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Transcription:

連載企画 DICOM の基礎 第 1 回 DICOM 規格の歴史 JIRA 医用画像システム部会 DICOM 委員会鈴木真人 1. はじめにこの解説では DICOM 規格に関する基礎知識とその応用方法を広くご説明するために 5 回の連載を予定しています 主な内容は第 1 回 : DICOM 規格の歴史第 2 回 : DICOM 規格におけるサービスとオブジェクト第 3 回 : 適合性宣言書 (C/S) の使い方第 4 回 : DICOM 規格の便利と不便第 5 回 : DICOM 規格の周辺と未来の予定です 長期にわたる連載なのでその間に DICOM 規格自体が大きく変化していく可能性も考えられます 上に挙げたテーマに関わらずその時点でのトピックスも交えて分かりやすくご説明していく所存ですのでよろしくお付き合いください 2.DICOM 規格の歴史ここでは DICOM 規格が現在に至るまでを無規格紀 ACR-NEMA 紀 DICOM 紀の 3 つの時代に分割してそれぞれの時代でのトピックスをご紹介します 2.1 無規格紀はるか昔 (?) の医用画像はその場で直接見るだけでした X 線の直接透視像などをその場で診断しなくてはならず 当時の医師は大変なプレッシャーがあったと思います それがフィルムなどの記録媒体に保存されていつでも何回でも見られるようになりました これもフィルムのサイズや感度などのいろいろな規格が決められたからこそ 普及しました 超音波や内視鏡など医用機器が動画を生成するようになると 動画を記録する要望が出てきました これに応えたのがビデオテープでした これも家電業界としてビデオテープの規格が (2 つありましたけれど ) きちんと決められていたからこそ応用できた事例です 1970 年代に入ると医用画像も CT や CR MR に代表されるデジタル画像が主流になり 高品質な画像の転送や複製が可能になってきました 装置の高性能化に伴い生成される画像のデータ量が飛躍的に増大した結果 装置ごとに画像を保管するのは非効率であることも分かってきました また総合画像診断と呼ばれるマルチモダリティ読影が診断能を向上させることも研究され 臨床の現場では何台ものモニタを横に並べた読影スペースが時代の先端を行く環境としてもてはやされましたが 画像を表示するまでの手間や表示フォーマット 画像処理 ( 例えば濃淡処理 ) のやり方などはバラバラのままでした 当然の結果として 臨床現場から全ての種類の画像を統一的に扱うシステムの要望が出てきました これに対していくつかのベンダは自社製品であれば複数種類の画像が一つの WS 上で観察できるような装置を開発しました しかしほとんどの医療施設は複数のベンダの装置を混在使用しており 仲間はずれになる装置が出てきて 何とかならないのかという不満の方が大きくなってきました 2.2 ACR-NEMA 紀 1983 年に医用機器の最大マーケットである米

国において ACR (American College of Radiology) が米国放射線科医の声をまとめ 医用装置の規格制定団体である NEMA (National Electric Manufacturers Association) と合同で医用機器の相互通信規格を作ることに着手しました この発想は 1980 年代初頭から ISO が提唱していた OSI の 7 階層に起因しています OSI は Open Systems Interconnection の略で 異なる通信会社間でも正しく情報が受け渡せる通信システムを目的にモデル化したものです OSI の 7 階層の定義は第 7 階層 : アプリケーション層 ( 通信ソフトと人間の接点 ) 第 6 階層 : プレゼンテーション層 ( データを理解できる形式に揃える ) 第 5 階層 : セッション層 ( データ全体を送り終える ) 第 4 階層 : トランスポート層 ( データの断片 ( フレーム ) をエラーなく送る ) 第 3 階層 : ネットワーク層 ( フレームを送る途中経路を確定する ) 第 2 階層 : データリンク層 ( フレーム単位の転送を制御する ) 第 1 階層 : 物理層 ( フレームをやり取りするインタフェースを制御する ) となっています アプリケーション層を取り替えれ ばインターネットの閲覧やメールの送受信といった種々のアプリケーションへの対応が可能になり 物理層を取り替えればケーブル接続やワイヤレス接続に対応できるようになります さて 1980 年代に登場した ACE-NEMA 規格ですが ACR-NEMA 規格 V1 の中で今でも通用するのは上位層の概念だけです 第 6 階層の DICOM データフォーマット ( タグを定義し データを格納する ) はこの時代で既に大枠が決まったと言っても良いでしょう これに比べて下位層はとても現在まで生き残れる様な規格ではありませんでした 第 1 階層で定義された専用ケーブルは 16 ビットデータ+パリティやクロック信号をまとめた 50 芯の巨大なケーブルで これが行き先別に 2 本ずつ必要とされました これはベンダにもユーザにも受け入れにくいスペックでした 1988 年に ACR-NEMA 規格 V2 が発表されました V2 では多くのタグが追加定義され また現在当たり前のように使われている (Study-Series-Image) の画像の 3 階層が定義されたのも V2 になってからです 画像の通信に関して言えば V2 でほぼその構造は完成しました 表 2.2.1に OSI に対応した ACR-NEMA と DICOM 規格の階層構造を示します 後述する DICOM 規格が世の中の標準に大きく歩調を合わせていることが分かると思います 表 2.2.1 OSI 7 階層と ACR-NEMA DICOM の階層設計 OSI 7 階層 ACR-NEMA 規格 DICOM 規格 7. アプリケーション層 画像通信 画像 レポート 患者情報他 6. プレゼンテーション層 DICOM フォーマット DICOM フォーマット 5. セッション層 画像単位 セッション単位 4. トランスポート層 独自パリティチェック 標準 TCP 3. ネットワーク層 独自 1:1 接続 標準 IP 2. データリンク層 独自同期 標準 MAC 1. 物理層 独自並列信号線 標準 ( イーサネットや FDDI)

JIRA は ACR-NEMA 規格 V1 を MIPS87 として また V2 を MIPS89 として和訳し公開しました 多くの国内ベンダは MIPS89 で規定された新たな概念や多くのタグを積極的に取り入れ 他社接続という目に見える実績をアピールするのではなく 自社装置内の画像データベースの構造や情報をタグ表現で統一すると言った装置内部の統合作業を行いました ACR-NEMA ではありませんが RS232C を用いた RIS-モダリティ接続ではこの概念が比較的普及し 効率的な接続インフラの基盤となりました 国内でなかなかベンダ間の画像通信が普及しない現状を打破するために医療情報システム開発センタが中心となって メディアを使った画像の保管と相互交換が検討されました これは物理メディアに当時最先端の 5 インチ MO (Magneto Optical Disk) を指定し その中に ACR-NEMA 規格 V2 に準じた画像オブジェクトを書き込むというものでしたが MO に書き込む時間と手間 医用機器の画像発生量の急激な増大に伴う高密度メディアへの対応など 規格を作る際に必ずネックとなる改定作業が間に合わず いつの間にか使われなくなってしまいました 2.3 DICOM 紀 ACR-NEMA 規格をまとめる中心となっていた ACR と NEMA 内の ACR-NEMA 委員会 (ACR-NEMA Committee) は規格の更なる発展と普及を目指して大きな変更を加えました まず 1993 年に規格の制定機関を独立させて DSC (DICOM Standards Committee) を作りました NEMA は DSC をサポートする立場となり ACR は他国の医療関係団体と同列に1メンバーとなりました 医療情報 ( 当時対象としていたものはほぼ画像だけでした ) のオブジェクト指向とタグ表記方法 それに検査 シリーズ 画像の 3 層構造が引き継がれ 更に大幅な定義の拡張を加えて DICOM 規格が 1993 年に登場しました この際規格の制定団体が変わったことから ACR-NEMA V3 とは呼ばずに新たな名称を持った DICOM として生まれ変わりました 最終版の ACR-NEMA 規格と最近の DICOM 規格の内容を比較対応させたものが表 2.3.1 のようになります ACR-NEMA 1988 内容 表 2.3.1 ACR-NEMA 規格と DICOM 規格の構成の違い 参照している外部規格の定義と規格の技術的概要 DICOM2009 PS 内容 3.1 序文と概要 性能の表記 3.2 適合性 メッセージ形式 3.3 情報オブジェクト コマンド構造 3.4 サービスクラス メッセージ内容 3.5 データ構造と符号化 3.6 データ辞書 データ交換方式 3.7 メッセージ交換 ハードウェアと通信方式 3.8 ネットワーク通信 3.10 可搬媒体ファイル構造 3.11 可搬媒体応用 3.12 可搬媒体物理構造 3.14 グレースケール表示関数 3.15 セキュリティ 3.16 コンテンツマッピング メッセージの送受信の例とデータエレメントの詳細 3.17 詳細説明資料 3.18 web アクセス

これを見ると メッセージとコマンドの組み合わせはオブジェクトとサービスという言葉で置き換えられていますが基本的な章立ては似通っていることが分かります 可般媒体 表示系 セキュリティ web アクセスなどは ACR-NEMA の時代では必要性とそれに見合う技術が存在しなかったのだと考えられます 2.4 DICOM 進歩のトピックスここでは 1993 年頃の初代 DICOM 規格が現在に至るまでに対応してきた大きな変化を時代順に追いかけてみることにします 1モダリティ種別の大規模な追加 DICOM PS3.4 で定義しているオブジェクト ( データ種別 ) に現在使われているいろいろな種類が追加され 現在では 50 分類以上が登録されています この中にはいわゆる新規モダリティの増加だけでなく 文字データ ( 例えば画像を発生しないモダリティの検査情報 ) や 画像と文字の複合体 ( 例えばレポート ) も含まれています 2 外部規格の参照検査指示やレポートで使われる単語や値の意味を既存の外部規格を参照することで定義するようになりました これにより関係団体 ( 各種の医学会や規格制定団体 ) との整合を取りながら DICOM も進化していく現在のスタンスが確立しました 例えば撮影で指示する部位やレポートで使う病名などは DICOM で定義するよりも既に存在する専門規格を参照 流用する方が汎用的ですし更新も的確に行われていくはずです そこで DICOM ではこのような情報を表現する際参照元の規格名を提示し 続くタグでその値 ( 大抵は番号や省略された文字列 ) を表記する方式が取られています 3 拡張画像フォーマットの採用 2001 年には画像として初めて Enhanced MR オブジェクト (Enhanced image object: 一般的なマルチフレームを機能強化したファイル形式 ) が定義されました 以降 CT など主要モダリティが続々と拡張フォーマットに対応していきます 4 圧縮方式の対応拡大 2003 年にインターネットなどで開発が進んだ画像の圧縮技術が大幅に採用されました ただ 個人的な感覚ですが DICOM では市場に存在する多くの種類の圧縮方式を DICOM で採用することができる候補として定義したので 接続する 2 社の間で同じ圧縮方式がサポートされている可能性 ( その圧縮形式で画像転送が可能になる可能性 : だめな場合は非圧縮で送らなくてはならない ) が逆に下がってしまった感があります 5 可搬型メディアへの対応リムーバブルメディアに複数の画像を書き込み それらを相互利用する手段として可搬型メディアが定義されました PDI (Portable Data for Imaging) は IHE が定義している運用形式 ( プロファイル ) の一つですがこれを規格化しているのが DICOM の可搬型メディアです CD-R から始まり USB メモリやブルーレイディスク ( 審議中 ) に拡大されていきます 6 表示フォーマットのサポート最終的に ( 複数の ) 画像がディスプレイに表示されるとき それらの画像がどのような位置関係 ( マンモの 2 枚が正しく横並びになるなど ) に表示されるかは効率的でミスの無い診断に大きな影響を及ぼします DICOM は基本的に画像 ( 群 ) をオブジェクトとして送りつけるまでがその役割だったのですが 最近の改定によって表示フォーマットに関してある程度の指定ができるようになりました これが Hanging Protocol や Structured Display などの名称でオブジェクトとして相手に渡すことが可能となっています 画像をモニタに依存せずに同じように見せる工夫が IHE のプロファイル GSPS(Grey Scale Presentation State) として定義されていますがこれをサポートしているのが DICOM の GSDF (PS3.14 Grayscale Standard Display Function) で 一般に Part14 対応と呼ばれています 最後に医用画像通信の分野で DICOM 規格

がほぼデファクトと呼ばれるまでに普及した理由をいくつか箇条書きに挙げて本稿の終わりとしたいと思います 1 本当に標準規格がなくて困っている人が多かった 2 当初は範囲と目的が適度に狭くてユーザもベンダもとっつきやすかった 3 規格の定義が適度にあいまいで利用しやすかった 4 ユーザとベンダが対等に議論して作り上げた 5 最新技術への対応が早い 6 他の規格との整合を考えている 7 各国の事情に合わせたローカライゼーションの余地がある 8 普及推進に積極的である これらも見方を変えれば欠点となり得る可能性が高い項目ですが あえてこのような姿勢を貫いた規格制定組織は結果として DICOM 規格の普及に成功したといえると思います 次回は DICOM 規格におけるサービスとオブジェクトと題して DICOM 規格の詳細をご説明する予定です