自然資本プロトコル原則と枠組み ドラフト 2015 年 11 月 23 日 自然資本コアリションは ビジネスが自然資本を守り拡大させる世界を共通のビジョンとして 自然資本について取り組みを進める様々なイニシアティブや団体を結びつける グローバルなプラットフォームです www.naturalcapitalcoalition.org @NatCapCoalition この日本語版は 自然資本コアリションが作成した 自然資本プロトコル ( ドラフト ) とその概要版を基に 地球環境基金の支援を受け コンサベーション インターナショナル ジャパンが作成しました
なぜ自然資本プロトコルが必要か 企業活動によって自然資本が保護され強化されている世界を想像してみてほしい これに対して 現在私たちが住んでいる世界を考えてみてほしい このふたつの世界のずれから 私たち全員が直面している大きな環境問題に取り組む上で 企業が果たすことができ また果たさなければならない重要な役割が浮かび上がってくる 人間の活動によって生み出された大規模な環境問題は あらゆる場所で人々に影響を与えている 私たちは天然資源を地球の回復速度を超えるペースで利用しており そのペースは加速している * 今 その進路を変えなければ 社会的 経済的影響はさらに深刻になっていくだろう 個人的 組織的 社会的な行動を変える必要があるということは 地球の境界内で繁栄する より衡平な経済や公正な社会を築くための絶好な機会だと肯定的に捉えることもできる 変革をもたらす上で 企業は大きな役割を担い 成長の機会も得る 適切な情報やツール マーケットシグナルがあれば 企業は環境問題に立ち向かうだろう 今日 ビジネス上の意思決定にあたって 非財務的価値の説明に難しさを感じることが多い 今のところ 取締役会資料や経営判断にこうした情報を盛り込むための一般的で体系的な方法はない とりわけ環境問題や社会問題についての判断は 倫理的な問題と捉えられがちであり 組織内の雄弁な推進派に頼るところが大きく 着実な成果を上げることはまれである ほとんどの企業は 決定の指針として財務情報を頼りにしている こうした情報は通常 原材料 エネルギー 労働力 土地などの財やサービスの現在の市場価値 あるいは予測される市場価値を反映している しかし これらはほとんどの場合 生産 加工 流通 消費 リサイクル 廃棄における社会コストや環境コストの織り込みが不十分である 農作物の花粉交配や将来的な資源不足のリスク どんどん厳しくなる環境政策により 行き場を失った資産 の価値など 自然から無償で提供される必要不可欠なサービスの価値が市場に反映されていないこともある 自然資本プロトコルは 経営判断の指針として意思決定のための信頼 信用できる実用的な情報をタイムリーに生み出す助けとなるように作られている 先進的な企業は 自社の事業に対してだけでなく 社会に対しても環境がもたらすリスクや機会を十分に認識している 多くの企業はステークホルダーと連携しながら 自然資本への影響や依存度を測定し 価値を評価するためのプロジェクトを手掛けており そこから得られた情報を財務データと合わせて より良い意思決定に活かしている しかし 自然資源の評価に利用可能なツールはさまざまで 数多く存在するため 特定の状況に適したツールを選ぶのは難しい 自然資本プロトコルは すべての企業が自然資本への影響と依存度を測定 価値評価できるように標準化された方法を示している 自然資本プロトコルの目的 自然資本プロトコルの目的は 企業が自然との関係を戦略や経営に体系的に組み込むのを支援することである このプロトコルは 自然資本の価値を評価するメリットを示して取り組みを促し 最終的にはすべての企業が環境の衰退を防いで 私たちの生活を支える自然資本の再生に取り組むようになることを目指している 自然資本プロトコルが支援できるのは : 自社を取り巻く自然資本の状況について最も関わりが深い影響や依存度 リスク 機会を明確にすること 取り組みを妨げる経営判断に対し 自然資本の価値についてより良い情報を提示し 改善すること 自社特有の状況や用途に合った計測や価値評価の手法を選択すること 環境への影響だけでなく 事業の成功を左右するような自然資本への重要な依存度を評価することこのプロトコルは エネルギーや水 廃棄物に関する取り組みなど 企業のさまざまな非財務的な取り組みを結びつけるのにも役立つ 結果を比較し 相乗効果を見出し より統合的な試行ができると同時に 日常の経営判断と長期戦略が関連づけられる 自然資本プロトコルは報告のための枠組みではない 自然資本への影響や依存度を評価するための標準化されたプロセスを提供するが 評価の結果は通常 文脈の中で考えられるものであり 外部への公開には適さないこともある とはいえ 評価結果を報告したいと考える企業もあるだろう これは さらなるイノベーションを刺激するという意味で推奨されている このプロトコルは 影響や依存度の定性的 定量的 金銭的な価値評価についての指針を示すものである 利用者はこのプロトコルを自社のニーズや目的に合った測定 評価レベルで適用してほしい 自然資本プロトコルが示すのは評価プロセスの概略であり あらゆる組織のあらゆる管理レベルに適用 転用できるはずである 自然資本 はここでは 植物や動物などの再生可能な自然資源だけではなく 鉱物などの非再生可能な自然資源も含むと定義されている 多くの自然資源が広く取引されているが こうした資源の市場価格は上述のように社会的コストや環境コストを十分には反映していないことがある 自然資本 を広く定義することで プロトコルを使用する企業が リスクや機会を見落とすことなく検討するよう促している 同様に自然資本プロトコルは 大気汚染や騒音 粉塵公害 温室効果ガスなど 環境影響を幅広く網羅している これらはすべて 自然資本 ビジネス 社会に影響を与える その影響が大きく重要 ( マテリアル ) であれば 測定 価値評価が可能であるし するべきである * 世界自然保護基金 (World Wildlife Fund). 生きている地球レポート 2014 (Living Planet Report 2014: species and spaces, people and places) McLellan, R., Iyengar, L., Jeffries, B., & Oerlemans, N. (Eds.).
私たちは毎年 地球の回復力より 50% 早いペースで自然資本を取り崩しており このペースは加速している * こうした現状がもたらすリスクを認識している先進的な企業は現在 様々な対処法を数多く開発して利用している 自然資本プロトコルのすべてのステージは関連し合っている つまり意思決定に役立つステップに戻って繰り返すことが可能である ステージ 1 枠組みなぜ? 自然資本コアリションは 企業がより良い意思決定ができる自然資本プロトコルを提供することでこの難題に立ち向かおうとしている このプロトコルは 従うべき標準化された枠組みを示し セクターや地域を問わずに適用できる ステージ 4 適用それでどうする? ステージ 2 スコープなにを? ステージ 3 計測 価値評価どうやって? 原則 自然資本の評価に際しては 以下の 4 つの原則に従うことを提案する : * 世界自然保護基金 (World Wildlife Fund). 生きている地球レポート 2014 (Living Planet Report 2014: species and spaces, people and places) McLellan, R., Iyengar, L., Jeffries, B., & Oerlemans, N. (Eds.). GRI,(2013) より IIRC,( 2013) より 01
ステージステップ答える質問自然資本プロトコル 枠組み ドラフト 2015 年 11 月 23 日 枠組みは 原則に基づき 4 つの論理的なステージ 10 ステップからなる 一連の検討が終わった後で 結果によっては ステップを戻って再検討したり 別の質問をすることもある 枠組みなに? スコープなにを? 計測 価値評価どうやって? 適用それでそうする? はじめに 目的の設定 評価の範囲 影響 依存度の検討 計測と価値評価の準備 影響 依存度の計測または推定 自然資本の状態や傾向の変化の計測または推定 影響 依存度の価値評価 結果の解釈と利用 組み込み 自然資本は事業とどのように関連しているか? 評価の目的は何か? 目的に対してどの範囲で分析するのが適切か? どの影響 依存度が最も重要か? 計測や価値評価を開始する前に考慮すべきことは何か? 影響要因 依存度をどのように計測 推定するか? 事業がもたらす影響や依存度に関連する自然資本の状態や傾向の変化を どのように計測または推定するか? 自然資本への自社の影響 依存度の価値は何か? 評価と結果をどのように解釈し 確認し 検証し 適用するか? 自社の事業において自然資本評価の利用を継続するべきか? 継続するべきなら どのようにして? 原則 : 関連性 厳格性 再現可能性 整合性 02 03
枠組みなぜ? スコープなにを? 01 はじめに 02 目的の設定 自然資本は事業とどのように関連しているか? 評価の目的は何か? ステップ 01 では 自然資本への影響や依存度が事業にどのように関係しているかを明確にする 自然資本の評価によって対応が可能になるリスクや機会 および評価結果の使い方について考える 自然資本評価によって事業は便益をなぜ どのようにして得ることができるのかを明確にする 潜在的なリスクや機会を探る 内部の支持を得る 自社と自然資本との関係を理解する ステップ 02 では 自然資本の評価を役立てたい決定事項を特定し 評価の目的を定める 適用の対象となる事業を決める 想定する対象者を明確にする ふさわしいステークホルダーと 適切な関与レベルを明確にする 評価によって期待される便益を明確にする 04 05
スコープなにを? スコープなにを? 03 評価の範囲 04 影響 依存度の検討 目的に対してどの範囲で分析するのが適切か? どの影響 依存度が最も重要か? ステップ 03 では 評価計画の立案に際して 既存のビジネス活動を考慮に入れながら 結果に影響を及ぼす主要な検討事項を設定する 組織として何を対象にするのか決める バリューチェーンの範囲を決める 価値に対する視点を明確にする どのような価値を考慮するか決める 他の技術的課題 ( ベースライン シナリオ 空間的境界 時間枠など ) を検討する 計画における重要課題に対処する ステップ 04 では どの影響 依存度が最も重要で 従って評価に含めるべきかを決める 潜在的に重要 ( マテリアル ) な自然資本への影響 依存度をリストアップする マテリアリティ評価の基準を特定する 関連する情報を集める マテリアリティ評価を完了する 06 07
計測 価値評価どうやって? 05 計測と価値評価の準備 06 計測や価値評価を開始する前に考慮すべきことは何か? 計測 価値評価どうやって? 影響 依存度の計測または推定 影響要因 依存度をどのように計測 推定するか? ステップ 05 では 影響や依存度を計測と価値評価を始めるにあたり必要な技能と情報を明らかにする 計測と価値評価のルートを選択する 選択したルートの持つ意味を検討する 選択したルートについて 計測 価値評価のステージで必要になる具体的なニーズについて対応する計画を立てる ステップ 06 では 適切な方法の選び方を示し 計測や分析に使える様々な指標やツール 手法の例を紹介する 影響要因や依存度に対して 評価の活動をマップ化する 計測する影響や依存度を定める 影響や依存度をどのように計測するかを明確にする データを収集または推定する 08 09
07 自然資本の状態や傾向の 08 変化の計測または推定 事業がもたらす影響や依存度に関連する自然資本の状態や傾向の変化を どのように計測または推定するか? 影響 依存度の価値評価 自然資本への自社の影響 依存度の価値は何か? ステップ 07 では 外部要因が自然資本にどのように影響しているかを概観し 自然資本の変化を計測 推定する際に必要となる検討事項を示す 自社の事業活動や影響要因がもたらす自然資本の変化を特定する 外部要因がもたらす自然資本の変化を特定する 変化の計測 推定の手法を選択する ステップ 08 では主要な評価方法を説明し 評価に最も適切な方法を選ぶ手助けをする 影響や依存度の結果を明らかにする 関連費用や便益の相対的な重要性を検討する 適切な評価技術を選択する 価値評価を行う 計測 推定する 10 11
適用 適用 09 結果の解釈と利用 10 組み込み 評価と結果をどのように解釈し 確認し 検証し 適用するか? 自社の事業において自然資本評価の利用を継続するべきか? 継続するべきなら どのようにして? ステップ 09 では これまでのステップの結果を解釈し 必要に応じて確認したり正式に検証したりするなど 結果の適用方法についてガイドする 重要な前提を検証する 誰が影響を受けるかを明確にする 結果をまとめる 評価プロセスと結果を確認 検証する ステップ 10 では 今後も自然資本評価を継続すべきかどうか その場合どのようにして継続するか 自社の方針やプロセスにどのようにして継続的に組み込んでいくかについて検討する 評価の強みと弱みを検討する 結果を伝える 今後どのような評価が可能かなど 次のステップを計画する 結果を適用する 12 13