECを採用し, 受信耐力を向上させた 個別分散補償技術分散補償方式としては,DCF( 分散補償ファイバ ) を用いて各ノードでの各スパンの伝送路分散が 100% 補償されるように分散補償を行ったとしても, 分散スロープや分散ばらつきによる各チャネルの残留分散を100 % 補償することはできない RZ- DQPSK 方式による波長分散耐力の改善に加えて各チャネルに分散を補償するための個別分散補償器を適用することにより,DCF( 分散補償ファイバ ) で補償しきれなかった残留分散を補償した また, 個別分散補償器は可変可能な方式を採用し, 自動で常に最適な分散値となるように制御を行うことで, 気温変動などによる伝送路の波長分散変動に追従可能とした 装置への適用本システムは, フィールド実績のある10 Gbps ベースのDWDMシステムを基に40 Gbpsへ伝送速度の拡張を図ったものであり, その開発手法としては特にトラポン部とコア部の切り口における光のレベルを10 Gbpsシステムのそれと同等とした このようなアーキテクチャを採用することで, 既存の10 Gbpsシステムのコア部の流用を可能とし, また, とくに設計コストがかかる光回線設計ルールの変更を最少限とすることが可能となった さらに, すべての新規技術をトラポン盤に集約した上で, 10 Gbps 用トラポンに比べ2 倍以下の体積を実現したことで,10 Gbpsシステムと同等の操作性 保守性を実現した これらの新技術を実装した40 Gbpsトランスポンダの機能構成を図 -2に示す 40 Gbpsトランスポンダはクライアント側の40 Gbps(STM256) 光信号を収容し, 波長変換,RZ-DQPSK 変復調,FECエラー訂正, 個別分散補償を行う 具体的には, クライアント装置からの39.8 Gbps (STM256) 光信号を光電気変換し,OUT3オーバヘッドを付与した後,FEC 符号化を行って再び電気光変換を行い, 波長変換,RZ-DQPSK 変調後コ FUJITSU. 60, 4, (07, 2009) 313
装置内インタフェース回路 39.8 Gbps STM256 信号 クライアント側光終端回路 43 Gbps OTU3 信号終端回路 LINE 側光終端回路 43 Gbps OTU3 信号 可変分散補償器 図 -2 40 Gbps トランスポンダ機能構成 Fig.2-40 Gbps Transponder board function composition. から元のSTM256 信号を取り出して再び電気 / 光変換を行った後, クライアント装置へ送信する 40 Gbpsトランスポンダの写真を図 -3に示す むすび 図 -3 40 Gbps トランスポンダ Fig.3-40 Gbps Transponder board. ア部へ送信する また, コア部からの43 Gbps OUT3 光信号を受信し, 個別分散補償を行った後, 光電気変換し,FECエラー訂正後,OUT3フレーム 将来のトラフィック増加に対して伝送装置は年々高速化への適用が必須であり, 今回開発した40 Gbps DWDMシステムはその期待に応えるものである 今回 40 Gbps DWDMシステムで確立した40 Gbps の長距離伝送技術をベースとし, 今後トラフィックの増加に対応した40 Gbpsリングシステム, メッシュシステムへの応用を推進する また, 高速光伝送における課題は次世代の 100 Gbpsの世代になると更に大きな障壁となり得るが, 富士通グループの技術力をもって解決し, お客様に貢献するシステム作りを推進したい さらに, CO 2 削減, フロア実装密度向上のために要素技術の低消費電力化, 小型化を進めていく 314 FUJITSU. 60, 4, (07, 2009)