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医療事故調査制度ガイドライン目次 第 1 章死亡事故発生から医療事故調査 支援センターへの報告まで 1. 死亡事故発生時の判断大原則 2. 死亡事故発生時の判断骨子 1 1 第 2 章医療事故調査委員会設置から医療事故調査 支援センターへの結果報告まで 1. 医療事故調査並びに医療事故調査委員会の設

医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する

医療事故調査制度についてのこれまでの検討経緯 平成 24 年 平成 25 年 平成 24 年 2 月医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会設置 以降 13 回開催 平成 25 年 5 月 医療事故に係る調査の仕組み等の基本的なあり方 について のとりまとめ 調査の目的 : 原因究明及び

150508通知(都道府県向け)

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社団法人日本医師会の組織図

平成27年度事業計画書

医療事故に係る調査の仕組み等におけるこれまでの経緯①

医療事故調査制度の施行に係る検討について(平成27年3月20日)

医療事故調査ガイドライン.indd

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スライド 1

150117内保連合宿討議

子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案要綱

医療事故に係る調査の仕組み等について これまでの経緯 平成 19 年 医療事故に係る調査の仕組みについて 自民党 医療紛争処理のあり方検討会 ( 座長 : 大村秀章議員 ) の取りまとめ ( 平成 19 年 12 月 ) において 新制度の骨格や政府における留意事項を提示 平成 20 年 厚生労働省

150117内保連合宿討議

Microsoft Word WT報告書最終版 (医療部会)

年管管発 0928 第 6 号平成 27 年 9 月 28 日 日本年金機構年金給付業務部門担当理事殿 厚生労働省年金局事業管理課長 ( 公印省略 ) 障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いについて 厚生年金保険法施行規則等の一部を改正する省令 ( 平成 2

4 研修について考慮する事項 1. 研修の対象者 a. 職種横断的な研修か 限定した職種への研修か b. 部署 部門を横断する研修か 部署及び部門別か c. 職種別の研修か 2. 研修内容とプログラム a. 研修の企画においては 対象者や研修内容に応じて開催時刻を考慮する b. 全員への周知が必要な

京都府がん対策推進条例をここに公布する 平成 23 年 3 月 18 日 京都府知事山田啓二 京都府条例第 7 号 京都府がん対策推進条例 目次 第 1 章 総則 ( 第 1 条 - 第 6 条 ) 第 2 章 がん対策に関する施策 ( 第 7 条 - 第 15 条 ) 第 3 章 がん対策の推進

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Microsoft PowerPoint 医療安全全般講演資料 (HP掲載用)

ないようにすることばかり求めて, 院内調査並びにセンターでの調査及び業務に対し制限を加えることを求め続けた結果, 真摯に院内調査に取り組もうとする医療機関にとって指針となるガイドラインは何ら策定されず, できあがった医療法施行規則も通知も本制度の施行のために適切なものというには程遠いものとなったこと

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3 医療安全管理委員会病院長のもと 国府台病院における医療事故防止対策 発生した医療事故について速やかに適切な対応を図るための審議は 医療安全管理委員会において行うものとする リスクの把握 分析 改善 評価にあたっては 個人ではなく システムの問題としてとらえ 医療安全管理委員会を中心として 国府台

する 研究実施施設の環境 ( プライバシーの保護状態 ) について記載する < 実施方法 > どのような手順で研究を実施するのかを具体的に記載する アンケート等を用いる場合は 事前にそれらに要する時間を測定し 調査による患者への負担の度合いがわかるように記載する 調査手順で担当が複数名いる場合には

2. 検討 ~ 医療に関する事故の特殊性など (1) 医師等による医療行為における事故 医師等が患者に対してどのような医療行為を施すべきかという判断は 医師等の医学的な専門知識 技能に加え 医師等の経験 患者の体質 その時の患者の容態 使用可能な医療機器等の設備等に基づきなされるものである ( 個別

( 様式第 6) 病院の管理及び運営に関する諸記録の閲覧方法に関する書類 病院の管理及び運営に関する諸記録の閲覧方法 計画 現状の別 1. 計画 2. 現状 閲 覧 責 任 者 氏 名 閲 覧 担 当 者 氏 名 閲覧の求めに応じる場所 閲覧の手続の概要 ( 注 ) 既に医療法施行規則第 9 条の

1. はじめに (1) 平成 27 年 10 月から医療事故調査制度 ( 以下 事故調制度 といいます ) が動き出しました その制度の開始 ( 改正医療法の施行 ) までには厚労省 ( ないし日本医師会 ) が一般的なガイドラインを策定し 信頼の置ける確たる 指針 を臨床現場に示すものと思っていま

薬事法における病院及び医師に対する主な規制について 特定生物由来製品に係る説明 ( 法第 68 条の 7 平成 14 年改正 ) 特定生物由来製品の特性を踏まえ 製剤のリスクとベネフィットについて患者に説明を行い 理解を得るように努めることを これを取り扱う医師等の医療関係者に義務づけたもの ( 特

2. 各検討課題に関する論点 (1) 費用対効果評価の活用方法 費用対効果評価の活用方法について これまでの保険給付の考え方等の観点も含め どう考 えるか (2) 対象品目の選定基準 1 費用対効果評価の対象とする品目の範囲 選択基準 医療保険財政への影響度等の観点から 対象となる品目の要件をどう設

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( 内部規程 ) 第 5 条当社は 番号法 個人情報保護法 これらの法律に関する政省令及びこれらの法令に関して所管官庁が策定するガイドライン等を遵守し 特定個人情報等を適正に取り扱うため この規程を定める 2 当社は 特定個人情報等の取扱いにかかる事務フロー及び各種安全管理措置等を明確にするため 特

日本内科学会雑誌第105巻第12号

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北里大学病院モニタリング 監査 調査の受け入れ標準業務手順 ( 製造販売後臨床試験 ) 第 1 条 ( 目的 ) 本手順書は 北里大学病院において製造販売後臨床試験 ( 以下 試験とする ) 依頼者 ( 試験依頼者が業務を委託した者を含む 以下同じ ) が実施する直接閲覧を伴うモニタリング ( 以下

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JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

)各 職場復帰前 受入方針の検討 () 主治医等による 職場復帰可能 との判断 主治医又はにより 職員の職場復帰が可能となる時期が近いとの判断がなされる ( 職員本人に職場復帰医師があることが前提 ) 職員は健康管理に対して 主治医からの診断書を提出する 健康管理は 職員の職場復帰の時期 勤務内容

富山西総合病院 医療安全管理指針

平成19年度 病院立入検査結果について

(2) 総合的な窓口の設置 1 各行政機関は 当該行政機関における職員等からの通報を受け付ける窓口 ( 以下 通報窓口 という ) を 全部局の総合調整を行う部局又はコンプライアンスを所掌する部局等に設置する この場合 各行政機関は 当該行政機関内部の通報窓口に加えて 外部に弁護士等を配置した窓口を

アレルギー疾患対策基本法 ( 平成二十六年六月二十七日法律第九十八号 ) 最終改正 : 平成二六年六月一三日法律第六七号 第一章総則 ( 第一条 第十条 ) 第二章アレルギー疾患対策基本指針等 ( 第十一条 第十三条 ) 第三章基本的施策第一節アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減 ( 第十四条

医療事故の定義について

3 電子情報処理組織の使用による請求又は光ディスク等を用いた請求により療養の給付費等の請求を行うこと ( 以下 レセプト電子請求 という ) が義務付けられた保険医療機関 ( 正当な理由を有する400 床未満の病院及び診療所を除く なお 400 床未満の病院にあっては 平成 27 年度末までに限る

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指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

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事業者が行うべき措置については 匿名加工情報の作成に携わる者 ( 以下 作成従事者 という ) を限定するなどの社内規定の策定 作成従事者等の監督体制の整備 個人情報から削除した事項及び加工方法に関する情報へのアクセス制御 不正アクセス対策等を行うことが考えられるが 規定ぶりについて今後具体的に検討

冠動脈バイパス患者における周術期βブロッカー使用の経験

に 正当な理由がない限り無償で交付しなければならないものであるとともに 交付が義務付けられている領収証は 指定訪問看護の費用額算定表における訪問看護基本療養費 訪問看護管理療養費 訪問看護情報提供療養費及び訪問看護ターミナルケア療養費の別に金額の内訳の分かるものとし 別紙様式 4を標準とするものであ

雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項 第 1 趣旨 この留意事項は 雇用管理分野における労働安全衛生法 ( 昭和 47 年法律第 57 号 以下 安衛法 という ) 等に基づき実施した健康診断の結果等の健康情報の取扱いについて 個人情報の保護に関する法律についての

特定個人情報の取扱いに関する管理規程 ( 趣旨 ) 第 1 条この規程は 特定個人情報の漏えい 滅失及び毀損の防止その他の適切な管理のための措置を講ずるに当たり遵守すべき行為及び判断等の基準その他必要な事項を定めるものとする ( 定義 ) 第 2 条 この規定における用語の意義は 江戸川区個人情報保

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ための手段を 指名 報酬委員会の設置に限定する必要はない 仮に 現状では 独立社外取締役の適切な関与 助言 が得られてないという指摘があるのならば まず 委員会を設置していない会社において 独立社外取締役の適切な関与 助言 が十分得られていないのか 事実を検証すべきである (2) また 東証一部上場

国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院医療に係る安全管理のための指針 第 1 趣旨本指針は 医療法第 6 条の10の規定に基づく医療法施行規則第 1 条の11 の規定を踏まえ 国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 ( 以下 センター病院 という ) における医療事故防止について組織的に

平成 26 年 3 月 6 日千葉医療センター 地域医療連携ネットワーク運用管理規定 (Ver.8) 千葉医療センター地域医療連携ネットワーク運用管理規定 第 1 章総則 ( 目的 ) 第 1 条この運用管理規定は 千葉医療センター地域医療連携ネットワーク ( 以下 千葉医療ネットワーク ) に参加

(2) 電子計算機処理の制限に係る規定ア電子計算機処理に係る個人情報の提供の制限の改正 ( 条例第 10 条第 2 項関係 ) 電子計算機処理に係る個人情報を国等に提供しようとする際の千葉市情報公開 個人情報保護審議会 ( 以下 審議会 といいます ) への諮問を不要とし 審議会には事後に報告するも

2 保険者協議会からの意見 ( 医療法第 30 条の 4 第 14 項の規定に基づく意見聴取 ) (1) 照会日平成 28 年 3 月 3 日 ( 同日開催の保険者協議会において説明も実施 ) (2) 期限平成 28 年 3 月 30 日 (3) 意見数 25 件 ( 総論 3 件 各論 22 件

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添付資料 (2) 美容医療広告について 医療広告ガイドラインに照らして 問題と考えられる点 平成 27 年 3 月 3 日 特定非営利活動法人消費者機構日本 医療法又は 医業 歯科医業若しくは助産師の業務又は病院 診療所若しくは助産所に関して広告することができる事項 ( 平成 19 年厚生労働省告示

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

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( 選定提案 ) は 利用者に貸与しようと福祉用具の種目の候補が決まった後で 具体的な提案品目 ( 商品名 ) を検討する際に用いる つまり ( 選定提案 ) に記載されるのは 候補となる福祉用具を利用者に対して提案 説明を行う内容である 平成 30 年度の制度改正では 提案する種目 ( 付属品含む

2. 平成 9 年遠隔診療通知の 別表 に掲げられている遠隔診療の対象及び内 容は 平成 9 年遠隔診療通知の 2 留意事項 (3) イ に示しているとお り 例示であること 3. 平成 9 年遠隔診療通知の 1 基本的考え方 において 診療は 医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本

愛知県アルコール健康障害対策推進計画 の概要 Ⅰ はじめに 1 計画策定の趣旨酒類は私たちの生活に豊かさと潤いを与える一方で 多量の飲酒 未成年者や妊婦の飲酒等の不適切な飲酒は アルコール健康障害の原因となる アルコール健康障害は 本人の健康問題だけでなく 家族への深刻な影響や飲酒運転 自殺等の重大

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2コアメンバー会議の開催時期コアメンバー会議は 事実確認調査で得られた情報や相談 通報内容に基づき 緊急性を判断し 緊急性が高いと判断される事例については 早急に開催します 3 協議内容 虐待の事実認定情報の内容により虐待の事実の有無の判断を行います 情報の内容虐待の事実の有無の判断 高齢者の権利を

平成 28 年度第 3 回弘前市ケアマネジャー研修会 1. ケアプランの軽微な変更の内容について ( ケアプランの作成 ) 最新情報 vol.155 p.3 参照 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準について( 平成 11 年 7 月 29 日老企 22 号厚生省老人保健福祉局企画課長

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手順書03

個人情報保護に関する規定 ( 規定第 98 号 ) 第 1 章 総則 ( 目的 ) 第 1 条学校法人トヨタ学園および豊田工業大学 ( 以下, 総称して本学という ) は, 個人情報の保護に関する法律 ( 平成 15 年法律第 57 号, 以下, 法律という ) に定める個人情報取り扱い事業者 (

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我が国の医療安全施策の動向

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

東千葉メディカルセンター医療安全管理指針

14個人情報の取扱いに関する規程

法律 出典 医薬品 医療機器等の品質 有効性及び安全性の確保等に関する法律 ( 昭和 35 年 8 月 10 日法律第 145 号 ) 政令 医薬品 医療機器等の品質 有効性及び安全性の確保等に関する法律施行令 ( 昭和 36 年 1 月 26 日政令第 11 号 ) 省令 医薬品 医療機器等の品質

別紙 ( 国内における臓器等移植について ) Q1 一般の移送費の支給と同様に 国内での臓器移植を受ける患者が 療養の給付を受けるため 病院又は診療所に移送されたときは 移送費の支給を行うこととなるのか 平成 6 年 9 月 9 日付け通知の 健康保険の移送費の支給の取扱いについて ( 保険発第 1

Ⅰ バイタルリンク 利用申込書 ( 様式 1-1)( 様式 ) の手続 バイタルリンク を利用する者 ( 以下 システム利用者 という ) は 小松島市医師会長宛に あらかじ め次の手順による手続きが必要になります 新規登録手続の手順 1 <システム利用者 ( 医療 介護事業者 )>

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特定個人情報の取扱いの対応について

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はじめに 2009 年 1 月の産科医療補償制度の創設に伴い 本制度に加入する分娩機関 ( 以下 加入分娩機関 といいます ) の管理下において 制度対象となる分娩 ( 在胎週数 22 週以降の分娩 < 死産含む>) に対して 各医療保険者等は出産育児一時金等に掛金相当額を加算して支給することとなっ

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厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付の支払の遅延に係る加算金の支給に関する法律

関する基本的考え方 2 医療安全管理委員会 ( 委員会を設ける場合について対象とする ) その他の当該病院等の組織に関する基本的事項 3 従業者に対する医療に係る安全管理のための研修に関する基本方針 4 ( 略 ) 5 医療事故等発生時の対応に関する基本方針 ( 医療安全管理委員会 ( 患者を入院さ

Transcription:

はじめに 1 医療事故調査制度の創設 2014 年 6 月に医療法が改正され, 医療機関の管理者が法の定める 医療事故 に該当すると判断したときは, 第三者機関 ( 医療事故調査 支援センター ) に報告するとともに院内において調査を行うことを中心とする医療事故調査制度 ( 以下 本制度 といいます ) が創設されました 2015 年 10 月 1 日から本制度が施行されています 2 本制度の創設に至る経緯 本制度が創設された背景としては,1999 年に起きた横浜市立大学病院の患者取り違え手術事件, 都立広尾病院の消毒液投与死亡事件など医療事故が繰り返され, 人々の医療安全に対する関心が高まったことから, 厚生労働省や医療界, 医療事故の被害者からも医療事故の再発防止のため医療事故調査制度の創設が切望されました 日弁連も,2008 年 10 月に第 51 回人権擁護大会で 安全で質の高い医療を実現するために というテーマでシンポジウムを開催し, 安全で質の高い医療を受ける権利の実現に関する宣言 を採択し, 国に対して公正で中立な第三者機関による医療事故調査制度の整備を求める等の取組を進めてきました 本制度が創設される以前も, 一部の地域, 医療機関では, 診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業における事故調査, 産科医療補償制度における原因分析, 各医療機関で実施されてきた院内事故調査委員会が実施されていました 2012 年 2 月, 厚生労働省の 医療事故に係る調査の仕組等のあり方に関する検討部会 が発足し,2013 年 5 月に同検討部会の意見を取りまとめ, 同意見を受けてすべての医療機関に対する法律上の義務として本制度が創設されました 3 本パンフレットの目的前記経緯で創設された本制度は, 医療安全の要とも言うべき制度です 施行後もよりよい制度とするため, 医療事故調査については信頼するに足りる公正性 中立性が確保されているか, 調査の実効性が確保されているかなどを常に検証する必要があります 本パンフレットは, 本制度の運用に関わる弁護士に対し, 本制度の内容, 院内事故調査委員会の外部委員及びセンター調査の委員として選任された場合に期待される役割などを分かりやすく解説するものです 2016 年 ( 平成 28 年 )6 月 日本弁護士連合会 1

目次 Q1 医療事故調査制度の概要はどのようなものですか 3 Q2 医療事故調査制度の対象となるのは, どのような医療機関ですか 4 Q3 医療事故調査制度の対象となるのは, どのような医療事故ですか 4 Q4 医療事故調査制度において医療機関は, どのように調査するのですか 6 Q5 医療事故調査 支援センターは, どのような機関で, 7 どのような役割を果たすのですか Q6 医療事故調査等支援団体は, どのような機関で, 8 どのような役割を果たすのですか Q7 医療事故調査制度のなかで, 遺族は, どの段階で, どのように医療機関から説明を受けることができるのですか 9 Q8 医療事故調査制度において, 弁護士は, 10 どのような役割を果たすことができるのですか Q9 医療事故調査についてもっと詳しく知りたいのですが, 12 どのような資料がありますか 2

3 医療事故調査制度は概ね以下の流れで実施されます 1 医療機関の管理者は, 患者の死亡事例が発生すると, 調査の対象とすべき 医療事故 に該当するか否かの判断を行います 2 医療事故 に該当すると判断された場合には, 遺族へ説明するとともに, 医療事故調査 支援センター ( 以下 センター といいます ) に報告します そして, 院内で医療事故調査を行い ( 以下 院内事故調査 といいます ), その結果を遺族に説明し, センターへ報告します なお, 医療機関が 医療事故 としてセンターに報告した場合には, 医療機関又は遺族からの依頼によってセンターが調査を実施することができ ( 以下 センター調査 といいます ), センターが調査した時には, センターは医療機関及び遺族へ調査結果を報告することとなっています 3 センターは, 収集した情報の整理分析を行い, 医療事故の再発の防止に関する普及啓発を行います 以上の流れを図示すると以下のとおりです 一般社団法人日本医療安全調査機構 ( 医療事故調査 支援センター ) のウェブサイトより URL:https://www.medsafe.or.jp/modules/about/index.php?content_id=1 アクセス日 :2016-04-07 医療機関再発防止に関する普及啓発(医療事故調査 支援センター)日本医療安全調査機構死亡事例発生医療事故判断遺族へ説明センターへ報告センターへ結果報告遺族及び医療機関への結果報告遺族へ結果説明必要な支援を求める遺族等への説明 ( 制度外で一般的に行う説明 ) 業務委託医療機関又は遺族からの依頼があった場合医療機関は 医療事故の判断を含め 医療事故の調査の実施に関する支援を 医療事故調査 支援センター又は医療事故調査等支援団体に求めることができます 医療事故調査開始院内調査医療事故調査等支援団体センター調査受付受付整理 分析医療事故調査制度の概要はどのようなものですか Q1

Q2 医療事故調査制度の対象となるのは, どのような医療機関ですか 我が国のすべての病院, 診療所, 助産所 ( 以下 病院等 といいます ) が対象です 規模の大小や設置の主体は問いません 病院等の管理者は, 医療事故 ( 定義は後記 Q3 のとおり ) に該当すると判断した場合には, 法の定めに従って医療事故調査を行う医療法上の義務を負います ( 医療法第 6 条の10 以下 ) Q3 医療事故調査制度の対象となるのは, どのような医療事故ですか 1 医療事故 の定義医療事故とは 医療に関わる場所で医療の全過程において発生する人身事故一切を包含し, 医療従事者が被害者である場合や廊下で転倒した場合なども含む ( 医療安全対策会議報告書 医療安全推進総合対策 ~ 医療事故を未然に防止するために ~ 2002 年 4 月 17 日 ) と定義される等してきましたが, 医療事故調査制度の対象となる 医療事故 は, 法律によってその定義が限定されています すなわち, 当該病院等に勤務する医療従事者が提供した 1 医療に起因し, 又は起因すると疑われる2 死亡又は死産であつて,3 当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの ( 医療法第 6 条の10 第 1 項 ) と定義されています 2 医療に起因し, 又は起因することと疑われる ( 前記 1) 通知 ( 平成 27 年 5 月 8 日医政発 0508 第 1 号 ) は 医療 の範囲に含まれるものとして,, 手術, 処置, 投薬及びそれに準じる医療行為 ( 検査, 医療機器の使用, 医療上の管理など ) が考えられる とし, 他方で 施設管理等の 医療 に含まれない単なる管理は制度の対象とならない として, 具体的には 施設管理に関連するもの や 併発症 ( 提供した医療に関連のない, 偶発的に生じた疾患 ), 原病の進行 自殺 ( 本人の意図による ), その他 を挙げています 詳しくは, 以下の表のとおりです 4

医療に起因する ( 疑いを含む ) 死亡又は死産の考え方 医療 ( 下記に示したもの ) に起因し, 又は起因すると疑われる死亡又は死産 (1) 1 に含まれない死亡又は死産 診察徴候, 症状に関連するもの検査等 ( 経過観察を含む ) 検体検査に関連するもの生体検査に関連するもの診断穿刺 検体採取に関連するもの画像検査に関連するもの治療 ( 経過観察を含む ) 投薬 注射 ( 輸血含む ) に関連するものリハビリテーションに関連するもの処置に関連するもの手術 ( 分娩含む ) に関連するもの麻酔に関連するもの放射線治療に関連するもの医療機器の使用に関連するもの 左記以外のもの < 具体例 > 施設管理に関連するもの火災等に関連するもの地震や落雷等, 天災によるものその他 併発症 ( 提供した医療に関連のない, 偶発的に生じた疾患 ) 原病の進行 自殺 ( 本人の意図によるもの ) その他院内で発生した殺人 傷害致死, 等 その他以下のような事案については, 管理者が医療に起因し, 又は起因すると疑われるものと判断した場合療養に関連するもの転倒 転落に関連するもの誤嚥に関連するもの 患者の隔離 身体的拘束 / 身体抑制に関連するもの * 1 医療の項目には全ての医療従事者が提供する医療が含まれる * 2 1,2 への該当性は, 疾患や医療機関における医療提供体制の特性, 専門性によって異なる 3 死亡又は死産であつて ( 前記 2) 死亡又は死産に限定されています 4 当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの ( 前記 3) 省令は, 以下のア ~ウのいずれにも該当しないと管理者が認めたものを 当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの と定めています 5

ア 管理者が, 当該医療の提供前に, 医療従事者等により, 当該患者等に対して, 当該死亡又は死産が予期されていることを説明していたと認めたもの イ管理者が, 当該医療の提供前に, 医療従事者等により, 当該死亡又は死産が予期されていることを診療録その他の文書等に記録していたと認めたものウ管理者が, 当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取及び, 医療の安全管理のための委員会 ( 当該委員会を開催している場合に限る ) からの意見の聴取を行った上で, 当該医療の提供前に, 当該医療の提供に係る医療従事者等により, 当該死亡又は死産が予期されていると認めたもの通知によれば, ア及びイに該当するものは 一般的な死亡の可能性についての説明や記録ではなく, 当該患者個人の臨床経過等を踏まえて, 当該死亡又は死産が起こりうることについての説明及び記録であることに留意すること としています 例えば, 高齢のため何が起こるかわかりません, 一定の確率で死産は発生しています という一般的な死亡可能性のみの説明又は記録では 予期していた ということにはなりません また, ウに該当する場合としては, 過去に同一の患者に対して同じ検査や処置などを繰り返し行っていることから, 当該検査や処置などを実施する前の説明や記録を省略した場合などが考えられます Q4 医療事故調査制度において医療機関は, どのように調査するのですか 1 医療事故調査医療法第 6 条の11 は, 病院等の管理者は, 医療事故が発生した場合には, 厚生労働省令で定めるところにより, 速やかにその原因を明らかにするために必要な調査 ( 以下この章において 医療事故調査 といいます ) を行わなければならない と定めています 2 院内事故調査委員会の組織のあり方院内事故調査を行うにあたって, 委員会の設置やメンバー構成に法令上の定めはありませんが, 基本的な調査形態と考えられる院内事故調査委員会を設置する場合について説明します ( 仮に院内事故調査委員会を設置しない場合にも同様の配慮を要します ) 厚生労働省は,Q&A において, 医療事故調査を行う際には, 医療機関は医療事故調査等支援団体に対し, 医療事故調査を行うために必要な支援を求めるものとするとされており, 原則として外部の医療の専門家の支援を受けながら調査を行います としています 院内事故調査を行うには, 外部委員の参画を求め, 中立 公正な調査を行い, 医療事故調査制度が適切に機能することが求められています なお, 一般社団法人日本病院会の 院内事故調査の手引き や一般社団法人全国医学部長病院長会議の 医療事故調査制度ガイドライン によれば, 高度の医療的専門性が必要な事例, 誤注射, 誤投薬などの院内のシステム要因が関与したと推認される事例について, 院外の有識者として弁護士を例に挙げて, 弁護士が院内事故調査に外部委員として参画することが想定されています これまで, 診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業における事故調査, 産科医療補償制度における原因分析, 各医療機関で実施されてきた院内事故調査委員会において, 弁護士が事故調査に参加して 6

きています 院内事故調査の客観性や信頼性を高めるという観点からも, 弁護士が外部委員として参画すること が望ましいと考えます 3 院内事故調査の方法など医療法施行規則第 1 条の10 の4 では, 病院等の管理者は, 法第六条の十一第一項の規定により医療事故調査を行うに当たつては, 次に掲げる事項について, 当該医療事故調査を適切に行うために必要な範囲内で選択し, それらの事項に関し, 当該医療事故の原因を明らかにするために, 情報の収集及び整理を行うものとする と定めています 具体的な調査方法としては, 1 診療録その他の診療に関する記録の確認 ( 例 : カルテ, 画像, 検査結果等 ) 2 当該医療従事者からのヒアリング 3 その他の関係者 ( 遺族等 ) からのヒアリング 4 解剖又は死亡時画像診断 (Ai) の実施 5 医薬品, 医療機器, 設備等の確認 6 血液, 尿等の検査 分析が挙げられています 通知では 本制度の目的は医療安全の確保であり,, 個人の責任を追及するためのものではないこと, 調査の対象者については当該医療従事者を除外しないこと などの医療事故調査を行うにあたっての留意事項が指摘されています 4 再発防止策の検討通知では, 再発防止策は可能な限り調査の中で検討することが望ましいが, 必ずしも再発防止策が得られるとは限らないことに留意すること とされています 医療事故調査制度の目的が医療安全の実現であることから, 死亡原因を究明, 事故の根本原因を分析して再発防止策を検討することが必要であると考えます Q5 医療事故調査 支援センターは, どのような機関で, どのような役割を果たすのですか 1 医療事故調査 支援センターとは医療法第 6 条の15 第 1 項に基づき厚生労働大臣が定める団体であり,2015 年 8 月 17 日, 一般社団法人日本医療安全調査機構が医療事故調査 支援センターとして指定されました 医療法は医療事故調査 支援センターの業務として以下の7 つを定めています 1 医療機関の院内事故調査の報告による収集した情報の整理及び分析を行うこと 2 院内事故調査の報告をした病院等の管理者に対し, 情報の整理及び分析の結果の報告を行うこと 3 医療機関の管理者が 医療事故 に該当するものとして医療事故調査 支援センターに報告した事例について, 医療機関の管理者又は遺族から調査の依頼があった場合に, 調査を行うとともに, その結果を医療機関の管理者及び遺族に報告すること 7

4 医療事故調査に従事する者に対し医療事故調査に係る知識及び技能に関する研修を行うこと 5 医療事故調査の実施に関する相談に応じ, 必要な情報の提供及び支援を行うこと 6 医療事故の再発の防止に関する普及啓発を行うこと 7その他医療の安全の確保を図るために必要な業務を行うこと 2 医療事故調査制度の要であること医療事故調査制度が創設されたのは, 医療事故の再発防止 医療安全の実現であるところ, 医療事故調査 支援センターは医療事故調査の結果の報告を受けて整理 分析し, その結果を当該病院等の管理者に報告するとともに, 医療事故の再発の防止に関する普及啓発を行う, いわば医療事故調査の要といえる機関です また, 医療事故調査 支援センターは医療事故調査の実施に関する相談に応じて, 必要な情報の提供及び支援を行い, 医療事故調査に係る知識及び技能に関する研修を行うことからも医療事故調査制度の適切な運用に重要な役割を果たします 更には, 前記 3のとおり, 医療事故調査 支援センターは医療機関の管理者又は遺族から調査の依頼があった場合に独自の調査制度が設けられています ( 医療法第 6 条の17) Q6 医療事故調査等支援団体は, どのような機関で, どのような役割を果たすのですか 病院等の管理者は, 医療事故調査等支援団体に医療事故調査の必要な支援を求めるものとされています ( 医療法第 6 条の11) 支援団体には, 医師会, 歯科医師会, 看護協会などの職能団体, 病院団体, 病院事業者, 日本医学会に属する学会などの学術団体が指定されています 医療事故調査に必要と考えられる支援の内容としては以下のようなものがあります ア医療事故調査制度全般に関する相談イ医療事故の判断に関する相談ウ調査に関する支援など ( 助言 ) 1 調査手法に関すること 2 報告書作成に関すること ( 医療事故に関する情報収集 整理, 報告書の記載方法など ) 3 院内事故調査の委員会の設置 運営に関すること ( 委員会の開催など ) ( 技術的支援 ) 4 解剖に関する支援 ( 施設 設備などの提供も含む ) 5 Ai に関する支援 ( 施設 設備などの提供も含む ) 6 院内調査に関わる専門家の派遣参議院厚生労働委員会附帯決議では, 医療事故調査等支援団体については, 地域間における事故調査の内容及び質の格差が生じないようにする観点からも, 中立性 専門性が確保される仕組みの検討を行うこと が求められています 8

Q7 医療事故調査制度のなかで, 遺族は, どの段階で, どのように医療機関から説明を受けることができるのですか 医療事故調査制度では,1 事故発生後, 医療事故調査 支援センターに報告する前の遺族に対する説明,2 調査終了後の遺族に対する説明が定められています 1 医療事故調査 支援センター報告前の遺族に対する説明 ( 上記 1) 病院等の管理者は, 医療事故調査 支援センターに医療事故を報告するにあたって, あらかじめ遺族に対し, 厚生労働省令で定める事項を説明しなければならないとされています ( 医療法第 6 条の10 第 2 項 ) また, 通知で 遺族へは, センターへの報告事項 の内容を遺族にわかりやすく説明する, とされています 具体的には, 医療事故調査制度の概要, 医療事故の日時, 場所, 状況, 院内事故調査の実施計画, 解剖や死亡時画像診断の同意取得のための事項等を説明することになります 2 医療事故調査終了後の遺族に対する説明 ( 上記 2) 病院等の管理者は, 医療事故調査終了後, 医療事故調査 支援センターに報告するにあたって, あらかじめ遺族に対し, 厚生労働省令で定める事項を説明しなければならないとされています ( 医療法第 6 条の11 第 5 項 ) 具体的には, 医療事故調査 支援センターへの報告と同じ内容を遺族にも説明することになります 3 遺族に対する説明の方法これらの説明は, 必ず書面によらなければならないとは定められていませんが, 通知では, 遺族への説明については, 口頭 ( 説明内容をカルテに記載 ) 又は書面 ( 報告書又は説明用の資料 ) 若しくはその双方の適切な方法により行う とし, 調査の目的 結果について, 遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない と定め, 遺族の意向を重視していますので, 遺族が口頭による説明のほかに書面の交付を求める時には報告書を手渡すことが妥当と思われます なお, 通知では, 遺族が報告書の内容について意見がある場合等は, その旨を記載すること とされています 9

Q8 医療事故調査制度において, 弁護士は, どのような役割を果たすことができるのですか 1 遺族, 医療機関等の代理人として弁護士は, 医療事故の被害をうけた患者の遺族から, あるいは, 医療事故に関わった医療機関, 医師, 看護師らから, 相談を受けることがあると考えます いずれの場合にも, 医療事故調査制度の目的が医療の安全を確保するために, 医療事故の再発防止を行うことであることを踏まえて対応する必要があります 2 院内事故調査委員会の外部委員, センター調査の委員として上記に加えて, 前述 (Q4) したとおり, 弁護士が, 医療事故調査制度における院内事故調査委員会に外部委員として参画することも想定されています また, センター調査の委員としても, 弁護士が参画することが求められます (2008 年 10 月 3 日安全で質の高い医療を受ける権利の実現に関する宣言, 2007 年 3 月 16 日 医療事故無過失補償制度 の創設と基本的な枠組みに関する意見書など ) 弁護士が院内事故調査委員会の外部委員, センター調査の委員として参画することによって, 次のような役割を果たすことが期待されます 1 診療経過の正確な確認医療事故調査では, カルテや関係者のヒアリング等から診療経過を確認するという作業が必要です たとえば, 診療録等の記載が不十分である場合, 診療録や看護記録, 検査結果などの記載相互に矛盾がある場合, 遺族の認識している経過と診療録などの記載 ( あるいは, 事後的に医師らが説明する経過 ) との間に食い違いがある場合なども少なくありません このような場合に, どのように診療経過を確認するか, あるいは, 診療経過を一つに限定せずに場合分けをした複数の診療経過を前提とすべきか等, 診療経過の確認には様々な問題が生じます 医療事故調査でどのように診療経過を確認すべきかについては, 日常的に事実の調査及び確認を行っている弁護士が役割を果たすべきところです 2 原因分析における市民の視点からの指摘多くの医療事故は, さまざまな要因が複雑に関与して発生しています その事故の背景や関係性を追求して, 事故の根本原因を分析することが必要です この事故原因の分析にあたり, 弁護士が, 同じような事故が二度と発生してほしくないという市民の視点から, 診療経過を真摯に理解しようと努め, なお理解しがたい点, 根拠が認めがたい点, 論理性の乏しい点などについて, 積極的な指摘をすることによって, 医療者だけでは気がつきにくい点, 特に医療界特有の問題を浮き彫りにできることが少なくありません そうして, より根本的な原因分析を実施することに寄与することができます また, 医療事故調査は, 法的責任の有無とは無関係に実施されるものですが, 医療者の中には法的責任につながるのではないかという点を過度に意識して十分に議論することを避けたり, あるいは, 検討をしたのに報告書ではその記述を避けたりすることがあります そのような場合に法的責任論と切り離して検討し, その検討内容を報告書に正確に反映させるということも弁護士だからこそできることだと思われます さらに, 医療事故調査では, インフォームド コンセントが問題となることもありますが, この点は, 弁護士が中心となって調査できるところです 10

3 遺族や市民が理解できる報告書の作成前述 (Q7) したとおり, 調査結果については, 遺族に対する説明が予定されています 調査報告書は論理的に記載され, かつ, 医療の素人にも分かりやすい文言で作成される必要があります 医師らが使っている用語は 遺族にとって理解が難しいこともあると思います また, 同じ用語でも医師らが使っている意味と市民が理解している意味が必ずしも一致していない場合などもあり, これらを指摘することも弁護士の重要な役割です これによって, 遺族, ひいては, その内容が公表された場合には, 市民にも理解できる報告書が作成されることになります 4 遺族の思いを理解し反映させること遺族の心情を理解して, ヒアリングを実施し, 遺族の疑問や思いを事故調査に反映させることも, 医療の専門家でない弁護士が役割を果たせるところです こうして事故調査に弁護士が参画することは, 公正 中立で透明性が確保された事故調査の実施につながります そして, それが, 医療に対する市民の信頼の維持や回復にもつながります 弁護士だからこそできる, 意義の高い取組であると考えます 医療事故調査における外部委員 ( 弁護士 ) の役割イメージ 医療事故調査への弁護士の参加 1 診療経過の正確な確認 2 原因分析における市民の視点からの指摘 3 遺族や市民が理解できる報告書の作成 4 遺族の思いの反映 公正な医療事故調査の実現 医療に対する市民の信頼の維持回復 11

3 制度の見直しにあたって現在の医療事故調査制度では, 対象となる医療事故が限定され, 対象とする医療事故かどうかの判断が専ら管理者にゆだねられていることなど制度上の問題も多々あります 法は公布後二年 (2016 年 6 月 ) での制度の見直しを定めていますが, 今後, 弁護士は積極的にセンターの運営に関わり, 制度の運用状況を踏まえ医療の安全につながる制度改善を求めて意見を発出していく役割が期待されます Q9 医療事故調査についてもっと詳しく知りたいのですが, どのような資料がありますか 1. 自由と正義 2015 年 9 月号 39 頁 ~66 頁 2. 院内事故調査の手引き ( 第 1 版 ) 一般社団法人日本病院会 3. 厚生労働省ホームページ ( 医療法, 省令, 通知,Q&A) などがあります 以上 12