農研機構シンポジウム 2012.12.5 於 : 南青山会館 牛肉における放射性セシウムの飼料からの移行について 昨年 10~11 月段階の東日本地域の地表面におけるセシウム 134 137 の沈着量の合計 佐々木啓介独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所畜産物研究領域主任研究員 文部科学省 www サイトより第四次航空機モニタリングによる (2011.10.22~11.5 実施 2011.12.16 公表 ) 頭数 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 牛肉の放射能検査結果の推移 500Bq/kg 以上 400~500Bq/kg 300~400Bq/kg 200~300Bq/kg 100~200Bq/kg 放射性セシウムの検出例は着実に減少 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 農林水産省 www サイトより佐々木が作成 2011 年 2012 年 移行係数の考え方 移行の程度 のあらわし方 毎日同じ 量 (Bq/ 日 ) の放射性セシウムを含む飼料を家畜が摂取した場合に 畜産物中の放射性セシウム 濃度 (Bq/kg) がどのくらいになるかを表す係数 ( 日 /kg) 肉中の放射性物質濃度 (Bq/kg) 家畜が一日に摂取した放射性物質量 (Bq/ 日 )
肉中の濃度の推定 肉中の放射性物質濃度 (Bq/kg) = 一日に摂取した放射性物質量 (Bq/ 日 ) 移行係数 ( 日 /kg) 平衡状態が成立している 平衡状態に至るまでの一日あたり摂取量は同じ IAEA の報告している移行係数 数値には幅がある IAEA TRS472 によれば 最高値 9.6 10-2 平均値 2.2 10-2 最低値 4.7 10-3 0.0047( 最低 )~0.022( 平均 )~0.096( 最高 ) 軟組織に共通の数値 どの筋肉にも同じように移行すると考える 家畜におけるモデル血液から組織へのセシウムの移行 ヒツジの例 胃 赤血球 腸管 細胞外液 筋肉 牛については現在のところモデルは提案されていない ふん 肝臓 腎臓 尿 細胞外液 ( 血液含む ) からは 筋肉と肝臓および腎臓に多く移行すると考えられている Galer ら (1993) J. Environ. Radioactivity 20: 35- による ( 和訳は演者 ) 目的 黒毛和種において放射性セシウムを含む飼料を毎日一定の量給与した場合の筋肉 臓器 脂肪組織における放射性セシウムの濃度分布を調査
対照区 実験開始直後 材料と方法 (1) 低汚染区 放射性セシウム汚染飼料 1 日あたり 5676Bq 毎日給与 黒毛和種雌牛 給与終了翌日 6 頭 中汚染区放射性セシウム汚染飼料 1 日あたり 13093Bq 毎日給与 と畜 サンプル採取 給与終了翌日 ネック 心臓 上腕三頭筋 ( かた ) 材料と方法 (2) サンプル採取部位 胸最長筋 ( ロース ) 肝臓 皮下脂肪組織 大腿二頭筋 ( そともも ) 腎臓 材料と方法 (3) 測定方法と核種 ゲルマニウム半導体検出器 134 Cs および 137 Cs 定量下限 :1.6~2.6Bq/kg ネック 胸最長筋筋肉大腿二頭筋上腕三頭筋心臓肝臓腎臓皮下脂肪組織 結果 (1) 134 Cs 134 Cs (Bq/kg 組織 ( 湿重量 ) ) 01020 0 20 40 60 80 0 20 40 60 80 対照区低汚染区中汚染区 全体の傾向として対照区 < 低汚染区 中汚染区筋肉間で差は認められない組織間では 皮下脂肪組織 < 筋肉 肝臓 心臓 < 腎臓 ネック 胸最長筋筋肉大腿二頭筋上腕三頭筋心臓肝臓腎臓皮下脂肪組織 結果 (2) 137 Cs 137 Cs (Bq/kg 組織 ( 湿重量 ) ) 01020 0 20 40 60 80 0 20 40 60 80 対照区低汚染区中汚染区 全体の傾向として対照区 < 低汚染区 中汚染区筋肉間で差は認められない組織間では 皮下脂肪組織 < 筋肉 肝臓 心臓 < 腎臓 本試験のまとめ 一定量の放射性セシウムを黒毛和種雌牛に毎日給与した場合の放射性セシウムの移行は 筋肉間で差はみとめられない 腎臓 > 筋肉 皮下脂肪組織では低い
移行部位海外の研究事例 核実験によるフォールアウトを踏まえた研究事例 オーストラリアにおけるアンガス去勢牛の事例数値は 137 Cs Bq/kg( 湿重 ) 平均値 ± 標準偏差 (n=7) (Duggleby & Seebeck. J Agric Sci Camb 69: 149-153. 1967 より佐々木がデータを一部抜粋して作図 ) 移行部位国内の研究事例 (1) 福島原発事故を踏まえた研究事例 放れウシによる検討 血液 腎臓 心臓 脾臓 肝臓 筋肉 福島県農業総合センター畜産研究所による (2011.12) データは平均値 (n=15) 移行部位国内の研究事例 (2) 福本ら ( 東北大学のグループ ) 警戒区域内で殺処分された家畜の臓器別放射性物質濃度を測定 放射性セシウム濃度 筋肉間で差はみとめられない 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 成牛の筋肉各臓器における放射性 Cs 蓄積量 (Bq/kg) 移行部位国内の研究事例 (3) 高瀬ら ( 福島大学のグループ ) 警戒区域内の放れ牛における臓器別放射性物質濃度を測定 舌脾臓腎臓肝臓心臓筋肉血液 牛に関する他の研究事例まとめ 筋肉間で大きな差はないという結論は共通している 腎臓 < 筋肉というデータが多い 放射性セシウム濃度 (n=27) ( 血液中濃度を 1 とした場合の相対値 )
5590 6060 6880 5430 5780 6580 移行部位となかいの事例 チェルノブイリ事故を踏まえた研究事例 6540 5490 6400 5970 5710 肝臓 :2900 血液 :730 心臓 :5590 腎臓 :11200 フィンランドにおけるとなかいの事例数値は 137 Cs Bq/kg( 湿重 ) (Rissanen et al. Rangifer 10: 57-66. 1990 より文字サイズのみ改変 ) 移行部位ヒツジの事例 他の反芻動物の移行部位まとめ 筋肉部位間で大きな差はない 腎臓 > 筋肉というデータがある 肝臓肺腎臓筋肉骨組織 イギリスにおける放牧されたヒツジの事例数値は 137 Cs pci/g( 乾物重 ) (Ham et al. Sci. Total Environ. 85: 234-244. 1989 より佐々木が和訳 ) まとめ 飼料からの放射性セシウムへの移行については 筋肉部位間の差は無いか 少ない 腎臓と筋肉のちがいについては異なるデータがある 飼料中の放射性物質濃度の違い? 放射性物質含有飼料の摂取期間の違い? その他の違い?
謝辞 本講演で紹介した講演者らの研究データは 農林水産省 新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業 による成果です