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第 3 週 : ダークマターとダークエネルギー 3.1 力学質量と光学質量 3.2 ミッシングマスからダークマターへ 3.3 近年のダークマターの観測 3.4 ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 3.5 宇宙の加速膨張の発見 3.6 現代宇宙論のパラダイム

第 3 週 : ダークマターとダークエネルギー 3.1 力学質量と光学質量 3.2 ミッシングマスからダークマターへ 3.3 近年のダークマターの観測 3.4 ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 3.5 宇宙の加速膨張の発見 3.6 現代宇宙論のパラダイム

3-1. 力学質量と光学質 力学質量 宇宙では無重力?? 宇宙で一定の形を保っている天体では つぶれようとする万有引力 ( 自己重力 ) とつり合う 何らかの力 が作用している アンドロメダ銀河球状星団 ω Cen http://rikanet2.jst.go.jp/contents/cp0320a/conte nts/taiyoukei/taiyou/taiyou_03.html より改変 何らかの力 中心核で起きている核融合反応から出るエネルギーで高温になった ガスの圧力 力学質量 ( ビリアル質量 ) 遠心力 や 圧力 と釣り合う重力を及ぼす質量 Wikipedia より (Credit: ESO) 何らかの力 星々が無秩序に運動することによる 圧力 ビリアル定理 ( 力学平衡状態 ) 東京大学木曽観測所 何らかの力 円盤が回転運動することによる 遠心力 遠心力 や 圧力 は 星やガスの運動速度を測ることでわかる

3-1. 力学質量と光学質 二種類の質量 (1) 内部運動の速度を測って それが自分の重力とつり合っている ( 力学平衡 ) と仮定して重力の大きさから質量を求める 内部運動の速度が大き過ぎると系はばらばらになるし 小さすぎると自分の重力 ( 万有引力 ) でつぶれてしまう 球状星団 ω Cen アンドロメダ銀河 力学質量 (dynamical mass) 多くの場合こちらの方がだいぶ大きい ミッシングマス ( 行方不明の質量 ) Wikipedia (Credit: ESO) 東京大学木曽観測所 (2) 観測される光 ( 星 ) や電波 ( ガス ) の強度から星やガスの質量を推定する 光学質量 (luminous mass)

3-2. ミッシングマスからダークマターへ ミッシングマス ( 行方不明の質量 ) の指摘 (1) ツビッキーが 1937 年に既に 銀河団の内部運動速度とつり合うには 銀河の質量がとても大きくなければならないことを指摘 (2) オールトが 1962-65 年に 太陽近傍の星の運動速度から あるべき質量の約 40% がまだ観測されていないことを指摘 http://www.weblio.jp/ : 太陽質量を表す記号 :1 立方パーセクの空間に太陽質量の何倍があるかという質量密度を表す記号

第 3 週の第 1 回はここまでです

第 3 週 : ダークマターとダークエネルギー 3.1 力学質量と光学質量 3.2 ミッシングマスからダークマターへ 3.3 近年のダークマターの観測 3.4 ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 3.5 宇宙の加速膨張の発見 3.6 現代宇宙論のパラダイム

3-2. ミッシングマスからダークマターへ ミッシングマスからダークマターへ : 概念の転換 1980 年代初頭まで ミッシングマス : どの分野にもあるちょっと不思議な問題 (1) 天文観測技術の進歩渦巻銀河の平坦な回転曲線 楕円銀河の X 線ハロー (2) インフレーション理論は平坦な宇宙 (Ω 0 =1) を予言 (3) 素粒子的宇宙像の開花 ( 超対称性粒子 ) 1980 年代前半 ダークマター : 天文学 物理学の根幹をなす基本的な問題

3-2. ミッシングマスからダークマターへ 渦巻銀河の平坦な回転曲線 (Flat Rotation Curve) 中心部の連続光 輝線

3-2. ミッシングマスからダークマターへ ベラ ルービン (Vela C. Rubin, 1928-2016) らによる精力的な観測 高感度観測装置 : 映像増倍管 (Image Intensifier)+IIIa-J 写真乾板 Carnegie Institution of Washington, Dept. of Terrestrial Magnetism 回転曲線の観測データ ほとんど全ての渦巻き銀河で同じ現象が見られる

3-2. ミッシングマスからダークマターへ 渦巻銀河にはダークマターが付随している アンドロメダ銀河 (M31) 回転速度 中心からの距離 ( 角度分 ) パリティ 2007 年 7 月号 (V.C.Rubin, Physics Today, Vol. 59, No.12, 2006) 平坦な回転曲線はダークマターがある証拠 遠心力重力 ( 万有引力 ) 重力定数 広い範囲で一定 比例する

3-2. ミッシングマスからダークマターへ 楕円銀河の X 線ハロー ( 高温ガス ) 高温ガス ( 数千万度 ) が星の 2 倍外側まで広がっている NASA 楕円銀河にもダークマターが付随している 宇宙にあまねく存在する銀河すべてにダークマターが付随している

3-2. ミッシングマスからダークマターへ インフレーション理論と素粒子的宇宙像 インフレーション理論は Ω 0 =1 を予言 (Ω 0 : 宇宙にある全てのもののエネルギー密度 )? Cosmic Pie の変遷 観測されているバリオン ( 普通の物質 ) の密度だけでは Ω 0 <0.1 にしかならないことは以前から知られていた ダークマターによって Ω 0 =1 が実現されているのかも知れない 素粒子的宇宙像という潮流 超対称性理論既知の素粒子の全てに未発見のパートナー粒子 ( 超対称性粒子 ) が存在すると考える理論 多数の未発見素粒子の存在を予言 その中にダークマターの候補に適切だと考えられる粒子があった バリオンの観測と矛盾せずΩ 0 =1を実現する可能性に期待がかかった ( 未発見 ) ダークマターの存在が研究者の共通認識として確立

第 3 週の第 2 回はここまでです

第 3 週 : ダークマターとダークエネルギー 3.1 力学質量と光学質量 3.2 ミッシングマスからダークマターへ 3.3 近年のダークマターの観測 3.4 ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 3.5 宇宙の加速膨張の発見 3.6 現代宇宙論のパラダイム

3-3. 近年のダークマターの観測 熱いダークマターと冷たいダークマター (Hot Dark Matter vs Cold Dark Matter) 様々なスケールの構造をダークマターのハローが包み込んでいる 熱いダークマター トップダウンシナリオ 大きな構造から先にできる ( 小さな構造は消される ) ダークマターハロー 宇宙大規模構造 個々の銀河 ダークマターハロー 銀河団 ダークマターハロー ボトムアップシナリオ 小さな構造から先にできる 冷たいダークマター

3-3. 近年のダークマターの観測銀河団の強い重力レンズ効果 アインシュタインの一般相対性理論大質量物体の周辺では空間が歪む 見かけ上の光の経路 大きく歪んだ像として見える 背景 ( 遠方 ) 銀河 空での見え方 地球 銀河団 ( レンズ天体 ) 実際の光の経路 大きく歪んだ像として見える 重力レンズを模擬したレンズ ムービーを見ます 銀河団 Abell 370 による重力レンズ像 ( ハッブル宇宙望遠鏡 )

3-3. 近年のダークマターの観測 アインシュタインの一般相対性理論 大質量物体の周辺では空間が歪む 銀河団の強い重力レンズ効果 見かけ上の光の経路見かけ上の光の経路 大きく歪ん大きく歪んだ像としてだ像として見える見える 背景 ( 遠方 ) 銀河背景 ( 遠方 ) 銀河 地球地球 銀河団 ( レンズ天体銀河団 ) ( レンズ天体 ) 実際の光の経路実際の光の経路 空での空での見え方見え方大きく歪ん大きく歪んだ像としてだ像として見える見える 歪んだ像の解析から銀河団の質量分布がわかる 多くの銀河団の観測結果 銀河団を莫大な量のダークマターが包み込んでいる 銀河団 Abell 370 による重力レンズ像 ( ハッブル宇宙望遠鏡 )

3-3. 近年のダークマターの観測

3-3. 近年のダークマターの観測 ダークマターの三次元空間分布 2007 年 1 月 7 日 NASAの記者発表 (heic0701) ハッブル宇宙望遠鏡 ヨーロッパのVLT すばる望遠鏡の共同研究成果 35 億年前 50 億年前 65 億年前 35 億年前 35 億年前 50 億年前 65 億年前 http://hubblesite.org/news_release/news/2007-01

3-3. 近年のダークマターの観測 地上やスペースにおけるダークマター粒子検出実験 ダークマター粒子は宇宙空間に充ち満ちている AMS(Alpha Magnetic Spectrometer) on ISS https://home.cern/about/experiments/ams ISS 上の AMS-02 実験 2013 年 4 月 3 日にダークマター粒子の存在を示す可能性のあるデータを得たと発表 ( その後確認の発表はない ) ダークマター粒子はまだ見つかっていない XMASS 実験 東大宇宙線研究所が神岡鉱山の地下で行っているダークマター粒子検出実験 http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/xmass/library/gallery/index.html より

第 3 週の第 3 回はここまでです

第 3 週 : ダークマターとダークエネルギー 3.1 力学質量と光学質量 3.2 ミッシングマスからダークマターへ 3.3 近年のダークマターの観測 3.4 ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 3.5 宇宙の加速膨張の発見 3.6 現代宇宙論のパラダイム

3-4. ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 超新星とは ダークエネルギーの発端 :Ⅰa 型超新星 星が一生の最後に起こす大爆発 一つの星が銀河全体に匹敵するほど明るくなる 一つの銀河では約 100 年に2-3 個程度出現する 熱核反応暴走型 (Ⅰ 型 ) 重力崩壊型 (Ⅱ 型 ) ( 次週の元素合成の話 ) 大きく分けて 2 種類 かに星雲 1054 年に銀河系内で起きた超新星の残骸 ガスは秒速 1000 km で広がっている ( 明月記 に記載がある )( ハッブル宇宙望遠鏡による ) これからの話は Ⅰ 型の中の Ⅰa 型超新星

3-4. ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 Ⅰa 型超新星 連星系をなす白色矮星に伴星から物質が降り積もり ある限界質量( チャンドラセカール限界 : 太陽質量の約 1.4 倍 ) を越えた時点で核反応が暴走して爆発する 最大光度がほぼ一定である( しかも銀河と同じくらい明るい ) すべてのタイプの銀河に出現する Ⅰa 型であることの確認 伴星 ( 赤色巨星 ) 大きく広がった大気を持つ星 白色矮星 高密度の高温天体 ( 電子の縮退圧 ) 大望遠鏡によるスペクトルが必要最大光度 ( 絶対等級 ) がほぼ一定 標準光源 見かけの明るさ ( 等級 ) を観測すれば距離が求まる 見かけの等級絶対等級距離 (pc) 流れ込む物質 降着円盤 http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/140801_1.html m - M = 5 log r - 5 距離指数 ( 距離引数 ) (distance modulus)

3-4. ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 Ⅰa 型超新星は 標準光源 銀河の距離を測定することは観測的宇宙論の きほんのき 平均的な銀河で超新星が発生する頻度全タイプ合わせて100 年に2~3 個 Ⅰa 型は100 年に1 個程度 どの銀河でいつ出現するか分からない 出現してもすぐに大望遠鏡でスペクトルを撮るのは難しい 個別の銀河の距離測定ではなく 多数のデータを蓄積してハッブル定数の決定に使われていた 大望遠鏡の観測時間を確保するのは難しい 半年ごとに観測提案を募集 ( 観測可能時間の 2-3 倍かそれ以上 ) レフェリーによる審査 評価 ( 点数 ) の高いもののみを採択 半年ごとにあらかじめ観測時間を割り当て オンデマンドの Ⅰa 型超新星へ

3-4. ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 オンデマンドの ( 要望に応じた )Ⅰa 型超新星 新月 写真を撮影 満月 写真を撮影 新月 スペクトルで確認 1 個の銀河では 100 年に 1 個程度だが 1 回に数万個の銀河を観測すれば 1 ヶ月間隔で必ず数個以上の超新星が見つかる Ⅰa 型であることを確認するスペクトル観測が大望遠鏡で実行可能になる ( 必ず候補があるから ) 従来より遠方の超新星の観測にウエイトが移った パリティ 2003 年 12 月号 Saul Perlmutter 率いる Supernova Cosmology Project ( ソール パールムッター ) Brian Schmidt 率いる High-z Supernova Search ( ブライアン シュミット ) 二つの競合グループが宇宙膨張の歴史を調べ始めた

3-4. ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 すばる望遠鏡も活躍 すばる望遠鏡と Suprime-Cam ( 国立文台提供 ) 東大の土居守助教授 安田直樹助教授 ( 当時 ) らのグループ パールムッターらの SCP Team

3-4. ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 Supernova at z = 0.930 Discovered by Suprime-Cam 24 Apr 2001 19 May 2001 近傍銀河の SN Ia すばる望遠鏡 S01A-079 M. Doi et al. with Suprime-Cam / FOCAS team

第 3 週の第 4 回はここまでです

第 3 週 : ダークマターとダークエネルギー 3.1 力学質量と光学質量 3.2 ミッシングマスからダークマターへ 3.3 近年のダークマターの観測 3.4 ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 3.5 宇宙の加速膨張の発見 3.6 現代宇宙論のパラダイム

3-5. 宇宙の加速膨張の発見 どのようにして宇宙膨張の歴史がわかるのか ( 標準光源 ) 宇宙論的赤方偏移 ドップラー効果ではない

3-5. 宇宙の加速膨張の発見 スケール因子 宇宙の加速膨張の発見 年齢はノーベル賞受賞時 52 才 ソール パールムッター (Saul Perlmutter) 44 才 Λ> 0 Λ= 0 ブライアン シュミット (Brian Schmidt) 41 才 アダム リース (Adam Riess) 宇宙膨張は現在減速ではなく加速している 2011 年度ノーベル物理学賞!! その原因は不明 ( ダークエネルギーと 名付けられた )

3-5. 宇宙の加速膨張の発見 ノーベル物理学賞受賞者 パールムッター博士 すばる望遠鏡を語る http://subarutelescope.org/topics/2011/12/29/j_index.html 2011 年 12 月 29 日 2011 年のノーベル物理学賞は 遠方超新星の観測により宇宙膨張の加速を明らかにしたとして ソール パールムッター博士 ( 米国 カリフォルニア大学バークレー校 / ローレンスバークレー国立研究所 ) ブライアン シュミット博士 ( オーストラリア国立大学 ) アダム リース博士 ( 米国 ジョンズホプキンス大学 ) の3 氏に授与されました 観測 理論 シミュレーション天文学の様々な分野で日本の研究者が活躍していますが 2011 年のノーベル物理学賞の対象になった研究では 現在 日本の研究者たちが強力なメンバーとしてパールムッター博士のチームに参加しており またその中ですばる望遠鏡が重要な役割を果たしています 遠方超新星の観測を通じて宇宙観の広がりを支えてきたすばる望遠鏡の成果や またその中で育まれてきた人と人とのつながりについて パールムッター博士にお話を伺いました 写真 : 後列右から2 人目が鈴木尚孝氏 はめ込み写真には土居守 安田直樹氏をはじめ日本人も多く見られる

第 3 週の第 5 回はここまでです

第 3 週 : ダークマターとダークエネルギー 3.1 力学質量と光学質量 3.2 ミッシングマスからダークマターへ 3.3 近年のダークマターの観測 3.4 ダークエネルギーの発端 :I a 型超新星 3.5 宇宙の加速膨張の発見 3.6 現代宇宙論のパラダイム その分野で規範となっている標準的な考え方

3-6. 現代宇宙論のパラダイム

3-6. 現代宇宙論のパラダイム インフレーション 冷たいダークマター (CDM) ダークエネルギー (Λ: 宇宙定数 ) ビッグバン宇宙論 Λ-CDM モデル アインシュタインは 大失敗 していなかった インフレーション理論のもう一つの示唆 宇宙の多重発生 ( 並行宇宙 : parallel universe) Universe Multiverse M. テグマーク著 並行宇宙は実在する 参照別冊日経サイエンス 149 佐藤勝彦編 (2005 年 ) 時空の起源に迫る宇宙論

3-6. 現代宇宙論のパラダイム ダークエネルギー密度 0.004 ダークマター密度 pc 0.315-0.049 = 5 光日 = 0.266 宇宙論パラメータ研究の最前線 ( 精密宇宙論 ) Planck 2015 results. XIII. Cosmological parameters, Planck Collaboration, Ade et al. 2016, A&A., 594, 13 (arxiv:1502.01589) バリオン密度 0.0222h 2 0.049 ハッブル定数 67.3 km/s/mpc, h = 0.673 0.685 バリオン + ダークマター密度 0.315 2015 年 2 月に公表された Planck の最新結果 宇宙年齢 138 億年

Cosmic Pie の変遷 3-6. 現代宇宙論のパラダイム 宇宙の標準モデル (Λ-CDM モデル ) の主なパラメータ ( 理科年表 2014 天文部トピックス参照 ) (2011 年 12 月 ) 中村 岡村著 宇宙観 5000 年史 ( 東大出版会 ) 出版時 (2015 年 2 月 ) (2017 年時点でも基本的には同じ ) 138.13±0.38 67.3±0.96 0.049(4.9%) 0.266(26.6%) 0.685(68.5%) (z =1090.09) 宇宙年齢 138 億年 After Planck ハッブル定数 67 km/s/mpc バリオン

第 3 週はこれで終了です ここまでで観測的宇宙論の全体をまとめました