学 術 講 演 録 於 : 第 8 回 日 本 臨 床 獣 医 学 フォーラム 年 次 大 会 JBVP2006 日 程 :2006 年 9 月 17 日 ( 日 ) 犬 のスキンケア 犬 のアトピー 性 皮 膚 炎 (AD)は 完 治 ではなく QOLの 向 上 を 目 指 す 岩 崎 利 郎 ( 東 京 農 工 大 学 農 学 部 獣 医 内 科 学 教 室 ) アニマル メディア 社
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日本臨床獣医学フォーラム J B V P 年次大会 2006 レポート 通じて B リンパ球をプラズマ細胞に変化さ せ IgE の産生を促します このようにし て産生された HDM に対する IgE は マス ト細胞表面の高親和性 IgE 受容体 FcεRI に結合します その後 抗原である HDM によって IgE が架橋されると マスト細胞 が脱顆粒してさまざまな炎症が起きます しかし この一連の免疫反応が起きるた めには 大前提として 皮膚が荒れていて アレルゲンが皮膚のなかへ侵入するという 過程が必要です もし皮膚のバリア機能が しっかりしていて HDM が皮膚に入り込 まなければ 免疫反応は起きにくいという ことです したがって 免疫的な異常によ り IgE を産生しやすくても 皮膚バリア機 能がしっかりしている場合には AD の症 状は起きにくいと言えるわけです もちろ ん免疫異常がなくては AD は起こりません が それと同時に皮膚のバリア機能が低下 図1 ハウスダストマイトの免疫反応 していることが重大な要因の1つであるわ けです AD の柴犬では 不思議と眼の周 りによく症状がみられます ヒトでも眼の 周囲に症状が出やすいのですが これは眼 の周りの皮膚あるいは角質層が薄く バリ ア機能が弱いため症状が出やすいのかもし れないと考えられています 同様に 環境中にアレルゲンが存在する ことも AD の要因となります 皮膚のバリ ア機能が低下していても また IgE 産生に 未処理① 写真1 テープストリッピング処理② アセトン エーテル処理③ フルオレセイン浸透試験結果 関する免疫異常があっても 環境中にアレ クとセメントにたとえられます コンク ルゲンが存在しなければ発症することはあ リートブロックが角質細胞 セメントがそ りません の間を埋めている角質細胞間脂質です セ このようにさまざまな要因が複合的に存 メントである細胞間脂質が少なくなると 在して 初めてADが発症します ですから ブロックである角質細胞がバラバラになっ AD は免疫の異常だけで起きるものではな て バリア機能が破綻してしまいます そ いことを覚えておいて下さい こからアレルゲンが侵入するわけです そ こで ヒトと同じように犬でも角質層にバ リア機能があるのかを検討してみました 角質層の構造とバリア機能 写真1 皮膚の一部に①未処理 コン トロール ②テープストリッピング処理 岩崎利郎 教授 東京農工大学農学部獣医内科学教室 37 次に角質層の構造とバリア機能について セロハンテープを皮膚に貼っては剥がす みてみましょう 乾燥した皮膚では角質 を繰り返して角質層を除去 ③アセトン 層が乱れているとイメージして下さい エーテル処理 角質細胞は残し 細胞間 角質層の構造は よくコンクリートブロッ 脂質のみを除去 を施し それぞれの部位
日本臨床獣医学フォーラム J B V P 年次大会 2006 レポート にフルオレセインを塗布後 洗浄して検査 しました バリア機能のある未処理部分 は 色素がきれいに流れ落ちていますが テープストリッピング処理およびアセトン ヒトの皮膚には被毛が少ない ヒトの表皮と角質は厚い 犬の皮膚には被毛が多い 犬の表皮と角質は薄い 表皮と角質が薄いとバリア機能は低い エーテル処理を施した部分は皮膚にフル オレセインが浸透していることから 犬の 皮膚でも角質層にバリア機能があり とく に細胞間脂質がその働きを担っていると考 えられました 皮膚を接写した画像を拡大してみると 正常な皮膚では細かい山と谷が無数にあり ますが AD の病変部では傷があり 角質 層が剥がれてしまっている箇所がたくさん あります このような部位ではアレルゲン が侵入しやすくなっているため 皮膚バリ アを再構築する必要があります 皮膚バリ ヒトの皮膚 写真2 犬の皮膚 犬とヒトとの皮膚の比較 アを再構築することによって 現在起きて いる反応が改善することが期待されます 角質細胞膜 ヒトの皮膚と比較すると 犬の皮膚は表 皮も角質層も薄く 写真2 犬の皮膚バ リア機能はヒトよりも低いのではないかと 角質細胞 考えられます しかし犬には被毛がありま すから 被毛がバリア機能の低い分を補っ 水分子 ていると推測されます ですから 被毛を 刈ってしまうことで 皮膚と被毛を合わせ セラミド たトータルのバリア機能としては低下する 可能性があります とくに AD の犬では この点に気をつけたほうがよいでしょう 角質細胞間脂質の重要な鍵は セラミドが握る 角質細胞間脂質をイメージした図をご覧 ください 図2 細胞間脂質の半分程度 はセラミドと呼ばれる物質が占めていると 思われます セラミドが水分子を引きつけ 角質細胞間脂質 角質細胞膜 角質細胞間脂質は角質細胞を取り囲んで存在しており ヒトではその半分がセラミドであると報告 されています またセラミドは水分を保ち 緻密な層構造をつくることで角質層の構造を強化し 外部からの物質の浸透を防ぐことが明らかになっています このことから セラミドがバリア機能 に重要な役割を果たしていると考えられています 図2 角質細胞間脂質のイメージ ることにより 角質層のなかに水を保持し 犬セラミド ています 皮膚を保湿するということの本 質はここにあり 角質層に十分な量のセラ ヒトセラミド cer 1 cer 2 ミドが存在し 水と結合して角質層を保湿 することで 角質層のバリア機能が保たれ cer 3 cer 4 ます そこで 犬の角質層にもセラミドが cer 5/6 存在するのかを薄層クロマトグラフィーで 調べてみたところ ヒトとは若干分画が異 cer 7 なるようにも見えましたが 犬でも確かに セラミドが存在することがわかりました 写真3 01.mg sample そこで 犬の皮膚バリア機能の評価方法 について検討してみました ヒト用のコル 写真3 0.2mg 0.4mg standard 1.0mg 犬のセラミド試験-犬にもセラミドが存在する 2007. 5 38
日本臨床獣医学フォーラム J B V P 年次大会 2006 レポート ネオメーター使った表皮水分量 皮膚pH 経皮的水分蒸散量 Transepidermal Water 今まで犬の TEWL を測る際の難点 Loss TEWL の3項目を測定しましたが 犬はじっとしていてくれない 結論としては TEWL が犬のバリア機能と関 被毛に吸着した水分の影響を受ける 連がありそうだと考えられました 従来の装置では測定が困難 新しい測定装置 TEWL analyzer CC - 01 表皮水分量の測定は 表皮中の水分をイ ンピーダンス 電気抵抗値 で測定するの ですが 角質層がヒトより薄いため 犬で 測定器本体 はもっと下層を測定しているように感じら パソコン れ バリア機能の評価には適さないと思わ れました 次は皮膚のpHです 皮膚のpHが酸性 弱酸性であれば 細菌の増殖を阻害し アルカリ性であれば 細菌の増殖を促進す るため バリア機能の評価に役立つかと期 待しましたが 犬種差や個体差が極端に大 プローブ きいため 皮膚のpHをバリア機能の指標 にすることは難しいと思われました 驚く べきことに 犬のpHはヒトやほかの動物 写真4 犬の経皮的水分蒸散量 TEWL の測定 種よりもアルカリ性に傾いています 細菌 が増殖しやすいという点ではかなり不利な 10 回 5回 Pre 条件だと思われますが 犬の皮膚のpHが 高い理由はわかっていません 経皮的水分蒸散量 TEWL 従来の TEWL 測定装置では犬を測定する ことはできませんでしたが 花王 によっ て 新 た に TEWL 測 定 装 置 TEWL Analyzer CC - 01 が開発されましたので 写真4 腰部 セロハンテープ HE 染色 400 これを用いて 花王 と共同で研究を行い ました バリア機能が正常であれば皮膚か ら蒸散する水分量は少ない TEWL 値が低 い のですが バリア機能が低下すると 皮膚からの水分蒸散量が増加 TEWL 値が 上昇 します 皮膚から蒸散する水分量を 測定し バリア機能の評価の指標にしよう という試験です TEWL 試験を行う際にテープストリッピ ング処理を行いました テープストリッピ ング処理の前には十分な角質層がありま すが 処理の回数を増やすと角質層が薄く なっていきます 図3 処理の回数に比 例して TEWL 値は青い線のように上がっ ています このように角質層の細胞数と TEWL の間に相関があることから TEWL は バリア機能の指標になると考えられました 体の各部位における TEWL を測定した結 果から 腹部ではバリア機能が強く 背側 39 20 回 15 回 TEWL 350 300 250 セロハン ニチバン 200 150 100 50 0 pre 5回 図3 テープストリッピング回数と TEWL 10 回 15 回 20 回
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