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甲状腺機能が亢進して体内に甲状腺ホルモンが増えた状態になります TSH レセプター抗体は胎盤を通過して胎児の甲状腺にも影響します 母体の TSH レセプター抗体の量が多いと胎児に甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性が高まります その場合 胎児の心拍数が上昇しひどい時には胎児が心不全となったり 胎児の成

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医療連携ノートとは 手術などの治療を行った病院とかかりつけ医が協力して ( 医療連携 ) 専門的医療と総合的な診療を適切に提供するために使用する患者さん用のノートです 安全で質の高い医療を切れ目なく提供するため 専門医が協力して新潟県共通のものを作成しました 医療連携ノートの内容 1 患者さんの病状


D961H は AstraZeneca R&D Mӧlndal( スウェーデン ) において開発された オメプラゾールの一方の光学異性体 (S- 体 ) のみを含有するプロトンポンプ阻害剤である ネキシウム (D961H の日本における販売名 ) 錠 20 mg 及び 40 mg は を対象として

1. 部位別登録数年次推移 表は 部位別に登録数の推移を示しました 2015 年の登録数は 1294 件であり 2014 年と比較して 96 件増加しました 部位別の登録数は 多い順に大腸 前立腺 胃 膀胱 肺となりました また 増加件数が多い順に 皮膚で 24 件の増加 次いで膀胱 23 件の増加

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

Transcription:

消化器疾患食道 穂の香看護専門学校

1 胃食道逆流症 (gastro-esophageal reflux disease;gerd) 欧米では以前から多くの胃食道逆流症患者がいることが知られており その有病率は 10~20% とされてきた 国内では 1990 年代には 16% と報告されており 増加傾向にある [ 疾病の概念 ] 胃内容物の食道への逆流によって不快な症状や合併症を起こしている状態を胃食道逆流症 (GERD) と呼んでいる [ 病態 ] 食道裂孔ヘルニア 加齢 過食などにより生じ 食道噴門部切除術 胃全摘術などの外科的治療後にも起こる 妊娠 肥満 便秘 運動 円背などによる腹腔内圧の上昇 高脂肪食 喫煙 ストレスなどの生活習慣などが要因となっている

[ 発症機序 ] 嚥下を伴わずに下部食道括約筋の弛緩が起こった場合 胃酸を中心とした胃内容物が食道に逆流し 胃食道逆流症の主な要因となる [ 症状 ] 胸やけと * 呑酸が特徴的な症状で 狭心症様の胸痛 咽頭の不快感 慢性の咳嗽 気管支喘息などを起こすことがある * 呑酸 : 逆流した胃内容物が口腔 下咽頭まで上がり 苦みを伴う酸っぱい味覚を感じる状態 [ 合併症 ] 食道粘膜傷害による逆流性食道炎が重要で 逆流性食道炎の繰り返しによって 下部食道の扁平上皮が化生円柱上皮に置き換わってくる これはバレット上皮と呼ばれ 食道腺癌の発生母地となる

[ 診断 ] 自覚症状を定量的に評価するために QUEST 問診票 F スケール問診票などを用いる 症状が食後 特に脂肪食摂取後に起こりやすい 逆流性食道炎の診断には内視鏡検査が必須であり 重症度の評価にはロサンゼルス分類を用いる [ 治療 ] 胃酸の抑制が主眼となる *PPI の full dose( 総量 ) 投与が第一選択の治療法となる * プロトポンプ阻害薬 (PPI 最も強力な胃酸分泌抑制薬 ) [ ナーシングチェックポイント ] 生活療法について指導を行う 腹圧の上昇を抑えるために肥満や便秘を解消 長時間にわたる前かがみの姿勢や食直後の臥位 前屈も避けるよう指導する 高脂肪食や難消化性炭水化物 ( 豆類など ) などを控え カフェインの摂取 飲酒 喫煙も逆流を増加させる

バレット (Barrett) 食道

2 食道癌 (esophageal carcinoma) [ 疾病の概念 ] 男女比は 5:1 と圧倒的に男性に多い 平均発症年齢は 65 歳であり 高齢になるほど頻度が高くなる傾向がある 本来の食道上皮である重層扁平上皮から発生したものが扁平上皮癌であり 95% 以上 腺癌はバレット上皮から発生する 胃癌と比べてリンパ節転移をきたしやすく 悪性度もより高い アルコール摂取 喫煙 刺激物の摂取 低栄養が危険因子として挙げられる 胸部中部食道に発生するものが最も多い

[ 診断 ] 1 臨床症状早期の癌ではほとんどが無症状 時に食道にしみる感じや違和感を訴えることがある 進行した癌では 嚥下困難やつかえ感などの食物の通過障害を訴え 体重減少もみられる 2 存在診断バリウムによる造影検査と内視鏡検査があるが 造影検査で早期の癌を発見することは困難であり 内視鏡検査が重要である 粘膜癌の場合には内視鏡を用いても病変の指摘が困難であり 特殊光である狭帯域光 (narrow band imaging;nbi) を用いた観察が粘膜癌の発見に有用である

3 深達度診断癌の食道壁への浸潤の程度 ( 深達度 ) がリンパ節転移の頻度と相関するため その診断は治療方針の決定や予後を推定する上で重要である 4 進行度分類深達度とリンパ転移 臓器転移の有無により 食道癌取り扱い規約に基づいて進行度 (stage) の分類を行う

[ 治療 ] 食道癌の治療法には 1 内視鏡的治療法 2 外科的根治的療法 3 放射線療法 4 化学療法 などがある

1 内視鏡的治療絶対的適応は深達度が M2 までの病変で 3cm 以下 食道径の 2/3 周以内の病変が適応 治療法として 従来は内視鏡的粘膜切除術 (endoscopic mucosal resection;emr) が主体 最近では内視鏡的粘膜下層剥離術 ( endoscopic submucosal dissection;esd) が第一選択

2 外科的根治的療法 最も頻度が高い胸部食道癌に対する定型的手術は 右開胸と開腹により食道切除と頸部 縦隔 上腹部の 3 領域のリンパ節郭清が行われるのが一般的である 再建臓器としては胃管が 再建経路としては胸骨後が最も多い 手術は大きな侵襲を伴い 肺炎 循環不全 縫合不全 反回神経麻痺など術後の合併症も少なくない

3 放射線療法主病巣を中心にリニアックで 60Gy( グレイ ) 程度の照射が行われる 全身状態があまり良くない症例にも施行可能である 4 化学療法シスプラチン + フルオロウラシルが標準的治療法 治療成績も向上し 外科切除に匹敵する成績も示されている すべての進行度の症例が対象となる

[ ナーシングチェックポイント ] 外科手術前の注意として 禁煙 口腔ケア 呼吸訓練などの指導が重要となる 術後は体位変換やタッピングによる喀痰排出の促進が 合併症の予防に極めて重要である 早期離床を進める 化学 射線療法中の注意として 抗癌薬による口内炎 嘔気 放射線による食道炎などの有害反応により摂食障害が生じ 栄養状態が悪くなるため 症状の緩和や食べやすい食事を工夫するなどのケアが大切である

3 食道アカラシア (esophageal achalasia) [ 病態 ] 食道の蠕動運動が障害され 下部食道が弛緩しないため 食物が胃内に流れ込みにくい状態となる [ 症状 ] 食物が食道内にとどまることによる嚥下障害 嘔吐 胸痛 背部痛がみられる [ 診断 ] X 線造影検査食道下部から食道胃接合部にかけて狭窄像 ( くちばし状変形 ) を呈する [ 治療 ] 非観血的拡張術内視鏡下にバルーンカテーテルを挿入して強制的に下部食道括約筋を進展させる方法で 食道アカラシアの第 1 選択の治療法である

問 30 胃食道逆流症について正しいのはどれか 2つ選べ 1. 食道の扁平上皮化生を起こす 2. 上部食道括約筋の弛緩によって生じる 3. 食道炎の程度と症状の強さが一致する 4. プロトンポンプ阻害薬が第一選択の治療法である 5.Barrett( バレット ) 上皮は腺癌の発生リスクが高い

問 30 解説 (1) 胃食道逆流症により胃液の逆流が長期間繰り返し行われ 胃酸の刺激を受けつづけた食道の扁平上皮は胃の円柱上皮化することがある この上皮は バレット上皮とよばれる (2) 下部食道括約筋の弛緩が要因の 1 つである (3) 自覚症状と内視鏡による炎症所見は必ずしも一致しない (4) 薬物療法の第一選択としては H₂ 受容体拮抗薬 (H₂ ブロッカー ) とプロトポンプ阻害薬 (PPI) が選ばれることが多い (5) 日本人では食道がんの約 90% が扁平上皮がんで 2~3% が腺がんといわれているが 腺がんのほとんどは (1) で述べたバレット上皮から発生する 欧米では腺がんが食道がんの半数以上を占める

問 6 食道がん 食道癌について正しいのはどれか 2つ選べ 1. 頸部食道に好発する 2. 放射線感受性は低い 3. アルコール飲料は危険因子である 4. 日本では扁平上皮癌に比べて腺癌が多い 5. ヨードを用いた内視鏡検査は早期診断に有効である

問 6 解説 (1) 食道がんの占居部位別の発生頻度は 胸部中部食道が約 50% で最も多く 次に胸部下部食道が約 30% 胸部上部食道が約 10% となっている 頸部食道は約 6% である (2) 細胞分裂の頻度が高い食道上皮は 放射線の感受性が高い (3) 食道がんの危険因子には 喫煙や飲酒 熱いものの飲食 家族性因子などがある (4) 食道がんの約 90% が扁平上皮がんである (5) がん細胞はヨウ素 ( ヨード ) に染色されないため 染色される正常の組織と区別ができる 内視鏡では確認が困難な小さながん病変を発見することができるため 早期診断に有効である

問 7 食道がんの放射線治療 食道癌に対する放射線治療で正しいのはどれか 1. 脊髄の障害は起こらない 2. 治療期間は1 週間である 3. 治療期間中は隔離できる個室で管理する 4. 化学療法と併用すると治療の効果が高まる

問 7 解説 (1) 食道がんに対する放射線治療ではまれではあるが 四肢の感覚障害 運動障害などの放射線脊髄炎が発生する可能性がある (2) 食道癌に対する放射線治療では総量で50~60Gy 照射する 1 回 2Gy 週 5 回照射すると10~12 週の治療期間となる (3) 放射線治療により好中球が減少して易感染性になれば 無菌室などに隔離するが それまでは一般病棟または外来で管理する (4) 放射線治療と化学療法の併用は 単独治療より効果が高いことが臨床的に証明されている

問題 8 全身麻酔下で食道再建術を受ける患者への術前オリエンテーションで適切なのはどれか 1. 口から息を吸って鼻から吐く練習をしてください 2. 手術の直前に下剤を飲んでもらいます 3. 手術中はコンタクトレンズをつけたままで良いです 4. 麻酔の際は喉に呼吸用の管を入れます

正解 :4 1. 食道癌の手術では開胸 開腹となり生体に対する侵襲が大きく 創部痛などにより呼吸運動が制限されるため呼吸器合併症を引き起こすリスクが高い 術後は挿管チューブを挿入し 酸素管理をおこなうが 呼吸器合併症を予防するためできるだけ早くから深呼吸 含漱 気道吸引 体位変換などを効果的におこなう 深呼吸では鼻から吸って口から吐くように説明する 2. 術直前ではなく前日に下剤を内服し 腸管内を清浄化する 3. 手術中は熟眠状態になるため コンタクトレンズを着用したままだと目に負担がかかる また紛失の恐れもあるため術前に外す 4. 1 と同じ