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2 調査研究 環境科学部 沖縄島周辺海域におけるトゲサンゴ Seriatopora hystrix の分布 沖縄県環境科学センター環境科学部 長田 智史 小笠原 敬 山川 英冶 小澤 宏之 広島大学生物圏科学研究科 上野 大輔 琉球大学熱帯生物圏研究センター 酒井 一彦 1 はじめに キーワード沖縄島 トゲサンゴ Seriatopora 生物地理学的な分布の縁辺域に成立する造礁サ 地域個体群 分布 簡易調査 hystrix ンゴ群集は 撹乱による影響を受け易く また回 2 方法 復が困難であると考えられている 1 2 琉球列島では 近年の人為的な環境の悪化に加 調査は 2005 年 3 月 -4 月の期間 簡易調査 調 え 大規模な白化現象とオニヒトデの大発生によ 査員 2 名による 15 分間の遊泳観察 - 図 2 によ り サンゴ礁生態系は危機的状況にある り実施した 対象とした造礁サンゴ類はトゲサン 造礁サンゴ類が激減している沖縄島周辺におい ゴをはじめサンゴ礁の様々な環境でみられる 代 て この海域が生物地理学的な分布の縁辺域であ 表的な種類とした 調査地点を 89 地点設定し る特定の種の分布を把握することは 失われつつ これらは概ね礁斜面上のスノーケリングによる観 ある生物多様性を考える際の基礎的情報として不 察が可能な水深範囲 13m 以浅 とした 可欠である これまで 沖縄島および周辺離島 沖縄島周辺 対象トゲサンゴ ショウガサンゴ アオサンゴミ 海域 を含む海域で造礁サンゴ類の特定の種に ドリイシ属 ハナヤサイサンゴ属 ハマサン 限った分布を調べた例は限られている ゴ属 近年の沖縄島周辺海域における造礁サンゴ群集 範囲沖縄島周辺海域 -67 地点 の激減と 特定の種の分布との関係に注目し 以 沖縄島周辺離島 伊江 伊是名 伊平屋海域 下の目的で 沖縄島周辺海域で普通に分布する種 -23 地点 とされているトゲサンゴ Seriatopora hystrix- 地形礁斜面 13m 以浅 -83 地点 礁池 -7 地点 図 1 を主な対象種として分布調査を行った 目的 沖縄島周辺海域におけるトゲサンゴの分布を把 握する 過去のトゲサンゴの分布と比較し また トゲ サンゴ以外の造礁サンゴ類の分布と比較する トゲサンゴの分布と これまでに知られている 遺伝的多様性や繁殖様式などの特徴から 今後の 回復過程を考察する 図 1. トゲサンゴ (Seriatopora hystrix). 77

図4 調査結果 調査地点 分布 図 2. 調査風景. 3 結果 ショウガサンゴ Stylophora pistillata- 図 5 対象とした造礁サンゴ類はそれぞれ偏った分布 沖縄島本部半島北海岸 沖縄島北部東海岸 沖縄 の傾向を示した 以下に各種類の分布概略と分布 島中城湾などで比較的まとまった分布が確認され 図をそれぞれ示す 但し ここでは沖縄県文化環 た 沖縄島の西海岸 南海岸では確認されなかっ 境部自然保護課により沖縄島周辺海域の一部 久 た 慶良間海域のほぼ全域に加え 久米島周辺海 米 慶良間海域に対して 先駆的に実施された 域 沖縄島周辺離島の一部で確認されている 3 4 2004 年の調査結果 を合わせて示す トゲサンゴ Seriatopora hystrix- 図 1 3 4 慶良間海域ではほぼ全域で分布が確認された 久 米島周辺海域では分布は確認されていない 沖縄 島周辺海域および沖縄島周辺離島の殆どで確認さ れず 地域絶滅に近いことが分かった 但し 今 回沖縄島西海岸読谷村イナンビシ南で分布を記録 し 沖縄島東海岸名護市大浦湾においてもこれま でに分布が記録されている 2004 年上野撮影 図 3 図3 大浦湾で記録されたトゲサンゴ 図5 ショウガサンゴ 調査地点 分布 78

アオサンゴ Heliopora coerulea- 図 6 沖縄島東海岸 南海岸のほぼ全域で分布が確認さ れた 沖縄島西海岸や沖縄島周辺離島では分布が 限られていた 慶良間海域 久米島周辺海域のほ ぼ全域で分布が確認されている 図7 その他の造礁サンゴ類 調査地点 ミドリイシ属 - 左 ハナヤサイサンゴ属 - 中央 ハマサンゴ属 - 右分布未確認地点 4 考察 近年の人為的な環境の悪化に加え 大規模な白 化現象とオニヒトデの大発生により 沖縄島周辺 のサンゴ礁生態系は危機的状況にある 沖縄島周 辺 久米 渡名喜 粟国周辺 慶良間の各海域の 造礁サンゴ類の被度は近年では低い傾向にある 3 4 慶良間海域では被度が 25% 以下の海 図 8 図6 アオサンゴ 調査地点 分布 域が多いものの 50% 以上と非常に高い被度を 保つ地点も少なくない 一方 久米 渡名喜 粟 その他の造礁サンゴ類 図 7 国周辺海域と沖縄島周辺海域では被度が 25% 以 ミドリイシ Acropora 類 ハナヤサイサン 下の地点が殆どである 沖縄島南部や中部西 北 ゴ Pocillopora 類 ハマサンゴ Porites 類の 部東の一部では被度が僅かに高い 属単位におけるこれら造礁サンゴ類は沖縄 慶良 トゲサンゴは 現在では沖縄島周辺で 2 地点 間 久米の周辺海域のほぼ全域で分布が確認され からのみ分布が確認されたに過ぎないが 過去に ている は 詳細な報告は少ないものの主に沖縄島西海岸 で分布が確認されている 5 6 7 8 9 酒井らは 簡 易調査を 1984 年に実施し 沖縄島西海岸を中心 に 4 海域 7 地点 沖縄島西海岸荒崎 - 備瀬崎 でトゲサンゴを記録している 一方 大規模な白 化現象以降 入川らにより 2001 年に実施された 79

スキューバ測線調査 (77 地点 :50m 2m) では トゲサンゴの分布は記録されていない ( 図 9) (8 10) 瀬底島の調査地では 1998 年の白化現象に より それ以前には生息が確認されていた トゲ サンゴ ショウガサンゴ ハナヤサイサンゴなど が絶滅した (11) 世界的にサンゴ群集の大きな撹乱要因に挙げら れるオニヒトデは ミドリイシ属を最も好み ハ マサンゴ属を好まない トゲサンゴ属はコモンサ ンゴ属 キクメイシ属 リュウキュウキッカサンゴ属と並び中間のこの好みであるとされている (12) オニヒトデの大発生は 近年では 2001 年前後に沖縄島周辺で記録され この大発生が 現在のトゲサンゴの分布に大きな影響を与えたと考えられる 図 8.2004 年調査結果 ( 造礁サンゴ被度 -%: 0-25 25-50 50-75 75-100) 図 9. 過去の調査結果 ( : 過去に記録のあるトゲサンゴの分布地点 範囲 : 測線調査地点 ) トゲサンゴは生物地理学的な分布範囲が広い一 方で分散距離が短く 地域間の遺伝的な距離が長いことが知られている (2 14 15) また トゲサンゴは幼生保育型の有性生殖 (13) であり 地域内の遺伝的な多様性が低いことから 地域個体群は分散距離の短い繁殖様式により維持されていることが示唆されている (2 14 15) 従って トゲサンゴの生活史特性 特に繁殖様式が幼生保育型であるなど 破片分散やポリプの脱落による無性生殖の可能性を考慮しても 短期的には狭域分散の傾向にある このことから 沖縄島周辺海域におけるトゲサンゴの個体群の回復は特に緩慢なものになると推測される 同時に 極端に少なくなった残存個体群がどのように周辺海域へ分布を広げ 回復していくのか 今後の経過を追跡する継続的な調査が待たれる 造礁サンゴ類における特定の種の地域個体群の絶滅は東太平洋パナマに分布したアナサンゴモドキの仲間 (1) など 造礁サンゴ類の分布の縁辺域から報告されている トゲサンゴの分布域は 日本では奄美以南とされ 沖縄島周辺は生物地理学的な分布の縁辺域に当たる 今後の同様な調査によっては トゲサンゴ以外の種 ( 図 10) でも 過去の記録と比較して 沖縄島周辺海域では絶滅に近い状態が確認される可能性がある 5. まとめ 琉球列島において普通種であるトゲサンゴの分布を調査した 沖縄島周辺海域におけるトゲサンゴの現在の分布は 調べた他の造礁サンゴ類と比較して極端に限られており 過去の記録と比較しても 地域絶滅の可能性が高い 今後 トゲサンゴの分布の回復過程においては この種の繁殖様式により短い分散距離であること そのため個体群の回復は緩慢になると考えられること 残存する地域個体群が遺伝的に他地 80

域と隔離されていると推測されることが 重要な 特徴として挙げられる 造礁サンゴ類が激減している沖縄島周辺におい ては 急速に失われつつある生物多様性という側 面からもトゲサンゴをはじめとする他の造礁サン ゴ類のより詳細な分布を調査することが求められ る 絶滅状態が危惧されるそれぞれの種における遺 伝的特徴の解明と合わせて 今後の沖縄島周辺海 域の造礁サンゴ群集の回復過程を追跡していく必 図 10 トゲサンゴを含む多様な種からなる造礁 サンゴ群集 渡嘉敷島アリガー2004年03月 引用文献 1)Glynn & De Weerdt (1991) Science 253: 69-71 2)Ayre & Hughes (2004) Ecology Letter 7: 273-278 3) 沖縄県文化環境部自然保護課 (2005) 平成 16 年度リーフチェック 推進事業報告書 pp. 226 4) 沖縄県文化環境部自然保護課 (2005) 久米島海域オニヒトデ発生状 況等調査報告書 pp. 44 5) 仲宗根ほか (1974) 琉球列島の自然とその保護に関する基礎的研究 I: 213-236 6) 財団法人沖縄県観光開発公社 (1976) オニヒトデのサンゴ礁生物群 にあたえる影響 ( オニヒトデの大発生に関して ) pp.110 7)Nishihira et al. (1987) Galaxea 6: 53-60 8)Sakai et al. (1988) Galaxea 7: 41-51 9) 財団法人沖縄県環境科学検査センター (1988) サンゴ礁海域保全研 究会第 1 回研究報告書 pp.254 10) 財団法人沖縄県環境科学センター (2002) 平成 13 年度沿岸海域 実態調査 - 沖縄島周辺 -. 財団法人沖縄県環境科学センター : 自主調査 研究事業 pp.135 11)Loya et al. (2001) Ecology Letters 4: 122-131 12)De'ath & Moran (1998) Journal of Experimental Marine Biology and Ecology 220: 107-126 13)Fadlallah (1983) Coral Reefs 2: 129-150 14)Ayre & Hughes (2000) Evolution 54(5): 1590-1605 15)Mainer et al. (2005) Marine Biology 147: 1109-1120 81