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○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

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このように 私たちのまわりには既に光触媒の製品が様々なかたちで広く普及している ある研究所の試算によると 光触媒の関連市場は 2005 年には1 兆円を超えると予想されていることからもうなずける しかし 光触媒研究の歴史はまだまだ浅く 未解決の問題も多く存在している だが 逆に言えばそれだけ可能性を

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実験手順 1 試料の精秤 2 定容試料を 5%HPO3 酸で1ml に定容し 試料溶液とする この時 アスコルビン酸濃度は1~4mg/1ml の範囲がよい 3 酸化試験管を試料の (a) 総ビタミン C 定量用 (b)daa( 酸化型ビタミン C) 定量用 (d) 空試験用の3 本 (c) 各標準液

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フェロセンは酸化還元メディエータとして広く知られている物質であり ビニルフェロセン (VFc) はビニル基を持ち付加重合によりポリマーを得られるフェロセン誘導体である 共重合体としてハイドロゲルかつ水不溶性ポリマーを形成する2-ヒドロキシエチルメタクリレート (HEMA) を用いた 序論で述べたよう

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注釈 * ここでニッケルジメチルグリオキシム錯体としてのニッケルの重量分析を行う場合 恒量値を得るために乾燥操作が必要だが それにはかなりの時間を要するであろう ** この方法は, 銅の含有量が 0.5% 未満の合金において最も良い結果が得られる 化学物質および試薬 合金試料, ~0.5 g, ある

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官能基の酸化レベルと官能基相互変換 還元 酸化 炭化水素 アルコール アルデヒド, ケトン カルボン酸 炭酸 H R R' H H R' R OH H R' R OR'' H R' R Br H R' R NH 2 H R' R SR' R" O R R' RO OR R R' アセタール RS S

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木村の化学重要問題集 01 解答編解説補充 H S H HS ( 第 1 電離平衡 ) HS H S ( 第 電離平衡 ) そこで溶液を中性または塩基性にすることにより, つまり [ H ] を小さくすることにより, 上の電離平衡を右に片寄らせ,[ S ] を大きくする 193. 陽イオン分析 配位

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研究成果報告書

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技術解説 CO2 光還元を指向した光触媒機能材料の開発 九州工業大学大学院工学研究院物質工学研究系教授 工学博士横野照尚 Teruhisa Ohno Development of photocatalysts toward photoreduction of CO 2 1. 緒言酸化チタン光触媒は 紫外光照射下で優れた酸化活性を有し超親水性を発現することから 殺菌 防汚 防曇 空気浄化などのさまざまな分野への製品開発が活発に進められている 一方 水を電子ドナー プロトン源として用い 半導体光触媒上で CO2 を光還元する試みは CO2 排出問題の解決策だけではなく 太陽光を用いた次世代のエネルギー製造技術となり得ることから 非常に重要な反応である (a) (b) 図 1.(a) 球状,(b) 多面体形状を有する半導体粒子上における光触媒反応 これまで我々は 半導体光触媒として広く知られる酸化チタンの表面構造を制御し 特定の結晶面のみが露出した酸化チタンを調製することによって 反応効率低下の一因である再結合 逆反応を抑制した結果 優れた有機物分解性能を示すことを明らかにしている このような表面構造が制御された粒子上では それぞれの結晶面によって酸化 還元反応のサイトが分離し逆反応が抑制された結果 高い光 触媒性能が発揮されることを明らかにしている ( 図 1) [1] さらにこの粒子の特性を活かし ロッド形状を有するルチル型酸化チタンの露出結晶面の種類 [2] や面積比率 [3] を変化させることによる紫外光活性の向上や 面選択的な反応特性を利用した鉄 ( Fe) イオン (Fe3+) の面選択的修飾法による可視光応答化 [4] に成功している 本研究では 近年その単相合成を容易に行えるようになったことから俄に研究が進展しつつあるブルッカイト型酸化チタンにおいて [5,6] ロッド形状を有するナノ粒子のアスペクト比を制御することによって紫外光活性の改善を行い さらに Fe 3+ を結晶面選択的に修飾することによって高い有害物質分解性能を有する可視光応答型酸化チタンの開発を試みた さらに 炭酸ガス還元用の可視光応答型光触媒材料を開発する目的でグラファイト型窒化炭素 (g-c3n4) と酸化タングステン (WO3) 複合光触媒の CO2 光還元反応について検討を行った グラファイト型窒化炭素 (g-c3n4) は 非金属の可視光応答型半導体であり 新規な可視光応答型光触媒として注目されている [7,8] g-c3n4 は 従来光触媒として主に用いられてきた酸化物半導体に比べ 卑な伝導帯電位 (-0.83 V vs. SHE [8] ) を有しているため高い還元能力が期待できるが 一方で その価電子帯電位は約 +1.8 V vs. SHE [3] であり 高い酸化能力を期待することはできない 本研究では g-c3n4 と可視光応答型光触媒を複合化することによる可視光応答型光触媒の高活性化について報告する 2. 実験 [5] 2.1. グリコール酸チタン錯体の調製 17

25.0 mmol のチタン粉末に 40 ml の 30% 過酸 化水素水 10 ml の 25% アンモニア水 50.0 mmol のグリコール酸を加えチタン錯体溶液を調製した この錯体溶液に 任意量 ( 主に 50 mg) のポリビニルアルコール (PVA Mw = 22,000) もしくはポリビニルピロリドン (PVP Mw = 40,000) を加えた その後 3 時間撹拌を行い アンモニア水を用いて ph 10 に調整し 全容量を 50 ml とした [6] 2.2. 乳酸酸チタン錯体の調製 5 ml の 50% チタン (IV) ビス ( アンモニウムラクタト ) ジヒドロキシド (TALH) 溶液に ph 調製剤として尿素を 7 mol L -1 の濃度となるように添加し 全容量を 50 ml とした 2.3. チタン錯体溶液の水熱処理 2.1. もしくは 2.2 で調製した錯体溶液をテフロン製容器に移し換えてステンレス製容器に封入し オーブンを用いてグリコール酸錯体の場合は 200 度 乳酸錯体の場合は 230 度で 48 時間加熱することによって 水熱処理を行った その後 オーブンから反応容器を取り出し室温まで冷却した後 テフロン製容器内の沈殿物を回収した 得られた沈殿物は遠心分離機にかけて上澄み液を回収することにより洗浄を繰り返した 2.4. g-c 3 N 4 の調製 30 g のメラミンをアルミナるつぼに入れ 蓋をして 500 ~700 で 4 時間熱処理を行った 熱処理後 得られた試料はメノウ乳鉢で粉砕し試料を得た 2.5. 複合型光触媒の調製メラミンを 550 度で熱処理することにより得られた g-c3n4 と市販の WO3( 高純度化学 ) を 三種の混合方法 ( 混練法 超音波混合法 遊星ミル混合法 ) を用い任意重量比で混合することにより複合試料を調製した (1) 混練法は 任意比率に秤量した粉末を メノウ乳鉢を用いて約 15 分間混練を行った (2) 含浸法は 任意比率に秤量した粉末をイオン交換水に分散させ 超音波照射を 30 分 撹拌を 3 時間行うことで複合化を行った (3) 遊星ミルを用いた混合法では 任意比率に秤量した粉末をイオン交換水に分散させ ジルコニアビーズとともにメノウ容器に入れ 750 rpm で 10 分間混合処理を行った 2.6. アセトアルデヒドの気相酸化分解反応によ る光触媒活性の評価試料をシャーレに均一に広げ テドラーバック内に封入した 真空排気後 500 ppm のアセトアルデヒド / 空気の混合気体をテドラーバック内に注入した 吸着平衡後光照射を開始し 二酸化炭素生成量をメタナイザー付き GC-FID で観測した 照射光源は中心波長 455 nm(5 mw cm -2 ) の LED と 500 W キセノンランプを用い キセノンランプの場合は色ガラスフィルタ (AGC テクノグラス L-42) を取り付けることで 波長が約 420 nm 以上の光 (12 mw cm -2 ) を試料に照射した 2.7. 炭酸ガス還元反応による光触媒活性評価任意量の光触媒材料をイオン交換水 5mL に超音波分散させ 1 時間窒素バブリング後 炭酸ガスを 3 時間流して飽和させた 紫外光照射に於いては 365 nm (0.3mW/cm 2 ) の波長と強度の LED を用いて照射した また 可視光照射においては 435 nm (0.3mW/cm 2 ) の波長と強度の LED を用いて照射した 生成物解析は ガスクロマトグラフ イオンクマトグラフにより行った 3. 実験 3.1. アスペクト比制御による紫外光活性の向上 XRD 測定結果より得られた粒子の結晶構造はいずれもブルッカイト型酸化チタン単相であった SEM 像より 得られた粒子は 20 nm 30~100 nm のロッド形状を有しており 調製条件を変化させることによって ロッド長軸の長さが大きく変化していることが確認できた ( 図 2) また TEM SAED 解析結果より露出結晶面は主に {210} 側面と {212} {001} 先端面であった 得られたロッド形状粒子の酸化 還元反応場を光電着法により同定した 白金 (Ⅳ) イオン (Pt 4+ ) もしくは鉛 (Ⅱ) イオン (Pb 2+ ) 存在下において 光電着を行った試料の TEM 像を図 3に示す Pt 4+ 存在下において光電着を行った試料においては ロッド側面に粒子の析出が見られた エネルギー分散型 X 線 (EDX) 分析を行ったところ 微粒子上においてのみ Pt が検出されたことより 主に側面で還元反応が進行したものと考えられる (Pt 4+ + 4e - Pt) 一方で Pb 2+ 存在下で光電着を行った試料では ロッド先端面に比較的大きな凝集体の析出が見られた EDX 分析より 凝集体上において Pb が検出 18

されたことより 先端面においては 主に酸化反応が進行したものと考えられる (Pb 2+ + O2 + 2h + PbO2) 以上より ブルッカイトロッド上では{210} 側面において還元反応が 先端面において酸化反応が優先的に進行すると考えられる 図 2. グリコール酸錯体に (a) PVA 添加,(b) PVP 添加,(c) 無添加した前駆体および (d) 乳酸錯体を水熱処理することにより得られた試料の SEM 像 異なるアスペクト比を有するブルッカイト粒子の紫外光照射下におけるトルエン気相分解活性を図 4に示す 調製されたロッド形状粒子は市販の球状ブルッカイト粒子 ( 高純度化学 ) よりも高い活性を示した このことは 前述の光電着実験より示唆された面選択的な反応特性により反応場が分離され励起子が有効に利用されたためであると考えられる さらに ロッド粒子のアスペクト比の増大に伴い その光触媒活性が向上した これは 酸化チタンのバンド構造と酸化還元反応の酸化還元電位の関係によって説明することが可能である 酸化チタンを用いた場合 酸素還元電位と伝導帯下端のエネルギーオフセットは トルエンの酸化電位と価電子帯上端のそれより小さいため 還元反応が律速に陥りやすい 高アスペクト比を有する酸化チタンは広い還元反応面を有しているため 還元反応の律速を補償し 酸化還元反応面の面積比率が最適化されたことが高い光触媒活性に繋がったと考えられる 図 3. (a) Pt 4+ もしくは (b) Pb 2+ 存在下で光電着を行った試料の TEM 像 図 4. 紫外光 ( = ca. 365 nm, 0.1 mw cm -2 ) 照射下におけるトルエン (100 ppm) 分解活性.(a) 市販のブルッカイト試料, グリコール酸錯体に (b) PVA 添加,(c) PVP 添加,(d) 無添加した前駆体および (e) 乳酸錯体を水熱処理することにより得られた試料. 図中の数値はアスペクト比 (r asp ) と比表面積 3.2. 面選択的 Fe 3+ 修飾によるブルッカイト型酸化チタンの可視光応答化反応場分離型光触媒の特徴を活かし Fe 3+ 修飾を結晶面選択的に行うことによって 反応場分離型可視光応答光触媒の開発を行った 鉄イオンの酸化チタンにする吸着においては 三価の鉄イオン (Fe 3+ ) は吸着しやすく 二価の鉄イオン (Fe 2+ ) は吸着しにくい特性を有することが知られている したがって 励起光照射下において鉄イオンの吸着を行うことにより 酸化反応面のみに Fe 3+ を吸着させることが可能であり 鉄イオンを面選択的に修飾することができる ( 図 5) 本手法を 上記のアスペクト比の異なるブルッカイトロッドに適用した Fe 3+ を修飾することにより可視光照射下での光触媒活性の発現が確認でき ほとんどの試料において面非選択的に Fe 3+ を修飾した試料は 非選択的に Fe 3+ が修飾された試料よりも高い光触媒活性を示した 異なるアスペクト比を有するブルッカイト酸化チタンの結晶面に Fe 3+ を選択的に修飾した試料の可視光下におけるアセトアルデヒド気相酸化分解活性を図 6に示す アスペクト比が向上することによってその光触媒活性は向 19

上する傾向は見られたものの その最適アスペクト比は紫外光活性の結果とは異なり 2.7~5.2 であった これは Fe 3+ 修飾酸化チタンの可視光反応機構は 紫外光下におけるそれとは異なることに起因する つまり Fe 3+ 修飾サイトでのみ光吸収がおこり励起子が発生するため 高アスペクト比を有するブルッカイトロッドでは 酸化反応面が減少し Fe 3+ の修飾量の減少することによる可視光吸収量の低下 もしくは ロッド長が電子拡散長より大きくなることによる還元反応面の利用効率の低下により アスペクト比の最適値が異なったと考えられる ブルッカイト型酸化チタンは 既報のグリコール酸チタン錯体にポリビニルアルコール ポリビニルピロリドン ジメチルアミンを添加し ph 10 もしくは 11.6 に調整したものを水熱合成することにより調製した ( 試料名をそれぞれ No Additive PVA PVP DMA DMA(pH 11.6) と表記する ) また 乳酸のチタン錯体を水熱合成することにより得られる試料 (TALH と表記する ) も調製した XRD 解析結果より いずれの試料の結晶構造もブルッカイト単相であった 得られた試料の SEM 像を図 7に示す 試料の粒子形態は大まかに特定の露出結晶面を有するロッド形状であったが 添加剤や前駆体錯体を変化させることによりそのアスペクト比は大きく変化した 露出結晶面は TEM SAED 解析より {210} 側面と {212} 先端面といくつかのマイナー成分であった 図 5.(a) 結晶面選択的 Fe 3+ 修飾法,(b) 結晶面選択的に Fe 3+ が修飾された粒子の可視光下での光触媒反応 図 6. 可視光 ( = ca. 455 nm, 1.0 mw cm -2 ) 照射下におけるアセトアルデヒド (500 ppm) 分解活性.(a) 市販のブルッカイト試料に Fe 3+ 修飾した試料. グリコール酸錯体に (b) PVA 添加,(c) PVP 添加,(d) 無添加した前駆体および (e) 乳酸錯体を水熱処理することにより得られた試料に結晶面選択的に Fe 3+ 修飾した試料. 図中の数値はアスペクト比 (r asp ) と比表面積 3.3. ブルッカイト型酸化チタンロッドにおける炭酸ガス還元反応 図 7. 調製したブルッカイト型酸化チタン試料の SEM 像.(a) No Additive, (b) PVA, (c) PVP, (d) DMA, (e) DMA(pH 11.6), (f) TALH 光触媒反応は 5 mg の酸化チタン粉末を 5 ml の KHCO 3 (0.2 mol L -1 ) 水溶液に分散し CO 2 バブリングを行った後 撹拌しながら 24 時間紫外光照射 (365 nm 0.3 mw cm -2 ) することによって行った 反応後 気相および溶液成分を GC-FID により定量した 調製したアナタース試料による CO 2 還元反応結果を図 8に示す ブルッカイトを用いた場合でも主生成物は液相中の CH 3 OH であった しかし 試料によってその生成量は 20

異なっていた 光触の反応特性が粒子の露出結晶面によって大きく変化することからも この生成量の変化は粒子のアスペクト比 ( 先端 側面の露出結晶面の面積比 ) やマイナー成分である露出結晶面などの表面形態されには比表面積が寄与したものと考えられる ルによる複合 ) における CH 3 OH 生成量は 1.4 mol であった これは Z スキーム型の電励起が行われ 還元 酸化反応がそれぞれ g-c 3 N 4 と WO 3 上で行われることにより g-c 3 N 4 の高い還元能と WO 3 の高い酸化能を有することができたためと考えられる ( 図 10) 図 8. 調製したブルッカイト型酸化チタン試料の CO 2 還元反応評価結果. 図中の数値はアスペクト比 (r asp ) と比表面積 図 9. 調製したブルッカイト型酸化チタン試料の CO 2 還元反応評価結果. 図中の数値はアスペクト比 (r asp ) と比表面積 3.4. 可視光下での炭酸ガス還元反応を指向した複合光触媒の開発に向けて光触媒反応は 3 mg の複合光触媒粉末を 5 ml のイオン交換水溶液に分散し CO 2 バブリングを行った後 撹拌しながら 24 時間可視光 (435 nm 3 mw cm -2 )) することによって行った 反応後 気相および溶液成分を GC-FID により定量した ( 図 9) 複合試料の CH 3 OH 生成量はそれぞれ単体の生成量よりも多く 最適条件 (g-c 3 N 4 : WO 3 = 1 : 2 遊星ミ 図 10.WO 3 と g C 3 N 4 を用いたハイブリッド型光触媒による炭酸ガスの還元反応における Z スキーム型電子励起の反応機構 参考文献 [1] T. Ohno, K. Sarukawa, M. Matsumura, New. J. Chem., 26 (2002) 1167 1170. [2] E. Bae, N. Murakami, M. Nakamura, T. Ohno, Appl. Catal. A: Gen., 380 (2010) 48 54. [3] N. Murakami, S. Katayama, M. Nakamura, T. Tsubota, T. Ohno, J. Phys. Chem. C, 115, (2011) 419 424. [4] N. Murakami, A. Ono, M. Nakamura, T. Tsubota, T. Ohno, Appl. Catal. B: Environ., 97 (2010)115 119 [5] M. Kobayashi, K. Tomita, V. Petrykin, M. Yoshimura, M. Kakihana, J. Mater. Sci., 43 (2008) 2158 62. [6] T.A. Kandiel, A. Feldhoff, L. Robben, R. Dillert, D.W. Bahnemann, Chem. Mater., 22 (2010) 2050 2060. [7] D. Mitoraj, H. Kisch, Angew. Chem. Int. Ed., 47, 9975-9978 (2008) [8] J. Zhang, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 49, 441-444 (2010) 21