ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

Similar documents
平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

記者発表資料

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー A 電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー 第 9 回 品質技術兼原龍二 前回の第 8 回目では FIB(Focused Ion Beam:FIB) のデメリットの一つであるGaイ

Microsoft PowerPoint - 第2回半導体工学

マスコミへの訃報送信における注意事項

Microsoft Word - 01.doc

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

<4D F736F F F696E74202D C834E D836A834E83588DDE97BF955D89BF8B5A8F F196DA2E >

PRESS RELEASE 平成 29 年 3 月 3 日 酸化グラフェンの形成メカニズムを解明 - 反応中の状態をリアルタイムで観察することに成功 - 岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授らの研究グループは 黒鉛 1 から酸 化グラフェン 2 を合成する過程を追跡し 黒鉛が酸化されて剥が

平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

QOBU1011_40.pdf

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

e - カーボンブラック Pt 触媒 プロトン導電膜 H 2 厚さ = 数 10μm H + O 2 H 2 O 拡散層 触媒層 高分子 電解質 触媒層 拡散層 マイクロポーラス層 マイクロポーラス層 ガス拡散電極バイポーラープレート ガス拡散電極バイポーラープレート 1 1~ 50nm 0.1~1

Graphite/Graphene Index ( 以下 GG Index と呼びます ) は 今後の研究に伴い 以下の項目 が明らかになっていくことを目標としています 1) 原料黒鉛の性状の特定や同定 2) 黒鉛 グラフェン中間体 およびグラフェンの特定や同定 3) 製品黒鉛 製品グラフェン中間体

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

電解メッキ初期過程における電極近傍イオン種のリアルタイム観測に成功

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

Microsoft PowerPoint _量子力学短大.pptx

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

IB-B


電子配置と価電子 P H 2He 第 4 回化学概論 3Li 4Be 5B 6C 7N 8O 9F 10Ne 周期表と元素イオン 11Na 12Mg 13Al 14Si 15P 16S 17Cl 18Ar 価電子数 陽

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

リチウムイオン電池用シリコン電極の1粒子の充電による膨張の観察に成功

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

論文の内容の要旨

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さか

報道発表資料 2000 年 2 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 北海道大学 新しい結晶成長プロセスによる 低欠陥 高品質の GaN 結晶薄膜基板作製に成功 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 北海道大学との共同研究により 従来よりも低欠陥 高品質の窒化ガリウム (GaN) 結晶薄膜基板

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

<4D F736F F D2089BB8A778AEE E631358D E5F89BB8AD28CB3>

表紙


化学 1( 応用生物 生命健康科 現代教育学部 ) ( 解答番号 1 ~ 29 ) Ⅰ 化学結合に関する ⑴~⑶ の文章を読み, 下の問い ( 問 1~5) に答えよ ⑴ 塩化ナトリウム中では, ナトリウムイオン Na + と塩化物イオン Cl - が静電気的な引力で結び ついている このような陽イ

AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

Microsoft Word - 8章(CI).doc

研究成果報告書(基金分)

生物は繁殖において 近い種類の他種にまちがって悪影響を与えることがあり これは繁殖干渉と呼ばれています 西田准教授らのグループは今まで野外調査などで タンポポをはじめとする日本の在来植物が外来種から繁殖干渉を受けていることを研究してきましたが 今回 タンポポでその直接のメカニズムを明らかにすることに

PowerPoint プレゼンテーション

世界初! 次世代電池内部のリチウムイオンの動きを充放電中に可視化 ~ 次世代電池の実用化に向けて大きく前進 ~ 名古屋大学 パナソニック株式会社 ( 以下 パナソニック ) および一般財団法人ファインセラミックスセンター ( 以下 ファインセラミックスセンター ) は共同で 走査型透過電子顕微鏡 (

PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

開発の社会的背景 リチウムイオン電池用正極材料として広く用いられているマンガン酸リチウム (LiMn 2 O 4 ) やコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) などは 電気自動車や定置型蓄電システムなどの大型用途には充放電容量などの性能が不十分であり また 低コスト化や充放電繰り返し特性の高性能化

2018/6/12 表面の電子状態 表面に局在する電子状態 表面電子状態表面準位 1. ショックレー状態 ( 準位 ) 2. タム状態 ( 準位 ) 3. 鏡像状態 ( 準位 ) 4. 表面バンドのナローイング 5. 吸着子の状態密度 鏡像力によるポテンシャル 表面からzの位置の電子に働く力とポテン

研究の背景物質の原子 1つ1つを識別してその性質を調べる研究は これまでに盛んに取り組まれてきました しかしながら テラヘルツ波の信号やノイズレベル (-174 dbm レベル注近くの強度の信号 ) の強度しかない微弱な信号を検出する分光技術の開発は難しく 未だに成し遂げられていない課題でした [1

<4D F736F F D B382AB82AA82AF93A CB48D A6D92E894C F08BD682A082E8816A2E646F63>

本研究成果は 平成 28 年 8 月 19 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 Journal of the American Chemical Society のオンライン速報版で公開されました 研究の背景と経緯 超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性 ( 注 2) を示す科学の観点から重要な物理

Microsoft Word - プレリリース参考資料_ver8青柳(最終版)

タイトル→○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

資料2-1 ナノ材料の定義情報

研究成果報告書

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

< 研究の背景と経緯 > 水素は排気ガスが一切出ない次世代エネルギー源として注目されています また 水素はすぐに使用しなければならない電力と違って貯蔵 運搬が可能なエネルギーキャリアでもあり 燃料電池等を用いれば電力需要が高い時期に水素から再度電気を取り出すことが可能です 現在 水素は化石燃料と高温

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

Microsoft PowerPoint - 今栄一郎.ppt [互換モード]

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

2357

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

Gifu University Faculty of Engineering

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

予定 (川口担当分)

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

Microsoft Word - t30_西_修正__ doc

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

Microsoft Word - H2118Œ{‚Ì doc

報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

ポイント 微生物細胞から生える細い毛を 無傷のまま効率的に切断 回収する新手法を考案しました 新手法では 蛋白質を切断するプロテアーゼという酵素の一種を利用します 特殊なアミノ酸配列だけを認識して切断する特異性の高いプロテアーゼに着目し この酵素の認識 切断部位を毛の根元に導入するために 蛋白質の設

今後の展開 開発したバーチャルテスト手法により 強度のばらつきのみならず これまで設計者を悩ませてきたサイズ依存性の評価も併せて可能となる 更に本手法は 自己治癒セラミックスや長繊維強化セラミックス複合材の設計にも活用できるため 先進セラミックスの設計および耐熱部材への実用化までの期間を大幅に短縮で

PowerPoint プレゼンテーション

無機化学 II 2018 年度期末試験 1. 窒素を含む化合物にヒドラジンと呼ばれる化合物 (N2H4, 右図 ) がある. この分子に関し, 以下の問いに答えよ.( 計 9 点 ) (1) N2 分子が 1 mol と H2 分子が 2 mol の状態と, ヒドラジン 1 mol となっている状態

第 11 回化学概論 酸化と還元 P63 酸化還元反応 酸化数 酸化剤 還元剤 金属のイオン化傾向 酸化される = 酸素と化合する = 水素を奪われる = 電子を失う = 酸化数が増加する 還元される = 水素と化合する = 酸素を奪われる = 電子を得る = 酸化数が減少する 銅の酸化酸化銅の還元

発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - プレスリリース_NM.docx

平成22年11月15日

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

NEWS RELEASE 平成 30 年 11 月 1 日 鉄鋼材料において水素による異常な変態抑制効果を発見 - 鉄の構造を水素で制御する - 九州工業大学大学院生命体工学研究科の平田研二 ( ひらたけんじ ) 大学院生 ( 現 : 産業技術総合研究所 ) 飯久保智 ( いいくぼさとし ) 准教授

金属イオンのイオンの濃度濃度を調べるべる試薬中村博 私たちの身の回りには様々な物質があふれています 物の量を測るということは 環境を評価する上で重要な事です しかし 色々な物の量を測るにはどういう方法があるのでしょうか 純粋なもので kg や g mg のオーダーなら 直接 はかりで重量を測ることが

<4D F736F F F696E74202D2094BC93B191CC82CC D B322E >

基礎化学 Ⅰ 第 5 講原子量とモル数 第 5 講原子量とモル数 1 原子量 (1) 相対質量 まず, 大きさの復習から 原子 ピンポン玉 原子の直径は, 約 1 億分の 1cm ( 第 1 講 ) 原子とピンポン玉の関係は, ピンポン玉と地球の関係と同じくらいの大きさです 地球 では, 原子 1

Microsoft Word - _博士後期_②和文要旨.doc

背景 現代社会を支えるコンピューティングや光通信では, 情報の担い手として, 電子の電荷と, その電荷を変換して生成した光 ( 光電変換 ) を利用しています このような通常の情報処理に用いる電荷以外に, 電子にはスピンという状態があります このスピンの集団は磁石の性質を持ち, 情報の保持に電力が不

第3類危険物の物質別詳細 練習問題

Transcription:

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注目される鉛からなるハチの巣状構 造の単原子層物質 プランベン ( ラテン語で 鉛はプランバムという ) の創製に世界で初め て成功しました 単原子層材料としてよく知られているグラフェン注 1) は 電気伝導性が高く また 曲げな どに対して頑丈といったメリットがありますが 電気伝導性の制御は難しい素材です 炭素 元素は原子番号が 6 であり質量が軽い元素ですが 重い元素で置き換えるほど電気伝導 性の制御が容易になるとの理論的予測が数多く報告されており 周期律表において同族 で最も重い元素である鉛元素で作るプランベンの創製方法を発見することは 至高の目標 (Holy Grail) とされ 世界中でポストグラフェン物質注 2) の開発研究が行われてきました 今 回発見したナノテク新素材であるプランベンは 未来型エレクトロニクスといわれているスピ ントロニクス注 3) 注 4) や IoT 社会実現のためのナノエレクトロニクスの開発につながると期待さ れます 今回の実験では プランベンの発見とともに その下地の合金薄膜に ナノスケールの バブル構造 を偶然発見しました 材料表面科学の約 50 年間の歴史において初めて発見 された大変ユニークな結晶構造です 北京オリンピックの競泳施設 ウォーターキューブ と 外見がそっくりなナノ物質であることから これを ナノウォーターキューブ と命名しました 本研究成果は 2019 年 5 月 10 日付ドイツ化学会系材料科学専門誌 Advanced Materials 電子版に掲載されました

ポイント ポストグラフェン物質の最後の未発見物質であるプランベンの創製 発見に成功した プランベンは グラフェンと化学的性質が近い14 族元素注 5) からなるハチの巣状構造の単原子層物質である 重い元素ほど電気伝導性の制御が容易との理論的予測から スピントロニクスや IoT 社会の実現のためのナノエレクトロニクスの開発につながると期待される 北京オリンピックの競泳施設 ウォーターキューブ とそっくりなナノ物質が副産物として偶然発見され ナノウォーターキューブ と命名した 研究背景と内容 単原子層材料としてよく知られているグラフェンは 電気伝導性が高く また 曲げなどに対して頑丈といった特徴があるが 電気伝導性の制御が難しかった そこで 電気伝導性の制御をよくするためにグラフェンの結晶構造を維持したまま グラフェンを構成している炭素元素を周期律表で同族元素であるシリコン ゲルマニウム スズ 鉛 ( 図 1) に置き換えた物質を創製する研究が注目されている プランベン以外のポストグラフェン物質は シリセン ゲルマネン スタネンがあるが それぞれ 2012 年 2014 年 2015 年に実験的に創製することに成功しており 国内外で次々と研究成果が報告されている ( 図 2) 一方で 周期律表において同族で最も重い元素である鉛元素で作るプランベンの創製方法を発見することは 至高の目標 (Holy Grail) とされ 世界中でポストグラフェン物質の開発研究が行われてきた 本実験では パラジウム結晶表面に鉛を蒸着後 500 で真空加熱しパラジウム鉛合金薄膜を作製 その後 試料を冷ますと 合金薄膜表面に プランベン ができることを見出した ( 図 3) 原子 1 個 1 個が識別可能な原子分解能を有する走査型トンネル顕微鏡 (STM) により 直接観察した STM 像を図 4に示す 柚原准教授らは パラジウム鉛合金薄膜を作製するにあたり ナノスケールのバブル構造 を偶然発見した ( 図 5 図 6) 表面科学の約 50 年間の歴史において 初めて発見された大変ユニークな結晶構造である ウォーターキューブ と外観のそっくりなナノスールの物質であることから ナノウォーターキューブ と命名した 図 1 炭素元素と似た性質をもつ 14 族元素 図 2 グラフェン及びポストグラフェン物質の論文掲載数

図 3 プランベンの作製方法 Pd(111)(1x1) Plumbene ( 3x 3) 図 4 ( 上 ) プランベンの原子分解能 STM 像 ( 下 ) プランベンの原子配列モデル

50 nm 図 5 ( 上 )Pd(111) 基板上の Pd-Pb 合金表面の STM 像 ナノウォーターキューブと命名 ( 下 ) 北京オリンピックの競泳施設 通称ウォーターキューブ (http://www.water-cube.com/en/) より引用 図 6 種々の大きさのナノウォーターキューブとその断面図

成果の意義 ポストグラフェン物質として注目されている炭素と同族のハチの巣状の二次元物質は 原子番号が大きいほど電子構造においてエネルギーギャップ注 6) が大きくなると理論的に予測されている プランベン以外のポストグラフェン物質は シリセン ゲルマネン スタネンがあるが それぞれ 2012 年 2014 年 2015 年に実験的に創製することに成功している 周期律表において同族で最も重い元素である鉛元素で作るプランベンの創製方法を発見することは 至高の目標 (Holy Grail) とされ 世界中でポストグラフェン物質の開発研究が行われてきた 今回発見したナノテク新素材であるプランベンは 未来型エレクトロニクスといわれているスピントロニクスや IoT 社会の実現のためのナノエレクトロニクスの開発につながると期待される 今回発見した ナノバブル構造 は 2008 年北京オリンピックの競泳施設 ウォーターキューブ とそっくりなナノ物質であることから ナノウォーターキューブ と命名した 歴史を振り返ると 1985 年のノーベル物理学賞の対象となった炭素原子 60 個からなるサッカーボール状の構造を持った C60 フラーレンは 1967 年モントリオール万国博覧会のために建設されたフラードームハウス ( 建築家 : バックミンスター フラー氏 ) から命名されている 2020 年東京オリンピックや 2025 年大阪万博の建築物についても 将来の新素材として再び脚光を浴びることがあるかもしれない 用語説明 注 1) グラフェン : 炭素元素からなるハチの巣構造を持つ単原子層シートのこと 電気伝導率が非常に高く 機械的強度 化学的安定性に大変すぐれた物質である バンドギャップがない物質である 注 2) ポストグラフェン材料 : グラフェンと同じハチの巣構造を持つ単原子層シートのことである グラフェンを構成している炭素をシリコン ゲルマニウム スズ 鉛で置き換えた物質をシリセン ゲルマネン スタネン ( ラテン語で スズはスタナム ) プランベン( ラテン語で 鉛はプランバム ) などと呼び 最近注目を集めている 注 3) スピントロニクス : 電子が持つ電荷とスピンの両方の性質を利用した新しい概念のエレクトロニクスのこと注 4)IoT 社会 :IoT は Internet of Things の略 つまり モノのインターネットのことである IoT 社会は あらゆるものがインターネットに接続され リアルタイムで情報交換 データ分析 制御することにより 新たなサービス アプリケーションを享受できる社会のことである 注 5)14 族元素 : 炭素 シリコン ゲルマニウム スズ 鉛のことであり 最外郭電子の配置が同じであるため 化学的性質によく似た性質を示す 下図の示すように s 軌道と p 軌道 それぞれ2 個ずつ計 4 個の電子が結晶構造 電気伝導度 化学反応性等に影響を与える

注 6) エネルギーギャップ : 電子に占有された最も高いエネルギー準位と電子に占有されていない最も低いエネルギー準位の間のエネルギー準位を指す ポストグラフェン物質では スピン軌道相互作用のため 原子番号の大きな物質ほどエネルギーギャップが大きくなると理論的に予測されている 具体的な値は それぞれ グラフェン (0 ev) シリセン (0.002eV) ゲルマネン(0.03eV) スタネン(0.1eV) プランベン(0.4eV) である 論文情報 掲載誌 : Advanced Materials ( ドイツ化学会系材料科学専門誌 ) 論文題目 :Graphene s Latest Cousin: Plumbene Epitaxial Growth on a Nano WaterCube 著者名 :Junji Yuhara, Bangjie He, Noriaki Matsunami, Masashi Nakatake, Guy Le Lay DOI :10.1002/adma.201901017