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農環研のモニタリング調査と福島原発事故の影響調査 独立行政法人農業環境技術研究所 土壌環境研究領域木方展治 1. はじめに 1945 年にアメリカが大気圏内核実験を実施し 同年広島 長崎に相次いで原爆を投下した 第 2 次世界大戦の終結後 1949 年に旧ソ連 1952 年にイギリスが大気圏内核実験を実施し 爆発の規模も巨大化していった 1954 年にはビキニ環礁でアメリカにより行われた水爆実験により 操業中の第 5 福竜丸が被曝した これを契機に 放射能による環境汚染が 日本国民に意識されるようになり 農作物も含めた食品の放射能モニタリングが行われるようになった その後も196 年にフランスが 1964 年に中国が大気圏内核実験を実施した 部分的核実験禁止条約が発効した1963 年を契機に大気圏内核実験は減少したが 一部の国においては継続され 198 年に中国が実施したものが最後の大気圏核実験となっている 1979 年にはアメリカスリーマイル島事故 1986 年には旧ソ連チェルノブイリ発電所事故が起こり 原子力発電関連施設の危険性が認識されるようになった 1999 年に東海村 JCO 臨界事故が起こり 日本でも事故が起こりうることが再認識させられた その後も北朝鮮が26 年と29 年に地下核実験を行ない 放射能モニタリング体制の充実が喚起された このようにみると 大気圏核実験が中止されて以降も 東京電力福島第 1 原子力発電所事故 ( 福島原発事故と称す までの間に 1 年に1 度程度は放射能モニタリングの重要性を思い起こさせるような事象が起こっていたことになる 農業環境技術研究所では 文部科学省が全体を総括し 農林水産省が農畜産物や水産物のモニタリングを行う放射能調査研究事業に設立当初から関わっており 1959 年から5 年以上にわたり 主要穀類 ( 米 麦 およびその栽培土壌の放射能モニタリングを続けてきた 以下にその概要を述べ 今回の福島原発事故の影響を速報値的に見ることにする 2. 農業環境技術研究所のモニタリング調査の概要対象とする長期モニタリング核種は半減期 3. 年の 137 Cs と半減期 28.8 年の 9 Sr である 福島原発事故後 5 月ぐらいまでは半減期 8. 日の 131 I による汚染が大問題であったが 6 月以降に採取されたモニタリング試料では検知されなかった また半減期 2.2 年の 134 Cs については 開始当初は技術的な問題もあってモニタリング対象核種としていなかったが 少なくとも事故前数年間は検知されていなかった 福島原発事故後は見出される場合も多く 濃度が高い地域では 212 年 2 月現在の被曝に対する寄与は 137 Cs と同程度とみられるため 福島原発事故後データを取っている 対象とする作物は米と麦であり 米については 21 年までの白米濃度と 21 年までの玄米濃度のデータがある 麦については 21 年までの玄麦濃度データがある 大部分は小麦であるが 近年 1 地点だけビール麦となっている 小麦粉データは過去数年おきに採取している 作土の 137 Cs については 1978 年までの酢酸アンモニウムによって抽出される置換態アンモニウム濃度

と 21 年までの全量濃度とがある 作土の 9 Sr については 水田土壌で は 1995 年までの置換態アンモニウ ム濃度と 21 年までの全量濃度とがある ただし 2 年までの全量濃度は 置換態アンモニウム濃度から算出した推定値を多く含んでいる 畑土壌では 2 年までの置換態アンモニウム濃度と 21 年から 21 年までの全量濃度とがある 211 年度データはまだ取得中であるが 玄米 玄麦 水田土壌 畑土壌の 137 Cs と畑土壌 (1 地点を除く No. 都道府県 1 北海道 2 秋田 3 新潟 4 石川 5 鳥取 6 福岡 7 岩手 8 宮城 9 茨城 1 埼玉 11 東京 12 山梨 13 三重 14 大阪 15 岡山太字は現在採取継続中の都道府県 の 9 Sr 濃度については分析を行図 1 長期モニタリング調査を行っている圃場の所在地った 長期モニタリングの採取地点を図 1に示した 都道府県および独立行政法人の農業関係試験研究機関の協力により 放射能の観測定点を各地の圃場内に設けている 現在米を 12 道府県 14 ヶ所から 麦を 6 道県 7 ヶ所から採取している 採取地は基本的には不変であるが 試験研究機関の移設等でまれに移転することがある かつては東京都 三重県でも採取を行った 米 小麦の 137 Cs を分析するには 従来試料を大型燃焼炉で灰化後 スチロール製平板容器に充填してγ 線スペクトロメトリのゲルマニウム半導体検出部に装着させ 放出されるガンマ線を測定してきた 福島原発事故以降の汚染試料は 検出器部分を覆う形に成形されたマリネリというアクリル製容器 ( 内容積 2L に試料を直接入れることで 灰化しないでも測定が可能である 同時に 134 Cs も測定可能である 9 Sr を分析するには 137 Cs 測定用に灰化した試料を塩酸で分解し Ca と分離した後 炭酸塩として 9 Sr が娘核種の 9 Y( 半減期 2.7 日 と放射平衡になるのを待って 9 Y のβ 線をガスフロー方式の GM 管検出器で測定する 一方土壌の 137 Cs を分析するには 乾燥 粉砕後 2mm の篩を通過した試料をスチロール製平板容器に充填してゲルマニウム半導体検出器に装着し 放出されるガンマ線を測定する 9 Sr を分析するには 土壌有機物を高温炉で燃焼させた後 米 小麦と同様の操作を行って分析する 3. モニタリング調査結果からみる福島原発事故の影響図 2に 1959 年から 211 年にかけての玄米 玄麦およびその栽培土壌の 137 Cs の平均濃度と最高濃度の経年変化を記した 196 年代半ばを極大期 ( フォールアウト最盛期と称す して 198 年まで行われた大気圏内核実験の影響による増減はあるが 減少基調が続いた 麦については 1986 年にチェルノブイリ事故の影響による顕著な濃度上昇が認められた この影響は1 年限りであり 以後検出限界近くまで減少傾向は続いた 米についてはチェルノブイリ事故の影響は認められずに減少傾向が続いた 211 年の福島原発事故は東日本の広範囲に放射

図 2 主要穀類および栽培土壌における 137 Cs 濃度の経年変化 Bq/kg 作物中放射性セシウム濃度 8 6 4 2 水稲 - 水田作土 麦 - 畑作土 1 2 3 4 土壌中放射性セシウム濃度 Bq/kg 図 3 福島原発事故以降の土壌と作物の放射性セシウム濃度の関係

m k 1 2 m k 1 2 1 麦玄 米玄 8 6 4 2 2 5 1 5 1 2 k / q B g 1 2 3 度 能濃 放射 4 k / q B g 図 4 211 年栽培米麦の 134 Cs 濃度 離距のらか発原 1 第島福 作畑土作田水土 第島福離距のらか発原 1 1 8 6 4 度 能濃 放射 図 5 211 年栽培土壌の 134 Cs 濃度

k / q g ( B 度 r 濃 9 9 1 8 9 1 7 9 1 1 2 2 6 9 1 1. 3. 1. 3..1.3 1 3 1 3 1 3 1 S 9 故事所電発力子原リ 値大最 ( 値大最 ( 度 r 濃 S 験実核内圏気大 度 r 濃 S 9 度 r 濃 S 9 9 S 濃 r 度 中土作田水 中土作畑 中麦玄白米中 年 故事所電発力子原 1 第島福 イ フノルェチ 値大最最大値 ( ( 9 図 6 主要穀類および栽培土壌における 9 Sr 濃度の経年変化 9 1995 年までの土壌中 Sr 濃度は置換態の値 能汚染をもたらし 平均濃度における顕著な濃度増加をもたらした 玄麦については平均 最 大ともにフォールアウト最盛期 (44//114 ; 平均値 // 最大値を単位 Bq/kg で表す 以下括弧内は 同様記載 よりもやや低い濃度値 (18//42 を示した 玄米についてはフォールアウト最盛期 (12 //2 よりもかなり低い濃度値を示し (.8// 5 チェルノブイリ事故時における玄麦 (6//16 よりも低かった 一方 土壌作土についてはフォールアウト最盛期 ( 水田 43//138 畑 35//7 以上の濃度値を示した ( 水田 42//195 畑 71//141 図 3 にも示したが 放射性セシウムに おける玄麦 > 玄米の濃度関係は チェルノブイリ事故と同じである 麦の場合は ともに事故 時 (4 月下旬と 3 月中旬 に麦がほ場で生育中であったのに対し 水稲は移植前であった 麦 は葉や穂に汚染物質が付着し 137 Cs が直接吸収されるのが主要経路であったのに対し 水稲で は地上部からの直接吸収はなかったため その差が濃度に大きく反映されたと考えられる 福島原発事故がフォールアウト最盛期と異なる点は 地域による濃度差が顕著に現れている 点である 図 4 および図 5 に今回の事故直前には存在しなかった 134 Cs の福島原発の事故現場か らの距離と濃度を作物と土壌についてそれぞれ記した 狭域で見ると距離と濃度との関係は明確でない場合もあるが 広域的に見ると距離が離れれば濃度が低くなるのは明らかであり

4km 以上離れた地域への影響は極めて小さいことか認められた 図 6に 1959 年から 211 年にかけての白米 玄麦およびその栽培土壌の 9 Sr の平均濃度と最高濃度の経年変化を記した フォールオウト最盛期以降の減少傾向は 137 Cs と同様であるが 玄麦においてもチェルノブイリ事故時の顕著な濃度上昇は認められなかった また土壌の濃度減少速度は 137 Cs よりも大きかった 畑作土中の 9 Sr 濃度は平均値 最大値とも前年並みであり 今回の事故直前には存在しなかった 89 Sr も認められないことから 観測定点には福島原発事故に起因する放射性ストロンチウムはほとんど到達しなかったと考えられる 4. 調査結果からの考察農業環境技術研究所における調査の特徴は 沖縄を除く日本全域を対象として 基本的に同一の地点で栽培された米麦とその栽培土壌を長期にわたり観測し続けている点であり これから土壌から作物への放射性物質の移行の状況を見ることができる また土壌における放射性物質の残存の状況を把握できる その適用例について述べる 表 1に穀類とその作土の放射性セシウム濃度比を大気圏核実験終了後 2 年目の 1982 年からチェルノブイリ事故前の 1985 年までと チェルノブイリ事故後の 1987 年から 21 年までとを福島原発事故後の 211 年までとを対比して示した 駒村らは チェルノブイリ事故後は作物地上部からの吸収はほとんどなかったことを示している 1 福島原発事故前のデータは この濃度比は移行係数を表していると考えられる 福島原発事故後は 玄麦については明らかに高い濃度比を示し 地上部からの吸収が起こっていることを示している 玄米については玄麦よりもかなり低い濃度比を示したが 事故直前の濃度比を大きく上回っている この上昇は原発放出直後の放射性セシウムの作物への可給性の高さを示唆している可能性が高い 表 1 放射性セシウムの土壌から主要穀類への移行係数 * 玄米 玄麦 ** 分析数平均値 標準偏差 ** 分析数平均値 標準偏差 1981 年から1984 年まで *** 7.9.1 32.5.4 1986 年から21 年まで *** 212.7.8 129.3.3 **** 211 年 9.37.16 6.216.131 * 穀類の放射性セシウム濃度 (Bq/kg 新鮮重 濃度比 = 土壌の放射性セシウム濃度 (Bq/kg 乾土重 ** 検知できなかった試料 (ND は計算から除外した *** この期間は 134 Cs 濃度を とみなし 137 Cs 濃度を放射性セシウム濃度とした **** この期間は 137 Cs 濃度と 134 Cs 濃度との合量を放射性セシウム濃度とした 駒村らは 水田と畑作土に存在する核種が 半減するまでの時間を平均滞留半減期間と定義し フォ-ルアウト最盛期の 1964 年を基準年と定め 各採取地点毎に算出した 1 その結果 土壌の性質等により観測地間で大きく異なるが 137 Cs の場合 水田作土で 9~24 年の範囲で平均 16 年 畑作土で 8~26 年の範囲で平均 18 年と算定している 1 福島原発事故でも 137 Cs が物理的半減期

よりも短期間で作土から半減することが予測されるが 物理的半減期の短い 134 Cs との合量である 放射性セシウムは さらに速く半減することになる 5. おわりに福島原発事故を機会に モニタリング調査の意義を再認識しているところであり 玄米の 137 Cs 137 濃度を始め 土壌の置換態 Cs 濃度など これまで中断していた分析項目の復活も検討している またどの範囲まで作物 土壌に福島原発事故の影響が及んでいるかを確定するには さらに慎重な調査が必要である この長期モニタリング調査で試料の栽培 採取に協力を頂いている農業関係試験研究機関の皆様と長年当モニタリング調査に参画し 貴重な助言をされた津村昭人氏に深く感謝申し上げます なお 本研究は放射能調査研究事業の予算によって行われました 参考文献 1 駒村美佐子他 (26; わが国の米 小麦および土壌による 9 Sr と 137 Cs 濃度の長期モニタリングと変動解析 農業環境技術研究所報告 24 1-24