解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

解禁日時 :2018 年 8 月 24 日 ( 金 ) 午前 0 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2018 年 8 月 17 日国立大学法人東京医科歯科大学学校法人日本医科大学国立研究開発法人産業技術総合研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 軟骨遺伝子疾患

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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学位論文の要約

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

Microsoft Word CREST中山(確定版)

平成14年度研究報告

スライド 1

革新的がん治療薬の実用化を目指した非臨床研究 ( 厚生労働科学研究 ) に採択 大学院医歯学総合研究科遺伝子治療 再生医学分野の小戝健一郎教授の 難治癌を標的治療できる完全オリジナルのウイルス遺伝子医薬の実用化のための前臨床研究 が 平成 24 年度の厚生労働科学研究費補助金 ( 難病 がん等の疾患

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

2. ポイント EGFR 陽性肺腺癌の患者さんにおいて EGFR 阻害剤治療中に T790M 耐性変異による増悪がみられた際にはオシメルチニブ ( タグリッソ ) を使用することが推奨されており 今後も多くの患者さんがオシメルチニブによる治療を受けることが想定されます オシメルチニブによる治療中に約

これまで, 北海道大学動物医療センターの高木哲准教授, 同大学院獣医学研究院の今内覚准教授及び賀川由美子客員教授らは, イヌの難治性の腫瘍においても PD-L1 が頻繁に発現していることを報告してきました そこで, イヌの腫瘍治療に応用できる免疫チェックポイント阻害薬としてラット -イヌキメラ抗 P

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

汎発性膿庖性乾癬の解明

平成 28 年 2 月 1 日 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦至 ( なつめあつし ) 准教授 及び東北大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 下瀬川徹

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

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細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. 発表者 : 山田泰広 ( 東京大学医科学研究所システム疾患モテ ル研究センター先進病態モテ ル研究分野教授 ) 河村真吾 ( 研究当時 : 京都大学 ips 細胞研究所 / 岐阜大学

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

第6号-2/8)最前線(大矢)

長期/島本1

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

研究成果報告書

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

論文の内容の要旨

報道関係各位 日本人の肺腺がん約 300 例の全エクソン解析から 間質性肺炎を合併した肺腺がんに特徴的な遺伝子変異を発見 新たな発がんメカニズムの解明やバイオマーカーとしての応用に期待 2018 年 8 月 21 日国立研究開発法人国立がん研究センター国立大学法人東京医科歯科大学学校法人関西医科大学

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

博士の学位論文審査結果の要旨

PowerPoint プレゼンテーション

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4氏 すずき 名鈴木理恵 り 学位の種類博士 ( 医学 ) 学位授与年月日平成 24 年 3 月 27 日学位授与の条件学位規則第 4 条第 1 項研究科専攻東北大学大学院医学系研究科 ( 博士課程 ) 医科学専攻 学位論文題目 esterase 染色および myxovirus A 免疫組織化学染色

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

の基軸となるのは 4 種の eif2αキナーゼ (HRI, PKR, または ) の活性化, eif2αのリン酸化及び転写因子 の発現誘導である ( 図 1). によってアミノ酸代謝やタンパク質の折りたたみ, レドックス代謝等に関わるストレス関連遺伝子の転写が促進され, それらの働きによって細胞はス

「肥満に伴う脂肪組織の線維化を招く鍵分子を発見」【菅波孝祥 特任教授】

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

平成18年3月17日

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Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

平成 25 年 10 月 7 日 (3303: 上皮管腔組織形成 ) 菊池章殿 生物系委員会主査 平成 25 年度科学研究費補助金 新学術領域研究 ( 研究領域提案型 ) の 中間評価結果について 平成 25 年 9 月 5 日に実施した生物系委員会における中間評価の結果 あなたを領域代表者とする研

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( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

Mincle は死細胞由来の内因性リガンドを認識し 炎症応答を誘導することが報告されているが 非感染性炎症における Mincle の意義は全く不明である 最近 肥満の脂肪組織で生じる線維化により 脂肪組織の脂肪蓄積量が制限され 肝臓などの非脂肪組織に脂肪が沈着し ( 異所性脂肪蓄積 ) 全身のインス

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を進展させるしくみを解明 難治がんである悪性黒色腫の新規分子標的治療法の開発に期待 ポイント 難治がんの一つである悪性黒色腫 ( メラノーマ ) の治療法の開発のためには新規がんマーカーの同定ならびに がんの進展のメカニズムの解明が急務ですが 悪性黒色腫において特異的に発現し その進展に寄与する細胞表面抗原については同定されていませんでした 本研究により 悪性黒色腫の一部の患者の腫瘍組織において 正常組織においては精巣にしか発現していないインターロイキン 13 受容体 α2(il13rα2) が発現しており IL13Rα2 ががん細胞の増殖に必要な新たな血管の形成を誘導することで 腫瘍形成を進展させることが明らかにされました これにより IL13Rα2 の作用を阻害することで悪性黒色腫の進展を抑制できる可能性が開けました 悪性黒色腫進展のさらなる病態解明と 新たな分子標的治療開発への応用が期待できます 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科硬組織病態生化学分野 ( 元東京薬科大学生命科学部腫瘍医科学研究室 ) の渡部徹郎教授と吉松康裕講師らの研究グループは 東京大学大学院医学系研究科人体病理学 病理診断学分野の深山正久教授 先進循環器病学寄付講座の藤生克仁特任准教授 分子予防医学分野の石川俊平教授 ( 元東京医科歯科大学 ゲノム病理学分野 ) との共同研究で 希少がん 難治がんである悪性黒色腫の患者の一部において高発現するインターロイキン 13 受容体 α2(il13rα2) が がん細胞の増殖に必要な新たな血管の形成を誘導することで 腫瘍形成を進展させることを明らかにしました この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 次世代がん医療創生研究事業 (P-CREATE) 口腔がんの悪性化機構の解明とそのメカニズムに基づく新規治療標的探索研究 ( 研究開発代表者 : 渡部徹郎 ) 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) の戦略的創造研究推進事業 ( さきがけ ) 生体における動的恒常性維持 変容機構の解明と制御 ( 研究代表者 : 渡部徹郎 ) 文部科学省科学研究費補助金 上原記念生命科学財団等の支援のもとで行なわれたもので その研究成果は 国際科学誌 Scientific Reports に 2019 年 2 月 1

4 日午前 10 時 ( 英国時間 ) にオンライン版で発表されます 研究の背景 悪性黒色腫 ( メラノーマ ) は 皮膚がんの一種であり メラニン色素を産生するメラノサイトや母斑細胞 ( ほくろの細胞 ) ががん化したものだと考えられています 悪性黒色腫は悪性度が非常に高く 早期から浸潤 転移が認められる難治がんの一つです 治療においては がん細胞の増殖性を標的とした抗がん剤を用いた化学療法などが主流ですが 副作用を伴う抗がん剤が多いことが問題となっています 悪性黒色種においても分子標的治療薬の開発は進められており BRAF 遺伝子を標的としたベムラフェニブ (vemurafenib) などが用いられていますが 副作用も報告されており 新たな標的分子の同定ならびに がんの進展のメカニズムの解明が急務です しかし 悪性黒色腫において特異的に発現し その進展に寄与する細胞表面抗原についてはこれまで同定されていませんでした 研究成果の概要 研究グループは これまで悪性黒色腫の新規がん抗原を同定するために A375 悪性黒色腫細胞に対する特異抗体を探索し その抗原の一つとしてインターロイキン 13 受容体 α2(il13rα2) を同定しました さらに IL13Rα2 の悪性黒色腫患者における発現パターンを検討するために ティッシュマイクロアレイを用いて 100 例以上の病理標本を用いて免疫組織染色を行った結果 IL13Rα2 が一部 ( 約 10%) の患者の腫瘍組織において発現していることを見出しました ( 図 1) 正常組織において IL13Rα2 は精巣にしか発現しないことが確認されたため IL13Rα2 は悪性黒色腫においてがん細胞の細胞膜に発現する新規がんマーカーであることが明らかになりました S 図 1 悪性黒色腫における IL13Rα2 の発現悪性黒色腫組織を用いた IL13Rα2 に対する免疫染色 ( 茶色 : 赤矢印 ) IL13Rα2 の発現はがん細胞のみに限局し 間質 (S) においては検出されなかった 赤矢頭 : メラニン色素 スケールバー : 20 μm 次に研究グループは IL13Rα2 が悪性黒色腫の進展に果たす役割を検討するために IL13Rα2 を発現していない SK-MEL-28 悪性黒色腫細胞に IL13Rα2 を発現させて (IL13Rα2 発現細胞 ) 発現していない SK-MEL- 28 細胞をコントロール細胞として がん細胞の増殖ならびに腫瘍形成能を比較しました ( 図 2) その結果 培養細胞レベルでは IL13Rα2 発現細胞の増殖はコントロール細胞と比較して低かったのですが ( 図 2 左 ) 免疫不全マウスの皮下に移植して形成される腫瘍の大きさを比較したところ IL13Rα2 発現細胞は腫瘍形成能が高くなるという結果が得られました ( 図 2 右 ) また この作用は IL13Rα2 を発現する A375 悪性黒色腫細胞において IL13Rα2 遺伝子を欠損させても同様に観察されました 2

図 2 悪性黒色腫の進展における IL13Rα2 の役割 IL13Rα2 を発現していない SK-MEL-28 悪性黒色腫細胞 ( コントロール細胞 ) と IL13Rα2 を発現させた細胞 (IL13Rα2 発現細胞 ) を培養し細胞数を計測したところ IL13Rα2 発現細胞の増殖能は低いことが示されたが マウスに移植して腫瘍体積を測定したところ IL13Rα2 発現細胞の腫瘍形成能が高いことが明らかとなった この作用の違いは腫瘍組織におけるがん細胞以外の間質 ( 血管など ) に依存することが考えられた がん微小環境においては がん細胞以外に血管や線維芽細胞など 腫瘍形成を亢進する作用を持つ構成因子が存在します 特に血管はがん細胞の増殖に必要な酸素や栄養を供給することにより 腫瘍組織の増大に必須の役割を果たしていることから 研究者グループは IL13Rα2 の腫瘍形成能に対する作用が血管新生を介している可能性を検討するために 悪性黒色腫細胞由来の腫瘍組織における血管新生を血管内皮細胞マーカーである PECAM-1 に対する抗体を用いて計測しました その結果 IL13Rα2 発現細胞由来の腫瘍組織における血管の量はコントロール細胞由来の腫瘍と比較して上昇していることが示されました そこで 研究者グループは IL13Rα2 の発現により悪性黒色腫細胞において血管新生を誘導する因子を網羅的に探索し Amphiregulin という上皮細胞増殖因子 (EGF) ファミリーの因子の発現が IL13Rα2 により誘導することを見出しました さらに 悪性黒色腫細胞において Amphiregulin を発現させることで腫瘍形成能と血管新生能が上昇することを見出すことにより IL13Rα2 が悪性黒色腫細胞において血管新生因子である Amphiregulin の発現上昇を介して 血管新生を亢進させ 腫瘍形成が上昇することが示唆されました ( 図 3) 3

図 3 本研究のまとめ IL13Rα2 を発現していない悪性黒色腫細胞 ( 上 ) は増殖能は高いが 腫瘍形成能は低いのに対して IL13Rα2 を発現している細胞 ( 下 ) の増殖能は低いが Amphiregulin を発現しているため 血管新生を介して腫瘍形成能は高くなる 研究成果の意義 本研究により IL13Rα2 が悪性黒色腫の新規バイオマーカーとして有用であることが初めて明らかとなりました IL13Rα2 は正常組織においては男性の生殖臓器 ( 精巣 ) においてしか発現しておらず 他のがん種 ( 悪性神経膠腫や膵がんなど ) においても発現していることから 細胞のがん化とともに発現が上昇するがんマーカーであることが考えられます そこで研究者グループが本研究に先立って樹立した特異抗体などを用いた IL13Rα2 を標的とした新規分子標的治療の開発が期待されます また IL13Rα2 を発現した悪性黒色腫においては Amphiregulin などの血管新生因子の発現上昇を介して腫瘍形成が進展することが明らかとなったため IL13Rα2 の作用を阻害することで悪性黒色腫の進展を抑制できる可能性が開けました 論文情報 掲載誌 : Scientific Reports 論文タイトル : Interleukin-13 receptor α2 is a novel marker and potential therapeutic target for human melanoma 研究者プロフィール 渡部徹郎 ( ワタベテツロウ ) Watabe Tetsuro 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科硬組織病態生化学分野教授 研究領域がん生物学 血管生物学 生化学 吉松康裕 ( ヨシマツヤスヒロ ) Yoshimatsu Yasuhiro 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科硬組織病態生化学分野講師 研究領域血管生物学 生化学 がん生物学 問い合わせ先 < 研究に関すること> 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科硬組織病態生化学分野氏名渡部徹郎 ( ワタベテツロウ ) TEL:03-5803-5449 FAX:03-5803-0187 E-mail: t-watabe.bch@tmd.ac.jp 4

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