相続した財産を譲渡した場合の税務 坂本和則相談部東京相談室花野稔相談部大阪相談室 相続した財産 ( 不動産や株式など ) を譲渡し 相続税の納税資金を捻出する場合があります 特に譲渡する株式が非上場株式である場合は 譲渡しようとしても流通性が乏しく また買取資金を用意する関係などからも その株式を発行会社に買取ってもらうケースが多いと思われます そうしたケースをはじめ 財産の譲渡による所得には 原則として所得税と住民税が課税されますが 一定の場合は 税負担を軽減するなどの趣旨で 課税の特例が設けられています 今回は 相続した財産を譲渡した場合の税務について 不動産と株式を譲渡した場合を中心に 課税の特例と併せて解説します なお 平成 26 年度税制改正では 特例のうち 土地等の譲渡に係る優遇措置が見直されていますので その内容と影響についても触れます 1. 相続した財産を譲渡した場合の課税の原則 資産の譲渡による所得は 一定のものを除いて 譲渡所得 とされます これら譲渡所得は 他の所得と合算して課税される総合課税の譲渡所得と 他の所得から分離して課税される分離課税の譲渡所得とに区分されます 一般的に 相続財産のうち 預貯金などと並び大きな比重を占めると考えられるのは 不動産と有価証券 ( 特に株式 ) であり これらの譲渡による所得は 原則として分離課税とされています ただし 一定の場合には 課税の特例が設けられています [1] 不動産の場合 不動産の譲渡による譲渡所得は 売却金額 ( 譲渡収入 ) からその財産の取得に要した金額 ( 取得費 ) および譲渡に要した費用 ( 譲渡費用 ) を控除した金額とされます 譲渡収入金額 - ( 取得費 ( 1) + 譲渡費用 ) = 譲渡所得金額 注 1: 相続 遺贈により取得した場合 相続人は被相続人の取得費を引継ぐ 1
[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分配 ( 下図の 利益積立金 以下 みなし配当 という ) とに分け みなし配当および譲渡所得が課税されます 非上場株式の配当 ( みなし配当を含む ) に対する課税は 少額配当として 20% ( 復興特別所得税と合わせて 20.42%) の税率による源泉徴収だけで所得税の課税が完結する一定の場合を除き ( 注 2) 超過累進税率( 所得税率と住民税率を合わせて 15~50%( 注 3)) による総合課税とされ 一定の配当控除の適用があります 一方 売却価格からみなし配当とされる金額を控除した金額が 株式の譲渡対価 とされ この譲渡対価から取得費および譲渡費用を控除した金額が譲渡所得又は譲渡損失となります 譲渡所得は税率 20%( 所得税率 15% 住民税率 5%( 注 3)) の申告分離課税とされます 注 2: 所得税は申告不要とされますが 住民税には申告不要の取扱いはありません 注 3: このほかに 所得税額の 2.1% 相当の復興特別所得税が追加的に課税されます 株式を発行会社に譲渡した場合の 譲渡損益 と みなし配当 の関係 2. 相続した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例 上記のとおり 非上場株式を発行会社に譲渡した場合は みなし配当 の金額によっては超過累進税率による多額の課税が生じ 相続税の納税資金確保に支障を来すことも考えられます そこで 相続または遺贈により財産を取得した個人で その相続または遺贈につき相続税があるものが 相続開 2
始のあった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後 3 年を経過する日までの間に その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式を発行会社に譲渡した場合は みなし配当課税は行わず 売却価格 ( 譲渡対価 ) 全額を譲渡収入として 申告分離課税とされる特例が設けられています この特例により 仮に総合課税されるとしたならば 申告分離課税による場合より多額の課税となるケースでは税負担が軽減されることになります また この特例は 次項の 相続税の取得費加算の特例 と併せて適用を受けることができるとされています 3. 相続税の取得費加算の特例 [1] 平成 26 年度改正前の特例の内容 相続または遺贈により財産を取得した個人で その相続または遺贈につき相続税があるものが 相続開始のあった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後 3 年を経過する日までの間に その相続財産を譲渡した場合は その譲渡所得の計算上控除する取得費に 譲渡した財産に対応する相続税額を加算し 譲渡所得課税を軽減する特例です 平成 26 年度改正前は 譲渡する資産が 土地等以外の場合 と 土地等 ( 土地および土地の上に存する権利 ) の場合 では 加算する取得費の計算方法が異なり 譲渡所得金額および取得費加算額の計算は以下の通りとされていました (1) 譲渡資産が土地等以外の場合譲渡した財産に対応する相続税額を取得費に加算します 譲渡収入金額 -( 取得費 + 譲渡費用 + 取得費加算額 )= 譲渡所得金額 この場合の取得費加算額は 以下の計算式で計算されます その者の確定相続税額 その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされた譲渡資産の価額 その者の相続税の課税価格 + その者の債務控除額 (2) 譲渡資産が土地等の場合 相続財産である土地等の一部を譲渡した場合であっても 譲渡した土地等を含む相続したすべての土地等に対応する相続税額を取得費に加算することができる特例が設けられていました 譲渡収入金額 -( 取得費 + 譲渡費用 + 取得費加算額 )= 譲渡所得金額 3
この場合の取得費加算額は 以下の計算式で計算されます その者の確定相続税額 その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされた土地等の価額の合計額 その者の相続税の課税価格 + その者の債務控除額 [2] 平成 26 年度改正による見直し ( 土地等の場合 ) 平成 24 年 10 月に会計検査院が 土地等の譲渡に関わる取得費加算の特例について 現行制度では譲渡していない土地等に対応する相続税相当額も取得費に加算されるため 土地等を多く相続して その一部を譲渡したものは取得費の加算上著しく有利な状況となっている などと指摘したことを受けて 平成 26 年度税制改正により 土地等に関する相続税の取得費加算の優遇措置は廃止されました この改正により 平成 27 年 1 月 1 日以後に開始する相続または遺贈により取得した土地等の譲渡については 土地等以外の相続財産を売却した場合と同様に 譲渡した土地等に対応する相続税相当額のみしか取得費に加算できないこととなりました 取得費加算額は 上記 (1)-1の計算式により算出することとなります 4. 取得費加算特例の改正に伴う影響について 取得費加算特例の計算において 改正前と改正後で 譲渡に係る税額の負担にどのくらい違いがでるのかを簡単な事例をもとに比較します なお 平成 25 年度改正による改正後の相続税の基礎控除と税率は 平成 27 年 1 月 1 日以後の相続または遺贈により取得した財産に係る相続について適用されますので 以下の改正前 ( ケース1) と改正後 ( ケース2) の取得費加算の計算では その前提である相続税額も異なることとなります 設例 ( 以下の計算では便宜上 1 万円未満を切り捨て ) 相続財産および相続税評価額 財産 評価額 財産 評価額 土地 A 8,000 万円 建物 B 1,000 万円 土地 B 2 億円 建物 C 600 万円 土地 C 4,400 万円 預金 2,000 万円 すべての相続財産の相続税評価額の合計 ( 相続税の課税価格 ) 3 億 6,000 万円 法定相続人 :1 人 ( 子ども ) 相続税額 : ケース 1 平成 26 年 12 月 31 日以前の相続または遺贈により取得 1 億 300 万円 ケース 2 平成 27 年 1 月 1 日以後の相続または遺贈により取得 1 億 2,000 万円 相続税の納税資金確保のために相続した 土地 A を売却予定 ( 一般長期譲渡に該当 ) 売却予定額 1 億円 取得費 500 万円 譲渡費用 500 万円 4
ケース1 相続税額の取得費加算額相続したすべての土地等の相続税評価額 ( 土地 A B Cの相続税評価額合計 ) 3 億 2,400 万円相続税の課税価格 3 億 6,000 万円 1 億 300 万円 ( 確定相続税額 ) 3 億 2,400 万円 / 3 億 6,000 万円 = 9,270 万円 譲渡所得金額 1 億円 ( 譲渡金額 )-(500 万円 ( 取得費 )+500 万円 ( 譲渡費用 )+9,000 万円 ( 取得費加算 ) )=0 円 取得費加算額は譲渡益が上限となるため 上記計算で算出された 9,270 万円ではなく 9,000 万円が上限 譲渡に係る税額はなし ケース2 相続税額の取得費加算額譲渡した土地 Aの相続税評価額 8,000 万円相続税の課税価格 3 億 6,000 万円 1 億 2,000 万円 ( 確定相続税額 ) 8,000 万円 / 3 億 6,000 万円 = 2,666 万円 譲渡所得金額 1 億円 ( 譲渡金額 )-(500 万円 ( 取得費 )+500 万円 ( 譲渡費用 )+2,666 万円 ( 取得費加算 ))=6,334 万円 譲渡に係る税額 : 6,334 万円 ( 譲渡所得 ) 20%( 所得税 15% 住民税 10%)=1,266 万円 ( ほかに復興特別所得税 ) このように 平成 27 年 1 月 1 日以後の相続または遺贈により取得する財産に複数の土地が含まれ 納付すべき相続税があり それらの土地等の一部を譲渡する場合は 相続税の基礎控除額の引下げや税率構造の見直しに加え 取得費加算の特例の優遇措置の廃止の影響を受けることになります このようなケースでは 今まで以上に事前の検討と対策が必要になると考えられます 内容は 2014 年 9 月 8 日時点の情報に基づいて作成されたものです 本情報は 法律 会計 税務等の一般的な説明です 個別具体的な法律上 会計上 税務上等の判断や対策などについては専門家 ( 弁護士 公認会計士 税理士等 ) にご相談ください また 本情報の全部または一部を無断で複写 複製 ( コピー ) することは著作権法上での例外を除き 禁じられています みずほ総合研究所相談部東京相談室 03-3591-7077 / 大阪相談室 06-6226-1701 http://www.mizuho-ri.co.jp/service/membership/advice/ 5