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食品安全に関するリスクプロファイルシート ( 検討会用 ) ( 化学物質 ) 作成日 ( 更新日 ):2012 9 月 7 日 項 目 内 容 1 ハザードの名称 / 別名 麻痺性貝毒 (Paralytic Shellfish Poison: PSP) ( サキシトキシン (STX) 群 ) 2 基準値 その他のリスク管理措置 (1) 国内 規制値 ( 厚生労働省, 1980) 二枚貝の可食部 ( 貝殻を除いた軟体部 ): 4 MU/g( 注 ) ( 分析法 : マウス試験法 ) 二枚貝捕食者であるトゲクリガニ及びイシガニの可食部 ( 筋肉及び肝膵臓 ( いわゆるカニミソ )): 4 MU/g ( 厚生労働省, 2004, 2005) ( 注 )MU: マウスユニット 麻痺性貝毒の場合 1 MU は体重 20 g の ddy 系雄マウスに腹腔内投与後 15 分間で死亡させる毒量 二枚貝等の漁獲の自主規制 ( 農林水産省, 1979a, b) 農林水産省の通知及び各都道府県の対策要領などにより 原因プランクトンのモニタリングを行うとともに 二枚貝中の麻痺性貝毒の毒量のモニタリングを実施し 規制値を超えた場合には 漁獲の自主規制を実施 また 自主規制の解除については 原則 3 週連続規制値を下回ることが条件 (2) 海外 Codex (Codex Alimentarius, CODEX STAN 2922008) ( 注 ) ( 分析法 : プレクロマトグラフ酸化 HPLC(AOAC 2005.06)) ( 注 )STX eq: サキシトキシン等量 0.8 mg STX eq/kg は マウス試験法の 4 MU/g に相当 米国 (FDA, National Shellfish Sanitation Program Guide for the Control of Molluscan Shellfish 2009 Revision) ( 分析法 : マウス試験法 その他 Jellet Rapid Test for PSP(Type III) ポストカラム HPLC 法 (Type IV)) カナダ (CFIA, Canadian Shellfish Sanitation Program Manual of Operations) ( 分析法 : ポストカラム酸化液体クロマトグラフィー (LC PCOX)(AOAC 2011.02)) 1

3 ハザードが注目されるようになった経緯 4 汚染実態の報告 ( 国内 ) 最近 10 の発生件数 5 毒性評価 EU (EU, 2005) ( 分析法 : マウス試験法又は国際的に認められた方法 ( プレクロマトグラフ酸化 HPLC(AOAC 2005.06) 等 ) ただし 分析結果に疑いがある場合は マウス試験法による ) 豪州 NZ (FSANZ, Australia New Zealand Food Standards Code) 日本では 1975 に赤潮が三重県尾鷲湾で発生し アサリ及びムラサキイガイが毒化 ( 日本で初めての公式報告 ) 翌 伊勢湾でも赤潮が発生し 二枚貝が毒化 同 岩手県大船渡湾でも毒化し その後も同湾でほぼ毎毒化 また 1978 にはホタテガイ生産高が日本最大の北海道噴火湾でホタテガイが毒化 このように麻痺性貝毒による二枚貝の毒化が相次いで報告されるようになり それに伴って食中毒の発生も報告されるようになってきた 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 ( 件数 ) 2011 2 29 4 26 37 29 21 10 22 19 ( 都道府県からの報告件数 ( 未公表 )) * 自主規制の開始から解除までを 1 件としてカウント (1) 吸収 分布 排出及び代謝 1 経口摂取口腔内や小腸の粘膜から速やかに吸収される ( 財団法人日本中毒センター中毒情報データベース ) 2 分布 ヒト チリで ribbed mussels を食べて 3~4 時間後に死亡したヒトを調べたところ サキシトキシンが胃内容物 (36.69 mg/l) 胃 (14.24 mg/l) 膵臓 (8.18 mg/l) 尿 (1.80 mg/l) 等から検出 (Garcia et al., 2004) ラット サキシトキシン群成分をラットに静脈投与した試験では 中枢神経系を含む様々な器官に分布 (Naseem, 1996) 3 排出一般に サキシトキシン群を経口摂取した場合 主に尿中から排出される (FAO/IOC/WHO, 2004; EFSA, 2009) 2

3 ネコ ラット サキシトキシンをネコに静脈投与した試験では サキシトキシンは血液中から素早く消失 ( 血清中の半減期は 22 分 ) (Andrinolo et al., 1999) 一方 体内中の滞留期間はもっと長く ネコ及びラットに静脈投与した試験では 半減期は 12 時間から 18 時間 (FAO/IOC/WHO, 2004) 4 毒性学上重要な化合物麻痺性貝毒としてサキシトキシンの他 30 種類以上の類縁体が存在 そのうち 特にサキシトキシン (STX), ネオサキシトキシン (neostx), ゴニオトキシン 1(GTX1) 及びデカルバモイルサキシトキシン (dcstx) の毒性が強いとされている (EFSA, 2009) ( 参考 )(EFSA, 2009) マウスへの腹腔内投与による急性毒性の評価結果に基づく相対毒性 STX, neostx, GTX1, dcstx = 1 GTX4 = 0.7 GTX3 = 0.6 等 (2) 急性毒性 1LD 50 マウスへのサキシトキシンの投与 (Mons et al., 1998) 経口投与 : 260 263 μg/kg bw 静脈投与 : 2.4 3.4 μg/kg bw 腹腔内投与 : 9.0 11.6 μg/kg bw 2 標的器官 / 影響軽症では唇 舌 顔面 四肢末端のしびれ感 悪心 めまいなど 中等症ではしびれ感が麻痺に変わり 言語障害や随意運動の困難が現れる 重症例では 呼吸麻痺が進行し 12 時間以内に死亡することがある 多くは 24 時間以内に快方に向かい 48 時間で回復するが 数時間 ~ 数日間症状が続くこともある 循環器系 : 頻脈 血圧低下 呼吸器系 : 呼吸困難 呼吸筋麻痺による死亡 神経系 : 食後数分 ~30 分で唇 舌 喉のしびれ感や灼けるような感じ これが 首 腕 四肢末端 顔面に広がり 麻痺に変わる 嚥下困難 流涎 窒息感 頭痛 めまい 筋脱力 運動失調 全身麻痺 知覚異常 言語障害など 消化器系 : 悪心 嘔吐 口渇 その他 : 眼振 一時的な失明 筋痛症 下部背痛 (3) 短期毒性 (4) 長期毒性 6 耐容量

(1) 耐容摂取量 1PTDI/PTWI/PTMI 2PTDI/PTWI/PTMI の根拠 (2) 急性参照量 (ARfD) FAO/IOC/WHO 0.7 μg STX eq/kg bw (FAO/IOC/WHO, 2004) 7 暴露評価 EU 0.5 μg STX eq/kg bw (EFSA, 2009) (1) 推定一日摂取量 (2) 推定方法 8 MOE(Margin of exposure) 9 調製 加工 調理による影響 saxitoxin 群は一般的な調理過程で用いられる程度の熱に対しては安定である一方 調理過程における汁への移行により 貝自体に含まれる saxitoxin 群の量 (level) が 3264% 程度減少するとの報告がある (EFSA, 2009) saxitoxin 群の中には加熱で失活するものもある (Nagashima et al., 1991) ただし 加熱方法やその貝に含まれる麻痺性貝毒の組成によって貝全体の毒量低下の程度は異なる 10 ハザードに汚染される可能性が ある農畜水産作物 / 食品の生産 実態 (1) 水産物 / 食品の種類 貝毒原因プランクトンを捕食する海産二枚貝及びその 捕食者 ( トゲクリガニ及びイシガニなど ) 並びにそれらの加 工品 (2) 国内の生産実態 海産二枚貝の間生産量 ( 農林水産省, 2011 漁業 養殖業統計報 ) 2011 ( 生重量 : 千トン ) あさり類 ( 採捕 ) 27.9 ほたてがい ( 採捕 ) 303.0 ほたてがい ( 養殖 ) 118.4 かき ( 殻付 養殖 ) 164.4 かき ( むき身 養殖 ) 29.4 ( 注 ) むき身と明示されている場合を除き 殻付き重量 11 汚染防止 リスク低減方法 生産段階における汚染回避の方策として 筏につるす垂下式養殖の二枚貝については 原因プランクトンの発生海域から筏ごと未発生海域へ避難する等がある しかしながら 全ての養殖に適用できるものではない また 原因プランクトンそのものを低減させる方策はこ 4

れまでのところない 12 リスク管理を進める上で不足して いるデータ等 13 消費者の関心 認識消費者の一部は 以下の点を懸念している 市販される二枚貝の中に規制値を超えたものがあるのではないか 規制値を超えた貝を少しでも食べたら中毒症状が起きるのか 14 その他麻痺性貝毒は 以前はマウス試験法の結果に基づいてリスク管理が行われていたが 近は EU やカナダをはじめとして機器分析が導入されつつある しかしながら 国内においては 機器分析のための各種毒成分の標準品の供給体制が整っていない状況にあり 供給体制の検討が必要 5