太 陽 コーパス にみる 動 詞 性 名 詞 報 告 の 使 用 実 態 佐 藤 佑 ( 東 京 外 国 語 大 学 ) Verbal Noun Houkoku( ( 報 告 ) in Modern Japanese A Research Based on the Data of Taiyo Corpus SATO Yu (Tokyo University of Foreign Studies) 1.はじめに 現 代 日 本 語 のサ 変 動 詞 ( 行 動 する 出 入 りする プレーする )は その 大 多 数 が 語 幹 の 名 詞 用 法 (( 太 郎 の) 行 動 ( 店 への) 出 入 り ( 一 流 選 手 の)プレー )を 持 ち それは 第 一 義 的 には 動 詞 の 表 す 事 態 をすること ( 行 為 )の 意 味 を 表 す 発 表 者 は 佐 藤 (2011b)において サ 変 動 詞 語 幹 および ( 身 体 の) 動 き ( 靴 下 の) 繕 い などの 動 詞 連 用 形 が 事 態 を 表 す 諸 例 ( 両 者 および 一 部 の 関 連 形 式 1を 動 詞 性 名 詞 と 総 称 する)の 構 文 意 味 的 特 徴 を 詳 述 した その 骨 子 は 以 下 のようなものである 動 詞 性 名 詞 は 太 郎 が 近 所 の 公 園 で 遊 ぶの(を 見 た) 花 子 が 来 年 の 夏 に 結 婚 すること(を 知 った) のような 節 単 位 の 名 詞 化 形 式 ( 名 詞 化 節 )に 比 べ 名 詞 句 内 部 には 限 られた 情 報 だけを 表 し 広 範 な 文 脈 の 流 れを 反 映 する 凝 縮 的 な 表 現 である 2 名 詞 化 節 と 異 なり 動 詞 性 名 詞 を 核 とする 名 詞 句 は それ 自 体 に 多 くの 要 素 を 明 示 する ことが 難 しい たとえば?? 太 郎 の 近 所 の 公 園 での 遊 びを 見 た?? 花 子 の 来 年 の 夏 の 結 婚 を 知 った というのは いずれも 著 しく 不 自 然 である これには 様 々な 要 因 が 関 わっているが 一 つには 名 詞 句 の 性 質 上 複 雑 な 連 体 修 飾 が 難 しくなること また 当 該 形 式 は 文 脈 に 強 く 依 存 し それ 自 身 において 多 くの 情 報 を 提 示 する 必 要 もないということが 指 摘 できる 少 なくとも 文 学 作 品 などにみる 限 り 動 詞 性 名 詞 が 連 体 修 飾 を 受 ける 場 合 修 飾 要 素 は 単 一 であることが 圧 倒 的 に 多 い( 佐 藤 (2011b)の 調 査 範 囲 中 では いつもの 平 穏 な 生 活 のように 複 数 表 れる 例 は 約 1 割 に 過 ぎない) そして 太 郎 の 家 出 ビルの 破 壊 といった 当 該 の 動 作 作 用 にとっての 主 体 および 直 接 対 象 を 表 す 例 をはじめ 事 態 の 生 起 する 時 間 ( 夜 中 の 電 話 ) 場 所 ( 故 郷 での 暮 らし) 原 因 ( 長 旅 の 疲 れ) 動 作 作 用 の 行 われ 方 = 様 態 ( 静 かな 会 話 )など 様 々な 副 次 的 要 素 が 表 れうる こうした 動 詞 性 名 詞 句 の 中 でも 発 話 行 為 や 授 受 行 為 を 中 心 とする X 人 1( 動 作 の 主 体 ) Y 人 2( 動 作 の 向 かう 相 手 ) Z やりとりされるもの ことがら( 対 象 内 容 ) の 三 者 間 の 関 係 については 連 体 修 飾 の 構 造 についてきわめて 重 要 な 特 徴 が 認 められる その 典 型 的 な 例 の 一 つに 報 告 が 挙 げられる サ 変 動 詞 報 告 する は 伝 達 の 主 体 X 相 手 Y 内 容 Z の 三 者 の 関 係 を 待 遇 性 話 題 の 偏 りといった 問 題 にはあまり 左 右 されず 比 較 的 シンプルかつ 客 観 的 に 表 すものと 考 えられる そして その 語 幹 の 名 詞 用 法 である 報 告 は 以 下 に 挙 げるように 動 詞 性 名 詞 としても 特 筆 すべき 特 徴 を 備 えていると 考 えられる 1 一 例 として 引 っ 越 し ( 引 っ 越 す とも 引 っ 越 しする とも 対 応 する)など 2 この 凝 縮 という 概 念 は 石 井 (2007)において 指 摘 された 臨 時 一 語 の 性 質 に 関 する 考 え 方 を 動 詞 性 名 詞 の 使 用 全 般 に 拡 張 したものである 77
1 連 体 修 飾 構 造 の 明 確 性 X が Y に Z と 報 告 する との 対 応 でいうと X の/からの Y への Z という/と の といった 連 体 修 飾 で 参 与 者 間 の 関 係 を 適 切 に 表 し 分 けられる また 特 に( 発 話 を 表 す 動 詞 性 名 詞 の 特 徴 として)Z については Z の/という/との というように 実 現 のパターンが 多 様 であり それらが 各 々どう 使 い 分 けられるかも 問 題 になる 2 複 合 語 臨 時 一 語 の 生 産 性 ( 下 の3ともかかわって) 調 査 報 告 山 田 氏 報 告 などの 複 合 語 臨 時 一 語 ( 臨 時 に 形 成 される 複 合 語 )のバリエーションがきわめて 豊 富 である 3 意 味 の 多 側 面 性 3 発 話 行 為 そのものだけでなく 発 話 の 内 容 記 録 などにも 言 及 しうる(cf. 彼 の 報 告 を 疑 う/ 雑 誌 で 読 む) また その 境 界 は 明 確 でないことが 少 なくない(cf. 敵 将 戦 死 の 報 告 が 部 隊 を 奮 い 立 たせた) 本 発 表 では 現 代 日 本 語 における 動 詞 性 名 詞 報 告 の 意 味 用 法 の 実 態 を 明 らかにし またそのメカニズムを 詳 細 に 検 討 するための 足 がかりとして 成 立 期 現 代 語 における 名 詞 報 告 の 統 語 的 意 味 的 特 徴 を 検 討 する 具 体 的 には 明 治 末 ~ 戦 前 までの 日 本 語 の 使 用 実 態 をもっとも 適 切 かつ 容 易 に 調 査 することのできる 太 陽 コーパス を 用 い 主 とし て 上 記 1-3の 問 題 を 検 討 する 2.データの 収 集 検 索 ツール ひまわり (ver. 1.3β05)を 利 用 し 検 索 文 字 列 を 報 告 として 全 範 囲 の 検 索 を 行 った 4 なお ルビ 検 索 による 異 表 記 の 検 討 も 行 ったが 5 現 代 語 と 同 じ 報 告 以 外 の 表 記 で 同 様 の 意 味 の 語 が 表 れた 例 はないものと 判 断 された 検 索 結 果 を Excel にペーストした 後 手 作 業 で 名 詞 報 告 と 動 詞 報 告 する( 致 す) とを 別 のシートに 振 り 分 け さらに 前 者 は 年 次 ごとにシートを 分 けた また 行 為 との 移 行 関 係 を 中 心 に 考 察 するため 報 告 書 報 告 者 といった 報 告 を 前 項 とし かつ 直 接 行 為 に 言 及 する 余 地 のない 合 成 語 (103 例 )については 主 たる 考 察 対 象 からは 除 外 するが 必 要 に 応 じて 参 照 できるよう やはり 別 のシートを 作 って 保 存 した 3. 太 陽 コーパス における 報 告 の 分 析 3.1. 名 詞 報 告 のデータ 概 要 名 詞 報 告 およびそれを 中 心 とする 名 詞 句 あるいはそれを 後 項 とする 合 成 語 の 用 例 は 計 518 例 が 得 られた(1895 年 :132 例 1901 年 :112 例 1909 年 :104 例 1917 年 : 62 例 1925 年 :108 例 ) なお 動 詞 報 告 する の 用 例 は 計 251 例 (60 例 55 例 50 例 39 例 47 例 )と 全 体 としては 名 詞 報 告 の 半 数 未 満 にとどまった 名 詞 報 告 が 直 接 連 体 修 飾 を 受 けたもの( 日 本 銀 行 の 報 告 麻 に 關 する 報 告 など) は 計 242 例 報 告 を 後 項 とする 複 合 語 派 生 語 臨 時 一 語 は 計 136 例 ( 近 年 の 决 算 報 告 など さらに 別 途 連 体 修 飾 を 受 ける 例 も 含 む) いずれも 認 められず 報 告 が 単 体 で 用 い られた 例 は 計 140 例 であった 6 3 本 研 究 において こうした 問 題 について 考 える 上 で 西 尾 (1961)における 連 用 形 名 詞 の 分 類 ( 特 に 動 作 作 用 そのもの > イ 動 作 作 用 そのもの( 何 々スルコト: 泳 ぎ 調 べ 貸 出 しなど) ロ 動 作 作 用 の 内 容 ( 何 々スルトコロノコトガラ: 考 え 教 え 望 みなど) ハ 動 作 作 用 のありさま 方 法 程 度 具 合 感 じなど( 金 遣 い(が 荒 い) 滑 り(がいい)など) )がきわめて 重 要 な 視 座 を 与 えている 4 なお 修 飾 要 素 や 文 中 での 位 置 などを 見 やすくするため 前 文 脈 後 文 脈 は 各 100 文 字 とし さらに 広 範 な 文 脈 を 見 る 必 要 がある 場 合 は 別 途 本 文 を 参 照 するなどした 5 ルビ 検 索 による 異 表 記 の 検 討 方 法 について 詳 しくは 佐 藤 (2011a)などを 参 照 されたい 6 カウントは 可 能 な 限 り 綿 密 に 行 うことを 期 したが 毎 月 報 告 を 求 める を 単 体 扱 いとした 判 断 など 微 78
なお コーパスの 収 録 対 象 となっている 雑 誌 太 陽 の 特 性 に 由 来 するものでもあるが 名 詞 報 告 が 用 いられる 文 章 は おおむね 時 代 が 古 いほど 文 語 体 が 多 く 新 しくなるに つれ 口 語 体 が 主 流 となっている 一 記 事 中 に 文 語 口 語 が 混 在 する 等 の 問 題 ( 主 に 小 説 ) もあり 必 ずしもコーパスの 文 体 タグが 当 該 の 用 例 の 文 体 を 正 確 に 反 映 しているとは 言 えない 場 合 もあるが 報 告 の 用 例 に 関 してはおおむね 実 態 を 反 映 しているものと 判 断 された 文 体 ごとの 分 布 は 下 の 表 1 に 示 すとおりである 表 1 文 語 口 語 の 分 布 ( 年 次 別 ) 1895 1901 1909 1917 1925 文 語 130 (98.5%) 102 (91%) 58 (55.7%) 26 (41.9%) 3 (2.8%) 口 語 2 (1.5%) 10 (9%) 46 (44.3%) 36 (58.1%) 105 (97.2%) 計 132 112 104 62 108 以 下 名 詞 報 告 が 受 ける 連 体 修 飾 の 内 実 (3.2.) 報 告 の 語 構 成 力 (3.3.) 報 告 する 行 為 と 名 詞 報 告 の 関 係 の 多 様 性 (3.4.)の 順 に 概 観 する 3.2. 報 告 の 連 体 修 飾 まず 名 詞 報 告 がどのような 連 体 修 飾 を 受 けているかの 実 情 を 概 観 する なお ( 近 年 の) 决 算 報 告 ( 各 般 の) 事 務 報 告 など 複 合 語 派 生 語 臨 時 一 語 がさらに 連 体 修 飾 を 受 ける 諸 例 については 主 に 語 構 成 のあり 方 を 概 観 する 関 係 上 次 項 で 簡 単 に 触 れるにと どめる A. 伝 達 行 為 の 主 体 報 告 する 主 体 ( X が Y に Z と 報 告 する の X)が 表 れる 例 (84 例 )は (1)(2)をは じめ 現 代 語 と 同 様 に X の X からの の 形 で 実 現 するものが 多 い (1) 然 れども 此 の 流 通 資 本 の 増 加 を 以 て 直 ちに 通 貨 の 増 加 と 誤 認 すべからず 日 本 銀 行 の 報 告 によれば 近 來 我 國 の 通 貨 は 増 加 せずして 寧 ろ 減 少 の 傾 向 あり (1895 年 11 号 / 商 業 ) 7 (2) 紐 育 の 火 星 委 員 會 の 會 長 は 去 年 の 接 近 期 間 中 聽 取 記 録 を 作 り 得 る 素 人 研 究 者 達 からの 報 告 を 蒐 集 した (1925 年 4 号 / 世 界 のラヂオ ) ただし 文 語 体 の 文 章 には (3)のような X よりの 報 告 の 例 も 見 られる こうした 後 置 詞 の 使 用 は 現 代 語 の 感 覚 では 一 般 的 とは 言 いがたい (3) 在 安 平 有 地 艦 隊 司 令 長 官 よりの 報 告 によれば 二 十 日 午 後 二 時 安 平 沖 警 戒 中 英 獨 兩 國 の 軍 艦 及 領 事 館 員 より 劉 永 福 は 十 九 日 の 夜 若 干 の 部 下 を 以 て 三 艘 の 支 那 舩 に 乘 り 遁 走 し (1895 年 11 号 / 海 内 彙 報 ) B. 伝 達 行 為 の 相 手 報 告 する 相 手 ( X が Y に Z と 報 告 する の Y)は 現 代 語 と 同 じく Y への の 例 が 見 られるが 以 下 の(4)を 含 め 計 3 例 ときわめて 少 ない 妙 な 部 分 も 多 少 残 っている さらに 客 観 的 な 条 件 付 けの 基 準 設 定 は 今 後 の 課 題 としたい 7 用 例 は 後 ろに 括 弧 書 きで 年 次 と 号 記 事 タイトル 著 者 名 を 示 す ただし 著 者 が 不 明 の 記 事 につい ては 記 事 タイトルまでの 表 示 とする 79
(4) マルシヤン 陛 下 長 い 間 皮 を 集 めて 漸 やく 作 つたのでございます / 奈 (マルシヤンの 手 を 握 り) 忝 い 私 はお 前 に 取 らすものがない 此 の 握 手 で 滿 足 してくれ おい 監 督 殿 政 府 への 報 告 の 種 が 出 來 たぞ (1917 年 12 号 / 脚 本 落 日 ( 帝 国 劇 場 台 本 ) / 佐 藤 紅 緑 ) 現 代 語 ではこの 他 Y に 対 する Y に 向 けた などの 形 が 考 えられるが 該 当 する 例 は 見 られなかった 以 下 の(5)は 唯 一 得 られた ~に 対 する 報 告 の 用 例 であるが 現 代 語 の 感 覚 としては ~に 関 する と 同 じような 意 味 ( 3.2.C)になると 思 われる (5) 試 みに 現 時 の 我 領 事 の 通 商 貿 易 に 對 する 報 告 の 如 き 之 を 歐 米 各 國 領 事 の 報 告 に 比 較 し 見 よ 如 何 に 彼 れの 報 告 の 其 の 商 工 業 に 密 接 して 實 際 的 に 我 れの 報 告 の 商 工 業 に 迂 遠 にして 非 實 際 的 なるかよ (1909 年 14 号 / 行 政 税 制 整 理 問 題 外 務 行 政 刷 新 上 の 四 要 望 / 望 月 小 太 郎 ( 談 )) C. 伝 達 の 内 容 報 告 する 内 容 ( X が Y に Z と 報 告 する の Z)を 表 す 連 体 修 飾 要 素 としては Z との Z といふ Z の といった 形 の 引 用 節 が 見 られる((6)-(8)) 他 (9)(10)のように 話 題 の 中 心 となる 事 物 が 後 置 詞 を 伴 って 表 れる 例 も 確 認 された( 計 67 例 ) いずれも 現 代 語 と 共 通 して 見 られるタイプの 表 現 である (6) 一 月 計 り 經 て 宮 御 方 辛 じて 會 津 へ 入 せらるゝのよし 覺 王 院 も 御 傍 にあるとの 報 告 に 少 しく 愁 眉 を 慰 めたり (1895 年 6 号 / 彰 義 隊 下 / 曳 尾 叟 ) (7) 翌 八 日 御 幣 使 街 道 に 斥 候 して 見 ると 太 田 の 宿 に 敵 が 居 ると 云 ふ 報 告 ジヤから 夜 中 進 ん で 見 ると 未 だ 太 田 迄 來 ない (1901 年 10 号 / 追 懐 談 / 川 村 純 義 ( 談 )) (8) 工 藤 行 幹 氏 より 第 二 號 議 案 黨 則 改 正 の 説 明 あり 神 鞭 知 常 氏 財 政 調 査 延 期 の 報 告 あり (1901 年 1 号 / 海 内 彙 報 ) (9) 蠶 業 の 改 進 夫 れ 何 れの 時 をか 期 せん 麻 に 關 する 報 告 は 同 く 品 質 良 好 なるもの 多 しと 雖 間 々 栽 培 製 造 の 方 法 良 しからざる 爲 め 色 澤 不 良 纎 維 の 長 短 強 弱 其 完 きを 得 ざる ものあるは 遺 憾 なりと (1901 年 13 号 / 農 業 世 界 / 上 野 英 三 郎 ) (10) 此 等 穿 鑿 のなされたる 精 神 の 自 然 の 結 果 として 此 等 の 宗 教 に 就 ての 報 告 は 積 極 的 に 其 何 を 有 するやに 非 ずして 寧 ろ 消 極 的 なる 其 なき 所 の 何 たるをいふにすぎざりしなり (1895 年 11 号 / ショツペンハウァー 氏 の 支 那 宗 教 論 /S.T. 生 ) 一 方 (11)のような 外 の 関 係 の 修 飾 で 伝 達 内 容 が 表 される( 現 代 語 では 考 えにくい) 表 現 の 例 も 若 干 数 見 られた(ただし 報 告 を 修 飾 する 連 体 修 飾 節 は 各 省 から 出 る 報 告 其 向 へ 爲 したる 報 告 のような 内 の 関 係 のものが 大 半 を 占 める) (11)その 後 數 年 經 つて 獨 逸 のフライブルグ 大 學 のデウラ カンプ 氏 並 びにその 門 弟 キユウプ ルレ 氏 が 動 物 試 驗 を 試 みて 結 核 の 治 癒 状 態 人 體 に 效 能 ある 報 告 に 接 した 時 に 千 九 百 十 三 年 であつた (1925 年 1 号 / 最 近 X 光 線 療 法 の 進 歩 / 宮 原 立 太 郎 ) D. その 他 必 須 項 のみならず 様 々な 副 次 的 要 素 を 伴 いうることも 動 詞 性 名 詞 の 特 徴 である 太 陽 コーパス 上 の 報 告 においても 上 で 扱 った 主 体 (X) 相 手 (Y) 内 容 (Z)の 3 種 の 他 にも 多 様 な 修 飾 要 素 を 伴 って 表 れている (12)(13)のように 報 告 の 内 容 などを 評 価 規 定 する 例 8 が 25 例 程 度 見 られた 他 (14)(15) のように 報 告 が 行 われた 状 況 ( 時 間 や 場 所 など)を 表 す 例 などは 他 に 17 例 ( 時 間 的 8 その 他 數 多 の など 報 告 行 為 の 多 寡 を 表 す 例 も 若 干 数 見 られた 80
なもの 9 例 場 所 的 なもの 8 例 )と 全 体 的 にあまり 多 いとは 言 えない 9 (12) 倫 敦 商 業 會 議 所 の 劃 策 經 營 する 所 は 實 に 他 に 比 類 を 見 ざる 所 にして 或 は 諸 種 の 統 計 及 び 報 告 を 蒐 集 頒 布 し 或 は 公 會 を 催 し 或 は 學 者 及 び 專 門 家 に 托 して 講 演 會 を 設 け 孜 々 外 國 貿 易 擴 張 上 須 要 なる 智 識 を 研 磨 し 同 時 に 商 業 上 の 爭 論 を 仲 裁 し 又 政 府 の 諮 問 に 應 じ 或 は 政 府 に 建 議 し 駐 外 領 事 より 緊 要 なる 報 告 を 徴 し 汎 く 之 を 頒 布 する 等 商 業 の 發 達 上 頗 る 有 益 の 擧 に 出 づること 多 し (1901 年 3 号 / 商 業 世 界 / 佐 野 善 作 ; 祖 山 鍾 三 ) (13) 聯 合 會 の 人 々は 勿 論 議 定 書 に 賛 成 であるから 内 閣 の 政 策 に 不 服 を 有 つてゐた そこで 報 告 者 は フランスは 平 和 に 對 してデクレーアし イギリスは 戰 に 向 つてデクレーアした と 面 白 い 報 告 をした (1925 年 12 号 / 欧 米 雑 感 国 際 心 理 の 矛 盾 と 煩 悶 / 塩 沢 昌 貞 ) (14) 前 刻 の 報 告 中 に 成 るべくは 還 暦 の 機 會 を 避 けたかりしことを 縷 々 述 べましたが 先 生 の 教 職 に 就 かれましてより 滿 五 十 年 になりまする 其 機 會 を 採 りたる 方 が 宜 しかりしならんこ とを 最 近 に 至 り 遲 蒔 きながら 氣 附 きたる 次 第 でございます (1917 年 12 号 / 菊 池 大 麗 先 生 / 藤 沢 利 喜 太 郎 ) (15) 此 合 同 救 助 は 克 く 其 目 的 を 達 し 千 八 百 九 十 三 年 三 月 十 六 日 英 蘭 銀 行 の 廣 間 に 於 ける 報 告 に 依 れば ベーリングの 負 債 は 一 時 三 千 三 十 一 萬 三 千 磅 に 達 せしも 今 や 僅 に 四 百 五 十 五 萬 八 千 八 百 十 三 磅 あるのみにて 其 所 有 せし 手 形 は 毫 も 損 失 を 生 ぜず 盡 く 取 立 濟 と 爲 りたり とあり (1901 年 8 号 / 商 業 世 界 / 祖 山 鍾 三 ; 佐 野 善 作 ) なお 以 下 の(16)のように 複 数 の 項 目 が 同 時 に 表 れる(この 場 合 内 容 =Z とそれに 関 す る 評 価 を 表 す 形 容 詞 の 2 項 が 表 れている) 例 も 見 られるが 計 25 例 と 限 られる (17)に 見 られるように 現 代 語 では 複 数 の 連 体 修 飾 要 素 によって(たとえば 七 年 前 の 露 國 醫 師 大 會 (で)の 報 告 のように) 実 現 しそうな 例 であっても 連 用 修 飾 の 形 で 実 現 する 例 が 多 く 目 に 止 まった (16) 而 して 收 支 の 明 細 なる 報 告 は 市 民 の 前 に 提 供 せられざるべからず (1909 年 2 号 / 電 車 問 題 の 根 本 的 解 決 / 安 倍 磯 雄 ) (17) 今 より 七 年 前 露 國 醫 師 大 會 の 報 告 によれば 明 治 三 十 八 年 より 同 四 十 二 年 に 至 る 五 年 間 に 於 て 四 萬 五 千 以 上 の 自 殺 者 を 生 じ 明 治 四 十 一 年 同 二 年 の 統 計 によれば 自 殺 者 千 人 中 年 齡 八 歳 以 上 四 十 歳 の 者 四 十 五 人 (1917 年 5 号 / 欧 州 大 戦 と 露 国 の 革 命 / 浮 田 和 民 ) 3.3. 報 告 の 複 合 派 生 臨 時 一 語 形 成 報 告 が 何 らかの 名 詞 成 分 を 前 項 とし あるいは 接 頭 辞 を 伴 い 複 合 語 派 生 語 臨 時 一 語 を 形 成 する 例 は 136 例 に 上 った そのうち 報 告 する 行 為 の 主 体 は 複 合 語 臨 時 一 語 として 実 現 した 例 は 以 下 の(18)の 3 例 を 含 め 計 25 例 と 比 較 的 少 ない これは 連 体 修 飾 の 形 で 表 れる 例 の 約 1/3 が 行 為 主 体 である(3.2.A)のとは 大 きく 事 情 が 異 なる (18) 經 常 部 臨 時 部 共 に 委 員 長 報 告 通 りに 决 定 し 次 で 乙 號 豫 算 に 入 り 島 田 三 郎 氏 より 繼 續 費 打 切 りの 動 議 を 提 出 せしも 少 數 にて 成 立 せず 全 部 委 員 長 報 告 通 り 决 定 し 丙 號 豫 算 各 特 別 會 計 に 就 ても 田 川 氏 より 臺 灣 航 路 補 助 費 削 除 の 動 議 ありしも 總 て 委 員 長 報 告 通 りに 决 定 せしも 唯 だ 高 柳 覺 太 郎 氏 は 濱 松 鐵 工 所 問 題 につき 委 員 長 の 報 告 に 滿 足 せず (1909 年 4 号 / 彙 報 ) 主 体 の 例 は 彙 報 における 委 員 長 報 告 が 半 数 近 く(11 例 )に 上 り その 他 領 事 報 告 審 査 總 長 報 告 など 行 為 主 体 を 表 す 前 項 は 役 職 名 が 大 半 を 占 めた 特 に 固 有 名 + 報 告 の 複 合 語 臨 時 一 語 は 特 に 少 なく 以 下 の(19)(20)など 4 例 が 見 られたのみであった 9 他 にも 先 に 触 れた 各 省 から 出 る 報 告 などの 例 が 見 られたが 紙 幅 の 関 係 上 詳 細 は 割 愛 する 81
こうした 用 法 の 自 由 度 は 現 代 語 に 比 べて 高 くないように 見 受 けられる (19) 殊 に 今 日 にては 容 易 に 獲 得 し 難 き 東 洋 諸 學 會 の 數 十 年 間 の 報 告 雜 誌 全 部 を 網 羅 し 且 稀 覯 書 としては 十 六 世 紀 版 のマルコポロの 紀 行 やモルガの 費 島 史 の 原 本 初 版 の 如 き 今 日 の 時 價 一 萬 圓 以 上 に 登 るもの 數 册 或 は 最 も 珍 奇 なるエズイツト 報 告 數 十 册 を 算 する 如 き 此 の 如 き 大 蒐 集 は 到 底 今 後 不 可 能 であらう (1917 年 10 号 / 案 頭 三 尺 / 内 田 魯 庵 ) (20) 震 災 豫 防 調 査 會 報 告 第 四 號 及 第 五 號 同 報 告 第 四 號 は 去 る 七 月 三 十 日 發 行 せられたり 其 目 次 は( 一 ) 委 員 臨 時 委 員 及 囑 託 員 ( 二 ) 委 員 會 (1895 年 10 号 / 科 学 ) 一 方 で 决 算 報 告 現 状 報 告 などといった 前 項 が 報 告 の 内 容 (cf. 3.2.C) を 表 す 例 は 計 85 例 ときわめて 多 く 見 られた また (22)(23)のように 複 合 語 がさらに 連 体 修 飾 も 受 けることで 意 味 の 具 体 化 がより 詳 細 になる 例 ( 計 53 例 )は 大 半 がこうしたタイ プに 集 中 する (21) 駐 支 米 國 公 使 ラインシユ 氏 は 卅 一 日 黎 總 統 を 訪 問 し 歐 洲 平 和 會 議 提 案 報 告 及 米 支 經 濟 連 絡 の 件 に 關 し 長 時 間 會 談 すと (1917 年 3 号 / 日 誌 ) (22) ヘトール の 結 核 病 竈 に 對 する 作 用 は 如 此 而 して ランデレル 氏 の 治 驗 報 告 は 如 何 と 問 ふに 千 八 百 九 十 九 年 獨 逸 伯 林 に 於 て 萬 國 結 核 撲 滅 會 議 を 開 けり (1901 年 10 号 / 肺 結 核 の 新 療 法 (ランデレル 氏 ヘトール 療 法 ) /XYZ 生 ) (23) そして 今 手 元 にある 千 通 未 滿 の 内 階 級 や 境 遇 教 養 年 齡 等 の 點 で 割 に 雜 駁 なのを 調 査 の 都 合 上 あと 廻 しにし 不 取 敢 群 として 相 當 に 數 も 纏 まつた( 一 ) 東 京 帝 大 生 百 四 十 名 ( 二 ) 早 稻 田 大 學 生 百 八 十 名 ( 三 ) 京 都 同 志 社 大 學 豫 科 生 二 百 十 七 名 合 計 五 百 十 七 名 に 就 ての 統 計 報 告 の 極 大 要 は 次 の 通 り (1925 年 1 号 / 愛 慾 世 界 の 鳥 瞰 図 京 都 同 志 社 大 学 東 京 帝 大 早 稲 田 大 学 学 生 の 性 生 活 の 統 計 的 調 査 / 山 本 宣 治 ) その 他 場 所 ((24)など 5 例 ) 時 間 ((25)など 2 例 ) 報 告 の 内 容 などを 評 価 する 要 素 ((27)など 8 例 )など3.2.D で 見 た 諸 例 に 類 する 複 合 語 臨 時 一 語 が 見 られた 他 (26) の 1 例 のみではあるが 道 具 手 段 が 前 項 となる 例 も 得 られた なお (25)などは 現 代 語 の 感 覚 としては 前 回 が 書 いた を 修 飾 していると 考 えるの が 自 然 であろうが 後 述 する 派 生 語 との 関 連 上 一 応 複 合 であると 考 えておくことにする (24) 馮 段 協 議 段 總 理 は 馮 總 統 を 訪 ひ 李 開 の 陸 榮 廷 會 見 報 告 を 俟 ちて 約 法 國 會 臨 時 參 議 院 に 關 する 命 令 を 同 時 に 發 する 件 に 付 協 議 すと (1917 年 12 号 / 日 誌 ) (25) 報 告 は 先 づ 友 人 デーンコート 醫 師 の 話 から 始 まる 醫 師 は 前 回 報 告 の 末 尾 にちよつと 書 いた 約 束 に 從 つて その 翌 日 再 びラトランド 家 に 往 診 したが 脈 を 取 つてみるまでもなく 患 者 メーブル 孃 の 病 状 は 更 に 見 直 すところなく 益 益 惡 化 してゆく 模 樣 である (1925 年 12 号 / 長 篇 探 偵 小 説 ハートの 九 第 六 回 / 延 原 謙 ( 訳 );ビ エル フアルジヤン( 作 )) (26) 然 るにZR3 號 は 毫 も 斯 の 如 き 難 飛 行 をしなかつた これは 絶 えず 大 陸 との 無 線 通 信 が 行 はれ また 海 上 幾 多 の 場 所 に 配 置 せられた 船 から 時 々に 天 候 の 無 線 報 告 をうけて 天 候 の 險 惡 なコースを 避 けるやうにして 飛 んだからである 1925 年 4 号 / ラヂオ 漫 談 / 近 藤 生 ) (27) 而 して 祕 密 會 は 午 後 四 時 十 三 分 より 初 まり 五 時 五 十 分 に 終 り 再 公 開 後 祕 密 會 經 過 の 形 式 的 報 告 ありて 此 日 の 議 場 を 閉 づ (1917 年 3 号 / 第 三 十 八 議 会 解 散 顛 末 ) 報 告 に 接 頭 辞 が 上 接 する( 派 生 語 を 形 成 する) 例 に 目 を 向 けると 計 9 例 と 少 ない 中 にも(あるいは その 少 なさにこそ) 現 代 語 との 相 違 が 如 実 に 表 れている 重 要 な 一 点 として ご( 御 ) 報 告 の 少 なさが 指 摘 できる 名 詞 報 告 に 接 頭 辞 御 が 上 接 した 例 は(28)を 含 めわずか 2 例 動 詞 御 報 告 致 す も 2 例 ((29) 含 む)しかない 82
(28) 大 山 第 二 軍 司 令 官 の 報 告 第 一 師 團 より 左 の 電 報 ありたり 御 報 告 に 及 ぶ(1895 年 4 号 / 軍 事 ) (29) 又 前 後 の 事 情 より 推 斷 しますれば 啻 に 今 日 の 記 念 會 の 間 に 合 はざるのみならず 何 時 出 來 するか 殆 んど 無 期 限 に 延 引 するの 懸 念 あると 同 時 に 男 爵 に 於 て 記 念 品 の 贈 呈 を 非 常 に 迷 惑 に 御 思 召 さるゝの 御 意 向 が 其 後 段 々と 益 々 明 暸 になりましたから 委 員 の 間 の 協 議 により 斷 然 記 念 品 を 差 上 げることを 見 合 はせることになりました 其 事 を 御 報 告 致 しますると 同 時 に 御 賛 成 者 御 一 同 の 事 後 承 諾 を 茲 に 御 願 ひ 致 す 次 第 でござります (1917 年 12 号 / 菊 池 大 麗 先 生 / 藤 沢 利 喜 太 郎 ) 現 代 語 において 目 上 の 人 物 に 対 する 報 告 行 為 は 名 詞 の 場 合 であれ 動 詞 の 場 合 で あれ( 少 なくとも 当 事 者 間 における 発 話 では) 御 を 伴 うことがほぼ 必 定 であると 考 えら れるが 太 陽 コーパス の 実 例 においては 報 告 行 為 の 主 体 と 相 手 の 上 下 関 係 などのあり 方 に 関 わらず そうした 例 がほとんど 見 られない 報 告 1 語 の 使 用 だけを 材 料 に 判 断 す るのは 早 計 に 過 ぎるが こうした 待 遇 表 現 に 関 する 現 代 語 との 異 同 歴 史 的 変 遷 といった 問 題 も 動 詞 性 名 詞 の 研 究 全 般 において 重 要 な 意 味 を 持 つであろう また 以 下 の(30)のような 接 頭 辞 は 現 代 語 では 動 詞 性 名 詞 の 使 用 全 般 において 実 現 しが たいと 考 えられる 1895 年 1901 年 に 各 1 例 が 見 られるのみと 実 例 は 限 られるが 他 の 動 詞 性 名 詞 についても 調 査 検 討 し より 体 系 的 に 見 ていく 価 値 はあろう (30) 牛 痘 の 製 造 に 前 報 告 の 如 く 水 牛 を 限 り 之 を 用 う 埃 及 牛 は 肩 の 隆 起 を 具 へざるも 甲 頗 る 強 剛 なり(1901 年 12 号 / 埃 及 の 家 畜 /ドクトル ヤンソン 農 業 世 界 ) その 他 以 下 の(31)(32)のような 用 法 は 現 代 語 でも 問 題 なく 実 現 可 能 であろう (31) 同 局 長 の 言 に 曰 く 今 回 の 損 害 は 其 區 域 頗 る 廣 大 にして 甚 しき 慘 状 を 極 めたる 事 は 豫 め 諸 報 告 に 依 り 粗 ぼ 想 像 を 畫 きて 之 れに 臨 みたるが (1895 年 9 号 / 海 内 彙 報 ) (32) 挿 圖 は 重 もに 昨 明 治 廿 七 年 六 月 東 京 附 近 地 震 の 際 の 被 害 物 を 撮 影 或 は 描 寫 せるものを 石 版 にしたるものにして 凡 そ 百 三 十 餘 枚 なり 一 見 直 に 瓦 飛 び 壁 裂 くるの 當 時 を 追 憶 せしむ 同 報 告 の 如 き 號 を 追 ふに 從 ひ 益 々 記 事 の 精 采 を 放 つが 如 きは 斯 學 の 爲 に 頗 る 喜 ぶべき 事 な り (1895 年 10 号 / 科 学 ) 3.4. 報 告 の 多 側 面 性 太 陽 コーパス における 報 告 の 報 告 する 事 態 との 関 係 は 典 型 的 には 行 為 ( 報 告 スルコト) 内 容 ( 報 告 スルトコロノコトガラ) 記 録 ( 報 告 サレタコトガラ) の 3 パターンに 分 類 される 行 為 内 容 の 諸 例 に 関 しては 現 代 語 と 大 筋 で 変 わらない 用 いられ 方 をしていると 考 えられる 一 方 記 録 の 意 味 については 現 代 語 に 比 べて 自 由 度 が 高 いと 見 られる A. 報 告 する 行 為 報 告 の 内 容 は 問 題 とせず 事 実 として 報 告 が 実 行 されたか 否 かに 言 及 する 場 合 名 詞 報 告 の 動 詞 報 告 する との 関 係 はもっとも 直 接 的 である こうした 意 味 は 機 能 動 詞 結 合 (cf. 村 木 1991 10 )において 特 に 明 らかに 表 れるものである 以 下 の(33)-(35)のように 現 代 語 でも 同 様 の 表 現 が 見 られる 例 が 多 いが (36)(37)など 現 代 語 では 考 えにくい 機 能 動 詞 の 使 用 も 見 られる 後 者 は 特 に 文 語 の 文 章 に 集 中 する 10 機 能 動 詞 とは 実 質 的 な 意 味 を 名 詞 にあずけて みずからはもっぱら 文 法 的 な 機 能 をはたす 動 詞 ( 村 木 1991:203) それらと 名 詞 の 組 み 合 わせが 全 体 として 動 詞 相 当 に 働 くもの たとえば さそいをかけ る ( さそう) 連 絡 をとる ( 連 絡 する)といったものを 機 能 動 詞 結 合 と 呼 ぶ 83
(33) 米 國 シカゴ 市 に 於 いてパンコストが 喉 頭 癌 の 放 射 線 治 療 に 關 する 報 告 をした 中 に パリ ーのレガアト 博 士 が 三 週 間 毎 日 持 續 してこの 治 療 を 始 め その 經 過 の 成 績 良 好 なることを 證 明 してをるといふことを 傳 へてゐる (1925 年 1 号 最 近 X 光 線 療 法 の 進 歩 / 宮 原 立 太 郎 ) (34) 今 や 大 要 を 悉 して 事 務 報 告 を 終 れり 幸 にして 本 會 の 基 礎 略 定 まり 組 織 愈 健 全 強 固 なるに 當 り (1909 年 5 号 / 海 外 通 信 在 米 日 本 人 会 報 告 / 牛 島 謹 爾 ; 久 万 俊 泰 ) (35) 午 後 一 時 卅 分 再 開 各 地 より 祝 電 披 露 の 後 細 迫 氏 より 委 員 會 で 決 定 したる 議 事 順 序 の 報 告 があつて 議 事 に 入 り 次 の 如 き 申 合 せを 爲 した (1925 年 12 号 無 産 政 党 組 織 準 備 委 員 会 の 主 要 団 体 及 中 心 人 物 委 員 会 組 織 の 過 程 及 将 来 / 新 田 生 ) (36) 而 して 三 日 に 至 り 改 革 派 は 本 部 の 名 義 にて 新 政 黨 組 織 の 目 的 犬 養 氏 除 名 の 理 由 を 全 國 黨 員 に 宣 言 せしに 對 し 六 日 非 改 革 派 は 第 二 回 の 報 告 を 發 すると 同 時 に (1909 年 5 号 / 彙 報 ) (37) 石 坑 鑛 穴 の 穿 掘 は 其 地 の 歴 史 に 關 し 甚 だ 有 益 の 報 告 を 與 ふること 决 して 少 からず (1895 年 11 号 / 地 質 学 及 び 地 質 学 者 / 佐 藤 伝 蔵 ) B. 報 告 する 内 容 報 告 した 内 容 の 記 録 名 詞 報 告 が 聞 く などの 直 接 知 覚 行 為 の 対 象 として 表 れることは とりもなおさ ずそれが 報 告 されるところの 内 容 の 意 味 に 解 釈 されることと 連 動 する 人 の 行 為 であ る 報 告 (すること) を 直 接 聞 く ことはできないが 報 告 (されるところのことが ら) を 聞 く ことは 可 能 ということがその 証 左 である 11 (38) 其 後 貴 君 には 久 留 米 の 病 院 にて 御 治 療 中 との 報 告 を 聞 き 奧 樣 へ 其 報 を 幾 度 と 無 く 申 上 て 見 ましたが 正 氣 を 失 ふ 悲 しさは そりや 嘘 ぢや 僞 説 ぢやと 計 にて 益 々 嘆 の 積 る ばかり (1895 年 8 号 夜 の 鶴 ( 上 ) / 福 地 桜 痴 ) 知 覚 認 識 され 理 解 された 報 告 の 内 容 は さらに 種 々の 判 断 行 為 の 対 象 として 処 理 されることにもなる (39) 刑 法 及 刑 事 訴 訟 法 改 正 案 曩 きに 司 法 大 臣 より 辯 護 士 協 會 に 諮 問 したる 刑 法 及 刑 事 訴 訟 法 改 正 案 は 同 協 會 の 調 査 委 員 に 於 て 遂 に 之 れを 否 决 したるが 總 會 に 於 ては 該 委 員 の 報 告 を 是 認 すべき 傾 向 ありといふ(1901 年 10 号 / 海 内 彙 報 ただし 以 下 の(40)などは 直 接 知 覚 した 報 告 の 内 容 に 関 して 點 檢 する と 解 釈 し ていいか 疑 わしい どちらかといえば 提 出 された 報 告 書 などを 読 み その 内 容 を 検 討 し ていると 考 えた 方 が 自 然 である (40) 斯 の 困 難 の 塲 合 に 人 々 互 に 警 戒 を 爲 したるを 以 て 爲 めに 良 好 なる 經 驗 を 得 たるなり 其 證 據 たる 昨 年 の 上 半 季 に 於 ける 各 銀 行 及 び 各 會 社 の 報 告 を 點 檢 するに 東 京 に 於 ては 十 五 銀 行 第 一 銀 行 三 井 銀 行 三 菱 銀 行 第 三 銀 行 安 田 銀 行 等 阪 に 於 ては 住 友 銀 行 鴻 池 銀 行 山 口 銀 行 三 十 四 銀 行 等 何 れも 皆 日 本 銀 行 に 對 して 借 金 を 有 し (1901 年 9 号 / 財 政 整 理 と 民 間 の 事 業 界 / 小 松 崎 吉 雄 ) 11 こうした 問 題 について 佐 藤 (2011b)では 行 為 と 内 容 の 双 方 を 総 括 する ものと 主 張 した が こうした 構 文 において 内 容 だけを 聞 く と 考 えることはできても 行 為 だけを 聞 く と 見 ることはできない( 仮 にできるとすると 彼 の 報 告 は 聞 いたが 何 を 言 っているか 聞 き 取 れなかった のよ うな 発 話 が 許 容 されることになるが 実 際 はそうではない)ことから やはり 内 容 の 方 をより 重 視 す べきであると 思 われる 84
文 書 化 されるなどして 記 録 された 報 告 の 内 容 を 表 すことが 明 らかな 名 詞 報 告 の 例 として 以 下 の(41)などが 挙 げられる こうした 例 は 佐 藤 (2011b)などでは 直 接 動 作 に 関 わらない として 排 除 されているが 動 詞 性 名 詞 の 周 辺 的 な 用 法 として 注 目 し その あり 方 広 がり 方 を 見 ていく 価 値 のあるものであると 思 われる (41) サトウ 氏 が 蒐 集 した 日 本 耶 蘇 會 年 報 は 兩 三 年 前 京 都 大 學 の 藏 に 歸 したが その 中 に 西 暦 一 五 九 三 年 三 月 より 翌 年 同 月 に 至 る 文 祿 二 三 年 に 亙 る 一 年 間 の 報 告 を 收 めた 册 子 が 二 部 存 する (1917 年 1 号 / 西 洋 画 伝 来 の 起 源 / 新 村 出 ) 上 の (40) (41)は 現 代 語 でも 違 和 感 なく 受 け 入 れられると 思 われるが 下 の(42)-(44)のよう に 多 様 な 動 作 の 対 象 として 結 果 物 ( 報 告 書 など)としての 報 告 が 表 れることは 難 し いと 考 えられる このように 太 陽 発 刊 時 の 日 本 語 では 現 代 語 よりも 報 告 単 体 で 結 果 物 の 意 味 を 表 す 能 力 が 高 かったであろうことが 示 唆 される ただし こうした 現 代 語 で 考 えにくい 例 は 1895 年 1901 年 に 集 中 しており 1908 年 以 降 にはほぼ 見 られない (42) 今 日 に 當 つて 敵 國 の 我 に 對 して 此 終 局 を 如 何 すると 云 ふことに 就 いては 一 旦 媾 和 の 使 節 も 派 遣 致 して 本 月 上 旬 に 於 て 廣 島 で 兩 囘 の 面 會 を 致 しましてありますが 其 意 思 甚 だ 曖 昧 にして 未 だ 眞 正 の 和 を 求 めたるものと 認 めませぬに 依 つて 之 を 拒 絶 するの 止 むを 得 ざるに 出 たのであります 其 大 體 の 顛 末 は 過 日 外 務 次 官 をして 本 院 に 其 報 告 を 提 出 致 さし て 置 きましたことに 於 て 明 白 と 存 じます (1895 年 3 号 / 海 内 彙 報 ) (43) 亦 之 と 同 時 に 双 方 の 會 社 共 に 自 己 の 車 輛 にて 運 搬 する 時 は 之 に 對 して 其 使 用 料 を 求 めざ る 可 からざる 等 の 事 あり 依 りて 暫 時 の 間 は 諸 會 社 は 此 精 算 を 爲 す 爲 め 通 し 切 符 より 生 ず る 收 入 は 各 自 記 帳 して 其 報 告 を 交 換 し 居 れり (1901 年 2 号 / 商 業 世 界 / 佐 野 善 作 ; 祖 山 鍾 三 ) (44) 又 交 換 所 は 紛 失 荷 物 の 發 見 所 として 大 に 便 利 を 與 へり 其 方 法 は 紛 失 又 は 發 見 せる 荷 物 の 詳 細 を 毎 日 交 換 所 に 報 告 し 交 換 所 は 又 各 停 車 塲 へ 其 報 告 を 配 布 す (1901 年 2 号 / 商 業 世 界 / 佐 野 善 作 ; 祖 山 鍾 三 ) 一 方 で 報 告 書 の 使 用 は 計 80 例 その 過 半 数 は 1895 年 1905 年 の 2 年 分 で 占 めてお り 報 告 との 使 い 分 けについてはさらに 詳 しく 検 討 する 必 要 がある また (45) (46)など 一 部 現 代 語 にはあまりない 語 構 成 ( デ VN スル)も 認 められた (45) 此 語 は 余 が 大 正 五 年 四 月 二 十 三 日 但 馬 國 の 青 谿 書 院 に 池 田 草 庵 先 生 御 贈 位 報 告 祭 に 參 拜 せしとき 其 近 傍 の 寺 院 に 於 ける 草 庵 先 生 始 め 但 馬 出 身 の 名 士 の 墨 蹟 展 覽 會 場 に 於 て 看 たる 所 なり (1917 年 10 号 / 我 国 の 徳 育 と 孔 子 教 / 高 瀬 武 治 郎 ) (46)( (19)と 一 部 共 通 ) モリソンの 文 庫 の 内 容 は 精 しく 知 らぬが 殆 んど 其 の 生 涯 の 所 得 を 傾 注 して 蒐 集 したもので 支 那 を 中 心 として 印 度 印 度 諸 島 費 島 朝 鮮 日 本 等 に 關 する 各 國 の 典 籍 備 はらざるなく 殊 に 今 日 にては 容 易 に 獲 得 し 難 き 東 洋 諸 學 會 の 數 十 年 間 の 報 告 雜 誌 全 部 を 網 羅 し (1917 年 10 号 / 案 頭 三 尺 / 内 田 魯 庵 ) なお 上 述 した A B の 分 類 とは 観 点 が 異 なるが 以 下 の(47)のように 報 告 の 意 味 合 いが 現 代 語 と 異 なる(この 場 合 勧 告 に 近 いであろう) 例 も 見 られた (47) 又 當 季 中 銀 行 の 請 求 に 應 じ 規 則 第 六 十 二 條 に 依 り 過 怠 金 を 徴 して 取 引 停 止 の 報 告 を 取 消 したるもの 五 十 六 名 當 季 中 取 引 停 止 解 除 の 請 求 に 依 り 組 合 銀 行 の 會 議 に 付 したるもの 二 十 四 名 にして 投 票 の 結 果 に 依 り 解 除 したるもの 十 五 名 否 决 したるもの 九 名 (1901 年 9 号 / 海 内 彙 報 ) 85
4.おわりに 以 上 本 発 表 では 太 陽 コーパス のデータを 利 用 し 近 代 語 ( 成 立 期 現 代 語 )におけ る 名 詞 報 告 の 統 語 論 的 特 徴 (3.2.) 語 構 成 論 的 特 徴 (3.3.) 意 味 論 的 特 徴 (3. 4.)を 考 察 した 本 発 表 で 明 らかになった 太 陽 コーパス における 動 詞 性 名 詞 報 告 の 現 代 語 と 特 に 大 きく 異 なると 考 えられる 特 徴 は 以 下 に 示 すとおりである 1 連 体 修 飾 に 関 して X よりの 報 告 (3) Z する 報 告 (11)など 現 代 語 には 見 られない 連 体 修 飾 の 構 造 が 認 められる Y への 報 告 の 例 が 極 端 に 少 ない 2 複 合 派 生 臨 時 一 語 形 成 に 関 して 行 為 主 体 を 前 項 とする 複 合 臨 時 一 語 形 成 の 生 産 性 が 低 い( 特 に 固 有 名 の 場 合 ) 名 詞 御 報 告 動 詞 御 報 告 する のいずれもきわめて 少 ない 3 意 味 の 多 側 面 性 に 関 して 報 告 だけで 報 告 書 などの 結 果 名 詞 と 同 様 の 意 味 を 表 す 能 力 が 高 い((42)-(44)) これらはいずれも 現 代 語 との 異 同 あるいは 現 代 語 に 至 る 変 遷 といったことを 考 える 上 で 重 要 な 手 がかりになると 考 えられるが 現 代 語 と 異 なる 部 分 の 指 摘 は 発 表 者 の 内 省 に よるところが 大 きく 必 ずしもデータに 基 づいた 客 観 的 な 考 察 にはなり 得 ていない 同 様 にコーパスを 用 いた 考 察 ということを 考 えた 場 合 現 代 日 本 語 書 き 言 葉 均 衡 コーパ ス(BCCWJ) では 報 告 の 検 索 結 果 が 15000 件 超 と 膨 大 になり 動 詞 と 名 詞 の 厳 密 な 振 り 分 けも 含 め 12 本 発 表 で 行 ったように 綿 密 な 分 類 分 析 を 行 うのは 難 しい たとえば3. 2.で 実 例 数 の 少 なさを 指 摘 した Y への 報 告 などは 直 感 的 に 現 代 語 の 方 が 広 く 用 いら れると 考 えられるが 傾 向 の 差 を 比 較 する 術 は 今 後 さらに 検 討 する 必 要 がある このように 総 体 として 現 代 語 の 名 詞 報 告 の 使 用 実 態 が 十 分 的 確 に 把 握 できている わけではないこともあり 現 時 点 では 当 時 の 報 告 について 目 立 った 特 徴 を 列 挙 するに とどまった 現 代 語 との 厳 密 な 比 較 検 討 は 今 後 の 課 題 とし その 手 法 を 模 索 していきたい 文 献 石 井 正 彦 (2007) 現 代 日 本 語 の 複 合 語 形 成 論 ひつじ 書 房. 佐 藤 佑 (2011a) 太 陽 コーパス の 入 門 とケーススタディ 東 京 外 国 語 大 学 大 学 院 総 合 国 際 学 研 究 院 グローバル COE プログラム コーパスに 基 づく 言 語 学 教 育 研 究 拠 点 (2011b) 現 代 日 本 語 の 事 態 描 写 に 関 わる 動 詞 性 名 詞 と 名 詞 化 節 の 諸 相 東 京 外 国 語 大 学 大 学 院 地 域 文 化 研 究 科 地 域 文 化 専 攻 博 士 論 文 ( 未 公 刊 ). 西 尾 寅 弥 (1961) 動 詞 連 用 形 の 名 詞 化 に 関 する 一 考 察 国 語 学 43(pp.60-81) 村 木 新 次 郎 (1991) 日 本 語 動 詞 の 諸 相 ひつじ 書 房. 関 連 URL 佐 藤 (2011a) Web 公 開 版 http://cblle.tufs.ac.jp/assets/files/publications/handbooks_06/index.pdf 12 たとえば 彼 にこのプロジェクトは 難 しい 局 面 にあると 報 告 はしたが 理 解 してもらえたかはわからない ( 動 詞 )と 帰 省 して 両 親 に 結 婚 の 報 告 はしてきたが あまりいい 顔 をされなかった ( 名 詞 )の 相 違 は 前 後 要 素 の 形 態 素 情 報 などによって 機 械 的 に 峻 別 することが 困 難 である 86