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プラズマ バブルの到達高度に関する研究 西岡未知 齊藤昭則 ( 京都大学理学研究科 ) 概要 TIMED 衛星搭載の GUVI によって観測された赤道異常のピーク位置と 地上 GPS 受信機網によって観測されたプラズマ バブルの出現率や到達率の関係を調べた 高太陽活動時と低太陽活動時について アジア地域とアメリカ地域においてそれらの関係を調べたところ 赤道異常高度とプラズマ バブルの出現頻度に強い相関が見られたのは アジア地域の高太陽活動度時のみであった 赤道異常高度とプラズマ バブルの到達高度の相関は アジア地域の方がアメリカ地域よりも強かった アジア地域では プラズマ バブルの出現率や到達高度には赤道異常の寄与が大きく アメリカ地域では重力波などの他の物理量が寄与することが示唆された 1 研究背景プラズマ バブル出現率の太陽活動度依存性は 地域 観測手法によって異なる 図 1は 地上 GPS 受信機網と高度 850kmを飛行するDMSP 衛星によって観測されたプラズマ バブルの出現率をアジア地域とアメリカ地域のそれぞれについて太陽活動度指数 (F10.7) を横軸にして示したものである それぞれの地域におけるプラズマ バブルの出現率の太陽活動度依存性は 地上 GPS 受信機で観測した場合 アジア地域の方がアメリカ地域よりも大きく DMSP 衛星で観測した場合 アメリカ地域の方がアジア地域の方が大きかった 図 1. 地上 GPS 受信機とDMSP 衛星によこのような観測手法によるプラズマ バブルの出現特性の違って観測されたプラズマ バブルの出現率いは その到達高度が太陽活動度や地域によって異なることを示唆している プラズマ バブルの出現率や到達高度に寄与するパラメータとして 赤道異常が挙げられる 赤道異常のピーク位置が高高度にあるほどプラズマ バブルが出現しやすく 高高度にまで到達することが推測される 図 2はTIMED 衛星搭載のGUVIによって2003 年 10 月 11 日に撮像された 135.6nmの夜間大気光を示したものである 経度 100 度付近と経度 130 度付近の軌道 (a) と (b) を比べると 軌道 (a) で観測された赤道異常の図 2.GUVI によって観測された135.6nm 夜間大気光 A 位置は軌道 (b) で観測されたそれよりも高緯度

側に赤道異常のピークが位置していたことがわかる 図 2の K と T で示した軌道(a) と軌道 (b) に位置している地上 GPS 受信機は 緯度がほぼ同じであるか この日の赤道異常との位置関係は K で示したKUNM 局は赤道異常よりも低緯度側に T で示したTWTF 局は赤道異常よりも高緯度側に位置していたことがわかる 図 3の (A) と (B) はKUNM 局とTWTF 局の地上 GPS 受信機によって観測された電離圏全電子数 (Total Electron Content; TEC) の時間変化を示す 赤道異常よりも低緯度側に位置するKUNMではプラズマ バブルが観測され 赤道異常よりも高緯度側に位置するTWTFではプラズマ バブルが観測されてなかったことがわかる 本研究では 赤道異常のピーク位置がプラズマ バブルの出現率にどれくらい寄与しているか? をアジア地域 アメリカ地域において 高太陽活動時と低太陽活動時について調べる 2 データと解析方法 TIMED/GUVI によって観測された赤道異常のピーク位置と 地上 GPS 受信機によって観測されたプラズマ バブルを比図 3.(A)KUNM(B)TWTF における全電子数 (TEC) 較した (C)(D) 図 2の軌道 (a)(b) における夜間大気光の緯度分布 TIMED 衛星搭載の GUVI は 5 波長の大気光を観測しており 本研究では 135.6nm の大気光のデータを用いた 135.6nm の夜間大気光の輝度は 電子密度の二乗に比例する TIMED 衛星は 高度約 600km を飛行する極軌道衛星で 約 60 日で地方時 24 時間を一周する 本研究では アジア地域とアメリカ地域でプラズマ バブルが頻出する期間の 120 日間のデータを用いた 観測地方時は 19 時から 5 時である アジア地域は 2 月 20 日から 4 月 20 日と 8 月 19 日から 10 月 17 日の 120 日間 アメリカ地域は 10 月 18 日から 2 月 19 日までの 120 日間である 2002 年から 2004 年までの 3 年間の高太陽活動時と 2005 年から 2007 年までの 3 年間の低太陽活動時のデータをそれぞれ用いた また 地磁気静穏時について調べるために Kp 指数が 5 未満の日のみを採用した 図 3 の (C) と (D) は 図 2 の軌道 (a) と (b) で観測された 135.6nm の大気光を緯度方向にそってプロットしたものである このような緯度プロファイルから赤道異常のピーク位置を同定し その点の上 300km の磁力線の磁気赤道上での高度を 赤道異常高度 とした 軌道 (a) では赤道異常高度は 1075km 軌道(b) では赤道異常高度は 587km である 地上 GPS 受信機網データについては TEC の時間変化の標準偏差 (Rate Of TEC change Index) を用いてプラズマ バブルの有無を決定した (Nishioka et al., 2008) 用いた受信機は アジア地域 アメリカ地域のそれぞれ 8 受信機と 4 受信機である それぞれの地域

における受信機分布を図 4 に示す 図 4. 本研究で用いたアジア地域とアメリカ地域における地上 GPS 受信機の分布 図 5. 地上 GPS 受信機と観測高度 本研究では地上 GPS 受信機の高度 300km の磁力線の磁気赤道上での高度を 観測高度 とし 赤道異常高度との比較を行った 観測高度の定義は図 5 の模式図に示されている 3 結果 3.1 赤道異常高度とプラズマ バブルの出現率の関係観測高度が赤道異常高度よりも低い観測点において赤道異常高度ごとにプラズマ バブルの出現率を求めた 図 6はアジア地域での高太陽活動時 低太陽活動時 およびアメリカ地域での高太陽活動時の出現頻度を 年別に点で示したものである ヒストグラムは 赤道異常高度が 600km 以上と以下にわけた場合の平均出現率である 図 6. 赤道異常高度に対するプラズマ バブルの出現率 赤道異常高度が 600km 以下と以上におけるプラズマ バブルの出現率は表 1 にまとめてある これを見ると 出現率と赤道異常高度の相関は アジア地域の高太陽活動度で特に高く 低太陽活動時やアメリカ地域では強い相関はみられなかったことがわかる 表 1. アジア地域 (a) とアメリカ地域 (b) における 赤道異常高度ごとのプラズマ バブルの出現率

3.2. 赤道異常高度とプラズマ バブルの到達高度の関係 観測高度と赤道異常高度の差に対するプラズマ バブルの出現率を求めた 図 7 はアジア地域 アメリカ地域におけるそれぞれの太陽活動時におけるプラズマ バブルの出現率を それぞれの赤道異常高度に対する観測高度ごとにヒストグラムで示したものである 赤道異常高度よりも低い ( 高い ) 高度で観測されるプラズマ バブルの出現率が高い ( 低い ) ほど 赤道異常によるプラズマ バブルの到達高度への寄与が大きい 赤道異常高度が観測高度よりも高い場合と低い場合それぞれについてのプラズマ バブルの平均出現率をまとめたものが表 2 である アジア地域では アメリカ地域に比べて プラズマ バブルの到達高度への赤道異常による寄与が大きいことがわかる 表 2. アジア地域 (a) とアメリカ地域 (b) における 赤道異常高度 に対する観測高度ごとのプラズマ バブルの出現率 図 7. アジア地域とアメリカ地域における 赤道異常高 度に対する観測高度ごとのプラズマ バブルの出現率 4 まとめと考察アジアおよびアメリカ地域において 赤道異常の高度とプラズマ バブルの出現率や到達高度の関係を調べた 赤道異常高度が高い場合 1 昼間の赤道域東向き電場が強かったこと 2 電離圏伝導度の磁力線沿い積分が 高高度の磁力線において極大をとることが推定される 1の場合 レイリー テイラー不安定性が成長しやすいので プラズマ バブルの出現率が高くなり 2の場合 高高度においてもレイリー テイラー不安定性のもととなる東向き電流が流れやすいので プラズマ バブルの到達高度が高くなることが推測される

表 3. アジア地域とアメリカ地域における 赤道異常高度と プラズマ バブルの出現率 到達高度の相関 ( まとめ ) 解析の結果 赤道異常高度とプラズマ バブルの出現頻度に強い相関が見られたのはアジア地域の高太陽活動時のみであった アメリカ地域や低太陽活動時には プラズマ バブルの出現頻度に重力波などの他の物理量が寄与していたことが示唆される 一方 赤道異常高度とプラズマ バブルの到達高度の相関は アジア地域の方がアメリカ地域よりも強かった プラズマ バブルの到達高度を決定づけるパラメータとして 赤道異常高度のみではなく 電子密度や電気伝導度の磁力線積分の高度プロファイルを調べる必要がある データ提供地上 GPS 受信機網データ : International GNSS Service Scripps Orbit and Permanent Array Center 名古屋大学太陽地球環境研究所 TIMED/GUVI 大気光データ : Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory