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洋上クレーン動揺解消装置 * 廣瀬峰夫 1. はじめに洋上でクレーンを使用する作業 たとえば洋上風車や海底石油 ガス生産設備の建設 メンテナンス 港湾建設や沖合空港建設等においては クレーン船は 常に波浪により動揺するため クレーン作業は危険で重大事故が起きやすい環境下にある また波浪が大きいときには作業ができないため 稼働率は小さく せいぜい 15% 程度と言われている このため 気象 海象条件の厳しい海域でのクレーン作業は 自己昇降式作業台 (SEP= Self-Elevating Platform) を使用することが多かった SEP は 作業台を昇降させる数本の Leg を海底に着底させ その後作業台を波浪の影響の受けない高さまで海面から上昇させ 甲板上に搭載されたクレーンにより安定したクレーン作業を行う作業船である SEP 使用の問題点は 船価が高い故にチャーターレートが高いこと 外洋での工事に対応できる高性能 SEP が日本では現時点では存在しないこと また Leg の長さにより作業可能な水深が限られ 水深が 50m 以上の海域では利用が困難であることである 本稿で紹介する洋上クレーン動揺解消装置 Barge Master は クレーンの作業台が船体の動揺と相殺され常に水平にキープされるよう油圧システムにより制御されるため 船体は揺れてもクレーンは揺れない状態を保つことができ それ故 SEP を使用することなしに 従来形のバージや船舶のような浮体による洋上クレーン作業を可能とする画期的な技術である また BM-T700( 後述 ) を使用することにより有義波高 2~2.5m での稼働が可能となり 洋上工事の稼働率が 80~90% に向上する 稼 * トリオマリンテック代表取締役 働率向上により工事期間の短縮が可能となり 工事費用の削減にも寄与することができる 2.Barge Master とは Barge Master 社は 2008 年に設立されたオランダのベンチャー企業で Barge Master という商品名は 洋上作業の動揺解消システムのことをいう 船舶は 6 つの自由度 (Heave Surge Sway Roll Pitch Yaw) を持つが Barge Master 社は そのうち Surge Sway Yaw を従来の係留方法または DPS( Dynamic Positioning System) で固定し 残りの 3 つの自由度 (Roll Pitch Heave) を油圧システムにより相殺することにより常に作業台を水平な状態を保つようなシステムを考案した 油圧システムの制御の Leading Company である Bosch Rexroth と世界有数の海洋研究組織である Marin Maritime Research の協力のもと 試作機の開発 水槽実験 実機の開発 洋上での実機試験を 2008 年 ~2012 年にかけて実施し BM-T700 と呼ばれる動荷重 700 トンの作業台を開発し実用化させてきた また この技術の応用として BM-T40 と呼ばれる動揺解消ナックルクレーンシステム Motion Compensated Helideck (BM-MCH) と呼ばれる 洋上での安全なヘリコプタの離着陸を可能とするヘリデッキ Motion Compensated Pile Gripper (BM-MCPG) と呼ばれる浮体に取り付け可能な Pile 打ち込み用の Gripper Motion Compensated Gangway (BM-MCG) と呼ばれる 動揺している浮体から洋上固定設備への安全な人員の移乗を可能とするアクセス通路を次々と開発してきた

3. 製品仕様とその原理 3.1 BM-T700 (1) 概要 BM-T700 は 船体の動揺を相殺し常に水平に保つ作業台である 写真 1 はバージ上に BM-T700 を据付け その上にクレーンを搭載し 洋上での建設 据付作業に使用する使用方法を示したものである 写真 2 は BM-T700 の上に貨物を搭載して SEP (Self Elevated Platform) 等の洋上の固定クレーンを使用して貨物の積み下ろしを行う使用方法を示したものである BM-T700 は 40 コンテナ 10 本 20 コンテナ 3 本に格納 現地に輸送され 組立 試運転調整される 組立 試運転は通常 10 日程度かかる 洋上での建設 据付作業は 洋上作業に特化したクレーンが使用されるが BM-T700 の最大のメリットはクレーンの動揺を解消できるため陸上の汎用クレーンを搭載することが可能だということである 陸上クレーンを搭載する場合は洋上での過酷な使用条件を勘案し 定格能力の 75% くらいが目安となる (2) 作動原理 BM-T700 は図 1 のように三角形の形状をしている 三角形の頂点にはそれぞれ油圧シリンダが設置される BM-T700 が搭載される浮体は 浮体の動揺モードのうち Surge Sway Yaw を従来の係留方法で固定し 残りの 3 つの自由度 (Roll Pitch Heave) を MRU(Motion Reference Unit) で計測し 油圧シリンダのストローク調整により相殺し Barge Master を常に水平な状態を保つ 写真 1 BM-T700 クレーン作業台としての利用 図 1 BM T-700 の形状と動揺解消制御モード 写真 2 BM-T700 貨物台としての利用 図 2 は 油圧シリンダの動きを示す概略図である 油圧シリンダは 3 室に分かれている 主に静荷重を受け持つため高圧の窒素がシリンダ室 1 に注入される 圧力は静荷重に応じて最適化される ( 図 2 上段 ) MRU からの信号に基づき油圧制御システムは 油圧ポンプからの作動油の流れを油圧シリンダの室 2 に ( 図 2 中段 ) あるいはシリンダ室 3 に ( 図 2 下段 ) に入れる 図 2 中段の場合は 荷重は Passive Force Active Force となり 図 2 下段の場合は Passive Force + Active Force となる

図 3 BM-T1400 (2 台組み合わせ ) 図 2 油圧シリンダ作動概要 (3) 概略仕様 外気温度条件 :-10 ~45 作業条件 : 有義波高 2~2.5m 波周期は 4~18 秒 許容動荷重 :700 トン シリンダストローク :2.5m シリンダ間距離 :13.8m 自重 :270 トン 油圧ユニット :63 トン クレーンの吊荷重 : 搭載するクレーンにより異なるが おおよそリーチ 15m で約 110 トン リーチ 15m で約 85 トン (4) 複数台の BM-T700 の組み合わせ動荷重 700 トンの T700 を 2 台組組み合わせて 1400 トン 3 台組み合わせて 2100 トンの動荷重を持つより大きな作業台を構築することが可能である 7MW クラスの風車の一体据え付けでは 1000 トン以上の重量の Component をハンドリングする必要があるが この組み合わせ技術を使用するとこれが可能になる ( 図 3 及び図 4 参照 ) 図 4 BM-T2100 (3 台の組み合わせ ) (5) Skidding System( 洋上風車据付への応用 ) 大規模な洋上風力発電事業では 一つの海域に数十基の洋上風車を据付ける Barge Master は 安全かつ効率のよい洋上風車の据え付け方法として SEP とバージ上の BM-700 Skidding System の組み合わせを提案している 図 5 及び図 6 に示すようにバージ上に BM-T700 と Skidding System を設置し その上に洋上風車のコンポーネント ( タワー ナセル 羽根等 ) を複数基設置する案である 据付用の大形クレーンは SEP 上にあるものとし クレーンで一つのコンポーネントを吊上げ 所定の場所に据付けたら 次のコンポーネントを BM-T700 上まで Skidding させる 写真 2 で説明した貨物台としての利用方法の応用である 3.2 BM-T40 (1) 概要 BM-T40 は Offshore 業界 ( 海底石油 ガス開発業界 ) に従事する作業船に搭載して洋上で風車やプラットフォーム等の構造物のメンテナンスに威力を発揮する クレーンは

Offshore Knuckle Boom Crane で洋上での厳しい環境に適し 吊上げ半径 高さとも十分な能力を有する またこのクレーンは人間を乗降させる認証 ( ロイド船級協会 ) があるのでゴンドラを使って作業員をこのクレーンで洋上の構造物に移乗させることも可能である 従って メンテナンスに必要な交換部品の揚貨とメンテナンス要員の移乗の両方をこのクレーン 1 台で安全に実施することができる ( 図 7 参照 ) 写真 3 は Shell の Offshore 設備のメンテナンスに投入されている世界初の W2W 船で BM-T40 が搭載されている W2W 船とは Walk to Work 船の意味で 動揺解消機能が付いた Gangway を有し 船から洋上構造物に直接歩いてアクセスすることができる船の名称である 図 7 BM-T40 概観図 写真 3 BM-T40 が搭載された世界初の W2W 船 図 5 Skidding System イメージ (2) 作動原理クレーンぺデスタルは 2 重構造になっている Rolling Pitching による動揺の相殺は外側のペデスタルについている 2 本の油圧シリンダで Heaving による動揺の相殺は内側のペデスタルについている油圧シリンダで行われる 図 8 に示されるように T-40 も T-700 と同 図 6 SEP と Skidding System の組み合わせ 図 8 BM-T40 の形状と動揺解消モード

様 Rolling Pitching Heaving の 3 自由度の動揺解消しかしないよう設計されているので T-40 が搭載される船舶には DPS (Dynamic Positioning System) が装備され Surge Sway Yaw が固定されていることを前提としている油圧シリンダの Passive Force Active Force の考え方は T700 と同様である (3) 概略仕様標準として Knuckle Boom Crane はオランダの Lagendijk 社の Offshore Crane LKB340T3-T1 を使用しているが クレーンは変更可能である 下記は 標準のクレーンを使用した場合の仕様である 外気温度条件 : -BM-T40 及びクレーン :-10 ~45 -Deck 下スペースに設置の電気盤 :0~ 35 -Deck 下スペースに設置の HPU:0~ 45 作業条件 : 有義波高 3m 波周期は 4.5 ~18.5 秒 シリンダストローク :2.5m フットプリント :4.8m 3.7m 自重 -BM-T40:85 トン - クレーン :35 トン - 油圧ユニット :23 トン (Deck 下に設置 ) - アキュムレータ :7 トン (Deck 下に設置 ) クレーンの吊荷重 : おおよそリーチ 10m で約 15 トン リーチ 20m で約 5 トン 3.3 BM-MCH ( Motion Compensated Helideck) BM-MCT は 船体が動揺してもヘリデッキを定位置を保つことができる動揺解消装置である 基本形はヘリコプタの離着陸にリスクの大きい Heaving Rolling Sway の 3 つの自由度の動揺を解消し その他の自由度 (Pitching Surging Yawing) は固定している 勿論 特別な要望があればその他のモードの動揺も解消することも可能である Offshore 業界では 3~4 週間で人員が交代する 交代する人員はヘリコプタでピストン輸送されることが多く Offshore 関連の作業船は必ずヘリデッキを有している 洋上での ヘリコプタ事故は 離着陸時に最も多くリスクが高い 従い 悪天候により船舶の Rolling Heaving 等が大きい場合は ヘリコプタの離着陸を禁止している BM-MCH は 悪天候でも安全にヘリコプタの離着陸を可能とするヘリデッキである ヘリデッキはアルミ製で Offshore 業界に実績のあるオランダの Bayard 社との共同開発品である ( 図 9 参照 ) 図 9 BM-MCH 概観図 3.4 BM-MCPG (Motion Compensated Pile Gripper) 着底式洋上風車のパイルやコラムの打ち込みは 従来 SEP よる打ち込みしか方法がなかった BM-MCPG は 図 10 のように通常のバージ ( 船舶 ) に設置できるパイルグリッパ 図 10 BM-MCPG 概観図

で Surging Sway Heave(option) の動揺解消を行い パイル打ち込み時のパイルの垂直性を保つ動揺解消装置である 標準仕様は次のとおりである パイル径 ( 最大 ):8m パイル重量 ( 最大 ):1200 トン 据付精度 :±0.2 有義波高 :2m 有義波高周期 :4~18 秒 MCPG 重量 :150~200 トン 油圧ポンプユニット重量 :34 トン BM-MCPG は オランダの TWD 社との共同開発品である 3.5 BM-MCG (Motion Compensated Gangway) BM-MCG は 波浪により動揺している船舶と洋上の構造物間の人間の乗り移りを安全にかつ効率的に行うことができる Gangway ( アクセス用の通路 ) である 船の動揺につれて Gangway 先端は動いてしまうが BM-MCG は Gangway の傾き 旋回 伸縮を船の動揺に相殺する形で制御するため Gangway 先端が洋上構造物に過大な外力を与えることなしに常に接触を維持する これにより安全な人間の移乗が可能になった 更にこの MCG は 1 トンまでのクレーン機能も付加されている ( 図 11 参照 ) 図 11 BM-MCPG 概観図 標準仕様は次のとおりである Gangway 長さ :19±4m 傾斜角度 :-18 ~+18 ( 人間の移乗時 ) -23 ~+35 (Crane として使用 ) 風速 ( 最大 ):24m/s 有義波高 : 3m フットプリント :1.5mφ 重量 :22 トン 吊荷重 :1 トン (Crane として使用した場合 ) 本稿 3.2 で紹介した BM-T40 のぺデスタルと BM-MCG の組み合わせにより さらに厳しい海象条件 ( 有義波高 4.5m) での人間の移乗も可能である 4. 冗長性 追従性 大波への対処 Barge Master は 厳しい安全性が要求される Offshore 業界用途に設計されているため MRU(Motion Reference Unit) や油圧ユニット等の重要機器に対して複数のバックアップが用意され 万一の故障 突発事故にても運転が継続できるよう冗長性をもっている また MRU にて浮体の特定のポイントの加速度 速度を計測し 瞬時に作業台を水平に保つための各油圧シリンダの変位 ( ストローク量 ) を計算し 油圧システムに指令をだす 油圧システムは 追従性に優れており波浪の変動に後れをとることはない 運転中 Barge Master の油圧シリンダストロークで吸収しきれないような大きな波浪がきた場合 BM-T700 及び T40 は Roll Pitch による動揺解消を第一優先とし Heave に若干の変動を許容する安全設計思想を採用している 5. おわりに海洋工事に係るものであれば 浮体の動揺解消は夢の領域であった Barge Master 社は この夢を実現するため 波浪による浮体の動揺量を計測し それと相殺する形で各油圧シリンダの変位 ( ストローク量 ) を瞬時に計算し 指令をだす油圧システムを構築した これが実現できたのは 反応性の高い油圧システムとその制御にあったといっても過言ではない Barge Master 社が開発した一連の動揺解消装置は すでに欧州の客先より評価され 次々と採用されてきている 日本では Offshore 産業界が未発達であるため この分野での Barge Master の応用が期待できないが 今後大いに発展すると思われる洋上風車の建設 メンテナンスでの利用の可能性は高い Barge Master 採用により海洋工事の安全性 効率性の向上に寄与できることを切に願っている