解 説 液 式 湿 度 制 御 空 調 について < 機 器 の 特 徴 と 効 果 用 法 > ダイナエアー 宮 内 彦 夫 Hikoo Miyauchi ABSTRACT 多 機 能 大 出 力 の 液 式 調 湿 機 の 登 場 によって< 湿 制 御 空 調 >が 一 般 空 調 でも 利 用 可 能 になりつ つあるが 単 に 一 外 調 機 として 設 置 するのではなく 総 合 的 な 空 調 システムの 構 築 と 運 用 こそが 大 きな 効 果 を 発 揮 する 1. はじめに 所 謂 デシカント 空 調 機 は 度 々 話 題 性 を 提 供 しながらさほどの 広 がりを 見 せていないのが 実 情 である これは 熱 力 学 的 空 調 機 器 の 多 い 中 で 化 学 的 吸 収 吸 着 作 用 という 物 珍 しさ(Closed Cycle Desiccant= 吸 収 式 は 別 として)がある 一 方 で 一 部 排 熱 利 用 を 除 いては 固 体 除 湿 剤 の 再 生 ( 乾 燥 ) に 大 きなエネルギーが 必 要 なこと 除 湿 単 能 であること 除 湿 能 力 ( x)がさほど 大 きくない こと 除 湿 した 分 凝 縮 熱 と 吸 収 吸 着 熱 が 発 生 し 高 温 給 気 となること 大 きくて 設 置 性 に 難 が あることなどが 災 いしているものと 思 われる 排 熱 利 用 形 態 を 主 旨 として 先 進 する 米 国 において も 97 年 に 始 まった DOE(エネルギー 庁 ) 主 導 の Advanced Desiccant Cooling & Dehumidification (デシカント 冷 却 除 湿 普 及 プログラム 04 終 了 済 み)は 2010 年 全 米 空 調 の 35%を 目 標 普 及 率 と しながら 05 年 時 点 で 推 定 1.2%に 留 まっている 最 近 原 油 価 格 が 高 騰 しコジェネなどの 排 熱 源 が 普 及 し 難 い 中 でより 厳 しい 状 況 が 続 くと 思 われる 2. 開 発 に 至 る 経 緯 空 調 環 境 は 近 年 VOC 対 策 など 室 内 環 境 の 向 上 を 目 指 して 換 気 規 定 が 改 正 される 一 方 で 地 球 温 暖 化 対 策 やエネルギーコストの 上 昇 を 抑 えなければならないといった 矛 盾 する 命 題 を 抱 えなが ら 至 急 の 同 時 解 決 が 求 められている 一 般 的 に 空 調 エネルギーの 最 も 大 きな 負 荷 は 外 気 の 湿 度 ( 潜 熱 )であり 仮 に 室 内 に 取 り 入 れられる 外 気 の 絶 対 湿 度 が 年 間 7~10g/kg のレンジで 一 定 で 外 調 機 自 体 がエネルギーをさほど 消 費 しないで 実 現 するなら 空 調 負 荷 は 激 減 し 同 時 に 大 量 の 換 気 によって 室 内 空 気 質 は 向 上 する しかし こうした 換 気 空 調 方 式 は 現 在 まで 高 度 な 清 浄 管 理 を 求 められるクリーンルームなど 極 一 部 に 大 きなコストをかけて 設 置 運 転 されるのみであった 液 体 調 湿 剤 を 使 用 する 換 気 装 置 ( 外 気 調 和 機 )はコンベンショナルな 過 冷 却 再 熱 式 や 固 体 除 湿 剤 ロータ 式 ( 乾 ロータ 式 )に 代 わって 一 般 空 調 に 外 気 調 和 空 調 を 普 及 させるポテンシャルを 持 って いる 液 体 除 湿 剤 = 塩 化 リチウム(LiCl) 水 溶 液 を 使 う 除 湿 装 置 は 100 年 に 及 ぶ 歴 史 があり そ の 吸 湿 ポテンシャルは 大 きいが 液 自 体 の 持 つ 腐 食 性 の 高 さ 飛 散 の 恐 れから 固 体 除 湿 剤 ロータ
式 除 湿 機 の 登 場 とともに 衰 退 した 経 緯 がある この 間 有 機 素 材 関 係 冶 金 技 術 の 進 歩 があって 再 び 登 場 を 可 能 ならしめたと 言 える 3. 液 式 機 の 原 理 特 徴 等 1 調 湿 剤 塩 化 リチウム(LiCl)20~40wt% 水 溶 液 を 使 用 する 腐 食 性 が 高 いためかつては 防 錆 剤 として 重 金 属 類 が 添 加 されたことがあり 有 毒 説 の 根 拠 となっているが 塩 化 リチウムそのものに 毒 性 は なく 食 品 添 加 物 としての 用 途 が 多 いことからもそれが 推 察 される 2 構 造 処 理 空 気 出 口 再 生 空 気 出 口 補 助 ヒータ 溶 液 クーラー 溶 液 ヒーター B 処 理 空 気 入 口 ( 外 気 ) 充 填 材 溶 液 ポンプ 充 填 材 再 生 空 気 入 口 ( 外 気 or 還 気 ) 処 理 機 液 - 液 熱 交 換 器 再 生 機 第 1 図 第 1 図 は 本 機 ( 液 式 調 湿 機 )の 基 本 構 造 である 除 湿 加 湿 両 用 であり 除 湿 時 は 処 理 側 にお いて 溶 液 (LiCl)を 冷 却 し 再 生 側 において 溶 液 を 加 熱 する その 後 それぞれ 取 り 入 れ 空 気 と 熱 交 換 を 行 い 給 気 排 気 を 行 う 固 体 除 湿 剤 ロータ 式 と 異 なり 処 理 再 生 の 運 転 は 必 ずしも 同 期 しな い 気 液 熱 交 換 の 際 は 液 飛 沫 同 伴 (キャリーオーバー)を 防 ぐため 散 布 によるのではなく 親 水 性 の 充 填 材 を 用 い 間 接 的 な 空 気 接 触 としている 加 湿 時 は 溶 液 クーラ ヒータが 逆 転 し 外 気 か ら 吸 湿 を 行 うが 大 量 加 湿 の 場 合 市 水 給 水 等 で 加 湿 水 を 補 填 する 本 機 の 設 置 に 関 しては 処 理 再 生 機 分 離 設 置 が 可 能 であり 複 数 処 理 機 に 再 生 機 1 台 といった 配 置 も 可 能 である 3 特 性
除 湿 冷 却 加 湿 冷 却 SA 加 湿 加 熱 除 湿 加 熱 第 2 図 第 2-1 図 第 2 図 は 外 気 除 湿 処 理 における 空 気 の 入 口 出 口 変 化 を 現 したものである 他 方 式 に 比 べ 冷 却 と 加 熱 を 繰 り 返 すことがなく 最 短 距 離 でプロセスを 行 っている 過 冷 却 再 熱 式 固 体 除 湿 剤 ロー タ 式 ( 乾 ロータ 式 )に 対 比 した 基 本 エネルギー 効 率 は 約 2 倍 である デシカント 機 の 用 法 についてはこれまで 様 々 議 論 のあるところであるが 外 気 をワンパスで 給 気 レベルに 処 理 するという 際 立 った 特 徴 を 生 かすには 外 気 処 理 運 用 が 向 いていると 言 えよう 第 2-1 図 は 空 気 線 図 上 の 外 気 ( 吸 気 ) 状 態 と 本 機 の 給 気 状 態 の 指 向 特 性 を 表 したものである 液 温 度 と 濃 度 が 一 定 ならば 熱 源 補 給 が 続 く 限 り 給 気 は 常 に 一 定 であり 続 けようとする 4 駆 動 熱 源 データ 採 取 日 12/August 計 測 期 間 JYOG 運 転 4 時 間 後 均 衡 時 5h 平 均 処 理 平 均 風 量 CMH 1503 入 口 エンタルピ kcal /kg 18.5 平 均 処 理 入 口 温 度 32.3 出 口 エンタルピ kcal /kg 9.21 平 均 処 理 入 口 AH g/kg 18.8 処 理 出 力 kw 19.5 平 均 処 理 出 口 温 度 22.2 平 均 処 理 冷 熱 投 入 量 10.6 kw 17.9 平 均 処 理 出 口 AH g/kg 6.4 出 力 / 入 力 1.09 除 湿 量 x g/kg 12.4 再 生 平 均 風 量 CMH 1701 入 口 エンタルピ kcal /kg 18.5 平 均 再 生 入 口 温 度 32.3 出 口 エンタルピ kcal /kg 24.7 平 均 再 生 入 口 AH g/kg 18.8 再 生 出 力 kw 14.7 平 均 再 生 出 口 温 度 42.6 平 均 再 生 温 熱 投 入 量 49.6 kw 15.9 平 均 再 生 出 口 AH g/kg 23.4 出 力 / 入 力 0.937 気 化 排 出 量 x g/kg 4.6 処 理 再 生 合 計 COP = 19.5kw/(17.9+15.9)= 0.58 第 3 図 第 3 図 は 1500CMH 級 のユニットで 採 取 した 5h 平 均 除 湿 運 転 データである 再 生 温 度 が 50 と いう 低 温 熱 にも 拘 わらず x12.4g/kg と 大 きな 除 湿 能 力 を 示 している 冷 熱 側 も 結 露 点 95%RH- 8.3 対 して 受 給 冷 熱 平 均 温 度 は 10.6 と 高 温 である これらの 特 性 は 低 温 温 熱 高 温 冷 熱 の 利
用 に 適 しているといえる 多 種 熱 エネルギー 利 用 の 一 例 としてヒートポンプを 内 蔵 熱 源 とした 場 合 冷 温 熱 の 双 方 利 用 に 加 え 温 度 差 は 小 さなものとなり 所 謂 汲 み 上 げ 温 度 差 の 少 ない 高 効 率 運 転 が 期 待 できる 10 数 年 前 から 固 体 除 湿 剤 ロータ 式 でも 同 様 なものが 登 場 しているが 除 湿 剤 の 基 本 特 性 は 変 わらないので 効 率 には 大 きな 開 きがある 一 部 採 取 された 本 機 のフィール ドデータによれば 補 機 を 含 めた 総 合 効 率 COP はピーク 負 荷 時 3.5 平 均 負 荷 時 5.5 前 後 と 記 録 さ れている 5 多 機 能 性 10,000 CMH 外 調 液 式 デシカント 仕 様 過 冷 却 方 式 容 量 乾 ロータ 方 式 容 量 本 体 価 格 23,000 AHU 再 生 熱 ヒータ 搭 載 ヒートポンプ 内 蔵 式 機 能 部 材 機 能 部 材 除 湿 x= 12g/kg 0-5 冷 凍 機 kw 137 7-12 冷 凍 機 kw 268 再 熱 温 水 ヒータ kw 65 加 湿 x= 5.2g/kg 間 接 スチーム kg/h 62 間 接 スチーム kg/h 62 純 水 器 kg/h 62 純 水 器 kg/h 62 再 冷 却 t= 10 冷 却 コイル kw 85 冷 凍 機 は 上 記 合 算 加 熱 t=19.2 温 水 コイル kw 65 温 水 コイル kw 65 温 水 ヒータは 上 記 合 算 温 水 ヒータは 上 記 合 算 除 塵 率 比 色 法 90% 中 性 能 フィルタ m3/h 10,000 中 性 能 フィルタ m3/h 10,000 除 臭 率 比 色 法 90% オゾナイザー m3/h オゾナイザー m3/h 除 菌 率 比 色 法 90% 上 記 同 上 記 同 設 置 工 事 価 格 指 数 1 0.72 1.03 第 4 図 第 4-1 図 第 4 図 は 本 機 が 併 せ 持 つ 7 つの 機 能 を 従 来 型 外 調 機 と 比 較 したものである 従 来 型 外 調 機 はほ ぼ 除 湿 単 能 であるので 機 能 毎 に 機 能 機 器 を 付 加 しなければならない したがって 7 種 の 機 能 がす べて 必 要 な 場 合 は 本 機 が 黎 明 期 であることを 前 提 としても 割 安 な 機 器 と 言 える 特 に 加 湿 機 能 は 調 湿 の 根 幹 をなす 一 方 の 機 能 であり 加 湿 品 質 は 間 接 スチーム 方 式 に 匹 敵 する 医 療 関 係 現 場 で はインフルエンザの 危 険 性 を 回 避 ( 第 4-1 図 )する 面 からむしろ 除 湿 性 能 より 冬 季 加 湿 機 能 に 対 する 評 価 が 高 い 本 機 の 持 つ 多 機 能 性 は 機 能 部 材 追 加 によるものではなく 単 一 構 造 による 多 機 能 性 であるため 機 内 圧 力 損 失 が 15kpa 前 後 と 小 さく 従 来 型 外 調 機 器 に 比 べて 送 風 動 力 は 1/2 以 下 で 送 液 ポンプを 含 めても 補 機 動 力 は 小 さい 6 伝 熱 特 性
7/21-8/16 4 週 間 店 内 状 況 ( 夜 間 停 止 ) 70 60 %RH 50 40 30 C.アイル 温 度 C.アイル 相 対 湿 度 %RH レジ 周 囲 温 度 レジ 周 囲 相 対 湿 度 %RH 20 10 0 2007/07/21 13:00'00 2007/07/22 08:40'00 2007/07/23 04:20'00 2007/07/24 00:00'00 2007/07/24 19:40'00 2007/07/25 15:20'00 2007/07/26 11:00'00 2007/07/27 06:40'00 2007/07/28 02:20'00 2007/07/28 22:00'00 2007/07/29 17:40'00 2007/07/30 13:20'00 2007/07/31 09:00'00 2007/08/01 04:40'00 2007/08/02 00:20'00 2007/08/02 20:00'00 2007/08/03 15:40'00 2007/08/04 11:20'00 2007/08/05 07:20'00 2007/08/06 03:00'00 2007/08/06 22:40'00 2007/08/07 18:20'00 2007/08/08 14:00'00 2007/08/09 09:40'00 2007/08/10 05:20'00 2007/08/11 01:00'00 2007/08/11 20:40'00 2007/08/12 16:20'00 2007/08/13 12:00'00 2007/08/14 07:40'00 2007/08/15 03:20'00 2007/08/15 23:00'00 日 時 第 5 図 第 5 図 は 寒 冷 地 に 所 在 する 容 積 約 12,000m 3 の 食 品 店 舗 空 間 における 冷 凍 冷 蔵 ショーケース 周 り=コールドアイルと 一 般 売 場 の 温 湿 度 の 記 録 である 当 該 店 では 本 機 による 外 調 6,000CMH 給 気 箇 所 1 箇 所 の 他 室 内 冷 暖 房 設 備 としてエアコン 計 120kw=0.04kw/m2が 天 井 10 箇 所 に 装 備 されている 合 計 換 気 空 調 風 量 は 約 32,000CMH である 在 来 空 調 に 比 較 してエアコン 能 力 換 気 空 調 全 風 量 ともに 約 30%の 設 備 規 模 である この 条 件 にも 拘 らずコールドアイルと 一 般 売 場 の 温 湿 度 に 大 きな 乖 離 はない 潜 熱 顕 熱 ともに 対 流 に 依 らず 伝 播 した 一 例 証 である 4. おわりに デシカント 空 調 はこれまで 単 なる 除 湿 空 調 と 解 され 除 湿 機 的 な 運 用 が 多 く 行 われてきた 本 機 ( 液 式 調 湿 機 )は 数 例 の 現 場 実 証 と 製 品 化 が 行 われた 段 階 であるが 重 要 なことは 機 器 そのも のより 冷 暖 室 内 条 件 の 変 更 換 気 方 式 吸 給 気 位 置 レイアウト 冷 暖 能 力 設 定 多 角 的 な 熱 源 選 択 利 用 等 系 統 的 なシステム 構 築 運 用 によって 初 めて< 液 式 湿 度 制 御 空 調 >の 真 価 が 発 揮 される 点 にあると 思 う そのためには 一 メーカ 単 独 単 品 でなせることではなく 例 えば 蒸 発 温 度 を 上 げた 顕 熱 処 理 型 高 効 率 エアコン 等 の 登 場 が 待 たれる デシカント 母 国 (スウェーデンかアメリカか 微 妙 なところ)に 対 して 将 来 日 本 発 調 湿 外 調 方 式 が 発 信 されることを 期 待 したい < 参 考 文 献 > (1) GJ Harper : Air-bone micro-organisms: survival test with four viruses. J Hyg Camb 1961;59:479-86
(2) 原 田 誠 三 郎 庄 司 眞 他 :2001 年 から2002 年 の 大 館 市 及 び 秋 田 市 における 絶 対 湿 度 とインフ ルエンザ 流 行 に 関 する 調 査 研 究 感 染 症 学 雑 誌 第 78 巻 第 5 号 (3) August1999/Revised June2000 DOE/G 10099-873 (4) 名 倉 宏 明 奥 宮 正 哉 他 : 病 室 環 境 と 空 調 システムに 関 する 研 究 (その2) 平 成 17 年 中 部 衛 生 工 学 会 発 表 論 文 (5) 稲 垣 勝 之 齋 藤 潔 他 :Licl 水 溶 液 を 用 いた 開 放 型 吸 収 式 除 湿 機 の 性 能 評 価 ( 第 一 報 )C-116-1 (6) 柚 元 玲 田 中 辰 明 :(B-7)リキッドデシカント 空 調 機 による 浮 遊 真 菌 除 去 効 果 平 成 18 年 第 24 回 空 気 清 浄 とコンタミネーション 研 究 大 会 発 表 論 文