第 1 回仮登記仮登記の意義 仮登記された権利の処分 1 仮登記の意義 (1) 一号仮登記と二号仮登記 仮登記とは 1 実体法上の権利変動が生じているものの 申請に必要な添付情報 1 を提供できない場合 (105 条 1 号 ) 実体法上の権利変動は生じていないが その権利変動に関する請求権を有している場合 ( 例えば所有権移転の請求権等 )(105 条 号 ) これらの場合に あらかじめ登記の順位を保全するためにする登記をいう 1 を条件不具備の仮登記あるいは 1 号仮登記 を請求権保全の仮登記あるいは 号仮登記という 事例 1 B が A から土地を買い受けたが A が登記識別情報通知書 ( 登記済証 ) を保管した場所を忘れてしまい 所有権移転登記の申請書に添付できない状態である 仮登記をしておけば 後日 これに基づく本登記を申請することにより 仮登記によって保全された順位で登記の効力 ( 対抗力 ) が生ずる この効力を 仮登記の順位保全効力という 事例 1 は実体法上の A から B への権利変動は生じているものの 手続上の不備があるために本登記を申請することができない例である この場合 B は自己名義の所有権移転仮登記 (1 号仮登記 ) を申請して 将来申請する本登記の順位を保全できる 順位番号登記の目的受付年月日 受付番号権利者その他の事項 所有権移転平成 年 4 月 1 日 所有者 ( 住所省略 ) A 第 4001 号 3 所有権移転 平成 年 5 月 6 日 原因平成 年 4 月 1 日売買 仮登記 第 5006 号 権利者 ( 住所省略 ) B 余白余白余白 * 余白の部分は 後日この仮登記に基づく本登記が申請された際に記録するために設ける空白部分である ( 規則 179 条 1 項 ) 事例 事例 1 において A から B への所有権移転登記が申請されない間に A は C にも甲土地を売り渡した B は C に所有権を対抗できるだろうか 1 登記識別情報又は第三者の許可 同意若しくは承諾を証する情報 ( 規 178) 始期付 停止条件付その他将来において確定することが見込まれる場合 1
順位番号 登記の目的 受付年月日 受付番号 権利者その他の事項 所有権移転 平成 年 4 月 5 日 原因平成 年 4 月 1 日売買 第 4005 号 所有者 ( 住所省略 ) A 3 所有権移転 平成 年 5 月 6 日 原因平成 年 5 月 1 日売買 仮登記 第 5006 号 権利者 ( 住所省略 ) B 4 所有権移転 平成 年 6 月 4 日 原因平成 年 6 月 1 日売買 第 6004 号 所有者 ( 住所省略 ) C 前述のとおり 仮登記に基づく本登記をすると 保全された順位で対抗力を生ずる B は C に優先する順位番号を確保するために C への所有権移転の仮登記または本登記の申請より先に 所有権移転仮登記 (1 号仮登記 ) をしておけば 後に本登記をした段階以降 C に対抗できる 順位番号 登記の目的 受付年月日 受付番号 権利者その他の事項 所有権移転 平成 年 4 月 5 日第 4005 号 原因平成 年 4 月 1 日売買所有者 ( 住所省略 ) A 3 所有権移転平成 年 5 月 6 日原因平成 年 5 月 1 日売買仮登記第 5006 号権利者 ( 住所省略 ) B 所有権移転 平成 年 7 月 1 日第 7001 号 原因平成 年 5 月 1 日売買所有者 ( 住所省略 ) B 4 所有権移転 平成 年 6 月 4 日第 6004 号 原因平成 年 6 月 1 日売買権利者 ( 住所省略 ) C 5 4 番所有権抹消 余白 3 番仮登記の本登記により平成 年 7 月 1 日登記 B の本登記は C の登記 (4 番 ) に後れて申請されることになるが 仮登記と同じ順位番号 (3 番 ) で登記が実行される したがって B は所有権を C に対抗できることになる このとき C の所有権移転登記は登記官の職権で抹消され 登記事項証明書では下線が引かれる (109 条 項 ) C の所有権移転登記の記録を残したままだと 所有権が A B C と移転し 最終の所有者が C であるかのように公示されてしまうためである 後述するが 3 番仮登記に基づく本登記の申請に際しては 添付情報として 登記上の利害関係人 (C) の承諾証明情報またはこの第三者 (C) に対抗できる裁判の証明情報 ( 判決書 ) が必要となる (109 条 令別表 69 添付情報イ )
仮登記ができる権利 (1)1 号仮登記と 号仮登記の違い 基本的には 物権変動が生じていれば 1 号仮登記 物権変動が生じていなければ 号仮登記による という原則から それぞれの特徴を理解することができる 1 実体法上の物権変動はすでに生じているにもかかわらず 一定の添付情報が提供できないために登記の申請ができない場合 (105 条 1 号 ) 1 号仮登記ができるのは 種々の添付情報のうち 登記識別情報 ( 登記済証 ) と登記原因についての第三者の許可 同意または承諾を証する情報 ( 令 7 条 1 項 5 号ハ ) が提供できない場合の つに限られる (105 条 1 号 規則 178 条 ) 請求権を保全する場合 始期付きまたは停止条件付きの請求権を保全する場合 将来確定することが見込まれる請求権を保全する場合 (105 条 号 ) すなわち 実体法上の物権変動は生じていないものの 登記によって保護されるべき請求権等がある場合である 3 物権変動そのものが始期付きまたは停止条件付きである場合 (105 条 号を類推 解釈 ) 条文上は明記されていないが 105 条 号を類推解釈することによって認め られている仮登記である 関係先例 ( ア ) 仮登記をしてある同一物件について 重ねて仮登記ができる (M33 民刑回答 ) ( イ ) 登録免許税不調達を理由とする仮登記の申請は受理されない (S4 10 7 民事 8689 号回答 ) ( ウ ) 所有権移転の仮登記の申請には申請情報と併せて 仮登記権利者の住所証明情報を提供することを要しない (S3 5 6 民甲 879 号通達 ) 本登記の申請の際に提供すれば足りるためである ( エ ) 印鑑証明書の提出不能を理由とする仮登記の申請は 受理すべきでない (S9 10 5 民甲 0 号通達 ) () 仮登記の可否 本登記の申請ができる権利は仮登記の申請もできるのが原則である しかし 仮登記申請をするための申請要件を満たさない仮登記は申請できない したがって 登記の目的および登記原因に留意して 仮登記できない事例を最初に把握することが重要となる 以下は代表的な例である 1 仮登記が認められない例 ( ア ) 共同根抵当権設定仮登記 共同根抵当権の設定は その登記が効力要件となる ( 民法 398 条の 16) 本登記以 3
前の段階では 物権変動の効果は発生しないため 1 号仮登記を申請できない また 設定契約をしたことを理由に 号仮登記を認めたのでは 登記を効力要件と 定めた民法の趣旨に反することになり 号仮登記の申請も認められない ( イ ) 抵当権の順位変更の仮登記 抵当権の順位変更も その登記が効力要件とされている ( 民法 374 条 項 ) よっ て 共同根抵当権設定仮登記と同様に認められない ( ウ ) 相続を原因とする所有権移転仮登記 所有権移転請求権仮登記 相続登記は登記識別情報等の添付情報が不要であり 手続上の要件である添付情報の不備ということがあり得ないため 1 号仮登記の申請は認められない また 遺留分を有する推定相続人は 相続財産に対する期待権を有しているが 通常の条件付権利と異なり 遺留分減殺請求権が実際に発生するかどうかは分からないため 請求権 ( 始期付きまたは停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものを含む ) には該当せず 号仮登記もできない ( エ ) 遺贈または遺贈予約を原因とする所有権移転請求権仮登記 遺贈により権利を取得する予定があっても この期待権は 推定相続人におけると同様 請求権 ( 始期付きまたは停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものを含む ) には当たらず 号仮登記はできない ( 登記研究 35) なお 遺贈による 1 号仮登記は申請できる ( オ ) 財産分与予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記 財産分与は 離婚が成立することにより効力が生ずるが 法律上 離婚の予約は認められていない そして 財産分与の予約も 離婚の予約の一内容であるため 同様に認められない したがって 離婚が確定するまでは その請求は法的な効力を持たず 保全すべき請求権は存在しないことになるため 号仮登記は申請できない (S57 1 16 民三 51 号回答 ) ( カ ) 譲渡担保を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記 譲渡担保契約がなされると その段階で その目的である所有権その他の権利自体が設定者から譲渡担保権者に移転するので 請求権が発生することはなく 号仮登記をする余地はない 3 (S3 1 14 民甲 76 号回答 ) 1 号仮登記として譲渡担保を原因とする所有権移転仮登記は申請できる ( キ ) 信託を原因とする所有権移転請求権の仮登記および信託の仮登記 信託契約がなされると同時に その目的である所有権その他の権利が委託者から受託者に移転するため 請求権が発生することはなく 号仮登記をする余地はない 3 譲渡担保予約の場合 号仮登記は可能 4
( 登研 508) ( ク ) 根抵当権の元本確定の仮登記 根抵当権の元本確定は 確定事由の発生により当然に生じ( 民法 398 条の 19 398 条の 0) その登記は 単に確定があったことを公示するものにすぎず 対抗力その他の実体法上の効力を持つものではない したがって 順位保全の目的で行われる仮登記をする実益はない ( ケ ) 賃借権設定の仮登記 賃借権は債権であり 賃借人は当然にはその登記を賃貸人に対して請求する権利を持たない ( 大判 T10 7 11) したがって 賃貸借契約の当事者間に 賃借権の登記をする旨の特約がある場合に限って 賃借権者は設定者に対して登記請求権を有することになり 仮登記も可能となる ( コ ) 会社分割の予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記 会社分割は 分割の効力発生日( 吸収分割の場合は契約で定めた日 新設分割の場合は設立登記の日 ) において効力が生じるので ( 会社法 49 条 759 条 764 条 ) 分割前において物権的効力はもちろん 債権的効力も生じない したがって 会社分割の予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記は申請できない ( 登記研究 647-137) 仮登記が認められる例 ( ア ) 所有権保存登記の仮登記 所有権保存登記は単独申請であるため 無制限に仮登記を認めると 第三者による無断申請がされる恐れがある したがって 仮登記を命ずる処分を受けて その正本を提供したときのみ仮登記を認めることとされている (T13 6 13 民事局長回答 ) ( イ ) 買戻特約の仮登記 買戻特約の登記(96 条 規則 3 条 9 号 ) は 売買契約に基づく所有権移転登記と同時に行われるが 所有権移転登記が仮登記の場合には 買戻特約の登記も仮登記として申請する なお この場合は同時に申請する必要はない (S36 5 30 民甲 157 号通達 ) ( ウ ) 根抵当権の極度額変更の仮登記 根抵当権の極度額の変更登記は 利害関係人の承諾を得ることを効力要件とする登記であるが ( 民法 398 条の 5) 承諾は得たものの 承諾証明情報が調わない場合もあり得る この場合には 当事者の権利を保護する必要があり 仮登記を認める実益がある ( エ ) 農地についての農地法所定の許可を得ることを条件とした 売買による所有権 5
移転仮登記 農地法所定の許可を得ることは 農地の所有権移転の効力発生要件である そこで 許可を得ることを条件とした売買は 条件付権利として 号仮登記の対象になる (S 41 11 8 民三 918 号回答 ) 農地法の許可を得たが 単に書面を添付できないことによる仮登記(1 号仮登記 ) も申請できるが 農地法の許可を得ていない段階での 1 号仮登記は 申請できない ( オ ) 死因贈与契約による始期付所有権移転の仮登記 死因贈与は贈与者と受贈者との契約により成立するが その効力は贈与者の死亡したときに発生する このように法律行為の発生時期を将来いつかは発生することが確実な事実 ( この場合は贈与者の死亡 ) という時期とする法律行為を期限の中でも始期の付された法律行為といい 105 条 号の 始期付きの請求権を保全する場合 に準じて 号仮登記ができる 関係先例および判例 ( ア ) 共有持分に対する賃借権設定の仮登記の申請はできない (S48 10 13 民三 7694 号回答 ) ( イ )1 号仮登記をした後においても 当該仮登記義務者から同一権利の処分による登記の申請があったときは これを却下できない (M3 7 7 民刑 1184 号回答 ) ( ウ ) 号仮登記を申請すべきであるのに 1 号仮登記を申請した場合でも その登記は順位保全の効力を有する ( 最判 S43 9 0) 3 仮登記の申請手続 (1) 共同申請と単独申請 1 共同申請 仮登記に関しても 権利に関する登記の一般原則どおり 共同申請による(60 条 ) この場合の登記権利者( 条 1 号 ) は 仮登記をすることにより 登記上 直接利益を受ける者であり 登記義務者 ( 条 13 号 ) は 仮登記をすることにより 登記上 直接に不利益を受ける登記名義人である 仮登記の共同申請については 登記識別情報の提供は不要とされている(107 条 項 ) 単独申請 一方 仮登記は予備登記であることから 次の つの場合に関して 単独申請の例外が認められている ( ア ) 仮登記義務者の承諾証明情報を提供してする仮登記権利者の単独申請 (107 条 1 項 ) 仮登記は共同申請の場合にも 仮登記義務者の登記識別情報の提供が省略されるなど 本人確認手続につき軽減化が図られている そこで 仮登記義務者の申請意思の確認手続に関しても 仮登記義務者の承諾証明情報が提供されれば 仮登記権利 6
者の単独での申請が認められる ( イ ) 仮登記を命ずる処分の決定書正本 (108 条 ) を提供しての仮登記権利者の単独申請 (107 条 1 項 ) 登記に必要な添付情報が揃わない場合等においては 登記義務者が仮登記申請に応じる承諾証明情報を出してくれれば 登記権利者の単独申請による仮登記が可能であるが 登記義務者が応じない場合でも 裁判所の仮登記を命ずる処分を得ることにより単独での仮登記申請が可能となる この仮登記を命ずる処分とは 仮登記義務者が登記に協力しない場合に仮登記権利者の申立てによって 不動産の所在地を管轄する地方裁判所が発する決定である 共同申請の当事者の一方が登記申請に非協力的な場合 判決による登記ができるが 裁判を提起し 勝訴し 判決による登記を申請するには かなりの時間を要する そして その間に第三者が登記申請をすることも考えられる点に関しては 仮登記も同様である しかし 仮登記は順位を保全するための予備登記であることから 判決による登記よりも簡易な手続で比較的早くできる裁判所の決定による登記が認められている 申請の際は 登記原因証明情報として 仮登記を命ずる処分の決定書の正本を提供する ( 令 7 条 1 項 5 号ロ ()) () 申請手続 仮登記の申請は 登記の目的 登記原因の書き方 添付書面の省略化 登録免許税に特色がある 以下は代表的な仮登記を共同で申請する場合の申請書と 申請後の登記記録の例である 1 所有権に関する移転 設定の仮登記 登記の目的登記原因 ( 例 ) ( ア ) 所有権に関する仮登記 (1 号仮登記 ) ( イ ) 所有権に関する請求権保全の仮登記 ( ウ ) 始期付き所有権移転の仮登記 ( エ ) 条件付き所有権移転の仮登記 ( オ ) 始期付き所有権移転請求権の仮登記 ( カ ) 条件付き所有権移転請求権の仮登記 所有権移転仮登記所有権移転請求権仮登記始期付所有権移転仮登記条件付所有権移転仮登記始期付所有権移転請求権仮登記条件付所有権移転請求権仮登記 平成 年 月 日売買平成 年 月 日売買予約平成 年 月 日売買 ( 始期 A 死亡 ) 平成 年 月 日売買 ( 条件農地法第 3 条の許可 ) 平成 年 月 日売買予約 ( 始期 A 死亡 ) 平成 年 月 日売買予約 ( 条件農地法第 3 条の許可 ) 7
1-( ア ) の場合の登記記録例 および ( イ ) との相違点 順位番号登記の目的受付年月日 受付番号権利者その他の事項 所有権移転仮登記平成 年 月 日原因平成 年 月 日売買第 号権利者 ( 住所省略 ) A 余白余白余白 ( イ ) の場合 所有権移転請求権仮登記 ( イ ) の場合 平成 年 月 日売買予約 1-( ウ ) の場合の登記記録例 および ( エ ) との相違点 順位番号 登記の目的 受付年月日 受付番号 権利者その他の事項 始期付所有権移転仮登記 平成 年 月 日第 号 原因平成 年 月 日売買 ( 始期 A 死亡 ) 権利者 ( 住所省略 ) B 余白余白余白 ( エ ) の場合 条件付所有権移転仮登記 ( エ ) の場合 平成 年 月 日売買 ( 条件農地法第 3 条の許可 ) 1-( オ ) の場合の登記記録例 および ( カ ) との相違点 順位番号登記の目的受付年月日 受付番号権利者その他の事項 始期付所有権移転 請求権仮登記 平成 年 月 日 第 号 原因平成 年 月 日売買予約 ( 始期 A 死亡 ) 権利者 ( 住所省略 ) B 余白余白余白 ( カ ) の場合 条件付所有権移転請求権仮登記 ( カ ) の場合 平成 年 月 日売買予約 ( 条件農地法第 3 条の許可 ) 8
添付情報 登記原因証明情報印鑑証明書代理権限証書 登録免許税不動産の価額 1,000 分の 10( 登税法別表第一 1(1) ロ (3)) 所有権以外に関する移転 設定の仮登記 登記の目的登記原因 ( 例 ) ( ア ) 所有権以外の権利に関する仮登記 (1 号仮登記 ) ( イ ) 所有権以外の権利に関する仮登記 ( 号仮登記 ) 抵当権設定仮登記 条件付抵当権設定仮登記 平成 年 月 日金銭消費貸借同日設定平成 年 月 日金銭消費貸借同日設定 ( 条件平成 年 月 日金銭消費貸借の債務不履行 ) 登記原因証明情報添付情報印鑑証明書 ( 登記義務者が所有権登記名義人の場合に必要 ) 代理権限証書登録免許税不動産 1 個につき 1,000 円 ( 登税法別表第一 1(1) ヘ ) -( ア ) の場合の登記記録例 および ( イ ) との相違点 権利部 ( 乙区 ) ( 所有権以外の権利に関する事項 ) 順位番号登記の目的受付年月日 受付番号権利者その他の事項 1 抵当権設定仮登記 平成 年 月 日 原因平成 年 月 日金銭消費貸借同日設定 第 号 債権額 金 円 利息 年 % 損害金 年 % 債務者 ( 住所省略 )A 権利者 ( 住所省略 ) 株式会社 C ( イ ) の場合 ( イ ) の場合条件付抵当権設定仮登記平成 年 月 日金銭消費貸借同日設定 ( 条件平成 年 月 日金銭消費貸借の債務不履行 ) 3 変更 更正の仮登記 例えば 既登記の抵当権の債権 利息を上げた場合などには 抵当権の変更の仮登記を申請できる その際 後順位抵当権者がいる場合には 登記上の利害関係を有する第三者として その者の承諾証明情報 ( 令別表 5 添付情報ロ ) を提供すれば付記登記 提供しなければ主登記で登記が実行される 注意すべきことは 付記登記で受けたいならば 仮登記の時点で登記上の利害関係人の承諾証明情報を提供しなければならないということである 主登記で実行され 9
た仮登記を 後日 付記登記に変更することはできない 4 抹消の仮登記 これに対して 抹消の仮登記をする場合には 登記上の利害関係人の承諾証明情報は 本登記の際に提供すれば足り 仮登記の際には提供は不要である 抹消登記は常に主登記として登記されるためである 4 仮登記された所有権の処分 (1) 仮登記された所有権の移転 1 1 号仮登記 1 号仮登記がされている場合には 実体法上は権利変動が生じているため 仮登記名義人は自己の有する所有権を譲渡することは可能である その際には仮登記された所有権を移転できる 号仮登記 号仮登記がされている場合 仮登記名義人はいまだ所有権者ではないが 所有権移転請求権や条件付所有権も一種の財産権であり この権利を譲渡できる ( 民法 19 条 ) その際は 号仮登記を移転する () 仮登記された所有権の移転以外の処分 所有権の移転以外の処分とは 仮登記された所有権を目的として 抵当権 地上権等の制限物権を設定することを意味する 1 1 号仮登記 1 号仮登記の所有権者は 所有不動産について抵当権や地上権を設定する権利を有しているため たとえその不動産に関して仮登記しか有していなくても それら権利が否定されるわけではなく 制限物権の設定契約は完全に有効となる ただし その登記に関しては 所有権に関する登記が仮登記であることから 抵当権等の設定登記も仮登記にとどまる 号仮登記 これに対して 号仮登記の仮登記権利者に関しては その有している権利の種類によって結論が異なる まず 単なる債権的な請求権( 所有権移転請求権 ) であった場合には 制限物権を設定できない 債権的請求権は物権ではないからである ただし 停止条件付権利に関しては 条件成就未定の間でも制限物権の設定が認められているため ( 民法 19 条 ) 号仮登記の内容が 停止条件付所有権移転仮登記などであった場合については 制限物権の設定の仮登記も可能である 10
(3) 仮登記所有権 仮登記請求権などの処分の形態 売買等を原因として A の権利が次のように移転する場合を例として 所有権に関 する仮登記の処分の形態を分類すると次のようになる 売買 売買 A B C 売買予約 売買予約 A B B C 説明 1 売買 売買 所有権は A から B に移転し B から C に移転した 現在の実体法上の所有権 者は C である ただ A から B への所有権移転が対抗力を有しない仮登記にすぎないため C も対抗力を有しない仮登記しか取得できない 登記の形式は B の権利が所有権であるため主登記になり B の権利が仮登記であることため仮登記となる 売買売買 予約 所有権は まず A から B に移転している そして C は売買予約をしただけで あり 請求権しか取得しない したがって 号仮登記を申請する 現在の実体法上の所有権者は B である 登記の形式は 1 と同様に主登記による 仮登記である 3 売買 売買 B は 売買予約をしただけであり 請求権しか取得しない そして B は C と売 予約 買契約を締結している B は所有権移転請求権保全の仮登記を申請するが 一方 C は所有権移転請求権保全の仮登記の移転を申請する これは B は もともと A に対する請求権しか有しておらず C との売買によっ て B の有していた請求権が C に移転するためである これにより B は A との 関係においても 請求権を有しないことになり 以後 C が直接 A に対して売買 予約の完結権を行使することになる この事例の場合は B の権利は完全に C に移転することになるので B から C への所有権移転請求権保全の仮登記の移転の申請に際しては B の登記識別情報 の提供が必要となる 登記の形式は B の権利は請求権であるため 付記登記になる また B の請求 権が C に完全に移転するため 仮登記ではなく本登記となる 4 売買 売買 実体法上の所有権者は A のままである B は A に対して所有権移転請求権を有 予約 予約 し C は B に対してこの請求権の移転請求権を有している C は売買予約をした にすぎないため C が B への予約完結権を行使するまでは B は A への請求権 を喪失しない 登記の形式は 請求権の移転に当たるため付記登記 そして 3 の場合と異なり 請求権は移転していないため仮登記となる 11
仮登記された所有権の移転の登記手続のまとめ 登記識別情報 形態 登記の目的 形式 ( 登記済証 ) 1 何番仮登記所有権主登記移転の仮登記仮登記 何番仮登記所有権の主登記移転請求権仮登記仮登記 3 何番所有権移転請求権の付記登記移転本登記 必要 4 何番所有権移転請求権の付記登記移転請求権仮登記仮登記 登録免許税課税価格 1,000 分の 10 ( 登税法別表第一 1(1) ロ ) 不動産 1 個につき 1,000 円 ( 登税法別表第一 1(1) ヘ ) 1 の申請後の登記記録 順位番号登記の目的受付年月日 受付番号権利者その他の事項 3 所有権移転仮登記 平成 年 月 日 原因平成 年 月 日売買 第 号 権利者 ( 住所省略 ) B 番仮登記所有権 平成 年 月 日 原因平成 年 月 日売買 移転の仮登記 第 号 権利者 ( 住所省略 ) C の申請後の登記記録 順位番号登記の目的受付年月日 受付番号権利者その他の事項 3 所有権移転仮登記 平成 年 月 日 原因平成 年 月 日売買 第 号 権利者 ( 住所省略 ) B 番仮登記所有権移転 平成 年 月 日 原因平成 年 月 日売買予約 請求権の仮登記 第 号 権利者 ( 住所省略 ) C 1
3 の申請後の登記記録 順位番号登記の目的受付年月日 受付番号権利者その他の事項 付記 1 号 所有権移転請求権仮登記 平成 年 月 日 原因平成 年 月 日売買予約 第 号 権利者 ( 住所省略 ) B 番所有権移転請求権 平成 年 月 日 原因平成 年 月 日売買 の移転 第 号 権利者 ( 住所省略 ) C 4 の申請後の登記記録 順位番号登記の目的受付年月日 受付番号権利者その他の事項 付記 1 号 所有権移転予約仮登記 平成 年 月 日 原因平成 年 月 日売買予約 第 号 権利者 ( 住所省略 ) B 番所有権移転請求権 平成 年 月 日 原因平成 年 月 日売買予約 の移転請求権仮登記 第 号 権利者 ( 住所省略 ) C 5 仮登記された所有権以外の権利の処分 (1) 仮登記された所有権以外の権利の移転 1 1 号仮登記 抵当権設定仮登記のされた抵当権の移転などが考えられるが 基本的には 仮登記された所有権の移転と同様に理解できる 所有権の移転との違いは すべて付記登記でなされること 書面申請の場合の印鑑証明書の添付は不要なこと 登録免許税は常に不動産 1 個につき 1,000 円という点である 号仮登記 抵当権設定請求権仮登記のされた請求権の移転などが考えられる これも上記 1 同様 所有権移転請求権の移転と同様に考えて差し支えない () 仮登記された所有権以外の権利の移転以外の処分 1 1 号仮登記 地上権設定仮登記のされた地上権に抵当権の設定などが考えられる 1 号仮登記がされているということは 物権変動はすでに生じていることになるため 仮登記された所有権に制限物権を設定できるのと同様に考えてよい 書面申請の場合の印鑑証明書 登録免許税については 1 号仮登記された所有権以外の権利の移転と同様 13
である ちなみに 仮登記された所有権に制限物権を設定するときの登記の目的は 甲区何番仮登記所有権の地上権設定仮登記 等となり 仮登記された地上権に抵当権を設定するときの登記の目的は 何番仮登記地上権の抵当権設定仮登記 となる 号仮登記 これに対して 号仮登記の仮登記権利者に関しては 所有権の場合と同様に その有している権利の種類によって結論が異なる まず 単なる債権的な請求権である地上権設定請求権に対しては 抵当権を設定できない ただし 停止条件付権利に関しては 条件成就未定の間でも制限物権の設定が認められるため ( 民法 19 条 ) 条件付地上権設定仮登記に対しては 抵当権を設定することが可能である なお この場合には 地上権自体が仮登記で登記されているため 抵当権も仮登記にとどまる 6 二重仮登記の可否 仮登記をしてある同一物件について重ねて仮登記をすることができる (M33.. 民刑局長回答 ) ただし 所有権に関しては二重に処分した場合の権利の錯綜を防ぐため 例えば所有権保存の仮登記名義人甲が乙に 乙が丙に純治所有権移転の仮登記をなした後は 甲又は乙から更に第三者に対する所有権移転又は抵当権設定の仮登記をすることはできず (T13.6.13 民事局長回答 ) これらの仮登記は 最後の順位の仮登記名義人に限りすることができることとされている 14
仮登記 仮登記の変更 更正 仮登記の本登記 1 仮登記された権利の変更 更正事例 1 A は B と B 所有の土地に抵当権を設定する契約をし その仮登記をした 利息は年 8% として登記したが これを年 10% とする契約が成立した A はこれを登記しなければならないだろうか 仮登記された権利の内容につき 後日 変更が生じたり 申請当初から錯誤による誤りがあった場合には その変更 更正を登記できる 例えば 仮登記した抵当権の利息を上げた場合 債権額を間違えて登記した場合等が考えられる 事例 1 において 変更登記をしないでいる間に 第三者 C が後順位で抵当権設定登記をしたとすると A が付記による利息の変更登記を申請する際には 登記上の利害関係人 C の承諾証明情報の提供が必要となる C が承諾しない場合には A は付記による変更登記ができず 変更は主登記でされるため C に対抗できない (1) 申請形態 仮登記の変更 更正も原則として共同申請であるが 仮登記義務者の承諾証明情報や 仮登記を命ずる処分がある場合には 仮登記権利者による単独申請が認められる (S4 8 3 民甲 437 号回答 ) () 申請手続 1 登記の目的 番抵当権設定仮登記更正 番抵当権設定請求権仮登記変更 等と記載する 原因 変更の場合は 変更 等と記載し 更正の場合は 錯誤 と記載する なお 変更の場合は変更の日付を記載するが 錯誤の場合は不要である 3 変更 更正後の事項 変更 更正後の事項を記載する 4 申請人 登記記録上利益を受ける者を権利者 不利益を受ける者を義務者として記載する 5 添付情報 登記識別情報 登記原因についての承諾証明情報の提供は不要である これらの添付情報は 変更 更正の対象になっている仮登記の申請に際しても提供が不要とされているためである 6 登録免許税 不動産 1 個につき 1,000 円 ( 登税法別表第一 1(14)) 7 登記の実行 15
付記登記によりなされる ただし登記上の利害関係人の承諾証明情報が提供できな い場合は主登記でなされる 1 号仮登記と 号仮登記の更正 変更 (1) 変更 更正の可否 仮登記された権利についての変更( 更正 ) 登記のほかに 1 号仮登記を 号仮登記に または 号仮登記を1 号仮登記に更正する登記もできる ( 登記研究 130) しかし 所有権移転の仮登記の後に 仮登記に基づかないで通常の所有権移転登記をしてしまった場合 この所有権移転登記を仮登記の本登記に更正することはできない (S36 3 31 民甲 773 号回答 ) () 登記手続 1 号仮登記と 号仮登記の変更 更正も仮登記の更正 変更登記なので 基本的な申請方法は 前述の 仮登記された権利の内容の更正 変更 と同様であるが次の部分が異なる 1 登記の目的 番所有権移転仮登記更正 番所有権移転請求権仮登記変更 等と記載する 申請人 原則として 仮登記名義人が登記権利者 所有権登記名義人等が登記義務者となる ただし 例外的に 1 号仮登記を 号仮登記に更正する場合は 所有権登記名義人等が登記権利者 仮登記名義人が登記義務者となる これは すでに権利変動が生じている場合にされる 1 号仮登記を いまだ権利変動が生じていない場合にされる 号仮登記にすることは 所有権登記名義人等に有利な登記となるためである 3 登記の実行 常に付記登記による 1 号仮登記を 号仮登記に更正する登記の申請書 登記の目的 番所有権移転仮登記更正 原 因錯誤 更正後の事項 目的所有権移転請求権仮登記 * 原因売買予約 権 利 者 ( 住所省略 ) A 義 務 者 ( 住所省略 ) B 添 付 書 面登記原因証明情報印鑑証明書代理権限証書 ( 以下省略 ) * 1 号仮登記と 号仮登記では 登記の目的および登記原因が異なるので 更正 後の事項についても 双方の記載を要する 16
申請後の登記記録 順位番号 登記の目的 受付年月日 受付番号 権利者その他の事項 1 所有権保存 平成 年 4 月 1 日 所有者 ( 住所省略 ) A 第 4001 号 所有権移転仮登記 平成 年 5 月 6 日第 5006 号 原因平成 年 4 月 1 日売買権利者 ( 住所省略 ) B 付記 1 号 所有権移転仮登記更正 平成 年 5 月 10 日第 5010 号 原因錯誤更正後の事項目的所有権移転請求権仮登記原因売買予約 3 本登記の申請の前提としての変更登記 更正登記 (1) 氏名等の表示の変更 更正登記 仮登記名義人の氏名等に変更( 更正 ) が生じているときは 本登記の前提として 仮登記名義人氏名変更 ( 更正 ) の登記等が必要となる (S38 1 7 民甲 3315 号通達 ) () 仮登記原因の変更 更正登記 1 号仮登記の本登記申請の登記原因は 仮登記申請の仮登記原因と同一でなければならない また 号仮登記の本登記申請の登記原因は 仮登記申請の仮登記原因と関連性を有することを要する つまり 号仮登記に関しては 仮登記原因が 売買予約 であれば 本登記原因は 売買 となり 仮登記原因が 代物弁済予約 であれば 本登記原因は 代物弁済 となる (S55 9 19 民三第 5618 号回答 ) 17