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ASEAN におけるカーボンニュートラルの現状 NRI Consulting & Solutions Thailand Co., Ltd. Consulting Division Service & Infrastructure Group 杉本 慎弥 a Consultant 小林 俊也 b Manager Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd. Consulting Division, Business Transformation Department Department Head 1 劉 泰宏 c はじめに 2021 年 11 月 13 日 英 国 北 部 グ ラ ス ゴ ー に て 第 26 回国連気候変動枠組み条約締約国会議 2 ASEAN におけるカーボンニュートラル政策と 注力分野 1 ASEAN での目標比較 COP26 が当初の会期を 1 日延長する形で閉幕し CO2 の排出量が世界各国で増加する中 ASEAN た 本会議では石炭火力発電の削減を各国に呼び掛 においても世界全体に占める割合は小さいものの ける文言を盛り込んだ グラスゴー気候合意 を採 CO2 の排出量が増えてきており 環境政策の取り組 択 協定内では 世界の気温上昇を 1.5 度 に抑え みを推進する機運が高まっている 図表 1 る努力の追求を改めて強調し また 地球温暖化対 現在 シンガポール タイ マレーシア インド 策の国際合意 パリ協定 の運用ルールのうち 積 ネシア フィリピン ベトナム ASEAN 主要 6 カ み残されていた温室効果ガス削減量の国際取引の指 国 では 2030 年までの温室効果ガスの排出量削 針も取りまとめ 一定の成果を見せた 国別の動き 減目標が設定されており カーボンニュートラルに を見ると CO2 排出量で世界 3 位のインドが 2070 ついては一部の国で 50 年以降達成の発言が出てき 年までに温室効果ガスの排出をゼロにする と宣言 ている タイ ベトナム マレーシア政府は 50 年 し驚かせた また 東南アジア諸国連合 ASEAN シンガポール政府は 50 年以降 インドネシア政府 諸国ではタイやベトナムが 2050 年のゼロ目標 は 60 年 を目指すことに言及しており 政策形成 を表明し 先進国と同水準の目標を掲げた に向けた動きが少しずつ見られている 図表 2 本稿では 製造業のサプライチェーンで日本との 温室効果ガス排出削減政策に関する取り組みにつ 関係性も深い ASEAN におけるカーボンニュート いて ASEAN 主要 6 カ国からは独自のグリーン政 ラルの現状と日本の事業機会について論じる 策が打ち出されており エネルギー 製造 交通輸 送などが注力領域として設定されている これらの 政策は シンガポールでは環境政策の所管省庁が インドネシア フィリピン ベトナムでは経済政策 1 の所管省庁が担当しているように 所管省庁が異 なっている つまり シンガポールでは環境対応の

図表 1 世界各国における CO2 排出量の推移 注 GCP データセットに含まれる 統計的差異 はここには含まれない EU は 27 カ国 ASEAN は 10 カ国 出所 Our World in Data based on Global Carbon Project; Gapminder & UN より NRI 作成 図表 2 ASEAN 主要 6 カ国の温室効果ガス排出量削減目標とカーボンニュートラルの現在地 2021 年 11 月末時点 注 BAU Business as Usual 出所 各国政府の Web サイト ニュース記事より NRI 作成 ためのグリーン政策 インドネシア フィリピン 省庁は 環境政策などを所管している Ministry of ベトナムでは経済成長 産業政策のためのグリーン Sustainability and the Environment と な っ て い 政策という位置付けとなっており グリーン政策の る 政策の中で 2030 年までの期間において 環 中で言及される重点成長分野 産業や グリーン政 境に配慮した都市設計やグリーン経済を通じた雇用 策の推進度合いがやや異なっている 次に ASEAN 創出などの五つの重点分野が設定されており 環境 主要 6 カ国のグリーン政策について紹介する 図表 3 対策と経済発展の両立を目指した政策となっている 図表 4 2 ASEAN 主要 6 カ国のグリーン政策 1 環境対策と経済発展の両立を目指すシンガポール シンガポール政府は Singapore Green Plan をグリーン政策として打ち出しており 政策の所管 2 バイオ経済 循環型経済 グリーン経済の並立 2 を目指すタイ タイは近年 大気汚染 PM2.5 の影響を最も受

図表 3 ASEAN 主要 6 カ国におけるグリーン政策と重点分野 出所 各国政府の Web サイト ニュース記事より NRI 作成 図表 4 シンガポールの Singapore Green Plan における五つの重点分野 出所 Singapore Green Plan の Web サイト ニュース記事より NRI 作成 ける国の一つとなっており 気候変動対策は政府の 21 年から 26 年の期間に バイオ経済 循環型経 重要なテーマとなっている また他の ASEAN 諸国 済 グリーン経済の並立を実現した社会を目指して と比較して 農業 バイオ技術に強みがある その おり GDP の 21 を構成する 農業 食品 医療 ような背景のもと タイ政府は 2021 年に Bio- 健康 エネルギー 材料 バイオ科学 観光 ク Circular-Green Economy Model BCG 経 済 モ デ リエーティブ産業 が四つの重要セクターとして設 ル を国家戦略モデルとして発表しており グリー 定されている 図表 5 ン政策の所管省庁は教育 科学技術 イノベーショ ン などの幅広い政策分野を担当する Ministry of Higher Education, Science, Research and Innovation となっている BCG 経済モデルでは 3 グリーン技術を活用した持続可能な成長を目指 3 すマレーシア マレーシア政府は Green Technology Master

図表 5 タイの BCG 経済モデルにおける四つの成長ドライバー 出所 タイ政府の Web サイト ニュース記事より NRI 作成 図表 6 マレーシアの Green Technology Master Plan における重点分野と戦略 出所 マレーシア政府の Web サイト ニュース記事より NRI 作成 Plan を 2017 年 か ら 2030 年 の 期 間 を 対 象 と 4 低炭素技術の活用 環境に配慮したインフラ整 した政策として打ち出しており 所管省庁は エ 備 天然資源の有効活用を目指すインドネシア ネルギー政策などを所管する Ministry of Energy, イ ン ド ネ シ ア 政 府 は The National Green Green Technology and Water Malaysia となって Growth Roadmap を 政 策 と し て 打 ち 出 し て お いる グリーン技術を活用した持続可能な成長を目 り 所管省庁は 経済開発などを所管する Ministry 指しており エネルギー 製造業 交通輸送 建 of National Development Planning と な っ て い 設 廃棄物処理 水 の六つの重点分野における る 低炭素技術の活用 環境に配慮したインフラ整 取り組みを中心として 30 年までに 1,800 億リン 備 天然資源の有効活用を主な成長ドライバーとし ギット 約 5 兆円 の収益 ならびに 20 万人の雇 た 2050 年までの低炭素社会の実現を目指しており 用創出を目指している 図表 6 重点産業として エネルギー 資源 製造業 コ 4 ネクティビティー 再生可能な天然資源 自然資 本による新たな市場 国内排出権取引市場の整備な

図表 7 インドネシアにおける The National Green Growth Roadmap の概要 出所 The National Green Growth Roadmap の Web サイト ニュース記事より NRI 作成 図表 8 フィリピンにおける Philippine Action Plan for Sustainable Consumption and Production の概要 出所 Philippine Action Plan for Sustainable Consumption and Production の Web サイト ニュース記事より NRI 作成 ど を挙げている 図表 7 したグリーンな製品やサービスを活用することによ り 持続可能で環境に配慮したライフスタイルへと 5 持続可能で環境に配慮したライフスタイルへと シフトすることを目指すフィリピン フ ィ リ ピ ン 政 府 は Philippine Action Plan for Sustainable Consumption and Production シフトすることを目指しており 目標達成に向けた 取り組み領域として 政策 規制 研究開発 イ ノベーションテクノロジー インフラ 啓蒙活動 教育 を挙げている 図表 8 PAP4SCP を 2019 年に政策として打ち出してお り 所管省庁は 経済政策などを所管する National Economic and Development Authority となって いる 本政策では フィリピン国民が環境に配慮 6 低炭素社会の実現や自然資本への投資拡大を 5 目指すベトナム ベ ト ナ ム 政 府 は Vietnam Green Growth

図表 9 ベトナムにおける Vietnam Green Growth Strategy の概要 出所 ベトナム政府の Web サイト ニュース記事より NRI 作成 Strategy を 2011 年に政策として打ち出してお 転換および持続可能な未来への開拓を目指すことを り 所管省庁は経済政策などを所管する Ministry 表明しており 企業として 2050 年までにカーボン of Planning and Investment となっている 低炭 ニュートラルを達成することを目標に掲げている 素社会の実現や自然資本への投資拡大を主な目標と 図表 10 して掲げており 低炭素成長 グリーンな生産 ラ アクションとしては カーボンゼロ燃料 製品 イフスタイルのグリーン化 の三つに焦点を当てて ソリューションの開発などに取り組んでおり 産業 おり それぞれの分野において定量目標を設定して 用燃料としての水素事業展開を検討している それ いる 図表 9 以外にも CCUS 炭素回収 利用 隔離 の技術開 発や 再生可能エネルギーの提供などにも取り組ん でおり これらのグリーンソリューションを開発す 3 ASEAN 大手企業の環境に対する取り組み ASEAN 諸国の現地では 特にグローバル展開を 積極的に行う財閥系や大手企業を中心に カーボン るために 日系発電会社の JERA や現地企業とのパー トナリングにより技術や機能の補完を積極的に実施 している ニュートラルやサステナビリティに取り組む企業が 多く出てきている ここでは ASEAN での先行事例 として マレーシアのエネルギー企業ペトロナス タイの財閥企業 CP グループを紹介する 2 CP グループ CP グループは 農林水産業 食品加工業 小売 業など幅広い事業を展開するタイの財閥系コング ロマリット企業である 同社では 長期的な目標 1 ペトロナス として 2050 年までにカーボンニュートラルの達 ペトロナスはマレーシアの国有企業であり 天然 成 および 30 年までにプラスチックパッケージの ガス 石油の調査 製造 取引を手掛ける大手のエ サーキュラーエコノミー実現を目指している 図表 ネルギー企業である 経営トップが エネルギー 11 6

図表 10 ペトロナスのカーボンニュートラル目標 グリーン戦略の概要 出所 ペトロナス Web サイトより NRI 作成 図表 11 CP グループのカーボンニュートラル目標 グリーン戦略の概要 出所 CP グループ Web サイトより NRI 作成 また同社は グループ全体でのサステナビリティ 成している ASEAN 企業の中で スコープ 3 まで 経営を推進しており サーキュラーエコノミーのコ 考慮 言及した環境計画を打ち出している企業は ンセプトも策定している Bio-logical Cycles およ 僅少であるため その点においても CP グループは び Technical Cycles の視点において グループ全 ASEAN の中でも先進的な企業といえる 体ビジネスの循環サイクルのコンセプトを立案して おり 具体的な数値計画が立てられている さらには 温室効果ガス削減の対象範囲を スコー 4 おわりに プ 1 自社直接排出 やスコープ 2 自社間接排出 ここまでは ASEAN 各国における政策トレンド だけでなく スコープ 3 サプライチェーンの上流 と先進企業事例を紹介してきたが 最後に日本に 下流 までを考慮した温室効果ガスの削減計画を作 とっての事業機会について言及する 7

図表 12 各国グリーン政策の重点カテゴリーから見る事業機会マップ 出所 各国政府の Web サイト ニュース記事より NRI 作成 図表 12 に2章で示した各国の政策分析を基に 術やソリューションニーズが高まってくるものと 各国のグリーン政策における重点カテゴリーをビジ 想定されており これらのビジネス領域に関して ネス領域別に示している 各国の重点カテゴリーと は 日本でも技術 商業化実証の段階にあるものの して重複しており 短期的な市場機会の発現が期待 ASEAN 諸国での将来の事業展開に向けた実証実験 される領域としては 洋上風力発電およびその他再 や新分野であるからこその制度設計 規格の標準化 生可能エネルギー 自動車 蓄電池 住宅 建築 次 などの検討支援を現地国政府向けに官民連携の上 世代型太陽光発電など が挙げられる アプローチしていくことが有効と考える これらの領域では 住宅 建築カテゴリーのタイ 例えばタイでは 外資企業のタイ国内での BCG ベトナムを除き おおむねすべての ASEAN 主要 6 ヶ 投資に対するインセンティブ 恩典 設計の動きが 国で重点化がされており 今後も政府による導入目 加速している タイ投資委員会 BOI は 海外企 標の設定や各種支援施策の拡充が期待される マイ 業が高度な技術を持ち込みタイの技術獲得機会が増 クログリッド 1 化や V2G 2 といった複合型のビジ える分 法人税減免の期間が長くなるなどの恩典を ネスモデルの普及などに関しては 各国の電力事業 つくっている BOI は 特にバイオ デジタル ナ 体制の状況などにも依存するため明確な評価は難し いが プロジェクト向けの事業投資や関連機器のイ ンフラ輸出という観点でも 事業機会が顕在化 拡 大するものと考えられる そのほか 中期的には住宅関連のサーキュラーエ コノミー 長期的にはカーボンリサイクル関連の技 1 一定の地域において すべての電力 負荷を分散型電源 発電機 太陽光 風力 地熱などの再生可能エネルギー EV か ら供給する小規模電力系統のこと 2 Vehicle to Grid の略 電気自動車 8 の蓄電池を分散型電 源の一部 蓄電池 として利用する仕組み

ノ技術 先端材料など基幹技術の開発を促進したい と考えており 技術開発事業は最大 10 年間の免税 措置を受けることができる また 日本企業が ASEAN でビジネスを進めてい く上では 先に述べたような現地大手企業とのアラ イアンスや技術提携も有効な手段となる ASEAN ローカル系企業でも ペトロナスや CP グループな ど 大手財閥系や国営系の企業を中心に将来のカー ボンニュートラル目標とそのための戦略を設定し 実現に向けた方策を始めていることは前述の通りで ある ペトロナスが明言しているグリーンアクショ ンとして 水素エネルギーの利活用 CCUS の導入 なども掲げられているが これらの技術は日本のグ リーン戦略においても重点とされているものであ り 日本企業としては技術連携や共同事業化の可能 性が考えられる こ の よ う に ASEAN に お い て も 既 に カ ー ボ ン ニュートラルに関連した政策や法規制の整備 事業 化の動きは顕在化してきており こうした事業機会 を取り込むためには早期の体制構築と事業化検討が 必要と考えられる 筆者 杉本 慎弥 すぎもと しんや NRI Consulting & Solutions Thailand Co., Ltd. Consulting Division Manager 専門は エネルギー 不動産 住宅 イ ンフラ全般およびそれらの市場調査 事 業戦略立案など E-mail: s2-sugimoto@nri.co.jp 筆者 小林 俊也 こばやし としや NRI Consulting & Solutions Thailand Co., Ltd. Consulting Division Consultant 専門は 消費財 小売り サービス 物流 エネルギーおよびそれらに関する市場調 査など E-mail: toshiya.kobayashi@nri.com 筆者 劉 泰宏 りゅう たいこう Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd. Consulting Division, Business Transformation Department Department Head 専門は スマートシティ エネルギー イ 9 ンフラ産業およびそれらの海外事業開発 など E-mail: t-ryu@nri.co.jp 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載 複製を禁じます すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています Copyright 2021 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.