愛 媛 県 農 林 水 産 研 究 報 告 第 7 号 (2015) イチゴ 小 葉 における 炭 疽 病 による 赤 色 小 斑 の 発 生 奈 尾 雅 浩 Occurrence of the new small reddish spot symptom caused by Colletotrichum gloeosporioides sensu lato on field-grown strawberry leaflets NAO Masahiro 要 旨 2013 年 に 愛 媛 県 内 で 採 集 したイチゴ 炭 疽 病 菌 を 県 内 主 要 品 種 の 紅 ほっぺ 等 の 小 葉 へ 無 傷 接 種 したとこ ろ, 既 に 現 地 で 発 生 している 汚 斑 症 状, 大 型 病 斑 に 加 え, 新 たに 大 きさ 1~3mm, 同 箇 所 の 葉 表 から 葉 裏 へ 突 き 抜 ける 赤 色 小 斑 が 発 現 した.2013~2014 年, 露 地 圃 場 のイチゴ 株 にこの 赤 色 小 斑 が 確 認 されたことから, 発 症 小 葉 を 採 集 し 常 法 による 組 織 分 離 を 行 った 結 果,イチゴ 炭 疽 病 菌 の 特 徴 を 有 する 菌 叢 が 供 試 切 片 の 30.0 ~81.8%の 割 合 で 生 育 していた. 単 胞 子 分 離 した 菌 株 は 形 態 的 特 徴 から Colletotrichum gloeosporioides sensu lato と 同 定 された.また, 本 菌 株 の internal transcribed spacers(its)1,its2 領 域 を 含 む rdna の 決 定 塩 基 を 相 同 性 検 索 したところ,C. gloeosporioides,glomerella cingulata と %の 相 同 性 を 示 したことから, 形 態 観 察 の 結 果 が 支 持 された. 本 病 の 発 病 圃 場 では, 赤 色 小 斑 を 有 するイチゴ 株 はクラウン 部 への 潜 在 感 染 の 危 険 性 が 高 いことから, 発 病 株 として 圃 場 からの 除 去 対 象 になるものと 判 断 した. キーワード:イチゴ 育 苗 床, 局 部 病 斑 1. 緒 言 海 外 におけるイチゴ 炭 疽 病 の 発 生 において, Saccardo(1884)は, 炭 疽 病 菌 の Gloeosporium fragariae(lib.)mont.が,フランス,ドイツ,イギリ ス,オランダ, 北 米 でイチゴ 葉 身 から 分 離 されて いることを 報 告 している.しかし, 詳 しい 病 徴 等 の 記 載 はなく 病 原 菌 の 分 離 記 録 のみであるため, Brooks(1931)が 1926~1929 年 に 米 国 中 央 フロリ ダのイチゴ 栽 培 圃 場 で 確 認 したことが 世 界 最 初 の 発 生 報 告 とされている(Howard and Albregts,1983). 我 が 国 における 本 病 の 発 生 は, 山 本 福 西 (1970) が,1969 年 の 徳 島 県 内 の 品 種 芳 玉 の 発 病 を 報 じたのが 最 初 である. 一 方, 愛 媛 県 内 の 発 生 は 1973 年 9 月 14 日 に 今 治 市 近 見 地 区 の 苗 床 での 確 認 が 最 初 であるが, 当 時 は 被 害 は 軽 微 である と 記 載 されるなど 重 要 視 されていなかった( 愛 媛 県 東 予 病 害 虫 防 除 所,1973). 本 病 による 被 害 が 全 国 的 に 拡 大 した 理 由 は 罹 病 性 品 種 への 更 新 が 第 一 の 理 由 である( 小 林,1994). 愛 媛 県 内 でも 品 種 女 峰 ( 赤 木 ら,1985), とよのか ( 本 多 ら,1985)が 1984 年 から 試 作 され,1988 年 には 県 内 栽 培 面 積 の 70%を 占 めるまでに 更 新 が 進 んだ( 日 野,1988). 本 県 では 当 時, 女 峰 での 発 生 が 甚 大 であり 薬 剤 処 理 だけでは 防 ぎ 切 れないことが 認 識 されていた ( 河 野,1988). 愛 媛 県 病 害 虫 防 除 所 からは, 本 病 を 対 象 とする 病 害 虫 発 生 予 察 注 意 報 が 1992,2003, 2006 年 に 発 表 され,2013 年 には 年 間 6 回, 本 病 に 対 する 発 生 予 察 予 報 が 発 表 されている( 愛 媛 県, 1992; 愛 媛 県 病 害 虫 防 除 所,2003,2006.2013). この 背 景 には,その 後, 本 県 で 品 種 更 新 された, さ ちのか ( 森 下 ら,1997), 紅 ほっぺ ( 竹 内 ら, 1999), 本 県 育 成 品 種 の あまおとめ ( 伊 藤 松 澤,2008) 等 はいずれも 本 病 への 罹 病 性 が 高 く 重 要 病 害 の 位 置 付 けは 変 わらないことがある.この 傾 向 は, 曽 根 (2005)が 指 摘 するように 国 内 のイ チゴの 促 成 栽 培 の 育 種 では 耐 病 性 よりも 大 果 性, 果 実 品 質 を 重 視 し 親 株 に 罹 病 性 品 種 が 使 われてお り, 今 後 も 被 害 は 全 国 レベルで 継 続 するものとみ られる. 本 病 の 対 策 では 罹 病 株 の 早 期 除 去 が 耕 種 的 防 除 として 重 要 であり( 石 川,1989; 中 西,1995; 愛 媛 県,2014), 病 徴 把 握 がその 第 一 歩 となる. 県 内 でも 小 葉 の 病 徴 では 汚 斑 症 状 ( 山 本,1971; 秋 田,1993), 大 型 病 斑 ( 石 川,2005; 奈 尾,2013) - 8 -
イチゴ 小 葉 における 炭 疽 病 による 赤 色 小 斑 の 発 生 が 確 認 されている. 小 葉 に 汚 斑 症 状 を 生 じている 株 はクラウン 部 にも 本 菌 が 感 染 している 可 能 性 が 高 く, 本 圃 定 植 後 に 萎 凋 する 可 能 性 が 高 いので 早 期 除 去 の 対 象 となる( 愛 媛 県 病 害 虫 防 除 所,2006; 愛 媛 県,2014).ところで,2013 年 に 県 内 における 大 型 病 斑 の 発 生 を 確 認 した 際, 採 集 したイチゴ 炭 疽 病 菌 の 分 生 子 懸 濁 液 を 県 内 主 要 品 種 の 紅 ほっ ぺ, あまおとめ, さちのか の 小 葉 に 無 傷 接 種 したところ, 上 述 の 汚 斑 症 状, 大 型 病 斑 に 加 え, 大 きさ 1~3mm, 葉 の 同 箇 所 の 表 側 から 裏 側 へ 突 き 抜 ける 赤 色 小 斑 が 発 現 した( 図 1; 奈 尾,2013). 今 回,この 症 状 が 現 地 で 自 然 発 病 しているのか, その 症 状 から 炭 疽 病 菌 が 優 占 分 離 されるのかを 確 認 し, 今 後 の 罹 病 株 除 去 の 指 標 になり 得 るのかを 考 察 した.なお, 本 試 験 の 概 要 は 2014 年 11 月 25 ~26 日 に 松 山 市 で 開 催 された 第 49 回 四 国 植 物 防 疫 研 究 協 議 会 大 会 で 講 演 発 表 した. 図 1 イチゴ 炭 疽 病 菌 の 接 種 試 験 で 発 現 した 赤 色 小 斑 (2013) 品 種 : 紅 ほっぺ. 右 図 : 拡 大 写 真 (スケールハ ー:1mm). 2. 材 料 及 び 方 法 2.1 現 地 調 査 における 病 徴 確 認 と 組 織 分 離 愛 媛 県 西 条 市 の 異 なる 3 圃 場 を 調 査 対 象 とした. 2013 年 10 月 5 日 には 品 種 レッドパール ( 芝, 2012),10 月 24 日,2014 年 8 月 5 日 には 品 種 紅 ほっぺ の 露 地 圃 場 で 赤 色 小 斑 を 有 する 小 葉 を 観 察 採 集 した. 観 察 の 目 的 は, 自 然 発 病 している 赤 色 小 斑 の 特 徴 を 把 握 するためである.なお, 調 査 圃 場 では, 汚 斑 症 状, 葉 柄 が 病 斑 形 成 により 折 損 するなど 炭 疽 病 が 発 生 していることを 確 認 した. いずれの 圃 場 でも 愛 ポット( 伏 原,1996)を 利 用 し 育 苗 されていた. 採 集 した 小 葉 から 組 織 分 離 を 行 った.すなわち, 赤 色 小 斑 を 含 むように 4mm 角 で 小 葉 から 切 り 出 し, 70%エタノール 液 と 1% 次 亜 塩 素 酸 ナトリウム 水 溶 液 に 順 次 15~20 秒 間 ずつ 浸 漬 し 表 面 殺 菌 を 行 っ た. 分 離 用 培 地 には,PDA 培 地 ( 佐 藤 ら,1983, 粉 末 寒 天 量 :18g/L)を 用 い, 抗 生 物 質 であるク ロラムフェニコールを 200mg/L 量 で 添 加 し, 上 記 の 殺 菌 済 み 切 片 を 置 床 した. 培 養 温 度 は 25, 培 養 7 日 後 に 生 育 した 菌 叢 の 一 部 を 新 たな PDA 培 地 に 移 植 した.8 月 5 日 分 離 菌 から 単 胞 子 分 離 を 行 い R-1 菌 株,R-2 菌 株 を, 対 照 菌 株 として, 同 圃 場 よ り 採 集 した 汚 斑 症 状 葉 から 同 様 の 分 離 法 を 取 り B-1 菌 株,B-2 菌 株 を 得 た.この 4 菌 株 を 以 下 の 分 離 菌 の 形 態 観 察 による 同 定 と 遺 伝 子 解 析, 分 離 菌 の 病 原 性 確 認 と 赤 色 小 斑 の 発 現 試 験 に 供 試 した. 2.2 分 離 菌 の 形 態 観 察 による 同 定 Sutton(1980)の 手 法 を 参 考 にして 分 生 子, 付 着 器 の 形 態 観 察 を 行 った.すなわち,PDA 培 地 (プ ラスチックシャーレ 使 用 )で 12 時 間 近 紫 外 線 照 射 (FL-15 BL-B 15W ナショナル 製 ) 12 時 間 暗 黒 条 件 の 25 で 供 試 菌 株 を 培 養 し, 菌 叢 の 色 調, 菌 核 形 成 の 有 無, 剛 毛 形 成 の 有 無, 分 生 子 の 形 態 特 性 を 観 察 した.PCA 培 地 (ジャガイモ ニンジン 各 20g/L の 煎 汁 液, 寒 天 粉 末 18g/L)によるスライド カルチャーで 形 成 させた 付 着 器 の 色 調, 形 態, 大 きさを 調 査 した. 2.3 遺 伝 子 解 析 による 分 離 菌 の 判 別 各 菌 株 を 25, 暗 条 件 下 で PD 液 体 培 地 を 用 い 振 盪 培 養 (50rpm)し, 生 育 した 菌 叢 塊 を 取 り 出 し シャーレ 上 で 蒸 留 水 洗 浄 した 後,MagExtractor -Plant Genome-(TOYOBO 製 )を 用 いて DNA を 抽 出 した.White et al.(1990)の internal transcribed spacers(its) 領 域 を 増 幅 する ITS1 プライマー (5'-tccgtaggtgaacctgcgg-3')と ITS4 プライマー (5'-tcctccgcttattgatatgc-3')で ITS1,ITS2 を 含 む rdna を 増 幅 した. 耐 熱 性 ポリメラーゼは,Applied Biosystems 製 の AmpliTaq Gold 360 の Master Mix を 10μL, 各 プライマーは 20pmol/μL の 調 整 液 を 0.5μL ずつ,DNA テンプレート 量 は 2μL( 沈 殿 DNA は 50μL のミリQ 水 に 再 懸 濁 ) 添 加 し,20μL スケ ールで 反 応 させた.PCR 機 器 は 日 本 バイオ ラッ ドラボラトリーズ 製 の I Cycer(170-8720JA)を 用 いた.PCR 反 応 は 94 2 分 に 続 けて,94 30 秒,50 30 秒,72 1 分 を 35 サイクル 繰 り 返 - 9 -
愛 媛 県 農 林 水 産 研 究 報 告 第 7 号 (2015) し,72 7 分 で 最 終 伸 長 させた.この 後,クルー ドな 状 態 の PCR 産 物 をシグマアルドリッチジャパ ン( 株 )に 送 付 し 受 託 シーケンス 解 析 した.カス タムプライマーは 上 記 ITS1,ITS4 プライマーとし て,5' 末 端 側,3' 末 端 側 から 塩 基 配 列 を 決 定 し,ア ライメントした 塩 基 配 列 を Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)により, 国 際 塩 基 配 列 デー タベース(GenBank/EMBL/DDBJ)で 相 同 性 検 索 を 行 った. 2.4 分 離 菌 の 病 原 性 確 認 と 赤 色 小 斑 の 発 現 接 種 に 用 いたイチゴ 株 はポリポット( 直 径 : 10.5cm) 植 えの 品 種 紅 ほっぺ で 1 区 5 株 供 試 した. 供 試 菌 株 から 滅 菌 水 で 5.0 10 5 個 /ml に 調 整 し 株 当 たり 1mL ずつ 葉 表 のみに 少 量 接 種 した. 接 種 後, 湿 潤 処 理 として 28 の 薄 明 下 ( 新 聞 紙 被 覆 )にお いてポリ 袋 内 で 24,36 時 間 被 覆 後, 接 種 イチゴ 株 は 気 温 28, 光 量 子 束 密 度 129μmol/m 2 S( 照 度 8,300lux), 湿 度 60%, 明 条 件 16 時 間, 暗 条 件 8 時 間 に 設 定 した 人 工 気 象 室 ( 小 糸 工 業 ( 株 ) 製, 2kKG-106SHLD- 特 ) 内 に 置 いた. 接 種 14 日 後 に 病 徴 観 察 し, 病 斑 総 数, 赤 色 小 斑, 汚 斑 症 状 の 発 生 割 合 を 求 めた. 3. 結 果 3.1 現 地 調 査 における 病 徴 確 認 と 組 織 分 離 2013 年 10 月 5 日 の レッドパール,10 月 24 日 の 紅 ほっぺ が 栽 植 された 圃 場 では,ポット 株 は 補 植 または 次 期 作 の 親 株 として 育 成 されてお り, 本 病 の 発 生 時 期 からは 日 数 が 経 過 していたと みられる.よって, 赤 色 小 斑 は 古 くなりやや 褐 色 にみえる 場 合 や 斑 点 内 部 が 白 変 している 場 合 がみ られた.2014 年 8 月 5 日 の 紅 ほっぺ は 本 病 発 生 時 期 ( 初 期 )に 当 たり 赤 色 の 斑 点 となっていた. なお, 新 旧 いずれの 症 状 も 大 きさは 1~3mm, 葉 の 表 側 から 裏 側 に 病 変 部 は 突 き 抜 けていた( 図 2). 表 1 に 示 す 通 り,2013 年 10 月 の 採 集 小 葉 の 分 離 切 片 からは 炭 疽 病 菌 の 特 徴 を 示 す 菌 が 30.0~50.0% の 割 合 で,2014 年 8 月 の 分 離 切 片 からは 81.8%の 割 合 で 分 離 された.なお,2013 年 10 月 に 分 離 され た 他 の 菌 種 となる Alternaria 属 菌,Chaetomium 属 菌 は 分 離 率 からみて 二 次 寄 生 菌 等 であり 病 原 性 は ないと 判 断 した. 3.2 分 離 菌 の 形 態 観 察 による 同 定 菌 叢 の 色 調 は 暗 緑 色, 菌 核 は 形 成 せず, 剛 毛 形 成 もみられなかった. 分 生 子 は 単 胞, 円 筒 形, 両 端 鈍 円 であり( 図 3), 岡 山 (1989), 石 川 ら(1989) の 記 載 と 一 致 した.また, 岡 山 (1994)が 示 した 一 端 が 細 い 形 態 を 有 する 分 生 子 もみられた( 図 3). 大 きさは R-1 菌 株 が 13.0~20.0 5.6~8.0μm,R-2 菌 株 が 12.0~18.0 4.0~8.0μm であった. 比 較 に 用 いた 1991 年 2 月 ~1992 年 9 月 に 県 内 で 採 集 した 1-1 1-2 2-1 2-2 図 2 現 地 で 採 集 した 赤 色 小 斑 を 有 する 小 葉 品 種 : 紅 ほっぺ, 同 一 葉 で 1-1,2-1 が 葉 表,1-2,2-2 が 葉 裏. : 赤 色 小 斑 の 発 生 位 置 ( 葉 表 裏 で 左 右 対 称 となっている). 表 1 異 なる 圃 場 のイチゴ 小 葉 の 赤 色 小 斑 からの 分 離 菌 採 集 年 月 日 品 種 名 供 試 対 象 菌 が 分 離 された 切 片 割 合 (%) 切 片 数 炭 疽 病 菌 他 の 菌 種 未 分 離 2013 年 10 月 05 日 レッドパール 20 30.0 25.0 45.0 2013 年 10 月 24 日 紅 ほ っ ぺ 12 50.0 0 50.0 2014 年 08 月 05 日 紅 ほ っ ぺ 11 81.8 0 18.2 他 の 菌 種 は,Alternaria,Chaetomium 属 菌. - 10 -
イチゴ 小 葉 における 炭 疽 病 による 赤 色 小 斑 の 発 生 1 2 図 3 分 離 菌 (R-1 菌 株 )の 分 生 子 と 付 着 器 の 形 態 1: 分 生 子,2: 付 着 器.スケールバー:10μm. イチゴ 炭 疽 病 菌 5 菌 株 の 最 小 値, 最 大 値 となる 14.0 ~23.0 4.0~7.0μm, 過 去 に 他 県 でイチゴ 炭 疽 病 菌 を 同 定 した 岡 山 (1989), 石 川 ら(1989), 松 尾 (1990) が 報 告 した 大 きさには 変 異 もあり, 今 回 の 分 離 菌 の 大 きさだけが 大 きく 逸 脱 することはないと 判 断 した( 表 2).なお,von Arx(1957)が 測 定 した Colletotrichum gloeosporioides の 分 生 子 の 大 きさ 12 ~19 4~6μm とはほぼ 一 致 した. 付 着 器 は R-1 菌 株,R-2 菌 株 とも 褐 色, 不 定 形 を 示 した( 図 3). 大 きさは R-1 菌 株 が 7.0~13.0 5.6~10.0μm,R-2 菌 株 が 7.0~14.0 5.0~8.0μm であった. 稲 田 (2006) は C. gloeosporioides の 付 着 器 の 大 きさを 6.7~16.1 4.7~10.5μm(Cs-1 菌 株 ),8.0~14.5 4.8~10.9μm (Cs-3 菌 株 )と 測 定 しており,R-1 菌 株,R-2 菌 株 の 大 きさとはほぼ 一 致 した.なお, 本 菌 の 所 属 で あるが, 近 年,Weir et al.(2012)は,c. gloeosporioides について, 遺 伝 学 的 解 析 から 種 複 合 体 に 分 割 する ことを 提 案 している.よって, 今 回 の 分 離 菌 は, C. gloeosporioides sensu lato と 同 定 した. 3.3 遺 伝 子 解 析 による 分 離 菌 の 判 別 ITS1,ITS2 を 含 む rdna の 塩 基 配 列 を R-1 菌 株 で 554 塩 基,R-2 菌 株 で 566 塩 基 をアライメントし て 決 定 した.BLAST による 相 同 性 検 索 では, 表 3 に 示 すとおりアクセッションナンバーGU066703, GU066619 の Glomerella cingulata や FJ550213 の C.gloeosporioides,JF730185 の Colletotrichum sp. と %の 相 同 性 を 示 した.なお,G. cingulata は C. gloeosporioides の 完 全 世 代 となる(Sutton,1980). 3.4 分 離 菌 の 病 原 性 確 認 と 赤 色 小 斑 の 発 生 分 離 菌 は 全 て 病 原 性 を 有 していた. 被 覆 時 間 24 表 2 分 離 菌 と 既 報 のイチゴ 炭 疽 病 菌 の 分 生 子 の 大 きさ 比 較 菌 株 名 または 出 典 長 径 (μm) 短 径 (μm) R-1 13.0~20.0 5.6~8.0 R-2 12.0~18.0 4.0~8.0 B-1 12.0~19.0 5.0~7.0 B-2 13.0~18.0 5.0~7.0 愛 媛 県 採 集 菌 14.0~23.0 4.0~7.0 岡 山 (1989) 16.3~21.3 3.8~6.3 石 川 ら(1989) 17 ~22 4 ~7 松 尾 (1990) 10.0~16.3 4.0~6.0 愛 媛 県 採 集 菌 は,1991 年 2 月 ~1992 年 9 月 採 集 の 5 菌 株. R-1,R-2 は 赤 色 小 斑,B-1,B-2 は 汚 斑 症 状 より 分 離 した 菌 株. 時 間 よりも 36 時 間 の 病 斑 形 成 数 が 多 くなった. 赤 色 小 斑 は 汚 斑 症 状 に 比 べ 形 成 数 は 少 なかった. 汚 斑 症 状 から 分 離 した B-1,B-2 菌 株 を 接 種 したイチ ゴ 株 でも 赤 色 小 斑 が 確 認 された.なお, 病 斑 総 数 の 多 少 と 赤 色 小 斑 の 発 生 率 には 関 係 がみられなか った( 表 4). 4. 考 察 イチゴ 炭 疽 病 菌 は, 完 全 世 代 を Glomerella cingulata(stoneman)spaulding et Schrenk と 同 定 さ れている( 岡 山,1988).このため, 不 完 全 世 代 は Colletotrichum gloeosporioides(penzig)penzig & Saccardo となる(Howard et al.,1992). 今 回,ITS1, ITS2 領 域 を 含 む rdna の 塩 基 配 列 を BLAST によ り 国 際 塩 基 配 列 データベースで 相 同 性 検 索 を 行 っ たところ,G. cingulata,c. gloeosporioides または Colletotrichum sp.と %の 相 同 性 を 示 した.この - 11 -
愛 媛 県 農 林 水 産 研 究 報 告 第 7 号 (2015) 表 3 分 離 菌 の ITS1,ITS を 含 むrDNA 塩 基 配 列 による 相 同 性 (%) 供 試 菌 株 アクセッションナンバー 微 生 物 名 ( 学 名 ) R-1 R-2 B-1 B-2 (554bp) (566bp) (555bp) (553bp) GU066703 Glomerella cingulata GU066619 Glomerella cingulata FJ550213 Colletotrichum gloeosporioides JF730185 Colletotrichum sp. - - - - ( bp)はアライメント 後 の 決 定 塩 基 数. 表 4 分 離 菌 の 接 種 により 生 じた 病 斑 の 種 別 割 合 ( 接 種 14 日 後 ) 供 試 被 覆 病 斑 赤 色 小 斑 汚 斑 症 状 菌 株 時 間 総 数 発 生 率 (%) 発 生 率 (%) 24 23 8.7 91.3 R-1 36 42 2.4 97.6 24 4 0 R-2 36 106 1.9 98.1 24 19 5.3 94.7 B-1 36 32 0 24 12 0 B-2 36 36 2.8 97.2 被 覆 時 間 は, 分 離 菌 の 接 種 後 にポリ 袋 内 で 湿 潤 処 理 をし た 時 間. ことは Sreenivasaprasad et al.(1992)が C. gloeosporioides は rdna の ITS 領 域 では 菌 株 間 で 塩 基 配 列 には 差 異 が 無 いと 述 べていることからも, 本 遺 伝 子 解 析 は, 形 態 観 察 による 同 定 結 果 を 強 く 支 持 した. 但 し, 近 年, 本 菌 は,Weir et al.(2012) が,C. gloeosporioides を C. asianum 等 22 種 及 び C. kahawae subsp. ciggaro の 1 亜 種 に 分 割 することを 提 案 し,1 多 くの 種 は ITS 領 域 では 区 別 できない こと,2グリセルアルデヒド-3 - リン 酸 デヒドロ ゲナーゼ(GAPDH)とグルタミン 合 成 酵 素 (GS), β-チューブリン-2(tub2)がバーコード 遺 伝 子 候 補 とされていること,3 各 対 象 遺 伝 子 の 供 試 には 一 長 一 短 あり, 単 独 で 識 別 できないことを 報 告 し ている.このため, 今 回 の 分 離 菌 は,Colletotrichum gloeosporioides sensu lato と 同 定 し, 種 複 合 体 に 含 めた. 権 藤 (1967)は, 病 徴 とは 植 物 体 が 何 らかの 原 因 によって, 細 胞 等 に 異 常 を 来 し 外 部 形 態 の 変 化 を 示 すものであり, 病 徴 が 植 物 体 の 一 部 器 官 に 限 られている 場 合 は 局 部 病 徴, 全 植 物 体 に 及 ぶ 場 合 を 全 身 病 徴 と 呼 ぶことを 示 している.イチゴ 炭 疽 病 では, 局 部 病 斑 を 示 す 小 葉 の 汚 斑 症 状 はクラウ ン 部 への 感 染 の 疑 いが 強 いことに 加 えて, 分 生 子 を 形 成 する 大 型 病 斑 ( 石 川,2005)は 周 辺 健 全 株 に 伝 染 するため, 伝 染 源 の 排 除 を 目 的 に 局 部 病 斑 発 現 株 は 圃 場 外 へ 早 期 に 搬 出 する 必 要 がある( 愛 媛 県,2014; 愛 媛 県 病 害 虫 防 除 所,2013). すなわ ち,クラウン 部 の 発 病 による 萎 凋 枯 死 の 全 身 病 徴 を 示 す 株 を 減 らすための 対 策 と 言 える. 葉 身 の 汚 斑 症 状 は 複 数 の 呼 称 があり, 岡 山 (1988) は 黒 褐 色 の 病 斑, 池 田 ら(1991)は 黒 色 円 形 病 斑, 秋 田 (1993)は 薄 墨 色 の 汚 斑 型 と 記 載 している.また,Smith(2008)は,これらと 同 じ 病 徴 になる black leaf spot では 壊 疽 を 示 さないこと, Kim et al.(1992)は, 葉 身 の 病 斑 は 病 勢 進 展 しな いことや 秋 田 (2001)が 葉 身 での 病 斑 は 薄 墨 色 で 葉 裏 まで 進 行 しないことを 観 察 している. 今 回 現 地 で 確 認 された 赤 色 小 斑 は, 壊 疽 部 分 を 生 じ, 葉 表 側 から 葉 裏 側 まで 病 斑 が 突 き 抜 ける 特 徴 を 有 す るため, 汚 斑 症 状 の 記 載 とは 明 らかに 異 なってい た. 今 回 の 接 種 試 験 において, 汚 斑 症 状 の 発 生 の 多 い 区 で 赤 色 小 斑 が 必 ずしも 多 くなることはなか った.また, 同 一 葉 で 汚 斑 症 状 と 赤 色 小 斑 が 混 在 - 12 -
イチゴ 小 葉 における 炭 疽 病 による 赤 色 小 斑 の 発 生 する 場 合 もみられた.この 試 験 結 果 は, 汚 斑 症 状 が 赤 色 小 斑 に 移 行 するものではないことや 赤 色 小 斑 は 株 や 小 葉 単 位 の 違 いではなく, 本 菌 が 感 染 し た 極 めて 限 定 的 な 葉 組 織 部 位 の 生 理 的 な 要 因 の 関 与 により 発 現 有 無 が 決 定 するものと 推 察 した.な お, 今 回, 汚 斑 症 状 から 分 離 した B-1,B-2 菌 株 で も 赤 色 小 斑 が 形 成 されたことから, 炭 疽 病 菌 の 性 状 差 により 発 現 するものではないことも 証 明 され た. 赤 色 小 斑 は, 接 種 後 7 日 後 までには 発 現 しなか った. 汚 斑 症 状 が 接 種 3 日 後 に 生 じること( 奈 尾, 2006)に 対 して, 赤 色 小 斑 の 発 現 は 接 種 14 日 後 に なって 現 れるため, 汚 斑 症 状 よりも 発 現 時 期 は 遅 かった.なお, 他 病 害 との 比 較 では, 発 生 の 多 い 輪 斑 病 の 病 斑 は 汚 斑 症 状, 赤 色 小 斑 とは 初 期 症 状 は 異 なり, 病 斑 径 は 明 らかに 大 きく( 岸,1974; 奈 尾,2006), 下 位 葉 に 発 生 し 易 いことから, 赤 色 小 斑 との 区 別 は 容 易 である. 耕 種 的 防 除 において, 小 葉 の 発 病 株 の 取 り 扱 いでは, 秋 田 (2001)は. 葉 身 の 病 斑 は 本 病 の 蔓 延 最 盛 期 に 多 く 現 れるので, 葉 身 の 病 斑 で 発 生 を 確 認 していたのでは 手 遅 れに なることを 指 摘 している.しかしながら,Howard et al.(1992)は, 小 葉 での black leaf spot 発 生 後 は. 本 病 を 制 御 するためにすべての 可 能 な 防 除 努 力 を 開 始 すべきとしており, 愛 媛 県 では 小 葉 に 局 部 病 徴 がみられる 株 はクラウン 部 に 本 菌 が 感 染 してい る 確 率 が 高 いため,このような 発 病 株 は 徹 底 的 に 除 去 するよう 指 導 されている( 愛 媛 県,2014). 赤 色 小 斑 の 発 生 頻 度 は 今 回 の 分 離 菌 による 接 種 試 験 の 結 果 が 示 すように, 汚 斑 症 状 の 発 生 率 よりも 低 いようであった. 但 し, 赤 色 小 斑 は 本 菌 の 分 生 子 飛 散 により 発 生 することが 強 く 示 唆 され, 発 病 株 の 病 徴 に 該 当 するだけでなくクラウン 部 へ 分 生 子 飛 散 感 染 している 危 険 性 が 高 いため, 圃 場 外 へ の 除 去 対 象 と 考 える. ちなみに, 石 川 (1993); 石 井 (2006)は,エタ ノール 浸 漬 による 潜 在 感 染 株 の 簡 易 判 別 法 の 確 立 と 現 地 導 入 について 報 告 しているが,この 検 定 で 小 葉 に 感 染 が 認 められた 場 合 には, 株 全 体 の 発 病 となり 廃 棄 対 象 にしている. 小 葉 のみの 感 染 であ れば, 検 定 した 小 葉 葉 柄 の 切 除 で 発 病 部 除 去 は 可 能 となるが, 株 ごと 廃 棄 する 理 由 はクラウン 部 への 感 染 が 懸 念 されるためである.このことは, 小 葉 に 赤 色 小 斑 を 生 じた 株 も 廃 棄 対 象 となる 理 由 に 通 じる. 実 際 に 現 地 の 栽 培 株 を 観 察 すると 小 葉 に 1 個 のみ 赤 色 小 斑 を 生 じている 株 もみられた. 従 来, 小 葉 での 斑 点 症 状 は, 汚 斑 症 状 の 特 徴 から 1 壊 疽 を 生 じないこと,2 葉 表 から 葉 裏 に 突 き 抜 けないことが 指 標 となっている. 従 って, 赤 色 小 斑 の 特 徴 から, 本 病 に 該 当 しないとして 見 逃 され ていた 可 能 性 がある.また, 赤 色 小 斑 は 古 くなる とやや 褐 色 にみえる 場 合 や 斑 点 内 部 が 白 変 してい る 場 合 もあったが 現 場 での 呼 称 を 複 雑 化 させない ため, 一 括 して 赤 色 小 斑 と 呼 称 したい.なお, 小 葉 への 付 傷 等, 生 理 障 害 によって 今 回 の 赤 色 小 斑 と 類 似 症 状 を 生 じることが 予 想 される. 以 上 を 踏 まえ, 本 病 発 病 圃 場 での 耕 種 的 防 除 との 前 提 条 件 を 置 き, 小 葉 に 赤 色 小 斑 を 生 じる 株 は 圃 場 外 への 除 去 対 象 にすることを 提 案 したい. 謝 辞 Colletotrichum gloeosporioides の 種 分 割 について ご 指 導 頂 いた 独 立 行 政 法 人 農 業 生 物 資 源 研 究 所 の 佐 藤 豊 三 博 士 に 深 謝 する. 引 用 文 献 赤 木 博, 大 和 田 常 晴, 川 里 宏, 野 尻 光 一, 安 川 俊 彦, 長 修, 加 藤 昭 (1985):イチゴ 新 品 種 女 峰 について, 栃 木 農 試 研 報,31,29-41. 秋 田 滋 (1993): 自 然 発 生 におけるイチゴ 炭 そ 病 の 圃 場 内 における 発 生 実 態 と 病 徴, 関 東 東 山 病 虫 研 報,40,51-54. 秋 田 滋 (2001):イチゴ 炭 そ 病 の 発 生 生 態 と 耕 種 的 防 除 法, 農 耕 と 園 芸,56(11), 76-79. Arx, J. A. von(1957): Die arten der gattung Colletotrichum Cda, Phytopath. Zeitschr.,29, 413-429. Brooks, A. N.(1931): Anthracnose of strawberry caused by Colletotrichum fragariae, n.sp., Phytopathology,21,739-744. 愛 媛 県 (1992): 平 成 4 年 度 農 作 物 有 害 動 植 物 発 生 予 察 事 業 年 報,7. 愛 媛 県 (2014):イチゴ 炭 疽 病 の 防 除 方 法, 農 作 物 病 害 虫 防 除 指 針 ( 平 成 26 年 ),337-338. 愛 媛 県 病 害 虫 防 除 所 (2003): 平 成 15 年 度 農 作 物 有 害 動 植 物 発 生 予 察 事 業 年 報,9. 愛 媛 県 病 害 虫 防 除 所 (2006): 平 成 18 年 度 農 作 物 有 害 動 植 物 発 生 予 察 事 業 年 報,11. - 13 -
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