政 府 による 限 定 正 社 員 制 度 の 導 入 に 関 する 経 営 学 的 一 考 察 北 海 学 園 大 学 経 営 学 部 大 平 義 隆
Ⅰ.はじめに 平 成 25 年 6 月 14 日 に 閣 議 決 定 された 規 制 改 革 実 施 計 画 にある 雇 用 改 革 は 経 営 学 的 考 察 を 必 要 とする この 規 制 改 革 の 目 的 は 我 が 国 の 経 済 の 再 生 1 である 我 が 国 経 済 の 再 生 は 既 存 の 形 態 の 修 正 ではなく 大 きな 転 換 米 国 式 の 雇 用 形 態 への 転 換 という 形 で 志 向 される 経 営 学 的 視 点 からの 議 論 されるべきところがな されておらず この 転 換 は 従 業 員 の 不 安 を 募 り 結 果 的 に 我 が 国 企 業 の 強 みをなくすと 考 える
問 題 としている 限 定 正 社 員 の 導 入 は 将 来 わ が 国 だけが 異 なる 国 際 標 準 にすることで 国 家 経 済 の 再 生 が 図 られるという 考 えに 基 づく 2 こ こでは 無 限 定 正 社 員 とはなにかを 検 討 し 政 府 が 限 定 正 社 員 を 進 める 理 由 を 検 討 する その 際 限 定 正 社 員 の 限 定 に 近 い 形 態 を 持 つMBO( 目 標 管 理 :Management by Objective) のわが 国 への 導 入 結 果 の 考 察 を 中 心 に 限 定 正 社 員 の 導 入 後 を 予 測 し 経 営 学 的 視 点 からの 考 察 を 行 いたい
Ⅱ. 問 題 意 識 1. 限 定 正 社 員 制 度 の 導 入 閣 議 決 定 に 際 して 提 出 された 規 制 改 革 会 議 雇 用 ワーキング グループ 報 告 書 3 には 限 定 正 社 員 (ジョブ 型 正 社 員 )への 変 更 の 説 明 に 1) 日 本 の 正 社 員 の 特 徴 2)メリットとデメリット 3) 変 更 の 必 要 性 4) 日 本 型 職 務 給 制 度 では 解 雇 が できない 理 由 を 挙 げ 国 際 標 準 化 を 求 め 5) 最 後 に 変 更 への 対 応 策 として 制 度 的 な 補 完 を 述 べている
1) 日 本 の 正 社 員 の 特 徴 ワーキング グループの 報 告 書 では 日 本 の 正 社 員 の 特 徴 を 無 期 雇 用 フルタイム 労 働 直 接 雇 用 職 務 と 勤 務 地 と 労 働 時 間 に 関 して の 無 限 定 男 性 中 心 生 活 給 と 述 べている 国 際 標 準 であるという 米 国 等 ではジョブディスク リプション( 職 務 記 述 書 ) 等 があり きわめて 明 瞭 に 限 定 が 行 われていると 比 較 している この 形 態 を 限 定 正 社 員 と 称 している
2) 日 本 の 正 社 員 のメリット デメリット (1)メリット 会 社 のメリットとしては 日 本 の 正 社 員 は 無 限 定 性 を 特 徴 とするため 会 社 経 営 は 柔 軟 性 を 得 ている こと 流 動 化 しにくいので 企 業 特 殊 的 人 的 投 資 が 可 能 な こと 配 置 転 換 で 部 門 間 の 調 整 がとれること があげら れている 従 業 員 のメリットは 様 々な 仕 事 ができ 動 機 づけられること 社 員 として 公 平 な 扱 いがされること 補 完 的 な 制 度 ( 雇 用 保 障 年 功 賃 金 や 退 職 金 といった 待 遇 )が 完 備 していること であった (2)デメリット 従 業 員 のデメリットは 不 本 意 な 異 動 何 でも 屋 になること 転 職 しにくいこと があげられている 他 に 社 会 のデメリットとして 有 期 雇 用 が 増 大 する 原 因 になっていることが 挙 げられている
3) 変 更 の 必 要 性 変 更 の 必 要 性 の 第 一 は 非 正 規 社 員 の 雇 用 安 定 である 第 二 は 国 民 が 少 子 高 齢 化 を 支 え るためのワークライフバランスを 達 成 できるよう な 働 き 方 の 促 進 である 第 三 は 女 性 の 積 極 活 用 である 第 四 は 相 互 転 換 によるキャリア 継 続 即 ち 流 動 化 である 最 後 は 自 己 のキャリ アの 明 確 化 外 部 労 働 市 場 の 形 成 と 発 達 で ある
4) 現 行 の 職 務 給 の 問 題 2011 年 に 正 社 員 300 人 以 上 の1987 社 では 51.9%が 導 入 し そのうち 社 員 の32.9%が 職 務 か 職 場 が 限 定 されていた しかし 職 務 が 限 定 されてい る 場 合 の78.8%が 実 際 には 不 明 確 で 勤 務 地 限 定 の 場 合 も84.4%が 不 明 確 であった また 閉 鎖 縮 小 時 の 処 遇 は 職 務 限 定 で76.6% 勤 務 地 限 定 で 63%が 無 限 定 社 員 と 同 じになっていた 運 用 上 不 明 確 な 場 合 には 現 行 法 では 限 定 とは 認 められず 法 的 には 解 雇 できない こうした 点 に 配 慮 し 報 告 書 では 限 定 正 社 員 という 表 現 を 使 い 限 定 を 強 調 していると 思 われる
5) 補 完 的 制 度 の 検 討 報 告 書 で 他 に 検 討 されているのは 人 材 派 遣 業 の 規 制 緩 和 であることから 限 定 社 員 の 導 入 に 合 わせ 流 動 化 する 労 働 市 場 の 形 成 を 検 討 していると 思 われる 変 更 の 対 応 として 唯 一 あ げられているのが 補 完 的 制 度 の 検 討 である( 表 1 参 照 ) これだけで 従 業 員 を 動 機 付 け 業 績 を 上 げることはできるのだろうか 経 営 学 的 検 討 が 必 要 だろう すでに 限 定 正 社 員 導 入 に 反 対 する 意 見 は 多 く 出 てきている 4
表 1 組 織 制 度 変 更 制 度 補 完
2. 問 題 意 識 経 営 学 の 中 で 経 営 組 織 経 営 管 理 の 研 究 で は 従 業 員 の 欲 求 を 充 足 し 動 機 づけるために 人 間 の 行 動 が 研 究 されてきた 人 間 の 行 動 は 社 会 が 子 供 に 対 して 相 互 作 用 を 通 して 社 会 的 となるように 誘 導 するところから 始 まり 教 育 制 度 などを 通 し 制 度 的 に 強 化 することで 社 会 化 さ れている 社 会 化 した 子 供 は 社 会 的 行 動 をとる すなわち 物 事 を 決 め 欲 求 を 充 足 しようとする ( 表 2 参 照 )
社 会 に 存 在 している 企 業 は より 良 い 結 果 を 得 るために 人 々の 欲 求 を 充 足 し 動 機 づけよう とする 社 会 が 異 なると 物 事 への 欲 求 が 異 なり 物 事 の 決 め 方 が 異 なることがわかっている 5 世 界 の 主 流 と 日 本 が 異 なるといわれるほどの 変 更 であるなら 変 更 には 経 営 学 的 に 検 討 を 要 すると 思 われる
表 2 組 織 適 切 な 誘 因 の 提 供 個 人 欲 求 充 足 行 動 意 思 決 定 相 互 作 用 社 会 子 供 の 社 会 適 応 化 教 育 制 度 による 強 化
Ⅲ. 主 流 との 差 異 の 検 討 では どのような 差 異 があるのかを これまで の 研 究 を 基 にして 社 会 個 人 組 織 の 順 にみて いき( 表 3 参 照 ) 制 度 変 更 で 足 りるものかを 検 討 しよう 次 に 形 態 のよく 似 ていると 思 われる 目 標 管 理 の 導 入 とその 結 果 検 討 し よく 似 た 結 果 となっているかの 比 較 を 行 うことで 差 異 の 検 討 としよう
表 3 米 国 組 織 動 機 づけ 機 会 提 供 契 約 達 成 感 等 動 機 づけ 職 務 等 級 制 度 日 本 構 成 員 として 雇 用 所 属 欲 求 充 足 一 体 化 終 身 雇 用 慣 行 個 人 欲 求 形 成 個 別 努 力 決 定 形 成 自 律 的 判 断 と 行 動 属 性 の 希 求 状 況 参 照 行 動 社 会 適 応 化 主 張 ルール 遵 守 誘 導 属 性 希 求 へ 誘 導 強 化 教 育 自 律 的 判 断 へ 誘 導 状 況 判 断 へ 誘 導 個 別 目 的 へ 誘 導 全 体 状 況 一 致 へ
1. 既 存 研 究 の 検 討 1) 社 会 の 子 どもに 対 する 対 応 東 洋 ら(1981)は 子 供 と 養 育 者 の 行 動 の 日 米 比 較 を 通 し わが 国 では 状 況 に 注 意 を 払 い 適 応 するように 子 供 らを 誘 導 していることを 米 国 では 子 供 に 対 する 自 己 主 張 の 誘 導 に 合 わせて 子 供 らがルールを 守 ることを 求 めていると 述 べ ている
また 大 平 (2003)は 文 献 研 究 からわが 国 で は 属 性 獲 得 と 状 況 判 断 へと 誘 導 し 米 国 では 自 己 判 断 価 値 と 自 律 的 判 断 へと 誘 導 する 養 育 者 の 行 動 があることを 明 らかにしている
2) 社 会 化 した 個 人 の 行 動 子 供 に 対 する 扶 養 者 や 社 会 の 反 応 相 互 作 用 により わが 国 では 強 い 属 性 獲 得 欲 求 が 生 じ 状 況 を 参 照 して 物 事 を 決 める 意 思 決 定 行 動 をとるようになる 6 同 様 に 米 国 では 自 律 的 で 個 別 目 的 合 理 的 意 思 決 定 を 行 うこととなり(Robbins 2005) 個 別 努 力 を 評 価 の 基 準 として 持 つようになる
3) 組 織 の 在 り 方 組 織 は 個 人 の 欲 求 を 充 足 し かつ 動 機 づけな ければならない わが 国 の 場 合 強 い 属 性 獲 得 欲 求 があるが 所 属 を 得 るとともに 所 属 と 一 体 化 する 同 様 に 属 性 欲 求 に 起 因 する 所 属 との 一 体 化 は 会 社 のために 人 々に 無 理 を 強 いる ことができる 一 体 化 を 喪 失 することは 自 分 を 失 うことにつながるため このことが 仕 事 への 動 機 づけともなる 米 国 で 一 体 化 は 個 別 合 理 的 判 断 の 結 果 だ
2.MBO 導 入 とその 結 果 最 後 に 仕 事 が 限 定 的 で 正 社 員 に 用 いられて いる 点 で 限 定 正 社 員 に 近 いMBOを 取 り 上 げる 我 が 国 に 導 入 されたMBOは 変 質 している MBOはHerzberg(1989)の 職 務 充 実 をもとにし ている この 場 合 自 律 的 な 達 成 欲 求 を 持 つ 人 間 に 対 して 組 織 設 計 上 決 定 する 権 限 を 与 え ることでやる 気 につなげる というアイデアだ
したがって 達 成 欲 求 を 誘 導 する 仕 組 みのな い 我 が 国 に 導 入 されると 責 任 はやる 気 とはな らず 個 人 に 与 えられた 明 確 な 組 織 課 題 ノル マとなり 管 理 するものという 理 解 になる 7 産 業 能 率 大 学 総 合 研 究 所 日 本 経 営 協 会 日 本 総 研 日 本 医 療 労 働 組 合 連 合 会 など 多 く の 組 織 でMBOがノルマ 管 理 にならないように 注 意 を 払 っている MBOの 事 例 から 多 くを 学 ぶこ とができる
Ⅳ.むすび 以 上 雇 用 制 度 は 個 人 の 欲 求 構 造 などに 一 致 している 日 米 では 異 なる 組 合 わせ 制 度 と 個 人 の 欲 求 構 造 の 組 み 合 わせを 持 っているこ とになる したがって 単 純 に 制 度 面 だけに 注 目 して 変 更 を 行 うことは 強 さを 殺 し 不 安 を 広 げること になる
注 1. 日 本 国 政 府 規 制 改 革 実 行 計 画 2013 年 6 月 14 日 1 頁 参 照 2. 雇 用 WGの 座 長 鶴 光 太 郎 職 務 限 定 の 正 社 員 がカギ 日 本 経 済 新 聞 2013 年 5 月 19 日 9 頁 でそのように 述 べている 3. 日 本 国 政 府 規 制 改 革 会 議 雇 用 ワーキング グループ 報 告 書 2013 年 参 照 4.Yahoo みんなの 政 治 では 7 月 31 日 には 賛 成 981(23%) 反 対 2980(70%) 他 290(7%)となった 5.ロビンス(2005)は 組 織 行 動 の 中 でそう 述 べている 6. 大 平 (2006)は 日 本 人 の 横 並 び 行 動 の 分 析 を 通 し 個 別 合 理 的 な 判 断 ではなく 状 況 に 価 値 を 参 照 して 決 定 をおこなって いることを 明 らかにしている 7. 東 京 電 力 技 術 開 発 研 究 所 職 員 からの 聞 き 取 り 2008 年 11 月 2 日
参 考 文 献 Herzberg,F.,B.Mausner,and B.Snyderman,The Motivation to Work,Wiley,1959. Robbins,S.P.,Essentials of Organizational Behavior,8 th Edition,Prentice Hall,2005. 新 版 入 門 から 実 践 まで 組 織 行 動 のマネジメント ダイヤモンド 社 2009 年 青 木 昌 彦 奥 野 正 寛 編 著 経 済 システムの 比 較 制 度 分 析 東 京 大 学 出 版 会 1996 年 東 洋 柏 木 恵 子 R.D.ヘス 母 親 の 態 度 行 動 と 子 供 の 知 的 発 達 日 米 比 較 研 究 東 京 大 学 出 版 会 1981 年 大 平 義 隆 組 織 と 個 人 松 本 芳 男 編 著 経 営 組 織 の 基 本 問 題 八 千 代 出 版 2003 年 大 平 義 隆 わが 国 組 織 への 人 間 モデルと 意 思 決 定 における 参 照 行 動 の 検 討 大 平 義 隆 編 著 変 革 期 の 組 織 マネジメン ト 同 文 館 出 版 2006 年 工 藤 達 男 奥 村 経 世 大 平 義 隆 現 代 の 経 営 管 理 論 学 文 社 1992 年