iii シリーズ 刊 行 にあたって 近 年,さまざまな 診 療 ガイドラインが 提 供 されるようになり, 診 断 の 進 め 方, 治 療 法 の 選 択 などにおいて 大 変 参 考 になるようになっています.このようなガイドラインの 作 成 に あたっては,Evidence-based me

iii シリーズ 刊 行 にあたって 近 年,さまざまな 診 療 ガイドラインが 提 供 されるようになり, 診 断 の 進 め 方, 治 療 法 の 選 択 などにおいて 大 変 参 考 になるようになっています.このようなガイドラインの 作 成 に あたっては,Evidence-based medicine(ebm)という 考 え 方 が 積 極 的 に 取 り 入 れられ,それ がどの 程 度 の 根 拠 に 基 づくものか,という 点 が 十 分 に 吟 味 された 上 で 診 療 ガイドラインに 反 映 されています.このような 資 料 は 非 常 に 有 用 であり, 日 々の 診 療 に 欠 かせないものと なっていますが, 一 方 で, 一 定 のマニュアル 的 な 位 置 づけになりやすく, 診 断 の 組 み 立 て, 疾 患 の 成 り 立 ち, 治 療 法 の 機 序 などについて 深 く 理 解 するという, 本 来,プロフェショナ リズムの 観 点 から 求 められることが, 十 分 には 達 成 しにくいという 面 もあります. 同 じ 疾 患 であっても, 患 者 さん 一 人 一 人 は,その 症 状 一 つを 取 ってみても 多 様 であるよ うに, 必 ず 特 徴 (variance)があり,それは, 病 態 に 関 連 する 背 景 因 子 の 個 人 差 などを 反 映 していると 考 えられます.すなわち,それぞれの 患 者 さんが 持 っている 病 態 の 本 質 と, その 特 徴 をよく 把 握 して 診 療 にあたることが 求 められるのです.EBM が group-oriented medicine と 言 われることもあるように, 患 者 集 団 の 平 均 的 なところを 把 握 して 診 療 を 進 め るような 考 え 方 となっているのに 対 して, 実 際 の 診 療 の 場 では, 患 者 さん 個 人 の 持 つ variance をよく 把 握 して 最 適 な 診 療 を 進 めることが 望 まれることになります(individualoriented medicine).このような 考 え 方 は, 医 師 の 裁 量 部 分 に 適 切 に 反 映 されるため,われ われは, 疾 患 の 症 候, 病 態, 診 断, 治 療 についての 深 い 理 解 と,それぞれの 患 者 さんの 持 つ 特 徴 をよく 把 握 した 上 で, 診 療 を 進 めることが 必 要 になります. シリーズ アクチュアル 脳 神 経 疾 患 の 臨 床 は,このような 考 え 方 に 立 って, 神 経 内 科 医 ならびに 神 経 内 科 専 門 医 を 目 指 す 方 々,さらには 神 経 内 科 専 門 医 取 得 後 の 生 涯 教 育 に 役 立 つシリーズとして 企 画 したものですが, 他 の 診 療 科 の 方 々でも 神 経 内 科 疾 患 の 診 療 に 際 して 参 考 となるような 内 容 となっています. 各 巻 でテーマを 絞 り,その take-home-message が 何 であるかを 読 者 にわかりやすいものとして 発 信 するように 努 め, 巻 ごとに 編 集 担 当 者 を 決 めて 専 門 編 集 体 制 をとるとともに, 随 時 編 集 委 員 会 を 開 催 してその 企 画 内 容 などを 十 分 に 吟 味 検 討 し, 充 実 した 内 容 を 目 指 しています. 各 テーマの focus としては,できる だけ 最 新 の 動 向 を 反 映 したものとするようにし, 特 に, 神 経 内 科 医 としてのプロフェショ ナリズムを 究 める,という 立 場 を 重 視 して,そのような 視 点 に 立 つ 記 述 を 少 しでも 多 く 盛 り 込 むようにしました.

iv 構 成 にあたっては, 最 新 の 進 歩 知 識 の 全 体 をバランスよく 理 解 できること, 実 地 診 療 に 役 立 つように 検 査, 診 断, 治 療 などの 診 療 上 のノウハウをできるだけ 盛 り 込 むことに 留 意 し,さらに 必 要 に 応 じてその 科 学 的 根 拠 について 簡 潔 に 記 述 するようにしました. 冒 頭 に 述 べましたように, 同 じ 疾 患 であっても, 患 者 ごとの 病 態 の 特 徴 をどのようにして 把 握 理 解 するか,という 視 点 を 記 述 に 含 めるようにし,さらに, 本 文 での 記 載 に 加 えて, Column Case Study Lecture Memo Key words などの 項 目 の 活 用 やフローチ ャートやイラストを 積 極 的 に 取 り 入 れることで, 読 者 が 理 解 を 深 めやすいように 工 夫 して います. 本 シリーズが, 神 経 内 科 医 のプロフェショナリズムを 目 指 す 方 々に 座 右 の 書 として 活 用 されるものとなることを 編 集 委 員 一 同 祈 念 しています. 2011 年 10 月 吉 日 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 学 教 授 辻 省 次

v 序 筋 萎 縮 性 側 索 硬 化 症 (ALS) 運 動 ニューロン 疾 患 は, 神 経 変 性 疾 患 の 中 でも 治 療 や QOL と いう 点 で 最 も 厳 しい 疾 患 群 であると 考 えられる.ALS を 中 心 に 多 くの 治 験 が 行 われてきている が,まだ 有 効 な 治 療 には 至 っていない.しかし 一 方 では, 非 侵 襲 型 人 工 呼 吸 療 法 や 人 工 呼 吸 器 の 進 歩,また 新 しい 介 護 ケアの 考 え 方 は 患 者 の QOL の 改 善 に 役 立 っている.さらに 病 因 遺 伝 子 や 病 態 分 子 の 発 見 やそれに 基 づく 病 態 理 解 は 急 速 な 進 展 を 見 せており, 近 い 将 来 には 運 動 ニュー ロンの 変 性 そのものを 抑 止 する disease-modifying therapy が 実 現 できるのではないかとの 予 感 も 出 てきている. 本 書 では ALS 運 動 ニューロン 疾 患 を 基 礎, 臨 床 を 問 わず,できるだけ 多 面 的 にとらえ,そ の 現 状 の 全 体 像 と 将 来 への 展 望 を 見 据 える 企 画 に 心 がけた.この 領 域 のわが 国 のリーダーで, かつ 世 界 の 動 向 を 見 通 せる 研 究 者 にそれぞれ 最 も 得 意 な 分 野 をご 執 筆 いただいた.これだけ 網 羅 的 に ALS と 運 動 ニューロン 疾 患 を 論 じた 書 は 初 めてではないかと 考 える. 読 者 は, 本 書 によっ て ALS と 運 動 ニューロン 疾 患 の 現 状 を 把 握 するとともに, 将 来 何 を 目 指 すべきかを 是 非 考 えて いただきたいと 思 う.その 意 味 で 提 言 の 書 でもあると 考 えている. ALS 運 動 ニューロン 疾 患 研 究 には 大 きなエポック 的 な 流 れが 見 られる. 病 因 遺 伝 子 発 見 の 流 れは, 最 近 の 次 世 代 シークエンサーの 導 入 によってその 速 度 をさらに 増 そうとしている.ALS と 前 頭 側 頭 葉 変 性 症 (FTLD)との 関 連 が 明 らかになってきて, 従 来 は 別 の 疾 患 と 思 われていた ものが 同 一 の 病 態 の 中 で 考 えられ 始 めている.iPS 細 胞 などを 利 用 した 病 態 解 明 や 治 療 法 開 発 への 進 展 が 見 られる.さらに 球 脊 髄 性 筋 萎 縮 症 や 脊 髄 性 筋 萎 縮 症 についても 病 態 理 解 とそれに 基 づく 治 療 への 試 みは, 大 きな 進 歩 である. 一 方 では, 緩 和 医 療, 災 害 医 療, 呼 吸 栄 養 管 理 など 新 しい 考 え 方 に 基 づく 進 展 が 見 られる. 本 書 では,これらの 問 題 につきその 重 要 性 や 発 展 の 流 れが 理 解 できるように 記 述 が 進 められている.また 付 随 して 知 っておいてもらいたい 点 など は 適 宜 Column として 取 り 上 げ 解 説 を 加 えていただいた. 是 非 利 用 していただきたい. 一 方 で,C9ORF72 遺 伝 子, 変 異 蛋 白 質 のプロパゲーション 説 (これは Column で 取 り 上 げら れている), 治 験 の 新 たなストラテジー,HGF( 肝 細 胞 由 来 成 長 因 子 ) 治 療,ブレインマシンイ ンターフェースによる 治 療 開 発 など,いくつかの 重 要 な 項 目 が 今 回 は 積 み 残 しになった. 急 速 な 進 展 を 示 す 領 域 ではやむを 得 ない 面 もあるが, 今 後 の 改 訂 などの 折 にできれば 加 えていきたい と 考 える. 本 書 が,ALS 運 動 ニューロン 疾 患 に 関 心 を 持 つ 多 くの 人 にとって 日 常 診 療, 研 究, 介 護 ケ アを 実 践 するうえで,また 現 状 理 解 と 将 来 の 展 望 を 描 くうえで 役 立 つことを 期 待 するものである. 2013 年 5 月 名 古 屋 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 教 授 祖 父 江 元

vi アクチュアル 脳 神 経 疾 患 の 臨 床 すべてがわかる ALS( 筋 萎 縮 性 側 索 硬 化 症 ) 運 動 ニューロン 疾 患 Contents I. 運 動 系 の 構 造 と 機 能 運 動 ニューロンの 構 造 と 機 能 松 井 利 康, 小 林 靖 2 II.ALS の 臨 床 像 と 診 断 ALS の 神 経 症 候 と 鑑 別 診 断 佐 々 木 彰 一 14 ALS と 頸 椎 症 との 鑑 別 のポイント 20 ALS の 診 断 基 準 と 疫 学, 自 然 歴 熱 田 直 樹 23 ALS の 診 断 基 準 をめぐる 問 題 点 28 ALS の 電 気 生 理 学 的 検 査 野 寺 裕 之, 梶 龍 兒 31 ALS における 運 動 ニューロン 軸 索 興 奮 性 の 変 化 桑 原 聡 41 ALS の 画 像 所 見 岩 田 信 恵, 宇 川 義 一 49 拡 散 テンソルのパラメータ 53 ALS における 高 次 脳 機 能 障 害 市 川 博 雄, 河 村 満 57 病 識 の 欠 如 無 関 心 60 本 邦 初 の 失 語 症 症 例 報 告 61 ディベート ALS / MND と 書 字 障 害 62 III.ALS と 関 連 運 動 ニューロン 疾 患 孤 発 性 ALS 中 野 今 治 66 ディベート 蓄 積 蛋 白 の prionoid 仮 説 73 ALS と FTLD 豊 島 靖 子, 高 橋 均 75 FTLD と PLS 76 ポリグルタミン 病 (SCA 2)と ALS の 関 係 78 球 麻 痺? 偽 性 球 麻 痺? それとも 失 語? 81 広 汎 性 ALS の 病 理 村 山 繁 雄, 高 尾 昌 樹, 今 福 一 郎, 齊 藤 祐 子 83 ディベート プリオノパチー 仮 説 について 92 c9als / FTD 92 家 族 性 ALS 渡 辺 保 裕, 中 島 健 二 94 原 発 性 側 索 硬 化 症 岡 本 幸 市, 藤 田 行 雄 100

vii ディベート 原 発 性 側 索 硬 化 症 (PLS)は 独 立 した 疾 患 か,ALS の 亜 型 か 102 下 位 運 動 ニューロン 障 害 型 運 動 ニューロン 疾 患 熱 田 直 樹 105 球 脊 髄 性 筋 萎 縮 症 坂 野 晴 彦, 勝 野 雅 央, 祖 父 江 元 109 SBMA と BSMA さまざまな 呼 称 110 脊 髄 性 筋 萎 縮 症 斎 藤 加 代 子, 久 保 祐 二 116 紀 伊 グアムの ALS 葛 原 茂 樹 125 平 山 病 ( 若 年 性 一 側 上 肢 筋 萎 縮 症 ) 得 丸 幸 夫 135 Asidan の 臨 床 的 特 徴 阿 部 康 二 140 IV.ALS の 病 態 関 連 遺 伝 子 と 遺 伝 子 変 異 SOD1 森 田 光 哉 150 ディベート 変 異 SOD1 トランスジェニックマウスは ALS の 動 物 モデルといえるか 154 ALS2 / Alsin 大 友 麻 子, 白 川 健 太 郎, 宮 嶋 裕 明, 秦 野 伸 二 157 TDP-43 横 関 明 男, 西 澤 正 豊, 小 野 寺 理 166 ALS10 変 異 は TDP-43 の 機 能 や 量 に 関 与 しているか 170 ディベート ALS 発 症 は,TDP-43 の gain of toxic function か? それとも loss of normal function か? 171 FUS / TLS 青 木 正 志, 鈴 木 直 輝, 割 田 仁 173 Optineurin 丸 山 博 文, 川 上 秀 史 181 劣 性 遺 伝 性 疾 患 の 原 因 遺 伝 子 の 同 定 182 ALS の 関 連 遺 伝 子 解 析 ゲノムワイド 関 連 解 析 の 発 展 と 現 状 を 中 心 に 曽 根 淳, 田 中 章 景, 祖 父 江 元 188 ALS の 分 子 疫 学 と 遺 伝 子 解 析 の 展 望 髙 橋 祐 二 194 V.ALS の 病 態 グルタミン 酸 受 容 体 の RNA 編 集 異 常 郭 伸 204 加 齢 と ALS 209 軸 索 輸 送 障 害 池 中 建 介, 田 中 章 景 214 ALS と 酸 化 ストレス 阿 部 康 二 224

viii すべてがわかる ALS( 筋 萎 縮 性 側 索 硬 化 症 ) 運 動 ニューロン 疾 患 Contents グリア 関 連 病 態 山 中 宏 二, 小 峯 起 233 RNA 結 合 蛋 白 質 (TDP-43, FUS) 山 下 万 貴 子, 長 谷 川 成 人 239 神 経 変 性 疾 患 の propagation theory 240 異 常 TDP-43 の 生 化 学 的 特 徴 242 オートファジー 佐 々 木 彰 一 245 ALS の 動 物 モデル 横 田 隆 徳, 阿 部 圭 輔 252 TDP-43 の 霊 長 類 モデル 257 ディベート ALS 動 物 モデルの 今 後 258 ALS のバイオマーカー 立 石 貴 久, 吉 良 潤 一 260 VI.ALS および 関 連 運 動 ニューロン 疾 患 の 治 療 と 介 護 運 動 ニューロン 疾 患 に 対 する 再 生 医 療 の 展 望 江 川 斉 宏, 井 上 治 久 268 人 工 多 能 性 幹 細 胞 (induced pluripotent stem cells:ipscs ips 細 胞 ) 269 ALS におけるワクチン 抗 体 療 法 の 開 発 漆 谷 真 275 ディベート 孤 発 性 ALS における SOD1 の 関 与 は? 279 グリアを 標 的 とした 運 動 ニューロン 疾 患 の 治 療 戦 略 錫 村 明 生 282 ディベート ミクログリアのサブタイプは 存 在 するか 286 球 脊 髄 性 筋 萎 縮 症 に 対 する 分 子 標 的 治 療 法 の 開 発 勝 野 雅 央, 足 立 弘 明, 祖 父 江 元 288 SBMA における 非 細 胞 自 律 性 神 経 変 性 292 ALS の 治 療 の 現 状 と 展 望 臨 床 治 験 のレビューを 含 めて: 米 国 を 中 心 に 三 本 博 295 ALS に 対 する 緩 和 医 療 宮 川 沙 織, 荻 野 美 恵 子 306 その 他 オピオイドについて 308 terminal sedation について 312 ALS の 介 護 呼 吸 器 装 着 栄 養 管 理 成 田 有 吾 314 制 度 の 問 題 点 と 対 応 介 護 職 員 等 によるたんの 吸 引 等 316 ALS に 対 するリハビリテーション 佐 藤 裕 康, 加 藤 丈 夫 323 ALS と 運 動 負 荷 325 災 害 医 療 における 難 病 対 策 和 田 千 鶴, 豊 島 至, 青 木 正 志 329

ix Case Study CASE 1 緩 徐 進 行 性 の 舌 萎 縮 と 四 肢 の 運 動 感 覚 障 害, 起 立 性 低 血 圧 を 呈 する 68 歳 男 性 中 村 勝 哉, 吉 田 邦 広, 池 田 修 一 336 CASE 2 進 行 性 の 構 音 嚥 下 障 害, 失 語 および 書 字 障 害 を 呈 する 70 歳 女 性 大 久 保 卓 哉, 水 澤 英 洋 341 CASE 3 2 か 月 前 から 飲 み 込 みにくさ, 呂 律 困 難 が 出 現 した 35 歳 男 性 吉 田 眞 理 346 CASE 4 頸 椎 症 と ALS の 鑑 別 診 断 が 問 題 の 両 上 肢 筋 力 低 下 の 69 歳 女 性 安 藤 哲 朗, 稲 垣 智 則 351 CASE 5 幼 少 時 から 凹 足 があり,その 後, 四 肢 筋 力 低 下, 感 覚 障 害, 排 尿 障 害 が 出 現 し, 緩 徐 進 行 性 の 経 過 を 示 した 41 歳 男 性 雑 賀 徹, 吉 良 潤 一 356 付 録 ALS 関 連 Web サイト 362 索 引 364 読 者 への 注 意 本 書 では, 医 薬 品 の 適 応, 副 作 用, 用 量 用 法 等 の 情 報 について 極 力 正 確 な 記 載 を 心 がけておりますが, 常 にそれらは 変 更 となる 可 能 性 があります. 読 者 には 当 該 医 薬 品 の 製 造 者 による 最 新 の 医 薬 品 情 報 ( 添 付 文 書 )を 参 照 することが 強 く 求 められま す. 著 者, 編 者,および 出 版 社 は, 本 書 にある 情 報 を 適 用 することによって 生 じた 問 題 について 責 任 を 負 うものではなく,また, 本 書 に 記 載 された 内 容 についてすべ てを 保 証 するものではありません. 読 者 ご 自 身 の 診 療 に 応 用 される 場 合 には, 十 分 な 注 意 を 払 われることを 要 望 いたします. 中 山 書 店

x 執 筆 者 一 覧 ( 執 筆 順 ) 松 井 利 康 防 衛 医 科 大 学 校 解 剖 学 講 座 岡 本 幸 市 公 益 財 団 法 人 老 年 病 研 究 所 所 長 小 林 靖 防 衛 医 科 大 学 校 解 剖 学 講 座 藤 田 行 雄 群 馬 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 脳 神 経 内 科 学 佐 々 木 彰 一 東 京 女 子 医 科 大 学 神 経 内 科 坂 野 晴 彦 名 古 屋 大 学 PhD 登 龍 門 推 進 室 / 名 古 屋 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 熱 田 直 樹 名 古 屋 大 学 医 学 部 附 属 病 院 神 経 内 科 勝 野 雅 央 名 古 屋 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 野 寺 裕 之 徳 島 大 学 病 院 神 経 内 科 祖 父 江 元 名 古 屋 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 梶 龍 兒 徳 島 大 学 病 院 神 経 内 科 斎 藤 加 代 子 東 京 女 子 医 科 大 学 附 属 遺 伝 子 医 療 セン ター / 同 大 学 院 先 端 生 命 医 科 学 系 専 攻 遺 伝 子 医 学 分 野 桑 原 聡 千 葉 大 学 大 学 院 医 学 研 究 院 神 経 内 科 学 久 保 祐 二 東 京 女 子 医 科 大 学 大 学 院 先 端 生 命 医 科 学 系 専 攻 遺 伝 子 医 学 分 野 岩 田 信 恵 国 際 医 療 福 祉 大 学 三 田 病 院 神 経 内 科 葛 原 樹 鈴 鹿 医 療 科 学 大 学 保 健 衛 生 学 部 医 療 福 祉 学 科 宇 川 義 一 福 島 県 立 医 科 大 学 医 学 部 神 経 内 科 学 講 座 得 丸 幸 夫 得 丸 医 院 院 長 市 川 博 雄 昭 和 大 学 藤 が 丘 病 院 脳 神 経 内 科 阿 部 康 二 岡 山 大 学 大 学 院 医 歯 薬 学 総 合 研 究 科 脳 神 経 内 科 学 河 村 満 昭 和 大 学 医 学 部 内 科 学 講 座 神 経 内 科 学 部 門 森 田 光 哉 自 治 医 科 大 学 医 学 部 内 科 学 講 座 神 経 内 科 学 部 門 中 野 今 治 東 京 都 立 神 経 病 院 院 長 大 友 麻 子 東 海 大 学 医 学 部 医 学 科 基 礎 医 学 系 分 子 生 命 科 学 豊 島 靖 子 新 潟 大 学 脳 研 究 所 病 態 神 経 科 学 部 門 病 理 学 分 野 白 川 健 太 郎 浜 松 医 科 大 学 内 科 学 第 一 ( 消 化 器 腎 臓 神 経 内 科 学 分 野 ) 講 座 高 橋 均 新 潟 大 学 脳 研 究 所 病 態 神 経 科 学 部 門 病 理 学 分 野 宮 嶋 裕 明 浜 松 医 科 大 学 内 科 学 第 一 ( 消 化 器 腎 臓 神 経 内 科 学 分 野 ) 講 座 村 山 繁 雄 東 京 都 健 康 長 寿 医 療 センター 神 経 内 科 バイ オリソースセンター( 高 齢 者 ブレインバンク) 秦 野 伸 二 東 海 大 学 医 学 部 医 学 科 基 礎 医 学 系 分 子 生 命 科 学 高 尾 昌 樹 東 京 都 健 康 長 寿 医 療 センター 研 究 所 神 経 病 理 学 ( 高 齢 者 ブレインバンク) 横 関 明 男 新 潟 大 学 コア ステーション 医 歯 学 系 附 置 臓 器 連 関 研 究 センター 今 福 一 郎 横 浜 労 災 病 院 神 経 内 科 西 澤 正 豊 新 潟 大 学 脳 研 究 所 臨 床 神 経 科 学 部 門 神 経 内 科 学 分 野 齊 藤 祐 子 国 立 精 神 神 経 医 療 研 究 センター 病 院 臨 床 検 査 部 小 野 寺 理 新 潟 大 学 脳 研 究 所 生 命 科 学 リソース 研 究 センター 分 子 神 経 疾 患 資 源 解 析 学 分 野 渡 辺 保 裕 鳥 取 大 学 医 学 部 脳 神 経 内 科 学 分 野 青 木 正 志 東 北 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 学 / 東 北 大 学 病 院 ALS 治 療 開 発 センター 中 島 健 二 鳥 取 大 学 医 学 部 脳 神 経 内 科 学 分 野 鈴 木 直 輝 東 北 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 学

xi 割 田 仁 東 北 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 学 / 東 北 大 学 病 院 ALS 治 療 開 発 センター 錫 村 明 生 名 古 屋 大 学 環 境 医 学 研 究 所 神 経 免 疫 分 野 丸 山 博 文 広 島 大 学 大 学 院 医 歯 薬 保 健 学 研 究 院 脳 神 経 内 科 学 足 立 弘 明 名 古 屋 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 川 上 秀 史 広 島 大 学 原 爆 放 射 線 医 科 学 研 究 所 分 子 疫 学 研 究 分 野 三 本 博 コロンビア 大 学 神 経 内 科 / ALS 研 究 セン ター 曽 根 淳 名 古 屋 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 宮 川 沙 織 北 里 大 学 医 学 部 神 経 内 科 学 田 中 章 景 横 浜 市 立 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 学 脳 卒 中 医 学 荻 野 美 恵 子 北 里 大 学 医 学 部 神 経 内 科 学 髙 橋 祐 二 郭 伸 池 中 建 介 国 立 精 神 神 経 医 療 研 究 センター 神 経 内 科 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 疾 患 生 命 工 学 センター 臨 床 医 工 学 部 門 / 国 際 医 療 福 祉 大 学 臨 床 医 学 研 究 センター 名 古 屋 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 神 経 内 科 成 田 有 吾 三 重 大 学 医 学 部 看 護 学 科 佐 藤 裕 康 山 形 大 学 医 学 部 内 科 学 第 三 講 座 ( 神 経 内 科 ) 加 藤 丈 夫 山 形 大 学 医 学 部 内 科 学 第 三 講 座 ( 神 経 内 科 ) 山 中 宏 二 名 古 屋 大 学 環 境 医 学 研 究 所 病 態 神 経 科 学 分 野 和 田 千 鶴 国 立 病 院 機 構 あきた 病 院 神 経 内 科 小 峯 起 理 化 学 研 究 所 脳 科 学 総 合 研 究 センター 運 動 ニューロン 変 性 研 究 チーム 豊 島 至 国 立 病 院 機 構 あきた 病 院 副 院 長 山 下 万 貴 子 東 京 都 医 学 総 合 研 究 所 認 知 症 高 次 脳 機 能 分 野 中 村 勝 哉 信 州 大 学 医 学 部 附 属 病 院 遺 伝 子 診 療 部 長 谷 川 成 人 東 京 都 医 学 総 合 研 究 所 認 知 症 高 次 脳 機 能 分 野 吉 田 邦 広 信 州 大 学 医 学 部 神 経 難 病 学 講 座 分 子 遺 伝 学 部 門 横 田 隆 徳 東 京 医 科 歯 科 大 学 大 学 院 医 歯 学 総 合 研 究 科 脳 神 経 病 態 学 ( 神 経 内 科 学 ) 分 野 池 田 修 一 信 州 大 学 医 学 部 内 科 学 第 三 講 座 ( 脳 神 経 内 科,リウマチ 膠 原 病 内 科 ) 阿 部 圭 輔 東 京 医 科 歯 科 大 学 大 学 院 医 歯 学 総 合 研 究 科 脳 神 経 病 態 学 ( 神 経 内 科 学 ) 分 野 大 久 保 卓 哉 東 京 医 科 歯 科 大 学 大 学 院 医 歯 学 総 合 研 究 科 脳 神 経 病 態 学 ( 神 経 内 科 学 ) 分 野 立 石 貴 久 飯 塚 病 院 神 経 内 科 水 澤 英 洋 東 京 医 科 歯 科 大 学 大 学 院 医 歯 学 総 合 研 究 科 脳 神 経 病 態 学 ( 神 経 内 科 学 ) 分 野 吉 良 潤 一 九 州 大 学 大 学 院 医 学 研 究 院 神 経 内 科 学 吉 田 眞 理 愛 知 医 科 大 学 加 齢 医 科 学 研 究 所 江 川 斉 宏 京 都 大 学 ips 細 胞 研 究 所 安 藤 哲 朗 安 城 更 生 病 院 神 経 内 科 井 上 治 久 京 都 大 学 ips 細 胞 研 究 所 稲 垣 智 則 安 城 更 生 病 院 神 経 内 科 漆 谷 真 滋 賀 医 科 大 学 分 子 神 経 科 学 研 究 センター 神 経 難 病 治 療 学 分 野 雑 賀 徹 済 生 会 福 岡 総 合 病 院 神 経 内 科 脳 血 管 内 科

14 II. ALSの 臨 床 像 と 診 断 II. ALS の 臨 床 像 と 診 断 ALS の 神 経 症 候 と 鑑 別 診 断 古 典 型 ALS の 臨 床 症 候 は, 下 位 運 動 ニューロン 症 状, 球 麻 痺 症 状 および 上 位 運 動 ニューロ ン 症 状 の 3 つの 症 状 から 成 る. 脊 髄 性 進 行 性 筋 萎 縮 症, 進 行 性 球 麻 痺, 原 発 性 側 索 硬 化 症 の 多 くは,ALS と 同 一 の 病 的 過 程 が 異 なった 表 現 をとるものと 理 解 され, 運 動 ニューロン 疾 患 と 総 称 される. 症 状 の 進 行 は, 一 側 の 脊 髄 の 局 所 的 部 位 から 他 側 へ, 解 剖 学 的 に 連 続 性 をもって 節 性 に 水 平 性 に 進 行 することが 多 く,その 後 さらに 脊 髄 内 での 垂 直 性 進 行 が 生 じる. 最 近, 神 経 変 性 疾 患 の 病 態 仮 説 として,プリオン 様 の 進 展 様 式 が 注 目 されている.すなわち, ALS の 病 変 は 初 発 部 位 を 起 点 として 連 続 性 の 進 展 形 式 を 示 すことが 多 い. ALS の 亜 型 には,ヴュルピアン 型 (flail arm syndrome), 偽 多 発 神 経 炎 型 (flail leg syndrome), 片 麻 痺 型, 多 系 統 病 変 型 ( 広 範 型 )などがある. 鑑 別 すべき 疾 患 として, 頸 椎 症 性 筋 萎 縮 症 (キーガン 型 ), 封 入 体 筋 炎, 多 巣 性 運 動 性 ニュー ロパチー,キアリ I 型 奇 形, 球 脊 髄 性 筋 萎 縮 症 などがある. ALS の 概 念 *1 本 巻 III. ALS と FTLD (p.75) 参 照. *2 本 巻 IV. SOD1 (p.150), TDP-43 (p.166), FUS / TLS (p.173) 参 照. 筋 萎 縮 性 側 索 硬 化 症 (amyotrophic lateral sclerosis:als)は, 随 意 筋 を 支 配 する 上 位 ( 一 次 )( 大 脳 皮 質 運 動 野 )および 下 位 ( 二 次 )( 脊 髄 前 角 細 胞 お よび 脳 幹 部 運 動 諸 核 ) 運 動 ニューロンが 選 択 的 に 侵 される, 進 行 性 の 神 経 変 性 疾 患 である. 臨 床 的 には, 上 位 運 動 ニューロンの 障 害 による 腱 反 射 亢 進 な らびにバビンスキー 徴 候 と, 下 位 運 動 ニューロンの 障 害 による 四 肢 の 筋 力 低 下 と 筋 萎 縮, 線 維 束 性 収 縮,および 球 麻 痺 症 状 ( 延 髄 IX X XII 核 )によ る 嚥 下 障 害, 構 音 障 害, 舌 の 筋 萎 縮 がみられる.ただ 例 外 的 に, 外 眼 筋 や 外 括 約 筋 は 随 意 筋 であるのに 侵 されない. 一 般 的 には 末 期 になっても 感 覚 障 害, 眼 球 運 動 障 害, 膀 胱 直 腸 障 害 および 褥 瘡 がみられず, 四 大 陰 性 徴 候 として 有 名 である.その 他, 小 脳 症 状,パーキンソニズムおよび 自 律 神 経 障 害 なども みられない. 一 般 に 他 覚 的 感 覚 障 害 を 欠 くが, 初 期 には 自 覚 的 なしびれや 痛 みを 伴 うことがまれではない.かつては ALS に 認 知 症 は 伴 わないとされて きたが, 前 頭 葉 機 能 障 害 で 特 徴 づけられる 認 知 機 能 障 害 を 併 発 することが 報 告 さ れ て い る( 認 知 症 を 伴 う ALS あ る い は FTLD-MND frontotemporal lobar degeneration with motor neuron disease ) * 1.ALS の 多 くは 孤 発 性 である が, 最 近, 孤 発 性 ALS と 思 われた 症 例 でも, 従 来 から 知 られている SOD1 のほか,TDP-43,FUS / TLS などの 新 しい 遺 伝 子 異 常 が 続 々と 発 見 されてい る * 2.

ALSの 神 経 症 候 と 鑑 別 診 断 15 ALS の 神 経 症 候 古 典 型 ALS の 臨 床 症 候 は, 下 位 運 動 ニューロン 症 状, 球 麻 痺 症 状 および 上 位 運 動 ニューロン 症 状 の 3 つの 症 状 から 成 る. 下 位 運 動 ニューロン 症 状 の みがみられる 場 合 は 脊 髄 性 進 行 性 筋 萎 縮 症 (progressive muscular atrophy: PMA あるいは spinal muscular atrophy IV:SMA IV 型 ), 球 麻 痺 症 状 のみの 場 合 は 進 行 性 球 麻 痺 (progressive bulbar palsy:pbp), 上 位 運 動 ニューロン 症 状 のみの 場 合 は 原 発 性 側 索 硬 化 症 (primary lateral sclerosis:pls)と 呼 ばれる. PMA,PBP,PLS の 多 くは ALS と 同 一 の 病 的 過 程 が 異 なった 表 現 をとるも のと 理 解 され, 運 動 ニューロン 疾 患 と 総 称 される. 一 般 に,PMA と PBP は 2 年 以 内 に 上 位 運 動 ニューロン 徴 候 が 現 れて ALS に 移 行 することが 多 い. 下 位 運 動 ニューロン 症 状 筋 力 低 下, 筋 萎 縮, 線 維 束 性 収 縮, 腱 反 射 の 低 下 あるいは 消 失 などがある. 四 肢 の 筋 力 低 下 が 初 発 になることが 多 く( 約 60~70%),その 分 布 は 左 右 非 対 称 性 で, 前 角 細 胞 の 変 性 脱 落 に 対 応 して 節 性 であることが 多 い. 四 肢 発 症 では, 最 も 典 型 的 な 場 合, 一 側 上 肢 遠 位 部 の 手 首 より 遠 位 に 起 始 と 終 始 をも つ 小 手 筋 ( 手 内 筋 )から 始 まるが, 下 肢 遠 位 部 の 筋 力 低 下 および 筋 萎 縮 で 始 まる 場 合 もあり, 上 下 肢 の 初 発 頻 度 はほぼ 同 等 であるとの 報 告 もある 1-3). 線 維 束 性 収 縮 は 早 期 に 多 くみられ, 後 期 には 消 失 する 傾 向 があるが 1,2), 全 経 過 でみると ALS の 90%に 認 められる. 線 維 束 性 収 縮 は 随 意 筋 の 至 るとこ ろでみられるが, 多 いのは 上 肢 と, 顔 面 では 眼 輪 筋 や 口 の 周 囲, 特 に 下 顎 の 頤 筋 である. 筋 の cramp は 初 発 症 状 としては 10%に 認 められ 2), 経 過 とと * もに 減 少 あるいは 消 失 する. 病 期 が 進 行 すると,つまみ 徴 候 3 がみられる ようになる. 上 肢 の 下 位 運 動 ニューロン 症 状 初 期 には 短 母 指 外 転 筋 と 第 一 背 側 骨 間 筋 の 萎 縮 が 認 められるが, 小 指 球 筋 は 保 たれる 解 離 性 小 手 筋 萎 縮 (split hand)が 認 められる 4). 進 行 期 では 小 指 球 筋 も 萎 縮 して 手 掌 全 体 が 平 坦 化 し,アラン デュシェンヌの 手 あるいは 猿 手 (1)を 呈 する.さらに 筋 萎 縮 が 進 行 すると,PIP 関 節 と DIP 関 節 の 屈 曲 が 強 まり, 手 指 が 強 く 屈 曲 した 鉤 手 あるいは 鷲 手 を 呈 するようになる. 筋 萎 縮 が 上 行 して 前 腕 遠 位 側 に 及 ぶと,カフス 型 の 筋 萎 縮 と 呼 ばれる. 筋 萎 縮 はさらに 進 行 して 対 側 にも 及 び,また 近 位 筋 にも 同 様 の 症 状 がみられるよ うになる. 初 期 の 段 階 では, 通 常, 伸 筋 群 と 屈 筋 群 の 間 で 筋 力 低 下 の 程 度 に 相 違 がみられるが, 後 期 になると, 伸 筋 も 屈 筋 も 同 様 に 高 度 に 障 害 され, 関 節 の 拘 縮 などの 合 併 症 が 認 められる. 特 に 手 関 節 や 肩 関 節 によくみられ, 手 指 の 屈 曲 性 拘 縮 や 肩 関 節 の 疼 痛 性 の frozen shoulder( 五 十 肩 ) が 生 ずる. 体 軸 性 の 下 位 運 動 ニューロン 症 状 頸 部 の 伸 筋 群 の 筋 力 低 下 で 首 下 がりが, 胸 部 および 上 部 腰 部 の 傍 脊 柱 筋 の 筋 力 低 下 で 脊 柱 後 彎 がみられ,また, 腹 筋 の 筋 力 低 下 で 仰 臥 位 からの 起 き 上 *3 皮 膚 をつまんで 離 すと 皮 膚 の 盛 り 上 がりがすぐには 元 に 戻 らない. Memo 解 離 性 小 手 筋 萎 縮 (split hand) 頸 椎 症 などで 尺 骨 神 経 が 障 害 されると, 尺 骨 神 経 支 配 (C8 > Th1)である 小 指 球 筋 と 第 一 背 側 骨 間 筋 は, 通 常, 一 緒 に 障 害 される. 他 方,ALS で は, 初 期 の 段 階 では 短 母 指 外 転 筋 ( 正 中 神 経 支 配 :Th1 > C8) と 第 一 背 側 骨 間 筋 の 筋 萎 縮 がみられても, 小 指 球 筋 は 比 較 的 保 たれることが 多 く, 同 じ 尺 骨 神 経 支 配 であ りながら, 第 一 背 側 骨 間 筋 と 小 指 球 筋 の 筋 萎 縮 の 程 度 に 解 離 が み ら れ る(split hand) 4). 一 般 に, 頸 椎 症 性 筋 萎 縮 症 では, 短 母 指 外 転 筋 は 保 たれることが 多 い.

16 II. ALSの 臨 床 像 と 診 断 1 アラン デュシェンヌの 手 A B Memo 腹 壁 反 射 ゆっくり 腹 式 呼 吸 をさせな がら, 吸 気 相 から 呼 気 相 に 移 行 した 直 後 に 腹 部 の 外 側 から 内 側 に 向 かって 刺 激 を 与 える. 錐 体 路 病 変 がある と 腹 壁 反 射 はその 側 で 消 失 するが, 肥 満 者, 高 齢 者, 経 産 婦, 腹 部 手 術 の 経 験 者, 末 梢 神 経 障 害 で 腹 部 の 感 覚 障 害 を 伴 う 場 合 には, 両 側 の 腹 壁 反 射 が 消 失 している ことが 多 い. 腹 壁 反 射 が 消 失 しているにもかかわら ず, 腹 直 筋 反 射, 肋 骨 弓 反 射 ( 肋 骨 弓 をハンマーで 叩 き,その 側 の 腹 斜 筋 の 収 縮 をみる), 恥 骨 反 射 などの 腹 筋 反 射 が 亢 進 していると きは, 錐 体 路 障 害 の 可 能 性 が 高 い.また, 腹 壁 反 射 は 脊 髄 病 変 のレベルの 決 定 に も 意 義 がある.すなわち, 腹 壁 の 下 方 から 上 方 に 向 かって 調 べていき, 反 射 を 誘 発 できる 部 位 の 直 下 に, 脊 髄 レベルの 錐 体 路 病 変 が 存 在 すると 推 定 できる. A: 手 掌 側. 右 手 の 母 指 球 筋 および 小 指 球 筋 が 萎 縮 して 手 掌 は 平 坦 化 している( 猿 手 ). B: 背 側 側. 右 手 の 背 側 骨 間 筋 の 萎 縮 がみられる. がりや 咳 嗽 が 困 難 となる. 横 隔 膜 の 筋 力 低 下 による 呼 吸 不 全 が 起 こり,しば しば ALS の 死 因 に 関 与 する. 呼 吸 不 全 は 典 型 的 には ALS の 末 期 症 状 として みられるが,まれに 初 発 症 状 のことがある( 呼 吸 筋 麻 痺 型, 約 5%). 下 肢 の 下 位 運 動 ニューロン 症 状 遠 位 筋, 特 に 足 背 屈 筋 や 足 首 の 回 旋 筋 の 筋 力 低 下 で, 足 の 下 垂 やつまずき がみられることが 多 い. 筋 力 低 下 は 上 行 し, 階 段 の 昇 降 や 椅 子 からの 起 立 な どが 困 難 となり, 最 終 的 には 歩 行 や 起 立 が 不 能 になる. 下 肢 筋 力 低 下 による 合 併 症 として, 転 倒 と, 下 肢 から 心 臓 への 静 脈 還 流 における 筋 収 縮 による 補 助 作 用 の 欠 如 から 生 ずる 浮 腫 がある. 球 麻 痺 症 状 Memo 軟 口 蓋 反 射 片 側 の 口 蓋 帆 を 外 側 から 正 中 に 向 けて 軽 く 擦 過 する と, 両 側 性 に 口 蓋 帆 が 収 縮 して 軟 口 蓋 全 体 が 挙 上 する. 両 側 性 の 上 位 運 動 ニューロン 障 害 である 偽 性 球 麻 痺 では, 軟 口 蓋 反 射 は 消 失 する. 一 側 性 の 舌 咽 神 経 障 害 で 軟 口 蓋 の 感 覚 が 障 害 されると, 擦 過 しても 軟 口 蓋 反 射 は 出 現 しない. 両 側 性 の 下 位 運 動 ニューロン 障 害 である 球 麻 痺 では, 通 常, 軟 口 蓋 反 射 は 消 失 しな い. *4 嚥 下 障 害 や 構 音 障 害 がみら れるが, 球 麻 痺 と 異 なり, 舌 の 筋 萎 縮 および 線 維 束 性 収 縮 はみられない. 嚥 下 障 害 や 構 音 障 害 がみられる. 球 麻 痺 症 状 で 初 発 する 症 例 では, 鼻 声 な どの 構 音 障 害 が 多 く,ALS の 約 25%の 症 例 でみられ, 四 肢 発 症 例 よりも 幾 分 高 齢 かつ 女 性 であることが 多 い 1-3). 口 腔 内 および 顔 面 で 症 状 がみられる ときは, 両 側 性 かつ 対 称 性 である. 臨 床 徴 候 として, 舌 に 筋 萎 縮 (2)や 線 維 束 性 収 縮 がみられ, 咽 頭 反 射 は 低 下 ないし 消 失 する. 球 麻 痺 による 誤 嚥 性 肺 炎 から 呼 吸 不 全 が 生 じ,しばしば ALS の 死 因 に 関 与 する. 上 位 運 動 ニューロン 症 状 痙 性 麻 痺, 四 肢 腱 反 射 の 亢 進, 病 的 反 射 (ホフマン 徴 候 陽 性,バビンスキ ー 徴 候 陽 性, 腹 壁 反 射 消 失, 挙 睾 筋 反 射 消 失 など),クローヌス( 間 代 )な どがみられる. 両 側 の 皮 質 核 路 の 障 害 で 下 顎 反 射 の 亢 進, 軟 口 蓋 反 射 消 失 ( 咽 頭 反 射 はむしろ 亢 進 することが 多 い), 頭 後 屈 反 射 出 現, 強 制 笑 い, 強 制 泣 き, * 偽 性 球 麻 痺 4 などがみられる. 歩 行 は 痙 性 麻 痺 を 呈 し, 緩 徐 で 努 力 性 である.

ALSの 神 経 症 候 と 鑑 別 診 断 17 2 舌 の 筋 萎 縮 認 知 機 能 障 害 最 近,MRI などの 画 像 所 見,PET および SPECT,あるいは 神 経 心 理 など の 広 い 分 野 からのアプローチで,ALS と 前 頭 側 頭 葉 変 性 症 (FTLD)はしば しば 併 存 し,ALS 患 者 の 約 50%は 経 過 中 に 人 格 変 化, 行 動 障 害 ( 異 常 ), 言 語 障 害, 遂 行 機 能 障 害 などの 前 頭 葉 機 能 障 害 で 特 徴 づけられる 認 知 機 能 障 害 を 併 発 することが 報 告 されている( 認 知 症 を 伴 う ALS あるいは FTLD- MND) 5). ALS の 陰 性 徴 候 感 覚 障 害, 眼 球 運 動 障 害, 膀 胱 直 腸 障 害, 褥 瘡 の 四 大 陰 性 徴 候 が 有 名 であ る.その 他, 小 脳 症 状, 錐 体 外 路 症 状, 自 律 神 経 症 状 なども 認 められない. 陰 性 徴 候 は,ALS の 発 症 早 期 ではみられないが, 末 期 では 眼 球 運 動 障 害 を 伴 う 症 例 がある. 特 に, 臨 床 経 過 が 速 く, 発 症 から 比 較 的 早 期 ( 約 1.5 年 以 内 ) に 人 工 呼 吸 器 の 装 着 に 至 る 症 例 の 中 には, 早 期 から 眼 球 運 動 障 害 をはじめ 感 覚 障 害 や 自 律 神 経 障 害 を 伴 い, 運 動 系 を 超 えて 広 範 囲 の 病 変 を 呈 する 一 群 が ある( 広 範 型 ALS). 臨 床 経 過 症 状 の 進 行 は, 典 型 的 には 一 側 の 局 所 的 部 位 から 他 側 へ,たとえば 一 側 の 頸 髄 から 対 側 の 頸 髄 へというように, 解 剖 学 的 に 連 続 性 をもって 節 性 に 水 平 性 の 進 行 をすることが 多 く, 脊 髄 内 での 上 下 方 向 への 進 行 や 頸 髄 から 脳 幹 部 への 進 行 などの 垂 直 性 進 行 よりも,より 早 期 に 起 こるのが 通 常 である 6,7). 上 肢 の 筋 力 低 下 の 進 行 は 下 肢 よりも 速 く, 球 麻 痺 の 進 行 は 四 肢 の 筋 力 低 下 や 呼 吸 障 害 よりもより 緩 徐 である. 近 年, 神 経 変 性 疾 患 の 病 態 仮 説 として, プリオン 様 の 進 展 様 式 が 注 目 されている 8).すなわち, 球 麻 痺 発 症 例 では 球 麻 痺 から 上 肢 さらに 下 肢 へ 進 展, 下 肢 発 症 例 では 下 肢 から 上 肢 さらに 球 麻 痺 へ 進 展, 上 肢 発 症 例 では 上 肢 から 球 麻 痺 あるいは 下 肢 へと 両 方 向 へ 進 展 し,

18 II. ALSの 臨 床 像 と 診 断 3 flail arm syndrome A B A: 正 面 像. 両 側 の 上 腕 二 頭 筋, 上 腕 三 角 筋, 腕 橈 骨 筋 などに 萎 縮 が 認 められる. B: 背 面 像. 両 側 の 三 角 筋, 上 腕 三 頭 筋, 棘 上 筋 および 棘 下 筋 などに 萎 縮 が 認 められる. ALS の 病 変 は 初 発 部 位 を 起 点 として 連 続 性 の 進 展 形 式 を 示 すと 報 告 されて いる. 一 方, 球 麻 痺 発 症 例 でも 上 肢 をスキップして 下 肢 に 症 状 が 出 現 した 症 例, 逆 に 下 肢 発 症 例 で 上 肢 をスキップして 球 麻 痺 症 状 が 出 現 した 症 例 など, 中 間 の 髄 節 を 不 連 続 にスキップする 症 例 も 少 なからずみられる(10~20%) 7,8). 以 上 のことから,ALS の 髄 節 を 越 えた 病 変 進 展 は, 近 接 する 細 胞 間 での 進 展 様 式 だけでは 説 明 できず,ALS の 病 変 の 進 展 様 式 に 関 しては multiple hits などの 発 症 機 序 の 可 能 性 も 含 め, 今 後 さらに 検 討 を 要 する. 一 般 に, PLS は 古 典 型 ALS よりも 進 行 がより 緩 徐 で, 平 均 生 存 期 間 が 10 年 以 上 の 症 例 も 多 い.PMA も 古 典 型 ALS に 比 較 して 発 症 年 齢 は 低 く, 男 性 にやや 多 く, 平 均 生 存 期 間 が 長 い. 古 典 型, 特 に 痙 性 の 強 い 症 例 は, 筋 萎 縮 の 強 い 症 例 や 球 麻 痺 型 よりも 経 過 が 長 い. ALS の 亜 型 ヴュルピアン 型 (flail arm syndrome,brachial amyotrophic diplegia) 両 上 肢 近 位 部 および 肩 甲 帯 ( 特 に 棘 上 筋, 棘 下 筋, 三 角 筋 )に 筋 力 低 下, 筋 萎 縮 が 限 局 する 特 異 な 筋 萎 縮 の 分 布 を 示 す(3) 9). 両 下 肢 は 正 常 なこと が 多 く,しばしば 末 期 まで 異 常 がみられない.お 辞 儀 をしたときに 両 手 がだ らりと 下 がり,オランウータンの 仕 草 によく 似 ているため,オランウータン 徴 候 ともいわれる. 古 くは Vulpian が 指 摘 した 肩 甲 上 腕 型 脊 髄 性 進 行 性 筋 萎 縮 症 (formescapulo-humérale)(ヴュルピアン 型 )に 一 致 するが, 最 近 では Memo man-in-the-barrel syndrome 前 大 脳 動 脈 と 中 大 脳 動 脈 の watershed infarction ( 分 水 嶺 梗 塞 )で 生 じる 両 上 肢 麻 痺 に 対 して 名 づけら れた 名 称 であるが, 橋 底 部 病 変 でも 同 様 の 症 状 を 呈 す ることがある. flail arm syndrome 10),brachial amyotrophic diplegia 11),dangling arm sign,manin-the-barrel syndrome などと 呼 称 される. 運 動 ニューロン 疾 患 の 約 2.5~11%にみられ 10-13), 発 症 平 均 年 齢 は 53.3~ 62.6 歳 で, 古 典 型 ALS と 差 異 はない. 一 般 的 には, 四 肢 に 線 維 束 性 収 縮 がみ られる 症 例 が 多 いが, 経 過 とともに 筋 力 低 下 や 筋 萎 縮 は 上 肢 遠 位 部 にも 及 び, 球 麻 痺 症 状 や 胸 鎖 乳 突 筋 の 障 害 がみられる 症 例 もある. 長 期 経 過 症 例 では, 上 肢 の 下 垂 によって 生 ずる 肩 関 節 の 亜 脱 臼 が 必 発 所 見 である. 腱 反 射 は 上 肢

ALSの 神 経 症 候 と 鑑 別 診 断 19 では 低 下 あるいは 消 失 し, 下 肢 では 正 常 のことが 多 い. 通 常, 初 期 の 段 階 で はバビンスキー 徴 候 などの 病 的 反 射 はみられないが, 経 過 とともにバビンス キー 徴 候 が 時 にみられることもある. 女 性 に 比 較 して 男 性 に 多 い( 男 女 比 6: 4から9:1,ALS では 3:2)のが 特 徴 である 10-13). 予 後 に 関 しては, 古 典 型 ALS に 比 較 して 臨 床 経 過 がより 長 く( 平 均 57 か 月,ALS は 平 均 39 か 月 ),10 年 を 超 える 症 例 もあり, 一 般 的 に 古 典 型 ALS より 良 好 との 報 告 が 多 いが 11-13), 必 ずしも 良 好 とはいえないとの 報 告 もある 10). 頸 椎 症 性 筋 萎 縮 症 (キーガ ン Keegan 型 )や 球 脊 髄 性 筋 萎 縮 症 (ケネディ オルター スン 症 候 群 ) などとの 鑑 別 が 必 要 である. 偽 多 発 神 経 炎 型 (flail leg syndrome) 片 側 の 下 肢 遠 位 から 筋 力 低 下 と 筋 萎 縮 が 始 まり, 古 典 型 ALS や 球 麻 痺 型 に 比 較 してきわめて 緩 徐 に 進 行 し 14),やがて 両 側 に 及 ぶ 下 位 運 動 ニューロ ン 障 害 が 優 位 なタイプであるが, 初 めから 弛 緩 性 対 麻 痺 を 呈 することもある. 症 状 は 総 腓 骨 神 経 支 配 領 域 の 障 害 で 始 まる.すなわち, 下 肢 遠 位 部 とくに 下 腿 前 外 側 の 筋 萎 縮 のため 垂 れ 足 を 呈 し, 鶏 歩 と 呼 ばれる 歩 行 障 害 を 伴 う. 筋 萎 縮 はさらに 下 腿 後 面 から 大 腿 部 に 進 行 して,やがて 反 対 側 にも 及 ぶ. 下 肢 遠 位 部 の 腱 反 射 は 減 弱 あるいは 消 失 し, 足 底 反 応 は 無 反 応 型 を 呈 するが, 症 状 の 進 行 に 伴 い, 下 肢 近 位 部 あるいは 上 肢 に 腱 反 射 の 亢 進 や 病 的 反 射 などの 錐 体 路 徴 候 がみられることも 多 い. 初 期 には 線 維 束 性 収 縮 は 目 立 たないが, 最 盛 期 にはみられることが 多 い. pseudoneuritic variant 15),Marie-Patrikios form(マリー - パトリキオス 型 ), peroneal form of ALS, 偽 多 発 神 経 炎 型 などと 呼 ばれていたが, 最 近 は flail leg syndrome と 呼 称 されることが 多 い. 平 均 発 症 年 齢 は 55.0 ~ 65.0 歳 で, 古 典 型 ALS と 有 意 差 がない. 頻 度 は ALS 症 例 の 3.0 ~ 13.0%とばらつきが みられ,ほとんど 男 女 差 はみられない 12,13). 平 均 生 存 期 間 は, 古 典 型 ALS, 進 行 性 筋 萎 縮 症 ( 四 肢 型 ), 球 麻 痺 型,flail arm syndrome のいずれと 比 較 し ても, 有 意 に 長 いとの 報 告 が 多 いが, 古 典 型 ALS と 比 較 して 差 を 認 めなか ったとの 報 告 や, 比 較 的 急 速 な 臨 床 経 過 をとる 症 例 の 報 告 もみられるなど, 生 存 期 間 や 予 後 に 関 しては 一 致 をみない 12,13). 片 麻 痺 型 長 期 間 にわたって 四 肢 の 筋 力 低 下 および 筋 萎 縮 の 左 右 差 が 著 明 で, 病 変 が 片 側 に 優 位 なきわめてまれなタイプである. 臨 床 経 過 は 古 典 型 ALS と 大 き な 変 わりはない. 病 理 像 は, 脊 髄 レベルで 前 角 細 胞 の 変 性 脱 落 の 程 度 に 左 右 差 がみられるほかは,ALS と 同 様 である. 多 系 統 病 変 型 ( 広 範 型 ) 発 症 後 比 較 的 急 速 に 進 行 し, 臨 床 的 症 状 および 病 理 学 的 所 見 が 運 動 系 を 超 えて 広 範 な 部 位 にみられる. 臨 床 的 には,1 発 症 年 齢 は 若 年 から 高 齢 者 まで

20 II. ALSの 臨 床 像 と 診 断 ALSと 頸 椎 症 との 鑑 別 のポイント 1 感 覚 障 害 :ALS では 他 覚 的 感 覚 障 害 はみられないが, 頸 椎 症 では 病 変 レベルに 一 致 した 自 覚 的 および 他 覚 的 感 覚 障 害 が 症 例 の 90%でみられる. 2 線 維 束 性 収 縮 (fasciculation):als では 顔 面 や 四 肢 で 約 90%の 頻 度 でみられるが, 頸 椎 症 で 線 維 束 性 収 縮 がみられることはほとんどない. 3 解 離 性 小 手 筋 萎 縮 (split hand):als で 特 徴 的 にみ られる. 4 上 位 運 動 ニューロン 症 状 ( 錐 体 路 徴 候 ): 下 顎 反 射 の 中 枢 は 橋 の 三 叉 神 経 核 であることから, 亢 進 していると きは, 橋 の 三 叉 神 経 運 動 核 より 上 位 の 運 動 ニューロン ( 皮 質 球 路 ) 障 害 を 示 唆 する.また, 頭 後 屈 反 射 の 中 枢 は 上 位 頸 髄 に 存 在 するため,その 出 現 は 頸 髄 上 部 より 中 枢 の 錐 体 路 病 変 を 示 している.ALS では 一 般 にこれ らの 病 的 反 射 がみられるが, 通 常, 頸 椎 症 ではみられ ない. 5 頸 部 筋 の 筋 力 低 下 : 頸 椎 症 性 筋 萎 縮 症 では 上 位 頸 髄 レ ベルは 障 害 されないため 頸 部 筋 の 筋 力 は 保 たれるが, ALS では 障 害 されるために 頸 部 筋 の 筋 力 低 下 をきた す. 6 短 期 間 での 体 重 減 少 :ALS 患 者 ではしばしば 短 期 間 に 急 激 な 体 重 減 少 を 伴 うことが 多 い. 体 重 減 少 は 筋 萎 縮 に 伴 う 筋 量 の 減 少 のみでなく, 代 謝 の 亢 進 も 原 因 とし て 考 えられている. みられる,2 男 性 が 圧 倒 的 に 多 い,3 一 般 に 経 過 が 速 く, 気 管 切 開 までの 期 間 が 1.5 年 以 内 である,4 人 工 呼 吸 器 装 着 後, 眼 球 運 動 障 害 がみられる,5 感 覚 障 害 や 自 律 神 経 症 状 がみられる,などの 特 徴 がある. 鑑 別 診 断 鑑 別 すべき 疾 患 には, 変 形 性 頸 椎 症 (キーガン 型 ), 封 入 体 筋 炎, 多 巣 性 運 動 性 ニューロパチー,キアリ I 型 奇 形, 球 脊 髄 性 筋 萎 縮 症,クーゲルベル ク ウェランダー 病, 重 症 筋 無 力 症, 多 発 筋 炎, 平 山 病, 脊 髄 空 洞 症 などが ある. 変 形 性 頸 椎 症 *5 ヒト 頸 髄 では 後 根 付 着 部 が 前 根 付 着 部 より 半 髄 節 ほど 上 方 にずれて 存 在 し, 椎 間 孔 入 口 部 でも 前 根 と 後 根 の 間 に 上 下 のずれがある. 変 形 性 頸 椎 症 では, 感 覚 障 害 ( 約 90%)や 筋 力 低 下, 筋 萎 縮 などの 症 状 が 緩 徐 に 進 行 し, 以 後 停 止 性 になることが 多 いが,しばしば 比 較 的 急 速 ( 数 か 月 以 内 )に 筋 萎 縮 が 出 現 する.また, 症 状 の 発 現 が 体 位 や 姿 勢 と 関 連 して おり, 頸 部 の 伸 展 や 屈 曲 などの 運 動 で 上 肢 あるいは 手 指 にしびれや 疼 痛 が 出 現 することが 多 い.さらに, 変 形 性 頸 椎 症 では, 臥 上 安 静 で 症 状 の 軽 快 をみ ることが 多 いが,ALS では 安 静 による 症 状 の 改 善 はみられない.ALS と 異 なり, 変 形 性 頸 椎 症 では, 球 麻 痺 症 状 がみられることはない.キーガン 型 の 頸 椎 症 性 筋 萎 縮 症 は, 硬 膜 下 で C4,C5,C6, 特 に C5 と C6 の 前 根 のみ が 障 害 される * 5 頸 椎 症 の 特 殊 なタイプで, 棘 上 筋, 棘 下 筋, 三 角 筋, 上 腕 二 頭 筋, 腕 橈 骨 筋 などの 上 肢 近 位 部 や 肩 甲 帯 ( 上 肢 帯 )の 筋 力 低 下 や 筋 萎 縮 など, 下 位 運 動 ニューロン 症 状 のみを 呈 する 16). 腱 反 射 の 亢 進 やバビンス キー 徴 候 などの 上 位 運 動 ニューロン 症 状 ( 錐 体 路 徴 候 )がみられず, 下 位 運 動 ニューロン 症 状 と 上 位 運 動 ニューロン 症 状 との 間 に 解 離 がみられるため, dissociated motor loss( 解 離 性 運 動 障 害 )と 呼 ばれる.キーガン 型 の 頸 椎 症 性 筋 萎 縮 症 では,ヴュルピアン 型 脊 髄 性 進 行 性 筋 萎 縮 症 との 鑑 別 が 困 難 なこと

ALSの 神 経 症 候 と 鑑 別 診 断 21 もあるが,ALS では 経 過 とともに 運 動 障 害 が 下 肢 にも 及 び, 球 麻 痺 症 状 や 上 位 運 動 ニューロン 症 状 が 認 められる 点 が 異 なる. 封 入 体 筋 炎 50 歳 以 降 の 男 性 の 発 症 が 多 く, 緩 徐 進 行 性 の 非 対 称 性 の 筋 力 低 下 ( 近 位 筋 および 遠 位 筋 )および 球 麻 痺 症 状 ( 嚥 下 障 害 )(30~60%)がみられる. ALS では 上 肢 で 初 期 に 解 離 性 小 手 筋 萎 縮 (split hand)がみられ, 下 肢 では 遠 位 筋 の 筋 力 低 下 がみられるのに 対 して, 封 入 体 筋 炎 では 上 肢 で 手 指 および 手 首 の 屈 筋 優 位 の 筋 力 低 下, 特 に 長 母 指 屈 筋 の 筋 力 低 下 がみられ, 下 肢 では 大 腿 屈 筋 よりも 大 腿 四 頭 筋 優 位 に 筋 力 低 下 がみられるのが 特 徴 である. 多 巣 性 運 動 性 ニューロパチー(multifocal motor neuropathy) multifocal demyelinating neuropathy with persistent conduction block あるいは motor neuropathy with multiple conduction block などとも 呼 ばれ, 運 動 性 末 梢 神 経 障 害 を 起 こす 緩 徐 進 行 性 の 自 己 免 疫 疾 患 である. 好 発 年 齢 は 平 均 40 歳 (20~50 歳 )で, 末 梢 性 の 運 動 神 経 に 神 経 伝 導 ブロックが 多 発 性 に 起 こるた めに, 非 対 称 性, 多 巣 性 の 筋 力 低 下 が 末 梢 神 経 領 域, 特 に 上 肢 の 遠 位 筋 に 起 こり,また,cramp や 線 維 束 性 収 縮 がみられる. 感 覚 神 経 は 障 害 されず, ALS に 類 似 するが,ALS( 軸 索 障 害 )と 異 なり, 筋 力 低 下 の 割 には 筋 萎 縮 が 目 立 たない( 脱 髄 性 ) 特 徴 がある. キアリ I 型 奇 形 小 脳 扁 桃 が 大 後 頭 孔 に 嵌 頓 して 延 髄 を 背 側 から 圧 迫 することで, 嚥 下 障 害 や 構 音 障 害 などの 球 麻 痺 症 状 が 出 現 するが( 舌 の 萎 縮 はみられない) 17),さ らに 延 髄 が 背 側 から 強 く 圧 迫 されると 舌 萎 縮 を 伴 うことがあり, 進 行 性 球 麻 痺 と 酷 似 し 鑑 別 が 困 難 となることがある.キアリ I 型 奇 形 は 手 術 で 症 状 が 改 善 するので, 球 麻 痺 症 例 では 脳 幹 部 の 矢 状 断 での MRI 検 査 をして 鑑 別 する 必 要 がある. 球 脊 髄 性 筋 萎 縮 症 (ケネディ オルター スン 症 候 群 ) 20~40 歳 代 の 男 性 に 発 症 し, 伴 性 劣 性 遺 伝 形 式 をとり 緩 徐 進 行 性 である. 四 肢 近 位 筋 優 位 および 顔 面 筋 の 筋 力 低 下 筋 萎 縮 線 維 束 性 収 縮 などの 下 位 運 動 ニューロン 症 状, 球 麻 痺 症 状, 女 性 化 乳 房, 手 指 振 戦 などがみられるが, ALS と 異 なって 上 位 運 動 ニューロン 徴 候 はみられない.ALS と 比 較 して 進 行 はきわめて 緩 徐 で, 予 後 は 良 い. ( 佐 々 木 彰 一 )

22 II. ALSの 臨 床 像 と 診 断 文 献 1)Gubbay SS,et al.amyotrophic lateral sclerosis.a study of its presentation and prognosis.j Neurol 1985;232:295-300. 2)Caroscio JT,et al.amyotrophic lateral sclerosis:its natural history.neurol Clin 1987;5:1-8. 3)Traynor BJ,et al.clinical features of amyotrophic lateral sclerosis according to the EI Escorial and Airlie House diagnostic criteria:a population-based study.arch Neurol 2000;57:1171-1176. 4)Wilbourn AJ.The split hand syndrome.muscle Nerve 2000;23:138. 5)Ringholz GM,et al.prevalence and patterns of cognitive impairment in sporadic ALS. Neurology 2005;65:586-590. 6)Turner MR,et al.pattern of spread and prognosis in lower limb-onset ALS. Amyotroph Lateral Scler 2010;11:369-373. 7)Gargiulo-Monachelli GM,et al.regional spread pattern predicts survival in patients with sporadic amyotrophic lateral sclerosis.eur J Neurol 2012;19:834-841. 8)Polymenidou M,Cleveland DW.The seeds of neurodegeneration:prion-like spreading in ALS.Cell 2011;147:498-508. 9)Sasaki S,Iwata M.An atypical form of amyotrophic lateral sclerosis.j Neurol Neurosurg Psychiatry 1999;66:581-585. 10)Hu MT,et al.flail arm syndrome:a distinctive variant of amyotrophic lateral sclerosis.j Neurol Neurosurg Psychiatry 1998;65:950-951. 11)Katz JS,et al.brachial amyotrophic diplegia:a slowly progressive motor neuron disorder.neurology 1999;53:1071-1076. 12)Chiò A,et al.phenotypic heterogeneity of amyotrophic lateral sclerosis:a population based study.j Neurol Neurosurg Psychiatry 2011;82:740-746. 13)Wijesekera LC,et al.natural history and clinical features of the flail arm and flail leg ALS variants.neurology 2009;72:1087-1094. 14)Patrikios JS.Contribution à l'étude des Formes Cliniques et de l'anatomie Pathologique de la Sclérose Latérale Amyotrophique.Paris:Paris University;1918. 15)Alemà G,et al.on 3 cases of the pseudopolyneuritic form of amyotrophic lateral sclerosis.anatomic and electromyographic study.j Neurol Sci 1967;4:241-257. 16)Keegan JJ.The cause of dissociated motor loss in the upper extremity with cervical spondylosis.j Neurosurg 1965;23:528-536. 17)Ikusaka M,et al.progressive dysphagia due to adult Chiari I malformation mimicking amyotrophic lateral sclerosis.j Neurol Neurosurg Psychiatry 1996;60:357-358.

アクチュアル のう 脳 しんけいしっかん りんしょう 神 経 疾 患 の 臨 床 きん すべてがわかる ALS( 筋 う ん 運 ど う 動 い 萎 しゅく 縮 せい 性 そく 側 さく 索 こう 硬 し っ ニューロン 疾 か しょう 化 症 ) か ん 患 2013 年 6 月 10 日 初 版 第 1 刷 発 行 検 印 省 略 シリーズ 総 編 集 専 門 編 集 つじ 辻 そ ぶ 祖 父 しょう じ 省 次 え 江 げん 元 発 行 者 平 田 直 発 行 所 本 文 デザイン 編 集 協 力 DTP 作 成 株 式 会 社 中 山 書 店 113-8666 東 京 都 文 京 区 白 山 1-25-14 TEL 03-3813-1100( 代 表 ) 振 替 00130-5-196565 http://www.nakayamashoten.co.jp/ 藤 岡 雅 史 (プロジェクト エス) 株 式 会 社 学 樹 書 院 有 限 会 社 ブルーインク 装 丁 花 本 浩 一 ( 麒 麟 三 隻 館 ) 印 刷 製 本 図 書 印 刷 株 式 会 社 Published by Nakayama Shoten Co., Ltd. ISBN 978-4-521-73443-9 落 丁 乱 丁 の 場 合 はお 取 り 替 えいたします Printed in Japan 本 書 の 複 製 権 上 映 権 譲 渡 権 公 衆 送 信 権 ( 送 信 可 能 化 権 を 含 む)は 株 式 会 社 中 山 書 店 が 保 有 します. 本 書 の 無 断 複 写 は 著 作 権 法 上 での 例 外 を 除 き 禁 じられています. 複 写 される 場 合 は,そのつど 事 前 に,( 社 ) 出 版 者 著 作 権 管 理 機 構 ( 電 話 03-3513-6969,FAX 03-3513-6979,e-mail: info@jcopy.or.jp)の 許 諾 を 得 てください. 本 書 をスキャン デジタルデータ 化 するなどの 複 製 を 無 許 諾 で 行 う 行 為 は, 著 作 権 法 上 での 限 られた 例 外 ( 私 的 使 用 のための 複 製 など)を 除 き 著 作 権 法 違 反 と なります.なお, 大 学 病 院 企 業 などにおいて, 内 部 的 に 業 務 上 使 用 する 目 的 で 上 記 の 行 為 を 行 うことは, 私 的 使 用 には 該 当 せず 違 法 です.また 私 的 使 用 のためで あっても, 代 行 業 者 等 の 第 三 者 に 依 頼 して 使 用 する 本 人 以 外 の 者 が 上 記 の 行 為 を 行 うことは 違 法 です.