私 の 処 方 箋 医 療 現 場 は 難 しい 決 断 の 連 続 である 例 えば 白 血 病 の 子 どもが 再 発 し 強 力 な 化 学 療 法 により 一 旦 寛 解 ( 白 血 病 細 胞 は 末 梢 血 液 にも 骨 髄 にも 見 つからない 状 態 )に 入 ったとしよう 過 去 のエビデンスからこの 子 ども が 再 発 する 確 率 は50% 次 に 再 発 したらまず 化 学 療 法 抵 抗 性 で 助 からない 再 発 しなけれ ば 普 通 の 生 活 を 送 ることができる 一 方 ここで 骨 髄 移 植 にもっていけば60%は 白 血 病 を 根 治 できる しかし 拒 絶 反 応 に 一 生 悩 まされる 可 能 性 もある また 骨 髄 移 植 の 際 12Gy という 全 身 照 射 も 行 わなければならず そのことにより 二 次 的 に 別 のがんを 発 症 する リスクも 高 まり 子 どもも 望 めないであろう 私 が 病 棟 医 で 多 くのがんの 子 どもたちを 診 療 していたとき 家 族 が 納 得 できるまで2 日 でも3 日 でもエビデンスを 示 しながら 子 どもに とって 一 番 良 い 治 療 は 何 かを 考 えてきた 今 まで 福 島 原 発 事 故 についてチェルノブイリと 対 比 しながらみてきたように しかし 行 き 詰 ったとき 家 族 から 聞 かれる 質 問 は 決 まって 先 生 の 子 どもだったらどうします? だ 以 下 に 私 が 妊 婦 小 さな 子 どもの 母 親 であっ たらどうするか という 形 で 本 書 をしめくくりたい 東 京 など 放 射 能 レベルが 平 年 並 に 落 ち 着 いており 私 が 妊 娠 中 あるいは 子 どもをもつ 母 親 だ としたら 仮 に 私 が 妊 娠 中 あるいは 授 乳 中 であれば 感 度 のよいガイガー カウンターを 購 入 し これでバックグラウンドレベルのものを 食 べるようにする 子 どもが 離 乳 してもガイガ ー カウンターで 食 べ 物 や 水 については 多 少 気 を 使 う 他 の 日 常 生 活 は 今 まで 通 り 無 用 に 心 配 しないよう 心 がける ただ 福 島 原 発 も 落 ち 着 き 周 辺 の 放 射 線 濃 度 も 低 下 しはじめ たら 何 も 気 にせずガイガー カウンターも 使 わずに 過 ごす 私 が 妊 婦 (あるいは 授 乳 中 )で 年 間 2.4mSv 以 上 被 曝 することが 予 想 されるとき 自 然 界 からの 放 射 線 被 曝 は 平 均 年 間 2.4mSv と 云 われているが( 国 際 放 射 性 防 護 委 員 会 ) これと 同 じくらい すなわち 更 に 平 均 年 間 2.4mSv 以 上 被 曝 するようなら 汚 染 の 少 ない 地 域 に 引 っ 越 す ただ 実 家 が 放 射 線 レベルから 妊 娠 期 間 中 1mSv 未 満 に 抑 えられそうであれば 2.4nSv 未 満 でも 一 時 的 に 実 家 に 戻 る 先 天 奇 形 の 発 症 という 点 に 関 しては 年 間 (50~) 100mSv を 超 えなければ 大 丈 夫 であろう 出 生 した 子 どもの 発 がんリスクが 若 干 高 まる 可 能 性 があるが これも 無 視 できる 程 度 ただ IQ の 問 題 について 不 確 実 性 が 残 る 胎 児 に 関 し ては 疑 わしきは 避 ける の 方 針 で ただ 内 部 被 曝 なども 含 めて 年 間 10mSv 未 満 の 被 曝 に 抑 えられそうであれば 出 産 してしばらくしたら 元 のところに 戻 るであろう 自 然 界 から の 被 曝 量 は 国 によっても 異 なり 例 えばブラジルは 年 間 平 均 10mSv を 自 然 界 から 被 曝 して いる そこで10mSv という 値 を 採 用 した 子 どもにとって 両 親 と 暮 らすことは 大 切 だし ここが 自 分 の 故 郷 という 意 識 を 持 つことも 重 要 だと 思 うからだ ハーバード 大 学 政 治 哲 学
のマイケル サンデル 教 授 の 主 張 する 負 荷 ありし 自 己 という 考 え 方 に 私 も 共 感 する 人 は 自 分 を 育 んでくれた 家 族 や 仲 間 のいる 地 域 コミュニティを 特 別 な 想 いで 一 生 涯 意 識 するものだ 私 は 子 ども 達 に 自 分 の 故 郷 はここだ 私 は 自 分 が 育 った 故 郷 をこよなく 愛 している と 胸 をはって 大 人 になっても 語 って 欲 しいと 思 っている 子 どもを 根 無 し 草 に してはならない 年 間 10mSv 未 満 というのは 環 境 からの 外 部 被 曝 だけではなく 内 部 被 曝 も 込 みの 話 なので 自 宅 に 感 度 のよいガイガー カウンターを 購 入 し 授 乳 中 であれば 自 分 およびベビーへの 食 べ 物 や 水 の 摂 取 による 内 部 被 曝 を 極 力 避 ける 他 の 日 常 生 活 は 今 まで 通 り 無 用 に 心 配 しないよう 心 がける チェルノブイリ 原 発 事 故 の 際 ヨーロッパの 心 配 する 必 要 が 無 い 国 々でさえ ストレスによる 自 然 流 産 が 増 えている 食 品 について 何 ら 不 安 を 感 じなければガイガー カウンターも 必 要 ないと 思 う 私 が 子 どもをもつ 母 親 で かつ 年 間 2.4mSv 以 上 被 曝 することが 予 想 されるとき 家 族 で 一 緒 に 暮 らせることを 第 一 優 先 する つまり 夫 の 職 場 を 優 先 するということ 子 どもの 学 校 が 汚 染 されていて 年 間 10mSv 近 く 被 曝 するようであれば 子 どもたちが 放 射 性 物 質 を 吸 い 込 まないよう PTA などで 協 力 し 合 って 屋 上 も 含 めて 徹 底 的 に 掃 除 をする 校 庭 は 厚 めのコンクリートとするよう 自 治 体 あるいは 文 部 省 に 嘆 願 する 本 当 は 子 どもた ちの 環 境 として 土 の 校 庭 の 方 が 自 然 でよいようにも 思 うがやむを 得 ない 給 食 の 場 合 す べての 食 材 がバックグラウンドレベルであることを 確 認 してもらうように 頼 む また 自 宅 にも 感 度 のよいガイガー カウンターを 購 入 し 子 どもの 口 に 入 るものは 基 本 的 にチェッ クする 健 診 による 胸 部 X 線 撮 影 など 医 療 の 放 射 線 被 曝 を 極 力 避 ける 汚 染 地 域 の 森 など に 自 生 する 木 苺 や 茸 などは 採 って 来 て 食 べさせないようにする 他 の 日 常 生 活 は 今 まで 通 り 無 用 に 心 配 しないよう 心 がける 汚 染 による 被 曝 が 年 間 2.4mSv 以 下 である 場 合 には 何 も 気 にせず 過 ごす ただし 今 後 再 び 地 震 があるかもしれないし 表 面 上 落 ち 着 きを 取 り 戻 した 福 島 原 発 も 急 に 悪 化 しないとも 限 らない つまり 最 悪 のケースシナリオも 念 頭 に 置 かなくてはならな いということ 要 注 意 レベルになれば 臨 機 応 変 な 行 動 をとれるよう 頭 のどこかで 意 識 し ておくことも 大 切 だ 福 島 第 一 原 発 のような 事 例 は 日 本 のどこでも 起 こりえる 18 歳 以 下 の 子 どもの 父 親 であれば 実 際 現 在 そうなわけであるが 一 定 期 間 いろいろ 情 報 を 集 め 今 後 どうするか 決 意 する その 際 優 先 されるべきことは 家 族 で 一 緒 に 暮 らすことであろう もちろん 短 期 単 身 赴 任 は やむを 得 ないと 思 うが ただ この 辺 は 人 それぞれの 価 値 観 や 事 情 もある あくまで 私 だったらという 話 重 要 なことは 一 家 の 大 黒 柱 は 家 族 を 守 るために 沈 着 冷 静 でなくてはな らない そして 妻 がいろいろなことを 心 配 したり 不 安 がったりしても それを 広 い 心 で 受 け 入 れ 共 感 し 支 持 することも 大 切 だと 思 う 聴 く 耳 を 持 たなかったり 否 定 してしま ったりしてはいけない 逆 に 両 親 2 人 共 が 浮 き 足 立 つと 子 どもに 悪 影 響 であることを 忘 れ
ないように 独 身 男 性 であれば 放 射 能 のことは 忘 れ 今 までと 変 わらない 生 活 をする 福 島 県 の 生 産 者 あるいはそのサプライチェーンが 仕 事 であれば 感 度 のよいガイガー カウンターを 購 入 し 自 ら 放 射 線 を 放 出 していないことを 確 認 する 小 売 店 であれば レジに 多 数 ガイガー カウンターを 設 置 し(できればウランガラスなど 放 射 線 を 実 際 だしているサンプルがあると 尚 よい) 買 い 物 客 に 自 分 で 購 入 する 商 品 が 安 全 であることを 確 認 してもらう そうすれば 魚 だって 福 島 産 の 野 菜 だって 消 費 者 は 安 心 し て 購 入 できるはず 風 評 被 害 も 最 小 化 できるに 違 いない 私 が 福 島 原 発 作 業 員 であれば 皮 膚 の 露 出 部 をゼロにし 特 に 放 射 性 物 質 の 吸 入 を 極 力 避 けるように 工 夫 する 作 業 以 外 の 無 用 ながんリスクを 避 ける 喫 煙 アルコールなど ただ 健 康 診 断 の 胸 部 X 線 もがんリ スクがあがるのであれば 受 けるべきかもしれないが 私 は 避 けるであろう 私 が 避 難 勧 告 を 受 け 避 難 所 生 活 をしているとしたら 家 族 はもちろん 同 じ 地 域 の 人 達 と 行 動 を 共 にする 感 度 のよいガイガー カウンターを 購 入 し 避 難 所 の 子 どもたち 妊 婦 授 乳 中 の 母 親 の 内 部 被 曝 を 極 力 さけるよう 尽 力 する また 避 難 所 の 不 安 うつなどを 避 けるよう 楽 しいイベントを 企 画 する 国 側 にあって 原 発 事 故 の 対 応 にあたるとしたら 福 島 原 発 事 故 の 封 じ 込 めが 最 優 先 課 題 である 今 は 現 場 原 子 力 保 安 院 政 府 がばらばら にみえる 情 報 分 析 判 断 意 思 決 定 リスク コミュニケーションを 一 箇 所 に 集 約 す る 学 者 チームはレッド チーム(アメリカではしばしば 採 られる 手 法 なのだが)とし 常 に 意 見 を 求 める 現 場 の 人 間 は 近 視 眼 的 になりやすく 非 効 率 的 になり 易 い これに 対 し てレッド チームは 事 態 を 達 観 できるため 斬 新 なアイディアが 出 易 い もちろん 政 府 はレ ッド チームを 積 極 的 に 取 り 入 れないと このシステムは 瞬 く 間 に 崩 壊 するだろう 数 値 の 引 き 上 げの 判 断 は 一 切 学 術 アドバイザーに 任 せる 作 業 員 の 最 大 被 曝 量 を100 か
ら250mSv に 引 き 上 げたり 子 どもを 含 めた 人 々の 年 間 被 曝 量 を1mSv から20mSv に 突 然 自 分 達 の 都 合 で 引 き 上 げたりすると それでは 今 までの 基 準 は 意 味 が 無 かったというこ と? となり 政 府 は 信 用 を 失 い 社 会 を 混 乱 に 陥 れるからである チェルノブイリ 原 発 事 故 では 放 射 線 より 人 々を 混 乱 と 不 安 に 陥 れたことの 方 がその 代 償 は 高 かったであ ろう 今 日 本 でもチェルノブイリ 原 発 事 故 の 際 見 られたのと 同 様 の 社 会 現 象 が 見 られ 始 め ている 汚 染 地 域 の 環 境 整 備 に 努 める 特 に 子 ども 達 の 集 まる 保 健 所 幼 稚 園 学 校 児 童 館 な ど 徹 底 的 に 洗 浄 する リスク コミュニケーションのとり 方 として まず 確 定 的 影 響 と 確 率 的 影 響 を 説 明 し 一 般 市 民 には 確 率 的 影 響 のみが 関 係 すること 放 射 線 に 被 曝 することは 将 来 の 発 がんリスク を 押 し 上 げること しかしそれが100mSv 未 満 であれば 個 人 のレベルでは 無 視 できるレベ ルであることなどを 専 門 家 の 言 を 借 りて 判 りやすく 何 度 も 説 明 する そして 特 に 妊 娠 中 の 女 性 子 どもを 持 つ 母 親 これから 子 どもをつくりたいと 思 う 女 性 に 対 しては 政 府 の 不 十 分 なリスク コミュニケーション 溢 れるインターネット 上 の 情 報 などで とても 心 配 な 気 持 ちは 判 るが 逆 に 強 い 不 安 を 感 じることがお 腹 の 赤 ちゃんにとっても 子 ども たちの 心 の 発 達 においても 一 番 悪 いことを 強 調 する 国 側 にあって 今 後 のエネルギー 政 策 を 考 える 今 回 で 原 子 力 の 安 全 神 話 は 完 全 に 崩 壊 した 原 発 はこれ 以 上 増 やさない 現 存 の 原 発 の 安 全 対 策 を 見 直 す 新 しいエネルギーの 研 究 を 強 化 する 1つのエネルギーに 依 存 するの は 危 険 で 水 力 火 力 原 子 力 クリーンエネルギーに 当 面 はリスク 分 散 するべきだろう しかし 最 終 的 には クリーンエネルギーの 開 発 が 切 望 される その 際 自 分 達 だけではなく 地 震 の 専 門 家 など 各 分 野 の 専 門 家 のアドバイスを 真 摯 に 取 り 入 れるべきだ それにしても 今 まで 学 者 の 意 見 は 政 府 にとって 都 合 の 良 い 場 合 にしか 採 用 されてこなかった また 政 府 にとって 耳 あたりの 良 いことしか 言 わないアカデミアが 御 用 学 者 として 重 用 されてきた また 国 会 議 員 は 小 選 挙 区 制 であるとその 選 挙 区 の 利 益 誘 導 が 優 先 されるため 国 益 は 二 の 次 になってしまう しかも 目 先 の 利 益 ばかりに 目 が 行 き 10 年 先 や 次 世 代 のことを 考 えていない 原 発 を 造 ることは 簡 単 だが 停 めることがいかに 大 変 か 戦 争 も 同 じである はじめることは 簡 単 だが 誰 もどうやって 止 めるかまで 考 え ていない 私 なら 科 学 的 根 拠 に 基 づいた 国 益 最 優 先 の 政 治 を 展 開 する しかも10 年 20 年 先 のことも 視 野 に 入 れながら 子 どもや 孫 の 世 代 から あのころの 政 治 判 断 は 正 しかった と 云 われるように
ブリーフィング 今 まで 長 々とエビデンスを 中 心 に 述 べてきたことをまとめてみた がんの 子 どもを 持 つ 家 族 にも 治 療 方 針 を 立 てる 際 同 じ 様 にエビデンスを 中 心 に かなり 詳 細 な 説 明 をしてき た 知 識 は 困 難 に 立 ち 向 かう 武 器 と 信 じるからである 私 は だからこうしなさい とい うつもりはない どう 感 じ どう 判 断 し どう 行 動 するかはあくまで 読 者 次 第 だと 思 う 1.チェルノブイリ 原 発 事 故 の 結 果 増 えた 病 気 は 子 どもの 甲 状 腺 がんだけであった 2.これは 特 にヨウ 素 131がミルクや 牛 乳 に 混 ざっていたことが 原 因 ソビエト 政 府 の 出 荷 制 限 基 準 値 は3,700Bq/kg であり しかも 基 準 値 を 超 えた 源 乳 は 粉 ミルクを 含 む 乳 製 品 に 回 された 日 本 の 基 準 は300Bq/リットル 粉 ミルクは100Bq/リットルであり かなり 厳 しい 基 準 である またチェルノブイリ 近 隣 ではもともとヨウ 素 欠 乏 からくる 甲 状 腺 腫 が 多 く 甲 状 腺 がんの 発 生 し 易 い 背 景 があった そのように 考 えると 日 本 においては 将 来 福 島 原 発 事 故 により 子 どもの 甲 状 腺 がんはチェルノブイリ 原 発 事 故 のように 増 えないであろう 3.チェルノブイリ 原 発 事 故 のあと その 周 辺 州 のウクライナ ベラルーシ ロシアでは 2005 年 の 時 点 で14 歳 以 下 の5,127 人 の 甲 状 腺 がんが 診 断 されたが 亡 くなった9 人 以 外 は 全 員 生 きている( 死 亡 率 0.18%) 18 歳 以 下 の6,848 人 の 甲 状 腺 がんの 患 者 のうち15 人 が 死 亡 し あとは 生 存 している( 死 亡 率 0.22%) がんときくと もう 駄 目 だ と 思 いがちだが 原 発 後 の 子 ども 甲 状 腺 がんの99.8%が 治 ったということ 4. 先 天 奇 形 も 明 らかな 増 加 は 無 かった しかし 妊 婦 に 関 しては 不 確 実 な 部 分 も 残 る 5. 現 在 未 だに 多 くの 人 特 に 子 どもを 持 つ 母 親 や 妊 婦 が 水 や 食 品 への 放 射 能 の 混 入 を 心 配 している 政 府 に 対 する 不 信 感 ネット 上 で 氾 濫 する 情 報 心 配 するのは 当 然 の 成 り 行 きだと 思 う ただ チェルノブイリでも 同 じ 現 象 がみられた 6.チェルノブイリでは 両 親 の 不 安 慢 性 ストレスが 子 どもの 情 緒 障 害 知 能 指 数 の 低 下 を 招 き 思 春 期 にさしかかる 頃 には 社 会 適 応 性 障 害 も 増 えた 信 じられないような 話 だが 事 実 である 不 必 要 に 心 配 して 大 事 なものを 見 失 ってしまう 私 は あえてこの 現 象 を 原 発 事 故 の 罠 と 呼 ぶことにする