第 1 事案の概要 1 当事者 (1) 原告 / 控訴人 / 上告人 ( 以下 X と記載することもある ) テバジョジセルジャールザートケルエンムケドレースベニュタールシャシャーグ (2) 被告 / 被控訴人 / 被上告人 ( 以下 Y と記載することもある ) 株式会社協和発酵キリン ここが縮合

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では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

平成  年(オ)第  号

訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

審決取消判決の拘束力

目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

平成  年(行ツ)第  号

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

O-27567

REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

平成  年(オ)第  号

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

 

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

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事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

Microsoft Word - 一弁知的所有権研究部会2017年7月13日「商標登録無効の抗弁」(三村)

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

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政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

取得に対しては 分割前の当該共有物に係る持分割合を超える部分の取得を除いて 不動産取得税を課することができないとするだけであって 分割の方法に制約を設けているものではないから 共有する土地が隣接している場合と隣接していない場合を区別し 隣接していない土地を一体として分割する場合に非課税が適用されない

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た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

7 平成 28 年 10 月 3 日 処分庁は 法第 73 条の2 第 1 項及び条例第 43 条第 1 項の規定により 本件不動産の取得について審査請求人に対し 本件処分を行った 8 平成 28 年 11 月 25 日 審査請求人は 審査庁に対し 本件処分の取消しを求める審査請求を行った 第 4

H 刑事施設が受刑者の弁護士との信書について検査したことにつき勧告

(4) 抗告人は, 平成 28 年 8 月 26 日, 本件仮登記の抹消登記を経由した (5) 抗告人は, 平成 28 年 9 月 7 日, 東京地方裁判所に対し, 本件再生手続に係る再生手続開始の申立てをし, 同月 20 日, 再生手続開始の決定を受けた 上記申立てに当たり抗告人が提出した債権者一

ことができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している さらに 台湾専利法第 76 条は 特許主務官庁は 無効審判を審理する際 請求によりまたは職権で 期限を指定して次の各号の事項を行うよう特許権者に通知することができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している なお

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

平成  年(あ)第  号

諮問庁 : 国立大学法人長岡技術科学大学諮問日 : 平成 30 年 10 月 29 日 ( 平成 30 年 ( 独情 ) 諮問第 62 号 ) 答申日 : 平成 31 年 1 月 28 日 ( 平成 30 年度 ( 独情 ) 答申第 61 号 ) 事件名 : 特定期間に開催された特定学部教授会の音声

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特例適用住宅 という ) が新築された場合 ( 当該取得をした者が当該土地を当該特例適用住宅の新築の時まで引き続き所有している場合又は当該特例適用住宅の新築が当該取得をした者から当該土地を取得した者により行われる場合に限る ) においては, 当該土地の取得に対して課する不動産取得税は, 当該税額から

指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

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できない状況になっていること 約 6 分間のテレビ番組中で 2 分間を超える放映を し たこと等を理由に損害賠償請求が認容された X1 X2 および Y の双方が上告受理申立て 2 判旨 :Y1 敗訴部分破棄 請求棄却 X1,X2 敗訴部分上告却下ないし上告棄却最高裁は 北朝鮮の著作物について日本国

例 2: 組成 Aを有するピアノ線用 Fe 系合金 ピアノ線用 という記載がピアノ線に用いるのに特に適した 高張力を付与するための微細層状組織を有するという意味に解釈される場合がある このような場合は 審査官は 請求項に係る発明を このような組織を有する Fe 系合金 と認定する したがって 組成

指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

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13 条,14 条 1 項に違反するものとはいえない このように解すべきことは, 当裁判所の判例 ( 最高裁昭和 28 年 ( オ ) 第 389 号同 30 年 7 月 20 日大法廷判決 民集 9 巻 9 号 1122 頁, 最高裁昭和 37 年 ( オ ) 第 1472 号同 39 年 5 月

併等の前後を通じて 上告人ら という 同様に, 上告人 X1 銀行についても, 合併等の前後を通じて 上告人 X1 銀行 という ) との間で, 上告人らを債券の管理会社として, また, 本件第 5 回債券から本件第 7 回債券までにつき上告人 X1 銀行との間で, 同上告人を債券の管理会社として,

なお 本書で紹介した切餅特許事件においては 被告製品は 原告特許発明の構成要件 Bを文言上充足するともしないとも言い難いものであったが 1 審で敗訴した原告は 控訴審において 構成要件 Bの充足が認められなかった場合に備え 均等侵害の主張を追加している 知財高裁は 被告製品は構成要件 Bを文言上充足

第1回 基本的な手続きの流れと期限について ☆インド特許法の基礎☆

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裁判所は, 同年 9 月, 被上告人に対し, 米国に被拘束者を返還することを命ずる旨の終局決定 ( 以下 本件返還決定 という ) をし, 本件返還決定は, その後確定した (4) 上告人は, 本件返還決定に基づき, 東京家庭裁判所に子の返還の代替執行の申立て ( 実施法 137 条 ) をし, 子

参加人は 異議申立人が挙げていない新たな異議申立理由を申し立てても良い (G1/94) 仮 にアピール段階で参加した参加人が 新たな異議申立理由を挙げた場合 その異議申立手続は第 一審に戻る可能性がある (G1/94) 異議申立手続中の補正 EPCにおける補正の制限は EPC 第 123 条 ⑵⑶に

インド特許法の基礎(第35回)~審決・判例(1)~

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(イ係)

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平成29年特許権侵害訴訟・裁判例紹介

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する 理 由 第 1 事案の概要 1 本件は, 平成 21 年 ( 受 ) 第 602 号被上告人 同第 603 号上告人 ( 以下 1 審原告 X1 という ) 及び平成 21 年 ( 受 ) 第 603 号上告人 ( 以下 1 審原告 X 2 といい,1 審原告 X 1と1 審原告 X 2を併せ

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

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認められないから, 本願部分の画像は, 意匠法上の意匠を構成するとは認めら れない したがって, 本願意匠は, 意匠法 3 条 1 項柱書に規定する 工業上利用する ことができる意匠 に該当しないから, 意匠登録を受けることができない (2) 自由に肢体を動かせない者が行う, モニター等に表示される

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弁理士試験短答 逐条読込 演習講座 ( 読込編 ) 平成 29 年 6 月第 1 回 目次 平成 29 年度短答本試験問題 関連条文 論文対策 出題傾向分析 特実法 編集後記 受講生のみなさん こんにちは 弁理士の桐生です 6 月となりましたね 平成 29 年度の短答試験は先月終了しました 気持ちも

平成18年1月13日 最高裁判所は,貸金業者の過払い金の受領は違法と知りつつなされたことを推定するとした判例です

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事件概要 1 対象物 : ノンアルコールのビールテイスト飲料 近年 需要急拡大 1 近年の健康志向の高まり 年の飲酒運転への罰則強化を含む道路交通法改正 2 当事者ビール業界の 1 位と 3 位との特許事件 ( 原告 特許権者 ) サントリーホールディングス株式会社 ( 大阪市北区堂島

I 事案の概要 本件は 東証一部上場企業の物流大手である株式会社ハマキョウレックス ( 以下 被告 被控訴人 又は 上告人 といいます ) との間で有期雇用契約 1 を締結している契約社員 ( 以下 原告 控訴人 又は 被上告人 といいます ) が 以下に掲げる正社員と契約社員との間の労働条件 (

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第 1 民法第 536 条第 1 項の削除の是非民法第 536 条第 1 項については 同項を削除するという案が示されているが ( 中間試案第 12 1) 同項を維持すべきであるという考え方もある ( 中間試案第 12 1 の ( 注 ) 参照 ) 同項の削除の是非について どのように考えるか 中間

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2 控訴費用は, 控訴人らの負担とする 事実及び理由第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人株式会社バイオセレンタック, 同 Y1 及び同 Y2は, 控訴人コスメディ製薬株式会社に対し, 各自 2200 万円及びこれに対する平成 27 年 12 月 1 日から支払済みまで年 5 分の割

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

平成  年(オ)第  号

基本的な考え方の解説 (1) 立体的形状が 商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合は 特段の事情のない限り 商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断する 解説 商品等の形状は 多くの場合 機能をより効果的に発揮させたり 美感をより優れたものとしたりするなどの目的で

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債務者 代理人弁護士 債権者一般 債務整理開始通知 送付 支払 停止 債務者の代理人弁護士から債権者一般への債務整理開始通知の送付と 支払の停止 最二判平成 79 年 65 月 69 日判時 7669 号 頁 判タ 6889 号 685 頁 金法 6967 号 65 頁 金判 6956 号 76 頁

税務訴訟資料第 267 号 -70( 順号 13019) 大阪高等裁判所平成 年 ( ) 第 号更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件国側当事者 国 ( 富田林税務署長 ) 平成 29 年 5 月 11 日棄却 上告受理申立て ( 第一審 大阪地方裁判所 平成 年 ( ) 第 号 平成

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第29回 クレーム補正(2) ☆インド特許法の基礎☆

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

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次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

が成立するが 本件処分日は平成 29 年 3 月 3 日であるから 平成 24 年 3 月 3 日以降 審査請求人に支給した保護費について返還を求めることは可能であ る 第 3 審理員意見書の要旨 1 結論本件審査請求には理由がないので 棄却されるべきである 2 理由 (1) 本件処分に係る生活保護

である旨の証券取引等監視委員会の指導を受け, 過年度の会計処理の訂正をした 本件は, 本件事業年度の法人税について, 控訴人が, 上記のとおり, その前提とした会計処理を訂正したことにより, 同年度の法人税の確定申告 ( 以下 本件確定申告 という ) に係る確定申告書の提出により納付すべき税額が過

第41回 アクセプタンス期間と聴聞手続(2016年版) ☆インド特許法の基礎☆

特許出願の審査過程で 審査官が出願人と連絡を取る必要があると考えた場合 審査官は出願人との非公式な通信を行うことができる 審査官が非公式な通信を行う時期は 見解書が発行される前または見解書に対する応答書が提出された後のいずれかである 審査官からの通信に対して出願人が応答する場合の応答期間は通常 1

ら退去を迫られやむを得ず転居したのであるから本件転居費用について保護費が支給されるべきであると主張して 本件処分の取消しを求めている 2 処分庁の主張 (1) 生活保護問答集について ( 平成 21 年 3 月 31 日厚生労働省社会援護局保護課長事務連絡 以下 問答集 という ) の問 13の2の

返還の必要性を十分説明しており 手続は適法である 第 3 審理員意見書の要旨 1 結論本件審査請求には理由がないので 棄却されるべきである 2 理由 (1) 本件の争点は 本件保険が法第 4 条第 1 項に規定する 利用し得る資産 に該当するかどうかであるが その判断に当たっては 処分庁が判断の要素

Transcription:

PBP クレーム最高裁判決について 最判平成 27 年 6 月 5 日 ( 平成 24 年 ( 受 ) 第 1204 号 1 )[ 二小 ] 原審 : 知財高判平成 24 年 1 月 27 日 ( 平成 22 年 ( ネ ) 第 10043 号 2 )[ 大合議 ] 第一審 : 東京地判平成 22 年 3 月 31 日 ( 平成 19 年 ( ワ ) 第 35324 号 )[ 民 29] 2015 年 7 月 28 日弁護士知財ネット判例検討会 発表者 弁護士 平井 佑希 弁護士 西脇 怜史 目次 第 1 事案の概要... 2 1 当事者... 2 2 本件特許... 2 3 出願 訂正の経緯... 3 第 2 第一審東京地裁判決の概要... 4 1 争点... 4 2 争点に対する判断... 5 (1) 技術的範囲の解釈につき 製法を考慮すべきかについて... 5 (2) 被告製品の構成要件該当性について... 6 第 3 知財高裁大合議判決の概要... 6 1 技術的範囲の解釈につき 製法を考慮すべきかについて... 6 2 被控訴人製品の構成要件該当性について... 9 3 発明の要旨認定につき 製法を考慮すべきかについて... 9 4 乙 30 発明に基づく ( 訂正前 ) 本件特許発明 1 の進歩性の欠如... 10 第 4 最高裁判決の概要... 11 1 法廷意見... 11 2 補足意見 ( 千葉勝美裁判官 )... 13 3 意見 ( 山本庸幸裁判官 )... 17 第 5 若干の考察... 20 1 具体的事案における結論の違い... 20 2 補正 訂正について... 22 3 PBP クレームの範囲... 24 4 物同一 の範囲... 25 1 同日付けで 平成 24 年 ( 受 ) 第 2658 号事件 ( テバ東理事件 ) についても判決あり [ 二小 ] 2 同日付けで 平成 21 年 ( 行ケ ) 第 10284 号事件についても判決あり [1 部 ] -1-

第 1 事案の概要 1 当事者 (1) 原告 / 控訴人 / 上告人 ( 以下 X と記載することもある ) テバジョジセルジャールザートケルエンムケドレースベニュタールシャシャーグ (2) 被告 / 被控訴人 / 被上告人 ( 以下 Y と記載することもある ) 株式会社協和発酵キリン ここが縮合するとラクトン 2 本件特許 (1) 特許番号特許第 3737801 号 (2) 発明の名称プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム 並びにそれを含む組成物 (3) 本件特許発明 請求項 1 次の段階 : a) プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し b) そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し c) 再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し d) 当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え そして e) プラバスタチンナトリウム単離すること を含んで成る方法によって製造される プラバスタチンラクトンの混入量が 0.5 重量 % 未満であり エピプラバの混入量が 0.2 重量 % 未満であるプラバスタチンナトリウム -2-

請求項 2 以下略 いずれも請求項 1 の従属項 ( 孫従属も含む ) 3 出願 訂正の訂正の経緯 H12.10.05 優先日 (US) H13.10.05 X 国際出願 H14.11.27 X 翻訳文を提出 3 H16.01.29 X 早期審査に関する事情説明書を提出 H16.03.17 JPO 新規性 進歩性欠如等を理由として拒絶理由通知 H16.09.24 X 意見書 手続補正書を提出 H17.04.22 JPO 進歩性欠如等を理由として拒絶査定 4 H17.07.25 X 拒絶査定不服審判請求手続補正書を提出して 製造方法の記載がない請求項を全て削除 H17.09.16 JPO 特許査定 H17.11.04 登録日 H20.03.27 Y X 無効審判請求 ( 無効 2008-800055) 審判請求書の副本は H20.04.23 に発送 H20.07.22 X 請求項 1 について訂正請求 H21.08.25 JPO 訂正を認めた上で 請求不成立審決 Y 審取提起 ( 平成 21 年 ( 行ケ ) 第 10284 号 ) 3 翻訳文に記載された当初請求項は 以下のとおり 請求項 1 実質的に純粋なプラバスタチンナトリウム 請求項 7 0.2% 未満のプラバスタチンラクトン及び 0.1% 未満のエピプラバを含む 請求項 1 に記載のプラバスタチンナトリウム 請求項 8 次の段階 :a) プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し b) そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し c) 再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し d) 当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え そして e) プラバスタチンラクトン及びエピプラバを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム単離すること を含んで成る方法によって製造される 実質的に純粋なプラバスタチンナトリウム 4 製造方法の記載がされた請求項については 拒絶理由がある請求項としては挙げられていな い -3-

訂正発明 1 a) プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し b) そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し c) 再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し d) 当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え そして e) プラバスタチンナトリウムを単離すること を含んで成る方法によって製造される プラバスタチンラクトンの混入量が 0.2 重量 % 未満であり エピプラバの混入量が 0.1 重量 % 未満であるプラバスタチンナトリウム 第 2 第一審東京地裁東京地裁判決 5 の概要 1 争点 (1) 被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか 6 ア本件各発明の技術的範囲につき 製造方法を考慮すべきか イ被告製品の構成要件充足性 (2) 本件特許は 特許無効審判により無効にされるべきものか ア本件各発明の要旨イ乙第 1 号証に基づく新規性の欠如ウ乙第 1 号証に基づく進歩性の欠如エ乙第 6 号証に基づく新規性 進歩性の欠如オ特許法 36 条 6 項 1 号違反 1 不純物の濃度 含有比に関するサポート要件違反 ラクトン: エピマー = 2:1 というサポートがない 5 29 部裁判長裁判官清水節裁判官坂本三郎岩崎慎請求棄却 6 被告製品が プラバスタチンラクトンの混入量が 0.2 重量 % 未満であり エピプラバの混入量が 0.1 重量 % 未満であるプラバスタチンナトリウム であることは争いなし -4-

純度 99.9%( 不純物 0.1%) までしかサポートがない 2 低純度の場合に関するサポート要件違反 ラクトンやエピマー以外の副生物が混入すれば 結果的に純度の低いプラバスタチンナトリウムも含まれ得ることになるが そのようなサポートがない (3) 本件訂正の可否 ( 本件訂正により 争点 (2) の無効理由が回避されるか ) 2 争点に対する判断 (1) 技術的範囲の解釈につき 製法を考慮すべきかについてア PBP クレームの解釈について 原則製法同一説 本件特許請求の範囲の各請求項が 物の発明について 当該物の製造方法が記載されたもの であり いわゆる PBP クレームである認定した上で PBP クレームの解釈については 特許法 70 条 1 項から 原則として 物の発明 であるからといって 製造方法の記載を除外すべきではなく 当該特許発明の技術的範囲は 当該製造方法によって製造された物に限られると解すべきであって 物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり 当該物の製造方法によって 特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの特段の事情がある場合に限り 当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一であると認められる物も 当該特許発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である と判示した イ特段の事情の有無 特段の事情を否定 プラバスタチンナトリウム自体は 当業者にとって公知の物質であり 本件特許の請求項 1 に記載された 物 である プラバスタチンラクトンの混入量が0.5 重量 % 未満であり エピプラバの混入量が0.2 重量 % 未満であるプラバスタチンナトリウム の構成は その記載自体によっ -5-

て物質的に特定されていること 本件特許の出願経過において 出願当初の特許請求の範囲には 製造方法の記載がない物と 製造方法の記載がある物の双方に係る請求項が含まれていた 7 が 製造方法の記載がない請求項について進歩性がないとして拒絶査定を受けたことにより 製造方法の記載がない請求項をすべて削除し その結果 特許査定を受けるに至っていることから 本件特許においては 特許発明の技術的範囲が 特許請求の範囲に記載された製造方法によって製造された物に限定されないとする特段の事情があるとは認められない ( むしろ 特許発明の技術的範囲を当該製造方法によって製造された物に限定すべき積極的な事情があるということができる ) と判示した (2) 被告製品の構成要件該当性について本件特許発明における製造工程 a プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し の 濃縮有機溶液 とは 水を含まない有機溶媒であると解した上で 被告工程には水を含まない有機溶媒の プラバスタチンの濃縮有機溶液 を形成する工程があるとは認められないとして 構成要件充足性を否定した 第 3 知財高裁大合議判決 8 の概要 1 技術的範囲の解釈につき 製法を考慮すべきかについて (1) PBP クレームの解釈について 原則製法同一説 ア特許法 70 条 1 項及び 2 項から 特許権侵害を理由とする差止請求又は 7 当初請求項 1 実質的に純粋なプラバスタチンナトリウム 当初請求項 7 0.2% 未満のプラバスタチンラクトン及び 0.1% 未満のエピプラバを含む 請求項 1 に記載のプラバスタチンナトリウム 8 特別部裁判長裁判官中野哲弘裁判官飯村敏明塩月秀平滝澤孝臣東海林保 控訴棄却 -6-

損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては 特許請求の範囲 記載の文言を基準とすべきである 特許請求の範囲に記載される文言は 特許発明の技術的範囲を具体的に画しているものと解すべきであり 仮に これを否定し 特許請求の範囲として記載されている特定の 文言 が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないなどと解釈することになると 特許公報に記載された 特許請求の範囲 の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり 法的安定性を害する結果となる そうすると 本件のように 物の発明 に係る特許請求の範囲にその物の 製造方法 が記載されている場合 当該発明の技術的範囲は 当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈 確定されるべきであって 特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて 他の製造方法を含むものとして解釈 確定されることは許されないのが原則である もっとも 本件のような 物の発明 の場合 特許請求の範囲は 物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが 物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには 発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした法 1 条等の趣旨に照らして その物の製造方法によって物を特定することも許され 法 36 条 6 項 2 号にも反しないと解される そして そのような事情が存在する場合には その技術的範囲は 特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても 製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして 特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく 物 一般に及ぶと解釈され 確定されることとなる イところで 物の発明において 特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合 このような形式のクレームは 広く プロダクト バイ プロ -7-

セス クレーム と称されることもある 前記アで述べた観点に照らすならば 上記プロダクト バイ プロセス クレームには 物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため 製造方法によりこれを行っているとき ( 本件では このようなクレームを 便宜上 真正プロダクト バイ プロセス クレーム ということとする ) と 物の製造方法が付加して記載されている場合において 当該発明の対象となる物を その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき ( 本件では このようなクレームを 便宜上 不真正プロダクト バイ プロセス クレーム ということとする ) の 2 種類があることになるから これを区別して検討を加えることとする そして 前記アによれば 真正プロダクト バイ プロセス クレームにおいては 当該発明の技術的範囲は 特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく 同方法により製造される物と同一の物 と解釈されるのに対し 不真正プロダクト バイ プロセス クレームにおいては 当該発明の技術的範囲は 特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物 に限定されると解釈されることになる また 特許権侵害訴訟における立証責任の分配という観点からいうと 物の発明に係る特許請求の範囲に 製造方法が記載されている場合 その記載は文言どおりに解釈するのが原則であるから 真正プロダクト バイ プロセス クレームに該当すると主張する者において 物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である ことについての立証を負担すべきであり もしその立証を尽くすことができないときは 不真正プロダクト バイ プロセス クレームであるものとして 発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈 確定するのが相当である -8-

(2) 特段の事情の有有無 不可能困難不可能困難事情を否定 請求項 1 の記載載における プラバスタチンラクトンの混混入量が 0.5 重量 % 未満であり エピプラバの混入量が 0.2 重量 % 未満であるプラバスタチンナトリウム の構成は 不純物であるプラバスタチンラクトン及びエピプラバが公知の物物質であるプラバスタチンナトリウムに含まれる量を数値限定したものであるから その構造によって 客観的かつ明確に記載されている としてて 本件ではその製造方法によらない限限り 物を特定することが不可能又又は困難な事情は存在せず 不真正 PBP クレームであると判示 2 被控訴人製品の構構成要件該当性について工程 a) の 濃縮有有機溶液 とは 水とは完全に混和 しないために 液 - 液抽出法 の抽出 再抽出に使用することができ 比比重の差により水層と 2 層に分離され プラバスタチンが濃縮される有機溶液をいうもの 有機溶媒層界面水層 と認めるのが相当である とした上で 被控訴人の製造工程で用いられているのは 水と完全に混和してしまうため 液 - 液抽出法 に用いた場合に比重の差により水と 2 層に分離されることがないものである として 構成要件充足性を否定した 3 発明の要旨認定ににつき 製法を考慮すべきかについて特許 法 104 条の 3 に係る抗弁の成否を判断する前提となる発明の要旨は 上記特許無効審判請請求手続において特許庁 ( 審判体 ) が把握握すべき請求項の具体的内容と同様に認認定されるべきである とした上で PBPP クレームの場合の -9-

発明の要旨認定については 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の認定方法の場合と同様の理由により 発明の対象となる物の構成を 製造方法によることなく, 物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情 の有無により区別し そのような事情の存在する真正 PBP クレームについては物同一 そのような事情の存在しない不真正 PBP クレームについては製法同一に解釈すべきであると判示した 発明の技術的範囲について検討したように 本件では不可能困難事情の存在は否定 4 乙 30 発明に基づく ( 訂正前 ) 本件特許発明 1 の進歩性の欠如 工程 a) から e) は一致 相違点は 当該工程によって得られるプラバスタチンナトリウムの濃度が 乙 30 発明では 純度は HPLC 分析では 99.5% を越える ものであるのに対し 本件発明 1 では プラバスタチンラクトンの混入量が 0.5 重量 % 未満であり エピプラバの混入量が 0.2 重量 % 未満であるプラバスタチンナトリウム である プラバスタチンラクトンが 0.02 0.06% エピプラバが 0.19 0.65% であるプラバスタチンナトリウム製剤が本件特許の優先日前に公然取得することができた プラバスタチンナトリウムにおいてプラバスタチンラクトン及びエピパラバが低減すべき不純物であることは乙 1 文献に記載されており また 医薬品の技術分野において より高純度のものを製造することは 周知の技術課題である 乙 30 発明の精製方法を繰り返したり 最適化することで より高純度のものまで精製することは 当業者が容易になし得ることである -10-

などとして 本件発明 1 は, 乙 30 発明並びに乙 1 文献及び技術常識によっ て, 当業者が容易に想到し得た発明であると認められると判示 第 4 最高裁判決 9 の概要 1 法廷意見 (1) 原審の基準 原則製法同一説 原則製法同一説 について是認できないとした その理由は (2) に述べるとおり (2) PBP クレームの技術的範囲について 原則物 原則物同一説 (1) 願書に添付した特許請求の範囲の記載は, これに基づいて, 特許発明の技術的範囲が定められ ( 特許法 70 条 1 項 ), かつ, 同法 29 条等所定の特許の要件について審査する前提となる特許出願に係る発明の要旨が認定される ( 最高裁昭和 6 2 年 ( 行ツ ) 第 3 号平成 3 年 3 月 8 日第二小法廷判決 民集第 45 巻 3 号 123 頁参照 ) という役割を有しているものである そして, 特許は, 物の発明, 方法の発明又は物を生産する方法の発明についてされるところ, 特許が物の発明についてされている場合には, その特許権の効力は, 当該物と構造, 特性等が同一である物であれば, その製造方法にかかわらず及ぶこととなる したがって, 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても, その特許発明の技術的範囲は, 当該製造方法により製造された物と構造, 特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である (3) PBP クレームと明確性要件 ( 特許法 36 条 6 項 2 号 ) 不可能非実際的基準 9 第二小法廷裁判長裁判官千葉勝美裁判官小貫芳信鬼丸かおる山本庸幸 破棄差戻し ( 全員一致 ) -11-

(2) ところで, 特許法 36 条 6 項 2 号によれば, 特許請求の範囲の記載は, 発明が明確であること という要件に適合するものでなければならない 特許制度は, 発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって, 特許権者についてはその発明を保護し, 一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより, その発明の利用を図ることを通じて, 発明を奨励し, もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ ( 特許法 1 条参照 ), 同法 36 条 6 項 2 号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは, この目的を踏まえたものであると解することができる この観点からみると, 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に, その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造, 特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば, これにより, 第三者の利益が不当に害されることが生じかねず, 問題がある すなわち, 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において, その製造方法が記載されていると, 一般的には, 当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか, 又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり, 特許請求の範囲等の記載を読む者において, 当該発明の内容を明確に理解することができず, 権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり, 適当ではない 他方, 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては, 通常, 当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが, その具体的内容, 性質等によっては, 出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり, 特許出願の性質上, 迅速性等を必要とすることに鑑みて, 特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど, 出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである そうすると, 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方 -12-

法を記載することを一切認めないとすべきではなく, 上記のような事情がある場合には, 当該製造方法により製造された物と構造, 特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても, 第三者の利益を不当に害することがないというべきである 以上によれば, 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において, 当該特許請求の範囲の記載が特許法 36 条 6 項 2 号にいう 発明が明確であること という要件に適合するといえるのは, 出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか, 又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である ( 波線は発表者による ) 不可能非実際事情が存在し 明確性要件に適合するか否か等について審理を尽 くさせるため 差戻し 2 補足意見 ( 千葉勝美裁判官 ) (1) PBP クレームの解釈 処理の基本的な枠組み 10 平成 16 年の特許法の改正により同法 104 条の3が創設され, 侵害訴訟において特許無効の抗弁を主張することが可能となり, これにより, 同条に係る無効の抗弁の成否 ( 当該発明の新規性 進歩性の有無 ) を判断する前提となる発明の要旨認定をする場面と, 侵害訴訟における請求原因として特許発明の技術的範囲を確定する場面とが同一の訴訟手続において審理されることとなった そうすると, 両場面におけるP BPクレームの解釈, 処理の基本的な枠組みが異なることは不合理であるから, これを統一的に捉えるべきであり, このことは我が国の特許法制上当然のことであって, 10 同日付の別件の最高裁第二小法廷判決 ( 平成 24 年 ( 受 ) 第 2658 号特許権侵害差止請求事件 ) において 発明の要旨認定について物同一説をとっていることを明らかにしている -13-

多数意見は, この見解を前提に, 両場面ともいわゆる物同一説により考えることにし ているのである ( 波線は発表者による ) (2) PBP クレームを認める例外的事情の内容 不可能 とは, 出願時に当業者において, 発明対象となる物を, その構造又は特性 ( 発明の新規性 進歩性の判断において他とは異なるものであることを示すものとして適切で意味のある特性をいう ) を解析し特定することが, 主に技術的な観点から不可能な場合をいい, およそ実際的でない とは, 出願時に当業者において, どちらかといえば技術的な観点というよりも, およそ特定する作業を行うことが採算的に実際的でない時間や費用が掛かり, そのような特定作業を要求することが, 技術の急速な進展と国際規模での競争の激しい特許取得の場面においては余りにも酷であるとされる場合などを想定している 特に, 後者については, 必ずしも一義的でないため, 実際上どのような場合がこれに当たるかは, 結局, 今後の裁判例の集積により方向性が明確にされていくことになろう (2) 特許庁の現在の審査実務で採用されているとされている 不適切な場合 という基準は, 余りにも価値判断的な要素が強く, 内容が明確でないため範囲が広がり過ぎ, また, 構造等でさほど困難なく特定できる場合であっても, 単に発明の構成を理解しやすくするために製法を記載することまで認める余地を残すこととなり, いずれにしろ,PBPクレームの概念を認めた趣旨と齟齬しかねない面が生じ, 妥当とはいえないところである なお, 発明の構成をより分かりやすくするためであれば, 製造方法については, 特許請求の範囲にではなく, 発明の詳細な説明 に記載することで足り, そうすべきである ( 波線は発表者による ) (3) 今後の特許実務と従前の PBP クレームの扱い (1) これまで,PBP クレームの出願時の審査においては, 不可能 困難 不適 -14-

切事情を緩く解してこの点の実質的な審査をしないまま出願を認めてきているが, 今後は, 審査の段階では, 特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合には, それがPBPクレームの出願である点を確認した上で, 不可能 非実際的事情の有無については, 出願人に主張 立証を促し, それが十分にされない場合には拒絶査定をすることになる このような事態を避けたいのであれば, 物を生産する方法の発明についての特許 ( 特許法 2 条 3 項 3 号 ) としても出願しておくことで対応することとなろう (2) この点につき, 原審である知財高裁大合議部の判決が示す基準によれば, 特許庁の審査実務では物の発明の範囲を構造等で直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情 ( 以下 不可能 困難事情 という ) の存否に関わりなく明確性要件違反とはならないことを前提とし,PBP クレームの解釈について, 発明の要旨認定の場面でも特許発明の技術的範囲の確定の場面でも, 原則として, 不真正 PBPクレームとして製法限定説によるが, 不可能 困難事情が存在する真正 PBPクレームの場合に限り, 物同一説によるという言わば二分論を採用している これは, 特許法 1 条等の趣旨に照らし, その物の製造方法によって物を特定することも許され, 同法 36 条 6 項 2 号にも違反しないとするものであり, 同法の原則と特許庁の審査実務とを踏まえた現実的な対応を模索した苦心の見解であろう しかしながら, この見解は,PBPクレームの解釈について物同一説を採用したと解される当審判例 ( 最高裁平成 9 年 ( 行ツ ) 第 120 号同年 9 月 9 日第三小法廷判決 公刊物未登載, 最高裁平成 9 年 ( 行ツ ) 第 121 号同年 9 月 9 日第三小法廷判決 公刊物未登載, 最高裁平成 10 年 ( オ ) 第 1579 号同年 11 月 10 日第三小法廷判決 公刊物未登載 ) と齟齬する面があり, また, そもそも, 当該 PBPクレームがこの真正, 不真正のどちらに当たるかは裁判所の見解が示されない限り, 明確ではなく, 真正か不真正かで特許請求の範囲は大きく異なることになり, 出願人の意図と齟齬する事態が生じかねない また, 第三者にとっても, 当該発明が真 -15-

正か不真正かで権利の範囲が大きく異なるが, その点は明確ではなく, 予測可能性を奪うおそれが生ずる このことは, 結局, 特許の範囲が不明確で特定されていないことによるものであり, 特許法 36 条 5 項,6 項 2 号等に反する事態であるといわざるを得ない 更に, この見解に従うと, 審査実務においても, 真正か不真正かで特許発明の範囲等が異なるため, この点をしっかりと区別した上で特許出願を認める必要が生ずることとなり, その結果, 審査は慎重にならざるを得ず, その負担が重くなり, 審査の遅延を招くおそれも大きい (3) 多数意見は, 原審が提起することとなった上記の問題点を踏まえ,PBPクレームが認められる事情を本来の趣旨を踏まえて厳格に捉え, それに当たらず拒絶されるおそれがある場合には, 物を生産する方法の特許として出願させるという実務を定着させる方向の後押しとなる解釈を示すものである これは, 特許出願の際の審査が,PBP クレームを物質特許として認めるための要件を実質的にも審査することになる点でこれまでとは変わることとなるが, 出願人にとっては, 従前も, 構造等で特定できる場合 ( 不可能 非実際的事情が存在しない場合 ) であるのに通常の物の特許ではなくPBPクレームであるとして出願することがどの程度広く行われてきたかは疑問もあり, また, 本当に 不可能であるか, 又はおよそ実際的でない のであれば, この点は, 出願人にとって主張立証することに大きな負担となることはないであろう ( 例えば, 生命科学の分野で, 新しい遺伝子操作によって作られた細胞等であれば, それを出願時において構造等で特定することに不可能 非実際的事情が存在しないとして拒絶されるとはいえないであろう ) また, 審査においても, 出願人がこれを積極的かつ厳密に立証することは事柄の性質上限界があるので, これを厳格に要求することはできず, 合理的な疑問がない限り, これを認める運用となる可能性が大きく, その意味では, さほど大きな懸念を抱かなくても済む可能性が大きい (4) 次に, 従前, 出願審査の段階では原則として不可能 困難事情の存否を実際上チェックしないまま既に認められ登録されてきたPBPクレームについて, 今後, -16-

無効審判請求や侵害訴訟の過程での特許無効の抗弁の提出がされることも予想される しかし, 出願時において不可能 非実際的事情の存在を明らかにできないのであれば ( それは, 構造等で特定できるのにそれをせず, 安易に製法により特定したPBPクレームとして出願したということになる ), それが無効とされても止むを得ないところである もっとも, この事態は, 特許出願の審査が緩くPBPクレームを認めてきたことに起因するものであり, このことは出願人のみの責任ともいえないところであって, これを避けるためには, 特許無効審判における訂正の請求 ( 特許法 134 条の2) や訂正審判の請求 ( 同法 126 条 ) 等を活用することも考えられ, それらが現実にどのように処理されるかは今後に残された問題であろう ( 波線は発表者による ) 3 意見 ( 山本庸幸裁判官 ) (1) 原審差戻しには賛成 その理由は多数意見と異なる 本件特許が無効でない限り, 本件特許発明の技術的範囲に属するものであると考えられるものであるが, 果たしてそのとおりか, また, その出願の経緯等からしてこれを限定的に解釈する可能性はないか等について審理を尽くさせるという意味で, 本件を原審に差し戻すことに賛成するものである (2) 多数意見に対する問題提起ア PBP クレームのある特許請求の範囲の記載が明確でなければならないとすることについて一般論としては正しいとしつつ 次のように問題提起をしている 物の発明につき特許請求の範囲がPBPクレーム形式で記載されていないと, かえって明確でなくなる場合が多々ある とりわけ新規性のある物の発明では, 出願人がどのような方法で作った物であるかを記述すれば非常に分かりやすいのに, これを無理やりその物の構造や特性で記述しようとすると間違いなくそ -17-

れは複雑な概念や用語で表現することにならざるを得ない それでは, 出願人としては無駄な時間や費用が掛かって出願する時期を失するおそれがあるだけでなく, そのような記述は審査官にとっても, また当業者にとってもかえって分かりにくいものとなり, それこそ明確性の要件に反するものになってしまうのではないだろうか ( 波線は発表者による ) 具体例として 生命科学の分野で新規性のある細胞に関する特許請求の範囲を, いかなる細胞にどのような遺伝子をどうやって注入する方法により作成された細胞 としてPBPクレームで記述すれば当業者であれば極めて分かりやすい特許請求の範囲となるのに, これをその出来た細胞の構造や特性に基づいて記述しなければならないとなると, それなりの時間や費用や労力をかければ必ずしも不可能ではないのかもしれないが, そういう努力をしてやっと記述できた結果の当該細胞についての特許請求の範囲の記載は, およそ無味乾燥で誰にも分からない不得要領のものになることが多いのではないかと思われる その結果, 明確性の要件で拒絶等されてしまうことが容易に看取される これでは, 発明の保護及びその一般の利用との調和という特許法の理念からますます遠ざかる結果になると考える この点, 多数意見は, 出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり, 特許出願の性質上, 迅速性等を必要とすることに鑑みて, 特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど, 出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである として, 一見極めて限定的ながらPBPクレームを認めようとしているかのごとくであるが, 結局のところ 法 36 条 6 項 2 号にいう 発明が明確であること という要件に適合するといえるのは, 出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか, 又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解する とする -18-

しかしながらこれでは, ほとんどPBPクレームが認められる余地はないのではなかろうか ( 波線は発表者による ) イ 不可能非実際的基準 について この点に関し思い起こされるのは, 新しい遺伝子操作によって作られた幹細胞等について出願される最近の生命科学の分野における重要な発明である このような発明を物の発明として出願するについては, その特許請求の範囲は, PBPクレームで記載されることが大半であろうと思われる そうすると, 上記の多数意見を基にすれば, 出願人は, 特許請求の範囲の記載に関し,PBP クレームであるがゆえに, それが拒絶又は無効理由となることを懸念して, まずは構造又は特性によりその物を直接特定できないかを考慮することとなろう しかし, それが 出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか, 又はおよそ実際的でないという事情が存在するとき ( 以下 不可能非実際的基準 という ) という多数意見の基準に基づいて行う作業と立証は, 決して容易なものではなく, むしろそのような作業や立証を考えること自体が現実的ではないように思えてくるが, 絶対にできないという確証もない 他方でそのようなことに時間をとられていては, 先願主義の下で世界の他の出願人との熾烈な競争に後れを取ってしまうので, 特許出願が急がれる そういうことで, 構造や特性で当該物を表現できず, さりとてこれでよいという確証もないまま,PBPクレームの形式で出願に踏み切るものと思われる そうすると次に, 審査 審判段階で不可能非実際的基準が拒絶 無効理由になるかどうかが審査等されることになる しかし, この不可能非実際的基準というものが, ともかく余りに曖昧で漠然とした掴みどころのないものであることから, 私の見るところ, 安定的かつ統一した運用 解釈は非常に難しいのではないかと考える しかも, 不可能であるか, 又はおよそ実際的でない というのは, 誰がどういう基準でいかに判定するかが全く明らかにされていない以上は, 限りなく 不可能 と同義ではないかと考える その結果,PBPク -19-

レームを含む特許請求の範囲がある物の特許出願のほとんどは, 明確性の要件違反で拒絶されるのではないかと懸念している これでは, いわゆる萎縮効果が働いて, 我が国の特許出願から, 本当に必要なPBPクレームまで駆逐されてしまい, 発明の保護にはつながらないのではないだろうか さらに問題は, これが既存の特許の無効理由になることから, これまで成立したPBPクレームで記述されている多数の特許についても, その無効を争う訴訟が頻発するのではないかと懸念している その特許が成立したときには, 不可能非実際的基準というものを意識する余地もなかったわけであるから, そのような訴訟では, こうした事情もよくよく考慮に入れるべきである ( 波線は発表者による ) 第 5 若干の考察 1 具体的事案における結論の違い知財高裁 ( 大合議 ) 判決と最高裁判決とで 具体的な事案について 結論の相違が生じるのか (1) PBP クレームにあたるか否かの判断 知財高裁 物の発明において, 特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合 最高裁 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法 が記載されている場合 基準として 実質的に差異はない なお 当該基準に関する特許庁の 当面の審査の取扱い については -20-

資料 1 の別紙 1 を参照 (2) 例外事情の範囲知財高裁 物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情 ( 不可能困難事情 ) 最高裁 出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか 又はおよそ実際的でないという事情 ( 不可能非実際的事情 ) 文言としては 困難 実際的ではない と異なっているが いずれも幅のある概念であるため 両事情の広狭は 必ずしも明らかではない なお 不可能非実際的事情に関する特許庁の 当面の審査の取扱い については 資料 1 の別紙 2 を参照 (3) 例外事情充足 ( 非充足 ) の効果知財高裁 特許の有効性例外事情を欠けば即明確性要件違反ということではない 技術的範囲例外事情があれば物同一 例外事情がなければ製法同一 最高裁 特許の有効性 -21-

例外事情がある場合に限り 明確性要件を備える 技術的範囲 物同一 例外事情がなく 被告製法が同一である場合 知財高裁の基準によれば 侵害 最高裁の基準によれば 非侵害 (104 条の 3 の抗弁成立 ) ただし 他の請求項に物を生産する方法の発明 (2 条 3 項 3 号 ) があれ ば 当該請求項による権利行使は可能 2 補正 訂正訂正について (1) 千葉補足意見における指摘 出願時において不可能 非実際的事情の存在を明らかにできないのであれば ( それは 構造等で特定できるのにそれをせず 安易に製法により特定した PBP クレームとして出願したということになる ) それが無効とされても止むを得ないところである もっとも この事態は 特許出願の審査が緩く PBP クレームを認めてきたことに起因するものであり このことは出願人のみの責任ともいえないところであって これを避けるためには, 特許無効審判における訂正の請求 ( 特許法 134 条の 2) や訂正審判の請求 ( 同法 126 条 ) 等を活用することも考えられ, それらが現実にどのように処理されるかは今後に残された問題であろう -22-

(2) 知財高判平成 19 年 9 月 20 日 ( 平成 18 年 ( 行ケ ) 第 10494 号 ) 11 補正後請求項 1 は ホログラフィック グレーティング製作方法 と記載され その発明のカテゴリーが 方法の発明 であることは明らかであるから 本件補正は 物の発明 であった補正前請求項 1 を 方法 の発明 である補正後請求項に補正することを目的としている 12 発明 のカテゴリーによって 法律効果が異なることは前記 1 のとおりであるから 発明のカテゴリーを 物の発明 から 方法の発明 に変更することは 物の発明 として請求していた権利とは異なる効果を有する別の権利を請求することにほかならない したがって 本件補正は 特許 請求の範囲を変更するものであり 特許法 17 条の 2 第 4 項各号 13 のい ずれにも該当しない 物の発明から ( 物を生産する ) 方法の発明への補正は認められないとする知財高裁判決あり この判決を前提とする限り 補正 訂正はできないとも思える ただし 特許庁の 当面の審査の取扱いについて では 製造方法の発明にする補正を 明りょうでない記載の釈明 (17 条の 2 第 5 項 4 号 ) に該当するものとして 認めるとされている 14 そうすると訂正についても このような訂正は 126 条 1 項ただし書き 3 号に該当するものと考えられるが 126 条 6 項 15 の要件を充足する 11 ホログラフィック グレーティング事件 第 4 部裁判長裁判官田中信義裁判官古閑裕二浅井憲 12 補正前の請求項 1 ホログラフィック グレーティング 補正後の請求項 1 ホログラフィック グレーティング製作方法において,(a) (b) (c) ことを特徴とするホログラフィック グレーティング製作方法 13 現在の 17 条の 2 第 5 項各号 14 ただし 侵害訴訟や審決取消訴訟の場面において 裁判所が同様の判断を行うかについては 不明 訂正についても同様 15 第一項の明細書 特許請求の範囲又は図面の訂正は 実質上特許請求の範囲を拡張し 又は 変更するものであつてはならない -23-

かについては なお疑問もある 16 (3) 訂正により PBP クレームとなった場合 123 条 1 項 8 号により 無効理由を構成することとなるか 3 PBP クレームの範囲最高裁 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合 文言上は極めて広範 従来 PBP だと考えられていなかったようなクレームまで含まれ得るのではないか また 最高裁判決の PBP の定義に形式上含まれるものでも 決して 不明確 とは言えないものも含まれることにならないか eg. オール事件 ( 最判昭和 50 年 5 月 27 日 ( 昭和 50 年 ( オ ) 第 54 号 )) 空室 1 を有する合成樹脂製水かき 2 の上部に雄ネジ 3 と その上方に凸条 4 を有する嵌入部 5 を設け 合成樹脂製柄 6 の下部に凸条 4 と合致する凹条 7 を設け 該柄 6 の外部に雄ネジ 3 と螺合する雌ネジ 8 を有する合成樹脂製結合環 9 を回動可能に取り付け 水かき 2 の凸条 4 を柄 6 の凹条 7 に嵌入し 結合環 9 の雌ネジ 8 と水かき 2 の雄ネジ 3 を螺合し 水かき 2 と柄 6 を一体化してなるオールの構造 16 物の発明と製造方法の発明とでは 実施行為の範囲が異なり 間接侵害の成立範囲なども異 なり得る -24-

4 物同一 の範囲 (1) 製法要件が物同一の範囲に影響を与えるか a) ないし e) を含んで成る方法によって製造される プラバスタチンラ クトンの混入量が 0.5 重量 % 未満であり エピプラバの混入量が 0.2 重 量 % 未満であるプラバスタチンナトリウム a) ないし e) を含んでなる製法で作られた物と プラバスタチンラクトン及びエピプラバ 以外の 不純物の濃度まで同じでなければならないか 他の不純物を含む結果 プラバスタチンナトリウムの純度が著しく低かった場合はどうか 逆に プラバスタチンナトリウムの純度は十分に高いが 他の製法を用いることで 本件特許製法では生じない 別製法特有の不純物を生じる場合はどうか cf. 知財高裁大合議判決 被控訴人は 前記第 3,2(2) アにおいて 被告製法がプラバスタチンナトリウムのほかプラバスタチンラクトン及びエピプラバ以外の多様な不純物をも含めた組成物の構成内容が本件製法要件により製造された物と同一であることの証明がない限り 本件特許の技術的範囲に属するものということはできないと主張する しかし そもそも本件発明 1 はプラバスタチンラクトン及びエピプラバ以外の不純物については規定しておらず 物の特定及び権利範囲が不明確であるとはいえない したがって 被控訴人の上記主張は 本 -25-

件特許の請求項の記載に基づかない主張であり 採用することができ ない (2) 製法以外に物を特定する構成要件がない場合はどうか 1 a) ないし e) を含んで成る方法によって製造される プラバスタチンラクトンの混入量が 0.5 重量 % 未満であり エピプラバの混入量が 0.2 重量 % 未満であるプラバスタチンナトリウム 2 a) ないし e) を含んで成る方法によって製造される プラバスタチンナトリウム 3 a ないし e を含んで成る方法によって製造される物質 (3) 仮に 製法が ( 一定の場合には ) 物同一の範囲に影響を与えるとした場合 例えば訂正要件における 特許請求の範囲の減縮 (126 条 1 項 1 号 ) にあたるか否か 実質上特許請求の範囲を拡張し 又は変更するものであつてはならない (126 条 6 項 ) を満たすか否かの判断の際にも考慮されるのか 以上 -26-