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3. 水際対策 3.1 適用の範囲と特徴ここ数年 水際対策に対する知的財産権者の注目度が高まっている その理由は水際対策による抑止効果が実証されているだけでなく ベトナムの国境ゲートでの知的財産権侵害防止において有効に機能しているからである 水際対策は 模倣品 / 侵害品がベトナム国境を越えて輸入 / 輸出されることを阻止するために必要な迅速な介入的措置とみなされている 水際対策には 下記のものがある - 知的財産権の侵害疑義品を発見するための監視 / 監督 - 知的財産権侵害疑義品の通関停止 a. 税関監視の申請 税関に対して水際対策の実施を要請するためには 知的財産権者が税関総局 (GDC) の調査監督部 (ISD) に申立書を提出し ベトナム全国の税関向けとするか特定の省の税関 (COP) 向けとするかを指定する 申立書には下記を添付しなければならない 監視申請書 委任状 ( 現地代理人を通じて申請する場合 ) 申請者の権利を証明する文書税関における模倣品および知的財産権侵害品の規制についての指示である通告 44/ 2011/TT-BC の15.1a 条および政令 105/2006/ND-CP を改正した政令 119/2010/ND-CP の 4 条の規定により これらの書類は次のいずれかのものでもよい (i) 発明 実用新案 工業意匠特許の証明 集積回路配置 商標 地理的表示の登録証明 (i i) 国の産業財産権登録簿からの抜粋 著作権および関連する権利の国の登録簿からの抜粋 育成者権の国の登録簿からの抜粋であって 当該主題を登録する所管官庁により発行されたものであることを要する 真正品および / または侵害品の識別方法に関する説明 侵害品の主な特徴の説明とその写真 ( ある場合 ) 知的財産権の侵害行為が疑われる輸出入者のリスト ( ある場合 ) 侵害品および / または侵害疑義品に関するその他関連情報 ( ある場合 ) 税関は 申立書を受け取ってから 30 日以内に 申立を受理するか却下するかを申立者に通知しなければならない 受理された申立の有効期間は 1 年間であり さらに 1 年間延長することができる それ以後は 知的財産権者が監視の継続を希望する場合は再申立することになる 税関監視制度では 発明 実用新案 工業意匠 集積回路配置 商標 地理的表示の各権利 著作権および著作隣接権 並びに品種育成者権をカバーし 不正競争制度で保護された利益は税関監視制度ではカバーされていない 26
国境監視手続は下記の通りである 監視手続 監視申請 30 日 通知への応答 却下通知受理通知修正通知 通知への非応答 税関への通知 侵害疑義品の通知 b. 通関停止 停止手続 27
税関が知的財産権者の申立を受理した場合には 監視制度を運用する 税関が侵害疑義品を発見した場合には 当該品の通関を仮停止し 直ちに知的財産権者またはその代理人に通知する 知的財産権者またはその代理人は 通知から 3 営業日以内に 停止申立書を提出するとともに 停止当該品の価額の 20% か 当該品の価額合計が不明であるばあいは 2000 万ドン (1,000 米ドル ) の供託金または銀行保証を預託しなければならない 税関は 申立があった物品につき 10 日間の通関停止を行うことができる ( 必要に応じてさらに 10 日間延長することができる ) 知的財産権者は 定められた停止期限内に 保留品の所有者に対する民事訴訟の提起を含め 違反の主張を確固たるものとし可能な措置を取り 税関に対して保留品の所有者への行政措置を実施するよう要請するか または保留品の所有者と合意に達するものとする 上記のいずれかの措置を取る決定は 保留品の検査および収集した関連情報に基づいて行う 通関停止手続を以下に示す 停止手続 停止の申立 24 時間 通知への応答 却下通知受理通知修正通知 通知への非応答 預託金 停止の決定 10~ 20 日 通関保留品の検査 当該品の解放 行政措置提起 民事訴訟提起 28
水際対策は その性質上 行政措置であると捉えることができる これは税関が事件解決のための最終的な行政上の決定を行うことができるからである ( 侵害が認定された場合は行政上の制裁を決定し 侵害が認定されなかった場合は通関停止品の通関を行う ) その一方で 水際対策は侵害疑義品の通関停止およびその後の民事手続のための関連証拠の収集という中間措置の性質を持つ 以下はここ数年間の水際対策に関連するデータである - 2008 年 :13 件 罰金総額 970,000,000 ドン - 2009 年 : 携帯電話部品 3,756 kg 携帯電話 800 台 化粧品 7,729 瓶 タバコ 93,820 箱 ワイン 300 本 潤滑油 3,940 瓶 バイアグラ 3,000 錠 上記の価額は 50,000,000,000 ドンである - 2010 年 : * Nokita の標識が付された携帯電話 ( Nokia 標章を侵害 )2,000 台 36,000 米ドル相当 Nokia 偽造携帯電話 338 台 約 150,000,000 ドン相当 * Vinataba 偽造タバコ 2,500 箱 555 偽造タバコ 2,000 箱 * Ballentines 偽造ワイン 969 瓶 Stolichnaya 偽造ワイン 14,400 瓶 * 各種化粧品 305,000,000 ドン相当 * 自動車用 Vistra 偽造潤滑油 696 瓶 模倣品の疑いのある Honda または Castrol の標識が付された潤滑油 1,488 瓶 * Louis Vuitton 偽造財布 バッグ ベルトなど * Gucci 偽造メガネ 38 本 * コンピュータ用 AMP netconnect 偽造光ケーブル 3.2 水際対策の長所と短所 対象となる侵害輸入および輸出 救済措置所要期間長所短所 + 通関停止 + 侵害行為への制裁または所管当局 ( 他の行政機関または裁判所 ) への事件の移送 事件の複雑さによって異なる ( 表を参照 ) - 侵害品のベトナムへの輸入を阻止できる - 時間が節約でき 費用効率が高い - 知的財産権者は通関停止を要請する前に輸入品 / 輸出品の十分な情報を入手しておく必要がある 水際対策の行政的側面は水際対策の申立の提出および疑われる侵害が起こったときの税関との協力のみであり 知的財産権者は水際対策の実効性向上のため幅広い措置を取る必要がある 特に 知的財産権者は 国境監視が実施されたときあるいは国境監視の申立の前においてさえ 税関と密接に協力しなければならない その例として下記がある i) 最新の侵害品およびその特徴 原産国などの情報を税関に提供すること ii) 国境ゲートでの税関監視担当者による侵害品発見のための認識と知識の向上を目的とするワークショップおよびシンポジウムに積極的に参加すること 前記は間違いなく水際対策に成果をもたらすものであり 知的財産権者の権利保護強化に資するものである 事例 - 2010 年 5 月 Tan Son Nhat 国際空港税関は "GUCCI" の標識が付された多数の模倣品の疑いのある商品を発見した - GUCCI 標章の所有者である GUCCIO GUCCI S.P.A( 以下 GUCCI という ) が税関監視の申立を提出していたため 当該税関は GUCCI の代理人にかかる貨物について通知した 同社は その代理人を通じて 上記品の通関停止を正式に申し立てた 29
それと同時に GUCCI は 11,700,000 ドン ( 当該品の価額の 20% 相当 ) の供託金を預託した - その後 税関は 2010 年 5 月 17 日付決定第 1790/TB-SB 号を発行して当該品の通関を停止し その原産地を特定する目的で GUCCI に写真撮影およびサンプル取得の許可を与えた - 2010 年 6 月 10 日 GUCCI は通関停止の対象品が模倣品であることを確認し 行政措置により自己の知的財産権を保護するよう税関に申し立てた - 2010 年 8 月 31 日 ホーチミン市人民委員会は決定第 3348/QD-XPHC 号を発行し 当該品の輸入者である Sai Gon Glasses Co.Ltd. に 202,099,928 ドン ( 当該品の価額の 4 倍相当 ) の罰金を科し 模倣品の廃棄を命じた 4. 民事措置 民事訴訟法 17 条により 裁判所は 2 つのレベルの裁定システム ( 二審制 ) をとっている 訴訟が 知的財産権訴訟であって渉外の要素を含むものであれば 当該訴訟は 第 1 審が省レベルの裁判所で解決がなされる 控訴の管轄は 最高人民裁判所となる この二審制とは別に ベトナム法は執行力のある決定 / 判決の見直しの特別の手続きを次のように定めている 事案の処理の過程で重大な法律違反があったことを発見した場合に 破棄のための見直し ( 監督審 ) 裁判所の判決 / 決定の内容を基本的に変更するような新たな証拠の発見があって かつ 裁判所が当該判決 / 決定をした時には 当事者にも裁判所にとっても知りえなかったものである場合の新たな審査 ( 再審 ) フォーラム ショッピング ( 裁判所の選択 ) ベトナムでは 原告は次のような場合にのみ法廷地を選択する権利を有する ( 民事訴訟法 36 条 ) 被告の住所が明らかでない場合には 原告は被告の最後の住所地あるいは財産の所在地を管轄する裁判所に提起できる 紛争が組織 ( 団体 ) の支店の事業運営から生じている場合は 当該組織の本店の住所地あるいは支店の住所地を管轄する裁判所に提起できる 被告が住居 事業所 あるいは本店を有しない場合は 原告は自らの住居地あるいは事業所地を管轄する裁判所に提起できる 紛争が契約上のものではない損害に関する補償金の支払に関するものである場合は 原告は 自らの住居地 事業所の住所地あるいは本店の住所地を管轄する裁判所か損害発生の事案のある住所地を管轄する裁判所に提起できる 紛争が損害賠償の支払に関するもの 労働契約の終了に際しての手当ての支払 社会保険 雇用にかかわる権利および利益 給与 所得および被用者に関するその他の労働条件に関するものである場合は 被用者たる原告は 自らの住居地あるいは職場の住所地を管轄する裁判所に提起できる 紛争が下請業者あるは仲介業者たる雇用者による雇用によって生じた場合は 実際の雇用者の住居地 事業所 あるいは本店の住所地を管轄する裁判所に または下請業者あるいは仲介業者の居住地または事業所を管轄する裁判所に提起することができる 紛争が契約関係から生じたものである場合は 原告は契約の履行の住所地を管轄する裁判所に提起できる 被告には異なる住所地に住居 事業所あるいは本店がある場合は 被告の住居 事業所あるいは本店のうちの一つが所在する住所地を管轄する裁判所に提起できる 30
[ 特許庁委託 ] 模倣対策マニュアルベトナム編 [ 著者 ] Pham & Associates 法律事務所 [ 発行 ] 日本貿易振興機構進出企業支援 知的財産部知的財産課 107-6006 東京都港区赤坂 1-12-32 アーク森ビル 6 階 TEL:03-3582-5198 FAX:03-3585-7289 2012 年 3 月発行禁無断転載 本冊子は 日本貿易振興機構が 2012 年 1 月現在入手している情報に基づくものであり その後の法律改正等によって変わる場合があります また 掲載した情報 コメントは著者及び当機構の判断によるものですが 一般的な情報 解釈がこのとおりであることを保証するものでないことを予めお断りします