経済産業省 受託調査 ASEAN 主要国における司法動向調査 2016 年 3 月 日本貿易振興機構 (JETRO) バンコク事務所知的財産部

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特許庁委託事業 ASEAN 各国における産業財産権情報への アクセス性に関する調査 2013 年 4 月日本貿易振興機構バンコク事務所知的財産部 協力 TMI Associates (Singapore) LLP

指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

特許庁工業所有権保護適正化対策事業

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

併等の前後を通じて 上告人ら という 同様に, 上告人 X1 銀行についても, 合併等の前後を通じて 上告人 X1 銀行 という ) との間で, 上告人らを債券の管理会社として, また, 本件第 5 回債券から本件第 7 回債券までにつき上告人 X1 銀行との間で, 同上告人を債券の管理会社として,

市町村合併の推進状況について

登録商標 は著作権が侵害された旨の宣言 侵害製品販売に対する終局的差止め命令 並びに 損害賠償 但し 以下の点に注意が必要 : 裁判所において 損害裁定の指針が確 されておらず 裁判官が思い付きで判決を下すことが時折みられる 損害賠償 裁定の強制が困難であり 被告が失踪するか がないと申し てること

審決取消判決の拘束力

仮訳 / JICA 2012 [ 国章 ] インドネシア共和国最高裁判所 仮処分決定に関する インドネシア共和国最高裁判所規則 2012 年第 5 号 インドネシア共和国最高裁判所は a. 意匠に関する法律 2000 年第 31 号第 49 条から第 52 条 特許に関する法律 2001 年第 14

アラブ首長国連邦 (UAE) の労働法 - 雇用契約の法的強制力 ほか 2012 年 6 月 独立行政法人日本貿易振興機構 ( ジェトロ ) Copyright 2012 JETRO & Herbert Smith Freehills LLP. All rights reserved. 禁無断転載

Microsoft Word - 行政法⑨

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

2006 年度 民事執行 保全法講義 第 4 回 関西大学法学部教授栗田隆

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

第26回 知的財産権審判部☆インド特許法の基礎☆

に含まれるノウハウ コンセプト アイディアその他の知的財産権は すべて乙に帰属するに同意する 2 乙は 本契約第 5 条の秘密保持契約および第 6 条の競業避止義務に違反しない限度で 本件成果物 自他およびこれに含まれるノウハウ コンセプトまたはアイディア等を 甲以外の第三者に対する本件業務と同一ま

( 事案の全体像は複数当事者による複数事件で ついての慰謝料 30 万円 あり非常に複雑であるため 仮差押えに関する部 3 本件損害賠償請求訴訟の弁護士報酬 分を抜粋した なお 仮差押えの被保全債権の額 70 万円 は 1 億円程度と思われるが 担保の額は不明であ を認容した る ) なお 仮差押え

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

平成 27 年度 特定行政書士法定研修 考査問題 解答と解説 本解答と解説は 正式に公表されたものではなく 作成者が独自に作成したものであり 内容の信頼性については保証しない 以下の事項に全て該当 遵守する場合にのみ 利用を許可する 東京都行政書士会葛飾支部会員であること 営利目的でないこと 内容を

イ特許専門業務特許戦略 法務 情報 調査 特許戦略に関し 次に掲げる事項について専門的な知識を有すること (1) 特許出願戦略 ( ポートフォリオ戦略等 ) (2) 研究開発戦略と特許戦略の関係 (3) 事業戦略と特許戦略の関係 (4) 標準化戦略 法務に関し 次に掲げる事項について専門的な知識を有

第 32 回 1 級 ( 特許専門業務 ) 実技試験 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産教育協会 ( はじめに ) すべての問題文の条件設定において, 特に断りのない限り, 他に特殊な事情がないものとします また, 各問題の選択枝における条件設定は独立したものと考え, 同一問題内における他の選

パラグアイ共和国 (PY) REPUBLIC OF PARAGUAY パラグアイの概要パラグアイ共和国は 南米大陸の内部に位置しブラジルやアルゼンチン又ボリビアと国境を接しております 総面積は約 41 万 k m2で 日本の約 1.1 倍の面積があります 総人口は約 607 万人で首都はアスンシオン

訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

Taro-052第6章1節(p ).jtd

目次 1. 法人税上の貸倒償却とは 財務省令第 186 号 ,000 バーツを超える債権の貸倒償却 ,000 バーツ以下の債権 ,000 バーツ以下 ( 金融業 ) または 100,000 バーツ以下 ( 一般会社法人

特許出願の審査過程で 審査官が出願人と連絡を取る必要があると考えた場合 審査官は出願人との非公式な通信を行うことができる 審査官が非公式な通信を行う時期は 見解書が発行される前または見解書に対する応答書が提出された後のいずれかである 審査官からの通信に対して出願人が応答する場合の応答期間は通常 1

2012 3

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

2012 3

問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第31号-

特別レポート 年 5 月号 ドバイ アブダビ シャルジャにおける 住宅および店舗など商業施設の家賃高騰問題への対応 2014 年 5 月 独立行政法人日本貿易振興機構 ( ジェトロ ) ドバイ事務所 進出企業支援 知的財産部進出企業支援課

知的財産権の権利活用 ~警告から訴訟まで

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経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 パブリックコメント担当 御中

目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

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平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

目次 1. 中国における商業秘密の定義およびその要件について 商業秘密保護について 商業秘密保護の具体的な管理方法について 法的責任... 4

調査報告書 ~ASEAN 各国における産業財産権権利化に係る費用及び期間 ~ 第 1 はじめに本報告書は 独立行政法人日本貿易振興機構バンコク事務所 ( 以下 貴機構 という ) の委託を受けて 弊事務所が行ったインドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ及びベトナムにおける産業財産権の

最高裁○○第000100号

資料 4 平成 26 年度特許庁実施庁目標 参考資料 2014 年 3 月 28 日

平成  年(オ)第  号

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

東京地方裁判所委員会 ( 第 36 回 ) 議事概要 ( 東京地方裁判所委員会事務局 ) 第 1 日時平成 27 年 10 月 22 日 ( 木 )15:00~17:00 第 2 場所東京地方裁判所第 1 会議室第 3 出席者 ( 委員 ) 貝阿彌誠, 足立哲, 大沢陽一郎, 大野正隆, 岡田ヒロミ

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

2 控訴費用は, 控訴人らの負担とする 事実及び理由第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人株式会社バイオセレンタック, 同 Y1 及び同 Y2は, 控訴人コスメディ製薬株式会社に対し, 各自 2200 万円及びこれに対する平成 27 年 12 月 1 日から支払済みまで年 5 分の割


2 被控訴人らは, 控訴人に対し, 連帯して,1000 万円及びこれに対する平成 27 年 9 月 12 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要 ( 以下, 略称及び略称の意味は, 特に断らない限り, 原判決に従う ) 1 本件は, 本件意匠の意匠権者である控訴人が

政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

目次 1. 現行法令について 2. 意匠出願時の必要書類 3. 料金表 4. 料金減免制度について 5. 実体審査の有無 6. 出願公開制度の有無 7. 審査請求制度の有無 8. 出願から登録までの手続の流れ 9. 存続期間及びその起算日 10. 部分意匠制度の有無 11. 留意事項 12. 非登録

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民事訴訟法

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

アフリカ知的財産ニュースレター Vol.36 はじめに 本号では リビアの最近の政治情勢に注目してみる さらに マドリッド協定議定書 ( マド リッド プロトコル ) に基づく国際商標登録 (IR) に関係する 2 つの出来事についても論じる ことにする しかし 本号の大部分は パリ条約により認めら

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

(9) 商法 会社法 (10) 民事執行法 (11) 民事保全法 5 前各号に掲げる科目のほか次に掲げる科目のうち 受検者が選択するいずれか一の科目イ特許専門業務 A 戦略 A-1 知的財産戦略 B 管理 B-1 法務 C 創造 ( 調達 ) C-1 情報 調査 知的財産戦略に関し 次に掲げる事項に

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(4) 抗告人は, 平成 28 年 8 月 26 日, 本件仮登記の抹消登記を経由した (5) 抗告人は, 平成 28 年 9 月 7 日, 東京地方裁判所に対し, 本件再生手続に係る再生手続開始の申立てをし, 同月 20 日, 再生手続開始の決定を受けた 上記申立てに当たり抗告人が提出した債権者一

2010 3

限され 当事者が商標を使用する能力に直接の影響はありません 異議申し立て手続きと取消手続きで最もよく見られる問題とは 混同のおそれ と 単なる記述 です TTAB は登録の内容のみを評価するため その分析の局面には 想定に基づくものもあります 通常 TTAB では どのように標章が実際の製品において

(2) B 社に係る破産事件等東京地方裁判所は, 平成 21 年 2 月 24 日,B 社を再生債務者として, 再生手続開始の決定をした しかし, 東京地方裁判所は, 同年 3 月 24 日,B 社の事業継続を不可能とする事実が明らかになったとして, 再生手続廃止の決定をするとともに, 再生手続廃止

競走馬の馬名に「パブリシティ権」を認めた事例

ことができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している さらに 台湾専利法第 76 条は 特許主務官庁は 無効審判を審理する際 請求によりまたは職権で 期限を指定して次の各号の事項を行うよう特許権者に通知することができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している なお

日本における特許権行使

第八章 台湾知的財産権訴訟に公証制度が使用された判決の紹介 第一節概論 現在実務上の知的財産権に関する訴訟の中で 智慧財産裁判所の公告した判決を整 理した結果 公証制度が使用された態様には以下のものがあった ( 本報告注 : 先使 用権の争議があった判決に限らない ): 証拠保全のため 公証人に公開

オランダ王国における知的財産訴訟制度 ( 特許訴訟制度 ) の調査結果 ( 報告 ) 法務省大臣官房司法法制部 部付砂古 剛 1 調査の目的及びインタビュー先 (1) 調査の目的知的財産戦略本部で策定された知的財産推進計画 2013 ないし 2016 においては, 紛争処理機能の在り方の検討のため,

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平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

意匠法第十七条の三意匠登録出願人が前条第一項の規定による却下の決定の謄本の送達があつた日から三月以内にその補正後の意匠について新たな意匠登録出願をしたときは その意匠登録出願は その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす 2 前項に規定する新たな意匠登録出願があつたときは もとの意匠登

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

なお, 基本事件被告に対し, 訴状や上記移送決定の送達はされていない 2 関係法令の定め (1) 道路法ア道路管理者は, 他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については, その必要を生じた限度において, 他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一

理由群 Ⅰ ア拒絶理由が通知された際の補正は意見書においてすることができるので, 手続補正書の提出は不要であるためイ意見書は必ず提出しなければならないというわけではないためウ拒絶理由が通知された際の補正には, 必ず意見書の提出が必要であるため 問 3 発言 2について, 適切と考えられる場合は を,

目次 < 共通情報 > 1. 加盟している産業財産権関連の条約 2. 現地代理人の必要性有無 3. 現地の代理人団体の有無 4. 出願言語 5. その他関係団体 6. 特許情報へのアクセス方法 < 特許制度 > 1. 現行法令について 2. 特許出願時の必要書類 3. 料金表 4. 料金減免制度につ

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指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

目次 第 1 章 はじめに... 5 第 2 章 判例の要旨... 6 第 1 判例等の収集基準... 6 第 2 インドネシア 商標権関連判例 審決例... 7 (1) KOPITIAM 商標取消請求訴訟 (Abdul Alek Soelystio v. Phiko Leo Put

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

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7 平成 28 年 10 月 3 日 処分庁は 法第 73 条の2 第 1 項及び条例第 43 条第 1 項の規定により 本件不動産の取得について審査請求人に対し 本件処分を行った 8 平成 28 年 11 月 25 日 審査請求人は 審査庁に対し 本件処分の取消しを求める審査請求を行った 第 4

間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

2017 年 7 月 アフリカ知的財産ニュースレター 2017 年 7 月号 (Vol.22) 知的財産をめぐる新展開 はじめに 本号では アフリカの知的財産保護に関する最近の情勢についていくつか取りあげて論じる アフリカ知財に対する米国知財関係者の関心 2017 年 6 月 知的財産関連の有力誌

指定 ( 又は選択 ) 官庁 PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 - ベトナム国家知的所有権庁 (NOIP) 国内段階に入るための要件の概要 3 頁概要 国内段階に入るための期間 PCT 第 22 条 (3) に基づく期間 : 優先日から 31 箇月 PCT 第 39 条 (1)(b)

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経済産業省 受託調査 ASEAN 主要国における司法動向調査 2016 年 3 月 日本貿易振興機構 (JETRO) バンコク事務所知的財産部

2. 意匠権関連判例 審決例 (1) 自転車用泥除け意匠権侵害訴訟 (Magic Cycle Industrial v. A N T Commercial & Others) 1 概要原告 / 上告人 :Magic Cycle Industrial Co., Ltd. 被告 / 被上告人 1:A N T Commercial Co., Ltd. 被告 / 被上告人 2:Mr. Prawech Tantipak 被告 / 被上告人 3:Mrs. Kanchana Tungjitkarunar 被告 / 被上告人 4:Ruam Charoen Bicycle Limited Partnership 被告 / 被上告人 5:Mr. Tanachote Jetapanya 裁判所名 : 最高裁判所判決番号 :11133/2553 判決日 :2010 年 11 月 23 日 2 当事者原告 / 上告人 : 自転車の製造 販売を営むタイ法人被告 / 被上告人 : 自転車の組立 販売を営むタイ法人ら 3 裁判に至る経緯原告 ( 上告人 ) は 自転車用の泥除けに関する以下の意匠 ( 以下 本件意匠 という ) をタイ知的財産局に登録していた [ 本件意匠 ] 上告人 ( 原告 ) は 被上告人 ( 被告 ) らが本件意匠に類似する形状を用いた自転車用の泥除けを販売していることを発見したため 対象製品が本件意匠の意匠権を侵害しているとして 被上告人 ( 被告 ) らに対して 500 万バーツの損害賠償等を求めて CIPITC に本件訴訟を提起したところ 同裁判所は上告人 ( 原告 ) の請求を棄却した そこで 上告人 ( 原告 ) は 最高裁判所に上告した 113

4 裁判所の判断 (i) 本件意匠の有効性について被上告人らは 本件意匠の出願に先行して 対象意匠に類似した形状 特徴を有する泥除け ( 以下 対象商品 という ) が宣伝 販売されていたことから 本件意匠は新規性がなく 無効であると主張した 裁判所は 本件意匠と対象商品の形状や外観は類似しており これらは芸術的な目的ではなく 実用目的のためにデザインされたものであることから そのコンセプトも共通しているとして 本件意匠には新規性が認められず 本件意匠は無効であると判断した (ii) 悪意の権利行使について本件において上告人は 本件訴訟の前に 被上告人らに対して被上告人らの泥除け等の販売中止を求める警告状を送付しているが 被上告人らはこの警告状の送付は悪意による過度の権利行使に該当すると主張した この点に付き 裁判所は 上告人は 本件意匠と類似する商品を製造している複数の製造業者に対して その商品が本件意匠と類似していることおよび製造中止に協力して欲しい旨を記載しているのみであり 事実に基づいた記載であると言えることから 悪意による権利行使には該当しないと判断した 5 判決裁判所は 本件意匠は新規性が認められず無効であり 被上告人らによる意匠権侵害は認められないとして 上告人の上告を棄却する旨の判決を下した (2) 金網意匠無効請求訴訟 (Thai Mesh v. Billion Mesh Industry) 1 概要被上告人 / 原告 :Thai Mesh Co., Ltd. 上告人 / 被告 :Billion Mesh Industry Co., Ltd. 裁判所名 : 最高裁判所判決番号 :974/2551 判決日 :2008 年 2 月 28 日 2 当事者被上告人 / 原告 : 金網の製造 販売を営むタイ法人上告人 / 被告 : 金網の製造 販売を営むタイ法人 114

3 裁判に至る経緯上告人 ( 被告 ) は 金網に関する以下の意匠 ( 以下 本件意匠 という ) をタイ知的財産局に登録していた [ 本件意匠 ] 上告人 ( 被告 ) は 本件訴訟以前 被上告人 ( 原告 ) が本件意匠に類似する形状を用いた金網 ( 以下 対象商品 という ) を製造しており 対象製品が本件意匠の意匠権を侵害しているとして 被上告人 ( 原告 ) に対して対象商品の製造等の中止および損害賠償を求める刑事訴訟を提起していた これに対し 被上告人 ( 原告 ) は 本件意匠は 本件意匠の出願前にタイ国内外で広く公開されている商品を模倣したものであり 違法に登録されたものであるとして 上告人 ( 被告 ) に対し タイ特許法第 64 条に基づいて 本件意匠の無効 無効判決の新聞への掲載並びに 1000 万バーツおよび月 250 万バーツの損害賠償を求めて訴訟を CIPITC に提起したところ 同裁判所は被上告人 ( 原告 ) の請求を全て認めた そこで 上告人 ( 被告 ) は 最高裁判所に上告した 4 裁判所の判断裁判所は 本件意匠は ワイヤーで覆われた四角形の網で 5 本 6 本 8 本又は 9 本の横のワイヤーと縦のワイヤーで構成されているものであり この形状は 本件意匠の出願に先行して オーストラリア インドネシア 韓国 シンガポールを含む複数の国で販売されていた金網の形状と類似しており かつ 被告の取締役は元原告の共同経営者であり これらの金網が販売されていたシンガポールやインドネシアで市場調査活動などを行っていた者 115

であることから 上告人がこれらの金網の形状を模倣したと推認できるとして 本件意匠はタイ特許法第 57 条 (2) に基づいて新規性が認められず 無効であると判断した 5 判決裁判所は 原審の判決を支持し 本件意匠は新規性が認められず無効であることから 本件意匠の無効および 300 万バーツの損害賠償を認める判決を下した 一方 無効判決の新聞への掲載については 本件意匠は被上告人と上告人の二当事者間の紛争であり 新聞に掲載する必要はないとして 無効判決の新聞への掲載を認めた原審の判決を破棄した (3) ストロー意匠無効請求訴訟 (B&B Straw Pack v. B.D. Straws & Anor) 1 概要上告人 / 原告 :B&B Straw Pack Co., Ltd. 被上告人 / 被告 1:B.D. Straws Co., Ltd. 被上告人 / 被告 2:Mr. Thanit Petchdatsada 裁判所名 : 最高裁判所判決番号 :11/2550 判決日 :2007 年 1 月 17 日 2 当事者上告人 / 原告 : ストロー製造機械の製造を営むタイ法人被上告人 / 被告 : ストローの製造 販売を営むタイ法人ら 3 裁判に至る経緯被上告人 ( 被告 ) らは ストローに関する以下を含む 7 件の意匠 ( 以下 本件意匠 という ) をタイ知的財産局に出願又は登録していた [ 本件意匠の一部 ] 116

上告人 ( 原告 ) は 本件意匠はいずれも 外国で製造されているストローを模倣したものであり かつ上告人 ( 原告 ) のストローと同一又は類似していることから 新規性が認められず 被上告人 ( 被告 ) らは悪意によって本件意匠を出願又は登録したものであるとして 被上告人 ( 被告 ) らに対して タイ特許法第 64 条に基づいて 本件意匠の無効および月 30 万バーツの損害賠償を求めて CIPITC に本件訴訟を提起したが CIPITC は上告人 ( 原告 ) の請求を棄却したため 上告人 ( 原告 ) は最高裁判所に上告した 4 裁判所の判断 (i) 無効請求について裁判所は 出願公告された意匠に異議がある者は タイ特許法第 65 条 第 31 条 第 34 条 第 72 条および第 74 条に基づく異議申立ての手続を経た上で 裁判所に提訴する必要があるとし 現在出願公告中である本件意匠のうちの 6 件については 上告人は本件訴訟を提起する権利がないとして 上告人の請求を棄却した 本件意匠のうち既に登録が完了している残りの 1 件については その形状と同一のストローが当該意匠の出願に先行して韓国で製造 販売されていることから 当該意匠はタイ特許法第 57 条 (2) に基づいて新規性が認められず 無効であると判断した (ii) 損害賠償について裁判所は 被上告人らは本件意匠について韓国の正当な意匠権者より権利を譲り受けた上で製造等を行っているものであり 損害賠償を支払う義務はなく かつ 上告人の顧客は本件意匠の有無にかかわらず上告人から商品を購入していると認められることから 上告人に損害は発生していないとして損害賠償の請求については棄却した 117

5 判決 裁判所は 本件意匠の無効については 上告人の請求を認めて本件意匠を 無効とする判決を下し 損害賠償については上告人の請求を棄却した (4) コップ意匠異議申立訴訟 (Thai Elephant Cup v. Department of Intellectual Property & Others) 1 概要上告人 / 原告 :Thai Elephant Cup Co., Ltd. 被上告人 / 被告 :Department of Intellectual Property & Others 裁判所名 : 最高裁判所判決番号 :16702/2555 判決日 :2012 年 11 月 9 日 2 当事者上告人 / 原告 : コップの製造等を営むタイ法人被上告人 / 被告 : タイ知的財産局およびその Director 3 裁判に至る経緯上告人 ( 原告 ) は コップに関する以下の意匠 ( 以下 本件意匠 という ) をタイ知的財産局に出願した [ 本件意匠 ] これに対し Eastern Polypack Co., Ltd.( 以下 異議申立人 という ) は 本件意匠が 本件意匠の出願に先立って自社が出願した以下の意匠 ( 以下 対象意匠 という ) に類似しており 対象意匠を模倣したものであるとして タイ知的財産局に異議申立てを行った [ 対象意匠 ] 118

タイ知的財産局審査官が当該異議申立てを棄却したため 異議申立人は知的財産局特許委員会に不服申立てを行い 特許委員会は異議申立人の不服申立てを認めた そこで 上告人 ( 原告 ) は CIPITC に提訴したが CIPITC は特許委員会の決定を支持し 上告人 ( 原告 ) の請求を棄却したため 上告人 ( 原告 ) は最高裁判所に上告した 4 裁判所の判断裁判所は 類似性の判断では 全体として見た時の主要な形状と特徴的な構成の両方を考慮する必要があるとした上で 特徴的な外観およびデザインと構成要素の独創性によって 他の意匠と容易に区別することができる場合には新規性が認められる一方 端にサイズや実用目的の機能が異なるだけでは新規性は認められないとした その上で 本件においては 本件意匠と対象意匠は 縁と底の形状および模様が異なるものの これらの相違は端にサイズと輪郭線が異なるものであり 必要不可欠な構成要素および特別な外観に通常の消費者が両者を識別できるほどの相違点があるとは言えないとして 本件意匠と対象意匠の類似性を認め 本件意匠には新規性は認められないと判断した 5 判決裁判所は 本件意匠は新規性が認められないとして 原審の判決を支持し 上告人の上告を棄却する旨の判決を下した (5) テーブル脚意匠無効請求訴訟 (Duriflex v. Practika) 1 概要被上告人 / 原告 :Duriflex Co., Ltd. 上告人 / 被告 :Practika Co., Ltd. 裁判所名 : 最高裁判所判決番号 :9732/2552 判決日 :2009 年 12 月 30 日 2 当事者被上告人 / 原告 : 家具等の製造を営むタイ法人上告人 / 被告 : 家具等の製造を営むタイ法人 3 裁判に至る経緯上告人 ( 被告 ) は テーブル脚に関する以下の意匠 ( 以下 本件意匠 という ) をタイ知的財産局に登録していた 119

[ 本件意匠 ] これに対し 被上告人 ( 原告 ) は 本件意匠が 本件意匠の出願に先立ってタイ国内外で公開されている Antonio and Glen Oliver Löw デザインのテーブル脚を模倣したものであり 新規性が認められないとして 本件意匠の無効を求めて CIPITC に訴訟を提起したところ CIPITC が被上告人 ( 原告 ) の請求を認めたため 上告人 ( 被告 ) は最高裁判所に上告した 4 裁判所の判断裁判所は まず被上告人が本件意匠がタイ知的財産局に登録されてから 2 年経過した後に本件訴訟を提起した点について 被上告人は上告人が被上告人に対して本件意匠の意匠権侵害を理由に損害賠償を求めたことに対抗して本件訴訟を提起したものであり 法律上も無効請求について期間制限を設けていないことから 被上告人が本件訴訟を提起することは可能であるとした その上で 裁判所は 本件意匠の出願以前にタイ国内外で公衆に公開されている書面 雑誌 その他の公表物において類似する図形やその詳細が公開されている場合には新規性が認められないとし 類似性の判断においては 実物を比較することなく書面上のイメージを比較することで足りるとした上で 本件においては 本件意匠と被上告人が提出した書面上のイメージにあるテーブル脚のデザインが類似しており 上告人は両者の具体的な相違点を主張していないことから 本件意匠は新規性が認められないと判断した 5 判決裁判所は 本件意匠は新規性が認められないとして 原審の判決を支持し 上告人の上告を棄却する旨の判決を下した 120

(6) 天板意匠無効審決取消請求訴訟 (DCON Products Public v. Department of Intellectual Property) 1 概要上告人 / 原告 :DCON Products Public Co., Ltd. 被上告人 / 被告 :Department of Intellectual Property 裁判所名 : 最高裁判所判決番号 :9733/2552 判決日 :2009 年 12 月 30 日 2 当事者上告人 / 原告 : 天板等の製造 販売を営むタイ法人被上告人 / 被告 : タイ知的財産局 3 裁判に至る経緯上告人 ( 原告 ) は 天板に関する以下の意匠 ( 以下 本件意匠 という ) をタイ知的財産局に登録していた [ 本件意匠 ] 被上告人 ( 被告 ) は 本件意匠が 本件意匠の出願に先立ってアメリカで登録された以下の意匠 ( 以下 対象意匠 という ) に類似しているという理由で 本件意匠を無効とした [ 対象意匠 ] これに対して 上告人 ( 原告 ) は タイ知的財産局特許委員会に不服申立てを行ったが 特許委員会は当該不服申立てを棄却した そこで 上告人 ( 原告 ) が CIPITC に訴訟を提起したところ CIPITC も上告人 ( 原告 ) の請求を棄却したため 上告人 ( 被告 ) は最高裁判所に上告した 121

4 裁判所の判断上告人は 上告人と対象意匠の権利者の間に紛争はなく 本件意匠が存続していても公衆に対して影響を与えないとして 本件意匠を無効とした知的財産局および原審の判断は誤っていると主張した これに対して 裁判所は 特許権や意匠権は 対象となる特許および意匠並びにこれらを利用した商品に対する排他権を付与し これらを侵害した第三者に対して民事および刑事上の責任を負わせることのできる重要なものであるため 保護に値しない権利を不合理に与えることはできないとして 当事者間に紛争がなくとも法律上の要件を満たさない特許権 意匠権は無効とされるべきであるとした その上で 裁判所は 意匠は視覚において識別できる特徴的な形状 様式又は色彩でなければならず 機能目的のためにのみ創作されたものは意匠の対象ではないとし 本件意匠の下部にある凹みは板の強度を強化する目的で 本件意匠の丸みを帯びた部分や角ばった部分は本件意匠の対象となる板を使用する際に覆うコンクリートの量を減らし 重量を減らす目的のためにのみ創作されており かつ 本件意匠の対象となる板はコンクリートで覆われた後に使用されるものであるところ これらの特徴は実際の使用の際には見えなくなることから 本件意匠の特徴はいずれも機能目的のためにのみ創作されたものであると言え むしろ特許として保護されるべきものであり 意匠としての保護の対象ではないと判断した 5 判決裁判所は 本件意匠は意匠の保護の対象ではないとして 原審の判決を支持し 上告人の上告を棄却する旨の判決を下した 122

[ 執筆協力 ] TMI Associates(Singapore) LLP [ 発行 ] 日本貿易振興機構 (JETRO) バンコク事務所知的財産部 TEL: +66-2-253-6441 FAX: +66-2-253-2020 2016 年 3 月発行禁無断転載 免責条項 本レポートで提供している情報は ご利用される方のご判断 責任においてご使用ください JETRO は できるだけ正確な情報の提供を心掛けておりますが 本レポートの記載内容に関連して生じた直接的 間接的 あるいは懲罰的損害及び利益の喪失については一切の責任を負いかねますので ご了承ください これは たとえ JETRO がかかる損害の可能性を知らされていても同様とします なお 本レポートは JETRO が発行時点に入手した情報に基づくものであり その後の法律改正等によって変わる可能性があります また 掲載した情報 コメントは著者及び JETRO の判断によるものですが 一般的な情報 解釈がこのとおりであることを保証するものではないことを予めお断りします 130