平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

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と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

論文の内容の要旨

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

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平成22年11月15日

マスコミへの訃報送信における注意事項

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記者発表資料

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

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世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

マスコミへの訃報送信における注意事項

Outline

所 属 :1 広島大学大学院理学研究科 2 東京大学物性研究所 3 愛知シンクロ トロンセンター 4 広島大学放射光科学研究センター 5 兵庫県立大学大学院物質理学研究科 D O I: /s 背景 近年 電子 光学デバイスの材料として 2 次元単原子層結

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

光で絶縁体を未知の金属相へと相転移させることに成功

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

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研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

予定 (川口担当分)

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

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平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

マスコミへの訃報送信における注意事項

本研究成果は 平成 28 年 8 月 19 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 Journal of the American Chemical Society のオンライン速報版で公開されました 研究の背景と経緯 超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性 ( 注 2) を示す科学の観点から重要な物理

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

銅酸化物高温超伝導体の フェルミ面を二分する性質と 超伝導に対する上純物効果

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報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

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鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト


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氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

研究成果報告書

Chapter 1

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

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報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究 (ERATO) 研究プロジェクト : 伊丹分子ナノカーボンプロジェクト 研究総括 : 伊丹健一郎 ( 名古屋大学大学院理学研究科 / トランスフォーマティブ生命分子研究所拠点長 / 教授 ) 研究期間

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支援財団研究活動助成 生体超分子を利用利用した 3 次元メモリデバイスメモリデバイスの研究 奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科小原孝介

生物時計の安定性の秘密を解明

放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

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             論文の内容の要旨

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磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

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受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

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平成 30 年 6 月 21 日 報道機関各位 東北大学多元物質科学研究所 カドミウムや鉛を含まない量子ドット緑色蛍光体を開発 - スーパーハイビジョン放送に適合した広色域ディスプレイに最適 - 発表のポイント カドミウムや鉛を含まない量子ドットで単色性の高い緑色発光を世界で初めて実現した 量子ドッ

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報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

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特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

2018/6/12 表面の電子状態 表面に局在する電子状態 表面電子状態表面準位 1. ショックレー状態 ( 準位 ) 2. タム状態 ( 準位 ) 3. 鏡像状態 ( 準位 ) 4. 表面バンドのナローイング 5. 吸着子の状態密度 鏡像力によるポテンシャル 表面からzの位置の電子に働く力とポテン

マスコミへの訃報送信における注意事項

4. 発表内容 : 超伝導とは 低温で電子がクーパー対と呼ばれる対状態を形成することで金属の電気抵抗がゼロになる現象です これを室温で実現することができれば エネルギー損失のない送電や蓄電が可能になる等 工業的な応用の観点からも重要視され これまで盛んに研究されてきました 超伝導発現のメカニズム す

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実験題吊  「加速度センサーを作ってみよう《

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

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ます この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました 本研究の成果は 米国物理学会誌 Physical Review Letters に 2018 年 5 月 4 日 ( 米国東部時間 ) オ

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

電解メッキ初期過程における電極近傍イオン種のリアルタイム観測に成功

超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

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平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) の菅原克明助教 一杉太郎教授 高 橋隆教授 同理学研究科の佐藤宇史准教授らの研究グループは グラフェンを超える電 子デバイスへの応用が期待されているチタン セレン (TiSe 2 ) 原子層超薄膜の作製に成 功しました さらに 1 層の TiSe 2 超薄膜の電子状態を詳細に調べた結果 その特異な金 属状態を生み出している原因は 薄膜中の電子と正孔 ( 電子の抜けた孔 ) 注 1) が結合して 対 ( ペア ) を作っているためであることを見出しました 今回の成果は グラフェンを超 える原子層超薄膜物質の物質設計と開拓に大きく貢献するものです 本成果は 平成 27 年 12 月 1 日 ( 米国東部時間 ) に米科学誌 ACS Nano オンライン 速報版に掲載されました 問い合わせ先 < 研究に関すること> 菅原克明東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 助教 Tel:022-217-6169 E-mail:k.sugawara@arpes.phys.tohoku.ac.jp < 報道に関すること> 清水修東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 広報 アウトリーチオフィス Tel:022-217-6146 E-mail:aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp 研究の背景

TiSe 2 は チタン (Ti) とセレン (Se) が結合した層状物質で グラフェンと類似した六角形の結晶構造を持っています ( 図 1) 近年 これらの層状物質を極限まで薄くした原子層超薄膜で グラフェンを超える新機能を発現させる取り組みが精力的に行われています 何層にも積層した 3 次元的なバルクの TiSe 2 は 電子と正孔がそれぞれ独立して運動する半金属であると理論的には理解されていますが 実験的には -70 付近で半導体から金属へ変化するという特異な性質を示す事が分かっています 一方で 原子層を1 枚だけ抜き出した TiSe 2 原子層超薄膜 ( 厚さ 0.65 ナノメートル ) がどのような特性を示すかは未解明なままでした グラファイトと同様な結晶構造を持つ TiSe 2 を原子層まで薄くすることで グラファイト ( 多層 ) からグラフェン ( 単層 ) への変化で見出されたような特異な性質 ( 例えば 超高速電子 ) が発現する事も期待されるため 高品質な TiSe 2 原子層超薄膜の作製と その性質の解明が期待されていました 研究の内容 今回 東北大学の研究グループは 分子線エピタキシー法注 2) を用いて グラフェン薄膜上に原子層レベルで精密に制御された高品質な単原子層 TiSe 2 超薄膜 ( 図 1) を作成することに成功し その電子状態を角度分解光電子分光注 3) ( 図 2) という手法を用いて精密に調べました その結果 TiSe 2 原子層超薄膜は室温では半金属ではなくバンドギャップ注 4) をもつ半導体で 薄膜中では電子と正孔がそれぞれ独立に運動している一方 低温では 電子と正孔が相互作用して励起子注 5) と呼ばれる強固な対 ( ペア ) を作り 結晶中で新しい電荷の秩序 ( 電荷密度波注 6) ) を形成して特異な金属状態を出現させていることを見出しました 今後の展望 本研究は ポストグラフェン物質として近年大きな注目を集めている TiSe 2 原子層超薄膜の作製と その特異な電子物性の起源となる電子状態を研究したものです その結果 TiSe 2 における特異物性は 電子と正孔が結合して励起子を形成することによって生じることを見出しました 今後 この単原子層 TiSe 2 に対して 電子および正孔の数を調節 制御する方法を確立し 半導体デバイス構築へ向けた材料設計を進めることが期待されます また一方で 励起子によって出現した電荷密度波を利用したメモリーデバイスなどへの応用展開も急速に進むものと考えられます なお 本成果は 科研費基盤研究 (A) スピン ARPES による機能性薄膜ハイブリッドの創出 ( 研究代表者 : 高橋隆 ) 新学術領域 原子層科学 ( 領域代表者 : 齋藤理一郎 ) および トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア ( 領域代表者 : 川上則雄 ) 学際研究重点プログラム 原子層超薄膜における革新的電子機能物性の創発 ( 研究代表者 : 高橋隆 ) などの援助によって得られました 用語解説 注 1) 正孔

結晶内の電子が欠損することによって 電子の抜けた 孔 があたかも正の電荷をもつ ように振舞う粒子のこと ホール ( 孔 ) とも呼ばれる p 型半導体では この正孔がキャリ アとして電気伝導を担います 注 2) 分子線エピタキシー法高品質な単結晶薄膜を作成することができる手法のひとつ 超高真空槽内に設置したいくつかの蒸着源 ( 材料 ) を加熱等により蒸発させ 対向した単結晶基板上に堆積させることで 原子レベルで制御された高品質単結晶薄膜が作製できます 注 3) 角度分解光電子分光結晶に紫外線や X 線を照射すると物質の表面から電子が放出されます 放出された電子は光電子と呼ばれ その光電子のエネルギーや運動量 ( 角度 ) を測定すると その電子が元々いた物質中の電子の状態 つまり物質の電子状態が分かります 注 4) バンドギャップ半導体中で 電子が占有する最高のエネルギー準位と 電子が非占有となる最低のエネルギー準位の間のエネルギー差のことです 半導体を電子デバイスとして利用する際の重要なパラメータです 注 5) 励起子 電子と正孔が電気的相互作用によってペア ( 対 ) を作ることで形成される複合粒子のこと です 物質の光学的性質に重要な役目を担います 注 6) 電荷密度波電子がもつ電荷が 結晶の周期性とは異なる周期性を持って規則的に分布する現象です 半導体や金属 超伝導など種々の特異物性の発現に重要な役目をはたすことが知られており 特に低次元性を有する物質に多く見られる現象です 参考図 図 1: 単原子層 TiSe 2 の結晶構造.

図 2: 角度分解光電子分光の概念図 物質に高輝度紫外線を照射し, 放出された光電子のエネルギーと運動量を精密に測定することで 物質の電子状態を決定できる 図 3: TiSe 2 原子層超薄膜中における電子と正孔の振る舞い ( 左図 ) 室温では電子と正孔が独立に運動し 薄膜は半導体となる ( 右図 ) 低温では 電子と正孔は電気的相互作用により励起子を形成し 薄膜に特殊な金属状態を発現させる 論文情報 Katsuaki Sugawara, Yuki Nakata, Ryota Shimizu, Patrick Han, Taro Hitosugi, Takafumi Sato, and Takashi Takahashi, Unconventional Charge-Density-Wave Transition in Monolayer 1T-TiSe 2, ACS Nano (2015), DOI: 10.1021/acsnano.5b06727. 発表雑誌 ACS Nano オンライン速報版 2015 年 12 月 1 日公開 ( 米国東部時間 )

問い合わせ先 < 研究に関すること> 菅原克明 ( すがわらかつあき ) 東北大学原子分子材料科学高等研究機構助教 Tel:022-217-6169 E-mail:k.sugawara@arpes.phys.tohoku.ac.jp < 報道に関すること> 清水修 ( しみずおさむ ) 東北大学原子分子材料科学高等研究機構広報 アウトリーチオフィス Tel:022-217-6146 E-mail:aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp