従 属 節 における 丁 寧 体 コピュラの 自 然 さ 統 語 環 境 と 役 割 語 の 濃 淡 Naturalness of Polite Style Copula in Subordinate Clause: Syntactic Circumstances and Strength of Speech Character 乙 武 香 里 ( 神 戸 大 学 大 学 院 生 ) 要 旨 本 発 表 では 話 し 手 らしい 言 葉 づかいと 統 語 の 関 係 を 考 察 する 役 割 語 ( 金 水 2003) としてコピュラ デス を 捉 え 従 属 節 内 のデスの 自 然 さの 観 察 と 分 析 をおこなう このアプローチにより 従 属 節 の 性 質 の 詳 述 が 可 能 となる 分 析 を 通 して 従 属 節 の 独 立 性 を 再 解 釈 し 複 文 を 発 話 行 為 の 単 位 で 捉 えることを 提 案 する キーワード: 日 本 語 文 法 ; 役 割 語 ; 発 話 キャラクタ; 丁 寧 形 コピュラ; 従 属 節 謝 辞 : 本 発 表 は 日 本 学 術 振 興 会 科 学 研 究 費 補 助 金 による 基 盤 研 究 (A) 状 況 に 基 づく 日 本 語 話 しことばの 研 究 と 日 本 語 教 育 のための 基 礎 資 料 の 作 成 ( 課 題 番 号 :23242023, 研 究 代 表 者 : 定 延 利 之 )の 援 助 を 得 ている ここに 記 し 謝 意 を 表 する 1.はじめに 現 代 日 本 語 社 会 には ある 言 葉 づかいが 特 定 の 人 物 像 を 想 起 させる あるいは あ る 人 物 像 が 特 定 の 言 葉 づかいを 想 起 させるという 現 象 がある このような 日 本 語 の 特 徴 は 役 割 語 発 話 キャラクタ ( 定 延 2006; 2011)として 研 究 されている 役 割 語 の 定 義 とは 次 のようなものである ある 特 定 の 言 葉 づかい( 語 彙 語 法 言 い 回 し イントネーション 等 )を 聞 くと 特 定 の 人 物 像 ( 年 齢 性 別 職 業 階 層 時 代 容 姿 風 貌 性 格 等 )を 思 い 浮 かべることができるとき あるいはある 特 定 の 人 物 像 を 提 示 されると その 人 物 がいかにも 使 用 しそうな 言 葉 づかいを 思 い 浮 かべるこ とができるとき その 言 葉 づかいを 役 割 語 と 呼 ぶ ( 金 水 2003, 205) 役 割 語 は マンガや 小 説 などの 非 現 実 的 な 世 界 のものであると 考 えられがちである しかし 役 割 語 は 日 常 の 話 しことば 一 般 にも 見 出 せるものである 日 本 語 社 会 で 無 意 識 的 に 共 有 されていることばと 人 物 像 の 結 びつきは 発 話 と 話 し 手 像 の 結 びつきでも あり 日 常 の 言 葉 づかいと 話 し 手 らしさの 関 係 にも 反 映 する ことばと 人 物 像 の 結 び つきの 人 物 像 の 側 に 焦 点 をあてた 発 話 キャラクタ は どのような 者 として 話 す
かという 話 し 方 やふるまいの 選 択 から 生 じる 話 し 手 らしさを 指 すものでもある 敬 語 に 関 してまとめた 菊 池 (1997)では 丁 寧 体 の 使 用 には 個 人 差 があり 親 しい 間 柄 でも その 人 の 品 格 を 保 つためにデス マスを 使 う 人 も 少 なくない ということ を 指 摘 している 品 格 を 保 つために 同 じスタイルを 貫 く という 話 者 のエゴは 発 話 キャラクタに 置 き 換 え 可 能 であり デスを 一 つの 役 割 語 と 捉 える 根 拠 となる 本 発 表 では 常 に 丁 寧 な 態 度 で 日 本 語 社 会 に 臨 む 人 物 像 を 上 品 な 女 性 キャラク タと 想 定 し 従 属 節 に 現 れるデスの 自 然 さを 役 割 語 発 話 キャラクタの 観 点 から 捉 え る これにより 従 属 節 の 性 質 の 詳 細 を 分 析 し 複 文 を 再 考 する 2. 従 属 節 の 独 立 性 とデスの 生 起 可 能 性 独 立 性 の 低 い 従 属 節 の 中 では 丁 寧 形 が 現 れにくく 独 立 性 の 高 い 従 属 節 や 引 用 節 の 中 では 丁 寧 形 が 現 れる( 野 田 1989)ということはよく 知 られている 引 用 節 内 の で す の 自 然 さが 直 接 引 用 と 間 接 引 用 で 異 なることも この 考 えから 説 明 できる (1) 優 秀 {だ/です} (2) 優 秀 {だ/??です}と 言 っていました (3) 優 秀 {だ/です} と 言 っていました しかし 独 立 性 の 低 い 従 属 節 への 丁 寧 形 の 出 現 は 現 れにくい と 指 摘 されるよう に 絶 対 的 なものではない 次 のように 独 立 性 が 低 い 場 合 でも 丁 寧 形 は 可 能 である ( は 連 体 修 飾 句 を 示 す 以 下 同 様 ) (4) 誰 が 申 しました 言 葉 がお 気 にさわったのでございましょう ( 田 窪 1987, 45 本 稿 で を 付 加 ) また 丁 寧 形 の 挿 入 に 関 しては 独 立 性 の 高 い 従 属 節 は 丁 寧 度 を 主 節 の 述 語 に 一 致 させるということが これまでに 述 べられている (5) 田 中 さんがいましたけれど 北 海 道 へ 行 くのでしょう (6) 田 中 さんがいたけれど 北 海 道 へ 行 くのでしょう (7) * 田 中 さんがいましたけれど 北 海 道 へ 行 くのだろう ( 田 窪 1987, 45) けれど ( 以 下 ケレド 節 とする )は 独 立 性 が 高 い 節 とされ( 南 1974; 田 窪 1987) ここでも 従 属 節 の 独 立 性 とデスの 挿 入 可 能 性 は 矛 盾 しない しかし 従 属 節 が 丁 寧 形 になった 場 合 そしてその 場 合 のみ なぜ 主 節 も 丁 寧 形 に 揃 えなければならないのだ ろうか 上 述 のように 従 属 節 の 独 立 性 すなわち 文 らしさと 丁 寧 形 の 生 起 可 能 性 については しばしば 指 摘 があるものの 文 らしいものが 並 ぶと 両 者 を 一 致 させなけ
ればならないということの 説 明 は 為 されていない また (8)はカラのつく 原 因 理 由 節 ( 以 下 カラ 節 とする )が 主 節 を 言 い 終 わった 後 に 述 べられるものである 主 節 と 従 属 節 が 分 離 される 場 合 カラに 前 接 するコピュ ラは 丁 寧 形 のデスでもよい 主 節 とカラ 節 が 別 のものとして 発 話 されるとカラ 節 の 従 属 度 が 下 がり より 独 立 性 の 高 い 発 話 となっていると 言 える (8) 中 止 です 雨 ですから しかし 逆 の 見 方 をすると (8)は 普 通 形 ダが 前 接 した だから でもよいわけである 独 立 性 の 高 さから ですから が 可 能 であるということは だから で 十 分 である 統 語 環 境 で ですから が 選 ばれるということまでは 説 明 しない 上 記 のことを 発 話 キャラクタの 概 念 を 取 り 入 れて 考 えると 丁 寧 さを 入 れる 難 易 度 が 高 い 統 語 環 境 で 丁 寧 にできたのであれば 難 易 度 が 低 い 統 語 環 境 では 丁 寧 さを 保 た なければならないという 解 釈 を 導 くことができる このとき 従 属 節 の 独 立 性 は 丁 寧 さ 挿 入 の 難 易 度 の 点 で 丁 寧 形 の 自 然 さの 基 盤 となるものであり 従 属 節 の 独 立 性 と 従 属 節 内 の 丁 寧 形 の 出 現 の 関 連 は 否 定 できない ケレド 節 や 主 節 と 分 離 したカラ 節 で 丁 寧 度 の 一 致 が 一 方 向 的 になるのは 日 本 語 母 語 話 者 による 丁 寧 な 態 度 で 会 話 に 臨 む 話 し 手 像 ( 上 品 な 女 性 キャラクタ)の 言 葉 づかいに 対 する 期 待 と 統 語 的 環 境 による 難 易 度 のためであると 捉 え 直 すことができる 3. 原 因 理 由 節 (カラ 節 ) 3.1 文 の 焦 点 位 置 カラ 節 では デス マスが 現 れ 得 るとされている( 南 1974; 田 窪 1987) しかし い つも 丁 寧 形 コピュラが 許 されるわけではない 日 本 語 の 複 文 の 自 然 さは 焦 点 の 位 置 が 関 与 していることが 多 い まずは カラ 節 におけるデスの 自 然 さを 焦 点 の 位 置 を 確 認 しながら 考 察 する (9) 雨 {だ/です}から 中 止 です (10) 雨 {だ/??です}から 中 止 なのですか 日 本 語 では 原 則 的 に 文 末 の 述 語 以 外 に 焦 点 が 置 かれることがないが ノが 加 わる ことで 述 語 以 外 の 焦 点 化 が 可 能 になる 焦 点 位 置 については 疑 問 文 や 否 定 文 で 確 か めることができる( 田 窪 1987; 野 田 1997) ( 以 下 ノのスコープを[ ]で 焦 点 を で 示 す ) (11)?? 彼 がいるから 北 海 道 大 学 に 行 きますか (12) [ 彼 がいるから 北 海 道 大 学 に 行 く]んですか ( 田 窪 1987, 43 本 稿 で を 付 加 )
上 の(11)は 疑 問 の 焦 点 がカラ 節 になく 不 自 然 な 文 となる しかし 述 部 にノを 入 れた んですか にするとカラ 節 に 焦 点 が 置 かれ 自 然 になる ここで 注 意 が 必 要 なのは (11)のような 動 詞 述 語 文 と 異 なり (9)のような 名 詞 述 語 文 の だから 場 合 ノの 挿 入 なしに 文 の 内 部 で 連 体 修 飾 句 が 成 立 し((13a) 参 照 ) カ ラ 節 の 焦 点 化 が 可 能 になる((13a ) 参 照 )という 点 である (13) a. 雨 だから 中 止 です a. 雨 だから 中 止 です これは 疑 問 文 の 環 境 でも 同 様 である だから の 場 合 制 限 修 飾 節 として 成 立 可 能 で ノの 有 無 に 拘 わらず 疑 問 の 焦 点 が 述 部 ではなくカラ 節 に 置 かれ 疑 問 文 として 自 然 になる (14) 雨 だから 中 止 (なの)ですか 3.2 ですから の 疑 問 文 と 焦 点 化 ですから の 場 合 は 非 制 限 修 飾 節 の 解 釈 しかできない このことは 統 語 環 境 に よる 自 然 さの 違 いをもたらす ですから は 主 節 が 疑 問 の(15) (16)では 不 自 然 だ が 肯 定 平 叙 文 ではノが 挿 入 された 場 合 でも 自 然 である (15)?? 雨 ですから 中 止 ですか (16)?? 雨 ですから 中 止 なのですか (17) 雨 ですから 中 止 です (18) 雨 ですから 中 止 なのです つまり 名 詞 述 語 文 で ですから が 不 自 然 となるのは 疑 問 文 という 環 境 であって ノの 有 無 の 影 響 は 受 けない 文 の 内 部 構 造 をみると ですから の 場 合 制 限 修 飾 節 にはならず 疑 問 の 焦 点 は 述 部 にある 質 問 する 前 提 に 焦 点 があり 質 問 によって 知 りたい 部 分 ( 中 止 の 理 由 )に 焦 点 が 置 かれないため 不 自 然 な 質 問 となる (19)?? 雨 ですから 中 止 です か (15) (16) (19)の 疑 問 の 焦 点 のズレによる 文 の 不 自 然 さは 疑 問 という 発 話 行 為 をお こなうときに ですから が 不 自 然 となるということを 示 している なお (18)の 雨 ですから 中 止 なのです のノのフォーカスは 下 の(20)のように なる ノの 有 無 に 拘 わらず 主 節 が 平 叙 文 のときに ですから が 自 然 となることは
ですから と 平 叙 文 が 並 んだ 発 話 では 従 属 節 と 主 節 で 異 なる 行 為 をしているとい うこと そして 叙 述 する もしくは 陳 述 する という 行 為 をおこなう 理 由 を 述 べ るとき 注 1 に ですから は 不 自 然 とならないということを 示 す (20) 雨 ですから[ 中 止 な]のです 3.3 疑 問 の 行 為 とならない 疑 問 形 式 疑 問 文 の 分 析 より 主 節 で 疑 問 という 行 為 を 為 すとき カラ 節 は 一 つの 発 話 行 為 と ならず ですから が 不 自 然 となることがわかった 疑 問 の 焦 点 の 違 いによる 発 話 の 変 化 は 次 のような 発 話 でも 観 察 できる 疑 問 文 と 同 じ 形 式 であっても その 主 節 末 が 質 問 調 とならなければ つまり 疑 問 ではなく 把 握 として 発 話 されれば ですから も 可 能 となる ( は 下 降 音 調 を 示 す ) (21) 雨 ですから 中 止 ですか そして 上 品 な 女 性 のキャラクタ さらに 老 紳 士 ( 上 品 な 老 人 ) や 謙 った 部 下 であれば むしろ ですから の 方 がよい (22) あら 雨 ですから 中 止 ですか (23) ほほぅ 雨 ですから 中 止 ですか (24) はぁ 雨 ですから 中 止 ですか 下 降 調 で 把 握 する 発 話 の 場 合 従 属 節 の 雨 は 聞 いて 得 た 情 報 を 表 す 雨 ですか ら は 疑 問 という 行 為 では 疑 問 の 焦 点 である 理 由 とならず 不 自 然 であったが 把 握 という 行 為 では 問 題 ない これは 雨 ですから で 聞 いたことを 受 容 する という 行 為 をおこなっているからである そのため 聞 いて 相 手 を 立 てることが 得 意 な 上 品 な 女 性 や 謙 った 部 下 聞 いて 相 手 を 受 け 入 れたり 感 心 したりする 老 紳 士 の 発 話 で 自 然 になると 言 える だから よりも むしろ ですから の 方 が 発 話 キャラクタにとって 自 然 という ことから カラ 節 にデスがついたもの つまり 前 件 の 発 話 行 為 と 発 話 キャラクタに 強 い 結 びつきがあり 役 割 語 が 濃 いほど 従 属 節 の 独 立 性 が 高 いことがわかる この 例 は 発 話 行 為 を 基 準 に 発 話 キャラクタも 存 在 しているということを 示 すと 同 時 に 発 話 キ ャラクタから 考 えることで 複 文 の 性 質 がより 明 らかになるということも 示 している 4. 条 件 節 (タラ 節 ) 4.1 発 話 の 言 及 対 象 注 1: Sweetser(1990)では epistemic domain 前 田 (2009)では 判 断 根 拠 の 読 みに 相 当 する
次 に タラを 含 む 条 件 節 でのデスの 自 然 さを 考 察 する ここでいう 自 然 さも 上 品 な 女 性 の 発 話 としてであって 上 品 な 女 性 であれば でしたら が 期 待 されるだ ろうということである 下 記 の(25)~(28)では (26)でのみ でしたら が 不 自 然 とな っている (26)のような 発 話 では だったら と 言 っても 上 品 さは 損 なわれない (25) その 方 も 優 秀 {だったら/でしたら}いいのですが (26) 私 も 優 秀 {だったら/??でしたら}いいのですが 銀 メダルを 手 にインタビューに 応 えているオリンピック 選 手 をテレビで 見 ながら (27) あのメダルが 金 色 {だったら/でしたら} 申 し 分 ないのですが (28) あなたが 女 性 {だったら/でしたら}いいのですが (25)~(28)の 条 件 文 の 意 味 を 確 認 すると (25)は 仮 定 とも 反 実 仮 想 とも 解 釈 できるが その 他 は 反 実 仮 想 の 意 味 としか 解 釈 できない よって (26)の でしたら の 不 自 然 さは 条 件 文 の 意 味 だけによるのではないことがわかる でしたら が 不 自 然 となる 他 の 要 因 として 考 えられるのは 人 称 である (26)のみが 一 人 称 であり でしたら の 不 自 然 さは 話 者 自 身 に 関 する 仮 定 条 件 か 話 者 以 外 の 人 物 事 物 に 関 する 仮 定 条 件 かに 起 因 するという 予 測 ができる 常 に 上 品 さを 保 とう とする 話 し 手 の 発 言 であっても 自 分 自 身 についての 言 及 では でしたら が 不 自 然 になると 考 えられる 4.2 話 者 自 身 に 言 及 する でしたら が 自 然 になる 場 合 先 に 話 者 自 身 について 言 及 するタラ 節 で 丁 寧 な 言 い 方 が 不 自 然 になるという 予 測 を 立 てたが 話 者 についての 言 及 であっても でしたら が 自 然 になる 場 合 がある 会 話 文 脈 を 想 定 して 確 認 する 次 の 例 は 味 覚 に 関 する 嗜 好 を 答 える 実 験 場 面 で 実 験 者 A が(29)と 指 示 し 被 験 者 B が(30)と 応 答 するという 会 話 である 味 覚 の 実 験 で 好 みの 味 の 刺 激 には 好 みである と 答 えるように 指 示 味 覚 を 確 認 した 後 に (29) お 好 み{だったら/でしたら} 仰 ってください (30) はい 私 の 好 み{だったら/??でしたら}お 伝 えします ここでは 被 験 者 B が 味 覚 刺 激 を 受 けた 後 に 何 も 言 わないので 実 験 者 A が 念 押 しで 好 みであれば 言 うように と 声 をかけるという 場 面 を 想 定 されたい この 場 合 被 験 者 B は 既 に 味 覚 を 得 ており 好 きか 嫌 いかの 判 断 ができる 状 態 である したがって(30)は 味 を 確 かめたけれども 好 みではない と 判 断 した 状 況 で 事 実 とは 反 することを 仮 定
する 発 言 である 話 者 にとって 事 実 関 係 は 確 定 している 状 況 で このとき だったら は 自 然 だが でしたら は 不 自 然 である これは (26)の 例 と 同 じである 同 じ 発 言 を 事 実 関 係 が 未 確 定 である 仮 定 にすると でしたら の 自 然 さが 上 がる 上 記 の 実 験 を 味 覚 を 感 じる 前 の 状 況 に 変 更 する 時 系 列 でいうと(29)と(30)の 会 話 の 前 の 段 階 ということになるが 被 験 者 B の 発 話 は 次 のように 変 わる 味 覚 の 実 験 で 好 みの 味 の 刺 激 には 好 みである と 答 えるように 指 示 味 覚 を 確 認 する 前 に (31) お 好 み{だったら/でしたら} 仰 ってください (32) はい 私 の 好 み{だったら/でしたら}お 伝 えします まだ 味 覚 を 得 ず 好 みであるかどうかが 判 断 できない 状 況 では でしたら が 自 然 に なる つまり 話 者 自 身 のことであっても 事 実 がまだ 確 定 していない 場 合 は 丁 寧 な 言 い 方 でも 自 然 になるということである さらに (32)は 実 験 者 A の 発 話 を 受 け 入 れての 発 話 という 点 に 留 意 したい 実 験 者 A は 被 験 者 B の(32)の 発 話 時 には 被 験 者 B にとって 聞 き 手 であるが 聞 き 手 の 発 言 を 受 けて 自 分 自 身 のことを 仮 定 するという 状 況 に 変 わっている 聞 いたことを 受 容 して の 仮 定 で 成 立 するというのは 次 の(33)のような 例 でより 明 確 になる 警 察 に 犯 人 だと 疑 われた 上 品 な 女 性 の 発 話 として (33) 私 が 犯 人 でしたら どのようにして 午 後 8 時 にパーティ 会 場 にいることが 可 能 だったのでしょうか? 上 記 から 自 分 の 情 報 か 否 かの 違 いに 加 え 事 実 の 確 定 / 未 確 定 の 違 いが 丁 寧 形 で したら の 自 然 さに 関 わると 言 える そして 未 確 定 の 場 合 とは 対 話 の 相 手 から 得 た ことをもとに 仮 定 するという 行 為 をおこなうときである 4.3 丁 寧 に 言 うということ ここまでで 話 者 自 身 に 言 及 する 場 合 であっても 対 話 の 相 手 から 得 た 情 報 をもと に 仮 定 する 場 合 は でしたら が 自 然 になることがわかった ここで 対 話 相 手 から 聞 いた 過 去 の 話 を 仮 定 する 表 現 を 分 析 したい 上 品 な 女 性 の 発 話 としては (34)のよ うに タラ 節 が だったのでしたら なる (34) ここが 昔 海 だったのでしたら 海 水 魚 の 化 石 も 発 掘 されるのでしょうか (35) *ここが 昔 海 でしたのだったら 海 水 魚 の 化 石 も 発 掘 されるのでしょうか (36) *ここが 昔 海 でしたのでしたら 海 水 魚 の 化 石 も 発 掘 されるのでしょうか (36)のように でした の 重 複 が 許 されないことから 丁 寧 にするのは 前 件 の 中 で 一 度
だけであると 言 える また (34) (35)より でした は 対 話 の 相 手 が 話 した 内 容 で はなく 仮 定 することに 係 っていることがわかる 以 上 のことから 上 品 な 女 性 に 期 待 される でしたら は 仮 定 するという 行 為 を 丁 寧 にしているという 結 論 が 導 ける そして これらは 聞 き 手 の 情 報 を 受 けての 発 話 に 現 れるものである でしたら が 自 然 になる 状 況 は 聞 き 手 がいるからこそ 自 分 に 相 応 しいふるまいとして 発 話 行 為 を 丁 寧 にするということを 反 映 していると 言 える 5.まとめ 丁 寧 なコピュラのデスを 役 割 語 と 捉 え 上 品 な 女 性 キャラクタによる 発 話 という 想 定 をもとに カラの 原 因 理 由 節 タラ 条 件 節 に 現 れる でしたら の 自 然 さを 考 察 した カラ 節 においても 条 件 節 においても 節 ごとに 為 される 発 話 行 為 よって 自 然 さが 変 わることがわかった このことから 発 話 行 為 の 単 位 で 複 文 を 考 えるという ことを 提 案 したい タラ 節 の 考 察 で 明 らかにした 話 し 手 自 身 の 確 定 事 項 に 言 及 することから 起 こる 不 自 然 さには 自 分 が 謙 り 特 定 の 人 物 を 敬 って 表 現 する 謙 譲 語 や 尊 敬 語 のシステムと の 関 連 が 窺 える 日 本 語 教 育 の 面 では 微 妙 な 敬 語 の 使 い 方 を 習 得 するという 点 で 重 要 であると 言 える ただし 本 発 表 で 考 察 した 表 現 は 丁 寧 さの 上 限 を 示 すものでもあ り 無 論 すべての 日 本 語 学 習 者 が 自 分 の 話 し 方 として 取 り 入 れるべきだと 主 張 する つもりはない しかし 役 割 語 や 発 話 キャラクタの 研 究 は 日 本 語 文 法 やコミュニケ ーションを 考 察 する 上 で 無 視 できないものであり 学 習 者 が 自 然 な 話 し 方 自 分 らし い 話 し 方 を 習 得 するための 糸 口 ともなり 得 ると 言 えるだろう 参 考 文 献 菊 地 康 人 (1997) 敬 語 講 談 社 定 延 利 之 (2006) ことばと 発 話 キャラクタ 文 学 7(6), 岩 波 書 店, 117-129 定 延 利 之 (2011) 日 本 語 社 会 のぞきキャラくり 顔 つき カラダつき ことばつき 三 省 堂 Sweetser Eve E. (1990) From Etymology to Pragmatics: Metaphorical and Cultural Aspects of Semantic Structure, Cambridge University Press 田 窪 行 則 (1987) 統 語 構 造 と 文 脈 情 報 日 本 語 学 6(5), 37-48 野 田 春 美 (1997) の(だ) の 機 能 くろしお 出 版 野 田 尚 史 (1989) 真 性 モダリティをもたない 文 仁 田 義 雄 益 岡 隆 志 編 日 本 語 のモ ダリティ くろしお 出 版, 131-157 前 田 直 子 (2009) 日 本 語 の 複 文 条 件 文 と 原 因 理 由 文 の 記 述 的 研 究 くろしお 出 版 南 不 二 男 (1974) 現 代 日 本 語 の 構 造 大 修 館 書 店