パーキンソン病進行抑制療法の候補分子絞り込みに成功

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】


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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

平成14年度研究報告

プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

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本日の内容 HbA1c 測定方法別原理と特徴 HPLC 法 免疫法 酵素法 原理差による測定値の乖離要因

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

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イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

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神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

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記 者 発 表(予 定)

生物時計の安定性の秘密を解明

臨床神経学雑誌第48巻第1号

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

核内受容体遺伝子の分子生物学

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

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100-8150 東京都千代田区丸の内 1-6-5( 丸の内北 ビルディング ) Tel:03-5657-1017 Fax:03-5657-1020 www.ushio.co.jp 2019 年 5 月 8 日東北大学株式会社プロトセラ 東北大学と大学とプロトセラプロトセラ パーキンソン病パーキンソン病進行抑制療法の進行抑制療法の候補候補分子分子絞り込みに成功 5 分子を特許出願 東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野の長谷川隆文 ( はせがわたかふみ ) 准教授とウシオ電機株式会社 ( 本社 : 東京都 執行役員社長内藤宏治 ) の連結子会社である株式会社プロトセラ ( 本社 : 大阪府 代表取締役社長田中憲次 以下プロトセラ ) は 共同でパーキンソン病進行抑制療法の候補分子探索を実施し その成果を 2019 年 4 月 9 日付で特許出願しました 哺乳動物の脳組織に存在する新規の線維化 α-syn 1 受容体候補タンパク質が同定されたことにより 線維化 α-syn 細胞間伝播メカニズムの一端が明らかにされるとともに 線維化 α-syn 取り込みをターゲットとした伝播阻害薬の開発が期待されます 発明の名称 パーキンソン病をはじめとするレビー小体病を対象とした進行抑制療法の候補分子スクリーニング ポイント プロトセラの特許技術を用いて マウス全脳に由来するパーキンソン病の病態分子 ( 線維化 α-syn) と結合する膜タンパク質 ( 線維化 α-syn 受容体候補分子 ) の網羅的探索を行った 線維化 α-syn 受容体として複数の候補分子を同定することに成功した 線維化 α-syn 受容体候補となる膜タンパク質情報を基に 新たな医薬品開発を目指す なお 本研究成果は 2019 年 5 月 25 日に第 60 回日本神経学会学術大会 ( 会場 : 大阪府立国際会議場 ( グランキューブ大阪 ) リーガロイヤルホテル大阪 ) で発表予定です 発表演題 Pe-068 068-2 Comprehensive screening of the cell surface receptor for alpha-synuclein fibrils

研究内容 パーキンソン病 (Parkinson s disease: PD) をはじめとするレビー小体病 (Lewy body disease: LBD) は アルツハイマー病に次いで頻度の高い神経変性疾患 (PD/LBD) です 体の動きに障害が現れる疾患で 1 動作が遅くなる 2 手足が震える 3 筋肉が固くなる 4 バランスが取れなくなる といった病態を示します 病理学的には 構造変化により病的な線維化を生じた α- シヌクレイン (α-synuclein: α-syn) というタンパク質を主成分とするレビー小体 (Lewy body: LB) の出現と 運動を調節する神経細胞 ( 中脳黒質 青斑核のカテコラミン産生神経細胞 ) の減少を特徴とします PD/LBD 患者の脳では 線維化 α-syn が神経細胞間を伝播することで病変が拡大する可能性が指摘されています さらに 神経細胞への線維化 α-syn 取り込みには 細胞表面にある膜タンパク質 (α-syn 受容体 ) が関与する事が示唆されています 今回 プロトセラの特許技術であるMembrane Protein Library 2 (MPL) 法とBLOTCHIP -MS 法 3 の組み合わせ技術によって 世界に先駆けて脳組織からの線維化 α-syn 受容体の網羅的探索を実施し 複数の候補分子を同定することに成功しました 今後は 線維化 α-syn 受容体候補となる膜タンパク質情報を基に 新たな医薬品開発を目指します 発表者コメント 神経 グリア細胞表面に発現し線維化 α-syn 受容体として機能する分子が近年複数報告されています 一方 線維化 α-syn は生体膜そのものと非特異的に結合しやすく 全脳を対象とした線維化 α-syn 受容体の網羅的探索は未だ実現出来ていませんでした この問題を克服するためには既存の方法には限界があり 視点を変えたアプローチが必要となります 我々は マウス全脳由来の膜タンパク質を人工脂質二重膜へ再配置することでライブラリ化した後 線維化 α-syn をリガンドとして結合分子をスクリーニングし LC-MS/MS 法による構造解析により受容体候補タンパク質を網羅的に探索するという研究手法を用い 新規の線維化 α-syn 受容体候補タンパク質を複数同定することに成功しました 今後 線維化 α-syn 受容体候補分子に対する特異抗体や結合阻害分子を用いることで 選択的かつ効率的に線維化 α-syn 取込み 伝播を抑制する PD/LBD 進行抑制療法の開発を目指したいと考えています 東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野准教授長谷川隆文 神経変性疾患 (neurodegenerative disease) は それぞれ特有の領域の神経系統が侵され 神経細胞を中心とする様々な退行性変化を呈する疾患群です アルツハイマー病 パーキンソン病 筋萎縮性側索硬化症 脊髄小脳変性症などがこの疾患群に属します 今回確立された技術によってパーキンソン病治療薬の標的候補の発見に至りましたが この技術が他の神経変性疾患の治療標的の探索にも有用であることは明らかです 認知症は 2050 年には世界で 1 億 3000 万人を上回ると予測され 世界の製薬大手企業が競って治療薬の開発を進めましたが 相次いで失敗しています 当社としてもこの薬の開発を非常に重視しており 今後最善のパートナーを募って開発を目指します プロトセラ代表取締役社長田中憲次

研究の方法方法 マウス脳組織を破砕後 遠心分離で膜タンパク質を回収し 卵黄レシチンからなるリポソームと融合させて膜タンパク質ライブラリ (Membrane Protein Library :MPL) を調製しました リガンドとなる単量体および線維化 α-syn を別々のセファロースに固定し マウス脳組織由来 MPL の中から各 α-syn に結合する膜タンパク質を精製しました 精製物を SDS ポリアクリルアミドゲル電気泳動後 標的バンドを切り出し トリプシン消化に続いて LC-MS/MS 法による構造解析の結果 単量体 α-syn に比較して線維化 α-syn により強く特異吸着する複数の膜タンパク質が同定されました 用語解説 1 線維化 α-syn 神経細胞に豊富に存在する 140 アミノ酸からなる機能不明のタンパク質です 天然状態の α シヌクレインは特定の構造をもたない可溶性タンパク質ですが 種々のストレスや遺伝子変異により構造変化を来たし 凝集し不溶性のタンパク質 ( 線維化 α シヌクレイン ) となります パーキンソン病患者の脳神経 末梢神経細胞内には 線維化 α シヌクレインが多量に蓄積しており 発見者の名にちなんでレビー小体とよばれます 線維化 α シヌクレインには細胞毒性があり パーキンソン病の発症 病態進行において主要な役割を演じていることが判っています 2 Membrane Protein Library (MPL MPL) 法 細胞膜に存在する受容体は水に溶けないため 従来のタンパク質の精製 同定 性状分析といった解析技術が有効に働きませんでした プロトセラは受容体をその構造特性に関わらず人工リポソームのリン脂質二重層に再構成し リガンド結合能を保持したままで膜タンパク質ライブラリ (Membrane Protein Library ; MPL) と呼ばれるエマルジョン溶液に転換する技術を確立し 培養細胞から組織や臓器に存在するあらゆる受容体を大量かつ安定的に供給できるようになりました ( 図 1) この MPL 法に BLOTCHIP -MS 法を組み合わせた複合技術により 未知のリガンドと未知の受容体を包括的に探索 同定 さらに両者間の相互作用を解析することが可能になりました

3 BLOTCHIP -MS 法 従来の血液からあらかじめタンパク質を除去する解析方法では タンパク質に結合したペプチドも除去されるため ペプチドの全量を正確に測定することができませんでした 一切の前処理を必要としない BLOTCHIP -MS 法によって初めて生体試料中のペプチドの全量を定量できるようになりました また BLOTCHIP -MS 法は解析中の煩雑で長時間かかる操作を不要にした結果 多量の試料を短時間で測定できるようになり 従来のペプチドーム解析技術のボトルネックが解消されました ( 図 2) 東北大学大学院医学系研究科大学院医学系研究科神経 感覚器病態学講座神経内科学分野 ( 宮城県仙台市 ) 高齢化社会において パーキンソン病などに代表される神経難病への懸念は近年増大の一途を辿っています 一昔前まで 神経内科疾患の多くは原因不明であり 病気のメカニズムもきわめて難解で 攻略の糸口を見出しがたいものでした しかし 近年の分子遺伝学 細胞生物学 脳機能画像などの研究進歩により事態は一変し 多くの神経難病の病態が今まさに分子レベルで解明されつつあり 原因療法の開発や早期診断が現実のものとなってきています 当研究室では患者由来 ips 細胞を含めた細胞 動物モデルを駆使した病態研究 新規治療法探索や 疾患バイオマーカーや分子イメージングなどの臨床研究を精力的に進めています http://www.neurol.med.tohoku.ac.jp 株式会社プロトセラ ( 本社 : 大阪府 ) ウシオ電機株式会社の連結子会社 独自開発の BLOTCHIP -MS 法で探索された新規ペプチドバイオマーカーを ProtoKey 疾患リスク検査キット として提供し 疾患の予防と早期発見に貢献します また膜タンパク質ライブラリ (Membrane Protein Library :MPL) 法と BLOTCHIP -MS 法を組合わせたペプチドリガンド / 受容体結合解析法で探索された新規ペプチドリガンドと新規受容体を 受容体関連医薬品 として提供し 安全性と効力の双方に優れる治療に貢献します http://www.protosera.co.jp/ ウシオ電機株式会社 ( 本社 : 東京都 東証 6925)

1964 年設立 紫外から可視 赤外域にわたるランプやレーザー LED などの各種光源および それらを組み込んだ光学 映像装置を製造販売しています 半導体 フラットパネルディスプレー 電子部品製造などのエレクトロニクス分野や デジタルプロジェクターや照明などのビジュアルイメージング分野で高シェア製品を数多く有しており 近年は医療や環境などのライフサイエンス分野にも事業展開しています https://www.ushio.co.jp 本件に関するご質問に関しましてご質問に関しましては 下記までお問い合わせください 研究 技術に関すること 東北大学大学院医学系研究科神経 感覚器病態学講座神経内科学分野准教授 副科長長谷川隆文 ( はせがわたかふみ ) TEL.022-717-7189/FAX.022-717-7192/E メール.thasegawa@med.tohoku.ac.jp 株式会社プロトセラ膜タンパク質 & リガンド解析センター代表取締役社長田中憲次 ( たなかけんじ ) TEL. 06-6415-9620/FAX.06-6415-9621/E メール.info@protosera.co.jp ライセンスアウトに関すること 株式会社プロトセラ膜タンパク質 & リガンド解析センター代表取締役社長田中憲次 ( たなかけんじ ) TEL. 06-6415-9620/FAX.06-6415-9621/E メール.info@protosera.co.jp リリースに関すること ウシオ電機株式会社コーポレートコミュニケーション課 TEL.03-5657-1017/FAX.03-5657-1020/E メール.contact@ushio.co.jp 取材に関すること 東北大学大学院医学系研究科 医学部広報室 TEL.022-717-7891/FAX.022-717-8187/E メール.pr-office@med.tohoku.ac.jp 以 上