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情報通信 波長多重 1 1. 1 G b i t / s プラガブル小型光トランシーバ ( S F P + ) 島田洋二 * 井上真吾 安西志摩子河村裕史 甘利彰悟 乙部健二 11.1 Gbit/s Pluggable Small Form Factor Optical Transceiver Module by Yoji Shimada, Shingo Inoue, Shimako Anzai, Hiroshi Kawamura, Shogo Amari and Kenji Otobe We have developed an SFP+ (Enhanced Small Form Factor Pluggable) optical transceiver module for 11.1 Gbit/s DWDM (dense wavelength division multiplexing) application, which can cover up to 100 km reach over standard single-mode fiber. We have also successfully reduced its total power consumption to less than 1.5 W by utilizing a newly developed laser diode chip. This world s smallest and power-saving DWDM SFP+ optical transceiver will contribute to the downsizing of high density optical transmission equipment. Keywords: SFP+, DWDM, 11.1 Gbit/s, long haul, low power dissipation 1. 緒言 近年 情報通信のデータ量の増大により幹線系に使用される伝送装置の高ビットレート化や波長多重 (WDM: Wavelength Division Multiplexing) 1 化が急速に進められている これら伝送装置には SFP+(Enhanced Small Form Factor Pluggable) 等の光トランシーバが搭載されている 従来製品の 10Gbit/s 光トランシーバである XFP (10Gbit/s Small Form Factor Pluggable) と比較して SFP+ は 30 % 以上の小型化を実現しており 伝送装置に搭載できる光トランシーバの数を増やすことが可能となった その反面熱設計の観点から 使用される SFP+ には低消費電力化が要求されている 今回 我々はこれら要求に適合した 70 11.1Gbit/s で動作する 100km( 分散量で 1600ps/nm) 伝送用 SFP+ 波長多重光トランシーバの開発および製品化に成功した 本稿では SFP+ の MSA 2 (1) 規格 Level II 動作の 1.5W 以下での 70 動作を可能にした低消費電力化設計と 開発した光トランシーバの特性について報告する 2. 開発した光トランシーバの構成と諸元 2 1 主要諸元開発した SFP+ の主要諸元を表 1 に示す 本製品は動作温度範囲 0 ~ 70 標準シングルモードファイバにて 外付けの電子分散補償回路 ( EDC: Electrical Dispersion Compensator) で分散補償を行うことにより 11.1Gbit/s 100km までの伝送を可能とする光トランシーバである 波長多重光トランシーバでは通信分野の標準策定をおこなう国際電気通信連合 (ITU-T) が定めた波長グリッドに波長を合わせる必要がある レーザダイオード (LD: Laser Diode) の波長は温度依存性があるため LD を温度制御素 子 (TEC: Thermoelectric Cooler) にて 40 ~ 50 の間で 調節し ITU-T 規格で定められた中心波長 ( グリッド ) (2) に波 長を合わせている SFP+ の表面温度 ( ケース温度 ) と LD の温度の差が大き くなると LD の温度を一定に保つため TEC の消費電力は 表 1 主要緒元 動作ケース温度 0 70 外形寸法 電気インターフェイス 光送信部 光受信部 伝送速度 光送信デバイス 中心波長 波長安定性 光出力パワー 消光比 受光デバイス 受信感度 OSNR 耐性 56.5mm 13.8mm 8.6mm 20PIN コネクタ 9.95/10.3/10.7/11.1Gbit/s EA 変調器レーザ 1530nm 1565nm ± 100pm -1 3dBm 9dB 以上 APD 10.3Gbit/s -23dBm 以下 (0ps/nm, 1E-12) -20dBm 以下 (1600ps/nm, 1E-12) 11.1Gbit/s -27dBm 以下 (0ps/nm, 1E-3) -24dBm 以下 (1300ps/nm, 1E-3) 10.3Gbit/s 24dBm/0.1nm 以下 (0ps/nm, 1E-12) 27dBm/0.1nm 以下 (1600ps/nm, 1E-12) 11.1Gbit/s 15dBm/0.1nm 以下 (0ps/nm, 1E-3) 16dBm/0.1nm 以下 (1100ps/nm, 1E-3) オーバーロード -7dBm 以上 電源電圧 3.3V ± 5 % 消費電力最大 1.5W 2 0 1 3 年 7 月 S E I テクニカルレビュー 第 18 3 号 ( 89 )

大きくなる そのため動作温度上限 ( ケース温度 70 ) のとき SFP+ の消費電力が最大となる 一般的に波長制御が不要な TEC を内蔵した光トランシーバ 例えば時分割多重 (TDM: Time Domain Multiplexing) 方式の光トランシーバでは LD の温度を上限の 50 にできるだけ近づけて LD とケース温度の差を小さくし消費電力を抑えている 対して TEC の温度で波長を制御する波長多重光トランシーバでは LD の波長ばらつきにより設定温度を 40 ~ 50 の間で調整する LD の温度を 50 から 40 に下げると消費電力はケース温度 70 のときに最大で 0.2W 増加する 一般的に波長多重光トランシーバでは TDM 方式の光トランシーバと比較して消費電力を低く抑えることは困難であるが 市場の要求を満たすため消費電力をケース温度 70 で 1.5W 以下に抑えることを目標とした SFP+ は受信側の仕様の違いにより 光信号を電気信号に線形に変換して出力するリニアインターフェイス (Linear I/F) と振幅を飽和させることで一定の振幅で出力するリミッティングインターフェイス (Limiting I/F) とに分けることができる Limiting I/F は従来の SFP+ と同 じ伝送装置のホストボードを使用することができる 対して Linear I/F は EDC をホストボード側に設置する必要がある 本稿では EDC をホストボード側に設置して伝送特性を改善する Linear I/F の SFP+ について説明する 図 1 に Linear I/F 図 2 に Limiting I/F のブロックダイアグラムを示す 本 SFP+ は 光送信部 光受信部及び制御部の 3 つの部分より構成される 以下に詳細を示す 2 2 内部構成 1 光送信部光送信部は1 電気信号を光信号に変換する送信用小型光デバイス ( TOSA: Transmitter Optical Sub-Assembly) 3 2 電気信号の振幅を制御するレーザダイオードドライバ (LDD: Laser Diode Driver) 3 LD の駆動電流を制御する光パワー制御回路 4 TOSA 内の LD の温度の制御を行う温度制御回路の 4 つの部分により構成されている TOSA 外形を図 3 に示す 電気信号を光信号に変換する TOSA は 0 ~ 70 11.1Gbit/s まで動作する 100km 伝送用の EA 変調器レーザ (EML: Electro-Absorption Modulator Integrated Laser Diode) を搭載している他 TEC が内蔵されている 図 1 ブロックダイアグラム (Linear I/F) 図 3 TOSA 外形 図 2 ブロックダイアグラム (Limiting I/F) 2 3 内部構成 2 光受信部光受信部は1 光信号を電気信号に変換する受信用小型光デバイス ( ROSA: Receiver Optical Sub-Assembly) 4 2アバランシェフォトダイオード (APD: Avalanche Photodiode) 5 にバイアス電圧を印加する高電圧生成回路の 2 つの部分により構成されている ROSA 外形を図 4 に示す 光信号を電気信号に変換する ROSA には InGaAs APD と電流電圧変換増幅器 (TIA: Transimpedance Amplifier) が内蔵されている Linear I/F では EDC が出力した電気信号を分散補償し受信感度を改善する このため 光信号を線形的に電気信号に変換する自動利得制御 (AGC: Auto Gain Control) タイプの TIA を使用している ( 90 ) 波長多重 11.1Gbit/s プラガブル小型光トランシーバ (SFP+)

1.8 1.6 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 TEC LDD TIA LD bias EA bias APD bias CPU 図 4 ROSA 外形 0.0 Limiting I/F では TIA が電圧増幅をおこない TIA の出 力電圧で電気信号からクロック情報を抽出するクロック データ抽出器 (CDR: Clock Data Recovery) を駆動する しかし TIA の出力では CDR を駆動するには電圧が不足す るためさらに光出力制御増幅器 (LIA: Limiting Amplifier) を使い CDR を駆動できる電圧まで増幅している 2 4 内部構成 3 制御部制御部のブロックダイア グラムを図 5 に示す 制御部は 1 SFP+ の温度や受信部に 入力される光パワーなどの動作状況をモニタしているアナ ログ - デジタル (AD: Analog-Digital) 変換器 2 EA 変 調器駆動電圧やレーザ駆動電流などの制御を行っているデ ジタル - アナログ (DA: Digital-Analog) 変換器 3 AD/DA 変換器や SFP+ 全体の動作を監視している CPU の 3 つの部分から構成される また CPU は 2 線式通信機能により外部との通信を行うことができ 光トランシーバ外部から内部の動作確認 異常検知 固体識別や各種機能のコントロールを行っている 図 5 3. 低消費電力設計 制御部のブロックダイアグラム 3 1 従来技術を用いた SFP+ の消費電力図 6 に従来技術を用いた設計時の消費電力見積りを示す SFP+ の 図 6 従来技術を用いた場合の SFP+ の消費電力ケース温度が高温になると LD 温度を一定に保つために TEC が冷却素子として働き TEC 電力が上昇する またケース温度が低温になると TEC は加熱素子として働き TEC 電力が上昇する 図に示す通り 70 での TEC の消費電力が全体の 1/3 を占めている 従来の LD では伝送特性が劣化するため LD の温度範囲は 35 ~ 45 に制限されていた このためケース温度 70 で動作させる場合は ケース温度と LD の温度の差が最大で 35 となり常温 ( ケース温度 35 ) のときよりも 0.65W も消費電力が増大する その結果 70 の全消費電力は 1.75W になり 目標の 1.5W よりも大きくなる結果となった TEC 周辺部以外にも LDD 部など消費電力が大きい回路があり これらの低消費電力化も必須である 3 2 新たに開発した低消費電力 SFP+ 今回開発した SFP+ は下記 3 点の対策を行うことで低消費電力化を実現した (1) 高温動作 LD チップケース温度 70 で TEC 消費電力を 0.07W 削減新規に開発した LD を採用し 特性の劣化なく従来チップよりも LD の温度範囲を従来の 35 ~ 45 から 40 ~ 50 へ 5 上げることに成功した (2) 高効率 TEC 駆動回路ケース温度 70 で TEC 消費電力を 0.1W 削減消費電力が最大になるケース温度 70 で最大効率になるように最適化したディスクリートの TEC 駆動回路を開発し 従来使用していた市販の TEC IC 回路と比較して高効率化できた (3)LDD, TIA の電源電圧抑制ケース温度 70 で LDD, TIA の消費電力 0.09W 削減低電圧の安定化電源を作り LDD, TIA への印加電圧を抑制した 2 0 1 3 年 7 月 S E I テクニカルレビュー 第 18 3 号 ( 91 )

1.8 1.6 1.4 1.2 1.0 0.8 TEC LDD TIA LD bias 0.6 EA bias 0.4 0.2 APD bias CPU 0.0 図 7 新たに設計した SFP+ の消費電力 図 9 光波形 (PRBS31) これらの対策を施した結果を図 7 に示す 従来技術で支配的な TEC 周辺や LD 駆動回路の消費電力は 新規設計品では 70 で 0.26Wを削減する見積りとなっている 4. 諸特性 4 1 消費電力図 8 に開発した SFP+ 全体の消費電力を示す 消費電力はケース温度 35 で最大 1.15W 70 で最大 1.47W となり 設計とほぼ同等の消費電力が実現できており 目標の 1.5W 以下を実現できた 規定を満足しており マスク規定に対する波形のマージン 40 % 以上を確保することができた 4 3 光波長安定度図 10 に光波長のケース温度に対する安定度を示す 本製品は 100GHz(800pm) 間隔の DWDM 6 での使用を想定している LD の温度を SFP+ のケース温度に関わらず TEC で一定にすることで LD の波長ケース温度依存性を抑えた その結果 動作ケース温度の 0 ~ 70 において 常温を基準にした波長のずれを ± 10pm 以下に抑えることができた 30 1.6 20 1.5 1.4 1.3 1.2 10 0-10 1.1-20 1.0 0.9-30 図 10 光波長安定度 図 8 SFP+ の消費電力 4 2 光波形図 9 に光波形を示す 10.3Gbit/s と 11.1Gbit/s において 0 ~ 70 で 10G Ethernet のマスク 4 4 伝送特性 DWDM の伝送装置では複数の波長 を 1 本の光ファイバで伝送するために光信号合成 / 分配器 が使用される この光信号合成 / 分配器は一般的にロスが大 ( 92 ) 波長多重 11.1Gbit/s プラガブル小型光トランシーバ (SFP+)

きく 100km もの距離を伝送させるため送信器と受信器の 間に光増幅器を設置することが一般的である 光増幅器は 自身で発生する増幅された自然放出光 (ASE: Amplified Spontaneous Emission) ノイズを発生する -20-21 -22-23 -24-25 -26-27 -28-29 -30 0 500 1000 1500 2000 図 12 受信感度比較 (10.3Gbit/s, 35, PRBS31 7 ) 1E-3 1E-4 0ps/nm@10.3Gbit/s 1600ps/nm@10.3Gbit/s 0ps/nm@11.1Gbit/s 1300ps/nm @11.1Gbit/s 図 11 光伝送特性測定系 1E-5 ASE ノイズが大きいと受信感度が劣化し 信号レベルとノイズレベルの比率である光信号雑音比 (OSNR: Optical Signal Noise Ratio) がノイズの大きさの指標として使用される OSNR に対する耐性が光トランシーバに要求される そのため本製品の伝送特性は図 11 に示す測定系を用い評価を行った 低挿入損失な分散エミュレータをファイバの代わりに使用し ノイズ生成部にて OSNR を設定している また SFP+ の出力電気信号は EDC および CDR を通過してエラー検出器で符号誤り率 (BER: Bit Error Rate) を測定している 図 12 に Limiting I/F の SFP+ と Linear I/F の SFP+( 本製品 ) の伝送特性を示す EDC により 1600ps/nm 伝送で Limiting I/F に比較して受信感度が 3dB 改善している 35 ケース温度での BER グラフを図 13 に示す 10.3Gbit/s BER 1E-12 では波長分散 0ps/nm での受信感度規格 -23dBm および 1600ps/nm の受信感度規格 -20dBm に対して 3dB 以上のマージンを持った特性となった また 11.1Gbit/s BER 1E-3 でも同様に波長分散 0ps/nm での規格 -27dBm 1300ps/nm 伝送時の規格 -24dBm に対して 3dB 以上のマージンを持った特性を得ることができた OSNR への耐力を改善するには EA 変調器へのバイアス電圧を調整する方法がある OSNR を 24dB/0.1nm に設定し 1600ps/nm 伝送した光信号に対して EA 変調器へのバイアスを浅く (-0.25V) した場合と深く (-0.41V) した場合の光波形を図 14 に示す Bit Error Rate 1E-6 1E-7 1E-8 1E-9 1E-10 1E-11 1E-12-32 -31-30 -29-28 -27-26 -25-24 -23-22 -21-20 Average Input Power [dbm] 図 13 受信感度 (35, PRBS31) 図 14 EA 変調器バイアス比較 2 0 1 3 年 7 月 S E I テクニカルレビュー 第 18 3 号 ( 93 )

EA 変調器へのバイアス -0.41V の方が -0.25V よりも 1600ps/nm 伝送後の光波形が大きく開口していることがわ かる 大きく開口していると信号レベル 1 と信号レベル 0 の判定が容易になり BER は改善する しかし 開口が大きくなる半面伝送前のパルスマスク マージンが劣化する OSNR 耐力とパルスマスクマージン はトレードオフの関係にあるため EA 変調器へのバイアス を最適化した 図 15 に 35 ケース温度での OSNR 耐性を表す BER グラ フを示す 10.3Gbit/s BER 1E-12 では波長分散 0ps/nm での規格 24dB/0.1nm 1600ps/nm 伝送時の規格 27dB/0.1nm に対して 3dB 以上のマージンを持っている また 11.1Gbit/s BER 1E-3 で 0ps/nm での規格 15dB および 1100ps/nm 伝送時の規格 16dB に対してこちらも 3dB 以上のマージンを持つ特性となった Bit Error Rate 1E-3 1E-4 1E-5 1E-6 1E-7 1E-8 1E-9 1E-10 1E-11 5. 結言 1E-12 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 OSNR [db/0.1mm] 図 15 0ps/nm@10.3Gbit/s 1600ps/nm@10.3Gbit/s 0ps/nm@11.1Gbit/s 1100ps/nm @11.1Gbit/s OSNR 耐力 (35, PRBS31) 新規に開発した TOSA の採用および新たに回路を設計す ることによってケース温度 70 にて 1.5W 以下の消費電力 を実現し 100km 11.1Gbit/s までの伝送を可能とする SFP+DWDM の開発および製品化に成功した 本製品を用いることで伝送装置のボードあたりの SFP+ の数量を効果的に増やすことが可能になる また一本の光ファイバに対して複数波長の信号を流すことが可能なため 敷設済みの既存の光ファイバネットワークに対し低コストで伝送容量 を増やすことができ 情報量増大のニーズに対応できると考えられる 用語集ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 1 WDM Wavelength Division Multiplexing( 波長分割多重方式 ): 波長毎に異なる信号を変調し 1 本のファイバに結合させる 2 MSA Multi-Source Agreement : モジュールサプライヤ各社が 外部仕様を共通化するための協定 3 TOSA Transmitter Optical Sub-Assembly : 発光素子と光ファイバとを容易に光学結合させることができるレセプタクルタイプのモジュール 4 ROSA Receiver Optical Sub-Assembly : 受光素子と光ファイバ とを容易に光学結合させることができるレセプタクルタイ プのモジュール 5 APD Avalanche Photo Diode : アバランシェ増倍現象を利用 して 光信号を高感度で電気出力に変換するダイオード 6 DWDM Dense Wavelength Division Multiplexing : 高密度波長 分割多重 1.6nm もしくは 0.8nm 0.4nm 間隔で波長多重 する方式 多重波長数は 16 ~ 160 程度 幹線系の高性能 な WDM システムに利用される 7 PRBS31 Pseudo-random bit sequence: 擬似ランダム ビット シーケンスの略 擬似乱数は統計的にはランダムであっても その生成の仕方から再現性があり予測可能である この性質を利用して一般的にテストパターンとして使用される 31 はデータ パターン長を表す 参考文献 (1) SFF Committee, SFF-8431 Specifications for Enhanced Small Form Factor Pluggable Module SFP+, Revision 4.1(July 6, 2009) (2) ITU-T 勧告, G694.1 Spectral grids for WDM applications: DWDM frequency grid (June 13, 2002) ( 94 ) 波長多重 11.1Gbit/s プラガブル小型光トランシーバ (SFP+)

執筆者 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 島田洋二 * : 住友電工デバイス イノベーション 光コンポーネント事業部 井上 真吾 : 住友電工デバイス イノベーション 電子デバイス事業部 安西志摩子 : 住友電工デバイス イノベーション 光コンポーネント事業部 河村 裕史 : 伝送デバイス研究所 甘利 彰悟 : 伝送デバイス研究所 乙部 健二 : 住友電工デバイス イノベーション 光コンポーネント事業部課長 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- * 主執筆者 2 0 1 3 年 7 月 S E I テクニカルレビュー 第 18 3 号 ( 95 )