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獨協医科大学看護学部紀要 Vol.10 (2016) Bulletin of Dokkyo Medical University School of Nursing 研究報告 ディベロプメンタルケアと児に出会って感じたこと 考えたこと Nursing Students Reflections of a Practicum at NICU Focusing on Developmental Care and Hospitalized Infants 玉村尚子小西美樹井上ひとみ田甫久美子 Hisako Tamamura Miki Konishi Hitomi Inoue Kumiko Tanbo 獨協医科大学看護学部 Dokkyo Medical University School of Nursing 要旨 目的 看護学生が NICU 実習を通じて学んだディベロプメンタルケアと児に出会って感じたこと 考えたことを明らかにする. 方法 A 大学看護学部 3 年生で, 平成 26 年度に小児臨床看護学実習を行った者 96 名のうち, 研究協力に同意を得られた 45 名を対象とした.NICU 実習記録から, ディベロプメンタルケア, 児に出会って感じたこと 考えたことについて質的帰納的分析を行った. 結果 ディベロプメンタルケアについて,246 のコード,24 のサブカテゴリーから 音 光 温度 湿度 ポジショニング ストレスの少ないケア スキンケア 家族ケア の 7 つのカテゴリーが生成された. 児に出会って感じたこと 考えたことについて,151 のコード,14 のサブカテゴリーから 小さな体で一生懸命生きている 児の思いを汲み取りながらケアしている 早産で生まれた児の発達促進ケアに気づく 両親の児に対する思いを汲み取りながら親子関係を支援している 児や両親が多くの人に支えられている の 5 つのカテゴリーが生成された. 結論 学生は, 音, 光, 温度 湿度といった環境調整や, ポジショニング, ストレスの少ないケア, スキンケアといったケアの実際, 家族看護を学んでおり,NICU 看護の基本であるディベロプメンタルケアを理解できていた.NICU の児との出会いに感動し, 他職種が連携して児の生命を支え, 家族の形成を支えていることを知り, 学生にとって肯定的な体験が得られる実習となると推察される. 本研究結果から,NICU 実習は看護実践能力で必要な対象理解や権利擁護を体験的に学修する貴重な機会となり得ることが示唆された. キーワード : NICU, 実習, 看護学生, ディベロプメンタルケア Ⅰ. 諸言新生児集中治療室 ( 以下,NICU) に入室する新生児のストレスホルモンは, 光や音の刺激, 医療的処置などから増加する 1). 新生児, とく に胎外生活に適応するのに十分な成熟度に達していない未熟児は, 脳の発達が急速で感受性が高く, 外からの刺激を最も受けやすい. そのため,1980 年代に中枢神経系の発達を援助する - 23 -

ディベロプメンタルケア ( 以下,DC) が, 米国で提唱された 2).NICU の看護において,DC はゴールデンスタンダードとして普及し, 今や世界各地で導入 実践されている. Als は, 新生児の個別評価に基づいて, より適切なケアを提供することが児へのストレスを軽減させて高次脳機能への障害を防ぐとともに, 中枢神経系全般の発達を促進する としてサイナクティブモデルを提唱し, これを理論的基盤とした新生児個別的発達促進ケアプログラム ( 以下,NIDCAP) が DC を取り入れた看護プログラムの先駆けとして開発された 2). その後, アメリカ新生児看護学会 3) は,DC を 児と家族, 環境と彼らの相互作用を観察することでの気付きである とし, 施設における業務やスケジュールの管理ではなく, 人間のニードやサインに基づくものである とした. つまり, DC は一つ一つの看護行為を指すものではなく, 児と家族を取り巻く環境調整により児の発達をサポートする, 新生児看護の基礎的な概念である. この考え方に則り, 世界中では様々な DC モデルやプログラムの開発が引き続き行われている 4, 5). 日本では概念枠組みとしての DC の普及が十分ではなく, ポジショニング, カンガルーケア, 環境の調整, 痛みの軽減などのケアを包括的に導入することを DC と位置付けていることが多い 6).2009 年には 我が国に DC の理念と実践を導入し, 専門職者の DC 教育プログラムを開発して, 専門職者の資質向上を図り新生児及び早産児のケアの質を改善し, 保証すること を目的に, 日本 DC 研究会が発足し, 臨床現場で働く看護師や関連職種への教育が進められている 7). 今後は, 看護基礎課程の学習項目として定着することが求められる. 看護基礎課程の学生が用いる小児看護学の代表的な教科書では, 胎外生活への適応を支える看護 と 成長 発達を支える看護 の記述があるが, 呼吸循環の管理方法とストレスサイン 安定化サインの紹介にとどまる. 基盤理論である DC に関する記述はほとんどなく,DC という用語そのものも発展学習項目として位置づけられている 8). A 大学では, 看護学部 3 年次に小児臨床看護学実習 (2 単位 ) を病棟 4 日, 外来見学 1 日, NICU 及び新生児治療回復室 (GCU) 見学 ( 以下,NICU 実習 )1 日, 保育園 2 日, 学内日 2 日で展開している.NICU 実習の学習目標は, 1 児の身体的管理のための看護の実際を知る, 2 児の精神的安楽のための看護方法の実際を知る,3 家族と児の愛着形成のための実際の援助を知る,4 看護師と他職種の連携の実際を知る, の4つである. 実習場所はA 大学病院で, NICU 9 床,GCU 30 床を有する総合周産期母子医療センター認定施設であり, 超低出生体重児や消化器疾患を中心とした外科疾患を有する児が入院している. NICU を有する医療機関は少なく,NICU 実習を取り入れている教育機関は限られていると推測され,NICU 実習に関する報告は僅かで, 学生の DC に対する学びに焦点を当てた報告は見当たらなかった.NICU 実習に関しては白坂ら 9) が, 学生が看護の対象特性, 環境整備, 専門的なケアの実際, 母子関係 家族関係の確立への援助などを習得していたことを報告している. 総合周産期母子医療センターで NICU 実習が可能な A 大学における学生の学びの内容を DC の観点と児との出会いによる学生の思いから明らかにすることは, 小児看護学での学習場面として NICU 実習の可能性を考察する上で重要である. そこで, 看護学生が NICU 実習を通じて学んだ DC と児に出会って感じたこと 考えたことを明らかにすることを目的として本研究を行った. Ⅱ. 研究方法 1. 研究デザイン質的記述的研究デザイン 2. 調査方法 1 ) 対象 A 大学看護学部 3 年生で, 平成 26 年度に小児臨床看護学実習を行った者 2 ) 調査期間平成 27 年 4 月 20 日 ~28 日 - 24 -

3.NICU 実習の概要 1 ) 事前講義第 Ⅴセメスター (3 年次前期 ) 開講の必修科目 小児臨床看護援助論 で, 低出生体重児の体温管理, 栄養管理, 感染防止, 呼吸 循環管理, 観察 モニタリング, 家族看護,DC について, 実習場所に勤務する新生児集中ケア認定看護師より講義を受けている. 2 ) 事前自己学習学習内容は, 観察方法, 管理方法, 日常的な看護ケア, 成長 発達の促進へのケア, 家族への支援, 感染予防対策 (6 項目 ) である. 3 ) 実習内容実習開始時, 新生児集中ケア認定看護師と教員が選定した ストレスサインと安定化のサイン フォローアップ ポジショニングとハンドリング の DVD 10) を約 20 分視聴する. その後,3~4 名の学生が半日ずつ NICU と GCU の臨地指導者または新生児集中ケア認定看護師の指導のもとで実習を行う. 実習内容は, バイタルサイン測定や清拭やおむつ交換といった日常生活援助の看護場面や, 面会に来た母親が看護師の見守りのもとで沐浴や授乳といった育児練習をする場面に立ち会い, 見学実習する. また, 実習時間内に主任看護師から NICU と地域連携に関する継続看護のミニレクチャー ( 約 10 分 ) を受ける. 実習終了後,NICU 実習での学びについて, 学生 7 8 名と教員によるカンファレンスを行う. 4 ) 実習記録 NICU/GCU 実習記録 は, 体温管理, 栄養管理, 感染防止, 呼吸 循環管理, 観察 モニタリング, 家族看護, ディベロプメンタルケア, 児に出会って感じたこと 考えたことの 8 項目から構成される. それぞれに学生の視点で, NICU と GCU での学びをまとめて記載する. 4. データ収集方法 3 年次の領域別実習の全日程が終了し, 成績が確定した後, 対象に研究説明書を用いて文書と口頭で研究の趣旨を説明した. 研究に同意する者は教室内と看護事務室前に設置した回収箱に NICU/GCU 実習記録 を入れ, これを以 て研究参加同意とした. NICU/GCU 実習記録 の ディベロプメンタルケア と 児に出会って感じたこと 考えたこと の部分をデータとした. 5. 分析方法質的帰納的に分析を行った. まず, 記載内容をコード化した. コード化は読点で終わる一文で区切ることを原則としたが, 記載内容を考慮して文の途中で区切ったり,2 つ以上の文で一つのコードとして, 意味ある単位を形成するようにした. 意味内容の類似性に従い, 抽象度を上げてサブカテゴリーとカテゴリーを生成した. 分析過程では, 複数の小児看護学の専門家で繰り返しデータの類似性と相違性について検討し, 信頼性 妥当性の確保に努めた. 6. 倫理的配慮本研究は, 獨協医科大学看護研究倫理委員会の承認を得て実施した ( 受付番号 : 看護 26012). また, 研究依頼対象者への研究協力は, 対象者の不利益にならないように, 全ての実習評価が終了した時点で行った. 対象者に対し, 研究目的, 方法, 参加の自由, 匿名性の保護, 結果の公表について文書で説明し, 実習記録の提出をもって研究同意取得とした. Ⅲ. 研究結果対象となった 96 名のうち 45 名から NICU/ GCU 実習記録 の提供があった. 分析の結果を以下に示す. カテゴリーは, サブカテゴリーは, 学生の記録は斜体である. 1. ディベロプメンタルケアについて 246 のコード,23 つのサブカテゴリーから 音 光 温度 湿度 ポジショニング ストレスの少ないケア スキンケア 家族ケア の 7 つのカテゴリーが生成された ( 表 1). 1 ) 音 モニターのアラーム音を小さく設定し, できるだけ鳴らさない ように配慮し, 保育器のドアの開閉を静かに行う, スタッフが大きな声で話さない, 保育器に布をかぶせて遮音する, 定期的に騒音チェックを行う ことで音刺激が最小限に抑えられていることを学ん - 25 -

表 ディベロップメンタルケアに関する学び カテゴリー サブカテゴリー 音 (41) モニターのアラーム音を小さく設定し, できるだけ鳴らさない (20) 保育器のドアの開閉を静かに行う (10) スタッフが大きな声で話さない (4) 保育器に布をかぶせて遮音する (4) 定期的に騒音チェックを行う (3) 光 (59) 胎内環境に近づけるため部屋の照度を下げる (9) 保育器に布をかぶせて遮光する (21) 網膜を守るために遮光する (3) 照度を調整し昼と夜のリズムをつける (14) 週数や児の状態に応じて光の照度を調整する (12) 温度 湿度 (8) 保育器内の温度を子宮内の温度に近づける (3) 週数や発達状況に応じて温度や湿度を調整する (5) ポジショニング (52) 子宮内での体位に近づけ安心感を与える (27) 子宮内環境に近い体位を保持する (21) 胎内環境に近づけることで成長発達を促進させる (4) ストレスの少ないケア (61) ストレス反応を読み取る (4) ケア介入のタイミングを慎重に図る (16) ストレスの少ない環境下で成長発達を促す (25) 児が安心できるようにタッチングやホールディングを行う (12) おしゃぶりを用いて非栄養的吸啜を促進する (4) スキンケア (13) 褥瘡を予防する (8) 皮膚刺激を最小にする (5) 家族ケア (12) 両親が児の育児に参加することで愛着形成を促す (10) 綿棒で母乳を児に含ませる (2) ( ) 内の数字はコード数 だ. 保育器の隣にはモニターがあり, アラームが鳴ることが多々あった. アラームなどの音は児にとって刺激となり外的なストレスとなるため, なるべく早く消すような対応と天井にランプがつくようになる. などの工夫もみられ, 光 音の刺激の軽減には徹底することが重要であると学んだ. 2 ) 光 胎内環境に近づけるため部屋の照度を下げる, 保育器に布をかぶせて遮光する, 部屋の照度を下げる 工夫がなされており, 光刺激から 網膜を守るために遮光する, 照度を調 整し昼と夜のリズムをつける, 週数や児の状態に応じて光の照度を調整する ケアが行われていることを学生は学んだ. NICU は早産児が多く, 本来ならばまだ子宮内にいるべきはずの児で, なるべく子宮内に近い環境にするため, クベースに布をかぶせ外界の光をシャットアウトするようにしていた. 3 ) 温度 湿度 NICU の室温や 保育器内の温度を子宮内の温度に近づける, 在胎日数や体重など 週数や発達状況に応じて温度や湿度を調整する ことを学生は学んだ. クベース内の温度や湿度は児によって変えて - 26 -

おり, 在胎週数や児の発達状況に応じて児 1 人 1 人にあった環境づくりを行っていた. 4 ) ポジショニング 子宮内での体位に近づけ安心感を与える, 子宮内環境に近い体位を保持する ことができるように児の体位が整えられおり, 胎内環境に近づけることで成長発達を促進させる ことを看護師は意識してケアを行っていることを学生は学んだ. 児が子宮内にいた時と同じ体位に近づけるようにバスタオルを丸めてクッションを作り, ポジショニングを行っていた. ポジショニングを行うことで, 児が安心していられることと, 児の良肢位を保てることを学んだ. 5 ) ストレスの少ないケア 看護師が ストレス反応を読み取る, ケア介入のタイミングを慎重に図る ことで, 児にとって ストレスの少ない環境下で成長発達を促す ことやケア時に 児が安心できるようにタッチングやホールディングを行う, おしゃぶりを用いて非栄養的吸啜を促進する ことで, 児の自己鎮静を引き出していることを学んだ. ケアを行う際には, 寝ていると児が刺激を受けやすくなるため, 覚醒してから処置を行ったり, ホールディングをしてから処置を行ったりと, 児の刺激を最小限におさえ, 呼吸 循環状態の変動を防ぎ, 児が安楽に過ごせるよう援助することが大切だと学んだ. 看護師のタッチングで痛みの軽減につとめていた. 6 ) スキンケア 皮膚が脆弱で自分で体を動かせない児に対して 褥瘡を予防する ため, 皮膚刺激を最小にする ことを考慮しながら, 看護師がケアしていることを学んだ. 児の皮膚は脆弱でずっと臥床していることやタオルの刺激などで褥瘡ができやすい. そのためタオルやクッションにはやわらかいリント布などをまいて皮膚を保護することが大切である. 7 ) 家族ケア 両親が児の育児に参加することで愛着形成 を促す, 綿棒で母乳を児に含ませる ことをケアの一つとして行われていたことを学んだ. 親は, 面会時間にベッドサイドにいることで児の様子を観察し, 看護師からの様子を聞くことで児の本日の様子を把握できるように取り組んでいた. また積極的にケアに関わってもらうことで, 愛着形成を促していると考えられる. 児の全身状態をふまえ, 可能な時はタッチングケアやカンガルーケアを積極的に行う. 2. 児に出会って感じたこと 考えたことについて 151 のコード,14 のサブカテゴリーから, 小さな体で一生懸命生きている 児の思いを汲み取りながらケアしている 早産で生まれた児の発達促進ケアに気づく 両親の児に対する思いを汲み取りながら親子関係を支援している 児や両親が多くの人に支えられている の 5 つのカテゴリーが生成された ( 表 2). 1 ) 小さな体で一生懸命生きている 学生は, 超低出生体重児を目の当たりにし, 想像していたよりも 小さな子どもの姿をみて驚く 気持ちを綴っていた. また,NICU 入院児は低出生体重児に限らず, 新生児仮死で生まれた正期産児や出生直後に消化管の手術が必要となった児, 長期入院中の児など 様々な疾患や年齢の子どもが入院している ことに衝撃を受けていた. 早産児や疾患を有する児でも手足を動かし, 目を見開くなどしていることに気づき, 小さな体で一生懸命に生きる姿への感動する ことを体験していた. 2 ) 児の思いを汲み取りながらケアしている ケア時のわずかな刺激で呼吸状態や心拍の異常値を知らせるアラームが鳴り響いており, 医療者が 少しの刺激で状態が変動しやすい児を慎重にケアしている ことや,NICU の看護師が, 言葉で表現できない児の思いを表情やサインから読み取っている ことを学生は知り, 児の生きたいという思いを汲み取りながらケアしている 看護師を見て, その思いに応える看護の力を実感していた. また, 保育器内の環境をなるべく子宮外環境に近づける工夫や感染防止対策を見ることで, 児が安心して生活で - 27 -

表 児に出会って感じたこと 考えたこと カテゴリーサブカテゴリー代表的なコード 小さな体で一生懸命生きている 児の思いを汲み取りながらケアしている 早産で生まれた児の発達促進ケアに気づく 両親の児に対する思いを汲み取りながら親子関係を支援している 児や両親が多くの人に支えられている 小さな子どもの姿をみた驚き 様々な疾患や年齢の子どもが入院している 小さな体で一生懸命に生きようとする姿に感動する 少しの刺激で状態が変動しやすい児を慎重にケアしている 言葉で表現できない児の思いを表情やサインから読み取っている 児の生きたいという思いを汲み取りながらケアしている 児が安心して生活できる環境を整えている 早産で生まれた児の今後の発達を心配する 母子の触れ合いが児の発達に影響する ショックや罪責感を抱いている親の思いを汲み取る 限られた面会の中で母子関係を促進することが大切 多くの人に児の生命が支えられている 多職種が連携し両親の受容過程を支援している 退院後の生活を見据えて支援している NICU では,500 g 以下の新生児が何人もいた. 想像よりもとても小さく手のひらにのってしまうのではないかというような大きさであった. GCU に入院している児に対しては, 小さいなという印象はあったが, 大きな衝撃などはなかった. 一方で NICU に入院している 400 g 台や 500 g 台の児と対面した際は, あまりの小ささに驚くと同時にかわいそうという気持ちなり涙が出そうになった. 本当に治療を行わなくてはならない児から, 体重の増加を図り, 増え次第退院という児もおり, 幅広い児がいるということを感じた. 低出生体重であったり, その他重大な疾患を抱えている児も, 元気に泣いたり, 体動をしたりして生命力の強さを改めて実感した. どんなに小さく生まれてきた児であっても, 手足を動かしたり, 乳首をくわえさせると一生懸命吸おうとしている姿が見られ, 生きようとしていることが伝わってきて, とても感動的だった. 大人では何ともない刺激でも, 児にとっては命とりにつながってしまう. そのことを忘れず, 繊細な注意を払ってケアしていくことが大切なんだと感じた. ストレスサインもたくさんあり, 児は言葉を発せない分, バイタルサインやストレスサインにより伝えたいことを伝えていることが分かった. 医療者側としてはそのサインをいかに正しく, かつすばやく読み取っていく必要があるということがわかった. 疾患を持つ児が懸命に生きようと頑張っていて, 私たちはその生きたい気持ちに応えるように看護をしていかなくてはならないと感じた. 私は学生でそれをひたすら見ているだけであったが, 看護師はその子の生きる力を信じて治療にあたり, 優しくサポートしていくものだと感じた. 低出生体重児にとって, まだ胎内生活を送るべき時期である児も多いため, 胎内環境に近づけ, リラックスした状態が保てるようにケアを行っていく必要があると思った. 児が感染症を引き起こさないために, 高い意識と知識が必要であるとともに, 誰かひとりが対策するのではなく, 医療者全員で徹底して実施することが重要であると考えた. 正期産で生まれた児と早産で生まれた児には,5 年後,10 年後, どのように発達して, 早く生まれたことによってどのような違いが生じてくるんだろうと考えさせられた. 家族の面会がある患者は, 回復が早いと感じており, 母子関係が発達に影響する新生児, 乳児ではなおのこと面会は重要なことであると感じた. 学生の私でも大きな衝撃があるのだから母親の立場であったら, 我が子の小さな体やたくさんの機器が取り付けられている姿を目にしてショックを受けたり, 大きく生んであげられなかったと自らを責めてしまう母親もいるだろうと感じた. 児と家族が触れ合う時間が限られている. 看護師は, 児と家族が一緒にいられる時間, 触れ合う時間を作り, 母子相互の関係を築けるようにしていくことも大切なことだと思った. GCU に 1 年以上入院している児のベッドには写真やオルゴール, ぬいぐるみとたくさんの物が置いてあり, 家族看護の必要性を改めて感じた. 様々な看護ケアや医療処置が行われ, 生命が守られているということを児の母親の ここで色んな処置をやってもらえて, やっとここまで大きくなれた という言葉も含め, 改めて実感した. 児を受け入れることのできない親にどんな関わりをして支援していくか, 多職種が連携して児が成育していける環境を整えることも重要な役割であると感じた. 入院してすぐに, 地域の保健師や訪問看護師, 外来看護師, 病棟看護師, 医師などさまざまな職種の人が関わり, 児にとってよりよい選択をできるようサポートすることも大切なことだと思った. - 28 -

きる環境を整えている ことを学んでいた. 3 ) 早産で生まれた児の発達促進ケアに気づく 小さく生まれた児が今後どのように成長発達していくのか興味関心を抱いていた.5 年後, 10 年後といった長期的な視点で 早産で生まれた児の今後の発達を心配する と共に, 面会や授乳場面を通じて 母子の触れ合いが児の発達に影響する かもしれないと感じていた. 4 ) 両親の児に対する思いを汲み取りながら親子関係を支援している NICU に児が入院することは看護を学ぶ自分達にとっても大きな衝撃があるのだから, 親の立場では不安やストレスが計り知れないだろうと学生は ショックや罪責感を抱いている親の思いを汲み取る ことができた. また, 写真やオルゴール, ぬいぐるみなどが児の周囲に置かれている様子から 限られた面会の中で母子関係を促進することが大切である と感じていた. 5 ) 児や両親が多くの人に支えられている NICU 入院時から医師, 看護師, 臨床心理士などの, 多くの人に児の生命が支えられている ことを学んでいた. 児が家族に受け入れられて成長していくためには 多職種が連携し両親の受容過程を支援している ことが必要であった. 入院時から在宅での生活に向けて退院後の具体的な状況をイメージし, 退院後の生活を見据えて支援している. その時々で多職種が専門職としての機能を発揮し, 連携していることを学生は理解した. Ⅳ. 考察 1. 学生が学んだディベロプメンタルケア DC の概念は, 新生児の個別評価に基づいて, より適切なケアを提供することが児へのストレスを軽減させて高次脳機能への障害を防ぐとともに, 中枢神経系全般の発達を促進する ことである 2). このことは近年, 我が国においても重要性が認識されるようになり, 我が国のほとんどの NICU において,DC の実際として子宮外適応への環境調整や児の反応を踏まえたケア介入が実践されている. 実習施設である A 大学病院 NICU においても,DC を患者の個別性に合わせて導入し, 神経学的予後を良好に保つ看護を実践している. そのような中で, 学生は, 音, 光, 温度 湿度といった環境調整や, ポジショニング, ストレスの少ないケア, スキンケアといったケアの実際を DC として捉えていた. 学生は NICU と GCU の両方を比較しながら, 光や温度 湿度が週数や児の状態に応じて調整している実際を見学し, 胎内環境に近づけるため照明を暗くし, 機械のアラーム音やケア中の騒音を軽減すること, 看護師は児が安心できるようにタッチングやホールディングを行っていたことを学生は実習記録として記載していた. すなわち, 子どもが成長発達過程にあること, 週数に応じた発達促進ケアが必要性なことを学生は理解しており,DC の基礎的知識の習得は達成できたと考える. 早産児への看護は学生には馴染みがなく, イメージを持ちにくい. そのため, ストレスサイン 安定化サインとポジショニングに関する DVD を実習前に視聴した. 言語的表出はもちろん, 泣きや穏やかな表情といった正期産児が発するサインすらも乏しい NICU 入院児の一挙手一投足に学生は注目することができ, 意味づけをしていた. その結果, ストレスの少ないケアとしてのストレス反応への注目, 児に安心感を与え, 自己鎮静行動を引き出すタッチングやホールディング, おしゃぶりの使用に関する学生の記述がみられたと考える.DVD で視覚的にストレスサイン 安定化サインを事前学習したことで, 見学実習での児の観察視点が注意深くなったと考えられる. 大久保ら 11) が, 視聴覚教材が NICU 実習のイメージ化や意識付けに有効であったと報告しているように, 本研究においても視聴覚活用が効果的であった可能性がある. 学生が捉えた DC は,DC に含まれる看護行為を広く網羅していた. 偏りや不足なく, 児に必要な DC としての看護行為に気づくことができていたと推察できる. しかし,DC は NICU での看護を包括的に支える基盤理論であること - 29 -

の理解は十分ではなかった. 実習での体験は, 学生の目の前で展開されるケア行為に焦点が当たるためにこのような結果であったと考えられる. 基盤理論としての DC の理解は, 事前学習や事後学習において深める必要が示唆された. 2. 学生が NICU で感じたこと, 考えたこと大久保らは 12),NICU 見学実習後に看護学生の肯定的な対児感情が低下したと述べている. 本研究においても痛々しい, かわいそう, 怖くて自分には看護できないといった否定的な体験を思わせる記述があったが少数であり, それらの学生も肯定的な体験を合わせて記載していた. このことから, 小さいけれど一生懸命に生きている児の存在を肯定的に捉えられていたことが推察される. 早期から母親に面会を促して児に触れてもらうことや, 授乳場面を通じて子どもの存在をポジティブに捉えるができるように支援していることにも, 学生は目を向けることができていた. これらは先行研究 13-16) で明らかになっている家族形成期の看護に合致し,NICU 実習を通じて, 入院している児だけでなく母子関係や父親に対する支援についても学生は考えられたことを示している.NICU での児との出会いを通じ, 児の周辺にいる家族が看護の対象として学生の視野に入ることで, 家族の関係性に考えが及び, 患者の直接的なケアにとどまらない看護の広がりを学生は体験できたといえる. よって, 看護学生の看護観の発展を助ける学習場面であると考える. NICU に入院した児に治療を続けるか否か, 倫理的観点から判断を迫られる機会は多い. 学生はこのことを既習知識として, 実習においては児の最善の利益を考えながら他職種が連携し, 児の生命や両親の受容過程への支援, さらには退院後の生活支援を実践していると学ぶことができていた. そして, 高度な医療処置を受ける児自身は本当に生きたいと考えているのか, といった率直な疑問も含め, 子どもの権利や倫理的側面を考える場となっていた. 医療が高度複雑化する中, 看護の対象となる人々の尊厳と権利を擁護する能力 17) が求められる場面 は増えている. しかし, 看護基礎課程の実習において教材化し, 学生の学びの場として提供することが難しい現状がある. NICU では, 看護師はケア前後の児のストレス反応や安定サインを確認しながら, ケアのタイミングを図っていた. また, 両親に児の反応のサインを伝えることで, 両親が児の反応を感じ取りながら育児参加を促していた. このように日常のケアにおいても看護師が児の反応を敏感に読み取り, 児を中心に家族を含めたケアを推進する感受性や倫理性は, 看護師に求められる実践能力と卒業時の到達目標のヒューマンケアの基本的能力 17) の 対象の理解 や 倫理的な看護実践 である. これらを学生が学び取ることは, 学士課程で育成すべき看護実践能力であるヒューマンケアの基本に関する実践能力 18) につながると考えられる. これらのことから NICU 実習は, 子どもの権利や倫理に関する貴重な学習機会となる可能性が示唆された. 3.NICU 実習における今後の課題 NICU は新生児医療の発展に伴い 1960 年代に全国各地に設立された. これまでは,NICU での看護はごく少数の対象への提供されるものであった. しかし, 晩産化により出生数が減少する中でも低出生体重児や病的新生児の割合は一定であり,NICU から退院した後も医療的ケアを必要とする在宅療養児が増加していることから, 小児看護学における NICU 看護の重要性が増している.NICU 実習における新生児への看護について, 基礎看護課程において修得すべき内容は未だ示されていない中, 本研究結果は, 基礎看護課程における修得すべき学修内容を示す基礎的資料となり得ると考える. 今後も引き続き視聴覚教材を取り入れ, 実習のイメージ化を図ることで, 学習効果を期待していく. さらに, 白坂らが ケア見学と実施により看護の理解を深め NICU に達成感 9) と報告していることから, 本学においても直接ケアも取り入れた実習を検討していきたいと考える. 小児看護学における NICU 看護の重要性は増しているが, 看護基礎課程での学修を超え - 30 -

た発展的な内容も多い. 学修すべき内容と目的 目標を明確にし, 看護学生の看護観や専門職業人としての人間形成に有効な方法を吟味していきたい. 4. 本研究の限界本研究では, 対象となった学生のうち同意が得られた者は約半数であった. そのため分析対象となった実習記録は NICU 実習での達成感がある学生や NICU 看護に関心が深い学生, すなわち目標達成度が高い学生の記録であった可能性が高い. また,NICU 実習の実習施設は総合周産期母子医療センターの NICU であり, 国内の NICU の中でも比較的重症度の高い児を受け入れ, 新生児集中ケア認定看護師が 2 名配置されている. 実習施設の規模により, 看護学生の学びの内容は変化することが推測され, 一般化には注意を要する. Ⅴ. 結語本研究は,NICU 実習における実習記録を分析し, 看護学生が学んだ DC を明らかにした. また, 学生が児に出会って感じたことや考えたことを探索した. これより以下の結果が得られた. 1. 学生は,DC について児の週数や状態に応じたストレスを軽減させて, 発達を促進するために, 環境調整 ( 音, 光, 温度や湿度 ), およびケアの実際 ( ポジショニング, ストレスの少ないケア, スキンケア ), 家族看護が行われていたことを学んだ. 2. 学生は,NICU 実習を通じて児が小さな体で一生懸命生きている, 看護者が思いを汲み取ろうとしながら, 児のケアや親子関係を支援していることを感じとり, 早産で生まれた児の発達について考えることができた. 謝辞本研究にご協力いただいた学生の皆様, NICU 実習において指導していただいた看護職の皆様に感謝申し上げます. 文献 1) 日本ディベロプメンタルケア (DC) 研究会 : 標準ディベロプメンタルケア,p.11, メディカ出版, 大阪,2014. 2) Als, H. Toward a synactive theory of development:promise for the assessment and support of infant individuality. Infant Mental Health Journal, 3, 229-43, 1982. 3) Kenner, C and McGrath, JM:Developmental Care of Newborns and Infants:A Guide of Health Professionals Second edition. ix, National Association of Neonatal Nurses, IL, 2011 4)Aita, M and Snider, L:The art of developmental care in the NICU:a concept analysis. Journal of Advanced Nursing, 41(3), 223-232, 2003. 5) Macho P:Individualized Developmental Care in the NICU:A Concept Analysis. Advanced in Neonatal Care, December 27, 2016. (in press) 6) 仁志田博司, 大城昌平他 : 標準ディベロプメンタルケア,122, メディカ出版, 大阪,2014. 7) 前掲書 1)p.10 8) 奈良間美保 : 系統看護学講座専門分野 Ⅱ 小児看護学 2,p.42-56, 医学書院, 東京,2015. 9) 白坂真紀, 山地亜希, 他 :NICU/GCU 実習における看護学生の学び 小児看護学実習記録の分析から, 滋賀医科大学看護学ジャーナル,10 (1),22-27,2012. 10) 木原秀樹新 : 新生児発達ケア実践マニュアル : 動画で手技がみるみるわかる, ネオネイタルケア 2009 年秋季増刊, メディカ出版, 大阪, 2009. 11) 大久保明子, 加固正子, 他 : 小児看護学におけるマルチメディア教材の開発 : 生命予後不良の疾患をもつ子どもと家族の看護,NICU 看護に関する教材, 新潟県立看護大学学長特別研究費研究報告,2003. 12) 大久保明子, 和田佳子, 他 :NICU 実習の学生の胎児感情におけるカンファレンス導入の効果, 新潟県立看護短期大学紀要,7,3-8,2001. 13) 山本正子 :M-GTA を用いた NICU 入院初期の - 31 -

児をもつ母親の子どもの受容プロセスの研究, 母性衛生 49(4),540-548,2009. 14) 小西美樹, 山崎あけみ, 他 :NICU 入室児の入院早期の経管栄養による授乳場面における看護支援と母親の体験, 家族看護学研究,17(1), 31-41,2011. 15) 木戸裕子, 横尾京子, 他 :NICU に入院した子どもの退院を決心するまでの母親の経験 入院が長期化しやすい疾患をもつ子どもの母親に焦点をあてて, 日本新生児看護学会誌 18(2), 10-18,2012. 16) 川合美奈, 三国久美, 他 : 父親の育児参加を促す NICU スタッフの取り組みの実態, 北海道医 療大学看護福祉学部学会誌,10(1),23-28, 2014. 17) 厚生労働省 : 看護教育の内容と方法に関する検討会報告書 ( 平成 23 年 2 月 28 日 ). http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852 000001vb6s-att/2r9852000001vbiu.pdf 18) 文部科学省 : 大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会最終報告 ( 平成 23 年 3 月 1 1 日 ). http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa /koutou/40/toushin/ icsfiles/afieldfile/ 2011/03/11/1302921_1_1.pdf - 32 -