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資料 1 平成 30 年 7 月豪雨 に関する大気循環場の特徴 平成 30 年 8 月 10 日 気象庁気候情報課 1

第 41 巻 21 号 大分県農業気象速報令和元年 7 月下旬 大分県大分地方気象台令和元年 8 月 1 日

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電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

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あら

平成 30 年 2 月の気象概況 2 月は 中旬まで冬型の気圧配置が多く 強い寒気の影響を受け雪や雨の日があった 下旬は短い周期で天気が変化した 県内アメタ スの月降水量は 18.5~88.5 ミリ ( 平年比 29~106%) で 大分 佐賀関 臼杵 竹田 県南部で平年並の他は少ないかかなり少なか

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2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 横浜地方気象台月別累年順位更新表 横浜地方気象台冬日 夏日 真夏

報道発表資料

今年 (2018 年 ) の夏の顕著な現象 平成 30 年 7 月豪雨 記録的な高温 本から東海地 を中 に 広い範囲で記録的な大雨となった 東 本から 本を中 に 各地で記録的な高温となった 2

Taro-40-11[15号p86-84]気候変動


三重県の気象概況 ( 平成 30 年 9 月 ) 表紙 目次気象概況 1P 旬別気象表 2P 気象経過図 5P 気象分布図 8P 資料の説明 9P 情報の閲覧 検索のご案内 10P 津地方気象台 2018 年本資料は津地方気象台ホームページ利用規約 (

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2.1 の気温の長期変化 の 6 地点の 1890~2010 年の 121 年間における年平均気温平年 差の推移を図 2.1-2に示す の年平均気温は 100 年あたり1. 2 ( 統計期間 1890~2010 年 ) の割合で 統計的に有意に上昇している 長期変化傾向を除くと 1900 年代後半と

また 台風 18 号が九州から北海道へ縦断した 17 日 18 日は 全国から 41,000 通以上の写真付きのウェザーリポートが寄せられ 各地の被害状況を詳細に把握することができました 記録的大雨となった大分県からは道路の損壊や大規模冠水のリポートが届き 断続的に強い雨が降った岩手県沿岸からは大規

(40_10)615_04_1【4月上旬】01-06

日本の海氷 降雪 積雪と温暖化 高野清治 気象庁地球環境 海洋部 気候情報課

また 積雪をより定量的に把握するため 14 日 6 時から 17 日 0 時にかけて 積雪の深さは と質 問し 定規で測っていただきました 全国 6,911 人の回答から アメダスの観測機器のある都市だけで なく 他にも局地的に積雪しているところがあることがわかりました 図 2 太平洋側の広い範囲で

図 (a)2 月 (b)5 月 (c)8 月 (d)11 月における日本近海の海面水温の平年値 ( 左 ) と標準偏差 ( 右 ) 平年値は 1981~2010 年の 30 年平均値 単位 : 148

宇都宮と日光 ( 中宮祠 ) の気象表 要素平均気温 ( ) 降水量 (mm) 日照時間 (h) 地点平年差階級平年比階級平年比階級旬実況値平年値実況値平年値実況値平年値 ( ) 区分 (%) 区分 (%) 区分上旬 かなり高い かなり多い 5

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月中旬までの飛散量も昨年より少なく 半分程度の所もあります このため 東北では昨年よりもまだ症状が軽 い傾向ですが シーズンを通した飛散量は平年並で 昨年より多い予想なので 油断は禁物です 右の症状のグラフは スマホアプリ ウェザーニュースタッチ の 花粉 Ch. に 2017 年 1 月 19 日

( 表紙の図 ) 表面海水中の水素イオン濃度指数 (ph) の分布図 赤いほど ph が低いことを示す (p.10 図 Ⅳ.2)

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昭和 28(1953) 年 8 月 11 日 昭和 32(1957) 年 7 月 25 日 昭和 33(1958) 年 9 月 26 日 南山城の大雨 諫早豪雨 狩野川台風 8 月 13 日に サハリンからオホーツク海に進んだ低気圧から伸びる寒冷前線が 北海道の南東岸から東北地方北部を通って朝鮮半島

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宮城県災害時気象資料平成 30 年台風第 24 号による暴風と大雨 ( 平成 30 年 9 月 29 日 ~10 月 1 日 ) 平成 30 年 10 月 3 日仙台管区気象台 < 概況 > 9 月 21 日 21 時にマリアナ諸島で発生した台風第 24 号は 25 日 00 時にはフィリピンの東で

2019 年 5 月の青森県の天候 ( 速報 ) 特徴 高温〇少雨〇多照 令和元年 6 月 5 日青森地方気象台 1 天候経過全般この期間は高気圧に覆われ晴れる日が多かった 2 日と 8 日は気圧の傾きが大きくなり 暴風となった また 25 日から 27 日にかけて 最高気温が 30 以上の真夏日と

熊谷地方気象台対象地域埼玉県 平成 26 年 2 月 8 日から 9 日にかけての大雪に関する 埼玉県気象速報 1 資料作成の目的 2 気象の状況 3 警報等の発表状況 4 災害の状況 平成 26 年 2 月 10 日 熊谷地方気象台 この資料は速報として取り急ぎまとめたもので 後日内容の一部訂正や

気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

梅雨 秋雨の対比とそのモデル再現性 将来変化 西井和晃, 中村尚 ( 東大先端研 ) 1. はじめに Sampe and Xie (2010) は, 梅雨降水帯に沿って存在する, 対流圏中層の水平暖気移流の梅雨に対する重要性を指摘した. すなわち,(i) 初夏に形成されるチベット高現上の高温な空気塊

過去約 130 年の年平均気温の変化傾向 (1891~2017 年 ) 図 緯度経度 5 度の格子ごとに見た年平均気温の長期変化傾向 (1891~2017 年 ) 図中の丸印は 5 5 格子で平均した 1891~2017 年の長期変化傾向 (10 年あたりの変化量 ) を示す 灰色は長期

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2.1 の気温の長期変化 の年平均気温平年差の推 移を図 に示す の年平均気温は 100 年あ たり 1.3 の割合で上昇している 長 期変化傾向を除くと 1900 年代後半 と 1920 年代半ばから 1940 年代半ば までは低温の時期が続いた 1960 年 頃に高温の時期があり 1

( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )

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佐賀県の地震活動概況 (2018 年 12 月 ) ( 1 / 10) 平成 31 年 1 月 15 日佐賀地方気象台 12 月の地震活動概況 12 月に佐賀県内で震度 1 以上を観測した地震は1 回でした (11 月はなし ) 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 図 1 震央分布図 (2018 年 1

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3 大気の安定度 (1) 3.1 乾燥大気の安定度 大気中を空気塊が上昇すると 周囲の気圧が低下する このとき 空気塊は 高断熱膨張 (adiabatic expansion) するので 周りの空気に対して仕事をした分だ け熱エネルギーが減少し 空気塊の温度は低下する 逆に 空気塊が下降する 高と断

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石川県白山自然保護センター研究報告第27集


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平成 30 年 (1 月 ~12 月 ) における果実の取扱高 東京都中央卸売市場 1 果実の入荷概況平成 30 年 (1 月 ~12 月 ) (1) 平成 30 年の気象概況 (2) 果実の取扱高概況 (3) 主要品目別の取扱金額の動向 2 国産果実の概況 (1) 1 月 ~3 月期の取扱実績 (

要旨 昨秋 日本に多大な被害を与えた台風 15 号は静岡県浜松市に上陸し 東海大学海洋学部 8 号館気象台では過去 3 年間での最高値に相当する 1 分平均風速 25 m/s を記録した また 西日本から北日本の広範囲に暴風や記録的な大雨をもたらし 東京都江戸川区で最大風速 31 m/s を記録する

図 1 COBE-SST のオリジナル格子から JCDAS の格子に変換を行う際に用いられている海陸マスク 緑色は陸域 青色は海域 赤色は内海を表す 内海では気候値 (COBE-SST 作成時に用いられている 1951~2 年の平均値 ) が利用されている (a) (b) SST (K) SST a

データ同化 観測データ 解析値 数値モデル オーストラリア気象局より 気象庁 HP より 数値シミュレーションに観測データを取り組む - 陸上 船舶 航空機 衛星などによる観測 - 気圧 気温 湿度など観測情報 再解析データによる現象の再現性を向上させる -JRA-55(JMA),ERA-Inter

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3. 調査結果 3.1 期間を通じた気温の比較連続気象観測値から 今切川橋と土工部の徳島 IC 山沿いの大代古墳 IC( 標高約 20m) における期間を通じた気温の統計結果をまとめると 以下の通りとなった 1 今切川橋の雪氷期の平均気温は 大代古墳 TNより0.7 高く 徳島 ICより0.9 低か

台風経路図 9 月 5 日 09 時温帯低気圧に変わる 9 月 4 日 14 時頃兵庫県神戸市付近に上陸 9 月 4 日 12 時頃徳島県南部に上陸 8 月 28 日 09 時南鳥島近海で台風第 21 号発生 -2-

接している場所を前線という 前線面では暖かい空気が上昇し雲が発生しやすい 温帯低気圧は 暖気と寒気がぶつかり合う中緯度で発生する低気圧で しばしば前線を伴う 一般に 温帯低気圧は偏西風に乗って西から東へ移動する 温帯低気圧の典型的なライフサイクルは図のようになっている 温帯低気圧は停滞前線上で発生す

漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査地域検討会

表 3 の総人口を 100 としたときの指数でみた総人口 順位 全国 94.2 全国 沖縄県 沖縄県 東京都 東京都 神奈川県 99.6 滋賀県 愛知県 99.2 愛知県 滋賀県 神奈川

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あら

平成 30 年 7 月 ~9 月期における果実の取扱高 ( 併載 : 平成 30 年上半期 (4 月 ~9 月期 ) 取扱高 ) 東京都中央卸売市場 Ⅰ 平成 30 年 7 月 ~9 月期東京都中央卸売市場における果実の取扱高 1 果実の入荷概況 (1) 気象概況 ( 気象庁 HP 日本の天候の特徴

( 第 1 章異常気象と気候変動の実態 ) 2 図 ~2013 年に発生した世界の主な気象災害表 に示した気象災害のうち 特に規模の大きいものを示した 大雨 洪水 台風 ハリケーン ( 緑 ) 干ばつ ( 黄 ) 熱波 ( 紫 ) 寒波 ( 青 ) などの災害が報じら


平成 30 年 6 月の熱中症による救急搬送状況の概要 資料 平成 30 年 6 月の熱中症による救急搬送状況について調査を行ったところ その概要は以下のとおりでした 1 総数平成 30 年 6 月の全国における熱中症による救急搬送人員数は 5,269 人でした これは 昨年 6 月の救急搬送人員数

平成 30 年 3 月沖縄気象台

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第 I 部九州 山口県における 2018 年の天候と海洋の特徴 トピックス 1. 2017/2018 年冬の九州北部地方と九州南部の低温 2017/2018 年の冬は九州北部地方で低く 九州南部でかなり低くなり 平成では最も低温の冬となった 奄美地方でも低温であった 1.1 天候の経過 2017 年 12 月以降 全国的に気温がしばしば低くなり 寒気の流入のピーク時には大雪となった所もあった 九州地方でも 12 月から2 月にかけて 北からの寒気が流れ込み低温になり 九州北部地方の地域平均気温平年差が -1.3 九州南部では -1.4 と低く 32 年ぶりの低温となり 平成で最も寒い冬となった ( 表 1.1 図 1.1 図 1.2 参照 ) 表 1.1 2017/18 年冬 (12-2 月 ) の気温の地域平均平年差の記録 地方名 九州北部地方 九州南部 奄美地方 気温平年差 ( ) -1.3-1.4-0.5 階級 低い かなり低い 低い 図 1.1 九州北部地方 ( 山口県を含む ) の冬 (12 月 -2 月 ) の地域平均気温平年差の年々 変動 1

図 1.2 九州南部の冬 (12-2 月 ) の地域平均気温平年差の年々変動 2

1.2 要因低温や大雪をもたらした要因は以下のとおりと考えられる ( 図 1.3) 日本付近に強い寒気が流れ込むことが多かった要因としては 大気上層の偏西風が特に強い領域である亜熱帯ジェット気流と寒帯前線ジェット気流が 日本付近では南に蛇行するとともに 冬型の気圧配置が強まったことが考えられる ( 図 1.3 中のA) 亜熱帯ジェット気流が日本付近で南に蛇行した一因として ラニーニャ現象の影響により インドネシア付近の積雲対流活動が平年よりも活発だったことが考えられる ( 図 1.3 中の1) また 大西洋上空のジェット気流の持続的な蛇行の影響も考えられる ( 図 1.3 中の3) 寒帯前線ジェット気流が日本付近で南に蛇行した一因として ユーラシア大陸北部の寒帯前線ジェット気流の大きな蛇行により 通常北極上空に存在する寒冷な反時計回りのうず ( 渦 ) である極うずが分裂して 東シベリアから日本の北方に南下したことが考えられる ( 図 1.3 中の2) 前項のユーラシア大陸北部の寒帯前線ジェットの大きな蛇行の要因としては 大西洋上空のジェット気流の持続的な蛇行や バレンツ カラ海 ( ロシア北西海上 ) 付近の海氷が平年と比べてかなり少ない影響も考えられる ( 図 1.3 中の3 4) 図 1.3 2017/2018 年冬の平均的な大気の流れに関する模式図 3

トピックス 2. 平成 30 年 7 月豪雨 平成 30 年 (2018 年 )6 月 28 日から 7 月 8 日にかけて梅雨前線や台風の影響を受けて西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的大雨となり甚大な被害が発生した ( 平成 30 年 7 月豪雨 ) 九州 山口県では 特に 7 月 5 日から 8 日にかけては記録的大雨となり 九州 山口県内では 7 月 6 日から 7 日にかけて福岡県 佐賀県 長崎県で大雨特別警報が発表された 梅雨前線が停滞した 7 月 5 日から 8 日の広範囲で記録的な大雨をもたらした気象要因は 次の 3 つと考えられる (A) 多量の水蒸気の 2 つの流れ込みが西日本付近で合流し持続 (B) 梅雨前線の停滞 強化などによる持続的な上昇流の形成 (C) 局地的な線状降水帯の形成また 背景として地球温暖化の影響も考えられる 2.1 気象と被害の状況 2.1.1 平成 30 年 7 月豪雨の概要 6 月 28 日以降 華中から日本海を通って北日本に停滞していた前線は7 月 4 日にかけ北海道付近に北上した後 7 月 5 日には西日本まで南下してその後停滞した また 6 月 29 日に日本の南で発生した台風第 7 号は東シナ海を北上し 対馬海峡付近で進路を北東に変えた後 7 月 4 日 15 時に日本海で温帯低気圧に変わった 前線や台風第 7 号の影響により 日本付近に暖かく非常に湿った空気が供給され続け 西日本を中心に図 2.1 平成 30 年 7 月豪雨 の降水分布全国的に広い範囲で記録的 ( 期間 :6 月 28 日 ~7 月 8 日 ) な大雨となった 6 月 28 日から7 月 8 日までの総降水量が四国地方で 1800 ミリ 東海地方で 1200 ミ 4

リを超えるところがあるなど 7 月の月降水量平年値の2~4 倍となる大雨となったところがあった また 九州北部地方 四国地方 中国地方 近畿地方 東海地方 北海道地方の多くの観測地点で 24 48 72 時間降水量の値が観測史上第 1 位となる等 広い範囲で長時間の記録的な大雨となった ( 図 2.1) この大雨について 岐阜県 京都府 兵庫県 岡山県 鳥取県 広島県 愛媛県 高知県 福岡県 佐賀県 長崎県の1 府 10 県に各地の気象台が大雨特別警報を発表し 最大限の警戒を呼びかけた これらの影響で 河川の氾濫 浸水害 土砂災害等が発生し 死者 行方不明者が多数となる甚大な災害となった また 全国各地で断水や電話の不通等ライフラインに被害が発生したほか 鉄道の運休等の交通障害が発生した 2.1.2 九州 山口県での 7 月 5 日から 8 日にかけての記録的豪雨 前述のように 6 月 28 日から梅 雨前線や台風第 7 号の影響を受 けて広い範囲で記録的大雨とな ったが その中でも九州 山口県 では 7 月 5 日から 8 日にかけて 記録的な大雨となった 九州 山 口県内では 7 月 6 日から 7 日に かけて福岡県 佐賀県 長崎県で 大雨特別警報を発表した 東シナ海から対馬海峡を通過 し日本海に進んだ台風第 7 号の影 響で 九州付近には 7 月 4 日から 暖かく湿った空気が流入していた 梅雨前線は 5 日から 6 日にかけ て九州北部地方に停滞し 7 日夜 に一旦九州南部まで南下したあと 8 日夜には対馬海峡まで北上した このように 梅雨前線が九州付 近に停滞し続けたため 添田など では平年の 7 月の月降水量を上回 る大雨となった ( 図 2.4) また 九州 山口県内では 最大 1 時間 降水量が 4 地点 最大 24 時間降水 量が 7 地点 最大 48 時間降水量 図 2.2 地上天気図 2018 年 7 月 6 日 09 時 図 2.3 筑後川と山ノ井川の合流地点 ( 久留米市 ) の様子 ( 九州地方整備局のヘリから 7 月 7 日撮影 ) が 10 地点で観測史上第 1 位となるなど これまでの観測記録を更新する大雨となった 5 筑後川

このため 九州 山口県で死者 12 名の人的被害が発生したほか 土砂災害 洪水等が 起こり大きな被害が発生した 図 2.4 アメダス総降水量の分布図 (7 月 5 日 ~8 日 ) 6

2.2 豪雨の特徴と要因これまでの前線や台風による大雨事例と比べ 今回の豪雨では1 時間など短時間に集中した大雨ではなく 特に2 日間 (48 時間 ) から3 日間 (72 時間 ) の長い時間の降水量が記録的に多くなった地域が 西日本から東海地方を中心に広い範囲に広がっていたことが大きな特徴である 気象庁で有識者を集めた 異常気象分析検討会 での議論の結論によれば7 月 5 日から8 日にかけての西日本を中心に長期間かつ広範囲で記録的な大雨をもたらした気象要因は 次の3つと考えられる ( 図 2.5) (A) 多量の水蒸気を含む2つの気流が西日本付近で持続的に合流 (B) 梅雨前線の停滞 強化などによる持続的な上昇流の形成 (C) 局地的な線状降水帯の形成本事例では (A) と (B) が主な要因であり (C) の寄与が大きい地域もあった また (B) の梅雨前線の停滞 強化には亜熱帯ジェットや寒帯前線ジェットの蛇行が影響していると考えられる さらに 長期的には極端な大雨の強さが増大する傾向がみられており アメダス地点の年最大 72 時間降水量の変化傾向には 過去 30 年で約 10% の長期的な上昇がみられる ( 図 2.6) その背景要因として 地球温暖化による気温の長期的な上昇傾向と それに伴う大気中の水蒸気量の長期的な増加傾向にあることが考えられる 気温が1 上昇すると 水蒸気量が7% 程度増加することが知られている 今回の豪雨にも地球温暖化の寄与があったと考えられる 図 2.5 平成 30 年 7 月豪雨の発生要因の概念図 図中の (A),(B),(C) は本文中のそれに対応 7

図 2.6 全国の年最大 72 時間降水量の基準値との比の経年変化 1981-2010 年平均値に対する比の経年変化 ( 期間 :1976 年から ( 期間 :1976 年 ~2018 年 ) 2018 年 ) 棒グラフは全国のアメ棒グラフは全国のアメダス地点のうち 1976 年から 2018 1976 年の期間で観測が継続している年から 2018 継続している各地点 (685 地点 ) の 1981 年から 2010 年の平均値との比 (%) 地点 ( 685 を平均した値 直線地点 ) の基準値との比 ( 赤 (%) ) は長期変化傾向を平均した値 直線 ( 信頼度水準 ( 赤 ) は長期変化傾向 90% で統計的に有意 ( 信頼 ) 度水準 90% 2018 で統計的に有意年の値は8 月 ) 12018 日までのデータに基づく 年の値は8 月 1 日までのデータに基づく 基準 は観測の時間間隔を変更した年を示す (2003 年より前は1 時間間隔 以後は 10 分間隔 ) 8

トピックス 3. 2018 年夏の九州北部地方の記録的な猛暑 九州北部地方 ( 山口県を含む ) の地域平均気温の平年差は 夏 (6~8 月 ) の 3 か月平均でプラス 1.3 8 月の月平均気温の平年差もプラス 1.8 とかなり高く いずれも 1946 年の地域平均値の統計開始以降で最高となった 3.1 気象の状況九州北部地方では 梅雨明けが平年より早く 梅雨明け後は太平洋高気圧やチベット高気圧の勢力が強く晴れの日が続き 厳しい暑さとなり 地域平均気温の夏 (6-8 月 ) と8 月の統計開始以来最高となった ( 表 3.1) また 大分県日田で8 月 13 日に九州北部地方で1 位となる 39.9 の最高気温を観測するなど 多くの気象観測地点で高温の記録を更新した 一方九州南部では気温は高かったものの顕著なものではなかった ( 表 3.1) また奄美地方では台風や湿った空気の影響を受けやすかったため 曇りや雨の日が多かったことにより 夏平均の気温は低くなった ( 表 3.1) 表 3.1 2018 年夏の気温の地域平均平年差の記録 ( 単位 : ) 地方名 九州北部地方 九州南部 奄美地方 夏 (6-8 月 ) 1.3( かなり高い ) 0.6( 高い ) -0.1( 低い ) 6 月 0.6( 高い ) 0.6( 高い ) 0.4( 高い ) 7 月 1.6( かなり高い ) 0.4( 高い ) -0.6( 低い ) 8 月 1.8( かなり高い ) 0.7( 高い ) -0.1( 平年並 ) 3.2 猛暑の要因今回の記録的な高温をもたらした大規模な大気の流れとその要因は以下のとおりである ( 図 3.1) 日本付近には 太平洋高気圧と上層のチベット高気圧がともに張り出し続けた これにより 日本付近は暖かい空気を伴った背の高い高気圧に覆われるとともに 強い下降気流や 安定した晴天の持続による強い日射に伴って昇温した 特に九州北部地方では南海上の台風の影響で九州山地を越える局地的な気流の影響 ( フェーン現象 ) も加わり高温となる時期があった 太平洋高気圧の日本付近への張り出しの一因は フィリピン付近の積雲対流活動が平年より活発で 上昇した空気が日本付近で下降し太平洋高気圧を強めたことが考えられる また 亜熱帯ジェット気流が日本付近で北に大きく蛇行し持続したことも影響した 上層のチベット高気圧が日本付近に張り出した一因は 亜熱帯ジェット気流が日本付近で 強弱を繰り返しつつ北に大きく蛇行し続けたことが挙げられる 9

太平洋高気圧及び上層のチベット高気圧の影響に加えて 地球温暖化に伴う全球的な気温の上昇傾向が続いていることや 北半球中緯度域で全体的に対流圏の気温が著しく高かったことも 今回の記録的な高温における気温上昇を更に底上げしたものと考えられる ( 図 3.2) 図 3.1 2018 年 6-8 月の大気の流れの模式図 図 3.2 北緯 30-50 度帯で平均した大気 ( 高さ約 1500m~10000m) の夏 (6-8 月 ) の気温平年差の年々変動 平年値は 1981-2010 年平均地球温暖化に伴う長期的な上昇傾向とより短い周期での変動が見られ 2018 年は両者の影響が重なり合い大気の温度が顕著に高かったことが分かる 10

4. 2018 年の九州 山口県の天候の経過 2018 年は 冬は 32 年ぶりの低温 夏は九州北部地方では 2013 年と並ぶ 1 位タイの高温と 極端な天候の 1 年となった 春は奄美地方で高気圧に覆われた日が多かったため 降水量はかなり少なく 日照時間はかなり多かった 7 月上旬には 平成 30 年 7 月豪雨 により記録的な大雨となった所もあった 夏は奄美地方で台風や湿った空気の影響で降水量がかなり多かった 8 月は九州北部地方では統計開始以降最も高温 (1 位更新 ) で かなりの少雨 多照となった 2018 年の季節別の気温 降水量 日照時間の地域平均平年差 ( 比 ) の値を表 4.1 から表 4.3 に示す また 気温 降水量 日照時間の階級の色表現を表 4.4 に示す また 九州北部地方 九州南部 奄美地方の気温 降水量 日照時間の地域平均平年差 ( 比 ) の 2018 年の時系列図を図 4.1 から図 4.3 に示す 4.1 季節毎の概況冬 ( 前年 12 月 ~2 月 ) 強い寒気に覆われることが多かったため 32 年ぶりの低温となった 強い寒気に覆われることが多かったため 九州北部地方 ( 山口県を含む ) や九州南部地方では寒冬となった 特に1 月下旬及び2 月上旬は非常に強い寒気に覆われて 九州南部ではかなりの低温となった 春 (3 月 ~5 月 ) 暖かい空気に覆われたため気温がかなり高くなった 寒気の南下が弱く 期間を通して暖かい空気に覆われため 九州 山口県全体で気温 はかなり高かった 夏 (6 月 ~8 月 ) 九州北部地方では統計開始以降最も暑い夏 7 月は 平成 30 年 7 月豪雨 で記録的な大雨となった 8 月は九州北部地方では統計開始以降最も高温で 降水量がかなり少なく 日照時間がかなり多かった 奄美地方では台風や湿った空気の影響で降水量がかなり多かった 太平洋高気圧や ( 上層の高気圧である ) チベット高気圧の勢力が日本付近で平年に比べ強かったため 九州北部地方の夏の平均気温の平年差は +1.3 と統計開始 (1946 年 ) 以降で 2013 年と並び最も暑くなった また 7 月上旬は 本州付近に梅雨前線が停滞し 南からの大量の湿った空気が流れ込んだため 九州北部地方を中心に記録的な大雨となった所もあった 8 月は高気圧に覆われたことや南東の風の影響を受ける時期もあり 平均気温が統計開始 (1946 年 ) 以降最も高かったほか降水量もかなり少なく 日照時間はかなり多かった 一方 奄美地方では 台風の接近や湿った空気の影響を受けたため 11

曇りや雨の日が多く 降水量がかなり多かった 秋 (9 月 ~11 月 ) 9 月中心に前線や湿った空気の影響で九州 山口県全体で降水量が多かった 活発な前線や台風の影響で九州南部や奄美地方中心に大雨となった日もあり 降水量は多かった 特に9 月は 西日本付近に停滞する前線に向かって南から暖かく湿った空気の流れ込みにより熊本県や大分県及び宮崎県を中心に降水量が多かった 12 月 前線や寒気の影響を受け 曇りや雨の日が多かった 前線や寒気のほか 九州南部では湿った空気の影響を受け 曇りや雨の日が多かったため 九州南部では降水量はかなり多く 日照時間はかなり少なかった 平均気温の平年差は上旬の季節外れの暖かさもあり 九州南部と奄美地方ではかなり高かった 気温平年差 ( ) 冬 前年 12 月 ~2 月 春 3 月 ~5 月 夏 6 月 ~8 月 秋 9 月 ~11 月 表 4.1 2018 年の季節別の気温の地域平均平年差 九州北部地方九州南部奄美地方 -1.3 低い -1.4 かなり低い +1.4 かなり高い +1.3 かなり高い +1.2 かなり高い -0.5 低い +0.9 かなり高い +0.6 高い -0.1 低い +0.1 平年並 -0.1 平年並 -0.1 平年並 12 月 +1.1 高い +1.4 かなり高い +1.4 かなり高い 年間 (2018 年 ) +0.6 高い +0.3 高い +0.3 高い 12

表 4.2 2018 年の季節別の降水量の地域平均平年比 降水量平年比 (%) 九州北部地方 九州南部 奄美地方 冬前年 12 月 ~2 月 83 平年並 85 平年並 73 少ない 春かなり 107 平年並 96 平年並 65 3 月 ~5 月少ない 夏かなり 92 平年並 112 多い 159 6 月 ~8 月多い 秋 9 月 ~11 月 116 多い 133 多い 120 多い 12 月 153 多い 193 かなり多い 96 平年並 年間 (2018 年 ) 103 平年並 113 多い 112 多い 日照時間平年比 (%) 冬 前年 12 月 ~2 月 春 3 月 ~5 月 夏 6 月 ~8 月 秋 9 月 ~11 月 表 4.3 2018 年の季節別の日照時間の地域平均平年比 九州北部地方九州南部奄美地方 95 少ない 101 平年並 89 少ない 112 多い 118 多い 132 129 12 月 75 かなり 多い かなり 多い 101 平年並 91 少ない 97 平年並 104 平年並 106 平年並 かなり 少ない 年間 (2018 年 ) 109 かなり多い 70 かなり 少ない 78 少ない 104 多い 104 多い 表 4.4 気温 降水量 日照時間の階級の色表現 色 気温 降水量 日照時間 赤 かなり高い かなり少ない かなり多い ピンク 高い 少ない 多い 白 平年並 平年並 平年並 水色 低い 多い 少ない 青 かなり低い かなり多い かなり少ない 13

平成 30 年 7 月豪雨 6 月 5 日ごろ 梅雨入り 7 月 9 日ごろ 梅雨明け 図 4.1 九州北部地方 ( 山口県を含む ) の 2018 年の気温 降水量 日照時間の地域平均平年差 ( 比 ) グラフの値はいずれも5 日移動平均値を示す 気温の赤色は平年を上回り青色は平年を下回る 降水量 日照時間は平年比 100% より大きいと平年を上回り 100% より小さいと平年を下回る 14

7 月 9 日ごろ 6 月 5 日ごろ 梅雨入り 梅雨明け 図 4.2 九州南部の 2018 年の気温 降水量 日照時間の地域平均平年差 ( 比 ) グラフの値はいずれも 5 日移動平均値を示す 気温の赤色は平年を上回り青色は平年を下回る 降水量 日照時間は平年比 100% より大きいと平年を上回り 100% より小さいと平年を下回る 15

6 月 26 日ごろ 5 月 27 日ごろ 梅雨入り 梅雨明け 図 4.3 奄美地方の 2018 年の気温 降水量 日照時間の地域平均平年差 ( 比 ) グラフの値はいずれも 5 日移動平均値を示す 気温の赤色は平年を上回り青色は平年を下回る 降水量 日照時間は平年比 100% より大きいと平年を上回り 100% より小さいと平年を下回る 16

4.2 2018 年の梅雨の特徴 ( 梅雨入り ) 奄美地方では 4 月下旬の前半は湿った空気が流れ込みやすく 曇りや雨の日が多かったが 後半は高気圧に覆われて晴れた日が多かった 5 月に入ると大雨となった日もあったが 上旬から中旬にかけて天気は周期的に変化した 5 月下旬は 高気圧に覆われて晴れた日もあったが前線が奄美地方付近に停滞したため曇りや雨の日が多く 日照時間の少ない日が多かった このことから5 月 27 日ごろに梅雨入りした 九州南部 九州北部地方 ( 山口県を含む ) では 5 月中旬は中頃にかけて高気圧に覆われて晴れた日が多かった その後 6 月上旬のはじめ高気圧に覆われて晴れた日もあったが その後は前線が九州南岸付近に停滞した日が続き曇りや雨の日が多かった このことから九州南部 九州北部地方とも6 月 5 日ごろに梅雨入りした ( 表 4.5) ( 梅雨明け ) 奄美地方では 6 月中旬から下旬の前半は 梅雨前線の影響で曇りや雨の日が続いた 6 月 26 日から数日間は太平洋高気圧に覆われて晴れた日が続き この頃 5 日平均でみると日照時間の増加が見られることから 6 月 26 日ごろに梅雨明けした 九州南部 九州北部地方 ( 山口県を含む ) では 7 月はじめに朝鮮半島付近にあった梅雨前線が 5 日 ~ 8 日頃に九州北部付近に南下した その後は日本の南東海上に中心を持つ太平洋高気圧が西へ張り出したため梅雨前線は朝鮮半島付近まで押し上げた その後も梅雨前線は朝鮮半島付近から南下することなく九州南部と九州北部地方 ( 山口県を含む ) は 7 月 9 日ごろに梅雨明けした 梅雨期間の降水量は 奄美地方と九州南部では平年より多く 九州北部地方は平年並 だった なお 7 月上旬に 平成 30 年 7 月豪雨 など大雨となったところがあった ( 表 4.6) 表 4.5 2018 年の梅雨入り 梅雨明け 地域 梅雨入り 平年 梅雨明け 平年 九州北部地方 6 月 5 日ごろ 6 月 5 日ごろ 7 月 9 日ごろ 7 月 19 日ごろ ( 平年並 ) ( 早い ) 九州南部 6 月 5 日ごろ 5 月 31 日ごろ 7 月 9 日ごろ 7 月 14 日ごろ ( 遅い ) ( 早い ) 奄美地方 5 月 27 日ごろ 5 月 11 日ごろ 6 月 26 日ごろ 6 月 29 日ごろ ( かなり遅い ) ( 平年並 ) カッコ内は平年の時期との比較 なお 梅雨は季節現象であり その入り明けには平均 的に5 日間程度の移り変わりの期間がある 17

表 4.6 九州 山口県の主な地点の 2018 年梅雨期間の降水量 九州北部地方 ( 平年比 110% 平年並 ) 九州南部 ( 平年比 128% 多い ) 地点名降水量平年比平年値 (mm) (%) (mm) 下関 645.0 115% 561.9 福岡 733.5 138% 532.7 佐賀 732.5 108% 677.5 長崎 658.0 105% 629.0 熊本 663.0 82% 805.7 大分 574.0 109% 526.3 宮崎 1059.0 143% 738.6 鹿児島 776.0 101% 771.2 奄美地方名瀬 724.0 108% 668.8 ( 平年比 116% 多い ) 九州 山口県の6~7 月 ( 奄美地方は5~6 月 ) 合計降水量 ( 平年値は 1981~2010 年 の平均値 ) 18

5. 2018 年の九州 山口県周辺海域の海況 2 月は 東シナ海北部で海面水温が平年よりかなり低い海域がみられた 12 月は九州 山口県周辺海域で海面水温が平年よりかなり高い海域が広くみられ 東シナ海南部の海面水温は 12 月としては 1982 年以降で最も高かった ( 速報値 ) 2017 年 8 月に発生した黒潮大蛇行は 2018 年も継続した 5.1 2018 年の九州 山口県周辺海域の海面水温の経過 四国 東海沖 東シナ海北部と南部及び沖縄の東の旬平均海面水温平年偏差の時系列 (2009~2018 年 ) を図 5.1 に示す また 九州 山口県周辺海域の 2018 年 1 月から 12 月までの月平均海面水温平年偏差を図 5.2 及び図 5.3 に示す 以下に 九州 山口県周辺海域の海面水温の月毎の特徴を示す 1 月は寒気や平年より風が強かった影響で 東シナ海北部で平年より低い海域がみられた 2 月は強い寒気や平年より風が強かった影響で 東シナ海北部に平年よりかなり低い海域がみられるようになった 3 月は 風が弱かったことや暖かい空気の影響を受けたこと 下旬に平年より日射量が多かったことで平年よりかなり低い海域がみられなくなり 平年よりかなり高い海域がみられるようになった 4 月 5 月は平年より日射量が多く 風が弱かったことや暖かく湿った空気の影響で平年よりかなり高い海域が拡大した 6 月は台風第 5 号 第 6 号の影響で平年よりかなり高い海域が縮小した 7 月は東シナ海北部では 平年より日射量が多く 風が弱かったため 平年より高くなり 平年よりかなり高い海域もみられた 東シナ海南部では 台風第 7 号 台風第 8 号の影響で平年より低い海域が拡大した 8 月は 東シナ海北部では 台風第 12 号の影響で平年より低い海域がみられるようになった 東シナ海南部では 上旬に平年より風が弱く日射量が多かったため 月平均海面水温としては平年より低い海域が縮小し 中旬には平年より高い海域が拡大したが 中旬の台風第 14 号 第 18 号の影響や 下旬の熱帯低気圧の影響により 下旬には平年より低い海域が広くみられるようになった 9 月は平年より風が弱く 暖かく湿った空気に覆われたため平年より高くなった 10 月は 台風第 24 号 第 25 号と寒気の影響で平年よりかなり高い海域がみられなくなり 東シナ海南部では平年より低い海域がみられるようになった 11 月は平年より風が弱く 暖かく湿った空気に覆われたため 平年より高い海域がひろがり平年よりかなり高い海域がみられるようになった 12 月は暖かく湿った空気に覆われた影響で 平年よりかなり高い海域が拡大し 東シナ海南部の月平均海面水温の平年差は +1.3 ( 速報値 ) となり 海面水温の解析値が存在する 1982 年以降で 12 月としては最も高くなった 19

四国 東海沖 (30-35N,130-140E) 東シナ海北部 (30-35N,120-130E) 東シナ海南部 (25-30N,120-130E) 沖縄の東 (25-30N,130-140E) 図 5.1 九州 山口県周辺海域の旬平均海面水温平年偏差の時系列 (2009~2018 年 ) 縦軸は旬平均海面水温平年偏差 ( ) 横軸は年 ( 西暦 ) 20

2018 年 1 月 2018 年 2 月 2018 年 3 月 2018 年 4 月 2018 年 5 月 2018 年 6 月 図 5.2 各月の海面水温平年偏差 (2018 年 1 月 ~6 月 ) 21

2018 年 7 月 2018 年 8 月 2018 年 9 月 2018 年 10 月 2018 年 11 月 2018 年 12 月 図 5.3 各月の海面水温平年偏差 (2018 年 7 月 ~12 月 ) 22

5.2 2017 年 8 月下旬から継続する黒潮大蛇行 黒潮は 東海沖で南に大きく蛇行して流れる 大蛇行流路 と 四国 本州南岸に沿って流れる 非大蛇行流路 の二通りの安定した流路をとることが知られている 2017 年 8 月下旬から 黒潮は東海沖で大きく離岸して流れ 12 年ぶりに大蛇行流路となった この状態は 2018 年も続いた ( 図 5.4) 宮崎県の都井岬では 2017 年 3 月下旬に黒潮が離岸して小蛇行が発生しており これが黒潮大蛇行のきっかけになったと考えられる 都井岬沖では 小蛇行が東に伝播した後は 2018 年にかけて 接岸傾向が続いた なお 小蛇行のすべてが発達して安定した大蛇行流路になる訳ではない 図 5.4( 左図 )50m 深の海流図 色は流速 [ ノット ] 矢印は流向を示す 上から 都井岬南東沖 (2018 年 12 月 31 日 ) 潮岬南沖 (2018 年 12 月 31 日 ) 御前崎南沖 (2018 年 12 月 31 日 ) の様子を示す 青丸と緑丸はライン上の目印で 右図の目印と対応する ( 右図 )2017 年 3 月 ~2018 年 12 月の期間における 陸地 ( 都井岬 潮岬 御前崎 ) から黒潮までの距離 [km] 距離方向は左図の赤色の線分を参照 23