[ ノート ] 兵庫県における 2015/16 シーズンのインフルエンザウイルスの性状解析 * 押部智宏 荻美貴髙井伝仕近平雅嗣望月利洋 Characteristic Analysis of the Seasonal Influenza Viruses in Hyogo Prefecture, Japan, during the 2015/16 Season Tomohiro OSHIBE *, Miki OGI, Denshi TAKAI, Masatsugu CHIKAHIRA and Toshihiro MOCHIZUKI Infectious Disease Research Division, Public Health Science Research Center, Hyogo Prefectural Institute of Public Health and Consumer Sciences 2-1-29, Arata-cho, Hyogo-ku, Kobe 652-0032, Japan In Hyogo prefecture, Japan, influenza activity during the 2015/16 influenza season was the second largest in the past 5 seasons. Influenza A(H1N1)pdm09 and B (Yamagata lineages) viruses predominated, followed by influenza B (Victoria lineages) and A(H3N2) viruses. The HA genes of A(H1N1)pdm09 viruses fell into the genetic subgroups 6B.1 (76%) and 6B.2 (24%). The HA genes of A(H3N2) viruses fell into the phylogenetic clade 3C.2a1. The HA gene sequences of B (Victoria lineage) viruses belonged to genetic group 1A, the B/Brisbane/60/2008 genetic group. The HA genes of B (Yamagata lineage) viruses fell within the genetic clade 3 including B/Phuket/3073/2013 (2015/16 season vaccine. Ⅰ はじめにインフルエンザウイルスはこれまで A~C 型の 3 つの型に分類されたが,2011 年に呼吸器疾患の豚から C 型様のウイルスが分離され 1), これが D 型として新たに加わる見込みとなっている. このうち毎年冬季に流行し, ヒトに急性の発熱や上気道炎等を引き起こす季節性のインフルエンザウイルスは A 型及び B 型で, 抗原性の違いにより,A 型は 2009 年にパンデミックを引き起こした A(H1N1)pdm09 と A 香港型 ( 以下 A(H3N2) 型 ),B 型は Yamagata 系統及び Victoria 系統の 4 つのタイプに分類される. これらのウイルスは宿主の免疫から逃れ感染症部 * 別刷請求先 : 652-0032 神戸市兵庫区荒田町 2-1-29 兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター感染症部押部智宏 るために抗原性を少しずつ変化させながら毎年流行を繰り返しており, 次季のワクチン株を選定するには, 流行するウイルスのタイプや性状変化を把握することが重要である. 当所では, 感染症発生動向調査事業の一環としてインフルエンザウイルスのサーベイランスを実施しており, 県内のインフルエンザ様疾患患者の検体からウイルス分離, 同定, 遺伝子解析等の性状解析を行っている. 本稿では 2015/16 シーズンの調査結果について報告する. Ⅱ 材料と方法 1. 検体 2015/16 シーズン (2015 年第 36 週 (8 月 31 日 ~9 月 6 日 ) から 2016 年第 35 週 (8 月 29 日 ~9 月 4 日 )) に県内の指定提出機関 (21 か所 ) で採取された 221 検体及び小学校等での集団感染の疑い事例で健康福祉事務所が採 - 7 - - 7 -
取した 12 検体の合計 233 検体を材料とした. 2. インフルエンザウイルスの遺伝学的同定検査 A(H1N1)pdm09,A(H3N2) 型及び B 型ウイルスの同定は, 国立感染症研究所が示した Real-Time RT-PCR 法あるいは RT-PCR 法により行った 2). 3. インフルエンザウイルスの分離ウイルス分離は, 既報に基づき 3), 咽頭ぬぐい液を MDCK 細胞に接種し, トリプシン存在下で5%CO2,33, 7 日間培養した. 細胞変性効果 (CPE) がみられた培養上清は,0.75% モルモット赤血球あるいは0.5% ニワトリ赤血球を用いて赤血球凝集 (HA) 試験を行った 4),5). Fig.1 Weekly cases of Influenza-like illness per sentinel clinic from 2012/13 season to 2015/16 season in Hyogo prefecture,japan. 4. インフルエンザウイルス株の同定 A(H1N1)pdm09,A(H3N2) 型及び B 型の同定は, 赤血球凝集抑制 (HI) 試験法を用いた 4),5). 標準抗血清は国立感染症研究所より分与された免疫ウサギ抗血清 A/California/07/2009 (H1N1)pdm09,A/Switzerland /9715293/2012 (H3N2),B/Texas/2/2013 (Victoria 系統 ) 及び免疫フェレット抗血清 B/Phuket/3073/2013 (Yamagata 系統 ) を使用した. 5.Real-Time RT-PCR 法による抗インフルエンザ薬剤耐性株の検出国立感染症研究所が示した Real-Time RT-PCR 法 (Allelic discrimination 法 ) により, オセルタミビル耐性の指標となる NA タンパクの 275 番目のアミノ酸のヒスチジンからチロシンへの置換 (H275Y) を検出した 2). 6. インフルエンザウイルスの遺伝子解析 RT-PCR 法で増幅した HA 遺伝子の HA1 領域をダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定し,Neighbor- Joining 法により系統樹解析を行った. 代表株の選定やクレード, サブクレードの名称等の分類は,The Crick Worldwide Influenza Centre (WIC) または国立感染症研究所の報告に基づいた 6),7). また, ワクチン株や代表株の HA 遺伝子の塩基配列は,GISAID (The Global Initiative on Sharing All Influenza Data) のデータ (EpiFlu TM ) を使用し,Fig.4~7 では, 引用した株名の横に EpiFlu TM の Isolate ID を示した. Ⅲ 結果及び考察 1. 県内のインフルエンザの流行状況 2012/13シーズンから本シーズンまでの感染症発生動 向調査における定点あたりの週別インフルエンザ様疾患患者報告数を Fig.1 に示した. 週別定点あたりの患者数は, 全国の調査と同じく 2016 年第 1 週 (1 月 4 日 ~10 日 ) に流行開始の指標となる 1.0 人を超え 7),2014/15 シーズンよりも 4 週遅い流行入りとなった 8). その後急速に増加し全国よりも 1 週早い 2016 年第 5 週 (2 月 1 日 ~7 日 ) に警報水準とされる定点あたり 30 人を超えた 7). 第 6 週 (2 月 8 日 ~14 日 ) には 39.8 人となりピークを迎え, 第 7 週 (2 月 15 日 ~21 日 ) は 38.1 人と一旦減少した後, 第 8 週 (2 月 22 日 ~ 28 日 ) に再び増加に転じて第 9 週 (2 月 29 日 ~3 月 6 日 ) に 41.2 人と本シーズンの最高値となった. その後, 急速に減少して第 11 週 (3 月 14 日 ~20 日 ) は 21.3 人と警報水準を下回った. 警報水準の持続期間は第 5 週から第 10 週までの 6 週間であり過去 5 シーズンで最長であった. その後は徐々に減少して第 17 週 (4 月 25 日 ~5 月 1 日 ) まで患者数 1.0 人以上が持続した. 本シーズンの流行期間は 17 週間で, 過去 5 シーズンの中で最短であった. この期間の定点あたり累積患者数は 311 人と過去 5 シーズンで 2011/12 シーズンの 350 人に次いで 2 番目に多かった. 2. 県内のインフルエンザウイルス分離 検出状況本シーズンのインフルエンザウイルスの分離 検出状況をFig.2,3 に示した. 検査した233 検体のうち229 件 (98 %) からインフルエンザウイルスが検出された. 内訳は,A 型が108 件 (47%),B 型が121 件 (53%) で,B 型が多く検出された. 全国的には A 型が56%,B 型が44% でA 型が多く検出され, 県内の結果と異なっていた 7). 検出された亜型 ( 系統 ) は,A(H1N1)pdm09 が 79 件 - 8 - - 8 -
兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター研究報告 8 2017 Yamagata 系統が多い結果となった. 一方, 全国の調査は Yamagata 系統が 56% であり 7), 県内の検出割合の方が高く, 本県の B 型の流行パターンは全国と異なる傾向が確認された. Fig.2 Proportion of isolation/detection of influenza virus during 2015/16 season in Hyogo prefecture, Japan (34%),B 型 (Yamagata 系統 ) が 78 件 (34%),B 型 (Victoria 系統 ) が 43 件 (19%), A(H3N2) 型が 29 件 (13%) であり, 例年より B 型 (Yamagata 系統 ) の検出 割合が高かった. 各亜型の出現状況を過去のデータと比較すると,A 型 では 2012/13 シーズンは A(H3N2) 型 9),2013/14 シーズ ンは A(H1N1)pdm09 10),2014/15 シーズンは A(H3N2) 型が主体となっていた 8). 本シーズンは A(H1N1)pdm09 の 2 シーズンぶりの流行となった. 一方,B 型の Yamagata 系統と Victoria 系統を比較す ると,2012/13 シーズンは Victoria 系統が 55% を占め 9),2013/14 シーズンは Yamagata 系統が 67% 10),2014/15 シーズンは Yamagata 系統が 91% を占めた 8). 本シーズ ンは Yamagata 系統が 64% と 3 シーズン連続して 3. 週別のインフルエンザウイルスの分離 検出状況本シーズンの調査が開始された第 36 週から流行開始の第 1 週までの検出状況では, 第 46 週 (11 月 9 日 ~15 日 ) に本シーズン初めて A(H3N2) 型が検出され, その後も散発的に検出され A(H3N2) 型が計 6 件となった.B 型は第 52 週に Victoria 系統が 2 件検出された. 流行開始の第 1 週から警報水準に達するまでの第 4 週は, A 型が 37 件,B 型が 10 件の計 47 件が検出され, 内訳は A(H1N1)pdm09 が 32 件, B 型 (Yamagata 系統 ) が 7 件,A(H3N2) 型が 5 件,B 型 (Victoria 系統 ) が 3 件と,4 種類のウイルスが検出された. その後の第 5 週から第 10 週まで警報水準が持続したピーク期には,A 型が 51 件,B 型が 64 件と B 型の検出数が逆転した. この内訳は B 型 (Yamagata 系統 ) が 41 件, A(H1N1)pdm09 が 39 件,B 型 (Victoria 系統 ) が 23 件,A(H3N2) 型が 12 件で, 流行初期と同様に 4 種類のウイルスが検出された. 第 11 週から第 17 週までの流行後期には,A 型が 9 件, B 型が 40 件の 49 件が検出された. 内訳は B 型 (Yamagata 系統 ) が 28 件, B 型 (Victoria 系統 ) が 12 件,A(H1N1)pdm09 が 6 件,A(H3N2) 型が 3 件で, この時期にも 4 種類のウイルスが検出された. 流行が終息した第 18 週 (5 月 2 日 ~8 日 ) から調査終 Fig.3 Weekly isolation/detection of influenza virus during 2015/16 season in Hyogo prefecture, Japan - 9 - - 9 -
2013/14season 2014/15season 2015/16 season Hyogo strains D97N S185T K283E K163Q A256T V234I A/Hyogo/1064/2016 JAN A/Hyogo/1136/2016 FEB A/Hyogo/1123/2016 FEB A/Hyogo/1098/2016 FEB A/Hyogo/1197/2016 FEB A/Hyogo/2005/2016 JAN A/Hyogo/1134/2016 FEB A/Slovenia/2903/2015(EPI ISL 206099) A/Hyogo/1066/2016 JAN A/Hyogo/1130/2016 FEB A/Hyogo/1129/2016 FEB A/Hyogo/1111/2016 FEB A/Hyogo/3003/2016 MAR A/Hyogo/3002/2016 APR A/Hyogo/1166/2016 MAR A/Hyogo/1108/2016 FEB A/Hyogo/1201/2016 MAR A/Hyogo/1180/2016 FEB A/Hyogo/1170/2014 A/Hyogo/1218/2014 A/Hyogo/3174/2015 A/Hyogo/1179/2014 A/YAMAGATA/88/2014(EPI ISL 157413) A/Hyogo/1251/2014 A/Hyogo/1264/2014 A/YAMAGUCHI/43/2013(EPI ISL 153044) S84N S162N I216T V152T V173I A/Hyogo/1050/2016 JAN A/Hyogo/1052/2016 JAN A/Hyogo/1193/2016 MAR A/England/377/2015(EPI ISL 212237) A/Hyogo/1084/2016 JAN A/Hyogo/1077/2016 JAN A/Louisiana/10/2013(EPI ISL 150298) A/Hyogo/1215/2014 A/KOCHI/2/2014(EPI ISL 156436) A/YAMAGUCHI/2/2014(EPI ISL 159034) A/South Africa/3626/2013(EPI ISL 153195) A/Hyogo/1086/2013 A/Hyogo/1116/2014 A/TOKYO/32434/2013(EPI ISL 154460) A/Hyogo/1190/2014 @ A/HIROSHIMA/57/2014 @ (EPI ISL 160499) A/Louisiana/06/2013(EPI ISL 149354) A/Sichuan-Wuhou/SWL2259/2013@ (EPI ISL 153293) A/HOKKAIDO/2/2014@ (EPI ISL 156432) A/Ghana/DARI-0095/2014(EPI ISL 166053) A/Dakar/02/2014(EPI ISL 165501) A/St. Petersburg/27/2011(EPI ISL 90760) A/Norway/2552/2012(EPI ISL 134125) A/Czech Republic/32/2011(EPI ISL 90718) A/Christchurch/16/2010(EPI ISL 79722) A/Hong Kong/3934/2011(EPI ISL 93746) A/California/07/2009(EPI ISL 115928) ( 15/16 season vaccine 6C 3 6B.1 6B.2 6A 2 8 4 6B 0.002 Fig.4 Phylogenetic analysis of influenza A(H1N1)pdm09 HA genes (HA1) - 10 - - 10 -
兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター研究報告兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター研究報告第 8 8 号 2017 2017 2013/14season 2014/15season 2015/16 season Hyogo strains N145S V186G T128A R142G L3I N144S F159Y K160T N225D Q311H A138S F159S K326R A/Hyogo/1091/2016 FEB A/Hyogo/1179/2016 FEB A/Hyogo/1045/2015 DEC A/Hyogo/1132/2016 MAR A/Hyogo/1220/2016 MAR N171K A/Hyogo/2004/2015 DEC A/Hyogo/1173/2016 FEB A/Hyogo/1114/2016 FEB A/Hyogo/1070/2016 JAN A/Hyogo/1069/2016 JAN A/Hyogo/3154/2015 A/Hyogo/3123/2015 A/Hyogo/3231/2015 A/Hyogo/3201/2015 A/Hyogo/3211/2015 A/Hyogo/3229/2015 A/Hyogo/3061/2014 A/Hyogo/3140/2014 A/Hyogo/3063/2014 A/Hyogo/3055/2014 A/Hyogo/3071/2014 A/Hyogo/3151/2015 A/Hyogo/3072/2014 A/Hyogo/3214/2015 A/Hyogo/3240/2015 A/Hyogo/3116/2015 A/Hyogo/3168/2015 A/Hyogo/3058/2014 A/Hyogo/3175/2015 A/Hyogo/3218/2015 A/Hong Kong/5739/2014(EPI ISL 165556) A/Hong Kong/5738/2014(EPI ISL 166844) A/Hyogo/3197/2015 T160KA/Hong Kong/4801/2014(EPI ISL 222828) A/Hyogo/1089/2013 A/Hong Kong/146/2013(EPI ISL 136375) A/Hyogo/3187/2015 A/Hyogo/3188/2015 A/Hyogo/3160/2015 A/Hyogo/3158/2015 A/Hyogo/3149/2014 A/Switzerland/9715293/2013(EPI ISL 166310) A/Samara/73/2013(EPI ISL 143568) A/Hyogo/1116/2014 A/New York/39/2012(EPI ISL 166861) A/Hyogo/1101/2014 A/England/527/2014(EPI ISL 170285) A/Florida/09/2015(EPI ISL 172743) A/Netherlands/525/2014(EPI ISL 175051) A/Austria/830719/2014(EPI ISL 170627) A/Texas/50/2012(EPI ISL 138980) N122D E62K K83R R261Q Y94H S198P A/Victoria/361/2011(EPI ISL 134450) (16/17 Vaccine (15/16 Vaccine 3C.2a1 3C.2a 3C.3a 3C.3b 3C.1 3C.2 3C.3 0.002 Fig.5 Phylogenetic analysis of influenza A(H3N2) HA genes (HA1) - 11 - - 11 -
2013/14season 2014/15season 2015/16 season Hyogo strains N165K N75K S172P V146I L58P I117V V146I N129D B/Hyogo/1105/2016 FEB B/Hyogo/1011/2016 APR B/Hyogo/1211/2016 MAR B/Hyogo/1161/2016 FEB B/Hyogo/1227/2016 MAR B/Hyogo/1107/2016 JAN B/Hyogo/1058/2016 JAN B/Hyogo/1048/2015 DEC B/Hyogo/1119/2016 FEB B/Hyogo/1138/2016 FEB B/Hyogo/2012/2016 FEB B/Hyogo/3223/2015 B/Hyogo/1133/2016 MAR B/Texas/02/2013(EPI ISL 156529) B/Hyogo/3088/2012 B/Hyogo/3076/2012 B/Hyogo/3036/2013 B/Hyogo/1271/2012 B/Hyogo/2017/2012 B/Hyogo/3151/2013 B/Hyogo/3149/2013 B/Hyogo/1157/2012 B/Hyogo/2019/2012 B/Hyogo/3027/2012 B/Hyogo/3122/2013 B/Hyogo/3232/2014 B/Hyogo/3207/2014 B/Hyogo/3156/2014 B/Hyogo/3227/2014 B/Hyogo/3249/2014 B/Hyogo/3211/2014 B/Hyogo/3203/2014 B/Hyogo/4002/2010 B/Hyogo/4001/2011 B/Brisbane/60/2008(EPI ISL 129018) B/Hyogo/168/2008 B/Hyogo/169/2009 B/Hyogo/3023/2010 B/Hyogo/3145/2012 B/Uruguay/12/2008(EPI ISL 23970) B/Wisconsin/01/2009(EPI ISL 29552) B/Brisbane/32/2002(EPI ISL 21112) (15/16 vaccine (11/12 vaccine 1A 1B 0.002 Fig.6 Phylogenetic analysis of influenza B (Victoria-lineage) HA genes (HA1) - 12 - - 12 -
兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター研究報告 8 2017 K88R 2013/14season 2014/15season 2015/16 season Hyogo strains S150I N165Y S229D R48K P108A S229G D196N T181A N116K K298E E312K M251V L172Q B/Hyogo/1062/2016 JAN B/Hyogo/3016/2016 MAR B/Hyogo/3002/2016 APR B/Hyogo/3003/2016 APR B/Hyogo/1073/2016 JAN B/Hyogo/1150/2016 MAR B/Hyogo/1135/2016 FEB B/Hyogo/1209/2016 MAR B/Hyogo/1137/2016 FEB B/Hyogo/1146/2016 FEB B/Hyogo/1224/2016 MAR B/Hyogo/3236/2015 B/Hyogo/2010/2016 FEB B/Hyogo/3008/2016 APR B/Hyogo/3112/2015 B/Hyogo/1131/2016 MAR B/Hyogo/1101/2016 FEB B/Hyogo/1219/2016 MAR B/Hyogo/5001/2016 APR B/Hyogo/1124/2016 FEB B/Hyogo/1140/2016 FEB B/Hyogo/3206/2015 B/Hyogo/1155/2014 B/Hyogo/3106/2014 B/Hyogo/3215/2015 B/PHUKET/3073/2013(EPI ISL 186619) B/Hyogo/1102/2013 B/Hyogo/1231/2014 B/Hyogo/1276/2014 B/Hyogo/3112/2013 B/Wisconsin/01/2010(EPI ISL 112325) B/Bangladesh/2113/2009(EPI ISL 138595) B/Hyogo/1288/2012 B/Bangladesh/3333/2007(EPI ISL 20697) B/Hyogo/1270/2012 B/Hyogo/1267/2012 B/Hyogo/1200/2012 B/Massachusetts/02/2012(EPI ISL 138284) B/Estonia/55669/2011(EPI ISL 132495) B/Hong Kong/3577/2012(EPI ISL 128126) B/Hyogo/1243/2014 B/Hyogo/3174/2013 B/Brisbane/3/2007(EPI ISL 118626) B/Florida/4/2006(EPI ISL 80395) (15/16 vaccine (14/15 vaccine 3 2 0.005 Fig.7 Phylogenetic analysis of influenza B (Yamagata-lineage) HA genes (HA1) - 13 - - 13 -
了の第 35 週までは, B 型 (Victoria 系統 ) が 3 件,A(H1N1)pdm09とB 型 (Yamagata 系統 ) がそれぞれ 1 件検出された. 過去の流行では,A 型が先行してピークを形成し, その後に B 型が遅れて増加するパターンが多いが, 本シーズンのピーク期はB 型がA 型よりも多く検出されていることから,B 型の流行が例年よりも早く, その後も流行が持続して,A 型の流行と重なったため流行ピークが長期化したものと思われる. また, 流行の主体となったA(H1N1)pdm09 とB 型 (Yamagata 系統 ) 以外にも B 型 (Victoria 系統 ) や A(H3N2) 型も全流行期間を通じて全体の20% 及び10% 程度がそれぞれ検出されており, これらの4 種類のウイルスが混合流行したことも本シーズンの流行の特徴であった. 4. 抗インフルエンザ薬剤耐性株の検出 Real-Time RT-PCR 法により A(H1N1)pdm09 ウイルス株 53 株の抗インフルエンザ薬耐性株を調査した結果, H275Y 置換は認められなかった. 全国の調査では, 国内分離 A(H1N1)pdm09 の 2565 株のうち 48 株 (1.9%) のオセルタミビル ペラミビル耐性株が散発的に検出されており 7), 今後も検出動向を注視する必要がある. 5. 県内分離ウイルス株の遺伝子解析 A(H1N1)pdm09 ウイルス分離株の HA タンパク (HA1 領域 ) の遺伝子系統樹解析の結果を Fig.4 に示した. A(H1N1)pdm09 ウイルスは, クレード 1~8 に区分され, クレード 6 はさらにサブクレード 6A,6B,6C に分類される 11).2013/14 及び 2014/15 シーズンの県内解析株は D97N,S185T 及び K283E のアミノ酸置換を持ち, さらに K163Q と A256T のアミノ酸置換を持つクレード 6B であった 8),10). 本シーズンの分離株は,6B クレード内にS84N,S162N,I216Tを持つクレード6B.1 とV152T, V173I を持つクレード 6B2 に分類され 6),7), 解析した県内株は,21 株のうち 16 株 (76%) がクレード 6B.1 に, 残りの 5 株がクレード 6B.2 に属していた. 国立感染症研究所による国内分離株の解析でも 80.1% がクレード 6B.1 となっており 7), 県内分離株と同様の結果であった. A(H3N2) 型ウイルス分離株の HA タンパク (HA1 領域 ) の遺伝子系統樹解析の結果を Fig.5 に示した. 県内の A(H3N2) 型ウイルス株は,2012/13 シーズン以降 S45N と T48I のアミノ酸置換を特徴とするクレード 3C が主流で 9),2013/14 シーズンに入りクレード 3C が 3C.1 ( 代表株 :A/Texas/50/2012),3C.2,3C.3 のサブクレードへと派生した 10).3C.2 は L3I,N144S,F159Y, K160T,N255D,Q311H のアミノ酸置換を有する 3C.2a サブグループに分岐した.3C.3 は A138S,F159S, N225D のアミノ酸置換を有する 3C.3a と E62K,K83R, N122D のアミノ酸置換を有する 3C.3b サブグループが追加されている 8),10). 本シーズンは, さらにサブグループ 3C.2a 内に N171K,I406V,G484E を持つ 3C.2a1 サブクレードが新たに形成されており 6),7), 今回我々が解析した 10 株はすべてサブグループ 3C.2a のサブクレード 3C.2a1 であった. 全国の結果でも 98.4% がサブグループ 3C.2a に属し, サブクレード 3C.2a1 に分類される傾向がみられており 7), 県内の結果と同様であった. B 型 (Victoria 系統 ) 分離株の HA タンパク (HA1 領域 ) の遺伝子系統樹解析結果を Fig.6 に示した. Victoria 系統は,Brisbane/60 クレードのサブクレード 1A と L58P 置換を持つサブクレード 1B に分類される 12).2013/14 シーズンの県内の分離株は, すべてサブクレード 1A に属し 10),2014/15 シーズンの分離株は V146I を持つサブクレード 1A であった 8). 本シーズンに解析した 12 株もすべて 2014/15 シーズンと同様に V146I を持つサブクレード 1A に属した. 全国的にも, 本シーズンの分離株はすべてサブクレード 1A に属しており 7), 県内と同様の結果であった. B 型 (Yamagata 系統 ) ウイルス分離株の HA タンパク (HA1 領域 ) の遺伝子系統樹解析の結果を Fig.7 に示した. Yamagata 系統は,B/Florida/4/2006 株を代表とするクレード 1,R48K,P108A,T181A 及び S229G のアミノ酸置換が特徴のクレード 2,S150I,N165Y 及び S229D のアミノ酸置換を持つクレード 3 に区分される 12). 県内の 2013/14 シーズンの分離株は, 前のシーズンと同様にクレード 2 と3 が混在し, クレード 3 が優勢であった 10). 2014/15 シーズンは, クレード 2 と 3 は混在することなく, すべてクレード 3 であった 8). 本シーズンの分離株で解析した19 株はすべてM251V を持つクレード3 に属し, 前シーズンと同じくクレード 2 に属する株はみられなかった. 全国の解析でも, 本シーズンはすべてクレード3に属しており 7), 県内と同様の結果であった. Ⅳ 結論兵庫県における 2015/16 シーズンのインフルエンザの流行は過去 5 シーズンで 2 番目の規模となり, 主に A(H1N1)pdm09 及び B 型 (Yamagata 系統 ) ウイルスが検出され,A(H3N2) 型と B 型 (Victoria 系統 ) も検出された. 遺伝子系統樹解析の結果,A(H1N1)pdm09 ウイルスは, - 14 - - 14 -
兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター研究報告 8 2017 系統樹解析からクレード6B.1 (76%) 及び 6B.2 (24%) に属し,A(H3N2) 型ウイルスはすべて 3C.2a1 クレードに属した.B 型 (Victoria 系統 ) はサブクレード 1A に属し, B 型 (Yamagata 系統 ) の分離株は, すべてクレード 3 に属した. 謝辞本研究を実施するにあたり, 検体採取, 連絡調整にご協力いただきました県疾病対策課, 県健康福祉事務所ならびに病原体定点医療機関に深謝致します. 文献 1) Hause BM, Ducatez M, Collin EA, Ran Z, Liu R, Sheng Z, et al. Isolation of a novel swine influenza virus from Oklahoma in 2011 which is distantly related to human influenza C viruses. PLoS Pathog., 9,e1003176 (2013) 2) 国立感染症研究所 : 病原体検出マニュアルインフルエンザ診断マニュアル ( 第 3 版 ) (2014) 3) 山岡政興, 押部智宏, 稲元哲朗 :A 香港型インフルエンザウイルスのキモトリプシン存在下でのMDCK 細胞による分離について. 兵庫県立健康環境科学研究センター紀要,4,54-57 (2007) 4) 根路銘国昭, 杉浦昭, 植田昌宏 : オルソミクソウイルス. ウイルス実験学各論, 改訂二版, 国立予防衛生研究所学友会編,287~330 (1982) 5) 根路銘国昭 : インフルエンザウイルス, 微生物検査必携, ウイルス クラミジア リケッチア検査, 第 Ⅱ 分冊, 各論 1, 厚生省監修, 第 3 版,2-24, 日本公衆衛生協会 (2004) 6) WHO influenza centre The Francis Crick Institute London : Report prepared for the WHO annual consultation on the composition of influenza vaccine for the Southern Hemisphere 2017 26 th -28 th September 2016 : https://www.crick.ac.uk/media /326439/september_2016_interim_report.pdf 7) 国立感染症研究所感染症疫学センター :IASR 病原微生物検出情報 ( 月報 ),37,211-221 (2016) 8) 押部智宏, 荻美貴, 髙井伝仕, 岡藤輝夫ほか : 兵庫県における2014/15シーズンのインフルエンザウイルス分離株の性状解析. 兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター研究報告,7,1-9 (2016) 9) 押部智宏, 荻美貴, 髙井伝仕, 岡藤輝夫ほか : 兵庫県における2013/14シーズンのインフルエンザウイルス分離株の性状解析. 兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター研究報告,6,1-11 (2015) 10) 押部智宏, 荻美貴, 髙井伝仕, 岡藤輝夫ほか : 兵庫県における2012/13シーズンのインフルエンザウイルス分離株の性状解析. 兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター研究報告,5,17-23 (2014) 11) 国立感染症研究所感染症疫学センター :IASR 病原微生物検出情報 ( 月報 ),36,199-207 (2015) 12) 国立感染症研究所感染症疫学センター :IASR 病原微生物検出情報 ( 月報 ),35,254-258 (2014) ( 平成 29 年 3 月 13 日受理 ) - 15 - - 15 -