総 統 選 挙 をめぐる 民 進 党 の 選 挙 情 勢 葉 高 華 ( 一 ) 支 持 基 盤 の 拡 大 こそが 進 む 道 多 くの 有 権 者 の 投 票 傾 向 は 選 挙 戦 が 始 まる 前 から 決 まっている 有 権 者 の 投 票 傾 向 を 変 えるには 少 なくとも 数 年 の 時 間 が 必 要 で たった 数 ヶ 月 の 選 挙 活 動 において 有 権 者 の 意 向 を 変 えるのはほぼ 不 可 能 である 選 挙 戦 の 意 義 は 支 持 者 のサポートに 火 をつけ 支 持 者 が 投 票 日 当 日 に 投 票 するよう 促 すことにある 成 功 する 選 挙 戦 術 は 自 分 の 支 持 者 の 投 票 意 欲 を 高 め 相 手 の 支 持 者 の 投 票 意 欲 をそぐことであり そうすれば 形 勢 を 逆 転 するこ とができる 例 えば ある 二 党 に 対 する 支 持 基 盤 が 40:60 で 双 方 の 支 持 者 の 投 票 率 がそ れぞれ 80と 50であった 場 合 即 ち 二 党 の 得 票 数 は 32:30 となる 同 ケースにおいて は もともとの 支 持 基 盤 が 比 較 的 弱 かった 党 が 支 持 者 の 動 員 に 成 功 し 勝 利 を 収 めたと 言 える しかし 選 挙 活 動 に 頼 って 支 持 基 盤 の 务 勢 を 挽 回 しようとするのは うまくいく 可 能 性 もあるが 必 ずしも 成 功 するとは 限 らない これは 普 段 勉 強 しないのに 試 験 前 日 に 一 夜 漬 けをするようなもので うまくいったとしても 単 に 運 がよかったに 過 ぎない つ まり 日 ごろから 支 持 基 盤 拡 大 に 努 めるに 勝 るものはないといえる 基 本 的 な 支 持 基 盤 が 相 手 より 強 ければ 選 挙 に 苦 しまなくてよく 毎 回 の 選 挙 戦 で 自 分 の 支 持 者 を 駆 り 立 てな くてすむのである そこで 現 在 の 民 進 党 の 支 持 基 盤 はどれほどのものであるか ここ 数 年 の 変 化 趨 勢 は どうであるか 政 党 帰 属 意 識 (party identification)の 測 量 から その 答 えを 探 ることとす る 国 立 政 治 大 学 選 挙 研 究 センターは 1992 年 から 台 湾 の 有 権 者 の 政 党 帰 属 意 識 について 長 期 的 な 追 跡 調 査 を 行 っている 同 調 査 のサンプル 数 は 年 平 均 1 万 人 超 で 信 頼 性 は 非 常 に 高 い 政 党 帰 属 意 識 の 測 量 は 二 つの 質 問 の 組 み 合 わせからなり まず 調 査 対 象 者 は 国 民 党 民 進 党 新 党 親 民 党 台 聯 党 の 五 つの 党 のうち あなたはどの 党 を 支 持 しま すか と 問 われる 調 査 対 象 者 が どの 党 を 支 持 するか 明 確 に 答 えない 場 合 さらに 国 民 党 民 進 党 新 党 親 民 党 台 聯 党 の 五 つの 党 のうち どの 党 に 比 較 的 近 いですか 或 いはいずれにも 当 てはまりませんか と 問 われる この 二 つの 質 問 に 基 づき 有 権 者 の 政 党 帰 属 意 識 が 国 民 党 民 進 党 新 党 親 民 党 台 聯 党 中 立 及 びその 他 の 政 党 のいずれ にあるか 分 類 することができる 1
資 料 出 所 : 国 立 政 治 大 学 選 挙 研 究 センター 主 要 な 政 治 的 態 度 の 分 布 趨 勢 図 図 1 台 湾 の 有 権 者 の 政 党 帰 属 意 識 の 変 遷 図 1は 1992 年 以 降 の 台 湾 の 有 権 者 の 政 党 帰 属 意 識 の 変 遷 を 示 したものである このう ち 中 立 無 反 応 の 有 権 者 は 必 ずしも 政 党 帰 属 意 識 がないというわけではなく 聞 き 出 せなかった ケースも 含 まれる 台 湾 では 民 主 化 されてからまだ 十 分 な 時 間 が 経 って いないため 依 然 として 多 くの 有 権 者 は 自 身 の 政 党 帰 属 意 識 を 明 かしたがらない こうし た 現 象 は 2000 年 以 前 は 特 に 顕 著 であった 1992~2000 年 において 民 進 党 に 政 党 帰 属 意 識 を 持 つ 有 権 者 の 割 合 が 23に 増 加 したのに 伴 い 中 立 無 反 応 の 割 合 は 22に 減 少 し ており ここから 2000 年 以 前 には 民 進 党 に 帰 属 意 識 を 持 つ 有 権 者 が 中 立 無 反 応 に 分 類 されていたことが 分 かる 2000 年 から 2004 年 グリーン 陣 営 ( 民 進 党 台 聯 党 )に 政 党 帰 属 意 識 を 持 つ 有 権 者 の 割 合 は 26~27を 安 定 的 に 維 持 していたが 2005 年 以 降 は 下 降 し 始 め 2006 年 から 2009 年 においては わずか 21 前 後 となっている 2010 年 以 降 には 徐 々に 回 復 し 現 在 では 2000 年 から 2004 年 の 水 準 を 取 り 戻 した 一 方 この 10 年 間 において ブルー 陣 営 ( 国 民 党 新 党 親 民 党 ) に 政 党 帰 属 意 識 を 持 つ 有 権 者 の 割 合 は 34 前 後 を 安 定 して 維 持 している ここから 政 党 帰 属 意 識 の 変 化 スピードの 遅 さを 説 明 することができ 10 年 が 経 過 したに もかかわらず 二 大 陣 営 の 支 持 基 盤 は 再 びスタート 地 点 に 戻 ったことが 分 かる 双 方 の 支 2
持 者 の 得 票 率 が 同 じである 場 合 最 終 的 な 開 票 結 果 は 44:56 前 後 となる ここから 民 進 党 への 支 持 基 盤 がブルー 陣 営 への 支 持 基 盤 に 僅 差 まで 迫 り また ブルー 陣 営 の 支 持 者 が 政 治 成 果 に 不 満 で 投 票 に 行 かない 場 合 形 勢 逆 転 のチャンスが 生 れる 民 進 党 の 喫 緊 の 課 題 は 2012 年 の 選 挙 をしっかり 戦 うことであるが 長 期 的 には 支 持 基 盤 拡 大 の 方 法 を 模 索 することである ( 二 ) 台 湾 人 アイデンティティに 依 存 しては 勝 てない なぜこの 10 年 間 民 進 党 に 政 党 帰 属 意 識 を 持 つ 有 権 者 の 割 合 が 伸 び 悩 んでいるのだろう か 周 知 の 通 り 民 進 党 に 政 党 帰 属 意 識 を 持 つ 有 権 者 の 大 多 数 はみな 台 湾 アイデンティ ティを 持 つ 者 である それでは この 10 年 間 に 台 湾 アイデンティティを 持 つ 者 の 割 合 が 増 加 しなかったというのだろうか 国 立 政 治 大 学 選 挙 研 究 センターは 1992 年 より 台 湾 の 有 権 者 の 国 家 アイデンティティについて 長 期 的 な 追 跡 調 査 を 行 っている 同 調 査 のアンケ ートでは 我 々の 社 会 においては 自 分 は 台 湾 人 であると 言 う 人 もいれば 中 国 人 であると 言 う 人 もおり またどちらでもあると 言 う 人 もいる あなたは 自 分 は 台 湾 人 であると 思 いますか 中 国 人 であると 思 いますか 或 いは 台 湾 人 でもあり 中 国 人 で もある と 思 いますか と 問 われ 調 査 対 象 者 の 回 答 によって その 国 家 アイデンティテ ィは 台 湾 人 中 国 人 台 湾 人 でもあり 中 国 人 でもある 無 反 応 に 分 類 される 図 2は 1992 年 以 降 の 台 湾 の 有 権 者 の 国 家 アイデンティティの 変 遷 の 趨 勢 を 示 したもので ある ここから 台 湾 人 アイデンティティの 割 合 は 年 々 増 加 し 中 国 人 アイデンティティ の 割 合 は 減 少 していることが 分 かる とりわけ 1996 年 の 台 湾 海 峡 ミサイル 危 機 は 台 湾 人 アイデンティティの 増 加 を 促 した 第 一 波 となった 台 湾 人 アイデンティティの 割 合 増 加 の 第 二 波 は なんと 2008 年 に 馬 英 九 が 総 統 に 就 任 して 以 降 である 皮 肉 なことに 台 湾 人 ア イデンティティの 増 加 に 対 する 貢 献 は 8 年 間 政 権 を 担 った 民 進 党 よりも 馬 英 九 のほうが 大 きかった ここから 台 湾 人 アイデンティティの 拡 大 は 反 作 用 の 刺 激 に 起 因 している ことが 分 かる 2008 年 以 後 台 湾 人 アイデンティティの 割 合 は 初 めて 台 湾 人 でもあり 中 国 人 でもある の 割 合 を 越 え 現 在 既 に 54と 過 去 最 高 を 記 録 している 台 湾 人 アイデンティティの 割 合 が 持 続 的 に 増 加 しているにもかかわらず なぜ 民 進 党 に 政 治 帰 属 意 識 を 持 つ 有 権 者 の 割 合 が 同 じように 増 加 しないのであろうか これはつまり 二 大 陣 営 に 対 する 支 持 が 必 ずしも 国 家 アイデンティティと 一 致 していないことを 説 明 してい る 実 際 台 湾 人 アイデンティティの 持 ち 主 であっても 様 々な 要 因 によって 民 進 党 を 支 持 しない 者 もいる 民 進 党 は 台 湾 人 アイデンティティを 持 続 的 に 推 進 しつつも どうし て 台 湾 人 アイデンティティを 持 つ 全 ての 有 権 者 から 支 持 を 得 られないのか その 原 因 を 探 るべきである 台 湾 人 アイデンティティに 頼 るだけでは やはり 勝 利 を 収 めることはでき ないだろう 3
資 料 出 所 : 国 立 政 治 大 学 選 挙 研 究 センター 主 要 な 政 治 的 態 度 の 分 布 趨 勢 図 図 2 台 湾 の 有 権 者 の 国 家 アイデンティティの 変 遷 ( 三 ) 支 持 基 盤 拡 大 への 貢 献 は 低 い 十 年 政 綱 先 般 民 進 党 は 十 年 政 綱 を 打 ち 出 したが 自 身 を 左 派 政 党 と 位 置 づけ 労 働 者 農 民 及 び 社 会 的 弱 者 のケアに 力 を 入 れようとしているように 見 受 けられる こうした 理 想 を 持 つ ことは 当 然 よいことであるが 民 進 党 がケアしたいと 考 えている 労 働 者 農 民 は 元 々 民 進 党 の 支 持 者 であり 人 口 も 減 少 していることから 支 持 基 盤 の 拡 大 には 大 した 支 えになら ないだろう 図 3 は 1990 年 以 降 の 台 湾 の 各 産 業 における 労 働 者 数 を 示 したものである 農 業 漁 業 従 事 者 の 割 合 は 13から 5へと 持 続 的 に 減 少 し 続 け このほか 労 働 者 の 割 合 も 41か ら 31へと 大 幅 に 減 少 している 逆 に 年 々 増 加 しているのは 専 門 職 や 技 術 者 で 前 者 は 5から 9へ 後 者 は 更 に 12から 21へと 大 幅 に 増 加 した ここから 予 見 可 能 な 将 来 においては 上 述 の 趨 勢 が 持 続 されていくものと 推 測 できる 注 目 に 値 するのは 徐 々に 減 少 している 農 民 や 労 働 者 から 高 い 支 持 を 得 ているにもかか わらず 増 加 傾 向 にある 専 門 職 や 技 術 者 からの 支 持 が 比 較 的 低 いことである 2004 年 に 実 4
施 された 台 湾 社 会 変 遷 基 本 調 査 1と 台 湾 の 選 挙 及 び 民 主 化 調 査 2 によると 民 進 党 が 最 も 高 い 支 持 を 獲 得 していたときでも 民 進 党 に 投 票 した 専 門 職 技 術 者 の 有 権 者 は 四 割 に 満 たなかった 逆 に 民 進 党 に 投 票 した 労 働 者 の 割 合 は 五 割 を 超 え 農 民 では 六 割 を 超 えている ( 図 4) この 他 2008 年 の 台 湾 の 選 挙 及 び 民 主 化 調 査 3によると 民 進 党 に 投 票 した 専 門 職 技 術 者 の 割 合 は 農 民 や 労 働 者 の 割 合 を 大 きく 下 回 っている( 図 5) 農 民 労 働 者 の 数 が 年 々 減 少 し 専 門 職 技 術 者 の 数 が 増 加 している 以 上 民 進 党 が 前 者 にのみ 重 きを 置 くのであれば その 支 持 基 盤 はますます 小 さくなるだろう 十 年 政 綱 に は かつてイギリス 労 働 党 がとった 効 果 的 な 手 法 も 盛 り 込 まれており 民 進 党 はイギリス 労 働 党 の 歴 史 を 鏡 とすることができる イギリス 労 働 党 は 元 々 労 働 者 階 級 や 労 働 組 合 の 代 言 者 であったが 1980 年 代 以 來 イギリスがポスト 工 業 社 会 へと 転 換 し 労 働 者 階 級 の 人 口 が 減 少 し 続 けたため 労 働 組 合 の 勢 いも 徐 々に 衰 退 した そのため 労 働 党 の 支 持 基 盤 も 縮 小 し 18 年 間 もの 長 きに 渡 り 野 党 となった トニー ブレアが 労 働 党 党 首 になって から 党 の 位 置 づけの 調 整 や 中 産 階 級 の 支 持 の 獲 得 に 乗 り 出 した ブレアは イギリスは 既 に2/3の 有 産 階 級 1/3の 無 産 階 級 によって 構 成 される 社 会 となり 労 働 党 は1/ 3の 有 権 者 のために 政 権 獲 得 のチャンスを 逃 すべきではないと 考 えた そこで 新 しい 労 働 党 は 自 由 化 私 有 化 政 策 に 抵 抗 しないものの 保 守 党 よりもより 公 平 さを 追 及 するこ とを 強 調 し この 訴 えが 功 を 奏 した 結 果 ついに 1997 年 に 政 権 の 座 に 返 り 咲 いた 同 様 に 民 進 党 も 労 働 者 や 農 民 社 会 的 弱 者 ばかりサポートするのではなく 専 門 職 や 技 術 者 へも 働 きかけていくべきである 民 進 党 にはその 能 力 が 十 分 にあるだろう 1 満 18 歳 以 上 の 国 民 に 対 し 層 化 無 作 為 抽 出 法 を 用 い 2004 年 7-9 月 に 訪 問 調 査 を 実 施 成 功 サンプル 数 は 1781 人 で 加 権 処 理 を 行 い サンプルの 代 表 性 を 確 保 した 本 文 における 民 進 党 投 票 者 の 割 合 には 無 投 票 者 や 回 答 拒 否 者 は 含 まれず 有 効 サンプル 数 1500 人 2 満 20 歳 以 上 の 国 民 に 対 し 層 化 無 作 為 抽 出 法 を 用 い 2004 年 6-9 月 に 訪 問 調 査 を 実 施 成 功 サンプル 数 は 1823 人 で 加 権 処 理 を 行 い サンプルの 代 表 性 を 確 保 した 本 文 における 民 進 党 投 票 者 の 割 合 には 回 答 拒 否 者 は 含 まれず 有 効 サンプル 数 1538 人 3 満 20 歳 以 上 の 国 民 に 対 し 層 化 無 作 為 抽 出 法 を 用 い 2008 年 6-8 月 に 訪 問 調 査 を 実 施 成 功 サンプル 数 は 1905 人 で 加 権 処 理 を 行 い サンプルの 代 表 性 を 確 保 した 本 文 において 謝 蘇 ペア 投 票 者 の 割 合 には 回 答 拒 否 者 は 含 まれず 有 効 サンプル 数 1690 人 5
45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 管 理 専 門 職 技 術 者 事 務 サービス 農 業 漁 業 労 働 0 2 資 料 出 所 : 主 計 処 4 6 8 4 6 8 0 図 3 ここ 20 年 における 職 業 別 就 業 者 比 率 台 湾 社 会 変 遷 基 本 調 査 台 湾 の 選 挙 及 び 民 主 化 調 査 陳 70 66.3 62.2 呂 ペ ア 60 50 40 44.8 43.4 39.3 37.7 39.7 37.7 39.8 37.0 50.5 47.7 52.9 53.7 56.5 48.9 へ の 30 投 20 票 率 10 0 管 理 専 門 職 技 術 者 事 務 サービス 農 業 漁 業 労 働 無 職 資 料 出 所 : 台 湾 社 会 変 遷 基 本 調 査 第 四 期 第 五 回 公 民 権 組 台 湾 の 選 挙 及 び 民 主 化 調 査 2004P 図 4 2004 年 総 統 選 挙 における 職 業 別 の 民 進 党 投 票 者 率 6
70 謝 60 蘇 50 ペ ア へ 40 30 33.3 28.6 29.8 28.6 37.7 37.4 30.7 の 投 20 21.2 票 率 10 0 管 理 専 門 職 技 術 者 事 務 サービス 農 業 漁 業 労 働 無 職 資 料 出 所 : 台 湾 の 選 挙 及 び 民 主 化 調 査 2008P 図 5 2008 年 総 統 選 挙 における 職 業 別 の 民 進 党 投 票 者 率 7