トピック 発 達 と 教 育 第 4 回 3 歳 までは 母 親 の 手 で という 神 話 担 当 : 清 水 由 紀 (Yuki SHIMIZU) 1. 愛 着 とは 2. 3. ホスピタリズムとマターナル デプリベーション 4. 愛 着 理 論 と3 歳 児 神 話 5. 愛 着 の 世 代 間 伝 達 愛 着 (attachment)とは Bowlby(1969) 愛 着 とは ( ) 人 間 の 赤 ちゃんが 特 定 の 個 人 を 求 めるのは 生 存 上 の 適 応 的 価 値 が 大 きい 行 動 出 典 : やさしい 教 育 心 理 学 有 斐 閣 アルマ 愛 着 の 発 達 ) (internal working model) (ボウルビィ) 養 育 者 と 日 常 的 に 相 互 作 用 を 繰 り 返 す 養 育 者 に 対 する 応 答 可 能 性 利 用 可 能 性 自 分 自 身 が 応 答 されうるということの 予 見 と 確 信 を 持 つようになる 応 答 的 な 養 育 者 応 答 されうる 自 分 という 表 象 モデルを 持 つ 場 合 に 子 どもは 安 定 した 愛 着 を 形 成 出 典 : やさしい 教 育 心 理 学 有 斐 閣 アルマ 1
ストレンジ シチュエーション 法 出 典 : 発 達 心 理 学 への 招 待 - 人 間 発 達 の 全 体 像 を 探 る 矢 野 喜 夫 落 合 正 行 著 サイエンス 社 出 典 : 発 達 心 理 学 の 新 しいかたち )(Secure) 親 が 部 屋 から 出 て 行 くときには それを 止 めよう とする 親 がいない 間 は 泣 く あるいはぐずり 見 知 らぬ 他 者 の 女 性 の 慰 めを 少 しは 受 け 入 れる 親 が 戻 ってくると 喜 んで 迎 え 親 に 抱 かれるか あるいは 接 触 を 受 けると 落 ち 着 く そして またお もちゃで 遊 びだし 親 との 相 互 作 用 をする 安 定 型 の 親 の 特 徴 子 どもの 欲 求 や 状 態 の 変 化 に 敏 感 子 どもの 行 動 を 過 剰 に 統 制 しようとすることが 少 ない 子 どもとの 相 互 作 用 は 調 和 的 であり 親 の 方 も 楽 しんでいることが 多 い 遊 びや 身 体 的 接 触 も 子 どもに 適 した 快 適 さで 行 う )(Avoidant) 親 との 分 離 に 際 して 抵 抗 したり 泣 いたりしない 親 がいない 間 も 泣 くことはない 見 知 らぬ 女 性 ともある 程 度 の 相 互 作 用 が 起 こる 親 が 戻 ってきたときに 親 を 喜 んで 迎 えるという 行 動 を 取 らず ドアの 方 をちらっと 見 る 程 度 でそ のまま 遊 び 続 ける 回 避 型 の 親 の 特 徴 全 般 的 に 子 どもの 働 きかけに 対 して 拒 否 的 に 振 舞 うことが 多 い 特 に 子 どもが 愛 着 要 求 を 出 したときに 拒 否 する 傾 向 が 強 い 子 どもに 微 笑 んだり 身 体 的 に 接 触 したりすること が 少 ない 子 どもの 行 動 を 強 く 統 制 しようとする 関 わりが 相 対 的 に 多 く 見 られる 2
)(Ambivalent) 親 が 部 屋 から 出 て 行 くときには 泣 いて 止 めようと する 親 がいない 間 も 泣 きが 激 しいので 分 離 時 間 が 短 縮 されて 親 はすぐに 戻 ってくる 親 を 迎 えるが 親 が 抱 くと 怒 って 下 へおろせという 表 示 をするが おろすと 抱 けという 表 示 をする ど ちらともつかない 行 動 情 動 的 な 動 揺 はほとんど 収 まらないので そのま ま 親 に 接 触 している 状 態 が 続 く アンビバレント 型 の 親 の 特 徴 子 どもの 信 号 に 対 する 応 答 性 感 受 性 が 相 対 的 に 低 く 子 どもの 状 態 と 適 切 に 調 整 することが 不 得 意 応 答 に 一 貫 性 がない 子 どもとの 間 で 肯 定 的 なやり 取 りがある 時 もあるが それはこどもの 欲 求 にあわせたというよりも 親 の 気 分 や 都 合 に 合 わせたものであることが 多 い )(Disorganized) 上 の3タイプに 分 類 不 能 なタイプ 養 育 者 への 近 接 に 矛 盾 した 不 可 解 な 行 動 を 見 せる 親 が 戻 ってきた 場 面 に 後 ずさる 床 に 腹 ばいになり 動 かない 突 然 のすくみ 場 違 いな 行 動 親 に 対 す る 怯 えなどを 見 せる 近 接 したいのか 回 避 したいのか 分 からない どっち つかずの 状 態 が 長 く 続 いたりする 無 秩 序 無 方 向 型 の 親 の 特 徴 子 どもにとって 理 解 不 可 能 な 行 動 を 突 然 とることが ある 例 えば 結 果 として 子 どもを 直 接 虐 待 するような 行 為 であったり 訳 の 分 からない 何 かに 怯 えているよ うな 行 動 など 子 どもにとって 訳 の 分 からない 行 動 様 子 は 子 ど もに 恐 怖 感 をもたらす そのため 子 どもにはなす すべがなく 混 乱 する アンビバ レント 型 15% 回 避 型 20% 安 定 型 65% 注 :アメリカの 中 流 階 級 の 子 どもが 対 象 Thompson (1998)より 作 成 無 秩 序 無 方 向 型 :5% 以 下 ホスピタリズム(hospitalism) 1930 年 代 ころ 施 設 入 所 児 の 精 神 発 達 や 人 格 発 達 の 問 題 が 指 摘 される スピッツによる 研 究 症 状 として 挙 げられたもの [1] 発 達 の 遅 滞 (1) 身 体 発 育 の 不 良,(2) 知 能 の 発 達 の 遅 滞,(3) 情 緒 発 達 の 遅 滞 および 情 緒 不 安 定,(4) 社 会 性 の 発 達 の 遅 滞 [2] 神 経 症 的 傾 向 指 しゃぶり, 爪 噛 み, 夜 尿, 遺 尿, 夜 泣 き, かんしゃくなどの 神 経 性 習 癖 と 睡 眠 不 良 [3] 対 人 関 係 (1) 接 触 の 希 薄 さ, 協 調 性 の 欠 如, 孤 独 および 過 剰 な 他 人 へ の 注 意 喚 起,(2) 自 発 性 の 欠 如 と 依 存 性,(3) 攻 撃 的 傾 向,(4) 逃 避 的 傾 向 3
( ) (maternal deprivation) ボウルビイ(1961):ホスピタリズムの 考 えを 発 展 さ せて 体 系 化 母 子 関 係 の 相 互 作 用 の 重 要 性 を 主 張 乳 幼 児 と 母 親 (あるいは 生 涯 母 親 の 役 割 を 演 ずる 人 物 )との 人 間 関 係 が 親 密 かつ 継 続 的 で しかも 両 者 が 満 足 と 幸 福 感 に 満 たされるような 人 間 関 係 が 精 神 衛 生 の 基 礎 である マターナル デプリベーション (maternal deprivation) 生 後 3カ 月 ~12カ 月 の 期 間 の 良 好 な 母 子 関 係 が そ の 後 の 人 格 形 成 や 精 神 衛 生 の 基 盤 になることを 指 摘 この 時 期 の 母 子 相 互 作 用 の 欠 如 を マターナル デプ リベーション と 呼 んだ この 概 念 は 当 初 は( )として 使 用 されていたが しだいにその 用 途 が 広 げられ 早 期 の 養 育 環 境 の 問 題,さらに 心 理 的 な 遮 断, 環 境 遮 断, 感 覚 遮 断, 文 化 遮 断, 社 会 的 遮 断, 情 緒 的 遮 断 といった 用 語 が 用 いられるようになった 愛 着 のタイプとその 後 の 発 達 回 避 型 に 分 類 された 子 は 後 の 幼 児 期 の 仲 間 関 係 で うまくいかず それがさらに 助 長 されると 非 行 などの 問 題 行 動 を 起 こしやすい(Schwarzら,1974) アンビバレント 型 の 子 は 他 児 の 注 意 を 引 こうとしたり 衝 動 的 で 欲 求 不 満 になりやすかったりする 一 方 受 身 で 従 属 的 な 態 度 も 取 り それが 他 の 子 どもからの 攻 撃 や 無 視 を 高 める(Renkenら,1980) 愛 着 理 論 と 3 歳 児 神 話 ホスピタリズム (Spitz) マターナル デプリベーショ ン (Bowlby)から 派 生 した( ) 母 子 関 係 の 連 続 性 が, 一 時 的 であっても 中 断 すると 安 定 した 心 理 的 絆 はつくれないという 考 え 昼 間 または 長 時 間 母 子 が 分 離 されると 心 身 の 発 達 に 深 刻 な 影 響 が 出 る 母 親 との 愛 着 形 成 が 子 どもの 安 定 的 な 発 達 に 欠 かせない 3 歳 前 に 保 育 所 に 預 けるなんて どう 考 えますか? 愛 着 理 論 と 3 歳 児 神 話 ボウルビィの 愛 着 理 論 への 批 判 初 期 の 段 階 での 母 親 との 親 密 な 関 係 の 構 築 が 後 の 心 理 的 安 定 のための 唯 一 の 手 段 という 書 き 方 に 対 する 批 判 ラター(1971,1981): マターナル デプリベーション と いう 名 づけ 方 に 対 する 批 判 問 題 なのは 最 初 から 適 切 な 養 育 そのものがなかっ たこと 以 前 にあったものが 剥 奪 されることではない しかし という 言 葉 が 独 り 歩 きを 始 める 日 本 では 1960 年 代 からボウルビイの 研 究 を 証 拠 と して 3 歳 児 神 話 が 出 現 近 年 の 愛 着 研 究 における 議 論 母 さえいえれば 子 どもの 愛 着 がうまく 育 つというわけ ではない 重 要 なのは 関 わりの( ) (van Ijzendoorn ら,1992) 子 どもにとって 継 続 的 に 関 わる 複 数 の 大 人 のネットワー クの 中 で 複 数 の 愛 着 を 築 くことが 重 要 12ヶ 月 の 段 階 で 父 母 と 保 育 者 の 三 者 へのアタッチメントが 安 定 型 であった 子 ども 5 歳 児 の 段 階 で 最 も 社 会 的 な 発 達 が 良 かった(Oppenheim ら,1988) 保 育 者 と 安 定 的 な 愛 着 関 係 を12ヶ 月 のときに 形 成 した 子 ども 9 歳 までの 間 に 幼 稚 園 や 小 学 校 で 仲 間 や 教 師 との 関 係 を うまく 作 っている(Howes ら,1998) 4
近 年 の 愛 着 研 究 における 議 論 保 育 所 へ 通 うことは 別 離 と 再 会 を 繰 り 返 すこと 母 性 剥 奪 とは 異 なる(Sroufe,1998) 保 育 所 の 質 が 悪 いと( 保 育 者 1 人 あたりの 子 どもの 数 が 多 いなど) 子 どもの 親 との 愛 着 が 不 安 定 傾 向 になる (NICHED,1997; Sagiら,2002) オーストラリアでの 保 育 所 保 育 研 究 Hariison&Ungerer(2002): 母 親 の 就 労 や 保 育 と 愛 着 の 関 係 縦 断 研 究 第 一 子 を 妊 娠 中 の145 名 の 母 親 を1 年 間 追 う 出 産 後 4ヶ 月 時 : 母 子 相 互 作 用 の 検 査 12ヶ 月 時 :ストレン ジ シチュエーション 法 による 愛 着 の 測 定 出 典 : 発 達 心 理 学 の 新 しいかたち 誠 心 書 房 安 定 型 の 親 : 早 期 に 仕 事 に 復 帰 した 母 親 が 多 い 出 産 前 の 態 度 ( 仕 事 へのコミットメント 保 育 所 を 使 うことでの 低 不 安 ) 復 帰 のタイミング(5ヶ 月 未 満 )の2 要 因 が 子 どもの 愛 着 の 安 定 化 へ 有 意 に 寄 与 専 業 主 婦 は 育 児 のストレスや 孤 立 感 などの 心 身 の 不 全 感 が 高 かった 愛 着 理 論 と 3 歳 児 神 話 まとめ 愛 着 理 論 は 養 育 者 と 子 どもとの 関 係 性 の 理 論 ではない 母 親 でなくても 継 続 的 に 子 どもの 養 育 に 関 わ る 者 が 子 どもの 愛 着 要 求 に 適 合 的 な 関 わりを 行 えば 子 どもは 安 定 した 愛 着 を 発 達 させる 感 受 性 を 豊 かにするトレーニングを 受 けた 保 育 者 に 保 育 された 子 どもの 方 が トレーニングを 受 けな かった 保 育 者 に 保 育 されている 子 どもに 比 べて 保 育 者 との 間 で 愛 着 が 安 定 型 になった (Howes&Smith,1995) 愛 着 形 成 に 臨 界 期 はあるか? Schaffer (1963) 仮 説 : 社 会 的 相 互 交 渉 の 少 ない 乳 児 はコミュニケー ション 技 能 が 形 成 できない 対 象 A 群 : 人 手 の 少 ない 施 設 群 ( 社 会 的 相 互 交 渉 ; 貧 弱 ) B 群 : 人 手 が 十 分 な 施 設 ( 社 会 的 相 互 交 渉 ; 多 い) 結 果 : 帰 宅 後, 愛 着 形 成 の 時 期 を 比 較 したところ, 人 見 知 り 出 現 までにA 群 はB 群 の2 倍 の 期 間 を 要 した A 群 は0から 開 始 しなくてはならない B 群 は 施 設 での 経 験 を 活 用 できた 愛 着 は 遅 れても 取 り 戻 せる =( ) 愛 着 の 世 代 間 伝 達 愛 されずに 育 った 私 は 子 どもの 愛 せない 親 になる という 考 え 必 ずしも 正 しくない 早 期 の 愛 着 経 験 +その 後 の 他 の 関 係 性 における 愛 着 経 験 現 在 の 親 の 愛 着 表 象 を 形 成 さらに 社 会 的 文 脈 や 子 どもの 特 性 と 相 互 作 用 して 特 定 の 養 育 行 動 をとらせる それに 影 響 を 受 けて 子 どもの 愛 着 経 験 が 形 成 され ていく 現 在 の 親 の 愛 着 表 象 現 在 の 親 の 愛 着 表 象 が 子 どもの 現 在 の 状 態 に 影 響 を 与 える 5