資料 5 ips 細胞研究に関する国際動向について G-TeC 幹細胞 調査結果概要 2010 年 3 月 30 日 独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター

Similar documents
<4D F736F F F696E74202D208CF68A4A CC38D5D816A AB28DD796458E77906A89FC92E888CF88F589EF

ワクチンの研究開発促進と生産基盤確保

スライド 1

英国のFunding Agency としてのResearch Councils の役割

icems ニュースリリース News Release 2009 年 12 月 11 日 京都大学物質 - 細胞統合システム拠点 ips 細胞研究を進めるための社会的課題と展望 - 国際幹細胞学会でのワークショップの議論を基に - 加藤和人京都大学物質 - 細胞統合システム拠点 (icems=アイセ


第84回日本遺伝学会-抄録集.indd

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

資料2 資料編(2/6)

Microsoft PowerPoint - 【資料2-1】赤澤先生御発表資料R

<4D F736F F F696E74202D E8E9197BF322D3390B696BD97CF979D90EA96E592B28DB889EF C193A C2E >

中国の高等教育の発展状況 1. 中国では 1990 年代末から大学を大幅に拡充した 大学入学者の人数は 12 年間で 6 倍に増え 2010 年は 650 万人が入学した ( 日本の約 11 倍 ) 2. 大学院も同様に大幅拡充され 大学院に在学する学生の数は 2000 年以降 10 年間で6 倍

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

_先端融合開発専攻_観音0314PDF用

56: Hands-on 4 Meet the Expert.

2017 年訪日外客数 ( 総数 ) 出典 : 日本政府観光局 (JNTO) 総数 2,295, ,035, ,205, ,578, ,294, ,346, ,681, ,477

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1


Establishment and Characterization of Cynomolgus Monkey ES Cell Lines

平成 29 年度 新興国等における知的財産 関連情報の調査 タイにおける微生物寄託に係る実務 Tilleke & Gibbins(Thailand) Titikaan Ungbhakorn ( 弁護士および特許弁理士 ) Tilleke & Gibbins は 1890 年に設立された東南アジアを代

資料 3 産総研及び NEDO の 橋渡し 機能強化について 平成 26 年 10 月 10 日経済産業省

技術創造の社会的条件

ITI-stat91

Business-Higher Education Forum(BHEF) Nils Haselmo Hank McKinnell CEO Working Together, Creating Knowledge---The University-Industry Research Collabor

長期/島本1

研究成果報告書

の連携による明確な出口戦略を持って NCを含む臨床研究中核病院などの 拠点 及びそのネットワークが中心となり 拠点外シーズ 拠点外施設も含め all Japan 体制で効率的に研究開発が進められる環境作り ( 1~3) を目指す 1 このような環境が整うことのメリットとしては 我が国における医薬品等

九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository 九州大学百年史第 7 巻 : 部局史編 Ⅳ 九州大学百年史編集委員会 出版情報 : 九州大学百年史. 7, 2017

再生医療の制度的な対応の検討について 薬事法等制度改正についてのとりまとめ平成 24 年 1 月 24 日厚生科学審議会医薬品制度改正部会 1 再生医療製品については 今後も 臓器機能の再生等を通じて 重篤で生命を脅かす疾患等の治療等に ますます重要な役割を果たすことが期待される 特に ips 細胞

佐藤昌介の女子高等教育論 : 北海道帝国大学における女性の入学をめぐって

PowerPoint Presentation

Microsoft Word - ~

問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

資料2_ヒト幹同等性

1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

橡NO005-PDF用.ec5

Microsoft Word - 01.docx

参考:労働統計機関一覧|データブック国際労働比較2018|JILPT

42

<4D F736F F D AA96EC82CC837C815B835E838B C6782CC82BD82DF82CC92B28DB F18D908F912E646F63>

Microsoft Word - 世界のエアコン2014 (Word)

STAP現象の検証の実施について

A4パンフ


1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

地域別世界のエアコン需要の推定について 年 月 一般社団法人 日本冷凍空調工業会 日本冷凍空調工業会ではこのほど 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果を まとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行 なっているもので 今回は 年から 年までの過去 ヵ年について主

リーダーシップ声明


24回日本エイズ学会誌1_ indd

再生医療市場

李智源 韓国教員大学学術研究教授 ( 韓国 ) 各務南 広島大学院生 ( フランス ( 参考資料 )) 後藤顕一 国立教育政策研究所総括研究官 ( ドイツ 韓国 ) 松原憲治 国立教育政策研究所総括研究官 ( オーストラリア 全体整理 ) (3) 研究の概要教育課程研究センターでは, 基礎研究部を中

Kobe Biomedical Innovation Cluster PORT R ISLAND A D

科技表紙PDF200508

北里大学グローバル臨床研究拠点


調査委員会 報告

地域別世界のエアコン需要の推定について 2018 年 4 月一般社団法人日本冷凍空調工業会日本冷凍空調工業会ではこのほど 2017 年までの世界各国のエアコン需要の推定結果をまとめましたのでご紹介します この推定は 工業会の空調グローバル委員会が毎年行なっているもので 今回は 2012 年から 20

Microsoft PowerPoint 費-4v4専門部会資料 福田修正 pptx

会社案内 - ナミキ商事株式会社

目 次 頁 公 1 希少疾病治療薬の開発 創薬技術 戦略に関する研究及びそれらに係る 情報提供活動 ア研究助成事業 ( 公募 ) 1 創薬基盤推進研究事業 1 イ調査研究事業 1 1. 一般事業委員会 1 2. 運営委員会 1 3. 医療ニーズ調査班 2 4. 創薬技術調査班 2 5. 技術移転促進

PowerPoint プレゼンテーション


< E89BB A838A834C D E786C73>

年次報告書090903_入稿

eRequest - Frequently Asked Questions

資料2  SJAC提出資料

6. 岡山大学シリコンバレーオフィス

2005/2/8 1

我が国大学の研究経営システム確立に向けた国内外動向に関する基礎的調査

Gifu University Faculty of Engineering

国際標準化に係る各国動向と 本の現状 従来から積極的な活動を進める欧州 国に加え 韓国 中国の企業がグローバル市場でシェアを急速に拡 するとともに 標準化活動への取組みを急速に強化 本の活動は 欧 主要国等と 較して低調 本の ISO/IEC への寄与状況 ( 出典 ) 経産省情報通信審議会情報通信

CONTENTS

表紙.indd

NY -

(プロ1特別企画用ショート版) (詳細頁レ).indd

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

-1-


Microsoft Word - 【プレスリリース・J】毛包再生非臨床 説明文 最終版.docx

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

表紙PDF作成用/PDF表紙作成用

資料 4 生命倫理専門調査会における主な議論 平成 25 年 12 月 20 日 1 海外における規制の状況 内閣府は平成 24 年度 ES 細胞 ips 細胞から作成した生殖細胞によるヒト胚作成に関する法規制の状況を確認するため 米国 英国 ドイツ フランス スペイン オーストラリア及び韓国を対象

資料 5-4 APT 無線通信フォーラム (AWF) における 700MHz 帯の利用に関する検討状況 総務省

社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

により 都市の魅力や付加価値の向上を図り もって持続可能なグローバル都 市形成に寄与することを目的とする活動を 総合的 戦略的に展開すること とする (2) シティマネジメントの目標とする姿中野駅周辺や西武新宿線沿線のまちづくりという将来に向けた大規模プロジェクトの推進 並びに産業振興 都市観光 地

資料5:第3章草稿(長野副委員長より)

2018 年度事業計画書 Ⅰ 基本方針 1. 健康関連分野を取り巻く環境と直近の動向 健康医療分野が政府の日本再興戦略の重点分野に位置づけられ 健康 医療戦略が策定されるなど 予防や健康管理 生活支援サービスの充実 医療 介護技術の進化などにより 成長分野としてマーケットは大きく拡大することが期待さ

JNTO

untitled

特集 e- サイエンスを実現するグリッド技術 1 サイエンスグリッドの動向 三浦謙一 国立情報学研究所 サイエンスグリッドとは 10 e- Electrical Power Grid 図 -1 Virtual Organization 1 ET 所の 所 (Electric ow

2007年12月10日 初稿

untitled

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を


九州大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画(慢性重症虚血肢(閉塞

さらに, そのプロセスの第 2 段階において分類方法が標準化されたことにより, 文書記録, 情報交換, そして栄養ケアの影響を調べる専門能力が大いに強化されたことが認められている 以上の結果から,ADA の標準言語委員会が, 専門職が用いる特別な栄養診断の用語の分類方法を作成するために結成された そ

Microsoft Word - 10 統計 参考.doc

PowerPoint プレゼンテーション

Transcription:

資料 5 ips 細胞研究に関する国際動向について G-TeC 幹細胞 調査結果概要 2010 年 3 月 30 日 独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター

資料構成 1. 調査概要 2. ファンディング 3. 創薬 4. 再生医療 5. 標準化 6. 幹細胞バンク 参考

1. 幹細胞 に関する国際動向調査の概要 2009 年度の G-TeC (Global Technology Comparison) として 幹細胞 をテーマに選び 欧米を対象とした海外調査を実施 G-TeC は 重要な科学技術に焦点を当て 各国 地域の動向を分析することで 日本のポジションを確認し 戦略立案に貢献することがミッション 調査にあたり ips 細胞の国際社会への影響 幹細胞の実用化を巡る動き ( 創薬 再生医療 ) などを重要項目として設定 日本における幹細胞の研究シナリオ を構築するためのエビデンスとして 創薬 再生医療 標準化 幹細胞バンク などに関する海外の注目動向を分析 そのために 米国 7 機関 ( 米国国立衛生研究所 ハーバード大学ほか ) 英国 7 機関 ( 医学評議会 ファイザー社ほか ) フランス 3 機関 ( ジョルジュ ポンピドーヨーロッパ病院ほか ) などとの現地会合を実施 2

ファンディング額(百万ドル2007 年度 ( 実績 ) 2008 年度 ( 実績 ) 2009 年度 ( 実績 ) 2010 年度 ( 推定 ) 2011 年度 ( 推定 ) 2 1. 米国国立衛生研究所の幹細胞研究へのファンディング状況 米国国立衛生研究所は 幹細胞研究への10 億ドル規模の支援を継続している ファンディング額は 2008 年度以降 漸増傾向にある これらに加え 2009 年度及び2010 年度には 米国再生 再投資法の資金を用い 約 3 億ドルの追加投資を行っている オバマ政権がまとめた2011 年度大統領予算教書においても 生物医学研究への支援が重視されている 1200 1000 800 600 400 )米国再生 再投資法による追加支援 200 0 ( 出典 ) Estimates of Funding for Various Research, Condition, and Disease Categories, National Institutes of Health 3

2 2. 英国における幹細胞研究へのファンディング (2007 年度 ) 英国の場合 各種ファンディング機関による2007 年度の実績として 幹細胞研究に対し 6000 万ポンド規模の支援が行われている 民間財団の ウェルカム トラスト 社会科学分野の 経済 社会研究会議 など 多様な機関によるファンディング体制が構築されている 経済 社会研究会議 150 万ポンド, 2% 英国心臓財団 360 万ポンド, 6% スコットランド開発公社 / 英国幹細胞財団 110 万ポンド, 2% その他 70 万ポンド, 1% 工学 物理科学研究会議 510 万ポンド, 8% 医学評議会 2560 万ポンド, 40% 英国癌研究所 580 万ポンド, 9% ウェルカム トラスト 880 万ポンド, 14% バイオテクノロジー 生物科学研究会議 1130 万ポンド, 18% ( 出典 ) Meeting Papers on January 29 of 2010, Stem Cell Research and Regenerative Medicine, Dr. Catriona Crombie, Medical Research Council 4

3 1. 国際動向分析 / 創薬 への取り組み ips 細胞の発明は 創薬 への幹細胞の応用を促進する上で 大きく貢献している 具体的には ips 細胞を用いることで 大手製薬企業が幹細胞研究に取り組む際の倫理的障害が緩和される ips 細胞を用いることで 大手製薬企業が幹細胞研究に取り組む際のインセンティブが高まる などの効果をもたらし 本分野への産業界の研究投資を増大させている 患者由来 ips 細胞などを用いた材料の機能評価や毒性試験など 創薬研究に欠かせない画期的ツールとして 今後の大きな発展が期待される グラクソスミスクライン ファイザーなどの欧米製薬大手が こうした関心を高めている 本分野での研究活動が拡大している代表例として ハーバード大学 ハーバード幹細胞研究所 が挙げられる ハーバード幹細胞研究所は 2008 年にグラクソスミスクラインから 5 年間の総額が 2500 万ドルに達する研究資金を獲得した 5

3 2. 国際動向分析 / 創薬 への取り組み 本研究は 創薬 及び 病理機構解明 を目的としたもので 再生医療 は対象としていない 心臓血管 白血病 筋肉 神経 肥満 及び 膵臓 の 6 領域を 研究ターゲットとして位置付けている ハーバード幹細胞研究所は 創薬を目的とした幹細胞研究が拡大している理由として 第一に ips 細胞が発明されたこと 第二に 治療法スクリーニングセンター (Therapeutic Screening Center) が設置されたこと を挙げている ハーバード幹細胞研究所が設置した 治療法スクリーニングセンター は ips 細胞を用いた機能 メカニズム評価 などを活用し 材料や方法のスクリーニング に取り組んでいる すでに 4 つの製薬企業とのパートナーシップを取り交わし 産学連携を基盤とした幹細胞研究を展開している 6

4 1. 国際動向分析 / 再生医療 への取り組み これに対し ips 細胞を用いた再生医療については 以下の理由などにより 臨床応用が急速に展開される状況にはない 第一に ips 細胞の生成過程について未解明な事項が数多く残されており 再生医療全般に展開するには そのための前提として ips 細胞の品質評価 管理のための継続的な基礎研究 が求められる 第二に 再生医療の分野では 既に 体細胞やヒト ES 細胞を用いた臨床研究が進められているため これらの研究を ips 細胞の研究で置き換えていくためのインセンティブが必要になる 実際に 英国現地会合では ファイザーとユニヴァーシティ カレッジ ロンドンが連携し ヒト ES 細胞を用いた網膜の再生医療研究を進めている ことなどが示された 2011 年 第一四半期には臨床試験が開始される計画となっている したがって 短中期的シナリオ として ips 細胞の再生医療への応用を実現するには 研究ターゲットを絞り込み 相対的に応用が容易な対象 ( 例えば 移植細胞の数が少なくて済む 安全性評価が一つの細胞レベルで可能など ) に集中したアプローチが重要になる 7

4 2. 国際動向分析 / 再生医療 への取り組み ファイザー社は 2008 年 5 月に 再生医療 に特化した新たな研究ユニットとして ファイザー リジェネレイティブメディシン を立ち上げた 英国 ケンブリッジ の拠点に 35 名前後 米国 マサチューセッツ の拠点に 20 名前後の人員を投入し 再生医療の研究に取り組んでいる 本研究ユニットでは 低分子化合物 ヒト胚性幹細胞 ヒト体性幹細胞 及び 自家幹細胞 の 4 つが重点ターゲットとして位置付けられている 再生医療への応用において ips 細胞 の研究を強化していく動きは 現時点ではまだ認められない 8

5. 国際動向分析 / 標準化 への取り組み 一方 日本が ips 細胞の生成や品質などについて世界トップのナレッジベースを持っていること 及び ips 細胞の再生医療への応用は これまでにない画期的医療をもたらすこと についての認識は 世界規模での拡がりを見せている したがって 長期的シナリオに立てば トップに立つ日本が世界を主導する形で 未来の先端医療を実現するための ips 細胞の品質評価 管理のための基礎研究を担う国際連携 を組織するなどのアプローチを取り得る 米英のライフサイエンス分野の中核ファンディング機関である 米国国立衛生研究所 英国医学評議会 などからは 現地会合の際に こうしたアプローチへの期待が示された 幹細胞全体を対象に 世界における バンキング の動きをまとめると 次のようになる 9

6 1. 幹細胞バンクを巡る国際動向 2010 年 3 月時点で 世界に少なくとも 16 ヶ所 内訳は 北米エリア ;3 英国 ;1 欧州 アフリカ大陸 ;3 中東 ;1 アジア オセアニア ;8 ( 日本の京都大学 理研 BRC 医薬基盤研 JCRB 細胞バンクを含む ) 6 機関が ips 細胞も分配 現在 米国 NIH による ips 細胞バンクや中国における世界最大規模の幹細胞バンクの設立構想が進んでいる ただし ips 細胞のみに特化したバンク レジストリー機関はない ( 青または赤色の三角は所在地を示す 赤色はヒト ES 細胞と ips 細胞両方を扱っている機関 ) 参考文献 ; Lucas Laursen. (Stem cell) banking crisis. Nature Reports Stem Cells Published online doi:10.1038/stemcells.2009.122, 2009, Jeremy Micah Crook & Derek Hei & Glyn Stacey. The International Stem Cell Banking Initiative (ISCBI): raising standards to bank on. In Vitro Cell Dev Biol Animal. DOI 10.1007/s11626-010-9301-7 10

6 2. 幹細胞バンクの状況 / 米国 Wisconsin International Stem Cell (WISC) Bank 1999 年に設立され 20005 年から 2010 年 2 月まで US National Stem Cell Bank を運営 2010 年 3 月現在 US National Stem Cell Bank から引き継いだ 20 株のヒト ES 細胞と 6 株の改変済みヒト ES 細胞 7 株の ips 細胞株を提供 提供依頼の初期手続きはオンラインで行うことができる 細胞株の使用料 ($1000) ならびに輸送料が必要 ips 細胞の取得には WiCell の実施する講習を受講することを推奨 Harvard Stem Cell Institute マサチューセッツ州総合病院の施設を用い 疾患特異的 ips 細胞の樹立と国際的な普及を目指している 2010 年 3 月現在までに疾患特異的 ips 細胞が 20 種類樹立されたという報告がある 研究所内のスタッフには無償で提供 所外の研究者 ( 非営利機関 ) は 500 ドルの送料がかかる Massachusetts Human Stem Cell Bank 2009 年 8 月現在 ヒト ES 細胞 2 株と ips 細胞 3 株を提供 疾患特異的 ips 細胞の樹立と配布を行う 11

6 3. 幹細胞バンクの状況 / 英国 UK Stem Cell Bank MRC ( 英国医学評議会 ) と BBSRC ( 英国バイオテクノロジー 生物科学研究会議 ) の資金によって National Institute for Biological Standards and Control (NIBSC) を母体に設立 設立からの 7 年間で幹細胞バンクの運営に約 1200 万ポンドを支出 幹細胞の品質管理や細胞株の特性検査 培養条件などを標準化して研究者に信頼性と再現性の高い細胞株を提供することが目的であり 英国内で採取されるすべてのヒト ES 細胞が同バンクに登録され 国内外へ無償で配布している これは標準化に向けた戦略的施策である 2010 年 2 月現在 配布可能なヒト ES 株は 15 株 受託し品質検査を行っている株が約 30 株 その他未受託株となっている UKSCB 自体が研究施設をもち 細胞培養 保存 細胞特性の検査 安全性試験に特化した研究を行っている ( 他の研究施設との競合を避けるために 幹細胞を用いた基礎研究や産業化に向けた研究は一切行わないこととなっている ) Dr. Austin Smith の作成した ips 細胞もここで扱われ 研究が進められている FP7 の ESNATS (Embryonic Stem Cell-based Novel Alternative Testing Strategies) に参加し アストラゼネカ GSK ロシュ リプロセル ( 日本企業 ) とともにヒト ES 細胞による毒性試験の開発を行っている ( ヒト ES ips 細胞による肝細胞と心筋細胞への毒性試験の研究開発に資金を提供 ) 12

参考

策 ファンディング1 A. 主な現地会合機関 / 政策 ファンディング 会合機関 区分 地域 名称 / 日本語 名称 / 英語等 対象者 役職 米国政米国国立衛生研究所 / 国立神経疾患 脳卒中研究所ほか National Institutes of Health/National Institute of Neurological Disorders and Stroke, etc. Dr. Story Landis Director 米国 カリフォルニア再生医療研究所 California Institute for Regenerative Medicine Dr. Alan Trounson President 米国 メリーランド幹細胞研究資金 Maryland Stem Cell Research Fund Dr. Dan Goncel Director 英国 医学評議会 Medical Research Council Sir Leszek Borysiewicz Chief Executive 英国 ウェルカム トラスト Wellcome Trust Dr. Alan Schafer Head of Science Funding 英国 バイオテクノロジー 生物科学研究会議 Biotechnology and Biological Sciences Research Council Dr. Vicky Jackson Programme Manager フランス フランス筋ジストロフィー協会 French Muscular Dystrophy Association Dr. Serge Braun Scientific Director 14

1 B. 主な現地会合機関 / 大学 企業 病院 区分 地域 名称 / 日本語 名称 / 英語等 ハーバード大学 / ハーバード幹細胞研究所ほか Harvard University/Harvard Stem Cell Institute, etc. Dr. Douglas Melton Scientific Director 米国 ジョンズ ホプキンス大学 / セルエンジニアリング研究所 Johns Hopkins University/Institute for Cell Engineering Dr. Ted Dawson Director 米国 ウィスコンシン大学マディソン校 / 幹細胞 再生医療センター University of Wisconsin-Madison/Stem Cell and Regenerative Medicine Center Dr. Timothy Kamp Co-Director 米国大学 企業 病院会合機関 対象者 役職 米国英国英国 カリフォルニア大学サンフランシスコ校 / エリ アンド イデッス ブロード再生医療 幹細胞研究センター ケンブリッジ大学 / ウエルカムトラスト幹細胞研究センター インペリアル カッレッジ ロンドン / MRC 臨床科学センター University of California, San Francisco/Eli and Edythe Broad Center for Regenerative Medicine and Stem Cell Research University of Cambridge/Wellcome Trust Centre for Stem Cell Research Imperial College London/MRC Clinical Sciences Centre Dr. Arnold Kriegstein Dr. Austin Smith Dr. Amanda Fisher Director Director Director 英国 ユニヴァーシティ カレッジ ロンドン / UCL 幹細胞 再生医療センター University of College London/UCL Centre for Stem Cells and Regenerative Medicine Dr. Claudio Stern Chair of Steering Committee 英国 ファイザー リジェネレイティブメディシン Pfizer Regenerative Medicine Dr. Paul Whiting Head of Molecular and Cellular Biology フランス I-STEM Institute for Stem Cell Therapy and Exploration of Monogenic Disieases Dr. Marc Peschanski Scientific Director フランス ジョルジュ ポンピドーヨーロッパ病院 Hôpital Européen Georges-Pompidou (HEGP) Dr. Philippe Monasché Medical Doctor 15

2 A. 米国国立衛生研究所の幹細胞研究のファンディング対象 米国国立衛生研究所の幹細胞研究におけるファンディング対象は 胚性 非胚性 臍帯血 に大別されている ips 細胞については 例えば 国立神経疾患 脳卒中研究所の場合 2009 年度の幹細胞研究全体への投資額である約 8500 万ドルの内 約 1100 万ドルをiPS 関連に充当している 区分 ファンディング額 ( 百万ドル ) 2007 年度 ( 実績 ) 2008 年度 ( 実績 ) 2009 年度 ( 実績 ) 2010 年度 ( 推定 ) 2011 年度 ( 推定 ) 全体 968 938 1,044 1,070 1,100 胚性 非胚性 ヒト 74 88 120 123 126 ヒト以外 120 150 148 151 155 ヒト 226 297 339 348 358 ヒト以外 400 497 550 564 580 胎盤 44 46 49 50 52 臍帯血 ヒト 38 38 42 43 45 ヒト以外 9 9 10 10 11 ( 出典 ) Estimates of Funding for Various Research, Condition, and Disease Categories, National Institutes of Health 16

2 B. 米国国立衛生研究所における幹細胞株の登録状況 オバマ政権によりヒト胚性幹細胞研究への連邦支援が再開された 2009 年 7 月に発効した新たなガイドラインに基づき 米国国立衛生研究所において研究支援対象となる幹細胞株の再登録が行われている 2010 年 3 月時点で43 株が登録されており この内 ハーバード大学の幹細胞株が27 株を占める 申請段階が115 株 申請予定が233 株となっている 機関名 幹細胞の株数登録済み申請段階申請予定小計 Harvard University 27 5 48 80 Children s Hospital Corporation 11 4 15 Rockefeller University 3 3 Novocell, Inc. 1 1 WiCell Research Institute 1 1 Reproductive Genetics Institute 47 178 225 University of California, San Francisco 11 11 Children s Memorial Hospital 11 11 Advanced Cell Technology, Inc. 8 1 9 New York University 7 7 Guangzhou Medical College 6 6 University of Connecticut 4 4 University of California, Los Angeles 3 3 Cellartis AB 3 3 University of Texas, Houston 2 2 Mt. Sinai Hospital 2 2 Jawaharial Nehru Centre for Advanced Scientific Research 2 2 Stanford University 1 1 California Stem Cell, Inc. Reprogenetics, LLC 1 1 2 1 3 University of New South Wales 1 1 合計 43 115 233 391 ( 出典 ) NIH Human Embryonic Stem Cell Registry, National Institutes of Health 17

2 C. 米国国立衛生研究所における ips 細胞を巡る動き 米国国立衛生研究所については ips 細胞を対象とした研究やファンディングとして 以下の動きなども注目される 1)2008 年度より 健常者及び精神疾患の患者由来 ips 細胞に関する探索的研究を対象としたファンディング制度を導入 ( 所管部門は National Institute of Mental Health) 2)2009 年度に 米国再生 再投資法からの研究資金をもとに 神経疾患研究を対象とした 3 つの ips コンソーシアム ( パーキンソン病 ALS ハンチントン病が それぞれの研究対象 ) を立ち上げ 3) 幹細胞ユニットにおいて 人 ( 男女各 1 名ずつ ) から得た 6 つの ips 細胞株の特性を評価中 4)2010 年 2 月に ips 細胞センターの設立計画を発表 コア施設 専用研究室 関連プロジェクト の立ち上げを目指している 18

5 A. 幹細胞の標準化を巡る国際動向 International Stem Cell Forum (ISCF) ISCF は 英国医学評議会の支援によって 2003 年に発足した国際組織 2010 年時点では 21 カ国の組織が参加 ISCF による決定事項は法的な拘束力はないが ISCF における決定 合意事項が幹細胞研究全般におけるグローバルスタンダードの強力な候補となる可能性が高いことは確かである 2010 年現在 倫理や社会受容を扱う Ethics Working Party (EWP) 知的財産関連案件を扱う Intellectual Property Rights (IPR) 幹細胞研究の基盤整備を取り扱う The International Stem Cell Initiative (ISCI) ならびに幹細胞バンクのより効率的な運営と国際連携を検討する The International Stem Cell Banking Initiative (ISCBI) が設置されている International Stem Cell Initiative (ISCI) 英国の幹細胞研究者 Peter Andrew 教授 ( シェフィールド大学 ) が主宰 幹細胞研究の基盤整備 特に ES 細胞の臨床応用に向けて基礎研究面について議論を行う組織として発足 ワーキンググループ (ISCI1 ISCI2) の活動を主導し ES 細胞の細胞株作成に関し 国際合意として満たすべき細胞株の特徴と基準について合意形成を行った また ES を治療へ応用する上で重要となる細胞株の特性に関する国際基準を作成している 現在 ES 細胞に加え ips 細胞を含めた多能性幹細胞の国際基準作成のための新たなワーキンググループ設置に向けた準備が進められている 19

6 A. 幹細胞バンクを巡る国際動向 UKSCB の責任者である Glyn Stacey が International Stem Cell Banking Initiative (ISCBI) を主宰 オーストラリア カナダ 中国 チェコ デンマーク フィンランド ドイツ 日本 インド イスラエル 韓国 シンガポール スペイン スウェーデン 米国の機関で構成 日本からは理化学研究所バイオリソースセンターが参加している ISCBI の主な活動目的は 以下の通り 細胞株の品質管理における最低基準の確定 世界各国の異なる機関で作成される細胞株の特徴データを比較可能にする体制構築 細胞株や他の実験材料を国際的に交換できる体制構築 ヒト ES 細胞のバンキング 提供 に関しては 2009 年 12 月にガイドラインの策定を完了した ips 細胞の評価 については 現在基準を策定中である その他 カナダ幹細胞ネットワークが生命倫理学者を交えた国際ワークショップを 2009 年 7 月に開催し ips 細胞の倫理的な作成と普及のために 具体的に検討すべき倫理的課題をセル誌上で発表した それらは 1 プライバシーの保護 2 同意および同意の撤回 3 細胞提供者の権利の及ぶ範囲 4 知的財産に関する課題 5iPS 細胞の倫理的使い方 6 臨床応用に向けた課題 の 6 つである 20