確定拠出年金 (DC) における 継続投資教育の効果 退職給付ビッグバン研究会 2008 年度年次総会 2008 年 9 月 5 日 ( 金 ) 北村智紀 中嶋邦夫ニッセイ基礎研究所金融研究部門 北村 中嶋 (2008) 1
論文の概要 実験を用いて確定拠出年金 (DC) の継続教育に効果があるか検証 DC 加入者を対象に, 投資の基礎知識を内容とする継続教育を実施 継続教育は, パンフレット配布とセミナーの 2 つの方法を実施 継続教育を実施したグループは, しないグループと比較して, 株式への配分が増加 パンフレットよりセミナーの方が効果的. 継続教育により投資に関する基礎知識が増加. 継続教育には, 知識を増やす以外の効果もありそう 北村 中嶋 (2008) 2
背景 米国 DC 加入者に比べて, わが国加入者の株式配分が低い ( 米国 79%, 日本 49%) 理由の一つとして, 投資のための情報 知識が不足しているため, リスクのある資産へどのように投資してよいか分からない これまでは預貯金が主流.DC でリスク資産の運用を行うように求められても, 急には無理. 継続投資教育を実施すれば, 投資に関する知識が高まり, 株式への配分が高まる可能性 本稿の目的 継続教育を行うと加入者の株式配分が高まる を検証 北村 中嶋 (2008) 3
確定拠出年金の投資教育 投資教育のタイミング 導入時教育 ( 自社の退職給付制度,DC 制度, 商品 ) 継続教育 ( 投資の基礎知識, 多くて年 1 回 ) 退職前教育 ( 退職後の対応 ) 投資教育の内容 厚生労働省より法令解釈 DC の制度等, 金融商品の仕組み 投資に関する基礎知識 企業 ( 運営管理機関 ) 独自の内容 最近の投資環境, 運用実績 ライフプランシミュレーション 北村 中嶋 (2008) 4
実験の設計 はい 継続教育の方法 集合セミナーパンフレット配布 セミナー G N=40 パンフ G N=194 継続教育 G N=234 はい 継続教育を実施 いいえ 教育なし G N=181 予備調査 : 確定拠出年金に加入 いいえ ( 非加入 G) 被験者は公募 (WEB モニター会員 ), 全員男性,30-40 代 北村 中嶋 (2008) 5
投資教育の内容 法令解釈に沿った確定拠出年金の資産運用に必要な最低限の基礎知識 株式の購入を特に推奨するものではなく, 株式の特徴, リスク, 期待リターンをできるだけ客観的に加入者に伝える 北村 中嶋 (2008) 6
実験における投資教育の内容 ( 具体的な内容は後述 ) 確定拠出年金の概要 主要商品の仕組みと特徴 具体的なリスクの種類と内容 リスクとリターンの関係 長期投資の効果 分散投資の効果 物価上昇リスク 北村 中嶋 (2008) 7
質問アンケートの内容 1. 今後の株式配分 : 今後の確定拠出年金の資産配分をどのようにしたいか 2. 知識テスト : 資産運用の基礎知識に関する 10 問のクイズ, 3. 被験者のプロフィール ( 特徴 ), 4. 現在の株式配分 : 現在の確定拠出年金の資産配分をどのようにしているか, 5. 所属企業における退職給付制度. 北村 中嶋 (2008) 8
実験結果 : 配分差 (= 今後の配分 - 現在の配分 ) の比較 7 6.5 6 差(% )配 5 3.9 分 4 3.4 3 2 1-0.6 0-1 教育なしG 継続教育 G ( パンフG) ( セミナー G) 北村 中嶋 (2008) 9
実験結果 ( 回帰分析 ) 被説明変数 : 配分差 (= 株式配分の増加分 ) 説明変数 : トリートメントを表すダミー変数 継続教育, パンフ, セミナー 現在の株式配分 現在の配分が低いほど, 継続教育の効果がありそう 被験者の客観的属性 年齢, 学歴, 家族構成,DC 加入年数等 被験者の DC に対する主観的属性 DC は重要?DC 制度を充実して欲しい? 北村 中嶋 (2008) 10
回帰分析結果 ( 被説明変数は配分差 ) ( モデル ) 説明変数 (A) (B) (C) (D) 継続教育 4.6** パンフレット 4.0* 4.0* セミナー 7.7** 7.7** 現在配分 -0.3** -0.3** -0.3** -0.3** 定数 14.7** 14.7** 14.1* 14.0** ** は 1% 水準,* は 5% 水準有意. この他の説明変数は有意ではなかった 北村 中嶋 (2008) 11
株式配分が増加した理由 主経路 : 継続教育実施 知識の増加 株式配分の増加 別経路 継続教育により知識テストの正答数が増加 知識が高い方が株式配分が高い傾向 継続教育の増加 知識増加以外の要因 株式配分の増加 もともと知識が高い被験者でも, 継続教育により配分増加 北村 中嶋 (2008) 12
知識以外の効果 ( 別経路 ) とは何か? 参加効果仮説 ( 実験バイアス ) 実験により株式配分の変更を求められた 必ずしも増加するわけでなくバイアスとは考えにくい リスクの程度の理解 資料には株式の期待リターンやリスクが記述 株式投資のリスクが非常に高いと考えていたが, リターンと比較しそれほど高くないと理解 機会の提供 老後の準備を考え直す機会を提供 北村 中嶋 (2008) 13
結論 継続教育の実施で株式配分が増加 わが国の加入者の株式配分が低い理由の一つは情報 知識が少ないため パンフレットの配布よりセミナーの方が効果的 継続教育には知識を高める以外の効果 問題点 : 配分を高める意思を聞いただけで, 実際に高めたわけではない. 北村 中嶋 (2008) 14
参考資料 以下は, セミナー時に利用した継続投資教育のための資料. 北村 中嶋 (2008) 15
確定拠出年金のための 投資の基礎知識 北村 中嶋 (2008) 16
確定拠出年金制度の概要加入者の運用成果で年金額が増減 ポイント背景掛金年金額受け取り運用選択税金 特徴退職金, 確定給付年金の代わりに導入企業が拠出確定していない. 加入者の運用成果による原則 60 歳以上, 一時金あるいは年金で支払い加入者が運用を行う運用資産のスイッチングが可能掛金や運用益は非課税 北村 中嶋 (2008) 17
主要商品の仕組みと特徴元本確保型と株式投信 商品の種類 元本確保型 株式投資信託 ( 投信 ) 特徴 満期があり, 元本や利回りが保証されます 具体的商品 : 定期預金など 企業は株式を発行し, 新商品開発 生産などを行います. 開発に成功し, 利益を上げた場合には, 株主に配当として還元します 将来, 高い利益 配当が見込まれる会社の株価は上昇します 株式投信は, 専門家が値上がりを見込める株式を選択して運用します 具体的商品 : 日本株投信など 北村 中嶋 (2008) 18
具体的なリスクの種類と内容株式投信には価格変動リスクがある 商品 元本確保型 リスクの種類金利変動リスク 具体的なリスクの内容 元本は確保されるが, 満期後の新たな利回りがわからない 経済成長 株式投信 ( 株式 ) 価格変動リスク 企業業績 基準価額 ( 株価 ) 市場金利 北村 中嶋 (2008) 19
具体的なリスクの種類と内容外国投資には為替変動リスクがある 商品 リスクの 種類 為替の変動により, 現地通貨額 ( ドルなど ) が 同じでも, 円換算額が異なる 海外株式 (1,000 ドル ) 外国への投資 株式のリスク + 円高 (1 ドル 100 円 ) 円安 (1 ドル 200 円 ) 例えば, 外国株式投信など 為替変動 リスク 円換算額 (10 万円 ) 円換算額 (20 万円 ) 北村 中嶋 (2008) 20
イリターンハイリスクハリスクとリターンの関係長期的にはハイリスク ハイリターンが成立 リターン 元本確保型 国内株式投信 外国株式投信 リスク 北村 中嶋 (2008) 21
主要商品の期待リターンとリスクリスクが大きいほど高いリターンが期待できる 運用商品 元本確保型 元本保証 1 年後の予想基準価額 (10,000 円から運用開始した場合 ) 10,000~10,100 円 ( 平均 10,050 円 ) 国内株式投信 7,000~15,000 円 ( 平均 11,000 円 ) 外国株式投信 6,000~16,000 円 ( 平均 11,000 円 ) 北村 中嶋 (2008) 22
長期投資の効果リスクのある資産へ投資可能 短期投資 ( 元本 ) 元本割れとなる可能性もある 短期的な変動を補うリターン獲得の可能性 長期投資 ( 元本 ) 現在 資金が必要な日 ( 短期投資 ) 退職将来 ( 長期投資 ) 北村 中嶋 (2008) 23
45000 長期投資の効果利息が利息を生む ( 複利 ) の効果は大きい ( 円 ) 40000 35000 30000 25000 利息 ( 分配金 ) が利息 ( 分配金 ) を生む部分 複利の効果元本 + 利息 20000 15000 元本と利息の部分 10000 現在 短期 長期 将来 北村 中嶋 (2008) 24
長期投資の効果ドルコスト平均法により購入価格が平準化 株価 ( 円 ) 1400 1200 1000 800 株価が割高の時, 少ない株数を購入 11 株 10 株 8 株 値上がりした際, 割安時の購入株数が多いため, 利益も多い 600 400 20 株 17 株 平均単価 603 円 200 0 33 株 株価が割安の時, 多い株数を購入 定期的に 10,000 円で株式を購入した場合 平均単価株価 北村 中嶋 (2008) 25
分散投資の効果 一度に全てを失わないために市場下落集中投資分散投資市場下場下全部を一度には失わない市落全部を一度に失う可能性 落北村 中嶋 (2008) 26
分散投資の効果値動きが異なる商品を組み合わせることでリスク軽減 単独で投資するとリスク大 商品 A のみ 複数組み合わせると値動きが平準化 ( リスク小 ) 商品 A A と B の組合せ 商品 B 現在 将来 北村 中嶋 (2008) 27
元本確保型のリスク元本確保型にもインフレリスクがある 1 万円 元本確保型 購買力の低下 1 万円 物価上昇 ハンバーガー 200 円 ハンバーガー 500 円 1 万円 株式投信など 2 万円 購買力の低下をカバー北村 中嶋 (2008) 28