Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

Similar documents
論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

( 続紙 1) 京都大学博士 ( 教育学 ) 氏名小山内秀和 論文題目 物語世界への没入体験 - 測定ツールの開発と読解における役割 - ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 読者が物語世界に没入する体験を明らかにする測定ツールを開発し, 読解における役割を実証的に解明した認知心理学的研究である 8


生活設計レジメ

44 4 I (1) ( ) (10 15 ) ( 17 ) ( 3 1 ) (2)

I II III 28 29


博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

( 続紙 1) 京都大学博士 ( 教育学 ) 氏名田村綾菜 論文題目 児童の謝罪と罪悪感の認知に関する発達的研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は 児童 ( 小学生 ) の対人葛藤場面における謝罪の認知について 罪悪感との関連を中心に 加害者と被害者という2つの立場から発達的変化を検討した 本論文は

The English Vocabulary.cwk (DB)

< A796BD8AD991E58A77976C2D8CBE8CEA C B B835E2E706466>

24 京都教育大学教育実践研究紀要 第17号 内容 発達段階に応じてどのように充実を図るかが重要であるとされ CAN-DOの形で指標形式が示されてい る そこでは ヨーロッパ言語共通参照枠 CEFR の日本版であるCEFR-Jを参考に 系統だった指導と学習 評価 筆記テストのみならず スピーチ イン

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

説明項目 1. 審査で注目すべき要求事項の変化点 2. 変化点に対応した審査はどうあるべきか 文書化した情報 外部 内部の課題の特定 リスク 機会 関連する利害関係者の特定 プロセスの計画 実施 3. ISO 14001:2015への移行 EMS 適用範囲 リーダーシップ パフォーマンス その他 (

甲37号

Microsoft Word - manuscript_kiire_summary.docx

Microsoft Word - 209J4009.doc

TOEIC

Microsoft Word - 概要3.doc

i


Wide Scanner TWAIN Source ユーザーズガイド

表紙.indd

第1部 一般的コメント

1. 多変量解析の基本的な概念 1. 多変量解析の基本的な概念 1.1 多変量解析の目的 人間のデータは多変量データが多いので多変量解析が有用 特性概括評価特性概括評価 症 例 主 治 医 の 主 観 症 例 主 治 医 の 主 観 単変量解析 客観的規準のある要約多変量解析 要約値 客観的規準のな

外国語教育/斎藤

untitled

表1票4.qx4

福祉行財政と福祉計画[第3版]

第1章 国民年金における無年金

定義 より, クロス集計表 C ij から, 類似係数 s ij と関連係数 t ij が得られる. 定義 t ij = s ij = a + d [0,1] a + d (a + c) + (c + d) [0,1] ただし, a = c = d = 0 のときは, t ij = 1 とする. 3

橡ミュラー列伝Ⅰ.PDF

授業科目名英語科教育基礎論 a (Basics of English Language Education a) 科目番号 授業形態講義単位数 1 単位標準履修年次 2 年次実施学期春 AB 曜時限水曜 2 時限対象学群 学類担当教員 ( 連絡先 ) 斉田智里 ( 非常勤講師 ) オ


PR映画-1

- 2 -


II III I ~ 2 ~

中堅中小企業向け秘密保持マニュアル



1 (1) (2)

スライド 1

Microsoft Word - youshi1113

成績評価を「学習のための評価」に

J-SOX 自己点検評価プロセスの構築

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください


はしがき これは学位規程 ( 平成 25 年文部科学省令第 5 号 ) 第 8 条による公表を 目的として 平成 28 年 3 月 15 日に本学において博士の学位を授与した 者の論文内容の要旨及び論文審査の結果の要旨を収録したものである

平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料

簿記教育における習熟度別クラス編成 簿記教育における習熟度別クラス編成 濱田峰子 要旨 近年 学生の多様化に伴い きめ細やかな個別対応や対話型授業が可能な少人数の習熟度別クラス編成の重要性が増している そのため 本学では入学時にプレイスメントテストを実施し 国語 数学 英語の 3 教科については習熟

テレビ会議システムを使用した異文化間プレゼンテーション能力の向上のための指導【共同研究】

provider_020524_2.PDF

コーチング心理学におけるメソッド開発の試み 東北大学大学院 徳吉陽河

( 続紙 1 ) 京都大学博士 ( 経済学 ) 氏名衣笠陽子 論文題目 医療経営と医療管理会計 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は 医療機関経営における管理会計システムの役割について 制度的環境の変化の影響と組織構造上の特徴の両面から考察している 医療領域における管理会計の既存研究の多くが 活動基準原

「産業上利用することができる発明」の審査の運用指針(案)



早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士論文概要書 論文題目 ネパール人日本語学習者による日本語のリズム生成 大熊伊宗 2018 年 3 月

Title < 研究ノート > 都道府県別にみた外国籍生徒の高校進学率と母語の関係性 -- 日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査 の結果を用いて -- Author(s) 矢部, 東志 Citation 教育 社会 文化 : 研究紀要 = Socio-Cultural St Educa

【資料4】「英検CAN-DOリスト」の概要と「提言1」に関する調査報告)(抜粋)

Microsoft PowerPoint - 表紙

Microsoft Word - 年報(ホームページ版).doc

ii

社会通信教育に関する実態調査 報告書

教職研究科紀要_第9号_06実践報告_田中先生ほか04.indd






様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 内田遼介 ) 論文題名 スポーツ集団内における集合的効力感の評価形成過程に関する研究 論文内容の要旨 第 1 章研究の理論的背景集団として 自信 に満ちた状態で目前の競技場面に臨むことができれば, 成功への可能性が一段と高まる これは, 競技スポーツを経験してきた


178 5 I 1 ( ) ( ) ( ) ( ) (1) ( 2 )

2017 年 9 月 8 日 このリリースは文部科学記者会でも発表しています 報道関係各位 株式会社イーオンイーオン 中学 高校の英語教師を対象とした 中高における英語教育実態調査 2017 を実施 英会話教室を運営する株式会社イーオン ( 本社 : 東京都新宿区 代表取締役 : 三宅義和 以下 イ

報告書9(資料6)


八田

Title 大阪府大高専の学生における過去 5 年間の TOEIC Bridge スコアの 推移について Author(s) 谷野, 圭亮 Editor(s) Citation 大阪府立大学工業高等専門学校研究紀要. 52, p Issue Date URL htt

PowerPoint プレゼンテーション

untitled

科目一覧 準学士課程 一般科目 平成 26 年度シラバス 5 学年外 国 語 V A 外 国 語 V B 健 康 学 A 哲 学 A 日 本 史 学 A 社 会 経 済 学 A 健 康 学 B 哲 学 B 日 本 史 学 B 社 会 経 済 学 B 生 物 学 地 球 科 学 総 合 科 目 A 長

どのような便益があり得るか? より重要な ( ハイリスクの ) プロセス及びそれらのアウトプットに焦点が当たる 相互に依存するプロセスについての理解 定義及び統合が改善される プロセス及びマネジメントシステム全体の計画策定 実施 確認及び改善の体系的なマネジメント 資源の有効利用及び説明責任の強化

untitled

3 調査結果 1 平成 30 年度大分県学力定着状況調査 学年 小学校 5 年生 教科 国語 算数 理科 項目 知識 活用 知識 活用 知識 活用 大分県平均正答率 大分県偏差値

(Microsoft Word - \207U\202P.doc)

発達研究第 25 巻 問題と目的 一般に, 授業の中でよく手を挙げるなどの授業に積極的に参加している児童は授業への動機づけが高いと考えられている ( 江村 大久保,2011) したがって, 教師は授業に積極的に参加している児童の行動を児童の関心 意欲の現われと考えるのである 授業場面における児童の積

(12th) R.s!..

<4D F736F F D20906C8AD489C88A778CA48B8689C881408BB38A77979D944F82C6906C8DDE88E790AC96DA95572E646F6378>

1 高等学校学習指導要領との整合性 高等学校学習指導要領との整合性 ( 試験名 : 実用英語技能検定 ( 英検 )2 級 ) ⅰ) 試験の目的 出題方針について < 目的 > 英検 2 級は 4 技能における英語運用能力 (CEFR の B1 レベル ) を測定するテストである テスト課題においては

日本人英語学習者の動機付け―JGSS-2003のデータ分析を通して―

Microsoft PowerPoint - AR1(理科森田) [互換モード]

             論文の内容の要旨

中カテゴリー 77 小カテゴリーが抽出された この6 大カテゴリーを 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーの構成概念とした Ⅲ. 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーリストの開発 ( 研究 2) 1. 研究目的研究 1の構成概念をもとに 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーリストを

平成16年度小学校及び中学校教育課程研究協議会報告書

使用上の注意 はじめに ( 必ずお読みください ) この SIGN FOR CLASSROOM の英語の動画資料について 作成の意図の詳細は 2 ページ以降に示されているので できるだけすべてを読んでいただきたい 要約 このビデオは 聴覚障がいを持つ生徒たちに英語を教える時 見てわかる会話を表 出さ

よくある質問 TELP とは? TELP を受講する利点 TELP と他の ESL プログラムとの違い TELP には初級の ESL クラスがありますか? TELP を終了するためにどのくらいの時間がかかりますか? TELP の費用 TELP の申し込み方法 TELP のクラス分けテストの受験方法

ii

15288解説_D.pptx

医学英語 II 1 ユニットの概要 Medical English courses are designed to help students become independent lifelong learners and healthcare professionals who can util

Transcription:

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students MIZUMOTO, Atsushi Graduate School of Foreign Language Education and Research, Kansai University, Osaka, Japan. 2008

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students -------------------- A Dissertation Submitted to The Graduate School of Foreign Language Education and Research, Kansai University, Osaka, Japan -------------------- In Partial Fulfillment of the Requirements for the Degree Doctor of Philosophy in Foreign Language Education and Research -------------------- by MIZUMOTO, Atsushi September 30, 2008 Copyright by MIZUMOTO, Atsushi, 2008

論文要旨 ( 概要 ) 日本のような EFL (English as a foreign language; 外国語としての英語 ) 学習環境では, 日常生活において自然に英語を見たり聞いたりすることが難しいため, 偶発的な語彙学習 (incidental vocabulary learning) は起こりにくいと考えられる (Gu, 2003b) また, 文部科学省が定めている学習指導要領の規定どおりに授業を行ったとしても, 高等学校卒業までに英語検定教科書で指導される語彙数は,( リーディングやリスニングにおいて ) 推測により語彙が習得できるようなレベルに達するほどの量 (3,000~5,000 語相当 ; Nation, 2001) とはいえない このような日本の英語学習環境において, 学習者が語彙力の不足を補い, 英語学習を円滑に進める目的で, 自ら選び行う意図的 (strategic) な語彙学習行動を本論文では 語彙学習方略 (Vocabulary Learning Strategies: VLS) と定義づけた そして, 日本人大学生英語学習者の使用している VLS の実態を調査し, 指導によってどのような変化が起こるかを明らかにすることを論文全体の目的とした 論文は4つの実証研究を含む, 全 7 章から構成されている 第 1 章では, 本論文をまとめるために行った一連の研究が, どのような経緯から行われるようになったのかを説明する その上で,4つの実証研究のリサーチ クエスチョンをあげて, 論文全体の流れを各章の概略を提示することにより記述する 第 2 章では,1970 年代から始まり, 応用言語学の一分野として広く認知されるようになった 学習方略 と, 認知心理学 ( 特に記憶研究 ) にも根ざしている 語彙習得研究 の両分野における先行研究のレビューを行う そして,VLS に関連した, 国内外における先行研究の内容を包括的にまとめることにより, 本論文の理論的枠組みを提示する 同時に, これまでにどのような VLS 指導研究が行われたのか, また, どのような方略指導がより良い語彙学習へとつながると先行研究では考えられているのか, という点も検討していく 第 2 章の最後では,VLS 研究で用いられるデータ収集の方法について, これまでの方略研究からわかっていることのまとめを行い, I

それぞれの利点や不十分な点を明らかにする 第 3 章では, 中国人大学生英語学習者が対象であった先行研究 (Gu & Johnson, 1996) の再現結果を報告する この研究では, 平均的な英語能力の日本人大学生英語学習者が使用している VLS の現状を, 文系女子大学生 139 名対象の調査により明らかにすることを目的とした リサーチ デザインは Gu and Johnson (1996) とできるだけ同じ形にして, 質問紙は翻訳したものを用いた この結果, ほとんどの VLS 使用の傾向が先行研究のものと一致していたが, 日本人英語学習者において特殊な使用状況を示す方略 ( 例えば, 語の構造利用など ) も確認された 第 3 章の研究結果より,VLS 調査における方略の定義と, 質問紙の構成概念の問題が指摘された そこで第 4 章では 心理尺度として信頼性 妥当性を持った測定道具 ( 質問紙 ) を開発し, その妥当性の検証を行うこととした この実証研究は, 自由記述による質問紙の作成 (122 名の参加者 ), 質問紙の項目分析と因子分析 (410 名の参加者 ), そして妥当性の検証 (283 名の参加者 ) という3つの段階で構成されていた 研究の結果, 構成概念 (construct) を明確に定義し, 心理学をはじめとする分野で確立されている手法 ( 項目分析や因子分析など ) を用いることにより, 十分な信頼性 妥当性を持った質問紙が開発できることがわかった また,VLS は1つの方略では, 習熟度などとの関係において弱い相関しか示さないが, 組み合わせて1つの上位概念を作ることにより影響が大きくなることも確認された 続く第 5 章では,3つ目の実証研究(244 名の参加者 ) として, 新しく開発された VLS 質問紙と, 動機づけ, 学習時間,TOEIC テストで測定される英語習熟度との関係を, 構造方程式モデリング (Structural Equation Modeling: SEM) や, クラスター分析などを用いて分析した研究の報告を行った 研究の結果,VLS が他の変数と比べて習熟度に大きな影響を及ぼす可能性があることがわかった また, 動機づけでは, 外的動機づけよりも, 内的動機づけの方が VLS に大きな影響を及ぼすことが明らかになった さらに, 動機づけのみでは習熟度に直接影響しないが,( 習熟度に大きな影響を及ぼす ) VLS への影響があるため, 内的動機づけを高めるような指導 II

法, または学習法もあわせて導入することが重要であることがわかった 第 6 章では, 本論文の最後の実証研究として, 明示的な VLS 指導が語彙学習にどのような効果をもたらすかを検証した研究の結果を報告した この研究では, 大学における半期の授業 (10 回 ) で VLS の明示的指導を行い, 実験群 (76 名 ) と統制群 (70 名 ) の語彙定着度テストの比較を行った また, 実験群内で, はじめにどのような VLS を使用していた学習者が指導によりどのような変化を見せるのか, 及び, その理由を, 量的アプローチだけではなく, 質的アプローチも含めて検討した その結果, 授業内での明示的な VLS 指導に関して, 以下の5 点が明らかになった 1. 明示的な VLS 指導は語彙力向上に有効であり, 統制群よりも実験群に効果があった 2. 明示的な VLS 指導はもともと方略使用が少ない ( もしくはそれほど多くない ) 学習者の方略使用を高めるのに役立つ 3. もともと方略使用が多い学習者の方略使用頻度は変化しないが, 彼 ( 女 ) らがそれまでに持っている VLS の有効性に対する認識を高めることができる 4. VLS の中には, 時間がかかるなど, 何らかの理由で有効でないと思われているものがあり, それらは学習者に使われない傾向がある 5. 明示的な VLS 指導により, 学習者の内発的動機づけが高められる可能性がある これらの結果をもとにして, 筆者は, 明示的な VLS 指導が通常の授業においても積極的に取り入れられるべきである, と主張している 本論文の最終章である第 7 章では, 第 1 章で示した4つのリサーチ クエスチョンに照らし合わせる形で, 一連の研究の結果をどのように VLS の指導へ活用すべきかに関して議論がなされている 最後に, 今後の研究の方向性として VLS 研究や指導実践において, 以下の3つのような研究を行っていく必要性があることが示唆されて III

いる 1. VLS 指導を授業内外で学習者に提供する方法の模索 2. 学習者の個人差を包括的に反映した学習 指導方法の研究 3. VLS の構成概念のさらなる検証 IV