DOI: 10.18942/Bunrui.01702-06 Bunrui 17(2): 167-171 (2017) 新産地報告 ウスキムヨウラン ( ラン科 ) を京都府に記録する福永裕一 1 末次健司 2 3 光田重幸 1 770-0852 徳島県徳島市徳島町 3-35 2 神戸大学理学研究科 ( 657-8501 神戸市灘区六甲台町 1-1) 3 610-0352 京都府京田辺市花住坂 3-11-15 Hirokazu Fukunaga (heteranthus@yahoo.co.jp), Kenji Suetsugu and Shigeyuki Mitsuta: A new locality of Lecanorchis kiusiana (Orchidaceae) from Kyoto Prefecture, Japan ラン科のウスキムヨウラン Lecanorchis kiusiana Tuyama は, ムヨウラン属 Lecanorchis Blume の多年生菌従属栄養植物である. 本種は暖温帯から亜熱帯の常緑広葉樹林の林床に生育し, これまで日本および朝鮮半島に生育し ( 北村ほか 1964, 大井 1965, 正宗 1969, 里見 1982,Hashimoto 1990, 遊川 2016,Suetsugu et al. 2017), 国内の分布については, 関東 ( 栃木県林務部自然環境課 栃木県立博物館 2005, 茨城県生活環境部環境政策課 2012, 東京都環境局自然環境部 2014), 東海地域 ( 中馬 1980, 津山 1982, 杉野 鈴木 1987, 静岡県自然環境調査委員会 2004, 名古屋市動植物実態調査検討会 2004, 芹沢 2005), 近畿 ( 村田 2004, 山本 2013), 四国 ( 山中 1978, 澤 1980, 香川県環境保健部環境自然保護課 1983, 澤 1987, 高知県立牧野記念財団 2000, 徳島県版レッドデータブック掲載種検討委員会 2001, 愛媛県貴重野生動植物検討委員会 2003, 香川県希少野生生物保護対策検討会 2004, 高知県 牧野記念財団 2009, 高知県 2011), そして九州において分布が報告されている (Tuyama 1955, 福岡県環境部自然環境課 2001, 鹿児島県環境生活部環境保護課 2003, 佐賀県希少野生動植物調査検討会植物分科会 2010, 長崎県レッドデータブック編集委員会 2011). 現在, 本種は環境省版レッドデータブック ( 環境庁 2000, 環境省 2015) において 準絶滅危惧種 (NT) に指定されており, 都道府県レベルのレッドデータブックにおいても茨城県では 絶滅危惧 IB 類 に ( 茨城県生活環境部環境政策課 2012), 栃木県では 準絶滅危惧 (C ランク ) に( 栃木県林務部自然環境課 栃木県立博物館 2005), 東京都では 絶滅危惧 IB 類 (EN) に ( 東京都環境局自然環境部 2014), 静岡県では 準絶滅危惧種 (NT) に ( 静岡県自然環境調査委員会 2004), 愛知県では 絶滅危惧 IA 類 (CR) に( 愛知県環境部自然環境課 2001), 三重県では 絶滅危惧 IB 類 に ( 三重県環境森林部自然環境室 2006), 和歌山県では 絶滅危惧 IA 類 (CR) に( 和歌山県環境生活部環境生活総務課 2001), 徳島県では 絶滅危惧 I 類 (CR + EN) に( 徳島県版レッドデータブック掲載種検討委員会 2001), 愛媛県では 絶滅危惧 IB 類 (EN) に ( 愛媛県貴重野生動植物検討委員会 2003), 高知県では 準絶滅危惧 NT に( 高知県 牧野記念財団 2009, 高知県 2011), 福岡県では 絶滅危惧 IA 類 (CR) に( 福岡県環境部自然環境課 2001), 佐賀県では 絶滅危惧 1 類種 に ( 佐賀県希少野生動植物調査検討会植物分科会 2010), 長崎県では 絶滅危惧 Ⅱ 類 (VU) に ( 長崎県レッドデータブック編集委員会 2011), そして鹿児島県では 絶滅危惧 I 類 に
168 分類 第 17 巻 2 号 ( 鹿児島県環境生活部環境保護課 2003), それぞれ指定されており, 絶滅が危惧されている. ウスキムヨウランは, ムヨウラン属の中でも小型であり, 同じく小型のエンシュウムヨウラン Lecanorchis suginoana (Tuyama) Seriz. にやや似るが, 蕊柱先端部が3 裂する, 唇弁が強く反り返り, 毛は肉厚でかつ白色で紫色の斑点がある, 唇弁の長毛にある突起物が上部に密集する, といった点等で容易に区別できる ( 津山 1982, 杉野 1985, 芹沢 2005,Fukunaga et al. 2008,Suetsugu 2012). 我々は現在, ムヨウラン属の現地調査や標本調査に基づく分布調査を行っているが, その過程で京都府京田辺市の落葉広葉樹林林床にて1 株のムヨウラン属の開花個体を発見した. なお, 本報告の証拠標本は, 京都大学総合博物館の標本庫に納めた. また生育地に関する情報は, 附録に記したが, 乱獲による影響を考慮し, その情報は必要最小限にとどめた. 京都府に分布するムヨウラン属は, ムヨウラン Lecanorchis japonica Blume, ホクリクムヨウラン Lecanorchis hokurikuensis Masam., エンシュウムヨウラン Lecanorchis suginoana (Tuyama) Seriz., そしてクロムヨウラン Lecanorchis nigricans Honda が過去に記録されており ( 村田 2004, 京都府環境部自然環境保全課 2015a,2015b, 田中 山田 2016), 当初発見された個体については, これら3 種のいずれかに該当すると思われたが, 標本採取を行い上記の形質を比較再検討した結果, ウスキムヨウランであると断定した (Fig. 1). 今までムヨウラン, ホク Fig. 1. Lecanorchis kiusiana Tuyama in Kyoto Prefecture Japan (Photo by Shigeyuki Mitsuta).
December 2017 福永ほか : ウスキムヨウランを京都に記録 169 リクムヨウラン, エンシュウムヨウラン, そしてクロムヨウランと同定されているものの中には, 今回と同じようにウスキムヨウランにすべきものが含まれている可能性もあり, 今後より多くの自生地が発見される可能性もある. 特に近県の植物研究者に注意を喚起したい. また本種は京都府においては新産地であると同時に近畿地方における分布についても和歌山県 ( 村田 2004, 山本 2013) に次ぐ2 県目の報告となる. 今回発見したウスキムヨウランの生育環境は, 樹齢約 50 年のコナラを中心とした落葉広葉樹林内のやや明るい腐植土に富む緩い南斜面の林床で, モウソウチク, アラカシ, ソヨゴ, カナメモチ, ヒサカキ, サカキ, スダジイ, ミヤマガマズミ, コバノトネリコ, クスノキ, カキ, ヤマウルシ, エゴノキ, サルトリイバラ, コクラン等が生育し, 個体数については今回の調査では1 個体のみ確認できた. 本来ウスキムヨウランの生育環境としては, ほとんどがスダジイやツブラジイ等を中心とした常緑広葉樹林内の林床であるが ( 杉野 鈴木 1987), 今回発見した産地の生育環境は, コナラ林を中心とした落葉広葉樹林内であった. 過去に報告されたウスキムヨウランの生育環境については, コナラ林を中心とした生育環境のものは杉野 鈴木 (1987) が報告した静岡県の産地の1 例のみであり, 本産地の生育環境はウスキムヨウランのものとしては非常に珍しい生育環境であり, 貴重な産地といえる. なお, 今回発見された生育地は, 比較的良く自然環境が保存されているものの, ウスキムヨウランの生育個体数は非常に少なく, 菌従属栄養性という生育特性もあり, 環境の変化には脆弱であると考えられ, 京都府においてもレッドデータブック対象種のカテゴリーの範疇に十分含まれるものと思われる. 今後は継続的に調査観察を行い, 生育地一帯を視野に入れた個体群動態調査と生育環境の保全が必要であると考えられる. 本報告をまとめるにあたり, 永益英敏博士に標本収蔵に関しお世話になったことを記して感謝申し上げる. Voucher specimen: Japan. Kyoto Pref., Kyotanabe City, Tatara, 23 May 2016, Shigeyuki Mitsuta s.n. (KYO). 引用文献 愛知県環境部自然環境課 ( 編 ).2001. レッドデータブックあいち 愛知県の絶滅のおそれのある野生生物.714pp. 愛知県環境部自然環境課, 名古屋. 中馬千鶴.1980. 神宮宮域林の腐生植物 1 ウスキムヨウランについて. 植物研究雑誌 55: 306-309. 愛媛県貴重野生動植物検討委員会 ( 編 ).2003. 愛媛県レッドデータブック 愛媛県の絶滅のおそれのある野生生物. 愛媛県県民環境部環境局自然保護課, 松山. Fukunaga, H., S. Sawa and Y. Sawa. 2008. A new form of Lecanorchis kiusiana. Orchid Rev. 116 (1280): 106-108. 福岡県環境部自然環境課 ( 編 ).2001. 福岡県の希少野生生物 福岡県レッドデータブック 2001.447pp. 福岡県環境部自然環境課, 福岡. Hashimoto, T. 1990. A Taxonomic Review of the Japanese Lecanorchis (Orchidaceae). Ann. Tsukuba Bot. Gard. 9: 1-40. 茨城県生活環境部環境政策課 ( 編 ).2012. 茨城における絶滅のおそれのある野生生物 : 茨城県版レッドデータブック植物編 2012 年改訂版.263pp. 茨城県生活環境部環境政策課, 水戸. 香川県環境保健部環境自然保護課 ( 編 ).1983. 香川県植物誌, 単子葉 裸子植物.107pp. 香川県環境保健部環境自然保護課, 高松.
170 分類 第 17 巻 2 号 香川県希少野生生物保護対策検討会 ( 編 ).2004. 香川県レッドデータブック 香川県の希少野生生物. 416pp. 香川県環境森林部環境 水政策課, 高松. 鹿児島県環境生活部環境保護課 ( 編 ).2003. 鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物, 植物編 鹿児島県レッドデータブック.657pp. 鹿児島県環境技術協会, 鹿児島. 環境庁自然保護局野生生物課.2000. 改訂 日本の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブック 8 植物 Ⅰ( 維管束植物 ).660pp. 自然環境研究センター, 東京. 環境省 ( 編 )2015. 植物 Ⅰ( 維管束植物 ) 環境省レッドリスト 2015.( インターネットで閲覧可 http:// www.env.go.jp/press/101457.html) 北村四郎 村田源 小山鐡夫.1964. ムヨウラン属. 原色日本植物図鑑草本編 Ⅲ.p. 28. 保育社, 大阪. 高知県 ( 編 ).2011. 高知県レッドリスト ( 植物編 )2010 年改訂版. 高知県林業振興 環境部環境共生課, 高知.( インターネットで閲覧可 http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/030701/redlist-syokubutu. html) 高知県 牧野記念財団 ( 編 ).2009. 高知県植物誌.844pp. 高知県, 高知. 高知県牧野記念財団 ( 編 ).2000. 高知県レッドデータブック 植物編 高知県の保護上重要な野生生物.422pp. 高知県文化環境部環境保全課, 高知. 京都府環境部自然環境保全課 ( 編 ).2015a. 京都府自然環境目録 2015.( インターネットで閲覧可 http:// www.pref.kyoto.jp/kankyo/mokuroku/index.html) 京都府環境部自然環境保全課 ( 編 ).2015b. 京都府レッドデータブック 2015.( インターネットで閲覧可 http://www.pref.kyoto.jp/kankyo/rdb/index.html) 正宗厳敬.1969. 日本の植物刊行会 ( 編 ) 日本の植物第 8 巻, 単子葉植物第 2.295pp. 高陽書院, 東京. 三重県環境森林部自然環境室 ( 編 ).2006. 三重県レッドデータブック 2005, 植物 キノコ.534pp. 三重県環境保全事業団, 津. 村田源.2004. 近畿地方植物誌.257pp. 大阪自然史センター, 大阪. 長崎県レッドデータブック編集委員会 ( 編 ).2011. 長崎県レッドデータブック : 長崎の貴重な野生植物.199pp. 長崎県, 長崎. 名古屋市動植物実態調査検討会 ( 編 ).2004. レッドデータブックなごや 2004 植物編.324pp. 名古屋市環境局環境都市推進部環境影響評価室, 名古屋. 大井次三郎.1965. 日本植物誌.1560pp. 至文堂, 東京. 佐賀県希少野生動植物調査検討会植物分科会 ( 編 ).2010. レッドデータブックさが 2010 植物編 : 佐賀県の絶滅のおそれのある野生生物.329pp. 佐賀県くらし環境本部有明海再生 自然環境課, 佐賀. 里見信生.1982. ラン科. 佐竹義輔 大井次三郎 北村四郎 亘理俊二 富成忠夫 ( 編 ). 日本の野生植物, 草本 Ⅰ,305pp. 平凡社, 東京. 澤完.1980. 高知県中部のラン科植物. 高知大学学術研究報告 - 自然科学 29: 59-71. 澤完.1987. 四国産ラン科植物の分布 ( 第 5 報 ). 園芸学会中四国支部発表要旨 26: 54. 芹沢俊介.2005. 愛知県のムヨウラン類. 分類 5: 33-38. 静岡県自然環境調査委員会 ( 編 ).2004. まもりたい静岡県の野生生物 県版レッドデータブック 2004 植物編.338pp. 羽衣出版, 静岡. Suetsugu, K. 2012. New record of the mycoheterotrophic orchid Lecanorchis kiusiana forma lutea outside the type locality. J. Phytogeogr. Taxon. 60: 35-37. Suetsugu, K., T. C. Hsu and H. Fukunaga. 2017. Lectotypification of Lecanorchis ohwii (Vanilleae, Vanilloideae, Orchidaceae) with discussions of its taxonomic identity. Phytotaxa. 309: 259-264. 杉野孝雄.1985. エンシュウムヨウランの観察. 遠州の自然 8: 17-27. 杉野孝雄 鈴木一郎.1987. 遠州地方のムヨウランの分布と生態. 遠州の自然 10: 77-91. 田中光彦 山田良之.2016. 近畿におけるエンシュウムヨウランの新産地. 近畿植物同好会々誌 39: 27-28. 栃木県林務部自然環境課 栃木県立博物館 ( 編 ).2005. レッドデータブックとちぎ : 栃木県の保護上注目すべき地形 地質 野生動植物 2005.898pp. 栃木県林務部自然環境課, 宇都宮. 徳島県版レッドデータブック掲載種検討委員会.2001. 徳島県の絶滅の恐れのある野生生物 徳島県版レッドデータブック.438pp. 徳島県環境生活部環境政策課, 徳島. 東京都環境局自然環境部 ( 編 ).2014. レッドデータブック東京 : 東京都の保護上重要な野生生物種 ( 島しょ部 ) 解説版.634pp. 東京都環境局自然環境部, 東京. Tuyama, T. 1955. A new saprophytic orchid, Lecanorchis kiusiana. J. Jap. Bot. 30: 181-187.
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