14 森脇晋平 小谷孝治 寺門弘悦 所所属幸進丸 (8.47 t) を調査対象船とした. 海況に関する資料としては, 日本海区水産研究所が日本海ブロック内各府県 ( 青森県 ~ 山口県 ) の水産試験研究機関と協力して得られた水温データをもとに毎月公表している日本海漁場海況速報を用いた. 今回の報告

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島根水技セ研報 ~ 37 頁 (2012 年 3 月 ) 島根県沿岸域のマアジ漁況 - 春 ~ 初夏季の漁獲量変動におよぼす水温変動の評価 - 森脇晋平 1 1 寺門弘悦 Catch conditions of jack mackerel,trachurus japonicus, in

但馬水産技術センターだより 漁況情報 (G1305 号 ) 平成 25 年 8 月 28 日兵庫県立農林水産技術総合センター但馬水産技術センター発行 ハタハタ アカガレイ エチゼンクラゲに関する情報について ( 平成 25 年度底びき漁期前調査結果 ) 平成 25 年 8 月 5 6 日および 8

40 森脇晋平 宮邉伸 でまき網漁業により漁獲されたマサバ 35 標本 1,936 個体の胃内容物を調査した ( 付表 1,2). その結果, 次の種類がマサバの胃内容物中に見出だされた. すなわち, 1 魚類 : カタクチイワシ, マアジ, ウルメイワシ, マイワシ, サイウオ類が確認できた. 2

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プレスリリース

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島根県水産技術センター研究報告第10号

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漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査地域検討会


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Microsoft Word 外海域における産卵状況text _2.doc

平成 29 年 4 月 26 日定例記者会見資料 大船渡市魚市場の水揚と水産資源の動向について 平成 29 年 4 月 25 日 大船渡市 担当 : 農林水産部水産課 電話 : ( 内線 371)

マアジ Trachurus japonicus

Microsoft PowerPoint - H23.4,22資源説明(サンマ)

ドキュメント1

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3 くろまぐろの知事管理量について 海洋生物資源の採捕の種類 別又は期間別の数量に関する事項 ( 1) 採捕の種類別の割当量について 2 に掲げる知事管理量の小型魚における採捕の種類別に定め る割当量は 次の表のとおりとし 大型魚は採捕の種類別に定 めないものとする 採捕の種類 小型魚 本県の漁船漁

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(3)TAC 制度 IQ ITQ 方式について 資料 4-3

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太平洋クロマグロの加入量予測に向けた基盤的研究

世紀中頃に著しく減衰したため 近年の主要な漁獲対象は地域性ニシンである 2. 生態 (1) 分布 回遊本種は海草や海藻が繁茂する水深が浅い水域で産卵する 仔稚魚は発育に伴い沖へ移動して成長し 成熟すると産卵期には再び沿岸域に来遊する 本種の我が国周辺における分布域は北海道の沿岸から沖合にかけての水域

平成19年度イカ類資源研究会議 原稿作成要領

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(2) その他の関連する現状等子どもを含めた若い世代が特に 魚離れ になっている 魚のさばき方が分からない 料理方法が分からない ゴミの処理に困るなどの声が聞かれる 一方で 魚はヘルシーで健康的だという意識も高い 子どもの時から食べ 美味しさが分からないと大人になっても食べようとしない 地産地消の観

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3-3 現地調査 ( カレイ類稚魚生息状況調査 ) 既存文献とヒアリング調査の結果 漁獲の対象となる成魚期の生息環境 移動 回遊形態 食性などの生活史に関する知見については多くの情報を得ることができた しかしながら 東京湾では卵期 浮遊期 極沿岸生活期ならびに沿岸生活期の知見が不足しており これらの

ンゴ類及びその他底生生物 ) の生息状況を観察した ジグザグに設置したトランセクト ( 交差することのないよう, かつ, 隣り合う調査線の視野末端が重複するように配置された調査線 ) に沿って ROV を航走させ トランセクト上に宝石サンゴがあった場合は 位置 種 サイズ等を記録した 同時に海底の操

島根県水産技術センター研究報告書第11号

整理番号 10 事後評価書 ( 完了後の評価 ) 都道府県名 愛知県 関係市町村 田原市他 事業名地区名 Ⅱ 点検項目 1. 費用対効果分析の算定基礎となった要因の変化 ( 広域水産物供給基盤整備事業 ) 事業主体 愛知県 Ⅰ 基本事項 1. 地区概要 漁港名 ( 種別 ) - 漁場名 アツミガイカ

1. 太平洋クロマグロの分布 生態 成長 漁獲について 1

3 活性化の取組方針 (1) 基本方針 1 衛生管理型市場の運用面について 市場関係者を対象とした研修を継続することで 安心 安全 な大田の水産物を供給し 統合によるスケールメリットと併せて魚価の維持 向上の基礎とする 2 漁業収入の向上の取組みとして 小型底びき網漁業を対象とした船上秤の導入を行い

47_ サバ類 _ 太平洋海域 2016 年度 魚種 ( 海域 ): サバ類 ( 太平洋海域 ) 担当 : 釧路水産試験場 ( 三橋正基 ( 現函館水試 ) 中多章文 ), 函館水産試験場 ( 澤村 正幸 ) 要約 評価年度 :2015 年度 (2015 年 1 月 ~2015 年 12 月 ) 2

有害生物漁業被害防止総合対策事業について

資源評価法 沿岸漁業の漁獲努力量に関する情報が得られていないことから 100 トン以上の沖底かけまわし船によるマダラの有漁操業の単位努力量当たり漁獲量 (CPUE)( 以下 沖底 CPUE) に基づいて資源状態を判断した 本資源全体の資源の水準 動向を判断するとともにオホーツク海 北海道太平洋 北海

浜の活力再生プラン 別記様式第 1 号別添 1 地域水産業再生委員会組織名宮城県近海底曵網漁業再生委員会代表者名菅野静春 再生委員会の構成員宮城県近海底曵網漁業協同組合 塩竈市 石巻市 宮城県仙台地方振興事務所 宮城県水産業経営支援協議会オブザーバー宮城県 ( 農林水産部水産業振興課 ) 再生委員会

第1第Ⅰ章20 ( 近年の我が国の遠洋漁業をめぐる情勢 ) 近年 我が国の遠洋漁業の中心となっているのは カツオ マグロ類を対象とした海外まき網漁業 遠洋まぐろはえ縄漁業 遠洋かつお一本釣り漁業等であり カツオ マグロ類が我が国の遠洋漁業生産量の約 9 割を占めています とうしょ我が国の遠洋漁船は

マアジ Trachurus japonicus

第1部第Ⅱ章64 第 1 節 我が国における水産資源の管理 (1) 我が国周辺の水産資源の状況 *1 平成 25(2013) 年度の我が国周辺水域の資源評価結果をみると 主要な52 魚種 84 系群 のうち 資源水準が高位にあるものが12 系群 (14%) 中位にあるものが36 系群 (43%) 低

神水セ研報第 7 号 (2014) 65 相模湾沿岸域定置網漁業における漁獲魚種の変遷と主要魚種の資源動向 髙村正造 片山俊之 木下淳司 Transition of catch fish and resource trends of important fishes in fixed net of

1. 太平洋クロマグロの分布 生態 成長 漁獲について 1

2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

Microsoft Word - ホタテガイ外海採苗2013

諏訪 気象と黒潮の和歌山県沿岸海域への影響 ついて用意した 水温 塩分分布 本県沿岸における水温 塩分の分布特性を把握するため 各定点各層の水温 塩分について 月毎の 平均値を 12 ヶ月で除した平年値 付表 1 2 を求め これを基に平年分布図を作成した 第 2 3 図 水温-気温 水温-黒潮 塩

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スライド 1

東京湾盤洲沿岸での夏季 1 潮汐間におけるアサリ幼生の鉛 直分布の特徴 誌名 日本水産學會誌 ISSN 著者 巻 / 号 鳥羽, 光晴山川, 紘庄司, 紀彦小林, 豊 79 巻 3 号 掲載ページ p 発行年月 2013 年 5 月 農林水産省農林水産技術会議事務

2. 燧灘カタクチイワシ資源状況 (1) 燧灘カタクチイワシの漁獲量の動向 ( 資料 ) カタクチイワシ瀬戸内海系群 ( 燧灘 ) の資源評価より (2) 燧灘カタクチイワシの初期資源尾数の動向 ( 資料 ) カタクチイワシ瀬戸内海系群 ( 燧灘 ) の資源評価より (3) 資源状況考察 広島 香川

III. 審査開始日 審査開始日 : 平成 28 年 12 月 9 日 キンメダイ活動経路 IV. 漁業の概要 1. 漁業実態 (1) 概要 キンメダイを漁獲している主な地域は 千葉県 東京都 神奈川県 静岡県および高知県の一都四県であり 主に房総沖から伊豆半島周辺 伊豆諸島周辺および室戸岬周辺の海

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平成 30 年 2 月 13 日未来投資会議構造改革徹底推進会合水産庁提出資料 スマート水産業の実現に向けた取組について 平成 30 年 2 月

高知県民とカツオ 1 古代史と現代にみる高知県民とカツオ 県西部の中村貝塚からカツオの骨が出土 奈良時代や平安時代には 朝廷に堅魚 ( かたう 購入数量 (g) お ) を献上 ( 延喜式等 ) 5, 4, 3, 2, 1, 現在は 1 世帯あたりのカツオ購入量 全国高知市福島市水戸市仙台市盛岡市

平成 23 年度漁場環境 生物多様性保全総合対策事業 赤潮等被害防止対策事業事業成果報告書 ( 日本海における大規模外洋性赤潮の被害防止対策 ) 実施機関名 : 兵庫県 鳥取県 島根県 山口県 ( 独 ) 水産総合研究センター中央水産研究所 1 課題名 日本海における大規模外洋性赤潮の被害防止対策


目 次 漁業の許可等 1 漁業の取締り 2 漁業調整 4 海洋生物資源の保存及び管理 6 外国漁船の寄港の許可 8 漁船の検査 10 沿岸漁業の振興及び漁場の保全の指導 水産資源の保護 水産関係 資料の収集 整理 水産に関する調査 11

漁場と海洋調査海域(主に構造探査、曳航体調査を対象)

46_ マイワシ _ 北海道周辺海域 2017 年度 魚種 ( 海域 ): マイワシ ( 主として太平洋海域 ) 担当 : 釧路水産試験場 ( 中多章文 板谷和彦 ), 函館水試 ( 澤村正幸 ) 要約 評価年度 :2016 年度 (2016 年 1 月 ~2016 年 12 月 ) 2016 年度

(2) 漁獲努力量の削減 維持及びその効果に関する担保措置愛媛県漁業調整規則により 採捕できる水産生物の体長制限や採捕禁止期間を設けている 広域漁業調整委員会指示により サワラ流し網漁業の目合い制限と禁漁期間を設けている 垣生地区の漁業者間の取決めによる休漁日を設定している (3) 具体的な取組内容

●JAFIC漁業情報研究会の開催実績

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Microsoft Word - H30年度動向調査報告(ヒラメ)

京都府海域定置網漁業包括的資源回復計画 1. 資源の現状と資源回復の必要性 (1) 対象資源の資源水準の現状京都府の定置網漁業は マアジ マサバ ブリ サワラ イワシ類 イカ類等を主に漁獲の対象としている かつて大量に漁獲されたマイワシはほとんど漁獲されなくなり 近年はマアジやカタクチイワシの漁獲量

目 次 Ⅰ 検討会の趣旨 1 Ⅱ 検討会の経緯 1 Ⅲ 資源管理施策について 1. 我が国資源管理と今後の課題 1 2. 水産資源の評価について 2 3. 公的管理の高度化 3 4. 自主的管理の高度化 7 Ⅳ 個別事例として取り上げた魚種毎の資源管理の方向性 1. マサバ ( 太平洋系群 ) 8

9-2_資料9(別添)_栄養塩類管理に係る順応的な取組の検討

6 月沿岸定線海洋観測結果 令和元年 6 月 6 日岩手県水産技術センター TEL: FAX: 親潮系冷水の波及により 20 海里以遠の 100m 深水温は平年より最大 3 程度低め 1. 水温分布

黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 日数 8~ 年度において長崎 松江 富山で観測された気象台黄砂日は合計で延べ 53 日である これらの日におけるの頻度分布を図 6- に示している が.4 以下は全体の約 5% であり.6 以上の

本日の話題提供 背景 ( 宮崎県内の沿岸漁業者からのニーズに応える ) 宮崎水試では, 日向灘全域を網羅する水温や流況, 黒潮位置などの各要素が視覚的に統合された毎日の海況図を提供する試験研究を実施している 本日の話題提供 1 宮崎水試の海況情報提供の取組み 日向灘海況情報提供システムの概要とその効

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浜の活力再生プラン 別記様式第 1 号別添 1 地域水産業再生委員会組織名深浦町風合瀬地区地域水産業再生委員会代表者名坂﨑清美 再生委員会の構成員 風合瀬漁業協同組合 深浦町農林水産課 西北地区地域県民局地域農林水産部鯵ヶ沢水産事務所 オブザーバー 対象となる地域の範囲及び漁業の種類 深浦町風合瀬地

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Microsoft Word - 資料2-2

5. 数値解析 5.2. サンゴ浮遊幼生ネットワークモデルの検討

漁海況速報 No.3 0 平成 1 5 年 8 月 1 日発行 福島県水産試験場 いわき市小名浜下神白字松下 13-2 TEL FAX ホームページ pref.fukushima.jp/suisi/

Microsoft Word - 外海採苗2014

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表紙/cover.ps

八代海湾北部及び水俣市袋湾における水質の 自動観測情報を HP 上で公開しています!! 浅海干潟研究部諸熊孝典 はじめに 八代海は 湾奥部では干潟域が広がり内湾性が強く 湾中央部からは徐々に水深が深くなり外洋性を帯びてきます そのため 各地先の漁場特性に合わせて 採貝業やノリ養殖業 漁船漁業 魚類養

Microsoft Word - 全国原稿.doc

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3. 資源管理の方向性本府では水産資源の持続的な利活用を水産業振興の重点方策として位置付け 積極的な資源管理 資源の維持回復を図るべく 漁業調整規則等で規定されている公的規制の徹底と併せて 漁業者の自主的取組を他の関連施策と一体となって展開していく なお 本指針における公的資源管理 ( 公的措置 )

小笠原・伊豆諸島周辺海域における外国漁船への対応について

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太平洋クロマグロの資源状況と 管理の方向性について

このような IUU 漁業の現状があります 本レポートは IUU 漁業の日本における リスクを把握するために 行った分析研究です 調査の背景 1974年から2013年までの水産資源 の状態を比べてみると 健全な資源 状態の水産資源が占める比率が確実 IUU漁業の現状 100 政府 NGO 漁業産業は

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P19 ~ P22 項目 (4) 県内水揚状況 ( 属地 ) 1 年別水揚状況 年次 水揚数量 水揚金額 平成 23 年 項目 2 漁業協同組別水揚状況 年次 相馬双葉 百万円 ,513 4,535 3,461 5,644 6,1 8,514 6,591 1,6

資料 3-1 第 4 管理期間の小型魚及び大型魚の配分の考え方について 平成 30 年 9 月 1. 基本的な配分の考え について 基本的な配分の考え ( 第 4 管理期間 ) 海洋 物資源の保存及び管理に関する法律 ( 以下 資源管理法 という ) に基づき 型 型 の別に 管理量と知事管理量に漁

言語表記等から推定すると 例えば 沖縄県石垣島では約 8 割を中国製が占めた一方 東京湾岸の富津では日本製がほとんど全てを占めていました ( 別添 1-2) 3 平成 27 年度のモニタリング調査は 調査実施時期が冬期となり日本海側及び北海道沿岸では調査が困難であったため 太平洋側 瀬戸内海沿岸及び

神水セ研報第 8 号 (2017) 33 アーカイバルタグにより記録された相模湾周辺海域でのブリの回遊履歴 髙村正造 片山俊之 阪地英男 Migration history of the yellowtail (Seriola quinqueradiata) recorded by archival

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

記念大会プログラム _行詰め

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1

Transcription:

島根水技セ研報 4. 13 ~ 22 頁 (2012 年 3 月 ) 沿岸漁業の複合経営に関する研究 -Ⅲ 島根県沿岸海域におけるヨコワ ( クロマグロ幼魚 ) ひき縄釣の漁業実態 森脇晋平 1 小谷孝治 2 1 寺門弘悦 Study of the multiple fishery-management of coastal fishery Ⅲ Operations and fishing conditions of trolling line fishery for young tuna, Thunnus thynnus, in the coastal waters off Shimane Prefecture Shimpei MORIWAKI,Koji KOTANI and Hiroyoshi TERAKADO キーワード : ヨコワ, ひき縄釣, 島根県沿岸海域, 漁況 はじめに 島根県で水揚げされるマグロ類の大部分はクロマグロ Thunnus thynnus でそのうち約 80% がまき網漁業, 約 10% がひき縄釣漁業, 残りの約 10% が定置網漁業で漁獲されているが, そのなかでひき縄釣漁業が漁獲対象とするのはクロマグロの幼魚で, この地方では ヨコワ と呼ばれている. 1) ヨコワ はこの海域の沿岸漁業にとって重要な水産資源生物のひとつであり, ひき縄釣漁業による ヨコワ 漁況は豊凶が激しいことがひとつの特徴であるが, 島根県における ヨコワ 漁況の調査研究事例は必ずしも充分とはいえない. また, ひき縄釣漁業を含めた釣漁業は他の複数の沿岸漁業種類と組み合わせて沿岸漁業を営むうえで基本的な漁業種類である. 2) この報告ではヨコワひき縄釣漁業の実態を明らかにするために実地に乗船するとともに既往の知見を整理し, 漁況と海況との対応関係について検討した. 資料と方法漁況に関する資料は島根県水産技術センターが漁獲管理システムによって収集している県内の属人漁獲統計から該当する部分を抽出した. また長崎県対馬 五島漁場での漁況に関する資料は ( 独 ) 水産総 合研究センター発行の該当年度の 日本周辺国際魚類資源調査報告書 によった. 調査対象海域を図 1 に示した. 漁獲物に関する資料は 2007 年 ~ 2009 年にかけて当該の水揚げ漁港で実地に計測した. また依頼した標本船野帳記録から漁場位置及び魚体についての資料を得た. さらに操業の実態を把握するため当該漁船に乗船して漁具や操業方法等を調査した. 本土側漁場 ( 図 1,B) では JF しまね大社支所所属第七共栄丸 (4.4 t), 隠岐諸島周辺漁場 ( 図 1,A) では JF しまね知夫出張 1 2 漁業生産部 Fisheries Productivity Division 島根県隠岐支庁水産局 Oki regional office of Fisheries Affairs,Saigo,Okinoshima 685-8601,Japan 13

14 森脇晋平 小谷孝治 寺門弘悦 所所属幸進丸 (8.47 t) を調査対象船とした. 海況に関する資料としては, 日本海区水産研究所が日本海ブロック内各府県 ( 青森県 ~ 山口県 ) の水産試験研究機関と協力して得られた水温データをもとに毎月公表している日本海漁場海況速報を用いた. 今回の報告では, 冬季の対馬海峡に放流された個体の行動記録からクロマグロ幼魚 ( ヨコワ ) の日中の遊泳水深は 50 ~ 100 m 層であること 3), 100 m 深水温分布図はこの海域の海況パターンをよく表現していること 4) を考慮して 100 m 深水温分布図を使用した. 結果と考察 (1) 漁業の実態 1 操業状況大社支所 : 乗船調査は 2008 年 11 月 27 日に実施し, 午前 5 時に出港した. 漁場の選択は礁 瀬あるいは潮の存在を重要視して判断するが, 数隻の僚船との無線による情報交換は不可欠でこれらの情報をもとに広範囲に魚群を探索する. 漁場を選定したら両舷からそれぞれ竿を伸ばし ( 図 2), 竿のしなりと反発力により海面を飛び跳ねて後部につけた擬餌が本物のように動く表層曳の バクダン仕掛け ( 図 3) と擬餌を海中に潜らせる中層曳の 潜航板仕掛け によって ( 図 2), 船速 5.5 ~ 6 ノットで曳く. ヨコワが掛かかると群れが船に付いてくるので バクダン仕掛けに掛かった魚は オトリ としてしばらく放置し 潜航板仕掛け により魚を次々と釣り上げる また バクダン仕掛けに掛かった魚は左右交互に取り込み 常に左右いずれかのバクダン仕掛けに魚が掛かった状態を保つことで 群れの追いを切らさないようにする. 漁業者の経験として, ヨコワは非常にデリケートな魚 と群れが船に付いてくるが, 一旦大きな魚を取り逃がすと他の魚はそれに付いて行って逃げてしまうのでバラさないよう細心の注意が必要. 群れの追いを切らしてしまうと, 釣果は散発で終わる. 上手な人の船には群れが付いて離れないので傍で操業しても釣れない という. なおこの海域での操業については嶋津 5) が詳しく報告している. 知夫出張所 :2005 年 10 月 12 日に乗船した. 午前 5 時に出港した. 漁場に向かう途中で, おもての船上タンクに海水を張る. 操業は 10 隻前後の僚船団内で情報交換をしながら漁場の探索を行う. 漁場に着いたら, 漁具を投入し, 衝突防止のための船団内取り決めにより船体を左回転させながら曳航する. 漁具は基本的に図 2 と同じで竿から左右 1 本ずつ, 舷 ( タツ ) から1 本ずつ仕掛けを出すが, 上述の大社支所で使用している表層曳の バクダン仕掛け ( 図 3) は使用していない. 釣獲した魚体は養殖種苗用に生きたまま取り引きされるので細心な取り扱いが基本となる. そのため擬似針は かえし のない針を用いている. また魚を艫やトッタリに当てて傷つけないように慎重に引き揚げ, 魚体を手で触れないように針をはずし 2 本の棒の間に防水シートを張った器具 * ( 図 4,A,B) に乗せる. その上で魚体の状態 ( 針のかかり具合, 出血の程度 有無, 目の充血, 魚体の擦れ, シイラ等によるかみ傷の有無を観察し, それらをクリアしたものを船上タンクに収容する. この船には艫からおもての収容タンクまで樋が設置してあり, ヨコワはそこを流れていく仕掛けとなっていた ( 図 4,C, D). 帰港後, 養殖種苗業者がタモでヨコワを一匹ずつ である. 浮いている時にしか釣れない. 魚が掛かる * 漁業者は 担架 と称している.

沿岸漁業の複合経営に関する研究 -Ⅲ 15 すくって魚体を検品し, 合格すれば生簀に収容する. この段階でも魚体のスレ, 出血等があれば除外される. 2 漁場漁場の位置は標本船野帳の記入記録及び漁業者からの聞き取りをもとに推定した. その結果 ( 隠岐諸島周辺漁場 :A, 本土側漁場 :B) を図 1 に示した. 併せて対馬漁場 (C), 五島漁場 (D) を既存資料参考に記入した. 3 漁獲物の生物特性 6,7) を 10 月に隠岐諸島周辺漁場 ( 図 1,A) で漁獲されるヨコワの体長組成 ( 図 5, 左 ) をみると 2007 年では 24 ~ 40cm の範囲にあり, モードは 28 ~ 30cm である.2008 年では範囲 24cm ~ 46cm, モードは 30 ~ 32cm にあった.2009 年漁期はモードは 26 ~ 28cm にあり, 調査した 3 年間のうちで最も小型であったが, この漁期は隠岐諸島海域におけるヨコワ漁は不漁であったことが指摘される ( 図 6, 上 ). 一方 2007 年 ~ 2008 年の 11 月 ~ 12 月にかけて本土側漁場 ( 図 1,B) で漁獲されたヨコワの体長範囲 ( 図 5, 右 ) をみると 32 ~ 60cm にあり 体長組成には 2 つの峰があるのに対して,2009 年 11 月では体長範囲は 40 ~ 56cm で 50 ~ 52cm にモードのある単峰型の分布であった これらの 2 つの海域で漁獲されたヨコワ体長組成の経年的な変化をみると 隠岐諸島周辺漁場では体長組成の大きな変化はみとめられないが 本土側漁場の 2009 年漁期は 2007 年及び 2008 年漁期にみられたそれぞれ体長 38 ~ 40cm と 34 ~ 36cm にモードがある相対的に小型魚群が漁獲されなかったことが特徴的であった ( 図 5, 右下 ). (2) 漁獲量の経年変動とその特徴漁獲量の年変動をみると漁期年による変動が大きい ( 図 6). 漁場別にみると本土側の仁摩 五十猛と大社とでは変動傾向はよく一致しており 1 ~ 2 年間隔で豊凶を繰り返しているようにみえる. 隠岐諸島周辺海域を漁場としている浦郷の年変動と本土側のそれとは詳細にみると微妙な差異があり, 本土側漁場 ( 図 1,B) でまったく漁獲のなかった 2003 年,2005 年,2006 年でも隠岐周辺漁場ではある程度の漁獲があり逆に, 本土側漁場で豊漁であった 2009 年に隠岐諸島 周辺漁場では不漁であったように豊凶が一致しなくなる漁期があった. 実際に各水揚げ漁港の間での相関をみると仁摩 五十猛と大社との間ではきわめて高い相関が認められ, 浦郷と本土側の各漁港との間にも相関がみられる ( 表 1-A). これに対して 2003 年以降では浦郷と本土側との間には相関はみられなくなった ( 表 1-B). (3) 漁獲量の季節変動とその特徴各漁港での漁獲

16 森脇晋平 小谷孝治 寺門弘悦 量の月変動 ( 図 7) をみると, 本土側の仁摩 五十猛では漁期は 10 月に始まり 12 月にピークを迎える. 翌年 1 月にはほとんど漁獲はなく 12 月中に終漁する. 一方隠岐諸島の浦郷では漁期は本土側より早く 9 月には始まる. ピークは 11 月でその後, 漁獲量は減少するが翌年 1 月にもみられている. ただし隠岐諸島の浦郷では年代による漁期のズレがみられているのが特徴的である.2002 年以前と 2003 年以降とで月変動を比較してみると,2002 年以前では 11 月に漁獲のピークがありその後の翌年 1 月にも 12 月と比べやや減少するもののある程度の漁獲があった. これに対して 2003 年以降は漁獲のピークは 10 月に早まり 12 月 ~ 1 月の漁獲量は 2002 年以前に比較して大幅に減少している. こうした現象が現れる原因として漁獲対象とする魚体の差異が関連している.(1) 節で述べたように近年浦 郷では養殖種苗用幼魚が漁獲の主対象である. 漁協からの聞き取り * によると (1) 養殖種苗用のヨコワ漁が本格化したのは 2003 年前後で, それ以前は 11 月 ~ 12 月の 2kg 前後サイズのヨコワを対象として, 鮮魚用として漁獲していた.(2)9 ~ 10 月の小サイズのヨコワは漁獲対象外で, これを狙った操業はしていなかった.(3) 導入当初は, いつ頃から釣れるか分からず手探り状態であったが, 数年後から傾向をつかみ 9 月頃から操業するようになった.(4) 種苗用ヨコワは重量単価ではなく尾数当たりの値段なので, 漁期の早い小さいヨコワ (200 ~ 500g) を主に対象とするようになった. このように浦郷で 2003 年の前後で月漁獲量の変動パターンに変化がみられる ( 図 7, 上 ) ことから年代による年漁獲量の漁場間の相関にも差異がみられる ( 表 1-B). すなわち 2003 年以降, 隠岐周辺漁場と本土側漁場との相関はみられなくなった. この * JF しまね浦郷支所長古木均氏による.

沿岸漁業の複合経営に関する研究 -Ⅲ 17 ことは両漁場で漁獲対象としているヨコワ群は異なっており ( 図 5), それらの来遊水準や量的変動も異なっていることを示唆している. (4) 対馬 五島漁場との関係島根県沿岸域に限らず対馬北西 ~ 西方海域 ( 対馬漁場 : 図 1,C) や五島列島北方 ~ 北西海域 ( 五島漁場 : 図 1,D) においてもクロマグロ幼魚を対象とするひきなわ釣り漁業がある. 6,7) これらの漁場間の漁獲量の量的変動関係を検討した. 対馬漁場の盛漁期の 11 月から 1 月の漁獲量と島根県本土側の漁獲量との関係 ( 表 2) には統計的に有意な正相関が認められた. しかし, 他の組み合わせ - 島根県本土側漁場と五島漁場及び隠岐周辺漁場と対馬 五島の関係 -については有意な相関はなかった ( 表 2). 対馬漁場と五島漁場との間には有意な相関 (r=0.811, p<0.01) がある. (5) 好 不漁と海況パターンとの対比本土側では 12 月の漁獲量が最も多く好不漁を決定する. そのため本土側の漁況と盛漁期である 12 月 ( 図 7) の海況パターンをもちいて本土側の漁況との対応関係を検討した. 不漁年の海況パターンには 2 つのタイプが認められる. 第 1 のタイプは漁場位置が冷水域の中心が北から北西あるいは遠く西方に位置しており, その結果隠岐海峡から西方の海域が 16 ~ 17 以上の海水に広く覆われ沖合いの冷水域は当該漁業の漁場から隔たっているパターンの海況である ( 図 8; 左 ). 2002 年,2003 年,2010 年の不漁年のパターンがこの第一のタイプに相当する. 不漁年の第 2 のタイプは沖合の冷水域が全体として漁場の北から南西方向に位置し そのため冷水域と暖水域との境界帯が斜めに形成されているというパターンの海況である ( 図 8; 右 ).1999 年,2005 年,2006 年がこのタイプに属する. 次に好漁年の海況パターンを検討する. 調査期間を通じて年間漁獲量の平均値を大きく超えた年は 2000 年と 1998 年がある ( 図 6).2000 年は冷水域暖水域との境界帯が大きく蛇行しながら南北方向に位置し隠岐諸島から日御碕に接近しているのが特徴である ( 図 9, 左下 ).1998 年は弱い冷水域が隠岐諸 島の西側にあるものの冷水域の中心は隠岐諸島北方にあり強い境界帯は東西に位置している ( 図 9, 左上 ). このように調査期間内で特に好漁であったこれら 2 ヵ年の海況パターンは一致しない. やや好漁であった 2007 年と 2009 年の海況パターン ( 図 9; 右 ) をみると 2007 年は境界帯が北西方向から隠岐諸島に接近しており,2009 年では冷水域が日御碕に接近しながら南北方向に張り出し, 海況パターンとしては好漁年であった 2000 年のそれに類似している. ほぼ平均値の漁況であった 2004 年の海況 ( 図 9; 右下 ) はやや好漁であった 2007 年のパターンに似ている. このように 1998 年を除けば, 好漁年の海況パターンは沖合の冷水域が隠岐諸島の北西 ~ 西に位置し隠岐諸島に接近している傾向にあるといえる. 隠岐浦郷の漁況と海況パターンとの関係は本土側の仁摩, 五十猛, 大社と海況パターンとの関係で基本的に説明が可能であろう. ただ, 種苗用の幼魚の漁獲が盛んになってきた 2003 年以降, 本土側との漁況の相関がなくなってきた ( 表 1- B) のでこの点について検討する. 隠岐周辺海域でこの期間について好漁であった 2004 年,2007 年,2008 年と不漁であった 2003 年, 2009 年との海況パターンを盛漁期の 10 月について対比したが ( 図 10), 漁況との対応関係は明瞭とはいい難い. あえて指摘すれば好漁年の 2007 年及び 2008 年はやや好漁年とした 2007 年 12 月と 2009 年 12 月の海況パターン ( 図 9, 右 ) に,2004 年は並漁年の 2004 年 12 月の海況パターン ( 図 9, 右下 ) にそれぞれ類似している. 一方不漁年の 2003 年及び 2009 年の海況は不漁年の第 1 のタイプ ( 図 8, 左 ) と第 2 のタイプ ( 図 8, 右 ) の海況パターンにそれぞれよく似ている. (6) 漁況の変動要因についての若干の議論現在までの調査研究によれば, クロマグロは日本海でかなりの規模で産卵することが確認されている. 8 ~ 12) このことから日本海で漁獲されるヨコワには発生の時期と場所の異なった 2つのグループの存在が想定されており, ひとつは南西諸島海域で 5 ~ 6 月に発生し日本海に来遊してくるグループで, 他のひとつは日本海で 7 ~ 8 月ごろ発生するグループである. 13) 前者は早生まれ群で 11 月初旬までに 46cm に成長し, 後者は遅生まれ群で 11 月初旬までに 36cm に成長すると考えられており, 島根県で漁獲されたヨコワの体長組成 ( 図 5) と比較すると, モードが 46 ~ 52cm 付近にある群は早生まれ群に,34 ~ 38cm 付近

18 森脇晋平 小谷孝治 寺門弘悦 にモードがあるやや小型の群は遅生まれ群にそれぞれ対応するのであろう. 生物調査を行った 2007 年 ~ 2008 年では漁獲される魚体の組成に大きな差はみられなかったが ( 図 5; 上 中 ), 隠岐周辺漁場で不漁であった 2009 年 ( 図 6) には本土側では体長 26 ~ 30cm 程度の小型群はみられず 50cm 程度の大型群のみであった ( 図 5, 右下 ). このことは 2009 年は日本海発生群の水準が低かっ

沿岸漁業の複合経営に関する研究 -Ⅲ 19 たことに起因するのであろう. このように, 島根県沿岸域におけるヨコワひき縄釣漁業の漁況を理解するには 2 つ発生群の来遊水準を考慮する必要のあることがわかる. 島根県本土側漁場 ( 図 1,B) と対馬漁場 ( 図 1,C) との漁獲量変動に相関がみられた ( 表 2) ことからも,0 歳魚は秋から冬にかけて島根沿岸から対馬 ~ 九州北西海域へ南下回遊すると推定されるが, それ以前の北上回遊群 - 早生まれ群 -についての知見はきわめて乏しい. これは北上期と思われる夏季に 0 歳魚を対象とした漁業が九州北西から日本海沿岸海域にはないため, 漁業生物学的な情報の入手が困難となっていることによる. 今後は北上する 0 歳魚の量的変動に関する知見の収集が望まれる.

20 森脇晋平 小谷孝治 寺門弘悦 一方漁況と海況とを対比検討した結果からは, 好 不漁と海況パターンとの関連はヨコワの南下期に海況パターンの差異により隠岐周辺 ~ 島根県西部沿岸海域でどのようなヨコワの回遊ルートが成り立っているのかを解明することが基本的に重要であることが指摘できる. 1998 年の例外はあるものの隠岐諸島から日御碕 にかけて沖合冷水域が隠岐諸島 ~ 日御碕に接岸している年には好漁であり, 逆に冷水域が漁場から遠く離れているかあるいは冷水域と暖水域との境界帯が隠岐諸島 ~ 日御碕に接岸せず南西方向に走っているような年は不漁になる可能性がある. クロマグロ幼魚の適水温帯は 17 ~ 18 前後であるが 3),1ヨコワの遊泳に適した水温帯の幅がせば

沿岸漁業の複合経営に関する研究 -Ⅲ 21 められて沿岸の漁場に魚群が補給されやすい海況パターンの時に好漁していること, 逆に2 漁場が広く暖水に覆われ魚群が接岸するような条件がない年あるいは齢水域と暖水域との境界帯が斜めに存在し魚群が漁場から速やかに南下しやすくなると予想される海況パターンの時には不漁であるという傾向があるように思われる. 隠岐諸島周辺で 11 ~ 12 月に漁獲されたヨコワの胃内容物調査によるとキュウリエソの占める割合が著しく高いことが確認されている. * 日本海南西沿岸海域ではキュウリエソの分布形成位置は水温前線帯の移動に対応しており, このことが餌生物の集合によるスルメイカやマサバの漁場形成効果にとって重要であることが指摘されている. 14) 索餌回遊群としてのヨコワ南下回遊ルートの形成位置についてもこのような障壁効果 15) が作用していると解釈できると思われる. 魚群の南下が前線帯によって阻止されるという見かけの現象はこの要因が関連している可能性がある. もちろん島根県沿岸海域におけるヨコワひき縄釣漁業の漁況は海況条件だけによって決定されるのではない. 隠岐諸島周辺海域における漁況と海況との間には本土側漁場の漁況と海況との対応関係ほどには明確な対応関係がみられなかったが, 浦郷の養殖種苗用幼魚の漁獲尾数は境港に夏季水揚げされるクロマグロ ( 成魚 ) の漁獲尾数との間にある程度の量的相関関係が存在する可能性が示唆されている * ので, 海況パターンよりも日本海でのクロマグロの産卵 再生産条件により強く依存しているのかもしれない. この日本海での再生産水準とすでに指摘したようにヨコワ 0 歳魚の北上回遊期における量的な指標が算出できれば海況条件と併せて島根県沿岸におけるヨコワ漁況がより明確になるであろう. 謝辞 JF しまね大社支所所属第七共栄丸船長江角卓一郎氏並びに JF しまね知夫出張所所属幸進丸船長山本進氏には乗船調査に快く協力していただき深謝します. 松江水産事務所吉田太輔普及員には貴重な情報をいただき聞き取り調査にも協力いただいた. また魚体計測資料の一部は 日本周辺国際魚類資源調査 により得られたものである. ここに記してお礼申し上げます. * 2010 年 6 月 5 日 : 石見地域漁業シンポジウム配布資料 文献 1) 島根県水産試験場 (2003) 島根のさかな ( クロマグロ ) 216pp, 山陰中央新報社 ( 松江 ). 2) 村山達朗 沖野晃 石田健次 若林英人 由木雄一 (2006) 沿岸漁業の複合経営に関する研究一 Ⅰ. 島根県におけるいか釣り漁業とはえ縄漁業の実態調査結果. 島水試研報,13, 1-10. 3) 山田陽巳 (2001) アーカイバルタグによるクロマグロ幼魚の行動生態の解明. 海洋と生物, 137(vol.23 no.6),540-546. 4) 川合英夫 (1972) 黒潮と親潮の海況学. 海洋科学基礎講座 ( 海洋物理 Ⅱ),328pp, 東海大学出版会. 5) 嶋津初義 (1986) ヨコワの曳縄釣り一水温と好漁場一. 水産技術と経営 (1986 年 3 月号 ), 43-49. 6) 長崎県水産試験場 (1983) 事業報告 ( 昭和 57 年度 ) クロマグロ幼魚分布生態調査,16-20. 7) 長崎県水産試験場 (1984) 事業報告 ( 昭和 58 年度 ) クロマグロ幼魚分布生態調査,49-55. 8) 沖山宗雄 (1974) 日本海におけるクロマグロ後期仔魚の出現. 日水研報告,25,89-97. 9) 川口哲夫 (1982) 鳥取県境港におけるまき網により漁獲された大型クロマグロについて. 水産海洋研究会報,41,92-98. 10) 西川康夫 (1985) 実証された日本海におけるクロマグロの産卵. 遠洋 ( 遠洋水研ニュース ), 56,5-6. 11) 西川康夫 (1986)1984,1985 年 8 月, 日本海におけるクロマグロ仔魚の出現について. 水産海洋研究会報,50(2),186-187. 12) 河北康之 西川康夫 久保田正 沖山宗雄 (1995)1984 年夏季の日本海におけるサバ科魚類を中心にした魚類プランクトンの分布. 水産海洋研究,59(2),107-114. 13) 西川康夫 (1986) 幼稚仔の加入実態 ( クロマグロ稚仔の分布と豊度の変動 ). 近海漁業資源の家魚化システムの開発に関する総合研究 ( マリーンランチング計画 ) プログレス レポートクロマグロ (6), 遠洋水産研究所, 33-37. 14) 野田勝延 森脇晋平 (1996) 音響学的手法による日本海南西海域のキュウリエソの分布特性. 水産海洋研究,60(1),1-6.

22 森脇晋平 小谷孝治 寺門弘悦 15) 川合英夫 (1975) 海洋環境の特性. 海洋生物 資源環境 ( 海洋学講座 第 15 巻 )11-20, 東 京大学出版会.