企 業 財 務 論 2010( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 08 1 第 8 章 収 益 性 の 分 析 Part 1 1. 資 本 利 益 率 財 務 分 析 において 一 番 重 要 である 視 点 は, 企 業 の 収 益 性 である そしてその 収 益 性 に 用 い られる 指 標 が 資 本 利 益 率 である 利 益 資 本 利 益 率 (%)= 100% 資 本 資 本 利 益 率 は,その 分 母 である 資 本 と 分 子 である 利 益 に 何 を 用 いるかによって 様 々な 種 類 があるが, 次 の3つが 最 もよく 用 いられる 総 資 本 事 業 利 益 率 経 営 資 本 営 業 利 益 率 自 己 資 本 当 期 純 利 益 率 1.1 総 資 本 事 業 利 益 率 総 資 本 事 業 利 益 率 とは, 企 業 全 体 の 観 点 から, 資 本 の 収 益 性 を 分 析 しようとする 指 標 である 事 業 利 益 総 資 本 事 業 利 益 率 (%)= 100% 総 資 本 分 母 である 総 資 本 とは, 自 己 資 本 と 他 人 資 本 を 合 計 した 企 業 の 全 ての 資 本 である 総 資 本 = 自 己 資 本 + 他 人 資 本 分 子 である 事 業 利 益 とは, 営 業 利 益 に 金 融 収 益 ( 受 取 利 息 + 受 取 配 当 金 + 有 価 証 券 利 息 )を 加 えた, 事 業 全 体 の 成 果 を 表 す 利 益 である 事 業 利 益 = 営 業 利 益 + 金 融 収 益 総 資 本 は 総 資 産 と 等 しいので, 総 資 本 事 業 利 益 率 は, 総 資 産 事 業 利 益 率 とも 呼 ばれ, ROA (Return on Assets)と 略 称 されている ROA= 総 資 産 事 業 利 益 率 = 総 資 本 事 業 利 益 率 1.2 経 営 資 本 営 業 利 益 率 経 営 資 本 営 業 利 益 率 とは, 本 業 の 営 業 活 動 である 生 産, 販 売 に 投 下 された 経 営 資 本 の 収 益 性 を 測 定 する 指 標 である
企 業 財 務 論 2010( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 08 2 営 業 利 益 経 営 資 本 営 業 利 益 率 (%)= 100% 経 営 資 本 分 母 である 経 営 資 本 とは, 企 業 本 来 の 営 業 活 動 に 投 下 された 資 本 であるから, 総 資 本 から 企 業 本 来 の 営 業 活 動 に 投 下 されていない 資 本 を 控 除 して 算 定 する 1 流 動 資 産 のうちの 現 金 預 金, 有 価 証 券, 短 期 貸 付 金 2 固 定 資 産 のうちの 投 資 その 他 の 資 産 経 営 資 本 = 総 資 本 - 3 有 形 固 定 資 産 のうちの 建 設 仮 勘 定 4 繰 延 資 産 分 子 である 営 業 利 益 は, 企 業 の 本 来 の 営 業 活 動 から 得 られた 利 益 である 1.3 自 己 資 本 純 利 益 率 自 己 資 本 純 利 益 率 とは, 株 主 の 観 点 から, 自 分 が 会 社 に 出 資 した 金 額 に 対 する 収 益 性 を 分 析 しようとする 指 標 である 当 期 純 利 益 自 己 資 本 純 利 益 率 (%)= 100% 自 己 資 本 分 母 である 自 己 資 本 とは, 株 主 資 本 とも 呼 ばれ, 株 主 が 出 資 した 金 額 である 分 子 である 当 期 純 利 益 は, 他 人 資 本 提 供 者 への 利 子 の 支 払 い, 国 に 対 する 法 人 税 支 払 い 後 の, 最 終 的 に 株 主 に 帰 属 する 利 益 である 自 己 資 本 利 益 率 は,ROE (Return on Equity)と 略 称 されている ROE= 自 己 資 本 ( 株 主 資 本 ) 利 益 率 2. 資 本 利 益 率 の 分 解 資 本 利 益 率 は, 売 上 高 利 益 率 と 資 本 回 転 率 とに 分 解 することができる 利 益 利 益 資 本 利 益 率 = = 資 本 売 上 高 売 上 高 資 本 資 本 利 益 率 (%)= 売 上 高 利 益 率 (%) 資 本 回 転 率 ( 回 ) 従 って, 資 本 利 益 率 は, 加 算 される 付 加 利 益 ( 売 上 高 利 益 率 ) の 大 きさと その 営 業 循 環 を 年 に 何 回 繰 返 す( 資 本 回 転 率 ) ことができるかによって 決 定 される
企 業 財 務 論 2010( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 08 3 資 本 利 益 率 の 向 上 販 売 活 動 面 財 務 活 動 面 売 上 高 の 向 上 及 びコストの 削 減 を 通 じて 売 上 高 利 益 率 を 向 上 させる 生 産 販 売 資 金 回 収 生 産 といった 資 本 の 循 環 活 動 の 効 率 性 を 高 めて, 資 本 回 転 率 を 引 き 上 げる 3. 総 資 本 事 業 利 益 率 (ROA)と 自 己 資 本 利 益 率 (ROE)の 分 解 3.1 総 資 本 事 業 利 益 率 (ROA)の 分 解 総 資 本 事 業 利 益 率 (ROA)は, 売 上 高 事 業 利 益 率 と 総 資 本 回 転 率 に 分 解 される 事 業 利 益 売 上 高 総 資 本 事 業 利 益 率 (%)= 売 上 高 総 資 本 3.2 自 己 資 本 純 利 益 率 (ROE)の 分 解 自 己 資 本 純 利 益 率 (ROE)は, 売 上 高 純 利 益 率, 総 資 本 回 転 率, 財 務 レバレッジの 3 指 標 に 分 解 される これはデュポン システムと 呼 ばれている 当 期 純 利 益 売 上 高 総 資 本 自 己 資 本 純 利 益 率 (%)= 売 上 高 総 資 本 自 己 資 本 財 務 レバレッジの 定 義 は 以 下 のように 色 々あるが, 分 母 に 自 己 資 本 を 用 いることで は 共 通 している 総 資 本 財 務 レバレッジ= 自 己 資 本 負 債 他 人 資 本 or = 自 己 資 本 自 己 資 本 3.3 ROA と ROE の 関 係 ROA と ROE には 以 下 のような 関 係 がある 式 の 展 開 については 問 題 [2-2]を 参 照 負 債 ROE= ROA+( ROA - 負 債 利 子 率 ) ( 1- 法 人 税 率 ) 自 己 資 本 上 の 式 は,ROE を 向 上 するには,ROA> 負 債 利 子 率 なら, 財 務 レバレッジを 上 げ ればよく, 逆 に ROA< 負 債 利 子 率 なら 財 務 レバレッジを 下 げればよいということを 意 味 している
企 業 財 務 論 2010( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 08 4 [ 問 題 2-1] 次 の 文 章 の( ) 内 に 入 る 適 当 な 語 句 を, 下 記 より 選 び 記 入 しなさい なお 同 じ 語 句 を 何 度 用 いてもよい 1. 財 務 分 析 において, 一 番 重 要 な 視 点 は,その 企 業 の 収 益 性 である その 収 益 性 の 分 析 に 用 いられる 指 標 が( 1 )である そして, 分 母 としての( 2 ), 分 子 としての( 3 )には,さまざまな 種 類 の ものがあり,それらの 組 み 合 わせによって, 収 益 性 の 分 析 において 意 味 のある 値 になる 2.( 4 ) 事 業 利 益 率 は, 資 本 の 利 用 者 としての 観 点 から, 企 業 の 収 益 性 を 分 析 しよう とするもので, 自 己 資 本 と 他 人 資 本 を 区 別 せずに 企 業 全 体 の 経 営 成 果 を 判 断 するもので ある 分 母 である 総 資 本 に 対 応 する 分 子 としては, 企 業 本 来 の 営 業 活 動 の 成 果 である ( 5 )と 財 務 活 動 の 成 果 である( 6 )の 合 計 額 である( 7 )が 用 いられる 3.( 8 ) 営 業 利 益 率 は, 企 業 の 本 業 の 営 業 活 動 である 生 産 販 売 に 投 下 された( 8 ) の 収 益 性 を 測 定 する 指 標 である ( 8 )は, 企 業 の 本 業 の 営 業 活 動 に 投 下 された 資 本 であるから,( 9 )から 企 業 の 本 業 の 営 業 活 動 に 投 下 されない 資 本 を 控 除 して 算 定 する 企 業 の 本 業 の 営 業 活 動 に 投 下 されない 資 本 とは, 流 動 資 産 のうちの 現 金 預 金 ( 10 ) 短 期 貸 付 金, 固 定 資 産 のうちの( 11 ), 有 形 固 定 資 産 のうちの( 12 ), そして( 13 )の 4 つである 4.( 14 ) 純 利 益 率 は, 株 主 の 立 場 から, 自 分 が 会 社 に 出 資 した 金 額 に 対 する 収 益 性 を 分 析 する 尺 度 である この 比 率 は, 株 主 にとっての( 15 )を 端 的 に 表 す 指 標 であり, 分 子 としての 利 益 は( 16 )への 利 子 の 支 払 いや 国 に 対 する 法 人 税 支 払 い 後 の 当 期 純 利 益 をもって, 最 終 的 に 株 主 に 帰 属 する 利 益 としている 資 本 総 資 本 営 業 利 益 事 業 利 益 金 融 費 用 金 融 収 益 投 資 の 収 益 性 建 設 仮 勘 定 資 本 利 益 率 自 己 資 本 経 営 資 本 経 常 利 益 利 益 有 価 証 券 売 上 高 利 益 率 投 資 その 他 の 資 産 繰 延 資 産 他 人 資 本 提 供 者
企 業 財 務 論 2010( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 08 5 [ 問 題 2-2] 次 の 文 章 の( ) 内 に 入 る 適 当 な 語 句 を 記 入 しなさい なお 同 じ 語 句 を 何 度 用 いてもよ い 総 資 本 事 業 利 益 率 =ROA 負 債 利 子 率 = i 自 己 資 本 純 利 益 率 =ROE 負 債 =L 自 己 資 本 =E 法 人 税 率 = t とした 場 合,ROA と ROE の 関 係 式 は 次 式 として 表 される 事 業 利 益 = 総 資 本 ROA =( 1 + 2 ) ROA (1) 負 債 利 子 = L i (2) (1) 式 から(2) 式 を 差 引 くと 利 払 後 事 業 利 益 が 算 出 される 利 払 後 事 業 利 益 = E ROA + L ( ROA - i ) この 利 払 後 事 業 利 益 を 税 引 前 当 期 純 利 益 とみなして, 両 辺 を 自 己 資 本 E で 割 ると, 税 引 前 ROE = ROA +( 3 - i ) L / E となる すると 税 引 後 ROE は, 税 引 後 ROE =( 1-4 ){ ROA +( ROA - i ) L / E } (3) となる この(3) 式 が,ROE と ROA の 関 係 式 である この(3) 式 の 意 味 するところは, 次 のよう な 内 容 である ROA が( 5 )を 上 回 る 限 り,L / E である 負 債 比 率 が 高 いほど ROE を 高 める この 負 債 比 率 は,ROA と( 5 )の 差 を 増 幅 して 高 める この 効 果 を( 6 ) 効 果 という 逆 に,ROA が i を 下 回 る 場 合 には,( 7 )が 高 い 程,ROE を 低 くする 以 上 のことを, 株 式 評 価 の 観 点 から 考 えると,( 8 )が 負 債 利 子 率 を 上 回 る 限 り, ( 9 )が 高 い 程, 自 己 資 本 の 収 益 性 を 高 めることになり 好 ましいということができる 一 方, 社 債 の 評 価 の 観 点 から 考 えると, 財 務 レバレッジが 低 い 程,それだけ 元 利 支 払 いの 確 実 性 が 増 し, 好 ましいといえる
企 業 財 務 論 2010( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 08 6 [ 問 題 2-3] 以 下 の 財 務 データに 基 づいて 括 弧 内 に, 数 字 または 語 句 を 入 れなさい 損 益 計 算 書 一 部 データ 前 期 当 期 売 上 高 400 280 当 期 純 利 益 40 28 貸 借 対 照 表 一 部 データ 前 期 当 期 負 債 100 200 資 本 100 80 武 蔵 株 式 会 社 の 自 己 資 本 純 利 益 率 ROE は, 前 期 が( 1 )%で, 当 期 が( 2 )% であり,( 3 )%の 減 少 であった その 減 少 の 原 因 を 分 析 するべく, 自 己 資 本 純 利 益 率 を 3 つの 要 因 に 分 解 (デュポン システム)して 見 ることにした 第 1 に, 売 上 マージン 比 率 を 計 算 する これは, 当 期 純 利 益 が 売 上 高 に 占 める 割 合 であ る この 値 は, 前 期 が( 4 )%で, 当 期 が( 5 )%で 横 ばいである 第 2 に, 総 資 本 回 転 率 を 見 ると, 前 期 が( 6 ) 回 で, 当 期 が( 7 ) 回 で, 資 本 の( 8 ) 性 が 悪 化 している 第 3 に, 財 務 レバレッジを 分 析 するためには( 9 ) 資 本 に 対 する 総 資 本 の 割 合 を 見 ると, 前 期 が( 10 )%で, 当 期 が( 11 )%となっており,その 比 率 の 増 加 が 自 己 資 本 純 利 益 率 の 減 少 の 幅 を 縮 小 しているのがわかる 以 上 により, 自 己 資 本 純 利 益 率 ROE は 3 つの 要 因 に 分 解 して 見 ることができ, 自 己 資 本 純 利 益 率 を 高 めるためには, 売 上 マージン 比 率 を 高 めること, 総 資 本 回 転 率 を 高 めるこ と, 及 び( 12 )を 高 めることである なお,( 12 )を 高 めると 支 払 利 息 等 が( 13 ) し, 売 上 マージン 比 率 を( 14 )げることにもなるので, 注 意 を 要 する
企 業 財 務 論 2010( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 08 7 付 録 1. ( 株 )コーセー( 証 券 コード 4922)の 財 務 データ 資 本 効 率 性 指 標 ( 連 結 ) 株 主 資 本 総 資 産 ( 百 万 円 ) 株 主 資 本 比 率 (%) 株 主 資 本 当 期 純 利 益 率 (ROE) (%) 総 資 産 事 業 利 益 率 (ROA) (%)
企 業 財 務 論 2010( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 08 8 2001/3 2002/3 2003/3 2004/3 2005/3 株 主 資 本 ( 百 万 円 ) 61,196 67,355 72,862 80,736 88,316 総 資 産 ( 百 万 円 ) 139,044 144,667 153,621 158,092 165,886 有 利 子 負 債 ( 百 万 円 ) 12,357 10,624 8,333 6,039 4,864 キャッシュ フロー ( 百 万 円 ) 注 1 720 10,513 10,454 12,680 13,414 株 主 資 本 比 率 (%) 注 2 44.0 46.6 47.4 51.1 53.2 株 主 資 本 当 期 純 利 益 率 (ROE) 総 資 産 事 業 利 益 率 (ROA) (%) 注 3 7.2 10.1 9.9 11.6 11.1 (%) 注 4 9.4 9.0 10.4 11.7 11.6 棚 卸 資 産 回 転 率 ( 回 ) 注 5 7.8 8.2 9.5 9.0 7.6 D/Eレシオ ( 倍 ) 注 6 0.20 0.16 0.11 0.07 0.06 固 定 比 率 (%) 注 7 114.2 96.7 99.2 91.5 81.7 配 当 性 向 (%) 注 8-15.3 19.0 16.3 18.2 注 1) キャッシュ フロー= 当 期 純 利 益 + 減 価 償 却 費 注 2) 株 主 資 本 比 率 = 株 主 資 本 / 総 資 産 100 注 3) 株 主 資 本 当 期 純 利 益 率 (ROE)= 当 期 純 利 益 / 株 主 資 本 ( 期 首 期 末 平 均 ) 100 注 4) 総 資 産 事 業 利 益 率 (ROA)=( 営 業 利 益 + 受 取 利 息 配 当 金 )/ 総 資 産 ( 期 首 期 末 平 均 ) 100 注 5) 棚 卸 資 産 回 転 率 = 売 上 高 / 棚 卸 資 産 注 6) D/Eレシオ= 有 利 子 負 債 / 株 主 資 本 注 7) 固 定 比 率 = 固 定 資 産 / 株 主 資 本 100 注 8) 配 当 性 向 = 配 当 金 / 当 期 純 利 益 100 ( 出 典 )http://www.kose.co.jp/ir/zd/r_shihyou2.html