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1782-1861) は Fe-Cr 合金を製造し 1821 年に高硬度で優れた耐食性を発揮することを発見しましたが この時の Cr 量は現在のステンレスよりはるかに低い 1.~1.5 % 程度でした なお Cr は 1797 年にフランスの化学者ヴォークラン (Louis-Nicolas Vauquelin, 1763-1829) が発見した金属で ペルチェはエコール デ ミーヌ ( 国立鉱山学校 ) でヴォークランの後輩でした この当時 C を低減した合金の溶解が技術的に困難だったため 耐食性が C 由来か Cr 由来かが解明されていませんでした 1895 年にドイツのゴールドシュミット (Hans Goldschmidt, 1861-1923) が Al 粉末による酸化物還元法を開発し C を含まない Fe-Cr 合金の溶解に成功し C 以外の元素の性能への効果の研究が可能となりました フランスのギレー (Leon Guillet, 1873-1946) は Fe-Cr-Ni 三元合金を溶製し ( 後の 41 42 44C シリーズ ) その機械的性質を発表しましたが 耐食性についての研究は不十分でした Cr の耐食性の効果に焦点をあてたのはドイツのモンナルツ (Philip Monnartz) で 学位論文取得のための研究において 1911 年に耐食性への不動態皮膜の関与を初めて提言しました そして イギリスのブレアリー (Harry Brearley, 1871-1948) が 1913 年に耐摩耗性に及ぼす C と Cr 量依存性を研究中に ナイタル液では腐食されない耐食性を示す合金組成 (Fe-.24% C-12.8% Cr) を見出し刃物へと応用しました ブレアリーは当初 この耐食性に優れた合金を Rustless steel と称しましたが 刃物製造業を営むモズリー (R.F. Mosley's) のマネージャーのスチュアート (Ernest Stuart) の提案で Stainless steel と命名されました その後 ブレアリーの後を継いだハットフィールド (William Herbert Hatfield, 1882-1943) は 更なる耐食性向上を目指して 1924 年に Ni を添加した Fe-18% Cr-8% Ni ステンレス鋼を開発しました イギリス以外でも耐食鋼の研究は盛んで 中でもドイツのクルップ社は 耐食性に優れた高 Cr 鋼として 1912 年にオーステナイト系ステンレスの特許を取得しました またアメリカでもダンツェン (Christian Dantsizen) とベケット (Frederick Becket, 1875-1942) が同様のオーステナイト系ステンレスを実用化し 1912 年にヘインズ (Elwood Haynes, 1857-1925) がマルテンサイト系ステンレスを権利化しました こうした経緯から ステンレスの発明者は誰か? という議論は今でも尽きませんが 実用的に耐食ステンレス鋼の利点を明確にしたブレアリーの功績が評価されているようです 2

2. ステンレスの分類 鉄へのCr 添加により優れた耐食性を持つ鋼がステンレスですが この合金は酸化性の腐食雰囲気では耐食性が優れますが 残念ながら還元性雰囲気では劣ります またFe-Cr 合金は後述する 相や二相分離に由来する脆化があります これらを克服するために Niを添加したFe-Cr-Ni 合金が開発されました Fe-Cr 系は BCC 構造のフェライト安定型ですが Ni を添加するとFCC 構造のオーステナイト安定域が現れます そこでステンレスの分類として多用されるのが相による分類で フェライト系 オーステナイト系 マルテンサイト系に大別されます ただしマルテンサイト系は Fe-Cr 合金の γ ループ内の組成 ( 高温オーステナイト ) から焼入れて作るため フェライト系の一部として扱われることがあります その他 高強度と高耐食性を目指したオーステナイトとフェライトの二相ステンレスや 母相に金属間化合物を析出させ高強度化した析出硬化系があり Fe-Cr-Ni 系から発展した合金系です 表 1にステンレスの基本的な分類を示します 表 1 ステンレス鋼の分類 基本成分構成相代表鋼種特徴 Fe-Cr フェライト SUS43(18Cr) 耐応力腐食割れ マルテンサイト SUS41(13Cr) 焼入れ硬化 オーステナイト SUS34(18Cr-8Ni) 延性 強度 耐熱性 低温靭性 非磁性 Fe-Cr-Ni フェライト + オーステナイト SUS329JI(25Cr-5Ni-2Mo) 高 Cr 耐食 高強度 析出硬化 SUS63(17Cr-4Ni-4Cu-Nb) IMC 析出により硬化 JIS では約 1 種のステンレスが定められていますが 更に組成を調整したり 独自の熱処理を施して差別化したステンレスが メーカーにより開発されています その数は 2 種をこえると言われますが ここでは JIS の分類に基づき紹介します JIS によるステンレスの記号は 米国の鉄鋼協会 AISI(American Iron and Steel Institute) の番号に準じて 鋼種記号 と称する三桁の数字で表記します ただ JIS の番号は 鋼種記号の前にアルファベット三文字からなる 前置記号 と称した記号がつきます ステンレスの代表的な前置記号の SUS は Steel Use Stainless の略称でステンレス鋼材を表します それ以外の前置記号として ステンレス鋼材鋳鋼品を表す SCS(Steel Casting Stainless) 耐熱鋼の板や棒であることを表す SUH(Steel Use Heat Resisting) 耐熱鋼の鋳鋼品であることを示す SCH(Steel Casting Heat Resisting) 等があります SUS の鋼種記号は表 2 のような分類となっています 3

表 2 JIS によるステンレス鋼の分類 記号 合金系 構成相 備考 SUS 2xx Cr-Ni-Mn オーステナイト 現在のJISに規定なし SUS 3xx Cr-Ni フェライト (+ オーステナイト ) 耐海水性 耐応力腐食割性 高強度 SUS 4xx Cr フェライト 耐食性 成形加工性 SUS 4xx Cr マルテンサイト 高強度 耐食 耐熱性 耐摩耗性 SUS 5xx 5%Cr オーステナイト ( フェライト ) 現在のJISに規定なし SUS 6xx PH 析出硬化 高強度 JIS の記号は 鋼種記号のあとに 形状を表す 後置記号 と 仕上げ状態を表す 質別記号 が続き細分化されます その詳細は紙面の都合で割愛しますが ステンレスの特徴の一つである意匠性に利用される質別記号は ステンレスだけでなく他の金属の表面仕上げ状態を表すときに 慣用的に利用されていますので 主な質別記号を表 3 に紹介します 表 3 JIS による主な質別記号の分類 名称特徴用途 No.1 No.2D 艶消しのザラつき表面で 熱間圧延後 熱処理や酸洗仕上げ 銀白色光沢で 冷間圧延後熱処理や酸洗を施した仕上げ No.2B 2D にスキンパスを施した仕上げで 光沢がある状態一般仕上げ BA 冷間圧延 光輝熱処理後 軽く冷間圧延した光沢仕上げ意匠性部材 No.4 2D や 2B 材を #15~18 砥粒の研磨厨房 建材用 HL 2B や BA 材に #15~24 砥粒の研磨で 表面に髪の毛程度の直線研磨目を施した仕上げ エスカレーター側面 No.8 2B や BA 材に #8 程度のバフ研磨を施した鏡面仕上げ鏡 装飾金具 我が国のステンレス生産量は 24 年の 38 万トンをピークに年々減少し 211 年は 293 万トンとなりました 約 6 割が国内で使用され 残りが輸出です 用途別には輸送用 家庭用業務用機器 産業用機器 建設用 電気機器用の順となっています 一方 国別生産量は 25 年までは日本の生産量が世界一でしたが それ以降は年々生産量を増加する中国にトップの座を譲っています (211 年は 126 万トンで世界の 39% を占有 ) ステンレス生産の世界傾向は 各国で生産設備の集約化が加速し 年間生産量 2 万トンを超える巨大メーカーが続々と設立されています 4

3. ステンレスの耐食性 錆とは 金属が酸素や水と反応して表面に形成する酸化物や水酸化物を称します 鉄の場合は 酸素との反応により生成する酸化鉄 (Fe 3 O 4 ) あるいは水との反応で生成する水酸化鉄 (Fe (OH) 2 ) やオキシ水酸化鉄 (Fe 2 O 3 x H 2 O) が錆の実体です 錆ができないようにするには 酸素や水を鉄から遮断することが有効ですが 非現実的です そこで 表面を腐食されにくい物質で被覆することが考えられます 酸化膜や酸素吸着などの被覆で素材が保護される状態を 不動態 (passive state) と称します ステンレスは鉄に Cr を添加した合金ですが 酸素が存在する環境では 表面に数 nm の厚みで 水酸化物 (CrO OH nh 2 O + FeO OH mh 2 O) と酸化物 (Cr 2 O 3 xh 2 O + Fe 2 O 3 yh 2 O) の非晶質の膜が形成され 基材を保護します このような保護膜を不動態膜 (passivation film) と称します 図 3 は不動態形成合金の分極曲線の模式図です 不動態は腐食を抑制しますので 腐食反応がおこらない すなわち電流が流れない状態で 図 3 の不動態化電位 E F 以上の電位で現れる電流密度の低い領域です 不動態の耐食性能をさらに高めるには 1 活性アノード溶解のピーク電流 i p を小さくする 2 不動態化電位 E F を卑にする 3 不動態における電流 i pp を小さくするがあり 図中の赤矢印のように移動させることに相当します そして鉄に対してこの12 3の効果をもつのが Cr 添加です Cr 濃度が高いほど CrO OH nh 2 O が FeO OH mh 2 O より多くなることで不動態膜中の Cr 濃度が高くなり 強固な耐食性を示します 活性態 不動態 アノード電流密度 i p i pp 2 1 3 酸素発生 不動態金属のアノード分極曲線 電位 E F 図 3 不動態形成合金の分極曲線模式図 不動態膜は酸素が供給されない環境下では形成されません つまり硝酸のような酸化性の酸を含む腐食環境下では不動態膜を形成して錆は抑えますが 硫酸や塩酸のような非酸化性の酸では不動態膜は形成されず腐食が進行します では 酸化性の酸と非酸化性の酸はどのように区別されるのでしょうか? 酸の化学式を見ると その構造は 2 つの部分に分 5

かれます 水素イオン (H + ) の部分と それ以外の部分です 例えば 硝酸 (HNO 3 ) の場合は H + と NO - 3 といった具合です 酸化性の酸とは H + 以外の部分も酸化剤として働き 金属を酸化させます それに対して 非酸化性の酸は H + 以外の部分は酸化剤として働かない酸で 金属を酸化するのは H + だけとなります つまり H + よりイオン化傾向の小さい金属とは反応しません ステンレスの場合 非酸化性の酸では金属の不動態膜を形成するのに十分な酸化剤を含まないために 耐食性が劣ります 図 4 は非酸化性の酸である HCl( 左図 ) と酸化性の酸である HNO 3 ( 右図 ) 中の Fe-X(X=Cr, Ni, Mo, Al, Mn) 合金の溶解減量を X 添加量に対してプロットしたものです この図から非酸化性の酸では Mo と Ni 添加が 酸化性の酸では Cr と Mo が有効であることがわかります 溶解減量 / mg/cm 2 /hr 1..8.6.4.2 Al Cr Mn Mo Ni 4 8 12 16 2 24 溶解減量 / mg/cm 2 /hr 2 16 12 8 4 Mn Ni Mo Al Cr 4 8 12 16 2 24 合金元素添加量 / % 合金元素添加量 / % 図 4 Fe-X 二元合金の 1%HCl( 左 ) と 1%HNO 3 ( 右 ) 水溶液中溶解速度の添加量依存性 4. フェライト系ステンレス フェライト系ステンレスでは Cr を 16% 以上含有し 相を安定化させています 図 5 は Fe-Cr 系状態図ですが 特徴の第一は 高温 低 Cr 域に見られる 相 ( ループと称する閉曲線で囲まれた領域 ) 以外は 広範な組成と温度領域で 相が安定な点です 第二は 中間組成において 相と称する脆化を引き起こす金属間化合物相が存在する点です フェライト系ステンレスで注意する点は フェライトが安定なために 高温加熱で組織が粗大化しやすく劈開破壊しやすいことと 7~8 の加熱で 相が析出し脆化を起こすことです 前者を 低温脆性 後者を 脆性 と称します また図 5 から 5 近傍で熱処理を施すと と に二相に分離し劈開破壊をおこしやすくなり これを 475 脆性 と称します こうした脆化は Fe-Cr 合金の硬さの熱処理温度依存性を調べることで明らかになります 図 6 は所定の温度で 1 時間熱処理を施した時の硬度ですが 5 近傍の硬化は 475 脆性 に Fe-5.6%Cr 合金の 7~8 の硬化は 脆性 を反映します 以上のように Fe-Cr 合金は Cr 添加量や温度によって様々な脆化を引き起こし 実用には注意が必要です 6

11 5 温度 / 1 9 8 7 6 5 Hardness / Hv 45 4 35 3 25 2 17.9Cr 28.4Cr 34.9Cr 5.6Cr 4 3 1 2 3 4 5 6 Cr 量 / 原子 % 7 8 9 1 15 1 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 Temperature / 図 5 Fe-Cr 系状態図 図 6 Fe-Cr 合金の硬度の熱処理温度依存性 フェライト系およびマルテンサイト系のステンレスは強磁性ですが オーステナイト系ステンレスは非磁性です フェライト系ステンレスの熱伝導率 (.261 x1 2 W/m K) はオーステナイト系ステンレスの熱伝導率 (.162 x1 2 W/m K) よりも大きい特徴があります このため溶接部の応力集中に注意を払う必要がある反面 高い熱伝導が求められる製品には好都合です IH ヒーターは急速加熱や弱火炊きといった出力の制御が可能なため 多様な料理に対応でき 普及が拡がっています この IH 用の鍋は 熱伝導が高いと同時に透磁率が高い材料が求められますので 耐食性に優れたフェライト系ステンレスが使用されます また 食品や製薬の製造現場では異物混入がご法度ですから その製造機器には磁性をもつフェライト系ステンレスが使用されます これは万が一 装置機器から不純物が混入しても磁石で異物除去ができるからです 一方 フェライト系ステンレスの熱膨張係数 (SUS43 は 1.4x1-6 /K) は オーステナイト系ステンレスの熱膨張係数 (SUS34 は 17.3x1-6 /K) に比べて小さいため 加熱冷却時に表面スケールが剥離しにくいという特徴があります さらに Ni を含まない鋼種のため 耐硫化性や塩化物を含有する雰囲気下での応力腐食割れが発生しないという利点があります Ni を含まないために廉価であり 8 以下での耐熱材料として広く実用されています 5. オーステナイト系ステンレス 図 4 で紹介したように Cr は酸化性の酸には耐食性がありますが 非酸化性の酸ではむしろ耐食性を劣化させます 耐食性の改善には 腐食環境下で電子が流れないようにする すなわち局部電池を形成しないようにすることが重要で 複相ではなく単相にすることが基本です この時に重要なのが C( 炭素 ) と α( フェライト ) あるいは γ ( オーステナイト ) 相安定化元素です C の固溶限は α に対しては.25%(723 ) γ に対しては 2.% 7

(113 ) です C は焼入性を高める一方で 炭化物を形成し粒界腐食を引き起こします フェライト安定化元素は Cr Mo Si Nb オーステナイト安定化元素は Ni C Mn があげられます 合金元素によりフェライト相とオーステナイト相の室温での安定領域を示したのが 図 7 のシェフラーの組織図です この組織図は フェライト安定化元素としての度合いを Cr 量に換算した Cr 当量を横軸に オーステナイト安定化元素としての度合いを Ni 量に換算した Ni 当量を縦軸にし 安定相領域を示した図です Cr 当量 Ni 当量は それぞれ (1) (2) 式で表記されます Cr当量 %Cr %Mo 1.5 %Si.5 %Nb (1) Ni当量 %Ni %Mo 3 %C.5 %Mn (2) 32 F=% F=5% Ni 当量 =%Ni+3%C+.5%Mn 28 24 2 16 12 8 4 マルテンサイト (M) F+M A+M オーステナイト (A) F+M A+F+M A+F フェライト (F) 4 8 12 16 2 24 28 32 36 4 F=1% F=2% F=4% F=8% F=1% Cr 当量 =%Cr+%Mo+1.5%Si+.5%Nb 図 7 シェフラーの組織図 耐食性に限れば 図 7 の青い領域のオーステナイト単相が有望で 高価な Ni を少なくした.1% 程度の C を含有する 18%Cr-8%Ni 合金が開発され (18-8 ステンレス ) ました 高価な Ni を更に少なくするために オーステナイト安定化元素である Mn と N を添加したオーステナイトステンレスが JIS により規格化されました (SUS21 SUS22) また オーステナイト系はフェライト系に比べて強度が低いために 固溶度と固溶硬化能が高い N を添加して強化した合金が 同様に JIS で規格化されています (SUS34N) さらに Cr と Ni をわずかに減じた 17Cr-7Ni 合金 (SUS31) では 冷間加工によりマルテンサイト変態がおこり 加工硬化性を高めます 元来 オーステナイト系は加工硬化性が高いので強加工には不向 8

きですが 冷間加工性を向上させるために Ni 量を増加させます オーステナイト系溶接材は 高温割れが発生しやすいために 溶接金属中に 5~1% のフェライトを含有させ オーステナイト+フェライトの二相組織 ( 図 7 の紫の領域 ) になるように設計されています 18-8 ステンレスは優れた耐食性を示しますが 実用上は局部腐食として以下の三つの腐食があります 5.1 粒界腐食 C は Cr と結合し Cr 23 C 6 として優先的に粒界析出し その周囲は Cr 濃度が低下します この低 Cr 領域と Cr 23 C 6 との間で局部電池を形成して粒界に添って腐食が進行しますが この現象を 粒界腐食 と称します Cr 23 C 6 はステンレスを 5~85 で熱処理すると形成されますので 溶接時の溶融部近傍においては粒界腐食が問題となります その対策として 以下の 3 つの方策がとられています 1 約 11 に再加熱し Cr 23 C 6 をオーステナイト中に溶解後に急冷し C を結晶粒中に拡散させることで炭化物を消失させる 2 Ti Nb Zr 等の安定で粒界に析出しにくい炭化物形成元素を添加する 3 製錬時の高温脱炭処理により ステンレス中の C 量を極力抑制する 5.2 応力腐食割れ溶接や塑性加工では 材料に引張応力が残留されることがあり Cl - 等のハロゲンイオンを含む水溶液に晒されると割れが発生します この割れを 応力腐食割れ と称し 結晶粒を貫く粒内割れと 結晶粒界に沿って割れる粒界割れがあります 粒内割れは Cl - を含む温水や MgCl 2 CaCl 2 等の塩化物水溶液中で 粒界割れは Cl - と酸素を含む 高温水や高温アルカリ水溶液中で起こります 不動態皮膜 金属溶解 亀裂の成長 転位の発生 ステップ M M + H + H 亀裂先端部での応力集中 水素拡散 図 8 はこの発生機構を模式的に記したものです まず 残留引張応力により不動態皮図 8 応力腐食割れの模式図膜表面にすべりによるステップが発生し 皮膜が破壊されます 破壊された部分を起点に亀裂が成長し 亀裂によってできた新生面は化学的な活性点となります 活性点では 金属元素 (M) は溶解 ( アノード反応 ) して M + となり プロトンイオン (H + ) は還元され ( カソード反応 ) て H となり 金属母材内に拡散し原子間結合力を低下させます 応力集中による塑性変形と 金属溶解 水素拡散が相互に重畳し 割れが進展します 応力腐食割れの抑制には以下の方策がとられています 9

1 85~95 加熱後に徐冷し 残留応力を低減する 2 ショットピーニングにより表面に残留する引張応力を低減する 3 Ni 増量 Mn P N 添加 C 減量により 粒界腐食感受性を低減させる 5.3 孔食とすきま腐食腐食が局部的におこり 表面から深さ方向に進行した場合を 孔食 と称し 物質同士の接触界面にできた隙間に水溶液がしみこみ腐食を引き起こすことを すきま腐食 と称します たとえ表面が不動態皮膜で被覆されていても 一部でも破壊されるとこのような腐食が進行します この腐食は Cl - に代表されるハロゲンイオンと酸素が原因です 図 9 は孔食発生の模式図です ステンレスは不動態皮膜があるため貴の電位 ( プラス ) を持ちますが Cl - によって不動態皮膜の一部が破壊されるとその部分は卑な電位 ( マイナス ) となり 両者で局部電池を形成し 孔食が進行します Cl - は孔食部に集まると塩素濃度を高くなり 金属を溶解させます 溶出した金属イオンは水中で加水分解し H + 生成により ph が低下します この腐食は局所的に孔中で起き 孔食は連続的に続きます 不動態皮膜 金属溶解 M M + Cl - ph 低下 M M + M + +H 2 O M(OH)+H + +e 図 9 孔食の模式図 貴な電位 母材 卑な電位 一方 すきま腐食ですが そのすきまは 1 m 程度の空間厚みです そこに水溶液が侵入すると その部分の酸素濃度が他より低くなり 酸素濃度の高低に起因する酸素濃淡電池 ( 通気差電池 ) を形成します すなわち酸素濃度の高い部分はカソードとして H + が電子を受取り 酸素の濃度の低い部分はアノードとなり金属が溶解して電子を排出します アノード反応で生成した金属イオンは腐食生成物になります 孔食やすきま腐食の抑制には 局部腐食感受性を低減が必要で 以下の方策が取られている 1 Cr Mo Ni Cu などを添加する (SUS316J1 SUS317) 2 硝酸処理により不動態皮膜中の Cr 濃度を増加させる 3 孔食の抑制には N 添加によるアンモニウム塩あるいは硝酸塩の形成が 隙間腐食の抑制には硝酸イオンの不動態表面吸着が効果的 6. 二相ステンレスと析出硬化型ステンレス 二相ステンレスは 高強度 高耐食性 加工性を備えたステンレスです フェライト相とオーステナイト相の比率が 3:7 から 7:3 まで広範ですが 通常は同比率のものが多用されます その物理的性質は 両相の中間よりもややフェライト系ステンレスに近い性質 1

を持っています 最大の特徴は耐塩素腐食に対して優れる点で 18-8 ステンレスの短所である 孔食やすきま腐食を抑制するために Cr 量を増やし Mo W N などを添加しています 図 1 は各種耐食ステンレスの耐力と耐孔食性の相関を示したものです 図中の括弧内の数字は 孔食指数 (PREN:Pitting Resistance Equivalent Number) と称し 値が大きいほど孔食が起こりにくくなります なお 孔食指数は次式で与えられます PREN Cr% 3.3 Mo% 16 N% (3) フェライト安定化元素である Cr と Mo オーステナイト安定化相である Ni と N の量比をバランスよく配合し 強度と耐食性の両方に優れた性能をもたらしています.2% 耐力 / N/mm 2 8 7 6 5 4 3 2 1 リーン二相系 (26) 22Cr-LowNi-N 系 34 316L 一般オーステナイト系 (25) 汎用二相系 (34-37) 22Cr-5Ni-3Mo-N 系 スーパー二相系 (42) 25Cr-7Ni-4Mo-N 系 高耐食オーステナイト系 (~4) 317L2, 312L 1 2 3 4 5 6 孔食発生臨界温度 / 7 8 9 図 1 各種耐食ステンレスの耐力と耐孔食性の相関 Cr 量が多いと安定な不動態膜を生成し耐食性は向上しますが 炭化物等の析出物を生成し易くなり粒界腐食が懸念されます しかし Cr 量の増加によりフェライト相中の Cr が Cr 欠乏層に補充されるため 粒界近傍での Cr 濃度分布は大きくなく粒界腐食は抑制されます Al Ti Nb Cu 等を添加し 冷間圧延後に微細な析出物を分散させ強度を高めた合金を析出硬化型ステンレス (PH ステンレス ) と称します 耐食性はオーステナイト系ステンレスに比べ劣りますが フェライト系ステンレスよりも優れています 元来航空機材料用に開発された合金で国外には多鋼種ありますが JIS では SUS63(17Cr-4Ni-4Cu-Nb) SUS631 (17Cr-7Ni-1Al) SUS631J1(17Cr-8Ni-1Al) の 3 種です SUS63 は Cu 過剰相を SUS631 と SUS631J1 は NiAl 金属間化合物相を析出させています どの合金も硬化相を析出させる前に 固溶体化処理後に急冷してマルテンサイト あるいはオーステナイト不安定化処理後 ( セミオーステナイトと称します ) に変態処理を施してマルテンサイトとしています 11

7. 最後に 197 年代の半ば 18-8 ステンレス (SUS34) が錆びない鉄といううたい文句でシステムキッチンのシンクに採用されました それまでのシンクはコンクリートやタイル貼りでしたが オールステンレス製システムキッチンのシンクは 間口形状が単純矩形ではない異型のラインアップを可能とし デザインが一新されました 熱に強く そして大型食器が洗えるスペースが確保でき ステンレスは豊かな生活の象徴に掲揚されました ステンレスへの需要は年々高まり 様々な合金が開発されました その中でも 高 Cr 化と Mo 添加を施して局部腐食を抑えた高耐食ステンレスは 関西国際空港旅客ターミナルビルに使用され スーパーステンレス (PREN>3 のステンレス ) という名称で 新しいステンレスを印象付けました 東京臨海副都心では東京国際展示場をはじめ ステンレスを内外装 屋根 モニュメントに用いた独創的でモダンな建造物が続々と創られ 未来都市を彷彿させます 海に囲まれた我国は 建造物用の材料は塩害との戦いで 高耐食ステンレスの開発を後押したと言えるでしょう そしてこの合金開発を可能にした背景に C N P S 等の不純物元素を極力低減した画期的なステンレス鋼精錬法である VOD (Vacuum-oxygen decarburization) や AOD(Argon-oxygen decarburization) 技術を見逃せません この技術により Cr 炭化物形成が抑制され 多量のスクラップや低品位鉱石を原料にすることが可能となり 安価で高機能なステンレスの製造が可能となりました 最後に ステンレスの将来を展望しましょう 耐環境材料への社会的なニーズは今後もますます増え 高耐食性 高強度 高加工性等への要望は高まると考えます 素材面に着目すると レアメタル等の希少金属の省資源化として Ni や Mo 含有量の低減が焦点になると考えます Mo を節約した耐孔食性ステンレス鋼として N の役割が注目されていますが こうした新たな合金系の開発が必要でしょう 一方 用途に目を向けると エネルギー 環境分野での高耐食や高耐熱材料のニーズが挙げられます 海水淡水化 化学プラント 火力 原子力発電設備などでは 大型長尺化に伴い溶接性が必要となり 耐塩素性の向上は期待されるでしょう 長い間 実用に供されてきたステンレスは 合金元素 加工熱処理の技術の集積があり 更なる高品質の合金開発が期待できる材料と考えます 12