牛海綿状脳症 (BSE) に関する国際的取決め (OIE 陸生動物衛生規約 ) と国内法令鹿児島大学岡本嘉六 食の安全性を含めた全ての社会的規制は 偏見や差別を生まないために科学的知見に基づくことが原則とされている 日本で最初の BSE が発生してから既に 11 年を経過するが 財政問題の深刻化のなかで食の安全性とは無関係の < 全頭検査 > によって多額の税金が浪費されている 2013 年 1 月に日本は最もリスクが低い 無視できる BSE リスクの国 に仲間入りできるが 世界で唯一の < 全頭検査の国 > はどこへ向かおうとしているのか? BSE 問題について一人でも多くの国民が科学的理解を深め 正しい判断ができるように 国際法と国内法について取りまとめた
OIE: 牛集団のリスク資格 (2012 年 5 月現在 ) 無視できる BSE リスクの国 (19 ヶ国 ) Argentina Australia Austria Belgium Brazil Chile Colombia Denmark Finland Iceland India New Zealand Norway Panama Paraguay Peru Singapore Sweden Uruguay 管理下にある BSE リスクの国 (30 ヶ国 ) Canada Chinese Taipei Croatia Cyprus Czech Republic Estonia France Germany Greece Hungary Ireland Italy Japan Korea (Rep. of) Latvia Lichtenstein Lithuania Luxembourg Malta Mexico Netherlands Nicaragua Poland Portugal Slovak Republic Slovenia Spain Switzerland United Kingdom United States of America 判定できない BSE リスク ( 129 ヶ国 ) Bovine Spongiform Encephalopathy Status of Members
第 11.5.2 条国 区域あるいは区画における牛集団のリスク資格 以下の基準を基に決定 1. 陸生動物衛生規約の規定に基づいて BSE 発生に係る全ての潜在的要因とその歴史的全体像を特定するリスク査定 a. 散布査定 (Release assessment): 輸入を介した国内侵入 b. 暴露査定 (Exposure assessment): 侵入後の拡散 増幅 2. 牛の輸送 取引およびと殺に従事する獣医師 農民および労働者に対して BSE と一致する臨床徴候を示す全ての症例の報告を奨励 3. BSE と一致する臨床徴候を示す全ての牛についての法的強制力を持つ通知と調査 4. 前述の発生動向調査と定期検査システムの枠組みの中で収集した脳およびその他の組織について 陸生動物用手引き書に従った検査の実行
第 11.5.4 条管理下にある BSE リスク 1. 過去および現在のリスク要因を特定するためにリスク査定が実施され 特定された全てのリスクを管理するため適切な措置が講じられていることを証明いているが それらの措置は関連する期間に達していない 2. タイプ A の発生動向調査を実施しており 表 1 に従って該当する評点目標が満たされている 該当する評点目標が一旦満たされたなら タイプ A に代わってタイプ B の発生動向調査を行う 2. 国内の固有動物種の BSE 症例が存在したが 第 11.5.2 条 2~4 項の基準が満たされ 交差汚染を含め反芻動物由来の肉骨粉も脂肪粕も反芻動物に給餌されていないことが適切な管理と監査を通して証明することができる それとともに 全ての BSE 症例は i. 全ての牛が 1 歳までの間 同じ農場でその年生まれた BSE 症例と一緒に育てられ 調査によってその期間に同じ潜在的汚染飼料を摂取したことが判明したか または ii. 調査の結論が得られない場合 全ての牛は同じ農場で生まれ 生後 12 ヶ月間他の BSE 症例と一緒にいた 国 区域または区画内に生きている場合 常に識別され 移動制限を受け と殺または死亡した時に完全に破棄される
1. タイプ A の発生動向調査タイプ A の発生動向調査の適用は 懸念される国 区域または区画の成牛集団 10 万頭当り少なくとも 1 症例の有病率の見込み地域で 95% の信頼水準で BSE を検出できる 2. タイプ B の発生動向調査タイプ B の発生動向調査の適用は 懸念される国 区域または区画の成牛集団 5 万頭当り少なくとも 1 症例の有病率の見込み地域で 95% の信頼水準で BSE を検出できる タイプ B の発生動向調査は 無視できる SE リスク資格の国において たとえば 特定されたあらゆるリスク要因を軽減する措置の有効性とそのような措置の失敗を特定する可能性を最大限にする的を絞った発生動向調査を通して証明することによって リスク査定の結論を確かめるために実施することができる タイプ B の発生動向調査は 管理された SE リスク資格の国において タイプ A の発生動向調査による関連する評点目標達成に続いて タイプ A の発生動向調査を通して得られた知見の信頼性を維持するためにも実施することができる
第 11.5.3 条無視できる BSE リスク 2. 国内発生例があった場合 全ての国内発生例が 11 年以上前に生まれたものであり かつ i. 第 11.5.2 条 2 項の基準を少なくとも 7 年間に亘って満たし かつ ii. 交差汚染を含め適切な水準の制御と監査を通して 少なくとも 8 年間に亘って反芻動物由来の肉骨粉も脂肪粕も反芻動物に給餌していないことを証明した iii. それとともに 全ての BSE 症例は 全ての牛が 1 歳までの間 同じ農場でその年生まれた BSE 症例と一緒に育てられ 調査によってその期間に同じ潜在的汚染飼料を摂取したことが判明したか または 調査の結論が得られない場合 全ての牛は同じ農場で生まれ 生後 12 ヶ月間他の BSE 症例と一緒にいた 国 区域または区画内に生きている場合 常に識別され 移動制限を受け と殺または死亡した時に完全に破棄される 第 11.5.2 条 2 項 : 牛の輸送 取引およびと殺に従事する獣医師 農民および労働者に対して 第 11.5.20~11.5.22 条に規定された対象部分集団における BSE と一致する臨床徴候を示す全ての症例の報告を奨励する注意喚起計画の進行
日本で発見された BSE 牛 BSE 確認状況について 死亡牛 と畜場 検査数 陽性陽性率 検査数 ELIZA 陽性陽性率 2001 1,095 0 0.00 523,591 59 3 0.57 2002 4,315 0 0.00 1,253,811 44 4 0.32 2003 48,416 1 2.07 1,252,630 13 3 0.24 2004 98,656 2 2.03 1,265,620 30 3 0.24 2005 95,248 3 3.15 1,232,252 9 5 0.41 2006 94,749 5 5.28 1,218,285 10 3 0.25 2007 90,802 2 2.20 1,228,256 8 1 0.08 2008 94,452 1 1.06 1,241,752 0 0 0.00 2009 96,424 0 0.00 1,232,496 0 0 0.00 2010 105,380 0 0.00 1,216,519 1 0 0.00 2011 104,733 0 0.00 1,187,955 1 0 0.00 計 834,270 14 1.68 12,853,167 175 22 0.17 生年 :1992(2) 1995(1) 1996(12) 1999(4) 2000(13) 2001(3) 2002(1) 最後の症例は 2002 年 1 月 13 日生まれであり 全ての国内発生例が 11 年以上前に生まれたもの を満たすのは 2013 年 1 月である
第 11.5.22 条表 2. 所定の部分集団と年齢別の動物から採取されたサンプルに対する発生動向調査の評点 発生動向調査の部分集団日常的と殺牛 d 死亡牛 c 緊急と殺牛 b 臨床的疑い牛 a 1 歳を超え 2 歳未満 0.01 0.2 0.4 N/A 2 歳を超え 4 歳未満 ( 若牛 ) 0.1 0.2 0.4 260 4 歳を超え 7 歳未満 ( 成牛 ) 0.2 0.9 1.6 750 7 歳を超え 9 歳未満 ( 高齢牛 ) 0.1 0.4 0.7 220 9 歳以上 ( 老牛 ) 0.0 0.1 0.2 45 a.bse と一致する行動や臨床徴候を示す 30 ヶ月齢以上の牛 ( 臨床的疑い ) b. 歩行不能 側臥位 補助なしでは立上って歩くことができない 30 ヶ月齢以上の牛 ; 緊急と殺として出荷または生体検査で廃用とされた 30 ヶ月齢以上の牛 ( 緊急と殺または歩行困難牛 ) c. 農場 輸送中またはと畜場で死亡または殺された 30 ヶ月齢以上の牛 ( 死亡牛 ) d. 日常的にと殺している 30 ヶ月齢以上の牛
第 11.5.22 条表 1. 様々な成牛集団頭数に対する評点目標 国 区域または区画における評点目標 成牛集団の頭数 (24ヶ月齢以上) タイプA 発生動向調査 タイプB 発生動向調査 >1,000,000 300,000 150,000 800,000~1,000,000 240,000 120,000 600,000~800,000 180,000 90,000 400,000~600,000 120,000 60,000 200,000~400,000 60,000 30,000 100,000~200,000 30,000 15,000 50,000~100,000 15,000 7,500 25,000~50,000 7,500 3,750 1 歳未満 244,400 1 歳 225,000 2 歳 218,500 218,500 3~8 749,100 749,100 9 歳以上 47,200 47,200 計 1,484,200 1,014,800 乳用牛 ( 平成 22 年 2 月 1 日調査 ) 乳用牛に限っても 2 歳以上は 100 万頭を超えている したがって 管理下にある BSE リスクの国である日本は タイプ A の 30 万ポイントを 7 年間維持しなければならない
成牛集団頭数に対する評点目標 成牛集団の頭数 タイプA タイプB (24ヶ月齢以上) 発生動向調査 発生動向調査 >1,000,000 300,000 150,000 サンプルに対する発生動向調査の評点 日常的と殺牛死亡牛緊急と殺牛臨床的疑い牛 2 歳を超え 4 歳未満 ( 若牛 ) 0.1 0.2 0.4 260 4 歳を超え 7 歳未満 ( 成牛 ) 0.2 0.9 1.6 750 7 歳を超え 9 歳未満 ( 高齢牛 ) 0.1 0.4 0.7 220 9 歳以上 ( 老牛 ) 0.0 0.1 0.2 45 タイプ A の評点目標 (300,000 ポイント ) を 4~6 歳の臨床的疑い牛 (750 ポイント ) で達成するには 400 頭で良いが 日常的と殺牛 (0.2 ポイント ) だと 150 万頭を検査する必要がある すなわち と畜検査におけるデータは 発生動向調査において大きな意味を持たない
家畜保健衛生所による発生動向調査の評点 検査頭数 疑い50%x750 死亡 50%x0.9 計 2001 1,095 410,625 493 411,118 2002 4,315 1,618,125 1,942 1,620,067 2003 48,416 18,156,000 21,787 18,177,787 2004 98,656 36,996,000 44,395 37,040,395 2005 95,248 35,718,000 42,862 35,760,862 2006 94,749 35,530,875 42,637 35,573,512 2007 90,802 34,050,750 40,861 34,091,611 2008 94,452 35,419,500 42,503 35,462,003 2009 96,424 36,159,000 43,391 36,202,391 2010 105,380 39,517,500 47,421 39,564,921 2011 104,733 39,274,875 47,130 39,322,005 少なくとも 7 年間の発生動向調査の評点目標は 十分に達成されている 成牛集団頭数に対する評点目標 成牛集団の頭数 タイプA タイプB (24ヶ月齢以上) 発生動向調査 発生動向調査 >1,000,000 300,000 150,000
と畜場における全頭検査の評点 検査頭数 (2~3 歳 )x0.1 (4~6 歳 )x0.2 計 2001 523,591 36,651 31,415 68,067 2002 1,253,811 87,767 75,229 162,995 2003 1,252,630 87,684 75,158 162,842 2004 1,265,620 88,593 75,937 164,531 2005 1,232,252 86,258 73,935 160,193 2006 1,218,285 85,280 73,097 158,377 2007 1,228,256 85,978 73,695 159,673 2008 1,241,752 86,923 74,505 161,428 2009 1,232,496 86,275 73,950 160,224 2010 1,216,519 85,156 72,991 158,147 2011 1,187,955 83,157 71,277 154,434 と畜検査頭数の70% が2~3 歳 残り30% が4~6 歳として試算したポイント数である 年間約 15 万ポイントになるが 家畜保健所による約 3900 万ポイントからすると 発生動向調査における意義はきわめて小さい 全頭検査は食の安全確保とは無縁であり 何のために多額の検査費用を費やしているのか? 来年 1 月に 無視できるリスク の資格を取得しても なお続けるのだろうか
牛海綿状脳症対策特別措置法 2002 年 6 月 14 日制定 2003 年 7 月 16 日最終改正 ( 牛の肉骨粉を原料等とする飼料の使用の禁止等 ) 第五条牛の肉骨粉を原料又は材料とする飼料は 別に法律又はこれに基づく命令で定めるところにより 牛に使用してはならない ( 死亡した牛の届出及び検査 ) 第六条農林水産省令で定める月齢以上の牛が死亡したときは 当該牛の死体を検案した獣医師 ( 獣医師による検案を受けていない牛の死体については その所有者 ) は 農林水産省令で定める手続に従い 遅滞なく 当該牛の死体の所在地を管轄する都道府県知事にその旨を届け出なければならない 満二十四月とする ( と畜場における牛海綿状脳症に係る検査等 ) 第七条と畜場内で解体された厚生労働省令で定める月齢以上の牛の肉 内臓 血液 骨及び皮は 別に法律又はこれに基づく命令で定めるところにより 都道府県知事又は保健所を設置する市の長の行う牛海綿状脳症に係る検査を経た後でなければ と畜場外に持ち出してはならない
牛海綿状脳症対策特別措置法施行規則 2005 年 7 月 1 日最終改正 ( と畜場における牛海綿状脳症に係る検査の対象となる牛の月齢 ) 第一条牛海綿状脳症対策特別措置法 ( 平成十四年法律第七十号 以下 法 という ) 第七条第一項の厚生労働省令で定める月齢は 二十一月とする ( 牛の特定部位 ) 第二条法第七条第二項の厚生労働省令で定める牛の部位は 牛の頭部 ( 舌及び頬肉を除く ) せき髄及び回腸 ( 盲腸との接続部分から二メートルまでの部分に限る ) とする 我が国における牛海綿状脳症 (BSE) 対策に係る食品健康影響評価平成 17 年 5 月食品安全委員会 今回検査月齢線引きの対象となる 20 ヶ月齢以下の牛が生まれたのは 2003 年 7 月以降になるため 規制以前の飼料が与えられた可能性は低いと推測される と畜場における BSE 検査の対象を全頭検査から 21 ヶ月齢以上の牛に変更した場合 20 ヶ月齢以下で検出限界を超えた BSE 感染牛が存在しない場合にはリスクは変化しない 生体牛における蓄積度と食肉の汚染度を定性的に比較した結果 食肉の汚染度は全頭検査した場合と 21 ヶ月齢以上検査した場合 いずれにおいても 無視できる ~ 非常に低い と推定された
飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律 ( 食品の安全に関する行政の見直し ) 第八条政府は 牛海綿状脳症の発生を予防できなかったことにかんがみ 関係府省の連携を強化する観点から 生産から消費に至る食品の安全に関する行政の抜本的な見直しにつき検討するものとする 飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令 別表第 1: 2 動物由来たん白質又は動物由来たん白質を原料とする飼料 ( 同 ) の成分規格及び製造の方法等の基準 (1) ( 同 ) の成分規格ア牛等を対象とする飼料は ほ乳動物由来たん白質を含んではならない イ牛等を対象とする飼料は 家きん由来たん白質を含んではならない ウ牛等を対象とする飼料は 魚介類由来たん白質を含んではならない (2) ( 同 ) の製造の方法の基準アほ乳動物由来たん白質 家きん由来たん白質及び魚介類由来たん白質は 牛等を対象とする飼料に用いてはならない エ牛等を対象とする飼料は ほ乳動物由来たん白質 家きん由来たん白質及び魚介類由来たん白質を含む飼料の製造工程と完全に分離された工程において 製造されなければならない (3) ( 同 ) の使用の方法の基準 (4) ( 同 ) の保存の方法の基準 動物性油脂又は動物性油脂を原料とする飼料 についても同様の規則が設けられており 飼料規制は立入検査を含めて完璧