模擬裁判 ~ スナックサイハ ーン殺人未遂事件 ~ 札幌市立資生館小学校 6 年組
模擬裁判シナリオ 裁判官 A それでは 審理を始めます 被告人は証言台の前に立って下さい ( 被告人は 証言台に立つ ) 裁判官 A 被告人裁判官 A 被告人裁判官 A 被告人裁判官 A 被告人裁判官 A 名前は何と言いますか 山田太郎です 生年月日はいつですか 昭和 46 年 4 月 15 日です 住所はどこですか 札幌市中央区大通西 11 丁目 1 番 1 号です 職業は何ですか スナックを経営しています それでは これから被告人山田太郎に対する殺人未遂被告事件について審理します 検察官は起訴状を朗読してください ( 起立 ) 配布資料番号 1の起訴状をご覧下さい 公訴事実被告人は 平成 21 年 6 月 10 日午後 11 時 30 分ころ 札幌市中央区南 60 条西 40 丁目 250 番地クリスタルビル1 階にあるスナック サイバーン において 田中二郎 ( 当時 35 歳 ) に対し 殺意をもって 包丁を胸部に向けて突きだして 胸部を突き刺そうとした しかし 田中が これを避けるために体を回して右腕を上げたため 包丁は田中の右腕に突き刺さった 引き続き被告人は 殺意をもって包丁を田中の胸部に向けて突きだして 胸部を包丁で突き刺そうとしたが 田中がその包丁を右手でつかんだ 以上の行為によって 被告人は 田中に対し 加療約 6 週間を要する右上腕動脈切断を伴う右上腕部刺創 右手掌切創の傷害を負わせたが 田中を殺害するには至らなかったものである 罪名及び罰条殺人未遂刑法第 203 条 第 199 条以上について 審理を求めます ( 着席 ) 1
裁判官 A 被告人 裁判官 A これから朗読された事実について審理を行いますが 審理に先立ち 被告人に注意しておきます 被告人には黙秘権があります 被告人はこの法廷で答えないでいることもできるし 答えることもできます それでは 事件について 被告人の意見を聞きます 今 検察官が読んだ内容に違っているところはありますか 私は 被害者から身を守るために包丁を持ち出しました すると 被害者の方から私に近づいてきて包丁をつかんだのです 被害者ともみ合いになった際に誤って包丁が被害者に刺さってしまいました 私は 被害者の胸を突き刺そうとしてもいないし 被害者を殺すつもりもありませんでした 弁護人の意見はいかがですか ( 弁護人 A 起立 ) 弁護人 A 被告人の意見と同じです 被告人には 包丁で被害者を突き刺す行 為も殺意もありませんから 被告人は無罪です ( 弁護人 A 着席 ) 裁判官 A 被告人は元の席に戻って下さい ( 被告人 元の席に戻る ) 裁判官 A それでは 証拠調べに入ります 検察官 冒頭陳述をどうぞ ( 検察官 B 起立 ) 検察官 B それでは 事件のあらすじ 争点 検察官の立証の予定の順にお話しします 配布資料番号 2の冒頭陳述要旨をご覧下さい まず 事件のあらすじですが 被告人と被害者である田中さんはスナック サイバーン を共同で経営していました しかし 二人はことあるごとに対立し 被告人は田中さんに対する不満や憤りを募らせていました 事件当日 田中さんが被告人を無視していつもより早く閉店しようとしました 被告人はこれに腹を立て 田中さんに向けて灰皿を投げつけました そこで 被告人と田中さんはつ 2
かみあいになり 被告人は 田中さんを殺してやろうと思い 店のキッチンに行って包丁を持ち出し 周囲の者が止めるにもかかわらず 包丁を振り上げて田中さんに近づいていき 田中さんの胸めがけて包丁で突き刺そうとしました 田中さんはとっさに体を回転させながら 右腕を挙げて防御しました 包丁は田中さんの右腕の上腕部 つまり肩と肘の間に突き刺さりました なおも 被告人は 胸を突き刺そうとしましたが 田中さんが 包丁をつかんで防戦し 周囲の者が被告人と田中さんを引き離したことで 田中さんは命を取り留めました ただ 田中さんは右腕と右手のひらに治療に約 6 週間かかるけがを負いました ところで 被告人と弁護人は もみ合いとなった際に誤って包丁が田中さんに刺さってしまったものであり 田中さんの胸を突き刺そうとはしていないし 殺すつもりもなかったと主張しています そこで この事件では二つの争点があることになります 第 1は 被告人は田中さんの胸を包丁で突き刺そうとしたのかという点です 第 2は 被告人に田中さんを殺してやろうという気持ち すなわち殺意があったのか なかったのかという点です 検察官は これから次のような証拠 証人を出します まず 店内の様子 特にどこに血痕が飛び散っていたか 付いたかとい点について現場の図面で立証します この血痕の飛散状況 付着状況に注意して下さい 犯行に使われた包丁も提出します 証人は まず 被害者の田中さんです 彼は 被告人に胸を突き刺されそうになったことを証言してくれるでしょう 2 番目が目撃者の佐藤さんです 佐藤さんは その場にいた店のお客さんですが 被告人の方が田中さんに向かっていったこと そして 犯行直後に被告人が言った言葉についても証言してくれるでしょう この言葉は 被告人の当時の気持ちを示すもので 重要な証拠となります 3 番目の証人が 田中さんを治療した高橋医師です この証言により 田中さんの傷の状況やそれがどのようにしてできたかが明らかになるでしょう これらの証拠を提出することにより 検察官は 裁判官及び裁判員の皆様に 被告人は殺人未遂罪で有罪であると判断していただけると確信しています 3
( 検察官 B 着席 ) 裁判官 A 弁護人 冒頭陳述をどうぞ ( 弁護人 B 起立 ) 弁護人 B 初めに被告人は無罪であることを改めて主張しておきたいと思います 検察官の主張は事実とは違っています 配布資料番号 3の冒頭陳述要旨をご覧下さい まず 検察官は 被告人が田中さんを殺してやろうと思って 包丁を持ち出したと言います しかし 実際は 被告人は 田中さんにやられてしまうという恐怖心から 身を守るために包丁を持ち出したのです 検察官は 被告人が包丁を振りかざして田中さんに向かっていったと言います しかし 実際は 田中さんが近付いてきて 被告人の包丁を奪おうとしたのです そこで 両者がもみ合いとなり 誤って包丁が田中さんに刺さってしまったのです 被告人は 田中さんに包丁を取られないように最後まで包丁を手放さないでいただけなのです 被告人は 田中さんの胸を突き刺そうとしてはいないし 田中さんを殺すつもりも全くありませんでした 目撃者である被告人の妻の証言を聞いていただければ 被告人の供述が信用できることが分かっていただけると思います また 日頃から二人の間にいさかいがあり 被告人が田中さんを恐れていたことが 被告人質問や被告人の妻の証言により明らかになると考えています 最後に 被告人を有罪とするには 検察官は 合理的な疑いを超える程度の立証をすることが必要であります これは 被告人は無罪ではないかと考えられる点が一つでもあれば 被告人を無罪にしなければならないということです 本件では 検察官がこの立証をできずに審理は終了し 被告人は無罪になると 弁護人は確信しています ( 弁護人 B 着席 ) それでは 双方から請求のあった証拠の取り調べを行います まず 検察官は証拠書類の内容を説明して下さい ( 検察官 C 起立 ) 4
検察官 C 配布資料番号 4の現場見取図を見て下さい これは現場検証をした図面です カウンター テーブル ソファーなどがあります そして 被告人や田中さん 目撃者がいた場所が示されています そして 血痕は 田中さんがもともと座っていた席の近くにたくさんついていました 配布資料番号 5の写真を見てください これが犯行に使用された刃の長さ約 20.9センチメートルの包丁です そして 被告人の警察官に対する供述です 被告人がつかまって間もないころ 捜査段階初期の供述内容が記載されています この調書においては 被告人は 包丁を持ち出したのは自分ではなく 被害者が包丁を持ち出してもみ合いになりました と供述しています ( 検察官 C 着席 ) それでは 検察官請求の証人田中二郎さんの尋問を行います ( 証人田中二郎傍聴席から入場 ) 田中さん 証言台の椅子に座って下さい ( 証人田中二郎証言台の椅子に座る ) それでは 検察官 主尋問をどうぞ ( 起立 ) あなたは 被告人とスナック サイバーン を共同経営しているのですね はい あなたと被告人との関係はうまく行っていましたか 店のやり方とかについて 意見が食い違っていて 普段から言い合いになることが多かったです 事件当日も 被告人と争いになりましたね はい そのきっかけはどういうことだったのでしょうか その日 いつもより早く店を閉めようとしたんですが そのこと 5
を被告人に事前に相談しなかったんです そうしたら 被告人が腹を立てて文句を言ってきたんです 被告人は文句を言っただけでしたか いいえ 文句を言って まず 近くにあった灰皿を投げつけてきて その後 被告人がつかみかかってきたので つかみ合いのけんかになりました そして どうなりましたか 被告人は いったん離れると キッチンから包丁を持ち出してきて 何か怒鳴りながら 包丁を持って 私の方に近づいてきました 店の従業員が止めようとしたのですが それを振り切って近づいてきたんです どのようにして近づいてきたのですか 包丁を振りかざすようにして近づいてきました そして 包丁が私の胸の辺りに向かってきたので刺されると思って 体をかばうために 体を回して右腕を上げたら 包丁が右腕に刺さったんです それで終わったのですか いいえ 被告人は もう一度 包丁を胸に向けて突きだして 胸を刺そうとしてきたんです それで 私は被告人の方に向き直って 包丁の刃を右手でつかんで 何とか刺されるのは防ぎました その後 店の従業員が被告人を取り押さえてくれたんです 被告人は 取り押さえられた後 何か言っていませんでしたか ぶっ殺してやる と大声で叫んでいました 質問を終わります ( 着席 ) 弁護人 反対尋問はありますか ( 弁護人 C 起立 ) 弁護人 C はい 被告人が包丁を持ってあなたの方に向かっていく前に あなたの方が 被告人に向かっていったのではないのですか いいえ 私は動いていません 被告人が近づいてきたんです 弁護人 C 終わります ( 弁護人 C 着席 ) 6
裁判員 1 被告人は包丁をどのように握っていたのですか ( 動作をしながら ) 右手で逆手に握っていました 終わりました お帰りになって結構です ( 証人田中二郎 傍聴席に戻る ) それでは 検察官請求の証人佐藤三郎さんの尋問を行います ( 証人佐藤三郎 傍聴席から入場 ) 佐藤さん 証言台の椅子に座って下さい ( 証人佐藤三郎 証言台の椅子に座る ) それでは 検察官 主尋問をどうぞ ( 検察官 B 起立 ) 検察官 B 証人 2 検察官 B 証人 2 検察官 B 証人 2 検察官 B 証人 2 検察官 B 証人 2 検察官 B 事件当日 あなたは スナック サイバーン に客として行っていたのですね はい そのとき 被告人と田中さんの争いを目撃したのですね はい どのような状況だったのでしょうか 被告人は 回りの者に止められたのに それを振り切って 包丁を持って田中さんの方に近づいていったんです 被告人は 結局 店の従業員に取り押さえられましたね はい その後 被告人は 何か言っていませんでしたか 被告人は 取り押さえられた後も お前を殺すぞ と言っていました 質問を終わります ( 検察官 B 着席 ) 弁護人 反対尋問はありますか 7
( 弁護人 C 起立 ) 弁護人 C 証人 2 弁護人 C はい 田中さんも被告人の方へ近づいていったのではないですか いいえ 田中さんが 被告人に向かっていくような素振りはありませんでした 終わります ( 弁護人 C 着席 ) 終わりました お帰りになって結構です ( 証人佐藤三郎 傍聴席に戻る ) それでは 検察官請求の証人高橋四郎さんの尋問を行います ( 証人高橋四郎 傍聴席から入場 ) 高橋さん 証言台の椅子に座ってください ( 証人高橋四郎 証言台の椅子に座る ) それでは 検察官 主尋問をどうぞ ( 検察官 C 起立 ) 検察官 C あなたは大通病院の医師ですね 証人 3 はい 検察官 C あなたは この事件の被害者の田中さんを知っていますか 証人 3 はい 事件当日に田中さんの治療をしました 検察官 C 田中さんは どこかけがをしていましたか 証人 3 右腕の上腕部と右手の手のひらに傷がありました 検察官 C 具体的にどこの部分か説明してもらえますか 証人 3 この部分です ( 右腕の上腕部と右手の手のひら部分を示す ) 検察官 C それでは まず 右腕の上腕部の傷について簡単に説明してくだ さい 8
証人 3 検察官 C 証人 3 検察官 C 証人 3 検察官 C 証人 3 検察官 C 証人 3 検察官 C 証人 3 検察官 C 証人 3 検察官 C 証人 3 検察官 C 刃物で刺されたことによってできた傷です 傷の幅は約 5センチです 腕の外側の傷口から入った刃物は上腕骨の前面をかすって 腕の内側の上腕動脈に達して切断しています ( 刃物の動きを身振りで示しながら話す ) 刃物は途中でねじれた動きをしています 刃物がねじれた動きをしたのはなぜでしょうか 刺した人が刃物をこじるようにしたのか 刺された人が体をひねったのか どちらかであると思いますが 傷の状態だけからは そのどちらかまでは分かりません 田中さんは胸を刺されそうになったので 体をひねって右腕で防ごうとしたところ その右腕に刃物が刺さったと言っていますが この傷と矛盾しないでしょうか そうですね 矛盾しないと思います 田中さんのけがは生命に危険があるものなのでしょうか 放置されれば 出血性ショックにより生命の危険はあったと思います それでは 右手の手のひらの傷について簡単に説明してください 刃で傷つけられたもので 2 列あります この傷から何か言えることがありますか 刃物を握った後に その刃物が引き抜かれたことでできた傷と考えられます ( 刃物の動きを身振りで示しながら話す ) いわゆる防御創といえます 防御創というのはどういうものですか 被害者が刺されたり 切られたりするのを防御するために刃物をつかんだりしてできる傷のことです 傷が2 列になっているのはどうしてですか 2 列あるのは. 刃物が片刃であれば2 回傷を負った可能性がありますが 防御創の場合はもみ合って手の中で刃物が動くことがあるので断定はできません 質問を終わります ( 検察官 C 着席 ) 弁護人 反対尋問はありますか 弁護人 C 特に ありません 終わりました お帰りになって結構です ( 証人高橋四郎 傍聴席に戻る ) 9
続いて 弁護人側の証人山田花子さんの尋問を行います ( 証人山田花子 傍聴席から入場 ) 山田さん証言台の椅子に座って下さい ( 証人山田花子 証言台の椅子に座る ) それでは 弁護人 主尋問をどうぞ ( 弁護人 B 起立 ) 弁護人 B あなたと被告人の関係を教えてください 証人 4 夫婦です 弁護人 B 事件のとき あなたは スナック サイバーン の店内にいたので すね 証人 4 はい 弁護人 B そのとき 被告人と田中さんの争いを目撃したのですね 証人 4 はい 弁護人 B その状況ですが 被告人が田中さんに近づいていったのですか 証人 4 田中さんも被告人に向かって近づいていきました 弁護人 B 話は変わりますが 被告人と田中さんの関係はどうだったのです か 証人 4 二人は 店の経営について 日ごろから 争っているというか いさかいをしていて 被告人は 田中さんを怖がっていました 弁護人 B 質問を終わります ( 弁護人 B 着席 ) 検察官 反対尋問はありますか ( 起立 ) 証人 4 はい 被告人が田中さんに近づいていったのではないですか 少しは近づいたかもしれませんが 田中さんも被告人に向かって近づいていっています 10
証人 4 被告人が包丁を手にとったのを見ましたか 分かりません 質問を終わります ( 着席 ) 終わりました お帰りになって結構です ( 証人山田花子 傍聴席に戻る ) それでは 被告人質問を行います 被告人は 前に出て 証言台の椅子に座って下さい ( 被告人 証言台の椅子に座る ) それでは 弁護人お願いします. ( 弁護人 A 起立 ) 弁護人 A あなたは 田中さんとスナック サイバーン を共同で経営してい るのですね 被告人 はい 弁護人 A あなたと田中さんはうまくいっていましたか 被告人 いいえ 経営のやり方について もめることが多かったです 言い 合いになることもあって そのときの田中さんの態度なんかから 恐いと思うこともありました 弁護人 A 事件の日も田中さんともめましたね. 被告人 はい 田中さんと言い合いになりました 弁護人 A それでどうなったのでしょうか 被告人 田中さんが 私の方に近づいてきたので 恐くなったので 灰皿 を投げておどかそうとしました それでも 田中さんは近づいて殴 りかかろうとしてきたので おどかそうと思ってキッチンにあっ た包丁を持ち出しました 弁護人 A 田中さんを殺してやろうと思って包丁を持ち出したのですか 被告人 違います あくまでおどかそうとしただけです 弁護人 A 包丁を見て 田中さんは近づくのをやめたのですか 11
被告人弁護人 A 被告人弁護人 A いいえ 田中さんは近づいてきて 包丁を奪おうとしてきたので もみ合いになりました そのとき 田中さんを包丁で突き刺したのですか 私は 突き刺すようなことはしていません もみ合ううちに間違って刺さったのだと思います 質問を終わります ( 弁護人 A 着席 ) 検察官 反対尋問はありますか ( 検察官 B 起立 ) 検察官 B 被告人検察官 B 被告人検察官 B 被告人検察官 B それでは 1 点だけ 包丁を持ち出したのはあなたなのですか はい 警察官の取調べを受けたときは 田中さんが包丁を持ち出したと話していますね はい どうして言っていることが変わったのですか 自分で持ち出したと話すと不利になると思っていたので でも 弁護士の先生に言われて 本当のことを話そうと思ったんです 終わります ( 検察官 B 着席 ) 裁判員 2 被告人 取り押さえられた後 お前を殺すぞ というようなことを言っていませんか よく覚えていません 被告人は元の席にもどって下さい ( 被告人 被告人席に着席する ) 以上証拠調べを終わります 検察官の論告を述べて下さい ( 検察官 C 起立 ) 12
検察官 C 公訴事実はこの法廷で取り調べられた証拠により 証明十分であると考えます したがって 本件では殺人未遂罪が成立しますので 被告人に対して厳重な処罰が必要です 被告人は懲役 6 年に処するのを相当と考えます ( 検察官 C 着席 ) 弁護人の最終意見を述べて下さい ( 弁護人 C 起立 ) 弁護人 C 被告人は田中さんにやられてしまうという恐怖心から 身を守るために包丁を持ち出したものです さらに 田中さんが近づいてきて 被告人の包丁を奪おうとしてもみ合いになり その際に誤って包丁が田中さんに刺さってしまったものです したがって 被告人には田中さんを突き刺そうという行為も殺すつもりもないので 被告人は無罪です ( 弁護人 C 着席 ) 被告人は証言台の前に立って下さい ( 被告人 証言台の前に立つ ) 被告人 これで審理を終わりますが 最後に言っておきたいことがありますか 私は 田中さんの胸を突き刺そうとしてもいませんし 田中さんを殺すつもりもありませんでした 信じて下さい 被告人は 元の席に戻って下さい ( 被告人 元の席に戻る ) これで審理を終わります これで閉廷します 13
模擬裁判登場人物 裁判官 A,B,C 3 名被告人山田太郎,B,C 3 名弁護人 A,B,C 3 名 検察側証人 田中二郎スナック サイバーン 共同経営者証人 2 佐藤三郎スナック サイバーン の客証人 3 高橋四郎大通病院医師田中二郎の治療担当 弁護側証人証人 4 山田花子被告人の妻 裁判員 1,2 2 名 登場人物 16 名裁判員役 18 名学級合計 34 名 審理の手順 1 模擬裁判を行う前に目標を決める 2 模擬裁判 3 評議メンバー : 裁判官 3 名裁判員 20 名 評議する内容 5 人または6 人が4グループに分かれて行う 殺人未遂かそうでないか 4 判決 5 振り返り 14
平成 21 年検第〇一〇〇〇〇号 起訴状 札幌地方裁判所殿 下記被告事件につき公訴を提起する 記 平成 21 年 7 月 1 日 札幌地方検察庁検察官検事〇〇〇〇 本籍東京都千代田区隼町 2 丁目 2 番 2 号住居札幌市中央区大通西 11 丁目 1 番 1 号職業スナック経営 山田太郎昭和 46 年 4 月 15 日 公訴事実 被告人は, 平成 21 年 6 月 10 日午後 11 時 30 分ころ, 札幌市中央区南 60 条西 40 丁目 250 番地クリスタルビル 1 階にあるスナック サイバーン において, 田中二郎 ( 当時 35 歳 ) に対し, 殺意をもって, 包丁を胸部に向けて突きだして, 胸部を突き刺そうとした しかし, 田中が, これを避けるために体を回して右腕を上げたため, 包丁は田中の右腕に突き刺さった 引き続き被告人は. 殺意をもって包丁を田中の胸部に向けて突きだして, 胸部を包丁で突き刺そうとしたが, 田中がその包丁を右手でつかんだ 以上の行為によって, 被告人は, 田中に対し, 加療約 6 週間を要する右上腕動脈切断を伴う右上腕部刺創, 右手掌切創の傷害を負わせたが, 田中を殺害するには至らなかったものである 罪名及び罰条 殺人未遂 刑法第 203 条, 第 199 条
冒頭陳述要旨 ( 検察官 ) 殺人未遂被告人山田太郎 1 事件のあらすじ被告人と被害者である田中さんは スナック サイバーン を共同で経営していました しかし 2 人はことあるごとに対立し 被告人は田中さんに対する不満や憤りを募らせていました 事件当日 田中さんが被告人を無視していつもより早く閉店しようとしました 被告人は これに腹を立て 田中さんに向けて灰皿を投げつけました そこで 被告人と田中さんはつかみ合いになり 被告人は 田中さんを殺してやろうと思い 店のキッチンに行って包丁を持ち出し 周囲の者が止めるにもかかわらず 包丁を振り上げて田中さんに近づいていき 田中さんの胸めがけて包丁で突き刺そうとしました 田中さんは とっさに体を回転させながら 右腕を挙げて防御しました 包丁は 田中さんの右腕の上腕部 つまり肩と肘との間に突き刺さりました なおも 被告人は 胸を突き刺そうとしましたが 田中さんが包丁をつかんで防戦し 周囲の者が被告人と田中さんを引き離したことで 田中さんは命を取り留めました ただ 田中さんは 右腕と右手のひらに治療に約 6 週間かかる怪我を負いました 2 争点被告人と弁護人は もみ合いとなった際に誤って包丁が田中さんに刺さってしまったものであり 田中さんの胸を突き刺そうとはしていないし 殺すつもりもなかったと主張しています そこで この事件では2つの争点があることになります 第 1は 被告人は田中さんの胸を包丁で突き刺そうとしたのかという点です 第 2は 被告人に田中さんを殺してやろうという気持ち すなわち殺意があったのか なかったのかという点です 3 立証の予定 (1) 店内の様子 特にどこに血痕が飛び散っていたか 付いたかという点について現場の図面で立証します この血痕の飛散状況 付着状況に注意してください 犯行に使われた包丁も提出します (2) 証人は まず 被害者の田中さんです 彼は 被告人に胸を突き刺されそうになったことを証言してくれるでしょう 2 番目が目撃者の佐藤さんです 佐藤さんは その場にいた店のお客さんですが 被告人の方が田中さんに向かっていったこと そして 犯行直後に被告人が言った言葉についても証言してくれるでしょう この言葉は 被告人の当時の気持ちを示すもので 重要な証拠となります 3 番目の証人が 田中さんを治療した高橋医師です この証言により 田中さんの傷の状況やそれがどのようにしてできたかが明らかになるでしょう 以上
殺人未遂 冒頭陳述要旨 ( 弁護人 ) 被告人山田太郎 1 初めに被告人は無罪であることを改めて主張しておきたいと思います 検察官の主張は事実と違っています まず 検察官は 被告人が田中さんを殺してやろうと思って 包丁を持ち出したと言います しかし 実際は 被告人は 田中さんにやられてしまうという恐怖心から 身を守るために包丁を持ち出したのです 検察官は 被告人が包丁を振りかざして田中さんに向かっていったと言います しかし 実際は 田中さんが近付いてきて 被告人の包丁を奪おうとしたのです そこで 両者がもみ合いとなり 誤って包丁が田中さんに刺さってしまったのです 被告人は 田中さんに包丁を取られないように最後まで包丁を手放さないでいただけなのです 被告人は 田中さんの胸を突き刺そうとしてはいないし 田中さんを殺すつもりも全くありませんでした 2 目撃者である被告人の妻の証言を聞いていただければ 被告人の供述が信用できることが分かっていただけると思います また 日ごろから 2 人の間にいさかいがあり 被告人が田中さんを恐れていたことが 被告人質問や被告人の妻の証言により明らかになると考えています 3 最後に 被告人を有罪とするには 検察官は 合理的な疑いを超える程度の立証をすることが必要であります これは 被告人は無罪ではないかと考えられる点が一つでもあれば 被告人を無罪にしなければならないということです 以上