電力中央研究所フォーラム2010 研究成果発表会社会経済部門 低炭素時代におけるエネルギー 環境政策と電気事業経営 環境税導入の都道府県別負担の評価 社会経済研究所 田口 裕史 1
報告内容地域の経済 エネルギー 環境分析環境税の家計負担 - 評価指標分析手法分析結果結果のまとめ 2
地域経済とエネルギー 環境問題 地域経済が直面する大きな構造変化 地球温暖化対策 人口減尐 地球温暖化対策や人口減尐が地域経済とエネルギー需要に不 える影響は一様ではない 地域の産業構造やエネルギー需要構造に依存 地域を経営基盤とする電力会社にとって 地域別の影響は重要 地域経済は他地域との相互依存性が高い 地域経済は地域間交易 生産要素移動を通じて相互に依存 経済環境変化の地域経済に対する影響を計測する際には 他地 域の変化を踏まえた分析が必要 3
都道府県別経済 エネルギーデータの開発 1 47 都道府県多地域産業連関表 (2000 年 ) 県別 産業別の財 サービスの需要 供給構造を記述 県間の財 サービスの交易構造を記述 金額表示のため環境分析やエネルギー分析を行うには十分ではない 2 都道府県別エネルギーデータ (2000 年 ) 1 と整合的なエネルギーの物量を推計 エネルギー部門を詳細に把握 1 と組み合わせることにより 地域の環境 エネルギー分析を行うことが可能 4
推計エネルギー種別 推計エネルギー区分 1 石炭 2 原油 3 天然ガス 4ガソリン 5ジェット燃料油 6 灯油 7 軽油 8A 重油 9B 重油 C 重油 10ナフサ 11 液化石油ガス 12コークス 13その他石油 石炭製品 14 電力 15 都市ガス 16その他のエネルギー 対応する47 都道府県多地域産業連関表区分鉱業石油 石炭製品電気ガス 熱供給 5
課税と家計負担 超過負担 ( 死荷重 ) 消費者余剰支払っても良いと考えている購入金額と実際に支払った購入金額の差の合計 税負担 課税による消費者余剰 ( 消費による満足度 ) の減尐は 税負担と超過負担に区別できる 6
価格弾力性と超過負担 価格弾力性が大きいほど超過負担は大きい 7
環境税導入の家計の負担とは何か 環境税導入の家計の負担 = 消費者余剰の変化 = 税負担 + 超過負担 税負担 エネルギー価格の変化と需要構造の差異に依存 地域別に異なる 一国全体では費用 ( 負担 ) とはならない 地域別に税支払いが純負担になるかどうかは税の使途に依存 本発表では税の使途を分析対象としてないため家計負担として扱う 超過負担 税の導入によって人々の消費選択を変化させることによる消費者余剰の減尐 価格弾力性の高い商品ほど大 一国全体でも損失 環境税導入による社会的コスト 8
環境税率の設定 ( シミュレーション案 ) 1 輸入者, 採取者に課税 原油 石油製品 :2,780 円 /kl(1,064 円 /CO 2 -t,3,900 円 /C-t) ガス状炭化水素 :2,870 円 /t(1,064 円 /CO 2 -t,3,900 円 /C-t) 石炭: :2,740 円 /t(1,174 円 /CO 2 -t,4,303 円 /C-t) 税率 : 平成 22 年度地球温暖化対策税具体案に基づいて設定 ガソリン暫定税率は継続 参考 : 平成 22 年度地球温暖化対策税具体案の概要 税収額 総額約 2 兆円 使途地球温暖化対策の歳出 減税に優先的に当てる ( 特定財源ではない ) ガソリン課税 家計税負担 25,100 円 /kl( 暫定税率廃止 ) +17,320 円 /kl ( 上乗せ課税 )= 7,780 円 /kl 39,678 円 /C-t +27,380 円 /C-t = 12,298 円 /C-t 1,127 円 = 暫定率税廃止 ( 16,094 円 )+ 地球温暖化税 (16,728 円 ) + 軽油追加税 (493 円 ) 環境省 HP:http://www.env.go.jp/policy/tax/plans.html 9
分析手法 1 環境税導入による家計光熱費変化の計測 47 都道府県産業連関表 2000 年 ( 電力中央研究所 2008 年 ) 都道府県エネルギーデータ 2000 年 ( 電力中央研究所 2010 年 ) 2 消費者需要モデルによるコストと CO 2 削減量の計測 時系列 地域別の消費データから光熱費の需要関数を推定 1 の価格変化情報を元に消費者の光熱費消費量変化 消費者余剰変化 税負担 超過負担を計測 都道府県エネルギーデータにより CO 2 排出量変化を算出 10
1 環境税の製品価格への影響 都道府県エネルギーデータ 47 都道府県多地域産業連関表 原油 石炭 天然ガス等への課税 最上流課税 原油 石炭 天然ガス等の価格上昇 石油 石炭製品価格の上昇 ガソリン, 軽油, 灯油, プロパンガス 電力価格の上昇 都市ガス価格の上昇 から算出 光熱費価格の上昇 エネルギー価格上昇率は地域のエネルギー産業の生産コストに占める一次エネルギー及び他の原材料の価格上昇率に依存 + 家計の光熱費価格上昇率は, どの地域から エネルギーを購入するか と エネルギー需要構成 に依存 地域別に光熱費価格の上昇率は異なる 11
2 消費行動の変化 - 消費者需要モデル - 基準 環境税の影響 消費による満足度 効用関数 所得制約下で効用最大化 財別需要量 = f ( 所得 相対価格 ) 財別需要関数 全国消費実態調査年別 県別プールデータ (89,94,99,04) 実績データによる係数の推定 環境税による価格変化 (1) AIDS モデル 世帯主年齢の影響 消費者余剰の変化 財別需要量の変化 財別需要関数 CO2 排出量の変化 12
13 世帯当たり家計 CO 2 排出量 ( 電力帰属分含む ) 世帯当たり家計の CO 2 排出量は 北部や中国 四国の一部で高く 人口集中県で低いという傾向が見られる 沖縄は電力の世帯当たり CO 2 排出が大きいことが 家計の CO 2 排出が大きい要因となっている プロパンガスは石油 石炭に含まれる. 推定需要関数より算出した 2000 年価格の需要量より算出 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 北海道青森県岩手県宮城県秋田県山形県福島県茨城県栃木県群馬県埼玉県千葉県東京都神奈川県新潟県富山県石川県福井県山梨県長野県岐阜県静岡県愛知県三重県滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県和歌山県鳥取県島根県岡山県広島県山口県徳島県香川県愛媛県高知県福岡県佐賀県長崎県熊本県大分県宮崎県鹿児島県沖縄県 (C-t/ 世帯 ) 1.67C-t/ 世帯全国平均
14 自己価格弾力性の推定結果家計の光熱費 ( ガソリン 水道料金を含む ) の自己価格弾力性は他財と比較すると低く 価格変化に対して需要量の変化は相対的に小さい 世帯主年齢の上昇は光熱費の弾力性を低下させる効果を持つ 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 北海道青森県岩手県宮城県秋田県山形県福島県茨城県栃木県群馬県埼玉県千葉県東京都神奈川県新潟県富山県石川県福井県山梨県長野県岐阜県静岡県愛知県三重県滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県和歌山県鳥取県島根県岡山県広島県山口県徳島県香川県愛媛県高知県福岡県佐賀県長崎県熊本県大分県宮崎県鹿児島県沖縄県食料 住居光熱費その他
15 環境税導入による生産物価格の変化生産物価格は全体では石油 石炭製品 都市ガス 電力の順に価格上昇率が高い 県別には県内事業所のコスト構造を反映して 価格上昇率が大きくばらつく プロパンガスは石油 石炭に含まれる. 0 2 4 6 8 10 12 14 16 北海道青森県岩手県宮城県秋田県山形県福島県茨城県栃木県群馬県埼玉県千葉県東京都神奈川県新潟県富山県石川県福井県山梨県長野県岐阜県静岡県愛知県三重県滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県和歌山県鳥取県島根県岡山県広島県山口県徳島県香川県愛媛県高知県福岡県佐賀県長崎県熊本県大分県宮崎県鹿児島県沖縄県 (%) 石油 石炭製品電力都市ガス
地域区分 北海道 沖縄 北陸 東北 中国 関東 九州 四国 関西 中部 16
環境税の導入による光熱費価格の変化 6.0 5.0 (%) 全国平均 2.6% 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 北海道 東北 プロパンガスは石油 石炭に含まれる. 域内都道府県の加重平均 地域別の光熱費価格は 購入するエネルギー価格と消費者の需要構成を反映して各地域で異なっている 沖縄は自地域の石油 石炭製品及び電力の価格上昇率の高さが光熱費価格を引き上げている 関東 中部 北陸 関西 中国 四国 九州 沖縄 17
環境税による家計 CO 2 の削減率 ( 基準比較 ) CO2 削減率 (%) 3.5 3.0 2.5 全国平均 1.4% 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 北海道 東北 関東 中部 推定需要関数による 2000 年推計値との比較 北陸 環境税の家計の CO 2 排出削減効果は全国では 1.4% 地域別の削減率は価格上昇率の差異を反映している 関西 中国 四国 九州 沖縄 18
課税前後の世帯当たり CO 2 排出 (C-t/ 世帯 ) 6 CO2 削減量 5 課税後 CO2 全国平均 ( 課税前 ):1.67 全国平均 ( 課税後 ):1.65 4 3 2 1 0 北海道 東北 関東 中部 北陸 関西 中国 四国 九州 沖縄 課税による CO 2 削減量は世帯当たり CO 2 排出量の地域別の特徴に影響を不えるほど大きくはない 19
環境税の家計負担 ( 税負担 + 超過負担 ) 14,000 12,000 10,000 円 / 世帯 年 超過負担 税負担 全国平均 6,830 円 8,000 6,000 4,000 2,000 0 北海道 東北 関東 中部 北陸 関西 中国 四国 九州 沖縄 年間の世帯当たり環境税負担額は平均 6,830 円 地域別では関西 (5,500 円 )~ 沖縄 (12,600 円 ) に分布する 超過負担はいずれの地域も非常に小さい 地域ごとに税の価格転嫁率が異なるため 必ずしも CO2 排出量と税負担が一致するとは限らない 20
1.06 推計された需要曲線と家計負担 光熱費価格 (2000 年価格 =1.0) 1.08 沖縄 : 税負担 12,423 円 沖縄需要曲線 北海道需要曲線 1.04 1.02 1 北海道 : 税負担 7,506 円 北海道 : 超過負担 61 円 沖縄 : 価格上昇 北海道 : 価格上昇 0.98 0.96 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 光熱費消費は価格弾力性が低く需要曲線の傾きが急であるため 超過負担の総負担に占める割合は小さい 沖縄は課税による価格上昇率が高いため 税負担が大きくなる 沖縄 : 超過負担 193 円 x 10 5 光熱費消費量万円 / 世帯 年 2000 年価格 21
分析結果のまとめ 地球温暖化対策税 ( 環境省案 + 暫定税率存続 ) の家計に対する CO 2 削減効果は限定的 全国平均で 1.4%(2000 年基準比 ) 全国の削減量が小さい 価格変化が限定的 + 光熱費が非弾力的 地域別の差異 価格上昇率の大きい地域ほど CO 2 削減率が大 家計における総負担は全国平均で 6,830 円 / 年 世帯 地域別の家計負担額は約 5,500~12,600 円 / 世帯 年の間に分布 家計負担を評価する際には平均だけではなく最大値にも着目 上流課税による価格転嫁率が地域ごとに異なるため CO 2 排出量と税負担の大きさが完全に一致するとは限らない 22
CO 2 削減への示唆 家計部門の CO 2 削減のためには 地球温暖化対策税 (H22 度環境省具体案 + 暫定税率存続 ) だけでは丌十分 地球温暖化対策税の超過負担 ( 社会的ロス ) は非常に小さい 環境税収を家計消費の低炭素化に転換を図るインセンティブに利用することが重要 23
今後の展開 環境税の地域影響分析 供給サイドの行動変化を組み込んだ一般均衡モデルを開発中 環境税の CO 2 削減効果と地域経済への影響を総合評価 自治体の独自環境施策の影響評価 将来の地域経済動向 エネルギー需要展望 地域経済の需要構造変化と産業構造変化を内生化した経済動学モデルを開発中 各地域の人口減尐を踏まえた地域産業のエネルギー需要の展望 地球温暖化対策が地域経済成長径路に不える影響 24