IV 測定の基礎 2016 年 1 月 28 日 キーサイト テクノロジー合同会社電子計測本部アプリケーションエンジニアリング部門新井崇雅
はじめに 半導体デバイスは 材料の多様化に伴い 評価すべき項目は止まることなく増加しています しかし 正確な電流や電圧などの測定が必要な場面では ちょっとした不注意から 期待する結果が得られない例が多く見られるようになっています 半導体評価に欠かすことのできないオンウェハーでの IV 測定を精度良く行うための基本技術を紹介します
目次 I-V 特性評価装置 微小電流測定のテクニック 4 端子抵抗測定のテクニック
目次 I-V 特性評価装置 MU とは 微小電流測定のテクニック 4 端子抵抗測定のテクニック
MU とは ource Measure Unit の略 電圧電流印加と測定が可能な DC 電源 電流 / 電圧 印加 / 測定の切り替え機構により さまざまなパラメータを接続を変えずに測定可能 x1 A V または MU Guard MU Force MU ens B1500A シリーズ MU の構造 MU 出力端子の構造 ( トライアキシャル コネクタ ) Common Guard Force / ense Force B2900A シリーズ ense
目次 I-V 特性評価装置 微小電流測定のテクニック AC 電源ラインのノイズ 適切な配線 測定レンジ選択 適切な積分時間 適切な待ち時間 4 端子抵抗測定のテクニック 測定環境 測定器の設定
微小電流測定のテクニックトランジスタの Id-Vg 特性 (Transfer 特性 ) この特性は トランジスタ本来の値? 測定器の限界? 測定環境の問題?
AC 電源ラインのノイズ 測定環境 電源ラインは広いノイズスペクトラムを持っているため 事実上 もっとも影響度の高いノイズ源 AC 電源ライン自身 (50Hz,60Hz) 照明機器用の AC 電源ライン 真空ポンプ用の AC 電源ライン 静電結合がノイズを拾う原因
AC 電源ラインのノイズへの対策 シールド 測定器側の積分時間を電源周期の倍数に設定
電流 [A] シールドの効果 OPEN 状態 0.1PLC でリーク電流を測定 ノイズレベル シールドなし :±80 papp シールドあり :±1 papp 時間 [s]
配線の失敗例 測定環境 MU コモン端子をコアキシャルケーブルの外部導体に接続 トライアキシャルケーブル コアキシャルケーブル マニピュレータ 問題点 : (1) 誘電吸収 MU 電圧印加後 電流が安定しない (2) リーク電流 (3) ノイズ コネクタープレート 等価回路 A 配線容量 絶縁抵抗 誘電吸収 ケーブル ノイズ
適切な配線 ( ガード端子を利用 ) 測定環境 トライアキシャル ケーブルが理想 コアキシャル ケーブルの場合 トライアキシャルケーブル MU トライアキシャルケーブル MU ガード MU G コアキシャルケーブル コネクタープレート A MU ガード A MU ガード プローバ内をコアキシャルケーブルで配線する際に有効 トライアキシャル コアキシャル コアキシャル ケーブルの外皮には芯線と同じ電位が印加される コアキシャルケーブルの外皮は必ず Floating させる GND に落とさない 必ずインターロックと併用する
Triax-BNC 変換アダプタ 製品番号パーツ番号概要概略図注意事項 N1254A-101 1250-2648 Triax (m) to BNC (f) N1254A-102 1250-2649 Triax (f) to BNC (m) ガードとコモンが接続されているため MU に接続できない CV 測定で使うことあり N1254A-103 N1254A-104 1250-2650 1250-2651 Triax (m) to BNC (f) Triax (f) to BNC (m) 微小電流測定( 約 1nA 以下 ) に有効なアダプタ BNCのシールドにガード ( フォースと同電位 ) がつながるた --- 1250-1830 Triax (f) to BNC (f) め BNCのシールドを触れたり グランドに落としたりしないように注意 N1254A-105 N1254A-106 1250-2652 1250-2653 Triax (f) to BNC (m) Triax (m) to BNC (f) 微小電流測定( 約 1nA 以下 ) に不向きなアダプタ BNCのシールドがグランドのため 安全 N1254A-107 1250-2654 Triax (m) to Triax (f) GNDU 用アダプタ
測定レンジの選択 測定器の設定 微小電流測定には 適切なレンジ選択が必要 レンジング モード オート レンジング 最高分解能で測定できるように 測定値に合わせて 測定レンジを自動設定する 電流 リミテッド オート レンジング オート レンジングと同様の動作を行う 指定したレンジ値以上のレンジを使用する 電流 固定レンジ 指定したレンジを使用する 電流 電圧 電圧 : レンジング動作のイメージ : 測定値のイメージ 電圧
測定レンジの選択 測定器の設定 種々の測定レンジによる IdVg 特性例 リミテッド オート 1uA リミテッド オート 100nA リミテッド オート 10nA リミテッド オート 100pA リミテッドオート 100pA にて 100fA を安定に測定可能
積分時間と測定値 測定器の設定 電源周期 (Power Line Cycle:PLC) の倍数に設定することで 電源由来のノイズ成分をキャンセルできる 確度と測定時間はトレードオフ 適切な積分時間に設定する 種々の積分時間による IdVg 特性例 :640us :1PLC :4PLC :8PLC
待ち時間の設定 電圧印加から測定開始までの待ち時間を調整することで デバイス及び測定系の浮遊容量への充電電流を避けて測定する 待ち時間の調整 往復掃引等により 影響を確認 待ち時間の種類 Hold Time: スタート電圧設定後 最初の測定までの待ち時間 Delay Time: 各掃引ステップにおける待ち時間 Wait Time: 測定レンジごとに MU が自動設定する待ち時間 待ち時間の概念図
Delay 時間の影響 LED 0V to 1V 10mV tep 往復掃引で Delay 時間の影響を確認 Delay:0s Delay:100ms
目次 I-V 特性評価装置 微小電流測定のテクニック 4 端子抵抗測定のテクニック
4 端子抵抗測定 ( ケルビン接続 ) 抵抗測定におけるケルビン接続の効果 接続の配線抵抗およびコンタクト抵抗による影響を排除 TEG 内部の寄生抵抗の影響も排除 非ケルビン接続測定 R T I 1 R R T ケルビン接続測定 R T V 1 R V 2 I 1 R T 電流源 I1 R F R F F V V 1 V 2 電圧計 V1 電圧計 V2 V F 電圧源 0V 電流源 I1 R F R R R F F V 電圧計 V1 電圧計 V2 V F 電圧源 0V V 1 - V 2 R 測定 = = R + 2 x (R F +R T ) I 1 R 測定 = V 1 - V 2 I 1 = R
ケルビン接続例 MU3 MU 4ch の場合 MU2 MU4 MU3 MU2 MU1 MU4-Force MU3-Force MU1-Force MU2-Force MU4 MU1 Force ense MU 2ch の場合 MU2-Force MU1-Force MU2 MU1 MU2-ense MU1-ense Force-ense 間許容電位差は 3V 以内
4 端子抵抗測定における注意点 有機 グラフェン材料などは 金属電極とのコンタクト抵抗が大きい場合が多い B1500A にて 2MU でケルビン接続をする場合 Force-ense 間抵抗を介して電流が流れてしまい 正確なケルビン測定ができない R T V 1 R V 2 I 1 R T B1500AMU の構造 x1 A V MU Guard MU Force MU ens 電流源 I1 R F R R R F I I F V 電圧計 V1 電圧計 V2 V F 電圧源 0V R T 大のとき ense 端子から電流が流れ ense 端子で電圧降下が発生し 電圧を正確にモニタできない
有機材料の 4 端子抵抗測定解決策 1 4MU でケルビン接続する Force-ense 間抵抗による誤差が発生しない MU3 MU 4ch の場合 MU2 MU4 MU3 MU2 MU1 MU4-Force MU3-Force MU1-Force MU2-Force MU4 MU1 Force ense
有機材料の 4 端子抵抗測定解決策 2 B2900A 4-Wire 設定で 1MU でケルビン接続する B2900A は Force-ense 間に抵抗が接続されていないため コンタクト抵抗が大きくても ense 端子の電圧降下は起こらない B2900A eries A - x1 Guard High Force High ense R T V 1 R V 2 I 1 R T R F R R R F V - Low ense Low Force GND B2900AMU の構造 B2900A は Low 端子があるため 1MU で測定可能 ただし Force-ense 間電圧は 3V 以内である必要がある 3V 以上離れてしまうような場合には使用できない
有機材料の 4 端子抵抗測定解決策 3 B2900A 2-Wire Floating 設定で 2MU でケルビン接続をする MU1 ( 電流源 ) R T 電流源 I2 = 0A Force-ense 間抵抗や電位差の制限なく測定が可能 I 1 I 1 R V 2 R F R R F R R T MU2 ( 電圧計 ) F F 電流源 I1 V 電圧計 V1 V 2 V 電圧計 V2 Floating B2900A は MU を Floating にできるため このような接続が可能
まとめ I-V 特性評価装置 IV 特性評価には電流 / 電圧 印加 / 測定可能な MU が最適 微小電流測定のテクニック ノイズ 光 温度等の環境による要因を排除する Guard 接続が重要 適切な積分時間 レンジ 待ち時間を設定する 4 端子抵抗測定のテクニック 高コンタクト抵抗のデバイスには 4MU や Floating した 2MU のケルビン接続が有効
付録その他の微小電流測定のテクニック ケーブルノイズ 誘電吸収 光によるリーク電流 温度によるオフセット電流 ウェハープローバにおける実例
ケーブル ノイズ 測定環境 ケーブルにより発生するノイズの原因は 圧電効果と摩擦 圧電効果 - 機械的な圧力が絶縁体に加えられることで発生 摩擦 - ケーブルが振動などで動いた場合に 導電体と絶縁体の界面の摩擦により発生 対策 - 低ノイズケーブルを使う - ケーブルを強く押し付けない動かさない or 固定する
ケーブル ノイズの例 測定環境 トライアキシャル ケーブルと コアキシャル ケーブルの 振動によるノイズ比較 トライアキシャル ケーブルの構造 芯線 (Force / ense) 絶縁体 コアキシャル ケーブル 半導体層 被覆 ( 絶縁体 ) 外層導体 ( Common ) 絶縁体中層導体 ( Guard ) 低雑音トライアキシャル ケーブル 低雑音トライアキシャル ケーブルは微小電流測定に絶大な効果を発揮 ケーブルを固定し 振動を加えない
誘電吸収 Current Meter 誘電吸収電流 測定環境 Voltage ource A 絶縁材料 Voltage Current time 測定ニードルとシールド間の絶縁物で形成される浮遊容量も誘電吸収の原因となる time 特徴 : 誘電吸収は 印加電圧が変化する際に生じる 穏やかで 不安定なリーク電流の変化として現れる リーク電流はある時定数を持って収束する 対策 : ガード技術を活用する 金属は GND に接続し 極力塗装や絶縁体を設けない 絶縁物を測定物の近くに置かない 誘電吸収によるリーク電流の大きさは 絶縁材料に大きく依存 テフロンは 誘電吸収特性が良好
光によるリーク電流 測定環境 - 空乏層への光の照射により 電子 正孔対が発生し これらがリーク電流として観測される - 非常に不安定で場合によっては穏やかに変化 対策 : 測定中は光源を切る 光が当たらないように暗幕などで覆う プローバの遮光性能を再点検!
温度によるオフセット電流 測定環境 測定器 ケーブルの温度が変化するとオフセット電流が発生する 温度変化による微小電流のズレ Im (fa) 20 10 0 時間トライアキシャル コネクタを暖めた例 Triaxコネクタを指で挟む 対策 : 100fA 以下の測定では 空調の風が直接当たらないように覆いをかける 短時間の場合は 空調を止める 測定セットアップ後 温度が安定するまでの時間を置いて測定を開始する
ウェハープローバにおける実例 1. AC 電源ラインの実装 電源ソケット 照明器具 真空ポンプをシールドボックスの内部に置かない 電源ケーブルをシールドボックスの内部に置かない もしくはシールドで覆う
ウェハープローバにおける実例 2. ガード技術の適用 - ガード構造を持ったウェハーチャックトップを使用する - ガード構造を持った針を使用する - コネクタプレートと針との間の接続には低ノイズのケーブルを使用する
ウェハープローバにおける実例 3. 誘電吸収 - シールドボックスの中には 誘電吸収を引き起こすものが多く存在 - ケーブルのジャケット 遮光用のプラスチックシート ドアノブなど - できる限りこれらをシールドボックスの外に出す - もしくは内部にてシールドする - または テフロンなどの材料に置き換える
ウェハープローバにおける実例 4. シールド - 電気的に接続されていない導電体はただの受信アンテナにすぎない - シールドボックスのそれぞれの部品間の電気抵抗を確認 - 機械的な接続が電気的な接続も果たしているとは限らない - 例えば ドアのヒンジ スライド機構 塗装された金属 ねじなど - シールドボックス シールドボックス内の部品がグランドに接続されているかどうか確認 - 接続は電線で確実に行う
ウェハープローバにおける実例 5. ケーブルの使用 - 測定ケーブルは固定する - シールドボックス配線内部 - 測定器とシールドボックス間 - 低ノイズケーブルを使用する - 内部絶縁材が半導体層でコーティングされている - 極力ケーブル長は短くする - できればプローバと測定器はしっかりした台に設置